『ファウスト』の幹部である賢王雄のメイド兼秘書である彼女だが、本編で描写される回数が恐ろしいほど少ない。
その為、その生活から何から何までが不明である。
今回はその生活を少し覗いてみるとしよう。
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仕原弓の朝は早い。
早朝五時にはメイド服に着替えて朝食の仕込みに入っている。
ここはとあるビルの一部屋。
賢王雄の部屋である。
そこに設置されている簡易的な台所でただ淡々と料理をし続ける。
朝とはいえ、外からは人の歩く音や車の走る音がしているが、この一室だけは仕原弓がトントンと包丁で野菜を切る音しか響いていない。
静かで優しい朝。
仕原弓はある程度料理の準備が終わると時計に視線を向ける。
小さな置時計の秒針は6時を指していた。
これは、仕原弓にしては珍しいことである。
普段ならもう少し早く準備が終わるのだが、今日は腕によりをかけて作った事もあり、いつも以上に時間がかかってしまったのだ。
それに気づき、仕原弓は慌てて賢王雄の寝ている個室へと向かう。
スタスタトタトタとなるべく音を立てずに歩き、賢王雄の部屋へと入る。
この時間ではまだ賢王雄は寝ているのだが、仕原弓にはその方が好都合である。
仕原弓がソッと部屋に入ると賢王雄はスウスウと小さな寝息を立てながら静かに眠っていた。
それを確認し、大きな音をたてないように服の準備をする。
タンスにしっかりと畳まれて収まっている服を一つ一つ丁寧に取り出し、置き場に置いておく。
ここに服を置いておけば賢王雄が勝手にその服を着るのだ。
こうしてさっさと仕事を終わらせた仕原のする事、それは・・・・・・、
「・・・・・・・・・・・・ん」
仕原弓はソッと賢王雄の枕元に近付き、その姿を静かに見る。
その顔、息をするたびに上下する胸、その体から香る汗の臭い。
どれもこれもが仕原弓の心を奪う。
(ハァァアアアアア。駄目っ! 好き好き好きスキスキスキスキスキ。・・・・・・我慢。我慢よ私。ここで何かしたら二度と枕元まで近づけるチャンスが無くなっちゃう。でもっ・・・でもぉっ・・・・・・・・・!!!)
そう、彼女は病的に賢王雄を好いている。
無論、性的に。
ただ、嫌われたくない一心にその事を表に出せず、ずっと我慢しているのだ。
そんな日常の糧の足るのが朝のこのタイミング。
仕原弓の事を信頼しているが故に出来る大きな隙。
そのタイミングをチャンスとばかりに仕原弓は好き勝手をやるのだ。
と言っても見て和んで、嗅いで興奮してをしているだけなのだが。
賢王雄が目覚めるのは早くとも朝8時。
つまり、2時間は好き放題できるのである。
仕原弓はこうして“今日の仕事”をこなすためのエネルギーを補給したのだった。
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仕原弓は不満を露わにする。
本当は通理葉真とコンビで潜入・殲滅することになっていたのだが、通理葉真が問題を起こして来れなくなったため、別の人間と一緒に潜入することになった。
なのに・・・・・・、
「なんでアナタなんですか・・・・・・」
「しらねぇよ。知るか」
そう乱暴に答えたのは“
足が速いだけの個性の持ち主で、正面戦闘よりも逃走の方が得意という人物。
かなり雑な性格で潜入捜査に向いていないだけでなく、毎度何かやらかして他の『ファウスト』メンバーが後始末をすることになっている。
そもそも、そんなヤツと一緒に仕事をしたいと思う人間はいないだろう。
「それで、動きは?」
「特にねぇな。今はテロで使う爆発物の実験に集中している。爆発物の数は残り2個。最後の爆発物が爆発すると同時にその爆煙に紛れて突撃する。相手の個性が分からない以上、俺の素早さで早期決着をつけるしかない」
速川翔の言葉に仕原弓は驚く。
いつも不真面目で何かやらかしてばかりなのに、ここまで冷静に分析して先の行動を考えれるなんて予想していなかったのだ。
ただの足手まといだ、と。
仕原弓がその事実に驚いている内に速川翔は走る体勢を整える。
そして、
「援護射撃頼むぜ」
速川翔はそう言うと同時に駆け出す。
目にも止まらない速さ。
ただ、単純に早いという次元を超えている。
以前、雄英生徒1年生に行ったテスト前実戦訓練の時は軽いランニングレベルだったが、今回は全力で走っている。
その速さは亜音速を超えるため、まず見ることなどできない。
それだけではなく、その速さそのままに蹴りを使うのだ。
普通、死ぬ。
だけど、速川翔は殺さず意識を奪えるギリギリの所の攻撃ができる。
こうして、
そして、
「んじゃ、あとはお願いね」
速川翔はそう言ってさっさとどこかに行ってしまった。
そう。
サラッと後始末を仕原弓に押し付けたのだ。
「ふ、ふ、ふっ・・・・・・ふざけるなぁあああああああ!!!!」
仕原弓はそう叫ぶ。
だが、その声は辺りに静かにこだまし、消えて行った。
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仕原弓は後処理を終わらせ、フラフラしながら帰宅する。
現在は午後6時半。
普段なら晩御飯の支度を終わらせてテーブルに並べている頃である。
だから、驚いた。
扉を開けると同時に飛び込んできた匂いに。
とても、おいしそうな匂いに。
仕原弓が台所に行くと、そこでは、黒いエプロンを付けた賢王雄が料理をしていた。
「おっ。帰って来たか。お帰り。疲れ様」
「け、賢王様。・・・・・・っ! すみません!! 賢王様の手を煩わせてしまって」
「いいんだよ。俺料理するの好きだし。・・・・・・それに、いつもやらせてばかりじゃないか。今日は仕事で疲れているだろうし、こんな日ぐらい少しは休んでくれよ」
賢王雄はそう言いながら作っていた料理・・・・・・肉じゃがを皿に盛った。
そして、
「ほら、ゆっくり食べよう」
賢王雄の優しい言葉に仕原弓は自身の疲れが全て吹き飛ぶような感覚を覚えた。
そして思う。
(いつか。・・・・・・いつか必ずこの気持ちを伝えよう)
と。
仕原弓は、この時だけ、賢王雄のメイドではなく、一人の少女として食卓を囲んだのだった。
余談だが、仕原弓が賢王雄に告白しようとする日に限って何故かトラブルが発生してそれどころではなくなってしまう。
恋のキューピットが彼女に味方したことは過去、一度もない。
仕原弓と賢王雄の出会いは二人しか知らない。
ただ、言えることは、その出来事があって、仕原弓は賢王雄を好きになった。
だけど、それはまた別のお話。
この作品のヒロインって……
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白神神姫
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使原弓
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紅華炎
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暗視波奉
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赤口キリコ(安藤よしみ)