破壊光線に自分にしか分からないルビを振って使ってたらとんでもないことになった。   作:筋肉大兄貴
次の話 >>

1 / 50
破壊光線にオサレなルビを振って使ってみたかった……。
そんなどうしようもない妄想から生まれた作品ですが、温かく見守ってくれれば嬉しいです。


カントー地方
主人公視点 1


破壊光線。

 

皆さんはこの技のことを御存知だろうか?

人によってはノーマルタイプの誇る最強のロマン技だという好意的な意見や、岩や鋼といった防御力に定評のある相手、若しくはそもそもこの技が当たらないゴーストタイプを相手にすることを考えれば覚えさせるだけ無駄、というような辛辣な意見が上がることもあるだろう。

どちらも間違いなく正しい意見ではあるだろうし、中には後者の内容に納得してこの技の選択を見送る、又は諦めるトレーナーが多いことも十分承知している。

 

 

 

しかし、それでも俺はこの技が好きだ。大好きだ。

いや、この抑えきれない胸の高鳴りを伴う感情を一言で表す為なら、最早愛していると言ってもよいかもしれない。

そのくらいに俺はこの破壊光線という技にゾッコンなのだ。

 

それ以外にも俺には個人的に好きな技、気に入っている技が多々あるのだが、そのどれもが若干使い勝手の悪い技であったり、聞く人によっては何故そんなものを? と、首を傾げたくなるようなものが多い……らしい。

らしい、というのは俺本人にはそんな意識が微塵もないからだ。だが、こればかりは致し方のない、個々人の認識の相違というものである。

……そうであると信じたい、とは俺の個人的な願いだ。

 

 

 

少しナイーブな話になってしまったが、兎に角何が言いたいのかというと、俺というポケモントレーナーは、所謂「ロマン技」と呼ばれる類の技を愛して止まない人間であるということなのだ。これだけは真実を伝えたかった。

 

だが、それと同時に、俺はそんな自分のことを出来る限り他人に知られたくない類の人間であるというのも、また動かぬ事実であった。

だって恥ずかしいじゃないか、子供っぽくて。

 

故に、俺はこう考えた。

「技バレするのが嫌なら、その技名の上に自分にしか分からないルビを振ってしまえばいいじゃない」と。

 

 

 

今思えば、何をそんな馬鹿なことを言っているのだとその時の自分をきつく戒めたくなるが、当時の俺とってそれは、まるで自身の中の常識という天地が丸ごとひっくり返るような大発明だった。

まさに、天啓を得たかのような素晴らしい気分になれたのだ。

 

しかし、その時に下した「ポケモンの技名にルビを振る」というこの決断が、後にとんでもない事態を引き起こすことになるとは、当時の俺には知りようもないことなのであったーー。

 

 

 

 

 

「……まぁ、こんなものかな」

 

 

 

そう呟いて日記という名の黒歴史ノートをパタリと音を立てて閉じた俺は、目の前に山と積まれた書類の束を極力目に入れないように注意しながら、ふかふかの背もたれに背中を預けた状態でぐぐーっと背筋を伸ばした。

ポキポキという背骨の鳴る心地よい音がこの無駄に広い室内に響くと同時に、どうしてこの集中力の高さを普段から発揮することが出来ないのかと、思わず苦笑してしまいそうになる。

 

大体、俺にはこういうデスクワークよりも現場でのフィールドワークの方が間違いなく向いているのだから、こんな重要資料のチェックのような大事なお仕事は、もっとしっかりとした人にやってもらいたいものだ。

……こう言うと、何だか自分が社会人失格だと暴露しているような気がしてあまりいい気分ではないのだが、嫌いなものは嫌いなのだから仕方がない。

何事にも適材適所というものがあるのだ。

 

 

 

そうと決まれば俺もそろそろ行動に移すことにしよう。何時までもこんな息の詰まりそうな執務室に篭っていては体が鈍ってしまう。

そうだ、そうに違いない。うん。

 

自分でも何と強引な理論だと内心呆れながら、それでも、ようやくこの密室の監獄から抜け出せるいい口実が出来たと、俺はルンルン気分で固く締め切ったドアの方に向かい、そのまま冷たいドアノブに手を掛けーー。

 

 

 

「どこに行かれるのですか?」

 

 

 

……る直前に、俺はある人物からそう声を掛けられた。

 

 

 

「……何時の間にそこにいたーーカンナ? 」

 

 

 

俺の秘書兼カントーポケモンリーグ・四天王の一人。

氷のカンナ(アイスレディ)」その人だ。

 

 

 

「最初からです。……まぁ、何処かの誰かさんはそんな私のことを見向きもしないまま、熱心に何事かをノートに書き込まれていたようですが」

 

 

 

そう言うと、カンナはその二つ名に恥じない絶対零度の視線で俺の体を射抜いてくる。

正直、すごく怖い。

 

 

 

「……すまない」

 

 

 

だから、それを受けた俺は彼女の目の前でしっかりと自分の頭を下げた。

それがこんな俺の為に身を粉にして働いてくれる彼女に報いる唯一の方法だと思ったし、何よりも不器用な俺には、こんな在り来たりな方法しか思いつかなかったからだ。

 

 

 

「謝らないで下さい。貴方がそういうことに頓着しない人だということは、今までの付き合いでよーーく身に染みていますから」

 

「……そうか」

 

「ええ。……ですが、そんな風に寡黙に一つのことに打ち込めるのも貴方の魅力の一つだということも、私はちゃんと理解していますので」

 

「……ありがとう」

 

「い、いえ……」

 

 

 

しかし、そんな情けない姿を見ても彼女は俺のことを一切笑わず、寧ろそのどこまでも広い心で微笑みながら、優しく俺のことを受け入れてくれる始末だった。

本当に、この優秀な秘書には何時まで経っても頭が上がらない。いつか必ず、これまでの彼女の労力に見合うような恩返しをしなくてはならないな。

 

……だが、何だって彼女は俺と顔を会わせる度に頬を赤く染めるのだろう? もしかして、俺のお世話という激務に耐えかねて体を壊してしまったのだろうか?

やだ、何かすごい心配。

 

 

 

「そ、それよりも、今週は色々と予定が入っておりますよ。何時にないほどのハードスケジュールになりますが……」

 

 

 

そんな下らないことを考えている俺を尻目に、カンナはつい先ほどまで赤かったはずの頬を瞬時に元のシミひとつない純白のそれに戻し、まるで何事もなかったような態度と声で淡々と言葉を紡いでいった。

どうやら風邪や体調不良からくる表情の変化というわけではなかったようだ。

 

 

 

「……構わない、聞かせてくれ」

 

 

 

だが、次の週末にはちゃんと家でゆっくりと休むように伝えておく必要があるだろう。そうしないと、カンナにはまた自分の休暇を潰してまで俺の世話を焼かせるよう真似をさせてしまうかもしれないからな。

働き者で真面目な彼女に、二度とそんな罰当たりことをさせてしまうわけにはいかない。

というか、そんなの俺が絶対に許せない。マジでマジで。

 

 

 

「分かりました。……そんなに心配していただかなくても、私は貴方のお側に居られるだけで十分幸せですよ

 

「……?何か言ったか? 」

 

「いえ、特には」

 

 

 

何か聞こえたような気がしてそう尋ね返してみたものの、当のカンナからいつもの涼しげな微笑みが帰ってくるのみであった。

おっかーしな。割と長い呟きが聞こえた気がしたんだけど……。気のせいだったのかな?

 

 

 

「……まぁいい。では、改めて来週のスケジュールを聞かせてくれ」

 

「かしこまりました、チャンピオン・ワタル」

 

 

 

そう言って、カンナと共に今一度重々しいデスクに向かった俺ことカントーポケモンリーグ・チャンピオン「ドラゴン使いのワタル(ロード・オブ・ドラゴン)」は、可能な限り彼女に対して疲れた表情を見せないように気を付けながら、大嫌いなデスクワークを始める準備に取り掛かったのだった。




技名ネタは活動報告で随時募集中です。


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。