ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~   作:tonito

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・・諸注意・・
 
この作品は、現在発売されておりますPSP及びPS vita用ゲーム、ダンガンロンパシリーズの非公式二次創作となっております。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。

『ダンガンロンパ』『スーパーダンガンロンパ2』等シリーズのネタバレが含まれております。

 モノクマを除き登場するキャラはオリジナルキャラとなっておりますが、他の作品と肩書き等が被ってしまっている可能性があります。人によっては気分を害してしまう恐れがありますが予めご了承ください。

 流血や殺人等、グロテスクな描写を含みます。苦手な方はご注意ください



チャプター4 非日常編 ①

 

 生田厘駕君。

 

 女子には優しく、男子には極端に厳しい嫌なやつ。

 

 腹が立つ事は何度もあったし、良い思い出なんて一つもない。

 

 それでも、そんな彼でも、ボク達の仲間であることに変わりはない。

 

 心のどこかでは、いつかわかりあえる日も来るのではないかと思っていたりもした。

 

 けれど、それはもう叶う事はない。

 

 彼は、生田君は、自らの血で作ったカーペットの上でこと切れているのだから。

 

 

 

 血の滴る舞台の上で、遺体の周りに人が集まっている姿は、まるで芝居が上演している様にも見える。

 けれどこれは芝居なんかじゃない。現実だ。

「チッ、誰かと思ったらテメェかよ」

「いくたサン……」

「花子ちゃん!? あ、えっと、もう、良いの?」

「フフフ、封印は解かれた様ね」

「はい。ごしんぱいソーリーデスた」

 久しぶりに素顔を晒している花子さんに深海さんと夢見さんが舞台の上で驚きを隠せないでいると、電子生徒手帳がバイブレーションと共に点滅した。

「モノクマファイルが、更新されたみたいだね」

「やっとか。ったくあのぬいぐるみはグズグズしやがって」

 太刀沼君の愚痴を聞き流しながら、ボクは更新されたモノクマファイルを確認する。

 

『モノクマファイル4』

 

 被害者は生田厘駕

 

 死因は照明器具による圧死

 

 死亡時刻は14時04分

 

 薬物の接種はなく、死因以外の外傷は無い。着衣に乱れは無い。即死。

 

 

 14時04分……今は16時過ぎだから、2時間前には亡くなっていることになるのか。ボクが太刀沼君と花子さんのダーツ勝負を見守っている間に生田君は……。

「そういえば三人は一緒に来たけど、今までどこにいたの?」

「ボク達はダーツバーにいたんだよ。モノクマアナウンスを聞いて駆け付けたんだ」

「けど変だな。ダーツバーとショーホールはそんなに離れてねぇのに、照明が落ちるような音は聞こえなかったぞ? これだけのもんが落ちたならガチャーン! だのバリーン! だの聞こえるもんだろ」

「ショーホールは防音だからね。扉が閉まっていたら、ダーツバーにいたら聞こえないよ」

「ガチャーン、バリーンって……ハァ、ヘッドのわるさ、おしえなくていいデス」

 こんな状況なのに良く口喧嘩出来るなこの二人は……ん? そいえば玉村さんは一言も喋ってない様な……。

「ぼくが……やらなきゃ……」

「玉村さん?」

「ぼくがやらなきゃ!」

 ボクが話しかけようとした瞬間、玉村さんは鬼気迫る勢いでショーホールから出て行ってしまった。

「どうしたんだ玉村の奴? 随分やる気まんまんじゃねぇか」

「晴香ちゃんは生田君と一緒に料理したりしていたし、きっと辛いんだよ」

「ふーん。まあどうでもいいけどな。俺様も捜査に行くぜ」

 心底興味がないというかのように呟くと、太刀沼君もふてぶてしくショーホールから出て行った。もう少し心配とか出来ないのだろうか。

「フフフ、では遺体の見張りはワタシに任せなさい。結界を張って、外からは見えないようにするわ」

「わたしもガーディアンするデス。ふしんしゃ、デストロイデス」

「なら私は捜査に行こうかな。見張りは二人いれば十分だしね」

 こうして役割も決まり、ボク達はそれぞれ行動を開始した。

それにしても玉村さん、泣いているようにも見えたけど、大丈夫かな……?

 

 

 捜査開始!

 

「まずは遺体の確認をしないとな」

 ボクは急ぎ舞台に上がると、広がる血を踏まないよう慎重に生田君の元へ近づく。

 改めて目の当たりにすると、本当に悲惨な状況だ。うつ伏せで倒れるその身体は血に染まり、端正に整っていた顔は見る影もない。

「酷いね。一体誰がこんなこと」

「それは犯人だよ」

 膝をついて遺体を調べていた紫中君が当たり前のように呟く。

「わかってるよ。でも、こんなやり方……」

「それなんだけど……犯人はどうやってこんな殺害方法を行ったんだろうね」

「殺害方法?」

「そう。ほら、この照明器具」

「ほらって云われても……これがどうしたのさ」

「持ってみて」

 紫中君が指差しているのは生田君の背中に覆いかぶさっている照明器具だった。破損が激しく、血もべったりついていて使い物にはなりそうもない。

「勝手に触っていいの?」

「いいよ。花子さんと夢見さんも見てるし、なにかあれば僕達三人が証言するから」

 花子さん達の方を見ると、二人とも無言で頷いた。二人とも意味がよくわかっていないのだろう。

「わかったよ。……っと! 持てなくはないけど、そこそこ重いね」

「でしょ? これをこんなにたくさん、どうやって殺害に使ったのかと思ってね」

 生田君の背中にはボクがいま持っている物を加えて二つの照明器具が被さっている。

 他にも辺り一面に散らばっていて、ざっと10はあるだろうか。どっちにしても相当な数だ。

「可能性としては……」

 天井を見上げる紫中君を目で追うようにしてボクも見上げる。……眩しい。

「紫中君。天井になにかあるの?」

「……まあいいや。ついてきて」

 何か云いたそうな目でボクを見たのが気になったものの、云われるまま無言でついていく。下手から幕を潜り舞台裏に出ると、そのまま急な角度の階段を登る。この道順は……。

「そうか。キャットウォーク」

「……やっぱり」

 いつの間にか通路の先を行っていた紫中君を追いかけると、そこには明らかな違和感があった。

「あれ? なんかここ、おかしくない?」

「よく気付いたね。そう、照明が外されているんだ。他にも、そことか」

 紫中君が指差す方を見ると、あちらそこらにものが外されたような状態の箇所があった。

「そうか! 犯人はここから照明器具を外して、キャットウォークから舞台上に落としたんだ! これならたくさんの照明器具が散らばっていた理由も納得だ!」

「けど、あれだけの量を運ぶのは、なかなか重労働だよ。突発的な犯行ではなく、計画的に行った犯行である可能性が高いね」

 計画的な犯行……そういえば、今までの事件はどちらかといえば突発的な事件が多かった気がする。犯人は以前から生田君に恨みを抱いていた人物ってことか。

「あれ? でも計画的な犯行だとするなら、犯人はどうやって現場から去ったんだろう。いくらキャットウォークから舞台や客席の様子が見下ろせるとはいえ、午後の自由時間じゃいつ誰が来るかわからないよね? そのまま出入り口から出るのは危険なんじゃないかな」

「仮にそうなった場合、いま人を呼びに行くところだった、とか云えば、誤魔化せなくもないよ。今回は、ちゃんと出口も確保しているみたいだけれどね」

「あるの? 出口」

 紫中君はボクの問いに無言で頷くと、ついて来いと云うかのように小さな背中を向けて歩き出した。

 登ってきた梯子を再び降りて向かった先は、以前探索の時にも来た楽屋に続く通路だった。

「ここに、出口があるの?」

「うん。前に来た時は、途中で都築君の体調が悪くなって、引き返しちゃったから、時間がある時に、一人で調べておいたんだ」

 電波の悪いラジオみたいな喋り方で辛辣なことを云ってのける紫中君。

彼に悪気はないと自分に言い聞かせながら、シャワー室や洗濯機を素通りして後をついて行くと、あっという間に目的の場所に辿り着いた。

「ここだよ」

 紫中君が指を差したのは、どこにでもある緑のピクトグラムの付いた無機質な扉。

唯一の違いといえば、出口から出ようとする人間がモノクマになっていることだろうか。

 学校や病院等の大きな施設ならどこにでもあるその扉は、今まで異常な空間にいたボクを現実に引き戻すような錯覚に陥れるには十分だった。

「非常口。こんな物があったんだ」

「開けてみると……ホラ。見覚えある場所が」

 鉄と鉄とが擦れるような音を響かせながら開かれた扉の中を覗くと、そこには派手なタイルで彩られた廊下が小川の様に続いていた。

「ここは……どの辺だ?」

「ショーホールの裏側だね。ここを真っ直ぐ行くと入口に出るよ」

「なるほど。確かにこれなら誰にも見つからずに出入り出来るね」

 ボクが辺りを見回しながら納得していると、突如不意打ちのように問いが突き付けられる。

「ところで君は、お昼ご飯から事件現場に来るまでは、何をしていたのかな?」

 その目はいつもと変わらず眠そうなものの、声色には迷いが無く、まるで取り調べでも受け取るような気分にさせられる。

「太刀沼君と花子さんと一緒にダーツバーにいたよ」

「ずっと?」

「うん。太刀沼君と花子さんとのダーツ勝負を見届けてたんだ。花子さんが元の姿になっているのもそれが理由なんだ」

 しばらく思案した後、紫中君はボクの云う事を信じてくれたのか、なるほどねと一言だけ呟いてフェンスに背中を預ける。

「し、紫中君はなにしてたの?」

「僕は寝てたよ。15時頃に起きて、船内を散策している時たまたまショーホールを覗いたら生田君が亡くなっていてね。他の皆を呼んだんだ」

「それじゃあ……最初に生田君の遺体を見つけたのって」

「僕だよ」

 ……そういうことは先に云った方がいいんじゃないかなあ?

 肩を落として紫中君のマイペースさに呆れていると、当の本人は踵を返して次の場所に向かおうとしていた。

「じゃあ都築君、僕は他の場所の捜査を進めるから、君は皆から午後の時間、何をしていたか聞いてきてもらえるかな?」

「あ、うん。わかったよ」

 紫中君はボクの返事を聞くと、もう用はないと云わんばかりに去って行った。

 なんだか変に疲れてしまった。

 

獲得コトダマ

・モノクマファイル4

・散らばった照明器具

・キャットウォーク

・紫中舞也の証言

・非常口

 

 

 紫中君の背中を見送った後、入口から再びショーホールに入ると、見張りをしている二人が舞台の上で踊り始めた。

「ほわっと!? ど、どちてつづきサン、とーじょーデス!? トリック? トリィィィィック!?」

「あなたが禁断の秘術を使えるなんて思わなかったわ!」

 あ、違う。踊っているんじゃなくて驚いているんだ。舞台裏にいるはずのボクがここにいたらそりゃあ驚くよな。

 ボクは急いで舞台に戻って二人に事情を説明すると、さっそく本題に入る事にした。

「それで、二人ともちょっと聞きたい事があるんだけど」

「デス?」

「フフフ、ノアの箱舟の行き先、それはあなたの心の中に」

うーん、相変わらず意味がわからない。ドヤ顔の夢見さんは放っておこう。

「えっと、二人が事件が起こるまで、なにをしていたのか聞きたいんだ」

「わたし、クソシルバーとダーツしてたデス。つづきサン。おねぼけポヤポヤデス?」

「クソシルバー? ああ太刀沼君か。もちろん知ってるよ。ボクと花子さんと太刀沼君はダーツバーにいた。でもその前は何していたか教えてもらえないかな?」

「なるほどデス。わたしは、クソシルバーがうるせーのでランチのあと、クイックでダーツバーいきますたデス」

「ワタシはカードルームにいたわ」

 夢見さんはスルーされたのが悲しかったのか、やや不服そうに顔半分を隠すように伸びた前髪を弄る。

「カードルーム。誰かと一緒にいたの?」

「いいえ一人よ。タロット占いをしていたの。少し思い当たる節があってね」

 思い当たる? そういえば五階に始めて来た日、ダーツバーで何か思い出した様な素振りをしていたような気が……。

「時間は……だいたい二時間くらいね。紫中君に呼ばれてショーホールに行って、今に到るというところかしら」

「そんなにロングタイム、フォーチュンデス?」

「フフフ、いろいろ試していたのよ。他の人の事とか……フフフ」

「な、なんでわたし、みるデス?」

「フフフ、小さきものはその衣を親愛なる者に解かれると出たのよ」

「ノーッ! あいつがしんあいとかありえねーデス! そのタロットしんとうめっきゃくデリートデスデス!」

 顔を顰めて地団太を踏み不快感を表す花子さん。胸元を掻きむしっているあたり余程気持ちが悪いのだろう。まあ、太刀沼君と親愛とか云われたらね。案外良いコンビだとも思うけど。

「そのニヤケヅラやめるデス! マクノウチイズミルクティーくらいキモイデス!!」

「に、にやけてないよ?」

「ふぁっきゅー! テメーのケツに(自主規制)デス!!」

「ごめんウソ! にやけないから! だからその指やめよう!?」

 うう、見た目が可愛いだけに怒った時の衝撃が激しい。あんまり怒らせないようにしないと。

「フフフ、それはそうと都築君。実はあなたに見せたいものがあったのよ」

「見せたいもの?」

「これよ。中をごらんなさい」

 胸の谷間から取り出された二つ折りの紙をドギマギしながら受け取ると、ボクは高鳴る鼓動を落ちつけながらゆっくりと開く。

 そして、中に書かれていた文字を見た瞬間、ボクの鼓動を一瞬にして静まった。

 

    おまえはなかまをうらぎった

 

 これと同じものをボクは知っている。

 正確には別のものだけれど、唯一の共通点を考えれば同じものと云っていいだろう。

「これ……どこで見つけたの?」

「遺体の下にあったのを見つけたのよ」

「イエス。かってにタッチする、ダメかとおもったデスが、そろそろ~っとぬいたので、ホットもっとあんしんデス」

 そういうことじゃないと思うんだけど……。

「でも、よく見つけられたね?」

「二人がどこかへ行った後、たまたま遺体の下からはみ出ているのを見つけたのよ。紫中君が検死で遺体に触れていたから、その時に出てきたのではないかしら」

「あの紫中君が見落とすだなんて……」

「彼だって人間だもの。ワタシのように伯爵に魅入られていないのだから仕方ないわよ」

 まるで神にでもなったかのように呟く夢見さんを尻目に見ると、ボクは何も云わずに動機の紙に視線を戻す。

「これは誰のものなんだろう」

「犯人のものに決まっているでしょう? ちなみにワタシのは客室にあるわ」

「わたしはバーニングしたデス」

 や、焼いたのか。まあ気持ちはわかるけど。

「とりあえず、これは預かっても良いかな?」

「フフフ、構わないわ。ワタシ達は動く事が出来ないもの」

「おまかせするデス」

 ボクは二人にお礼を云うと、動機の紙をズボンのポケットに入れてショーホールを後にした。

 

 獲得コトダマ

・花子・アンドロメダの証言

・夢見縛の証言

・動機の紙

 

 

 ショーホールから出て最初に足を運んだのはカードルームだった。

 一番近くにあるからというのと、夢見さんの証言を確認する為でもある。

ボクは勢いのまま扉を開くと、丁度カードルームから出ようとする玉村さんと鉢合わせして、顔と顔が近づきぶつかりそうになったのをギリギリのところで避わした。

「ご、ごめん玉村さん! 怪我とかない?」

「う、うん。大丈夫」

「よかった。玉村さんもここの捜査をしていたんだね。なにかあった?」

「なにもなかったよ。ごめんぼく先を急ぐから」

「あ! その前にちょっと聞きたい事がってうわぁ!?」

「ひゃあ?!」

 走り去ろうとする玉村さんを追って慌てて手を伸ばした瞬間、ボクは大きく躓いて玉村さんを巻き込むようにして転んでしまった。

「イタタ……ん? なんだか良い匂いが――」

「せ、セクシャルなハラスメントだよぉ!!」

「ぐへ!?」

 いつの間にか玉村さんの腰にしがみついてしまっていたボクは、顔を真っ赤にした玉村さんに思い切り蹴り飛ばされてしまった。

「おバカー! あっち行けー!」

「ああ、行っちゃった。まあ、今のは仕方ないよな。それにしても、あの匂いはなんだったんだろう。女の子ってみんなあんな良い匂いするのか? ……い、いけない! 今は捜査中だろバカ!」

 頬を叩いて緩んだ顔と心を引き締めると、ボクは改めてカードルームに入る。

 カードルームという割にはチェス盤や麻雀卓等もあり、娯楽室という方がしっくりくるその部屋は、玉村さんが捜査したばかりの割にはそこまで散らかっていなかった。

「うーん。ここまで普通だと、どこから捜査したものかな。とりあえず怪しそうなところを見てみるか」

 ボクはカウンターを始め、麻雀牌やチェスの駒、古時計等を調べてみるも、特に変わった様子は見受けられなかった。

「犯人がなにか残していたりしないかな。まあそう都合よくは……ん? これは……カード?」

 テーブルの下に落ちていたそれは、花柄模様の描かれた薄紫色のカードだった。

「なんだこれ? 逆さまの……人間? 変な絵だな。数字は書いてあるけど、なんの意味があるんだろう」

 とりあえずカードをテーブルの上に置いたボクは、これ以上捜査を進めても意味がないと決断して次の場所へと向かった。

 

 獲得コトダマ

・タロットカード

 

 

「……なんか嫌だな」

 そう呟くボクの目前には眩しいけれど汚い世界が広がる。

 悲惨な遺体を見たばかりのボクにとって、カジノ場の派手で活気のある雰囲気は不快で仕方がなかった。

 胃の奥から湧き上がってくる嫌悪感を堪えて中を調べていると、先に捜査をしていたらしい深海さんと太刀沼君の姿があった。

「なんだテメェも来たのかよ」

「二人もここの捜査をしていたんだ」

「うん。私は今来たばかりなんだけどね」

「ったく、三人もここで固まってたら意味ねぇだろうが。なんでテメェまでやってくるんだよ使えねぇな」

「そんなこと云われても困るよ」

 心底呆れたように肩を落とす太刀沼君に別の嫌悪感を抱いていると、それを察したかのように深海さんが間に割って入った。

「まあまあ。こういうこともあるって。それにここは広いし、三人で捜査しても問題ないと思うよ?」

「そうかあ? 俺様だけで十分だと思うがなぁ」

 はぁ。ダーツバーでは少しだけ見直したのにな。まあこっちの方が太刀沼君らしいと云えばらしいんだけど。でも二人一緒に話が聞けるのは助かった。

「ちょっと二人に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「抱いた女の数ならいいぜ?」

「き、聞きたくないよそんなこと!?」

 まったくなんてことを云うんだ。深海さんが横にいるのに。一度デリカシーって言葉を叩きつけてやりたいよ!

「なにが聞きたいのかな?」

「ああ、お昼の後から遺体を見つけるまでなにをしていたのか聞きたいんだ」

「そんなことか。どうせ紫中にでも頼まれたんだろ?」

 うっ、変なところで察しがいいな。ちくしょう。

「私は甲板で海を眺めた後、レストランでお茶をしていたよ。そうしたらモノクマアナウンスが聞こえたから急いで船内を走り回ったんだ。だから都築君達が来るのとそんなに変わらなかったんだよ」

「そうだったんだ。ちなみに何時くらいかわかる?」

「甲板にはそんないなかったけど、レストランには14時くらいに行ったのかな? 誰も来なかったから一人でお茶してたよ」

 そ、そうだったのか。こんなことなら立会人なんてサボってレストランにいけばよかった。

「少し寂しかったけど、たまには一人の時間も悪くなかったよ。最近はいろいろあったしね」

「そ、そうだね」

 やっぱり立会人をしたのは正解だったな。危うく深海さんに気を遣わせるところだった。

「俺様はテメェとクソガキと一緒にいたから云わなくてもわかってるよな」

「うん。でもダーツバーに来る前はなにしていたか聞いてもいい? 一応花子さんにも聞いたからさ」

「めんどくせぇなぁ。あ~、飯食った後は景気付けに一発スロット打ってたぜ。今日も絶好調だったな! ゲハハハ!」

「スロットって……ここで?」

「あたりめぇだろ?」

 それならここの捜査をする必要ないんじゃないか? いや、でもダーツバーにいた間の時間になにかあった可能性も考えると……あれ? 別におかしくないのか。

「なに変な顔してんだ? もうこれ以上話すことはねぇぞ」

「うん。ありがとう。二人とも助かったよ」

「力になれたならよかったよ」

「礼は三倍返しな」

「なんでそうなるの!?」

 それからボク達は三人でカジノ場を調べたものの、特に証拠になりそうなものは見つからなかった。どうやらここはハズレだったらしい。

「うーん。証拠になりそうなものはなにも見つからないなぁ」

「そうだね。別の場所にいった方がいいかも……ってあれ? 太刀沼君がいない」

「さっき、飽きたからって出て行ったよ」

 呆れたような顔で出口の方を指差す深海さん。それを見て、ボクは大きくため息を吐いた。

「勝手だなぁもう」

「ふふ。あ、そういえばさっきモノクマ君から聞いたんだけど――」

「モノクマ!?」

 ボクは驚いて大きな声を出すと、深海さんも一瞬驚いたように口を手で覆う。

「ご、ごめん。それで、なにを聞いたの?」

「死体発見アナウンスのことなんだけどね。今回の死体発見アナウンスは犯人は含んでないらしいんだ」

「どういうこと?」

「死体発見アナウンスは、三人以上の人が死体を発見した時に流れる仕組みなんだけど、その発見者の中に、犯人がいるかどうかは決まっていないんだって」

「そういうことか。でもどうして急に? そんなことをモノクマに聞いたの?」

「私は少し遅れて現場に来たからね。第一発見者は紫中君だって云うし、ちょっとね」

 そういうと深海さんは居心地が悪そうに目を泳がした。

 なにか紫中君に思うところがあるのかもしれない。その瞬間、ボクの脳裏にあの言葉が浮かぶ。

 

 ――僕は裏方だからね

 

「考え過ぎかなとは思うんだけど。なんだか生田君、紫中君に対して当たりが厳しい気がしたから。二人の間になにかあるんじゃないかって。都築君はどう思う?」

「え? あ、ああそうだね。まだなんとも云えないかな。決めつけるのもよくないし」

「そうだよね。うん。少しすっきりしたよ」

 パンッ! と気合いを入れるかのように強く叩くと、深海さんは大きく背筋を伸ばす。

「ん~、よし! 都築君はどこの捜査に行く?」

「そうだなぁ……」

 さてどうしようかな。とりあえず玉村さん以外からは話を聞いたけど、ここは彼女を探しに行った方がいいよな。でも、どこにいるかもわからないのに探すのも時間が勿体無いような気もするし……あ、そういえばまだ生田君の客室を調べてなかったな。

「玉村さんを探しながら生田君の客室を調べてみるよ」

「そっか。それじゃあ私はこの階をもう少し調べてみるよ」

「うん。お願いするよ」

 

 獲得コトダマ

・深海紅葉の証言

・太刀沼幸雄の証言

・遺体発見アナウンス

 

 

 あれから様々な場所を探してみるも、すれ違ってしまっているのか、玉村さんを見つけることは出来なかった。

 玉村さんは後回しにして、捜査を進めようと決断したボクが生田君の客室に向かうと、生田君の客室のドアノブに触れようとしている紫中君の姿があった。

「やあ、聞き込みの方はどう?」

「玉村さん以外は全員聞けたよ。どこを探してもいないから、先に捜査の方を進めようかと思って」

「ふーん。まあ、彼女一人なら、裁判の前で話は聞けるかな。それじゃあ都築君。ひとりひとり教えて」

 ボクは云われるまま、今まで聞いて回った情報をひとつひとつ正確に告げると、紫中君は顎に指を添えて思案する。集めた情報を整理しているのだろう。

「うん。だいたい整理できたよ。ありがとう」

「それならよかった。そうだ紫中君、さっき生田君の遺体の下からこんなものが見つかったんだけど」

 ボクがポケットから動機の紙を取り出すと、紫中君は驚いたように眠そうな目を丸くした。それを見たボクも同じように目を丸くする。

「こんなものがあったのか。僕とした事が、うっかりしていた」

 動機の紙を見つめながら新米の住職がお経を読むように呟く紫中君。

 ボクは話を変えるべく、脳裏を過った言葉をそのまま吐き出した。

「そ、そっちの捜査はどう? なにか進展はあった?」

「ああ、睡眠薬がなくなっていたね。医療室の」

 紫中君が強調するように云うと、ボクはモノクマファイルに書かれていたことを思い出した。

「あれ? でも薬物の接種はないって」

「うん。だから生田君の客室に来たんだ」

 そう云うとボクに紙を渡し、ドアノブを捻って客室の中に入る紫中君。ボクも頭に疑問符を浮かべながら続く。

「ねえ紫中君。それってどういう……あれ? なんだか、甘い匂いがする?」

「そうだね。アロマオイルかな」

 ボクが普段使っているのと大して変わらない客室は、皺のついたシーツや飲みかけのペットボトルなど生活の色が残っていて、今朝も使用していたことが窺えた。

「アロマオイル……」

「どうかした? もしかしてこの匂いがなにか……ふぁあ~」

 紫中君の鋭い視線が突き刺さり、ボクは大きく口を開けたまま固まってしまった。

緊張した空気を解すようにゆっくりと口を閉じると、ボクはひとまず謝罪の言葉を口にする。

「ごめん。こんな状況で欠伸なんて不謹慎だよね。でもなんか、妙に意識が」

「お手柄」

「え? なにが?」

 ボクが尋ねるも返事はせず、突然客室を見回すと、紫中君はベッドの横に置かれた瓶のような小さな物を手に取った。

「その瓶? が、どうかしたの?」

「これ、客室と同じ甘い匂いがする。この中に、オイルが入っているんだ。睡眠薬入りの、オイルがね」

「え!? この中に!?」

 ボクは紫中君が親指と人差し指でつまんでいる小さな瓶をまじまじと見た。

 近くで見ると、確かにほんのりと甘い匂いがするような気もする。

「都築君が感じた眠気は、この匂いを嗅いだからだね。」

「あ! 生田君の客室に来たのって、生田君が別の誰かに睡眠薬を使った可能性があるからって、そういうこと?」

「うん。でもおかしいな。医療室からなくなっていたのは、そこまで強い薬じゃなかったし、匂いも微かにする程度だから、そんなに効くはずがないんだけど」

 確かに。ボクがしたのに、あの紫中君が欠伸一つしていないなんておかしい。これはまだなにかあるな。

「都築君。他にこの匂いを嗅いだことはない?」

「え? アロマオイルなんて使ったことないし、ましてや睡眠薬なんて……あ、待って。確か一人、似たような匂いの人がいたぞ」

「それは、誰?」

「玉村さんだよ。実は一度会ってるんだけど、話を聞こうとした時、その……いろいろあって」

「いろいろ?」

「と、とにかく! その時玉村さんから似たような匂いがしたんだよ!」

 転んだ拍子に腰に抱きついてしまったなんて云えないよ……。

「とりあえず追及はしないでおくよ」

「た、助かるよ」

「他にも、大事なものが見つかるかもしれない。もう少しこの客室を調べてみよう」

「そうだね! あ、このメモスタンド使った形跡があるよ。破いたような跡がある」

「結構薄そうだね……都築君、この鉛筆を使ってそのメモを軽く擦ってみてもらえる?」

「相変わらず四次元なポケットだね。まあそれなら知ってるよ。よくドラマとかでやってる奴だよね」

 鉛筆を受け取ると、ドラマの主人公になったつもりで颯爽と鉛筆を走らせる。

 この紙の下には真実が潜んでいる。そんな気がする! ボクの感はそれなりに当たるんだ。きっとなにか現れるはずだ……!

 白い紙が黒い線によって徐々に染まって行き、ボクはどんな言葉が浮かんでくるのかと息を飲んだ……が、そんなボクの思いとは裏腹に、そこには一文字も浮かんでくることはなかった。

「杞憂だったみたいだね。捜査を進めよう」

 紫中君は鉛筆をボクから取り上げると、慰めの言葉もかけずに客室の捜査を続行した。

 これがドラマだったらきっとチャンネルを変えられているんだろうな……。

「これは……」

「ん? なにか見つけた?」

「……いや、気のせいだったみたい。それより、これを見て」

 ボクは紫中君が開けたドレッサーの引き出しを覗くようにして見ると、そこにはビーカーや試験管といった理科室にあるような実験器具が仕舞われていた。

「なんでこんなところに?」

「これで、睡眠薬をアロマオイルに加えたんじゃないかな? 超高校級の生物学者の生田君なら、出来ないことじゃないよ」

「そりゃあそうだろうけど」

 だからって客室にこんなもの……そもそも、どうして生田君は玉村さんを?

「こんなところかな。僕は一通り捜査は終わらせたから、推理をまとめてみるよ」

「わかった。ボクは、もう少し捜査を進めて見るよ」

 二人で客室を後にすると、ボクは紫中君と別れてエスカレーターへと向かう。

さてと、捜査を続けるとは云ったけどどこを調べようかな。五階は大体調べたし、玉村さんを探すか? ……いや、まだ捜査していないところが一つあった。

 

 獲得コトダマ

・睡眠薬

・生田の客室

・アロマオイル

・メモスタンド

・実験器具

 

 

 ボクがエレベーターを使って捜査に来たのは2階のレストランだった。

 あまり事件と関係あるとは思えないけれど、生田君が一番利用していたであろうこの場所なら、何か手掛かりになるものがあるかもしれないという推測だ。

「また空振りにならないといいけど……お邪魔しまーす」

 誰がいるわけでもないけれど、やはり慣れない場所というのは緊張する。

 久々に入った厨房は何度も爆発しているとは思えないくらい綺麗で、以前とまったく変わった様子はなかった。

「ムカつくけど、モノクマって無駄に良い仕事するよな。あ、そういえば水道は直ったのかな? お昼ご飯は普通に出てたけど」

『直ってるよ!』

「うわっ! だから突然現れるなよ!」

『褒めたり蔑んだり忙しい奴だなぁ都築クンは。情緒不安定なのかな? それなら誰か殺っちゃえば? すっきりするよ~!』

 何食わぬ顔で恐ろしい事を云ってのけるモノクマに肝を冷やす。

 い、いけない。こいつのペースに巻き込まれたら捜査の時間が無くなってしまう。

「それより、水道はいつ直ったんだよ」

『お昼の前には直しておいたよ。ホラ、ボクってクマ界でも良い仕事するクマだからさ。これくらい余裕なわけだよ』

「もともとはお前の不備が原因だったんじゃないか」

 我ながら的確なツッコミを入れると、痛いところを突かれたせいか、モノクマは沸騰したヤカンのように怒りを露わにした。

『うるさーい! せっかく直してやったのにグチグチ云いやがって! もうこれで捜査時間は終わり! はいはい、さっさと裁判上に行ってね~』

「はあ!? なんだよそれ! そんなのずるいぞ!」

『ズルくなんかないやい! バーカバーカ! 遅刻したらオシオキだからな!』

 い、いったいいくつだよあいつ。いや、ぬいぐるみに年齢なんかあるかわからないけどさ。それより大変だ。まだ玉村さんから話を聞いてないし、厨房の捜査も終わってないぞ……。

 

 獲得コトダマ

・モノクマの証言

 

 

 学級裁判場に向かう足は、何時間も山を登ったかのように重い。

 結局あの後モノクマアナウンスが流れ、強制的に捜査を打ち切られてしまった。玉村さんには会えないし、あまり良い捜査とはいえないだろう。

「はぁ」

「大丈夫? 顔色悪いよ……って、当たり前か。これから学級裁判だもんね」

 いつの間にかボクの隣にいた深海さん。まったく気付かなかったなんて、よっぽど思いつめていたのか。

「いや、それもあるんだけど。それだけじゃないというか……」

 歯切れの悪いボクを見て、深海さんは困ったように首を傾げてしまった。

 いけない。これじゃあせっかく心配して声をかけてくれた深海さんに余計な心配をさせてしまう。

「なんでもないよ。ちょっと緊張してるだけ」

「ならいいんだけど。やっぱり慣れないよね」

「うん。あのエレベーターで地下に降りて行く度、生きた心地がしないよ」

「誰だってそうだよ」

 そう微笑みながら云う深海さんの姿は、まるで太陽のようにボクの曇った心を晴らしていった。

「ありがとう深海さん。なんだか元気出てきたよ」

「良かった。じゃあ、一緒にいこうか」

 真剣な面持ちでボクの前に出る深海さんの姿は、先ほどまでとは違い、まるで戦いに挑む戦士の様にも見える。

「うん。一緒に犯人を見つけよう」

 ボクは深海さんと足並みを揃えてエレベーターに乗り込んだ。

 ゆっくりと地下に進むエレベーターの中で会話はなかったものの、心の中では通じ合っている、そんな気がした。

 そして、自動ドアが聴きなれた鈍い音を響かせながら開くと、ボク達はそこに広がる戦場へと踏み出した。

 

 学級裁判開廷!!

 

 

 

 コトダマ一覧

 

・モノクマファイル4

 被害者は超高校級の生物学者、生田厘駕。

 死因は照明器具による圧死

 死亡時刻は14時04分

 薬物の接種はなく、死因以外の外傷は無い。着衣に乱れは無い。即死。

 

・散らばった照明器具

 舞台上に散らばっていた照明器具。

 破損が酷く、修理をしても使い物にはならない。

 

・キャットウォーク

 主に裏方が移動する為の細い通路。

 下が覗けるような作りになっていて、ホールや観客席からは見えない。

 複数の箇所でなにか取り外されたような形跡がある。

 

・紫中舞也の証言

 昼食後、15時まで眠っていたらしい。

 目を覚ましてから散策中、ショーホールに立ち寄ったところ生田厘駕の遺体を発見した。

 生田の遺体を発見したのは15時30分頃だという。

 

・非常口

 ショーホールの裏口に続く非常口。

 

・花子・アンドロメダの証言

 昼食後、寄り道せずにダーツバーに向かった。

 ダーツバーでは都築、太刀沼と行動を共にしている。

 

・夢見縛の証言

 昼食後、遺体を見つけた紫中に呼ばれるまで二時間ほどカードルームでタロット占いをしていた。

 

・動機の紙

 生田の遺体の下に敷かれていた動機の紙。

 紙面には『おまえはなかまをうらぎった』と書かれている。

 犯人が落としたものと思われる。

 

・タロットカード

 カードルームに落ちていたタロットカード。

 薄紫色で花柄模様が描かれている。

 

・深海紅葉の証言

 昼食後、甲板で海を眺めた後、14時からレストランで休息をとっていたところ、モノクマアナウンスが聞こえたので船内を移動した。生田の遺体を見つけたのは都築達より少し早い程度。

 レストランには自分以外誰もいなかったらしい。

 

・太刀沼幸雄の証言

 昼食後、カジノ場でスロットを打ってからダーツバーに向かった。

 ダーツバーでは都築、花子と行動を共にしている。

 

・遺体発見アナウンス

 遺体発見アナウンスは、三人以上の人間が遺体を見つける事で鳴る仕組みになっているが、今回の事件ではその三人の中に犯人の有無はない。

 深海紅葉が、捜査時間中にモノクマに聞いたことで明らかになった。

 

・生田の客室

 ベッドのシーツは皺がついていて、飲みかけのペッドボトル等が置かれている。

 仄かに甘い匂いがする。

 

・睡眠薬

 医療室の薬品棚から睡眠薬が持ち出されていた。

 発見した紫中が云うには、それほど強いものではないらしい。

 

・アロマオイル

 生田の客室のベッドに置かれていた。

 小さな瓶のような物の中に入っていて、睡眠薬が混合されている。

 

・メモスタンド

 使用されている形跡があるが、なにに使われたかは不明。

 

・実験器具

 理科室に置かれているような実験道具。

 生田の客室の引き出しに仕舞われていて、睡眠薬を混合する際に使われたと思われる。

 

・モノクマの証言

 朝方に故障した水道の修理は午前中のうちに終わっているらしい。

 


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