ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~   作:tonito

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・・諸注意・・

 
この作品は、現在発売されておりますPSP及びPS vita用ゲーム、ダンガンロンパシリーズの非公式二次創作となっております。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。

『ダンガンロンパ』『スーパーダンガンロンパ2』等シリーズのネタバレが含まれております。

 モノクマを除き登場するキャラはオリジナルキャラとなっておりますが、他の作品と肩書き等が被ってしまっている可能性があります。人によっては気分を害してしまう恐れがありますが予めご了承ください。

 流血や殺人等、グロテスクな描写を含みます。苦手な方はご注意ください


チャプター2 非日常編 ③ オシオキ編

「そういえばモノクマさん。わたし、少しだけ思い出したんですよ」

『え? 何を?』

「わたし達がこの船に乗っている理由ですよ」

「え? それってどういう……」

「な、何を思い出したんですか!? お、お、お、教えてくだしゃい!」

「雅チャン、落ち着くデデデデデスッ!」

「……」

 一斉に戸惑いの視線が集まると、それが心地良いかのように微笑む梶路さん。

 皮肉にもその瞳はとても綺麗で、輝きに満ちていた。

『なに? もしかして脅しのつもり?』

「まさか。今更こんな事で処刑を取り消してもらえるとは思っていませんよ。まあ、ちょっとした仕返しとでも思ってください」

『……』

 あのモノクマが無言に……いったい梶路さんは何を思い出したって云うんだ?

「それで宵闇の巫女。その思い出した事、というのは俺達に教えていただけるのですか?」

「ふふ。そうしたいのはやまやまですが、所詮はったりなので」

「それは残念」

 悪戯に微笑む梶路さん。

 でもその目は笑っておらず、はったりというのも嘘なのだろう。

「ではモノクマさん。そろそろ」

『ふん! 云っとくけど、オマエの言葉なんて全然効いてないからね!』

「それはこちらも同じです」

『ぐぬぬ……! それじゃあさっさと始めるよ! オシオキタ~イム!』

 暗い扉の奥から伸びた鎖が、雪のように白い梶路さんの首に填められる。

 覚悟が出来たかのように一度瞼を閉じると、彼女はボクに向かって、優しい声で呟く。

「都築さん」

 その声は、こんな状況だというのにとても心地良く、そして――

「わたし、都築さんの事……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大嫌いでした」

 

 

 

 GAME OVER

 カジロさんがクロにきまりました。おしおきをかいしします

 

『電撃! 収穫祭り!』

 

 眩しい太陽の下、賑やかな祭囃子と共に勢いのある声が力強く響いてきます。

 

 どうやらわたしはモノクマ達に神輿で担がれているようですね。手足も縛られているせいか、なんとも乗り心地が悪い。

 

 さて、わたしはどんなオシオキを受けるのでしょう……成宮さんのオシオキは直接見ていないけど、画面越しに生々しい音が聞こえてきたから何をされたのかはわかる。

 

 怖いと云ったら嘘になるけど、覚悟は既に出来ているから何をされてもわたしは……

 

 ――パサッ

 

 ……これは、花? なんだかくすぐったいですね。

 

 ――ペチ

 

 ……今度はお金? なんのつもりでしょう?

 

 ――ガンッ

 

 ……痛い。今なにか、頭に。

 

 ――ガンッ

 

 ……まただ。これは……空き缶? どうしてこんなもの……ぐぅッ!?

 

 ……今度は空き瓶がぶつかった。

 

 頭を切ったのか、ツーっとこめかみの辺りから血が流れてくる。

 

「そういう……事ですか。担がれるわたしに、観衆が物を投げつけるわけですね。なんて悪趣味なのでしょう。まるで村八分にでもあっているかのようです……痛ッ!」

 

 その後もオシオキは続いた。

 

 わたしは身動きする事も出来ず、己の体で全て受け続けた。

 

 小銭、空き缶、空き瓶、生ゴミ、紙くず、吸い殻、ガム、釘、ライター、レコード……一体どれだけのゴミをぶつけられたのかもわからない。

 

 体中が痛い……口の中が鉄の味しかしない……意識が、朦朧とする……。

 

 早く……殺して。

 

『うぷぷぷぷぷ』

 

 モノクマが不気味に笑う。

 

 一人だけじゃない。

 

 一人が笑いだすと、輪唱するかのように笑いだし、祭囃子がかき消される。

 

 いったい、何が…………あれは?

 

 残りわずかな体力を使って顔を上げると、そこには、派手な格好をしたモノクマが立っていた。怪しい化粧を顔に施し、首には何重も数珠を垂らし、両手には適当に摘んできたのがわかる笹の葉のような植物を持っていた。

 

『かんだらきんだらくんだらけんだらこんだら~!』

 

 なんて耳障りな……なんなの? あんな適当で、何が出来……キャッ!?

 

 わたしを担いでいたモノクマ達が突然逃げ出すようにしていなくなった。おかげでわたしは神輿から落とされて顔面から砂利をかぶる事になってしまった。もう散々だ。

 

『がんだらぎんだらぐんだらげんだらごんだら~!』

 

 まだ続けるのか。これ以上苦痛なオシオキはない。

 

 ふぅ、なんとも短い人生だった。

 

 生まれた時から光を失っていて、まだ二足歩行も出来ないうちから修業の毎日。学校では由緒ある家の子供だからと距離を置かれ、まともに友達なんて出来た事もない。おまけに下界は穢れているとか云って、この歳になるまで村の外に出た事もない。本当につまらない、退屈な日々。

 

 なのに、なぜだろう……記憶の片隅に、誰かと村の外に出た思い出が残っている。

 

 あれはいつ頃の事だろう……すごく昔のような気もするし、つい最近のような気もする。

 

 始めて嗅いだ、潮風の香り。

 

 始めて食べた、カップ麺の味。

 

 始めて聴いた、波の音、楽器の音。

 

 始めて触れた、温かくて、優しい手。

 

 とても懐かしい……。

 

 すぐに村の人に見つかってしまい、連れ戻されてしまったけれど、あれは、誰だったのだろうか?

 

 叶うのなら、最後にもう一度、会いたかった。

 

 ありがとう、と……一言だけお礼が云いたかった。

 

 会いたい……会いたい……会いたい……会いたい………まだ、しにたくない。

 

 空を見上げると、いつのまにか黒い雲がいっぱいに敷き詰められていた。

 

 雨は降っていないけれど、雷鳴だけが激しく轟いている。

 

「雷雲って、あんな色なんだ……ぁ」

 

 段々と意識がはっきりしてくると、嫌な予感が全神経を駆け巡り、体温は引いていくのに鼓動だけは激しく動くのがわかる。

 

 逃げ出したいのに、縄がきつくて上手く動く事が出来ない。

 

 口や目に土が入る。

 

 肌や髪に砂利が混ざる。

 

 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動けうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうごけうご

 

『サンダラアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――――!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大収穫~♪』

 

 

「エクストリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィム!!!!」

「やだ……もうやだぁ」

「う゛ぅ」

「ああ……ッ!」

 みんなが絶望に蹲る様子を見て楽しそうにはしゃぐモノクマ。

 普段ならこれ以上ないくらい腹が立つはずなのに、今は、どんな感情も沸かない。なぜかとても冷静だ。

「都築君……」

「大丈夫だよ深海さん。大丈夫だから……」

「……わかった。無理はしないでね」

 心配そうにボクを見つめたまま、後ろ髪を引かれるように立ち去る深海さん。

 ボクは今、どんな顔をしているんだろう。

「平気? おはな」

「は、ハイ。花子より、みやびチャンを……」

「わ、わたじは……大丈夫……れず……う゛」

「と、トイレまでもつかしら……」

 大変そうだなハミちゃん。ボクも手伝いに――

「……意味深なこと云うなや」

 遊木君が一人、足早にエレベーターに乗り込んでいく。

 いま何か云っていたような……まあ、こんな状況だし文句を云いたくなるのも仕方ない。

「ハミちゃん。手伝うよ」

「え? でも……都築君」

「なあに?」

「な、なんでもないわ。それじゃあ……お願いしようかしら」

「うん」

 ボクは指原さんの介抱を手伝ってから客室に戻った。

 トイレまで間に合ったよかったよ。でも、なんでハミちゃんはボクの顔を見ようとしなかったんだろう? 花子さんもなんか様子がおかしかったし……まあいっか。

 

 

 

 

 客室に戻った。

 

 中は、いつも通りだ。

 

 まるで、何事もなかったかのように。

 

 ボクは趣味の悪い赤いドアを閉めながら、ゆっくりとベッドへと進む。

 

 もう寝てしまおう。

 

 このままベッドに飛び込めば、きっとすぐに夢の世界に行けるはずだ。

 

 そして目を覚ませば、また新たな朝を迎えるんだ。

 

 何事もなかったかのように……。

 

 だって世の中は、人一人死んだところでなんの影響もないんだから。

 

 知っている。

 

 ボクは知っているんだ。

 

 だから、ボクは……ベッドに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 

 叫んだ。

 ひたすら叫んだ。

 壊した。

 ひたすら壊した。

 シーツを裂き、枕を破り、テレビを落とし、壁を殴り、冷蔵庫の中身をぶちまけ、バストイレのガラスを割って、顔を掻いて、髪を毟って、エトセトラ、エトセトラ……。

 もう、どうにでもなれ。

 ボクには何もない。

 ボクは何者でもない。

 才能なんておまけだ。

 全部、全部なくなってしまえ。

 ボクは……俺は……しょうもない人間なんだから!

 …………シノウ。

 

 

「都築君!!」

「……!?」

 あれ?

 俺……ボクは今、何を……なんだか、前にもこんな事があった気が……これが、デジャヴ?

「バカッ! こんなもの持って、私が来なかったら何をするつもりだったの!?」

 ……深海さん。

 なんでそんなに怒っているんだ? それに、なんでガラスの破片なんて持ってるの?

「聞いてるの都築君ッ! 私怒ってるんだよ!?」

「あ、うん。ごめん……深海さん」

「もう……心配で様子を見に来てよかったよぉ。ホント、心臓が止まるかと思ったんだから……」

 ペタリと座り込み、半ベソ状態でため息をつく深海さん。

 ガラスの破片を握っていたせいか、その手は赤く滲んでいた。

「深海さん、その手……」

「え? あ、これは酷いね。……あ、痛い。気付いたら凄く痛い。痛いよぉ~ジンジンするよぉ~お嫁にいけないよぉ~」

「……深海さん。紫中君みたいになってるよ」

「あはは。さすがにバレたか」

 舌を出して視線を逸らす深海さん。

 さすがに棒読みすぎるよ。そもそもお嫁にいけないってなにさ。

「よかった。ちょっとは顔色が良くなったね」

「え?」

「だって都築君、さっきまで酷い顔だったもん。本当に、今にも死んじゃいそうな……」

「そうだった?」

「そうだった」

 今度は真剣な表情で、ボクの目をまっすぐに見つめる深海さん。

 彼女も紫中君に劣らず隙がない。

「……ごめん」

「もういいよ。何もなかったんだからね」

「ちょっ!? やめてよ深海さん!」

「あ、ごめん」

 ビックリした。

 いきなり頭を撫でてくるんだもん。あんなの反則だよ……。

「ホント、ごめんね? つい癖が出ちゃって……」

「癖? 普段からもこうなの?」

「うん。なんか、人の頭を撫でるのが好きなんだよね。多分、妹達のせいだと思うけど」

「妹達? 深海さん家は何人姉妹なの?」

「長女の私、次女の楓、長男の碧葉、次男の杏の四人だよ。みんな可愛いんだぁ~」

 なんて締まりのない顔だ。こんな深海さん、始めて見た。

「長男の碧葉が特に生意気な子でさ、普段は私の事をババアとかお前とか呼んで強がっているのに、宿題でわからないところがあると教えてくれって泣いて頼んでくるんだよ? それで私が教えると、ありがとう紅葉姉ちゃん! って、すごい笑顔で云ってくるんだよ~? むへへ、可愛いと思わない?」

「そ、そうだね」

「そんな性格だから友達と喧嘩する事も多くてね。すぐに仲直りするんだけど、喧嘩した日の夜は毎回私が頭を撫でて慰めてあげるんだ。楓や杏にもね。そのせいか、落ち込んでいる子を見るといつも頭を撫でちゃうんだよね。で、いつも都築君みたいな反応をされちゃうの」

「もしかして、その度にこうして妹さんや弟さんの話をしているの?」

「すごい! よくわかったね!?」

 信じられないと云わんばかりに両手で口を隠す深海さん。

 そんなに驚くことかな? 誰だってわかりそうな気がするけど。

「みんな元気かなぁ……痛てて」

「大丈夫深海さん。本当はかなり酷いんじゃないの?」

「そんなことないよ。平気平気」

「見せて」

 背中に隠そうとした手を無理やり掴んで手の平を開かせる。

 手の平は予想以上に血に塗れ、目で見える程の傷が広がっていてなんとも痛々しい。

「やっぱり……これ、相当酷いよ」

「平気だってば。もう、心配性なんだから」

「心配するよ。だって、その怪我はボクのせいで……!」

「くすくす、なんか変だね。都築君を心配して来たはずなのに、逆に心配されちゃうなんてね」

「そ、それは」

「ごめんごめん。イジワルのつもりじゃないから……」

「ちょ……深海、さん?」

 突然ボクの背中に腕を回し、包み込むようにして抱きしめる。

 良い匂いがする。それに……温かい。

「いいよ」

「え?」

「泣いても、いいよ」

「……」

「泣いていいんだよ。こういうのはズルイかもしれないけど」

 何を云ってるんだよ。

 泣くわけ……ないじゃないか。

 泣く意味なんて……ない、し……あれ? 

 どうして。

 どうして…。

 どうして……涙が……こんなに……。

「頑張ったね。もう、いいんだよ。自分を傷つけないで……自分を、嫌いにならないで、いいんだよ」

「ボク……ボクは……」

「ありがとう」

「……ボク、梶路さん……を……大好きな……ヒッ、かじろ……さんを……」

「うん」

「あ……う゛……あ゛ぁ、ぼ、ボク……うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 泣いた。

 ひたすら泣いた。

 ボクは、泣き叫んだ。

 全て吐き出すように。

 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて……そして、泣いた。

 

 

 

 

 

 ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~

 

 

 chapter2

 

 ハニーソングとダークステップ end

 

 残り乗客数 11人

 

 

 

 

 

『焦げたチェーン』を手に入れた。

 

 梶路美耶子が殺害に使ったネックレスの残骸。

 付着していた紫色の宝石、モノクマダイアモンドからは、側にいるだけで活力が沸いてくる。

 高校生のポケットマネーではとても買えない高級品。

 

 

 


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