ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~   作:tonito

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・・諸注意・・
 
この作品は、現在発売されておりますPSP及びPS vita用ゲーム、ダンガンロンパシリーズの非公式二次創作となっております。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。

『ダンガンロンパ』『スーパーダンガンロンパ2』等シリーズのネタバレが含まれております。

 モノクマを除き登場するキャラはオリジナルキャラとなっておりますが、他の作品と肩書き等が被ってしまっている可能性があります。人によっては気分を害してしまう恐れがありますが予めご了承ください。

 流血や殺人等、グロテスクな描写を含みます。苦手な方はご注意ください



チャプター4 非日常編 ③ オシオキ編

 

「モノクマくん。投票タイム、始めて」

 深海さんの透き通るような声でボクは我に帰る。

 小さな声だけど、呼吸の音も聴こえない程に静まりかえる裁判場では十分だった。

 いま、ボクはなんてことを……。クソッ! この陰鬱とした雰囲気にやられたか。

『ほいほい。う~ん、今回はあんまり盛り上がらなかったなぁ。動機が弱かったのかな? うぷぷぷ』

 いつもの如く、絶望に染まるボク達の顔を見ながら厭らしく笑うモノクマ。

 が、誰も反応をしないのを見ると、つまらなそうに自分の席に戻り木槌を構える。

『では皆さん、いつものごとくポチっと押しちゃってくださいな! あ、前回みたいに自分に入れたりしたらその人もオシオキだからね。ちゃんと選んでよ~?』

「う、うぅ……ひっぐ」

 玉村さんが投票ボタンを見つめながら大粒の涙を流していると、深海さんは彼女の元に行き、不安を和らげるように優しく抱きしめた。

「ごめんね晴香ちゃん。私のこと、許してくれなくていいよ」

「紅葉ちゃん。そんなの、ずるい……ずるいよぉ」

 玉村さんがボタンを押すのを確認すると、今度は投票ボタンを睨みつけている太刀沼君の元へ行く。

「太刀沼君。あんまり女の子に変なこと云っちゃダメだよ?」

「チッ、うっせぇ」

 次に、花子さんの元へ。

「花子ちゃん。元に戻って本当によかったよ。この前は気が利かなくてごめんね」

「わたしも、ソーリーデス。もうエスケープ、しないデス」

 次に、夢見さんの元へ。

「縛ちゃん。マイペースなのも良いけど、もう少し周りも見てあげようね」

「……善処するわ」

 次に、紫中君の元へ。

「紫中君も、利用してごめんね」

「……」

 そして、最後にボクの元へ。

「都築君。さっきはキツイ云い方してごめんね。優しいお姉さんでいたかったけど、無理だった」

「深海さん」

「やだなぁ。そんな子犬みたいな顔で見ないで? でも……やっぱり、怖いな。手、こんなに震えてる」

 震える手を押さえながら、ボクを見つめる深海さん。

 そこにどういった感情があったのか、ボクにはわからない。

「もっと、いっぱいお話したかったな。妹達の事とか。楓も杏も、とっても可愛いから都築君に紹介したかった」

 瞬間、ボクの脳裏に、あの子の顔が映写機で映された映画のようにパラパラと浮かぶ。

「そうそう。前にもらった薔薇のプレゼント、すごく嬉しかった。お花もらったのなんて初めてだったし。ちょっと、ドキっとしちゃったんだよ?」

 ああ、何故今思い出してしまったのだろう。忘れようとしていたのに、なかったことにしようとしたのに。こんな感情、もう懲り懲りなのに。

 そう思えば思う程、より鮮明になってボクの脳を支配する。

「都築君は、私みたいになっちゃダメ。なにがあっても、ずっとそのままの君でいて」

そんな目で見ないで。

(都築さん――)

見るな……ボクは、そんな人間じゃない。

「みんながいれば、きっと大丈夫」

(わたし――)

やめてくれ

(都築さんの――)

それ以上

(こと――)

俺に……やめ――

「大好きだよ」

 

 

 

 GAME OVER

 フカミさんがクロにきまりました。おしおきをかいしします。

 

『スプラッタスプラッシュ』

 

 鉄の香りが鼻孔をくすぐる。

 首に付けられた鎖の香りなのか、それとも血の香りなのかはわからない。

 わかるのは、引きずられてお気に入りのパーカーもスカートも裂けてボロボロになっているということだけだ。

 全身に負った生傷に砂利や埃が混じって、焼けるような痛みが痺れに代わり、全身に力が入らない。

「いや……助けて……誰か、たs――」

 悲鳴を上げようとした瞬間、私はどこかへ落とされた。

 全身に重力が襲い、呼吸もままならない。この体の芯を縛るような、でもどこか心地の良い場所は……水? 私は水の中に落とされた?

 私は水中で体制を立て直してすぐに耳抜きをする。

 水中だとわかった瞬間、考えるより先に体が動いて自分でも驚くほど冷静になる事が出来た。生傷が滲みる。まだ生きている。けどそんな事は二の次だ。果たしてここから出る事が出来るのだろうか。

(出してもらえるわけがないよね。モノクマ君がこのままで終わらせるわけがないもん)

 どちらにしろ、このままずっと水の中にいては同じ事だ。その気になれば普通の人よりは長く潜っていられるだろうけれど、さすがに丸一日も潜っていられない。

(もしかして溺死? でも、それだとハミちゃんの時と……あれ?)

 誰かに髪を引っ張られているかのような感覚が襲う。

 私は急いで体を回転させて背後を向くと、そこには誰もいなかった。もちろんモノクマくんも。

(今のはなに? いったいなに、が)

 今度は背中から押されるような感覚が襲う。

 なにかがおかしい。まるでどこかへ連れて行かれるかのようだ。

(嫌な予感がする。とにかく、どこかへ行かないと……!)

 どこかとはどこだという疑問が過った瞬間、嫌な予感は激しい水流となって明確に私をどこかへ連れて行こうとする。

(ヒうッ!?)

驚いた勢いで貴重な酸素を漏らしそうになるのを必死で抑える。

 私の目前には、銀色に輝くスクリューが手招きするように華麗な螺旋を描いていた。

 このまま水の流れに体を預けていたら、私はあそこに巻き込まれて文字通り撒き餌となってしまう。

(逃げなきゃ)

 私は必死に水の流れに逆らいながら突き進む。

 今さっきまで安らげると思っていた空間は、一瞬にして真っ暗で不安な空間へと変わる。

 人の意識とはこうもあっさり変わるものなのか。とにかく、一秒でも早く、水の中から出たくてたまらない。二度と水なんて見たくない。外に出たい。空気を吸いたい。日の光を浴びたい。たとえ灰になったとしても。服は邪魔だ。脱いでしまえ。少しでも身軽になるんだ。

 けれど、全裸になったところで結果は変わらない。

 私はシンクロ選手であって水泳選手ではない。競うのはスピードではなく演技の美しさだ。見せるのではなく、魅せるのが本職だ。そんな私が服を脱いだだけでなにかが変わるわけがない。なにが月下の人魚姫だ。

 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 まるで走馬灯のように生田君の亡骸が記憶から蘇る。

 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 蘇った亡骸が私の首を絞める。

 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 まるで10匹のナメクジが首筋を這っているようだ。

 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 私を見る虚ろな眼球が熟れた果実のように落ちる。

 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 腹部から飛び出した肋骨が私の腹部を深く抉る。

 苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 私はそれを、再び殺した。

 これで苦しくない。

 苦しくないはずなのに、まだ苦しい。

 なんで、苦しんだっけ? ああ、息を止めているからだ。

 私は息を止めるのをやめた。

 水に抵抗するのをやめた。

 考えるのをやめた。

 ゆっくりと、体が後ろに引っ張られていく。

 目を閉じているのに、目の前が眩しい。

 ああ、懐かしい。皆いる。私が裏切ってしまった、皆。

 笑ってる。皆、笑ってるよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで、やっと――

 

**************************

 

 深海さんが死んだ。きっと死んだのだろう。見ていなかったからよくわからない。見ていなかったというより、あの瞬間から今までの記憶が一切ない。

 気付いたら、なにか撒きながら釣りに勤しむモノクマの姿が巨大なモニターに映っているだけだったのだから仕方ない。

 何も云えずに立ち尽くす人や、床に吐瀉物を撒き散らしている人、自分の無力さに壁を叩きつけている人。いろんな人がいる。

 ボクはどうだろう。いま、どんな顔をしているのだろうか。

 どうでもいい。まだ夕方だけど、とりあえず客室に戻ろう。

 裁判を終えた後の疲労感には本当に慣れない。

 いったい、あと何回こんなことをすればいいのだろう。

 モノクマがなにやら歓喜の声を上げている。オシオキタイムが終わったのだろう。

 そういえば、あの瞬間ていつからだっけ?

 まあ、どうでもいいや。

 

 

 夜も更け、普段なら各々眠りについているであろう静寂の時間。

 左右の間隔もわからなくなる程の真っ暗な空間で、二つの影が蠢いていた。

 外は夜空の星々と波の音だけが景色を色づけているが、この空間にそんなものは一匙も入ってこない。

 それ故に、片方の白黒の影だけが異様に存在感を放っていた。

 

『もう。いきなり呼び出してなんか用? ボクも忙しいんだけどなぁ』

 

「これ、どういうつもり?」

 

『あれ? そんなものどこで見つけたの?』

 

「生田君の客室を、捜査している時に見つけた。困るんだけど」

 

『そう云われてもねぇ。それを見つけたのは生田自身だし』

 

 面倒くさそうにお腹を掻きながら答える白黒の影

 無色の影は表情一つ変えずに淡々と話を続ける。

 

「鍵の閉まった客室を開けたのは君だろ。生田君が鍵を無理矢理開けたら、それは船内ルールに反することだ。わざと生田君に見つけさせたんだろ?」

 

『真夜中に一人で嗅ぎまわっていたみたいだからねぇ。余計な仕事を増やされても困るし、ちょっと情報を公開すれば満足するかなぁって思ったんだよ。今後の展開に彼の才能は邪魔だったし、これをきっかけに事件に発展したら儲けもんかな~くらいな気持ちでね』

 

「もし、都築君が見つけていたら、どうするつもりだった」

 

『そん時はそん時~みたいな? あの性格だから生田クンはもっと早くに退場すると思ったんだけど、意外にしぶとく生きていた~みたいな?』

 

「その喋り方、やめろ」

 

『ごめんごめん。つい誰かサンの口癖が移っちゃった~みたいな? うぷぷぷ』

 

「……」

 

『おやぁ? そんな怖い顔久しぶりに見たよ。でもボクは結構好きだよ。君のその、グチャグチャに歪んだ顔! あ、なにがグチャグチャに歪んでいるかって云うと』

 

「とにかく、次はこういうミスはやめてほしい」

 

『あ~ハイハイ。わかってるって。耳にフジツボが出来ちゃうよォ』

 

「なにを焦っているか知らないけど、これ以上ミスをするなら――」

 

『口には気をつけな。ボクがその気になればオマエなんていつでも殺れるんだからね?』

 

「乗客に手を出すのは、反則なんじゃない?」

 

『ご迷惑なお客様には船を降りてもらう権利も船長は持っているのです』

 

 無色の影から紅が垂れる。

 白黒の影は、自らの爪についたそれを振り払い三日月のような瞳を怪しく光らせる。

 

「今日は帰るよ。まだ死ぬわけには、いかないからね」

 

『うぷぷ。モノわかりの良い犬は好きだよ。ああ、今のは忠告だと思ってくれていいからね。超高校級の裏方……いや? 元、超高校級の裏方、かな?』

 

「僕は、ただの裏方だよ」

 

 

 

 

 

 ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~

 

 

 Chapter4

 

 modern revenge cowboy  end

 

 残り乗客数 6人

 

 

 

 

 

 

 

『赤い薔薇』を手に入れた。

 

 試験管の中に入っていた一輪の薔薇。

 その美しさは試験管の外に出していても衰えない。

 とても大切にされていた事が窺える。

 


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