個性『英雄』   作:ゆっくりシン

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話にするのは短すぎて放置していたり書いていなかった裏話等の纏め。


蛇足 編
97話 『蛇足①』


その1

 

 雄英体育祭まで残り一週間を切った。

 緑谷たちのトレーニングは続いているが、そろそろ難易度を上げようかと考えている。

 そもそも単純な鬼ごっこじゃ相手の動きを予測する事と多少の体力作りにしか意味を成していない。

 だが、この年齢の彼らにとってはこれ以上レベルを上げるとさすがに体を壊してしまう恐れがある。

 昔の俺はこの程度準備運動にもならなかったが、少し前までただの中学生だった彼らに小学生の頃からあっちこっちで戦っていた俺レベルを求めるのはおかしいというのは流石に分かっている。

 なので、俺は全員の休憩時間に言う。

 

「はいは~い。注目~~!!」

 

 その言葉に全員の視線が俺の方へ集中する。

 

「もう雄英体育祭まで一週間を切ったが、俺と特訓していて自分で変わったと思うところはあるか?」

 

 その問いにその場にいた全員が何も言わずに少し困ったように眉を顰める。

 

「分からないようだから一人ひとり言うよ。緑谷は動きの無駄が少なくなってきている。切島くんと飯田くんと尾白くんも同じ。常闇くんはダークシャドウとの連携が上達してきている。上鳴くんは俺の教えた護身術が身に付きだしている、その調子だ。麗日さんは分かっていると思うけど浮かせれる物の重量が少し多くなった。芦戸さんは動きのキレが良くなったね。蛙っ・・・梅雨ちゃんは総合的に動きが滑らかになってる。葉隠さんは少し体力が向上。耳郎さんも同じかな?」

 

 俺の言葉に全員が納得したように頷く。

 まあ、納得している所は自身への評価ではなく周りへの評価だろうけど。

 

「そこを踏まえたうえで俺と少し手合わせしたい人~?」

 

「俺がやろう!!」

 

 一瞬の間もなくビシッと真っ直ぐ手を上げる飯田くん。

 うんうん、元気なのは良い事だ。

 特別に俺の専用必殺技凄いコンボを喰らう権利をやろう。

 

「よぉし、立てぇ!」

 

「よろしく頼むよ、機鰐くん!」

 

 ビシッと立ち上がる飯田くんを前に俺は構えを取る。

 そして、一瞬で彼との距離を詰めた。

 予想外だったのか彼の顔に焦りが浮かぶが特に気にする事は無い。

 

 素早く彼の鼻目掛けてジャブを繰り出して目潰しをする。

 素人は目に攻撃をすることを目潰しだと勘違いしている輩が多いがそれは違う。

 相手の視覚を一瞬でも奪えればそれが目潰しとなるのだ。

 顔への攻撃は反射的に目を瞑ってしまう為に大きな隙が生まれる。

 そこを狙って胸元と腕を掴むと背負い投げをし、彼の体が宙に浮いている間に手を放して背中に張り付くと足で左手を封じつつ右手を抱き込む形で首を絞める。

 

「なッ・・・・・・」

 

「これが俺より弱い相手に使える一対一戦闘専用の捕縛技だ。これは簡単にできる技の一つだから教えて欲しい奴は手を上げろ~」

 

「「「「「「簡単にできるかぁあああああああ!!!!!」」」」」」

 

 皆からそんなそうツッコミを受けた。

 いや、本当に簡単な技だよ。

 俺からしたらだけど。

 

 

 

 

 

 

その2

 

「ハァ・・・・・・」

 

 切島は昼休憩中に何気なくため息を吐いた。

 特に意識をしていた訳ではなく無意識的に外に出たモノだったが、それを見逃さない存在がいた。

 誰であろう。飯田である。

 

「切島くん、どうしたんだい?」

 

「あ、いや・・・・・・、ちょっとな」

 

「?」

 

 首をカクリと傾げる飯田に切島は少し躊躇った後に口を開く。

 

「俺さ、機鰐に嫌われているのかな・・・?」

 

「? 俺が見ている限りではあるが、彼は誰彼構わず隔たり無く接していると思うが」

 

「だよな・・・・・・」

 

 飯田の言葉を聞いて切島は少し俯いた。

 そんな二人の会話に少し離れた場所で聞き耳を立てていた蛙吹g「梅雨ちゃんと呼んで」・・・・・・梅雨ちゃんがソッと話に参加する。

 

「ケロ。それなら私が聞いてきてあげるわ」

 

「梅雨ちゃんナイスアシスト!!」

 

 突然の助け舟に切島はガバッと顔を上げてサムズアップをした。

 あまりの変わりように梅雨ちゃんは少しケロケロと笑ってから少し顎に指を当てて思考する。

 

「そういえば、機鰐ちゃんはどこにいるのかしら?」

 

「・・・大食堂で食事をしていた所は見たが、俺の方が早く食べ終えてしまったのでその後は知らないな・・・・・・」

 

 そんな飯田の言葉に切島は少し眉を顰めた後に言う。

 

「それじゃ、情報収集でとりあえず大食堂まで行ってみよう」

 

「そうね、もしかしたら向かう途中で出会えるかもしれないし」

 

「ああ、彼はいつも最短ルートで移動しているからな。行き違いはないだろう」

 

 こうして、満場一致で三人は移動を開始した。

 

 

~~切島パーティメンバー~~

 

・切島鋭児郎

・蛙吹梅雨

・飯田天哉

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 移動中、教室と大食堂との丁度中間ら辺まで付いた所で大食堂方面から見知った人物たちが歩いて来ていた。

 それを視覚した切島は手を大きく振りながら話しかける。

 

「緑谷! 常闇! ちょうどいい所に来た!!」

 

「き、切島くん、と飯田くんと蛙っ「梅雨ちゃんと呼んで」・・・つ、梅雨ちゃんも、どうしたの?」

 

「珍しい組み合わせだな。何かあったのか?」

 

「あ、いやぁ。実はちょっと機鰐のヤツを探しててさ、見てないか?」

 

 切島からのその質問に真っ先に答えたのは緑谷であった。

 

「機鰐くんなら食堂にいたけど」

 

「緑谷、本当か!?」

 

「う、うん・・・ね、常闇くん」

 

「ああ、俺も見たから間違いないぞ。・・・・・・一体何の用があるんだ?」

 

 不思議そうな顔をする二人に飯田は先ほどの事を説明する。

 話を聞いて行く内に二人も納得したような表情を見せた。

 

「確かに、切島くん相手だとなんか溝があったね」

 

「ふむ、実はそこは気になっていたからな、俺も同行しよう」

 

「常闇院っ!」

 

「その呼び方は止めろ!」

 

 こうして、見事なツッコミを受けつつ新たなメンバーを加えて大食堂への移動を再開するのだった。

 

 

~~切島パーティメンバー~~

 

・切島鋭児郎

・蛙吹梅雨

・飯田天哉

・緑谷出久

・常闇踏陰

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 大食堂に付いてすぐに切島たちは目当ての少年を見つける。

 昼の時間もあとわずかとなりつつあるにも関わらず、少年は山盛りになった空の皿を隣に置きながら未だに食事をしていた。

 その光景に切島パーティは言葉を出せずにいた。

 

 いや、感想を言えというのが酷だろう。

 テレビでもなかなか見ないような大食いが目の前で起きているんだ。

 それを脳が受け止めきれないのは仕方が無いと言える。

 

「えっと、とりあえず行ってくるケロ」

 

「梅雨ちゃん、ホントにありがとう・・・・・・」

 

 ゆっくりと少年に近づいて行く梅雨ちゃんの様子をパーティメンバーは見守る事しかできなかった。

 少し離れていた為に話声は聞こえなかったが、それでも円滑に話が進んでいる事だけは伺えた。

 そうして、数分後に梅雨ちゃんは少年から離れて戻ってきた。

 なお、少年は会話を終えてすぐに食事を再開している。

 

「そ、それで梅雨ちゃん、何て言ってた?」

 

「えっと、少し言いづらいんだけど・・・・・・」

 

 梅雨ちゃんはそう前置きをしてから言った。

 

「なんでも、古い友人に切島ちゃんみたいに熱血系の子がいて、その子の事を思い出して熱血に当てられそうだから一線を引いているんだって」

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」」」」」」

 

 

 

 

 こうして謎は解けたのだった。

 

 

 

 

 

 

その3

 

 俺は自室のベッドで目を覚ます。

 なぜここを説明したのかと言えば、俺はよく寝落ちをする方であり、ベッドで寝ていること自体実は珍しいのだ。

 昨日は雄英体育祭で適度に動いたのもあってぐうっすり気持ちよく寝られた気がする、・・・・・・のだが、何か違和感がある。

 具体的に言えば左手が異様に重い。

 どこか嫌な予感をひしひしと感じつつもゆっくりと視線を向ける。

 そして、そこには予想通りの姿があった。

 

「何してんだよ、神姫・・・・・・」

 

「え、んん・・・・・・。おはよ、龍兎」

 

 眼を擦りながらそう言う神姫の反応を見て、俺は大きく息を吸って叫ぶ。

 

「何やってんだオメェエエエエエエエエ!!!!!!!!!!」

 

 こういった事はラブコメだけにしろ。

 テンプレ過ぎて逆につまらないんだよぉ!!!

 

「うるさいよぉ。もう少しだけ寝かせて・・・・・・( ˘ω˘)スヤァ」

 

「スヤァじゃねぇよ起きろそして状況説明をしろ」

 

 俺がため息交じりにそう言うと、神姫は俺から奪った掛け布団にもぞもぞと包まりながら呟くようにもごもごと答えた。

 

「龍兎も男の子だからティッシュどれだけ消費しているか気になって侵入したのに全部が機械性油まみれでガピガピで独特の匂いを発するのがなくて白けたから寝てた」

 

「お前は新種の痴女かよ」

 

 幼馴染兼相棒のトンデモ発言に俺はそう返すしかなかった。

 しかも何事もなかったかのように二度寝をしている。

 ここが健全な男児高校生の部屋だという事を忘れているのだろうか・・・。

 少しは危機感を持ってほしいモノである。

 いやね、襲ったりはしないけどさ。

 

 危機感を一切感じない顔で寝息を立てている神姫の頬を俺は何気なくつつく。

 持ちみたいな弾力でかなり柔らかい。

 ・・・・・・雑煮食いたくなってきた。

 今日は一日中暇だしスーパーにでも行って食材買って来るか。

 時期的に雑煮は合わなそうだし餅も売ってないと思われそうであるが、ウチの近所にあるスーパーの品揃えは異常なほど良く、時期に全く合わない物ですら置いてあるのだ。

 コイツが起きたら買い物にでも誘うか。

 

 そんなことを思いながら神姫の頭をワシャワシャと撫でる。

 滑らかな髪が手を滑るような感触がある。

 

「ったく、お前は本当に成長しねぇな。神様にとって、俺との15年間ってのは一瞬の事なんだろうな・・・・・・。なあ、どうなんだ? 相棒」

 

 もちろん答えは返ってこない。

 それは分かっている。

 ・・・・・・ああ、本当に俺はちっぽけな人間だな。

 

 そう自己完結して、俺は僅かに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

その4

 

 夏休み。

 俺は学校のプールで優雅に泳いでいた。

 それはもう極々普通(・・・・)一般的(・・・)な泳ぎ方を。

 

「言っとくが機鰐、それは一般的じゃない!!」

 

 切島からツッコミが入ったがスルーしておく。

 ・・・・・・と思ったが変に思われるのも嫌なので説明だけしておく。

 

「古式泳法の『立泳』を改良したものだよ。少し古いだけで普通の泳ぎだ。気にするな」

 

「いや、あのな。上半身が水上に出ている状態での泳ぎはおかしい」

 

「まあ、そうだな。普通の『立泳』は胸のあたりまでしか出ないからなぁ」

 

「やっぱりそれはおかしいんだよ」

 

 うん。

 説明せずに完全スルーしておけばよかった。

 1を言えば2が返ってくる。

 俺は説明が苦手だし大っ嫌いなのだ。

 まだ隣でいろいろ言っている切島の言葉をスルーし、俺は一気に潜水すると足を細かに動かす事で発生する推進力を進み前に進んだ。

 水の中なら質問の声が聞こえるような事は無い。

 

 ちなみにだが、この後緑谷・切島・飯田を中心に泳ぎ方を聞かれた。

 結局指導することになって面倒くさかったし、爆豪にはいちゃもんつけられるし。

 ああ、散々だなぁ。

 参加するんじゃなかったよ、ホント。

 

 

 

 

 

 

その5

 

 ドンッッと鈍い音が鳴る。

 俺の拳を鳩尾に喰らった緑谷は腹を抑えて吐こうとする。

 だが、さっきから何度も吐いているせいもあってかもう胃液と唾液しか出ていない。

 

「ほら、どうした? 近距離戦の練習をしたいんじゃなかったのか?」

 

「ゲホッ、ウゲェ・・・・・・。ま、まだ、できるっ」

 

 緑谷は戦闘スタイルをパンチスタイルからシュートスタイルへ移行させたばかりだ。

 まだ戦闘に慣れているという訳ではない。

 だから、緑谷の方から戦闘訓練の頼みをされた。

 まあ、付け焼刃以上ではあるのだが、それでもまだ粗が目立つ。

 

「キックをメインにするのは良いが、そこを意識し過ぎだ。俺は基本的に全身を使って戦うから分かるが・・・一方を意識しすぎると隙が出来る。もう少し全体を見ろ」

 

「う、うん・・・。もう一戦、お願い」

 

「おお、いつでも来い」

 

 俺がそう言った瞬間、緑谷は全身に力を入れて一気に俺との距離と詰めて来た。

 だが、そんな直線的な動きではあまりにも弱い。

 振られる右での回し蹴りを俺は前に出る事で太腿に左手を当てる事で攻撃を受けて威力を殺し、それと同時に緑谷の顎にアッパーを食らわせた。

 それだけでなく、振り上げた腕を降ろし、脳天に肘を食らわせる。

 

「が、はっ・・・」

 

 緑谷の口から反射的にそんな言葉を漏らす。

 だが、気にすることなくその顔面を鷲掴みにする。

 普通の鷲掴みではない。

 人差し指と中指をまるで瞼を押し込むように掴んでいる。

 そうなると人は反射的に目を潰されまいと後ろへと逃げようにする。

 その反射を付いて手の手根部辺りで顎を押して一気にその体を空へと浮かせて勢いそのままに後頭部を地面に叩きつけた。

 

「ゔぁ゙ぁ゙っ゙っ゙・・・・・・」

 

「っと、スマン。少しやり過ぎた。ちょいっと確定勝利コンボパート2を使っちまった」

 

「だ、大丈夫だよ・・・。というか幾つかあるんだ・・・・・・」

 

「ああ、パート13まである」

 

 俺はそう答えながらフォーゼドライバーとメディカルスイッチを取り出し、念のために治療をしておく。

 

「ってか、お前は何で俺に指導して欲しかったんだ?」

 

「この前機鰐くんがやってた仮面ライダーの必殺技がキックだったから詳しいと思って・・・」

 

 その言葉に、俺はついため息を吐いてしまった。

 

「いいか、緑谷。仮面ライダーの必殺技は主にキックだ。そのほとんどが飛び蹴りだが、ハッキリ言ってお前が飛び蹴りをしてもそんなに威力は出ない。考えてみろ。飛び上がっている分、踏ん張りが効かないんだ。普通に威力のある攻撃をしたいなら地を踏みしめている方が良いんだ。見ただろう? 仮面ライダーの中にはロケットの推進力を使って攻撃している者もいるんだ。それを体一つで再現しようなんて無理。・・・・・・でも、ワン・フォー・オールによる推進力とパワーをつければ変わると思う。実際、無個性でもしっかりと鍛えた人が走る推進力そのままに飛び蹴りを出せばかなりの威力が出る。そこにお前の“個性”を上乗せすればとんでもない威力にはなる。だが、慣れていないままでやれば普通に人死ぬから駄目だ。だから・・・・・・、お前に教えるのはコレが良いだろう」

 

 俺はそう言い終えるとニヤリと笑う。

 

「さあ、死ぬ気で特訓しようか」

 

 

 

 数分後、体育館γ内に緑谷の悲鳴が響き渡った。

 




まだ続きそう。

この作品のヒロインって……

  • 白神神姫
  • 使原弓
  • 紅華炎
  • 暗視波奉
  • 赤口キリコ(安藤よしみ)

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