手にしていた箱が滑り落ちて床へとおちるのを何処か現実味のないものとして俺の脳は認識した。
箱の中身から零れ落ちた小さめの長方系の紙ーカードーがバラバラとなって床に転がるのも気にせず、俺の意識は、もう片方の手に握られていたものへと向けられていた。
そのカードの中の少女、黒の色が強い灰色の髪にサファイアのようなきれいな瞳をして灰色の衣装に身を包み黒色のマフラーで口元を隠している、その少女に。
その少女は、私へとその強い遺志を秘めた瞳を向けて確かにこう告げたのだった。
「こんにちは、セレクター」と。
その瞬間に俺は全てを理解して心のうちで叫んだ。
(ここ、セレクター世界かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)
***
先ずはじめに俺のことについて話しておこうか。
俺の名前は「
今は16歳の高校一年生で、前世は男だった。
親は生まれたときに交通事故で死んじゃったらしく、その後は親父のほうの
じっちゃんばっちゃんに育てられて高校入学後は一人暮らしで、悠々自適にやってる。
前世はガチガチのセレクターで、今世にもそれがあると知った時には狂喜乱舞したものだ。
思えばそれを知った瞬間所謂ほかのメジャーTCGである、遊戯王やDMがない時点で少しばかり嫌な予感はしていたのだが。
ともかく、無事高校入学を果たし、アルバイトも初めて余裕が出てきたので、十数年ぶりにウィクロスを再開しようとおもい
構築済みデッキを買って帰宅し、開封したら出てきたのだ。
セレクターバトルの参加資格にして、共に戦う仲間でもあるルリグ「ハナレ」に。
「なるほどね、つまりウィクロスで三回勝てばなんでも願いがかなうってわけだ。
CSで優勝するとか、ドラゴンボール集めるとかより簡単そうじゃねぇか。」
「しかし、三回負けてしまうと願が逆流してもう二度とその願いはかなわないようになり、セレクターバトル
に関するすべてを忘れてしまう。」
「んなこと気にしても始まらねぇだろ?勝てればいいわけだ、勝てれば。」
「…そう、やる気があるのは私としてもいいことだわ。」
まぁ、勝っても負けても地獄なわけだが。
セレクターバトルに勝利し願いをかなえられる権利を得たセレクターは、ルリグと精神が入れ替わる。
そうして入れ替わったルリグが願いをかなえるって訳だ。
その願いのかなえ方も広大解釈可能で、どちらにしたって待っているのは絶望だ。
(俺の「願い」にはあんまり関係ないがな)
そうやって勝っても負けても絶望する少女たちをみて愉しむことこそがセレクターバトルの創造主たる「繭」の目的だ。
だが、そのセレクターバトルも数多の少女たちの絶望と願を超えて、いずれは三人の少女によってハッピーエンドへと向かっていく。
(なら、俺がやることは二つ。自分の願いの達成と俺のようなイレギュラーな存在への対処だ。)
本来のセレクター世界に存在しなかった俺というイレギュラー、そんな俺と同じ存在がいないとも限らない。
セレクターになれる奴なんて間違いなく、頭のおかしいサイコパスなのでこちらの思惑をメチャメチャにしてくる可能性があるから場合によっては対処せざるを得ない。
(まぁ、普通にいけば主人公の三人が最後まで進めてくれる。あとは最後に細工をすればいい。)
「ともかく、これからよろしくってことでいいんだよな?ハナレちゃん?」
彼女は強い意志に少しの諦めが灯った瞳を向けた
「ええ、あなたが願をかなえるまでね」
そうして、かつて前世で死ぬほど好きだったルリグと再会した俺は明日より始まる苦悶の宴へと飛び込む覚悟を決めて眠りについたのだった。
***
白い、どこまでも白い壁の中にか細い線のようなさまざまな色が混じる窓しかない部屋で一人の少女が足元の水面へと目を向けていた。
「あら?…あの子は、よくわからない子の下へいったのね。そう、それであの子たちはどんな面白いものを見せてくれるのかしら。」
純粋でいて、それ故に容赦なく際限なく悪意をばらまく少女、彼女こそこの部屋の創造主でありセレクターバトルを作りし者「繭」であった。