植物のような心で   作:(´鋼`)

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 翌朝

 

 ──結局朝まで寝てしまったのか……ッ。そのまま制服で寝てしまったので皺が入っているじゃあないか。アイロンをかけなければ。そして腹も減っているときた……恐らく購買よりも食堂で腹を満たさなければならない時みたいだ。あまり目立ちたくないので、購買で済ませようとするのは面倒過ぎる。朝は和食派である分、選択するのにも時間は掛からない食堂が今はベストか。

 

 ……ふぅッ、さっぱりした。昨日の汗や疲労が溜まった状態で向かうなんてのは嫌だ、こればかりは面倒であってもやらなければならない。

 

 それはそうと、この学園に世界規模の機関所属人物が居るとは思っていなかった。しかもお仲間も居るときた。そして桂城円莉の“試験”のような事柄を経て、私もその機関の所属が決定し国連からの援助を受けることが出来たという、普段よりも濃密過ぎる昨日が起きた。……こうしてみると少し分かりづらくなってくるが、とにかく私は()()()()()平穏な生活が出来るみたいだ。

 

 そろそろ食堂へと行くか。制服で向かい、次に部屋に戻って歯を磨きまた教室へと行こうか……面倒かもしれないが、何かあった時のために落ち着かせるように部屋へ戻っていく方が良いかと考えた結果だ。流石に人混みの多い場所はどうしても苦手になるのでな。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 織斑一夏、年齢16歳。世界初の男性操縦者にして、あのブリュンヒルデの弟。ネタ的にはこっちの方が話題性も強いし、彼女らしき生徒が居るから色々とネタ切れには困らないでしょうけど……私的にはもう1人が気になってるのよねぇ。

 

 霧島影吉、年齢18歳。発見された2人目の男性操縦者なんだけど……そのあとの出来事での話題性は一時期世界規模のニュースになってたのをよぉく覚えてるわ。何せ、彼がISから降りた途端にそのISの機能が停止したんだし。これはもう取材するしか無いっしょッ! って思って食堂で張り込みしていたんだけど……一向に来ないわね。

 

 購買で買って済ませてるのかしら。いやいや、流石に入学したばかりなのに購買の場所を知ってるのは無いか。流石にずっと張り込みするのは疲れるし、私も朝ごはん食べようか。

 

 

「ご飯大盛りにするかい?」

「いえ、食べ切れないので大丈夫です。」

 

 

 ん? 今の声は……聞き慣れない男の声、ということはッ!やっぱり居たァ! 張り込んでて良かったぁッ!報われたのねぇ!あ、受け取ってから向かったのは……ここから見て右端の席!いよっしゃ取材開始ぃ!

 

 

「君、ちょっと良いかな?」

「………………」

「あー、先に自己紹介ね。うん。私は黛薫子、2年で新聞部の部長をしてるのよ。今日は君に取材しに来たのよ、噂の霧島君にね!」

「─────」

 

 

 な、何よ。何の反応も無いじゃないのよ……!というかずっと食べてるし、気付いてないの? い、いやいやそれは無い。私そこまで影薄くないしコミュ障でしどろもどろになる陰キャじゃないし、存在感はあるし!

 

 

「え、えーっと。取材をさせても」

「感情が人に与える影響とは、興味深いと思う。」

 

 

 ……えっ? な、なに急に。そんな電波系だったのこの2人目。さ、流石にここは付いていけないけど……ここで諦めたら新聞部部長としての問題以前に、記者としての務めが果たせられないじゃないの! ここは根気よく粘るしかない!

 

 

「そ、そうですよねー。」

「“飯が不味くなる”という言葉がある。確かに時間が経てばその料理本来の味は消えて不味くなるのも事実だ。

 

 しかし、嫌悪感を持つ状態での食事も不味い。何故かは知らないが感情は五感に作用し異常を与えることで危機察知をするようだ。」

「は、はぁ……。」

「……要するにだ。」

 

 

 最後にご飯を食べて完食し終えたその彼は、1つ息を吐いて私に向かってこう言った。

 

 

「食事の時ぐらい邪魔をしないでくれますかね? 誰であろうと食べ物の恨みは恐ろしいものです、 当然不味くさせた方に対する恨みも恐ろしいものです。もう2度と近付かないでくれますか? ()()で食事が不味くなるので。」

「んなッ…………!?」

 

 

 ま、マジか……ッ! 電波系かと思ったら意外に現実味のある人だった! というか不快って、女子に不快って言葉は厳禁なのに!?

 

 

「おぉーい、霧島ぁ。」

「チッ。」

「うぇ!? か、桂城先生!?それに──若草(わかくさ)ァッ!?」

「おぉう、文屋か。まぁ来るのは分かってたけどよぉ、もうちっと頭使えよ。そんなんじゃあマジモンの記者なんぞ夢のまた夢だぜぇ?」

「お、大きなお世話です! ってか、何で桂城先生は2()()連れてきてるんですか!?」

「そこの霧島に用があんだよ。わーったらそこ退け、あと退散しとけ。まーたチクって予算削減するぞ?」

 

 

 教師が脅している! でも無視したら本当にしてきたからここは逃げなければッ! いつか必ず霧島君には取材させてもらうわよ!

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 桂城円莉の言葉でそそくさと逃げて行った黛とやらを他所に、発言した当人は私の隣に座り、他の連れの2人は向かい合わせに座る。私の前には作業服を着た()が、桂城円莉の前には若草という名の女子が座った。

 

 

「昨日言ってたろ、私の協力者だ。」

「あぁ……あの時のか。」

 

 

 だが1つ気になることがある。そう、私でさえも疑問に思ったことだ。

 

 

「なぜ男がここに居る?」

「そっちか。コイツ、『南方(みなかた) (あおい)』は整備科でな。ISに乗れなくても、大まかな仕組みとか機体の点検する奴は必要になってくるからなぁ。コイツはそのためにこの学園に居るんだよ。」

「紹介に預かった、南方 葵だ。こっちは──」

「部長が言ってた。『若草 琉璃(るり)』……宜しく。」

「……霧島影吉だ、知っているだろうが。」

 

 

 男、南方の方は少し独特な喋り方だな。“厳格そうな”雰囲気がある。女、若草は見た感じ暗いな。長髪で前が殆ど隠れていて、眼鏡越しの片目しか見えない。しかし、この桂城が協力者というのだから実力は本物なのだろう。

 

 

「先ずは南方から。コイツは物作りに関してはお墨付きだ。腕前が良いんで、コイツの発明品には役立って貰ってるんだぜ。」

「材料さえ揃えれば何でも作る。それぐらいが取り柄だがな。」

「セクサロイドを作って依頼主と契約したのは誰だったか?」

 

 

 こ、コイツ……! そんなものまで作っているのかッ!? しかも契約主が居るとは……そこまで高性能な物を作っている人間が居るとはッ……!

 

 

「次に若草、んまぁ見ての通り陰キャだけどよ。」

「陰キャは余計よ。」

「まぁまぁ。コイツは情報収集に長けてる奴でな、幾つかサイトを建ててリアルタイム並の情報を操作できる。しかも……ほれ、見てみろ。」

 

 

 桂城から渡されてきたものは……雑誌? しかし、これは3年前のものか。しかも付箋が貼られている。そこを見ろということか。

 

 開いてみれば、大物政治家と有名女優のスキャンダル記事が大々的に掲載されている。この記事がどうしたというのだ?

 

 

「その記事の写真な、この若草が撮ったんだよ。」

「なに……?」

「機材は南方がやってくれたが、その撮影技術やらは若草の専売特許ってヤツだな。ま、【ダーティーワーカー】としてのコイツらを私達は買ってんのさ。」

 

 

 ダーティーワーカー……成程、何となく分かるぞ。金稼ぎの為にそのようなスキャンダル情報を収集し、出版社へその情報を送り指定金額を振り込ませる。かなりの腕前であり、その類の仕事の危険性をよぉく知っているのか。

 

 

「後は……また放課後にでも来い。予定的にそっちの方が合うからな。」

「他にも居るのか?」

「まぁ、な。けど、ここまでにしとこうぜ。そろそろ面倒(めんど)いのが来るからな。」

 

 

 その言葉通りに、凛とした声が食堂中に響いた。織斑千冬か……成程、確かに桂城よりかはマシだが面倒な輩だ。部屋には戻れそうにないとなると、うがいだけでもしておこう。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 そして放課後へと時間は進んでいく。その放課後の時間、若草は新聞部で1人パソコンで何かを調べている……のではなく、ブログを見ていた。しかしこの部活内で他人の目を欺きながら暇つぶしのような行動は慎むのが一般的である。

 

 だが、これもまた超能力対策機関からの依頼でもあるのだ。スタンド使いと思わしき人物の特定や絞り込み、果てにはGPSや発信機などを使用したオペレーターとしての役割を担っているのが彼女だ。

 

 機関からの報酬は、ダーティーワーカーとして動いていた時の10倍20倍は良い。依頼の完遂を行うだけでかなりの金額が動くのだから、普通ならば以前やっていたことは止める筈だ。

 

 しかし、未だに彼女はダーティーワーカーとして動き続けていたりする。機関からの依頼が主な収入源とすれば、このダーティーワーカーは副業といったものとして。スキャンダル記事の写真を出版社へ送り金をせびる。

 

 汚い手は幾度となく使った。その気になればキャバ嬢や娼婦に成りすまして情報をスムーズに入手していたことだってある。そのような経験をしているからこそ、同じ部活の長である黛薫子に対して“甘い”という認識を持っていた。

 

 彼女は正攻法で、取材相手の情報を手に入れようとする。それは記者としては正しい、ダーティーワーカーのような行動は1種の“騙し討ち”である為に記者とは呼べはしない。だが、その彼女は闇を知らなさすぎる。

 

 親が出版社へ勤務しているから、自分も似たような道へと走るのは結構。ある意味普通の選択である。だが、その選択にも()()()()()が重要視されてくる。その道を選んだのならば、酸いも甘いも体験しなければならないという覚悟を持たなければ、この世界で生きていけないことを覚えておかなければならない。

 

 そのような考えを持つ若草のPCの画面内に、新たな書き込みが加えられた。しかし内容から関してどうでも良いことのようだ。クソの役にも立たない。

 

 

(──まぁた、スキャンダルでも探ろうかな。)




人物簡易紹介

『霧島 影吉』
 年齢18 身長188cm 体重76㎏

『桂城 円莉』
 年齢22 身長156cm 体重54㎏

『南方 葵』
 年齢17 身長184cm 体重68㎏

『若草 琉璃』
 年齢17 身長173cm 体重62㎏

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