ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~   作:tonito

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・・諸注意・・
 
この作品は、現在発売されておりますPSP及びPS vita用ゲーム、ダンガンロンパシリーズの非公式二次創作となっております。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。

『ダンガンロンパ』『スーパーダンガンロンパ2』等シリーズのネタバレが含まれております。

 モノクマを除き登場するキャラはオリジナルキャラとなっておりますが、他の作品と肩書き等が被ってしまっている可能性があります。人によっては気分を害してしまう恐れがありますが予めご了承ください。

 流血や殺人等、グロテスクな描写を含みます。苦手な方はご注意ください





チャプター5 非日常編 ② 学級裁判編

 

『さてと、みんな揃ったみたいだしさっさと始めちゃおっか! 時は金なりって云うしね。あ、実はここだけの話なんだけどスイカの種って軽く炒ると美味しいらしいよ。最近動画で観たんだけど通の人は――』

「云った側からムダ話!?」

「しかも対して役に立たなさそうね」

 こっちの気も知らずに空気の読めないことをするモノクマ。

 これが緊張を解く為ならばありがたいけれど、こいつの場合は悪意しかない。神経がピリピリしているだけに余計腹が立つ。

「まずは、モノクマファイルの確認、からでいいよね」

『うわぁ。スルーとか下から二番目くらいに堪える』

 紫中君に空気のように扱われたモノクマはつまらなそうに頬杖をつく。

この冷静さは本当に感心する。これがボクに向けられたら……余計なことを考えるのは無しだ。まだ始まってもいないのにこれじゃあ先が思いやられるぞ。

「都築君。先、進めてもいい」

「あ、ちょっと待って」

 ボクが慌てて電子生徒手帳を取り出すと、紫中君は眉ひとつ動かさずにモノクマファイルを読み上げる。

「被害者は、超高校級のトランペット奏者、都築尊。全身が焼け焦げた状態で、プールに浮いていた」

「おい都築。テメェ本当にこいつのこと知らねぇのか」

「だからそう云ってるじゃないか」

 未だしつこく聞いてくる太刀沼君に、電子生徒手帳を握るボクの手には力が入った。

「いまは、じけんのはなし、すすめるほうがいいデス」

「フフフ、そうね。まずは目の前の謎を解き明かさないとね」

「チッ、ンなことわかってんだよ」

 女子二人に窘められて調子が狂うかのように頭を掻く太刀沼君。

 ボクはそんな彼を一瞥すると心の中で頭を下げた。

「もういいかな。まずはなにから話そうか」

「いつも通りなら凶器の話しだけど」

「じゃあ、そうしよう」

 セオリー通り、まずは凶器についての話だ。

 致命傷もわからないくらいに損傷が激しいから、みんなの話をよく聞かないとな。

 

 

 

 議論開始!

 

 紫中舞也

「被害者、都築尊を殺した凶器はなんなのか」

 

 太刀沼幸雄

「あれだけ真っ黒に焦げてンだから炎だろ。西尾の時みたいに焼かれたんだ」

 

 玉村晴香

「圭太くん……」

 

 花子・アンドロメダ

「たまむらサン、だいじょぶデス?」

 

 玉村晴香

「ご、ごめん。大丈夫だよ」

 

 夢見縛

「今度こそプラーミャの力よ! やはりこの船にはプラーミャが潜んでいるのよ!」

 

 太刀沼幸雄

「まあ、まったく知らねぇ野郎が死体で現れるくらいだからな。殺人鬼もいるかもな」

 

 玉村晴香

「いたら困るよ!?」

 

 花子・アンドロメダ

「そのネーム、ひさびさにきいたデス」

 

 夢見縛

「プラーミャの正義の炎が彼の邪な心を焼き払ったのよ! 少しウェルダンが過ぎるようだけれど。被害者は蒼き炎で焼き尽くされたのよ!!」

 <それは違う!>

 

 

 

「夢見さん。被害者は焼かれたわけじゃないと思うよ」

「焼かれていないのならこの遺体の惨状はどう説明するというの?」

「爆弾だよ」

 ボクの発言に裁判上がどよめく中、最初に発言をしたのは太刀沼君だった。

「バカなこと云ってんじゃねぇよ。爆弾だぁ? ンなもんどこにあるってんだよ!」

「どこにあるかはわからない」

「テメェ……ふざけてんじゃねぇぞ!?」

「ラストまでイヤー、かたむけるデス」

「テメェもいちいち注意すんじゃねぇ!」

「テーブルガンガンすんなデス! うっせーデス!」

 再び窘められたことが気に入らないのか激しく証言台を蹴る太刀沼君に対して、同じように証言台を蹴って対抗する花子さん。

 このままじゃ別の意味で裁判場が荒れそうだ。話を戻さないと。

「ば、爆弾の場所はわからないけど! 玉村さんの証言から爆発があったことは導き出せるよ!」

「あ、そうだった! ぼく、どっかで花火が上がったような音が聞こえたんだ! それが爆発の音だったんじゃないかなってことだよね?」

「そういうこと。まだ玉村さんは脱衣所から出てそんなに離れた場所にはいなかったみたいだし、偶然聞こえたんじゃないかな?」

 <ふざけんじゃねぇぞ!>

 

「プールで爆発? バカ云うんじゃねぇよ! なんで水の近くで爆発なんか起きるんだよ! テメェの云っていることはめちゃくちゃなんだよッ!」

 太刀沼君が吠えるように捲し立てる。

 別に今までの流れからというわけじゃない。ボクだっていきなりこんなこと云われたら同じ反応をするだろう。

でも、あれがある限りプールで爆発が起きたことは確かなんだ。

 

『プールで爆発なんかするわけねぇだろ!?』

 

『プールの中に爆弾があったってのか? わざわざそこに飛び込んだってのか! ああ!?』

 

『俺様達はプールで遊んでいたがそんなもんどこにもなかった! まさか突然現れたなんて云うんじゃねぇだろうなぁ!?』

 

「突然現れたわけでもないし、もちろん地雷なんてものもないよ。それは捜査したから間違いないよ」

 

『ならどうして被害者がプールに浮いてんだよ。どうやって犯人は爆発させたんだ!?』

 

『体に巻いたとか云ったらぶん殴ンぞ!?』

 

『俺様の云う事は間違っちゃいねぇ。爆弾なんて最初からねぇんだよ!』

 <その言葉、断ち斬らせてもらうよ!>

 

 

 

「爆弾も爆発もあった。その証拠はちゃんとあるんだよ太刀沼君」

「ならそれを出してみろ!」

 云われるまま、ボクは捜査中に調べたことを電子生徒手帳を通して説明する。

「これはプールの上に浮いていた塵だよ。これは爆発した後に周囲に舞ったものに違いない。他にもブロックの欠片のようなものもあったし、被害者はプールで爆発して亡くなった。それは確かだよ」

「ダストにしてはビック、おもってたデス。なっとくーデス」

「フフフ、ならプラーミャの犯行ではないわね。プラーミャなら灰の一つも残さないもの」

「プールで爆発があった事はわかったよ。納得してやるよ。だがなぁ! 俺様はテメェが犯人じゃねぇとはまだ決めねぇ。答えが出るまで疑うからな!」

 宣言を主張するように人差し指を突き出す太刀沼君。

 今はこれでいい。これからボクが無実だってことを証明すればいいだけなんだから。

「誰が犯人かわからないし、それを暴く為の裁判なんだから、皆を疑うのは、当たり前の事なんだけどね」

 そう、それこそが学級裁判なんだ。気を引き締めて議論を進めよう。

 

 

 

 議論開始!

 

 花子・アンドロメダ

「では、ボムのしょーたい、なんデス?」

 

 玉村晴香

「そんなのわからないよぉ」

 

 夢見縛

「爆弾を出したのではないかしら? ほら、凶器が出てくる自動販売機があったじゃない」

 

 花子・アンドロメダ

「そんなボンボンでてくるデス?」

 

 太刀沼幸雄

「爆弾だけにか? くだらねぇ」

 

 玉村晴香

「おまけでたくさんもらえたのかも! 自動販売機だし!」

 

 夢見縛

「フフフ、何個も爆弾を当てるなんて余程の幸運の持ち主じゃなければ無理ね」

 

 太刀沼幸雄

「俺様は見るな。やってねぇっての。それに、あの自動販売機は使えねぇしな」

 

 玉村晴香

「どういうこと?」

 

 太刀沼幸雄

「朝起きた後、レストランに向かわねぇで一階の自販機でパンを買おうと思ったんだよ。次も上手く出来る保証もなかったからな」

 

 玉村晴香

「酷い! ぼくが朝ごはんを作ってるのにパンを食べるなんて!?」

 

 太刀沼幸雄

「だから買えなかったって云ってるだろ!?」

 

 夢見縛

「全てのメダルを使って自動販売機の武器を買い占めたという可能性はないかしら」

 

 紫中舞也

「それはどうかな。武器は爆弾だけじゃないし、大きさも種類も、違うものを、事件が起きるまで隠しておくのは、難しいよ」

 

 夢見縛

「フフフ、ではやはり魔術ね。犯人は火の魔術によって爆発を起こしたのよ!」

 < それは違う! >

 

 

 

「魔術じゃないよ。犯人はきっと塩素剤を使ったんだ」

「塩素……犯人は科学サイドの人間のようね。ワタシはもちろん魔術サイドが好きよ」

「とあるはなしはおいとくデス」

 花子さんが物を退けるような仕草をしながらツッコミを入れていると、頭に疑問符を浮かべた玉村さんが弱弱しい声で尋ねる。

「えっとー、塩素ってなに?」

「簡単に説明すると、漂白剤とかに入っている元素のことだね。一つ一つは無害だけど、いくつもの種類を混ぜると、有毒なガスが発生したり、爆発したりするんだ」

「そう。プールには消毒用の塩素剤がたくさんあったから、犯人はそれらをプールに混ぜて爆発を起こしたんだ。夢見さんが感じた異臭はその時に発生したガスなんじゃないかな?」

「混ぜるな危険って奴だな。こんなこともわからねぇとか、本当に胸にしか栄養が行ってねぇンだな! ゲハハハ!」

「セクシャルなハラスメントだよ!?」

 玉村さんが証言台を叩いて激しく抗議する。

「とはいえ、塩素爆発で、あんな焼け方するはずがないよね。直接の死因は別のものだよ。そうなると、爆発で遺体が焼けたわけじゃないと思うんだけど……どうかな」

 まるで失敗した子供を質すかのように指摘する紫中君。

 確かに塩素剤の爆発ならあんなに焼けるわけがないか。ボクとしたことがこんな間違えをするなんて……。

「そうだね。ボクが間違えていたよ。ごめん」

「フフフ、そうなると犯人は、あらかじめ遺体を用意していたということになるわね」

「うん。問題はどこに用意しておいたかだけど、都築君にはわかるよね」

「はえ?」

「航くんすごい! 捜査中にちゃんと見つけてたんだ!」

「なんだよ。ならさっさと云えよ都築」

「ちょ、ちょっと待って! 急にそんな……!」

「ごめん。僕の聞き方が悪かったね。で、どこなの?」

 いきなり話を振られて変な雰囲気になってしまった。

 紫中君はなにを考えているんだ? これじゃあまるでボクを焦らせるかのような……と、とにかく遺体がありそうな場所……あ、そういえば怪しい場所がひとつあったぞ。

「遺体は掃除用具室の中にあったんじゃないかな。あそこなら人一人隠しておく事は出来るよ」

「でも、そんなところじゃ誰かが先に見つけちゃわない?」

「関係者以外立ち入り禁止の看板があるから、わざわざ入ろうとする人もいないと思ったんじゃないかな?」

「そんなもんか?」

「けれど、犯人はいつ掃除用具室から遺体を取り出したというの? ワタシ達が爆発や異臭で遺体を見つけたのはプールから出てそんなに時間は経っていないのよ?」

 悔しいけど夢見さんの云う通りだ。

 本当に掃除用具室に遺体を隠していたとして、人一人を運び出してプールに塩素剤を仕込むなんてこと、誰にもバレずに出来るのか?

 

 

 

 議論開始!

 

 夢見縛

「掃除用具室に遺体があったとして、犯人はどうやって運び出したのかしら」

 

 玉村晴香

「……おんぶ?」

 

 紫中舞也

「遺体を背負うのは難しいよ。あれだけ損傷していたら、ちょっとした拍子に焼け腐った皮膚がこぼれてしまう」

 

 花子・アンドロメダ

「グロいデス」

 

 玉村晴香

「先に遺体を眠らせてプールに運んでから燃やしたのかも! あの自販機なら睡眠薬入りの銃とかあるんじゃない?」

 

 夢見縛

「フフフ、玉村さんは世界中のネクロマンサーを敵に回すつもりなのかしら」

 

 紫中舞也

「漫画の読みすぎ」

 

 太刀沼幸雄

「遺体が起きてるも寝てるもねぇだろ」

 

 玉村晴香

「言葉の納屋だよ! そんなに云わなくてもいいじゃん!」

 

 花子・アンドロメダ

「あやデス。しまっちゃノーデス」

 

 玉村晴香

「うぐぅ!」

 

 太刀沼幸雄

「バカはほっといて話を続けるぞ。リアカーで運んだってのはどうだ」

 

 夢見縛

「そんな場所を取る物、隠しておく方がリスクが高いのではなくて?」

 

 太刀沼幸雄

「なら他になにがあんだよ」

 

 夢見縛

「犯人が水揺の幻術を使えるものならばプールの中に隠すことは出来るわ」

 <それに賛成だよ!>

 

 

 

「どうして気付かなかったんだ! そうだ、犯人はプールの中に遺体を隠していたんだ!」

「そんなわけないでしょう?」

「云い出しっぺが否定すんじゃねぇよ」

 けろっと呟く夢見さんに太刀沼君が珍しく的確なツッコミを入れる。

 唯一戸惑っていた玉村さんだけは、あたふたしているようだけれど。

「え? ど、どういうこと航くん?」

「おそうじアイテムボックスは、ブラフ、ゆーことデス?」

「それはわからない。でも、プールの中なら隠す事は十分に出来る。いや、そこしかないんだよ」

 ボクが発言すると、太刀沼君はわざとらしく大きなため息をついて反論する。

「テメェ人の話聞いてなかったのか? 俺様達はずっとプールで遊んでたって云ってんだろ? もちろんプールの中で泳いだし潜って女のケツを覗いたりもした。だが遺体なんてどこにもなかったぞ?」

「ききずてポイならぬワード、きいたでござるデス」

「突然の時代劇口調!? ていうかお、お尻!? セクシャルなハラスメントだよ!!?」

「その眼球をくり貫いてしまおうかしら」

「いますぐデストロイデス」

 太刀沼君が女子からの集中砲火を受ける中、紫中君は人差し指を立てながら疑問をぶつける。

「で、プールの中の、どこに遺体があったって云うんだい?」

「南側にある深い部分だよ。みんなはプールで遊んでいる時、平坦だったと云ったけど、ボクが捜査中に調べたら南側になるにつれて徐々に深くなっていたんだ」

 初耳だと云わんばかりの顔でみんなが息を飲むと、ボクは追いうちをかけるように話を続ける。

「犯人はその深い部分に重りかなにかを付けた遺体を置いて、板状のなにかを蓋をするように置いた。そして塩素剤による爆発でその板を吹き飛ばしたんだよ」

「つまり、プールにあったダストやブロックは、プレートのざんがい、ゆーことデス?」

「うん。そしてその衝撃で重りが外れた遺体が浮かび上がる事で、まるで突然現れたかのように演出したんだ」

「なるほどな。随分手の込んだことしやがって」

「フフフ、危うく惑わされるところだったわ。もちろんワタシは気付いていたけど」

「だったら先に云ってよぉ」

 玉村さんの責めるような視線から目を反らす夢見さん。

 元はと云えばボクのせいだから、夢見さんを責める事は出来ないんだけど。

「都築君。君の云う通りなら、遺体を隠す事は出来る。でも、その板状の何かって、なにかな?」

「おい紫中、そんなの今はどうでもいいだろ」

「良くはないよ。もしかしたら、重要なヒントが見つかる可能性もあるしね」

「でも、さすがに素材まではわからないよね。あの短い時間じゃそこまで――」

「いや、そうでもないよ」

 ボクの発言に、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする玉村さん。

「少し離れたところに船長室があるんだけど、そこに登る為の階段が全て外されていたんだ。多分犯人は、階段を繋ぎ合わせて蓋にする為の板を作ったんじゃないかな」

「あの長い螺旋階段を繋げればそれなりの物は作れるかもしれないわね。見落としていたわ」

「でも、ちょびっとハードじゃないデス?」

「だな。さすがに俺様もどうかと思うぜ」

 やっぱり少し無理があったか? でも他にそれらしい素材はなかったし、このままじゃ少しまずいぞ。

「不可能では、ないよ」

「紫中君?」

「船長室は、僕も見たけど、あの螺旋階段は見た目よりも安い作りだった。外すのはそこまで難しくない、と思うよ」

「そうなの?」

「うん。捜査中、日曜大工に使う道具も見つけた。あれは、この仕掛けを作るのに、使った可能性はあるよ」

 そんなのも見つけていたのか。それにしてもまさかここで紫中君からフォローが入るとは思わなかった。本人からしたらそんなつもりないのかもしれないけど……。

「どうかした」

「いやなんでも。ありがとう」

 お礼を云うも素っ気ない態度をとる紫中君に首を傾げていると、玉村さんが感心したようにボクに声をかけてきた。

「でもよく気付いたよね。プールの深さなんて」

「たまたまだよ。もしプールに浸かっていなかったら違和感に気付けなかったんだから」

「テメェ、遺体の浮いてるプールに浸かったってのか? そこまでするか?」

「捜査の為だからね」

 ボクが云うと、太刀沼君は呆気に取られた様に口を開けた。

「じゃあ次の議論に移ろうか」

「そ、そうだね」

 さっきもだけど本当に素っ気ない。まあ、裁判が順調に進むのは良いけど。

「次の議論だけど、今度は、都築尊はいつ殺されたのか、ということを話しあおうか」

「だな。遺体を隠してたってことは事件が起きる前にこいつは殺されていたことになるからな」

「よし! ぼくも頑張るよ!」

 玉村さんの元気な声で気持ちを切り替える。

 まだ始まったばかりだ。油断しないようにしないと。

 

 

 

 議論開始!

 

 太刀沼幸雄

「まずは都築がいつ頃殺されたかだな!」

 

 玉村晴香

「その云い方やめようよ」

 

 花子・アンドロメダ

「イエス。ここは、ひがいしゃXよぶ、ダトーデス」

 

 太刀沼幸雄

「セッ――」

 

 玉村晴香

「セクシャルなハラスメントだよ! 云わせないよ!」

 

 紫中舞也

「話を戻すよ。被害者Ⅹは、いつ殺されたのか。僕は、昨日じゃないかと思っている」

 

 玉村晴香

「昨日? 犯人は随分急いでいるんだね?」

 

 紫中舞也

「遺体を、保存できそうな設備は、僕達がいける範囲にはなかったからね。これだけ焦げてれば、異臭もするだろうし、長くは置いておけないはず」

 

 夢見縛

「それにプールを使えるようになったのは一昨日からよ。どれだけ早くても、この計画を思いつくのは六階が解放された一昨日より前ではないわ」

 

 玉村晴香

「そっか。深い部分に板を置くなんて、ちゃんとプールのことを調べた人じゃないとわからないもんね。ぼくも今まで知らなかったし」

 

 夢見縛

「フフフ、なにげに自分を犯人候補から外すとはやるわね」

 

 玉村晴香

「そそそそそんなんじゃないよぉ!?」

 

 花子・アンドロメダ

「どーよーしすぎデス」

 

 太刀沼幸雄

「でもよぉ。これは本当に都築なのか?」

 

 花子・アンドロメダ

「ひがいしゃⅩデス」

 

 太刀沼幸雄

「どっちでもいいってウゼェな。そもそも、いきなり都築尊って人間がいたって云われても一度も会ったことねぇ奴じゃピンと来ねぇんだよ」

 <それに賛成だよ!>

 

 

 

「それはボクも思ってた。みんな一度このモノクマファイルを見てもらいたいんだけど、都築尊の身長はボクと同じ170cmて書いてあるよね」

「イエス。ライティングデス」

「あの遺体も大きさは都築君と変わらなかったわよね? それはやはり、彼がプロフィール通りの身長だからではなくって?」

「逆だよ。まったく同じだから違うんだ」

「フフフ、ワタシに試練を与えるなんて……都築君はいつの間にそんなに地位を上げたのかしら」

 久しぶりに痛いポーズを見せる夢見さん。

 言葉の端々に怒りが含まれているけれど、気付かないフリをして話を続ける。

「これは紫中君に聞いた事なんだけど、焼死体っていうのは、体が焼けた事で縮まるはずなんだ。それなのにこの遺体はボクと大して変わらない。つまり――」

「ひがいしゃX、つづきたけるノーデス!?」

「じゃ、じゃあこの遺体は誰なの!? どこの誰がこんなことになってるの!?」

「そんなの一人しかいねぇだろ! 黒幕だよ! 黒幕が死んだそうに違いねぇ!」

「それはない。もし黒幕が殺されたのなら、そこでモノクマが、焼きそばを食べているわけがないよ」

『ん? 呼んだ?』

 紫中君の視線を追うと、そこには呑気に焼きそばをすするモノクマがいた。

 口元に青のりをつけて貪る姿はとても黒幕が殺されたようには見えない。

「呼んでねぇよ! テメェはその焼きそばでも喉に詰まらせて黙ってろッ!」

 太刀沼君に云われるまま焼きそばを食べ続けるモノクマ。

 あまりに静かだったから気付かなかった。おっと、話を戻さないと。

「焼きそばは置いといて。まず、誰かが殺されたってこと自体違うんじゃないかな?」

「ど、どういうこと? もうなにがなんだか……簡単に教えて?」

 今にも倒れそうな顔色の玉村さん。

 ボクはこれ以上彼女の顔色を悪くしない為、なるべく簡潔に言葉を述べる。

「最初から被害者なんていなかったんだ。これは第三者による、イタズラ? みたいなものなんじゃないかな?」

 <それは、違うよ>

 

「申し訳ないけど、都築君。この事件はイタズラなんかじゃないよ。少なくともその遺体がある限り、誰かが死んだことに変わりはないんだ」

 ここで紫中君に反論されるなんて……さすがに選んだ言葉が悪かったか。

 ややこしいことになる前に訂正しないと取り返しのつかないことになるぞ!

 

『遺体がある限りこれは事件だよ』

 

『イタズラだとして、なんのメリットもないよね?』

 

『少し考えればわかるよね?』

 

「イタズラっていうのは云い方が悪かったよ。でも、いきなり知らない人間が遺体で見つかって、犯人を探せって云われても無理があるよ」

 

『無理? そんなわけがない。これは学級裁判だよ』

 

『たとえ知らない人間でも、遺体が出たのなら捜査して、議論し合わなくちゃ』

 

『都築君は適当な判断で、皆を殺したいの?』

 

「誰もそんなこと云ってない! ボクはただ、こんなのは最初から破綻してるって云いたいんだ!」

 

『でも亡くなっているのは事実だよ? 被害者X、都築尊は僕達と一緒に生活をする人間だったかもしれない』

 

『男子側の客室には、一つ空き室があったよね。つまりそこは本来彼が使う予定だったんじゃないかな?』

 

『きっと彼は、この客船のどこかにいた。でも偶然僕達とは会わなかったんだ』

 < その言葉、断ち斬らせてもらうよ! >

 

 

「ボク達以外の誰かがいたなんてありえないよ! この船に来てそれなりの時間は経つけど、それらしい人影なんて一度も見た事がない! みんなだってそうでしょ!?」

 ボクが必死に訴えかけると、みんな納得したような表情で頷いてくれた。一人を除いて。

「なら、あの遺体は誰のものなんだい? まさか、人形を使った、なんて言わないよね」

 やっぱり紫中君か。四階のマネキンはしっかり固定されていて動かせそうもなかった。人形を遺体に見立てるなんてことは不可能だ。そうなると……

「犯人はきっと、遺体を再利用したんだ」

「再利用? それは、今まで亡くなった皆のことを云っているのかい? なら、誰の遺体なのかな」

「西尾君だよ」

 その名前を出した瞬間、紫中君の眉が少し動いた。

 けれどそれは錯覚だったと思わせるかのように、彼は静かに反論する。

「確かに、彼は同じ焼死体だった。でも、彼は上半身しか、焼けていなかったはずだよ?」

「だからもう一度燃やしたんだ。背丈がボクと近いのは、もう一度燃やされたせいで縮まったからに違いないよ」

「ふーん」

 今までにも時折見せていた鋭い視線。

 まさか、学級裁判の場でボクに向けられることになるなんて夢にも思わなかった。

 しばらくボクを見つめ続けると、その視線は焼きそばを完食し一服しているモノクマへと移った。

「モノクマ。都築君が云っていること、正しいのかい?」

『正しいとか正しくないとかボクは答えられないよ~。だって答えたら面白くないし。まあ一つだけ云っておくと、今までの遺体も乗客の扱いにはなってるよ』

「そう。ならそれで話を進めようか」

「おいおい。突っかかった割には随分あっさり引き下がるんだな?」

「余計なことに、時間をかけたくないだけ。どうせ答えてくれないなら、西尾君の遺体と仮定して話した方が、得だと判断したんだよ」

 太刀沼君の挑発的な発言も涼しい顔で受け流す紫中君。

 相変わらず真意が見えないことにボクが不安を抱いていると、玉村さんが腕を組みながら言葉を零す。

「でも、どうして犯人はわざわざ遺体をもう一度……なんて考えたんだろう」

「とっくに死んでる人間を使った方が手っ取り早いからだろ? 抵抗もされねェし」

「でも、遺体を使っていいなんて書いてなかったよね? それに、どうやって犯人は遺体を見つけてきたの?」

「そりゃあ……そういやどこにあったんだ? これが本当に西尾の遺体だったとするなら、犯人はどこから拝借してきたんだ?」

「それになぜ遺体が西尾君ではなく、都築尊という誰も知らない人物ということになっているのかしら」

「ブレイン、だいばくはつデス」

 玉村さんの発言がますます謎を増やしてしまった。いや、増えたわけじゃない。元々この事件はそれだけ謎が多いんだ。

 しかし、その謎はとある人物の一言によってあっけなく崩れる。

「難しく考え過ぎだよ。犯人が黒幕側の人間、と考えれば納得出来るよ」

「黒幕側の人間?」

「うん。例えば、内通者が西尾君の他にもう一人、いたらどう?」

「それは仮定にすぎないわ」

「そうだよ。でもそう仮定すれば、辻褄も合うと思うんだけど」

 初めからわかっていたかのように語る紫中君。

 わかっていた? いやまさかな。

「確かに内通者が他にもいりゃあ、遺体を持ってくることも出来るわな」

「さて、話を戻そう。君の言葉を支持するとなると、この中の誰かが犯人で、さらに云えば黒幕の内通者だということになるわけだけど、それでいいかい」

 誰かが、の部分を強調させて云い放つ紫中君に若干苛立ちを覚えながらも、ボクは無言で頷いた。

「じゃあ、それで議論を進めよう。ここまで話してみて、皆は誰が犯人だと思う?」

「え? わ、わからないよ」

「イエス。よーいにハンダン、できないデス」

「俺様は始めから都築を疑ってんぞ」

 やっぱり太刀沼君は意見を変える気はないか。まずは彼に犯人じゃないってことを納得させないと。

 ボクが次の一手を打つ為に捜査中に見つけた証拠を整理しようとした瞬間、突然背後から刃を突き立てられたかのような衝撃が襲う。

「ワタシも同意するわ。犯人は都築君よ」

「縛ちゃん!?」

「どーして、そーおもうデス」

「他に行動出来る人がいないからよ。忘れたの? 都築君を除いたワタシ達5人はずっとプールで遊んでいたじゃない。つまり全員にアリバイがあるということになるわ」

 その言葉は、まるで頸動脈を切られたかのようにボクの意識を遠くさせる。

 あれだけ油断しないつもりでいたのに忘れてた。夢見さんもボクのことを疑っていたんだった。

 それにしても痛いところを突かれた。確かにボクはみんなと行動はしていない。

「そ、それはそうかもしれないけど。でも航くんが犯人なわけないよ!」

「なぜ? 具体的に証明してもらえるかしら」

「えっと、えっと……い」

「良い人だからと云うのは無しよ」

「うぐぅ!?」

 精一杯反論しようとする玉村さんの姿を見たボクはなんとか意識を失わずに済んだ。

 せっかく玉村さんが庇ってくれたんだ。このまま黙っているわけにはいかない!

「夢見さん。本当に事件が起きるまでみんな一緒だったの? ほんのちょっとでも誰か席を外した人はいなかったかな?」

「そんな人はいなかったわ。プールに来た時も、更衣室に向かった後も、ずっと一緒だった」

「更衣室? ……そういや紫中、テメェ忘れ物したとかで一度プールに戻ってったよな?」

 突然発せられた太刀沼君の言葉にボク達は目を見開いた。

「それはホントデス? クソシルバー」

「誰がクソシルバーだクソピンク」

「太刀沼君が云っていることは本当?」

「うん。大切なお守りを、落としちゃってね」

 嘘はついていないと云うかのように、神社に行けば手に入りそうな、ありきたりなお守りをポケットから取り出して見せる紫中君。

「すぐって、どれくらい?」

「二、三分かな。プールサイドに落ちていたんだよ。幸い、すぐに見つかってよかったよ」

「二、三分……太刀沼君、紫中君が戻って来たのはそれくらいの時間であってる?」

「ああ。正確にはわからねぇがすぐに戻って来たのは確かだな」

 そんな短い時間じゃあ遺体と塩素剤を出してプールに入れるなんて不可能だ。誰か手を貸した人がいるならまだ可能性はあるけどそんな人はまずいないし……クソ! 結局ハズレか!

「そうなるとやっぱり都築だな。遊びは終いだ。とっとと白状しやがれ」

「だからボクじゃないんだよ!」

「あまり見苦しい姿は見せないでもらえるかしら」

 ダメだ。少なくともこの二人は意見を変えそうにない。

 紫中君は……どう考えてもボクを疑っているようにしか思えない。

 玉村さんや花子さんもなにか糸口はないか考えてくれているみたいだけど、彼女達に任せるわけにもいかない……この状況を挽回する手立てはないのか?

「つづきサン、あなたのアリバイ、おしえてプリーズデス」

「花子さん。でも、ボクは……」

「わかってるデス。でもワンモア、トークするデス」

 まっすぐに見つめるその瞳に迷いはなく、純粋にボクを信じてくれているんだということがわかった。ありがとう、花子さん。

「ボクは、ずっと客室で寝ていたみたいなんだ。紫中君と話をして、気付いたら客室に……」

「それは捜査中にも聞いたって。話をして客室に戻るまではなにしてたんだよ」

「わからない。でも、紫中君に呼び出されたのは確かだよ」

「でも、二人はその話をした後に別かれたんだもんね」

 やばい! そのことを聞かれたらアウトだ! 現実にはボクは紫中君とは会ってない! そのことを云われたら余計に疑いが――

「そうだよ」

 ボクの動揺とは真逆に一切の迷いもなく云い放つ紫中君。

 ど、どういうことだ? あの紫中君が学級裁判で嘘の供述をするなんて……。

「ハァ。まあいいや。とりあえず紫中とは別れたんだな」

「夢の世界に向かったというのね」

「そして、おめめパッチリしたら、モノクマアナウンス、ビートしたデス」

「そ、そうだよ。ボクはモノクマアナウンスで目覚めるまでずっと客室で寝ていたんだ。これが、ボクのアリバイだよ」

 花子さん、不思議なことに紫中君が作ってくれたチャンスを活かすように、ボクはいま話せることを伝えた。

 けれどそう何度も都合よく行くことはなく、周りのボクに対する態度が変わることはなかった。

「結局最初と変わらねェじゃねぇか。なんか曖昧だし、思うってなんだ思うって。そんなのアリバイって云えんのか?」

「ボクだって無理があると思っているよ。でもこれが事実なんだからしょうがないじゃないか!」

「そうだよ。もっと航くんを信じてあげようよ」

「お気楽だなぁテメェは。ホントに胸だけにしか栄養がいってねぇんだな」

「大きなお世話だよ!」

「まあ。もう少し考えてみようよ。アリバイがないだけで、犯人にするのは、よくないよ」

 表情は変えないものの、その声にわずかな嘲笑が含まれているように聞こえたのは気のせいだと思いたい。

「じゃあ、次の議論に、入ろうか」

「つっても何を話すんだ?」

「僕達が、プールにいた時のことで、いいんじゃないかな? 都築君だけ、いなかったわけだし。おさらいも兼ねてね」

 それでいいかと言わんばかりの視線を向ける紫中君に、ボクは再び無言で頷く。

 いつもなら頼もしいけれど、今日は本当に不気味だ。でもだからって立ち止まっていちゃいられない。わずかな矛盾点も見逃さないように集中しないと!

 

 

 

 議論開始!

 

 紫中舞也

「都築君と別れた後、僕は皆に合流した。もちろん、プールで遊ぶ為にね」

 

 太刀沼幸雄

「丁度俺様達が更衣室に入ろうとした時だったな」

 

 玉村晴香

「うん。紫中君が水着を選んでいる間は、先に更衣室に行って着替えてたよね」

 

 夢見縛

「ええ。プールでは、ワタシはビーチサイドで灼熱の騎士に身体を預けていたわ」

 

 花子・アンドロメダ

「わたしはフリーしかおよがねぇ、デス」

 

 太刀沼幸雄

「俺様は素潜りしてたぜ」

 

 玉村晴香

「ぼくは浮輪で浮いてたよ」

 

 花子・アンドロメダ

「そして、しあたサンきたあと、みんなでビーチバレーしたデス」

 

 太刀沼幸雄

「だな。そんで身体動かしたら腹が減って、レストランに行く為にプールから出たんだ」

 

 紫中舞也

「その途中で、僕がお守りを落としてしまったけど、すぐに見つけて脱衣室に戻った」

 

 玉村晴香

「ぼくと花子ちゃんは先に着替え終わったから先に脱衣所から出て行ったんだよね」

 

 夢見縛

「ええ。ワタシが異臭に気付いたのはその後ね。着替え終わったと同時に臭いがしたから様子を見にプールに行ったらその瞬間、プールが爆発したわ」

 

 玉村晴香

「それがぼくの聞いた花火みたいな音だったんだ」

 

 太刀沼幸雄

「ん、待てよ? 脱衣所にいたのが夢見だけならいくらでもやり放題なんじゃねぇか?」

 

 夢見縛

「フフフ、なにを言いだすかと思えば……くだらないわね」

 

 太刀沼幸雄

「テメェが脱衣所で一人だったんならいくらでも犯行をする時間はあるだろうが!」

 <それは違う!>

 

 

 

「いや、少なくとも夢見さんに犯行は不可能だよ」

「なんでそう云い切れんだ。誰も見てねぇんだぜ」

「夢見さんの服装だよ。さっきも言ったけど、プールの中に遺体が隠されていたらプールに入らないといけないよね。でも夢見さんは玉村さんや花子さんと一緒に着替えた後だったんだよ」

「イエス。いっしょにおきがえしたデス」

「夢見さんのスカートは長いし、わざわざ水着に着替えるのだって時間がかかるよ」

「そんなのまた水着に着替えればいいだけだろ? または全裸とかなぁゲハハハ!」

 どんな状況でもブレずに発言出来るのは彼の強みなんだろう。けど今は本当に黙っててもらえないかな。無理か。

「か、仮に服を脱いでプールに行ったとしても、また身体を拭いて服を着ることなんて短時間じゃ出来ないよ。それに夢見さんはアクセサリーも外していたんでしょ?」

「ええ。水に濡れたら嫌だもの」

「玉村さんの聞いた爆発の音だって、脱衣所から出て数分しか経っていないんだよ? 時間が足りないよ」

「でも、そうなると、誰にも犯行は不可能になるよ。都築君はこの中に犯人がいると思っているんだから、矛盾しているんじゃないかな?」

「誰もまだこの中に犯人がいるなんて云ってないだろ! あくまでそういう仮定の話で――」

「随分汗をかいているみたいだけど、大丈夫?」

「っ!」

 ボクは思わず飛び出しそうになるがそれをわずかな理性で抑える。

 フォローしてくれたと思ったら今度は妙に指摘をしてくる。紫中君はなにがしたいんだ!? ……いやそうじゃない。彼のペースに巻き込まれちゃダメだろ。紫中君はボクを疑っている。それは間違いないんだ。落ち着け……無実を証明するんだ……ボクなら……都築航なら出来るだろ?

「……そもそもさ。この事件には本当に犯人がいるのかな?」

「突然なにを云いだすの?」

「だって、遺体の正体もまだ明らかになっていないんだよ? 夢見さんはボクを疑っているみたいだけど、ボクは事件が起きるまでずっと客室で寝ていたことは事実だし、仮に行動出来たっていつどこで塩素剤なんて仕込んだの? プールの下に板なんて仕掛けられないよ?」

 突然のことに驚いているのか、ボクの責めるように吐き出された言葉に夢見さんは一瞬たじろいだ。ボクはそれを見逃すことはなく、さらに仕掛けるように花子さんへ話を振る。

「花子さんだって知ってるよね! ボクが三階にいたこと!」

「い、イエス。わたしがつづきサン、シークしてるとき、サードフロアにいたデス」

「だよね!? だからさァボクに犯行は不可能なんだよ! だってボクはずっと客室で眠っていたんだから! これはモノクマがボク達を陥れる為に作った罠なんだ! ずっと姿を見せなかったのもこの計画を実行する為に違いないよ!」

「フ、フフフ、そうね。確かにそうだわ」

「そういや、六階が解放されてからほとんど姿を現さなかったな。おい! どういうことか説明してもらおうか!」

 いつもの勢いでモノクマに眼を飛ばす太刀沼君。

 その調子だ。みんなでモノクマを責めればきっと真実を吐き出すに違いない!

『……』

「黙っているという事は、そういうことだと判断していいのかしら?」

『……』

「な、なにかゆーデス」

次々と矢のように放たれた言葉にモノクマはしばらく沈黙する。

無言の空気の中、最初に漏れたのは心底呆れたかのように消沈したモノクマの声だった。

『いやーまさかここまでキミ達がおバカさんだとは思わなかったよ』

「なんだと!?」

『あのねぇ。ボクはあくまでも船長だよ? 乗客のみんなが事件を起こすのを見るのが楽しいのに、わざわざ自分で事件を起こしてどうするんだよ!』

「それは、わたしたちがデストピアする、エンジョイするため」

『だからさぁ。ボクはコロシアイを盛り上げてくれる人の背中を押すことはあっても、自分から事件を起こすことなんてしないんだってば。そんなの面白くないじゃ〜ん! ってこれデジャブじゃない? 何度も云わせないでよ~』

「では、あなたはこの件にはなにも関わっていないというの」

『当たり前だよ! もう面倒くさいからぶっちゃけるけど、この事件を起こした人はちゃんとキミ達の中にいるからね! 内通者かどうかは教えないけど。うぷぷぷ!』

 モノクマの言葉は、気持ちが良いくらいにボク達の不安を煽る。

 こいつの存在はやっぱり邪魔だ。せっかくいい雰囲気だったのに、台無しだ。

「ふざけやがって! いつもテメェの話を黙って聞くと思うなよ!?」

「じゃあもう勝手にすれば? ボクに投票すれば良いよ。ちょっと時間をくれればボクの投票ボタンを作ってあげる。でもそれがどんな結果をもたらすか……太刀沼クンにその責任は取れる? うぷぷぷ」

「こいつ……ッ!」

「やめよう。こんなことで争っても、意味がない」

「そうね。完全に信じるわけではないけれど、ここで誤った判断をわざわざする必要はないわ」

「クソッ!」

汚い言葉を吐き出しながら証言台を蹴る太刀沼君。

その姿を嘲笑うかのように見つめるモノクマの姿にボクも苛立ちを覚えていると、紫中君が小さく息を吐いて議論を再開させる。

「話を戻そう。モノクマが云う事を、全て信じるわけにはいかないけど、あの遺体が西尾君だったとしても事件は成立する。普通に考えれば、犯人は探索中に、遺体安置所のようなものを見つけたと考えるのが、妥当かな」

「フフフ。そんなものが本当にあるのかしら?」

「なくはないと思うよ。ほら、六階の船長室みたいに開かなかった部屋が他の階にもいくつかあるよね」

「そういやそうだな。都築と俺様の客室の間にも鍵のかかった客室があったし」

「あっ」

「たまむらサン、どうかしたデス?」

「ひえ?! な、なんでもないよ!」

 わかりやすいくらいに動揺する玉村さん。

 ここに来てどうして玉村さんが動揺するんだ? それも客室というワードで。

「あん? なんだか怪しいな。もしかして……便所か?」

「そ、そう! そうなんだ! 実はちょっと我慢してて! あは、あはは」

「嘘はもっと上手くつきなさい」

「嘘なんかついてないよ。ほ、本当だよ?」

「明らさまに怪しいなぁおい」

 目を泳がせ、指をいじり、唇をきゅっと縛る玉村さん。

 これで嘘をついていないと云い張るのならある意味大物だ。

「玉村さん。なにか知っている事があったら教えて。どんな些細なことでもいいから」

「航、くん……う、うぅ」

 ボクの顔を見た瞬間、突然玉村さんは体を震わせながら嗚咽した。

「ど、どうしたの玉村さん!? えっと、ご、ごめん! なんだかよくわからないけどごめん! ってなんか前にもこんなことが!」

「ごめん……ごめんね……ぼく……」

「ちょっと、おかしーデス。たまむらサン、どこかバッドデス?」

「泣いてばっかじゃわからねぇだろ!」

「ビッグなボイスだすなデス!」

「うう……ひっく」

 まったく予想していなかった展開にボクを含めみんなが混乱していると、それまで様子を窺っていた紫中君が信じられない言葉を零す。

「玉村さん。無理しなくていいよ。」

「は? なに云ってんだよ紫中」

「この状態で、話せるとも思えないし、なにか知っていても、皆の命を犠牲にしてでも守りたいものがあるんじゃないかな?」

「変なこと云わないでよ紫中君! 玉村さんはそんな人じゃない!」

「そうだよね。ごめん」

 ごめんって……一体なにを考えているんだ。これもなにかの作戦? まさか今度は玉村さんのことを疑っているとか? でも、この裁判でそんなシーンあったか?

「うく……うぅ……ううぇ」

 いつまで考えていても仕方がない。今は玉村さんを落ち着かせないと。もしかしたら重大なことに気付いたのかもしれない。

 ボクは一度深呼吸すると、刺激しないように平然を装って声をかける。

「ねえ玉村さん。前にボクのことを信じるって云ってくれたよね。ボクも、玉村さんのことを信じるよ。みんなを守る為なんだ。話してもらえるかな?」

「みんなを」

 みんなという言葉が刺さったのか、玉村さんは泣きやむとそのまま俯いた。

 なにか云っているようだけれど、その声はあまりに小さくて聞こえない。

「……ごめんね航くん。信じてるから」

「いま、なんて?」

「ぼく、プールに行く前に航くんの客室に行ったんだ。みんなで遊んだ方が楽しいと思って。でもね。いなかったんだよ」

「は? なにを云ってるの玉村さん。だって客室には鍵が――」

「鍵は、開いてたんだよ。航くんの客室の鍵。寝ているのかと思って中に入ってみたけど、誰もいなかったんだよ。お風呂場にも、クローゼットの中にも……航くんは、どこにもいなかったんだよ」

 いなかった? は? 誰が? ボクが? 客室に? は? は?

「おいどういうことだ! テメェずっと寝てたって云ったよな!?」

「そ、そうだよ!? あ、ああ、もしかしてボクが紫中君と話している時じゃない? その時は紫中君の客室にいたから入れ違いになったんだよ!」

「それはないよ」

「なんでさ。ボクは君の客室で話をしてただろ?」

「僕がプールに向かった時、丁度皆が水着を持って、中に入ろうとしている時だったから、プールで遊んでいる時に、席を外したわけじゃないよね。というか……最初から話なんてしてないでしょ?」

「おい紫中! テメェさっきと云ってることが違ェぞ!?」

「あれは都築君を油断させる為のブラフだよ」

 全身の血の気が急速に引いていく。

 やられた……完全にやられた! やっぱりそういうことかよ! とにかくこの状況を変えないと!

「ね、ねえ玉村さん。本当に、本当にボクの客室だった? 他の誰かの客室と勘違いしたとか。そういうことは?」

「う、うん。他の男子の客室は、みんな、鍵がかかってたから」

 嘘だ……そんなの嘘だ! だってボクは確かに……どうなっている……どうなってるんだこれ!? お、落ち着け。落ちつけよぉ……まだ、まだ取り戻せる。

「黙っていないで、説明してもらえるかしら」

「つづきサン、なにかトーク、プリーズデス」

「ボクは……寝てたんだ。客室で……寝てたんだって」

「それはモノクマアナウンスが鳴った時だろ? テメェはどこにいたんだよ」

「だから……寝てたって」

「どこで、デス?」

「客室で……」

「わ、航くん? 嘘、だよね? 冗談、だよね? ぼく、信じてるよ? 信じてるから……ねえ。なにか云ってよ」

 この現状から脱する為の言葉を必死に探すも、嵩が増していくヘドロの中から、一本の髪の毛を探しているかの様になにも見つからない。

「あ、あ、あッ」

「君が、彼を殺したんだよね」

 奴の放った言葉が、ボクの理性という名の糸を断ち切った。

「……いや。いやいやいやいやッ! ボクはやってないって! みんなそんな顔しないでよ! ボクは誰も殺してないし、もちろん遺体を再利用なんてしてないよ! だって、遺体がどこにあるかなんて知らないんだから! ねえみんな! もう一度考えようよ! 議論しようよ! そうすればきっとなにか見えてくるよ!」

「なにを議論するってんだよ」

「それは……そうだァ! 遺体安置所について話そうよ! 一体どこにそんなものがあるのか。それを話そうッ!!」

「それは、あなたが一番わかっているのではなくて?」

「なに云ってんだよ夢見さん。ボクは何度も、知らないって云ってるじゃないか……。そもそもだよ? やっぱりこの事件は最初からおかしいんだよ。モノクマはああ云ったけど、やっぱりこれは、モノクマの罠なんじゃないの? おい! そうなんだろ!?」

『……』

「なにか云えよぉッ!!!?」

『うぷぷぷ! うぷぷぷぷ! いいよ……実にいいよ……追いつめられる姿ってゾクゾクするよねぇ』

「やっぱり! ほら! こんな明らさまな云い方、犯人はやっぱりモノクマなんだ!! だってボクは誰も殺してないんだから!」

「じゃあ、都築尊は、誰が殺したの?」

「だからさぁ!? 都築尊なんて最初からこの船にいないんだってば! 資料を見たんだからみんなだって知ってるだろ!? あいつは希望ヶ峰学園に入学する前に風呂場で溺れ死んでいるんだよォッ!?」

「え?」

「は?」

「ほわっと?」

「へ」

「……」

 奴らの顔から色が消えた。

 俺はなにか云ったか? いや、なにも云っていない。なにも云っていないぞ。

「いや、なに? なにその反応。みんな、初めて聞いたかのような顔して」

「始めてもなにも……」

「それは初耳だぞ? おい都築、そんな資料どこにあった」

「はあ? あったよ! 最初っから! ねえ! あったよね玉村さん!? だって玉村さんが最初に渡した資料の中に混ざってんだから、君は覚えているよねェ!?」

「え!? あ、えっと……そういえば、そんなのもあったような――」

「はっきりしろよッ!?」

「ご、ごめんなさい!」

「少し落ち着きなさい」

「ボクは最初から落ち着いているって……ッ!」

 どいつもこいつもボクを馬鹿にしやがって! 俺がなにをしたってンだよ! ボクがミスをするわけないだろ!?

「都築君。残念だけど、僕達は君の云う資料を、本当に知らないんだ。その資料には、なにが書いてあったの?」

 ナニガカイテアッタノ? ……あはは、これは傑作だ! やっとボロを出した!

「そうだよ! 都築尊の資料は紫中君! 君がボクに見せたんじゃないか!」

「なんのこと?」

「とぼけても無駄だよ。みんな聞いて! ボクは紫中君に撃たれたんだ!」

「はあ? なに云ってんだテメェ?」

「だから撃たれたんだよ! 銃で、こう……で、目が覚めたら丁度モノクマアナウンスが!」

「そ、そうなの? 舞也くん?」

「知らない」

 あくまでもしらばくれるつもりのようだ。ふざけやがって。

「仮に撃たれたのなら、身体に銃痕があるはずよね。掠ったとしても傷や火傷があるはずよ」

「そ、そうだよね! 待ってて。いまシャツを脱ぐから」

まさか自分から墓穴を掘るなんて……この傷を見せれば、オマエはもう終わりだ。

「確か、この辺に…………あれ。おかしいな。ごめん、場所を間違えたみたいだ。えっと、こっちかな? あれ? あれ? あ、あはは。おかしいな。こんなはずは……撃たれたんだよ。ボク。撃たれたんだ」

 そんなはずがない! どうして!? どこにも銃痕がないぞ!? おかしい! こんなのおかしい! おかしい! おかしい! おかし――

「もう、やめよう」

「なに云ってんだよ。ボクは君に撃たれたんだぞ? そうやってボクを陥れて――」

「君の思いは、僕達が引き継ぐよ」

「は?」

 今度はなんだ。なにを云うつもりだ。やめろよぉもうこれ以上!

「これ、君の客室の浴室にあったんだ」

「いや、いやいやいや!! なに云ってんだよ!? その銃は君がボクを撃った時に使った奴だろ!?」

「君は、誰よりも先に、黒幕の正体を暴き出したんだよね」

「はあ!?」

「そして、一人で船長室に行き、そこにいた都築尊を殺した。けれどそれは、まったくの別人で、モノクマの罠だったんだ」

 なにが起きている。この状況はなんだ。身に覚えのないことが起きて、身に覚えのないことを云われて……なにがどうなっているんだ。

「この写真も、君の机の中にあったよ」

「こいつが都築尊?」

「航くんと、同じ顔だ」

 これは夢で見た写真! やっぱりあれは夢じゃなかった! でもだったらどうして銃痕がないんだ!? そもそも……どうしてボクは生きているんだ。

「どこで見つけたか知らないけど、自分にそっくりな顔をした男が黒幕と知り、君はおかしくなってしまったんだね。でも、それも仕方ないよね。こんな閉鎖された状況で、コロシアイなんてさせられて、大事な梶路さんを亡くし、深海さんを亡くした。裁判でも、大事な選択を全てを君に任せてきた、僕達の責任だ」

「随分流暢に喋るじゃんか……今までのは、芝居だったの? 全部、全部……ッ!」

「つづきサン。ソーリーデス。おはなし、きいてもらってばかりデスた」

「ワタシも迷惑をかけてしまったわね。一番苦しいのは自分だとどこかで思っていたわ。ごめんなさい。謝って許してもらえるとは思わないわ」

「バカ野郎が」

「ごめんね……ごめんなさい……航くん」

 なんだこの空気……やばい。このままじゃやばい!?

「待ってよ。待ってってば!? なんだよこの状況!? わけがわからねぇよ! おかしいだろ!? みんな、な、なに流されているんだよ!? 銃も写真も全部紫中君が出しただろ!? 最初から紫中君が持っていたものなんだよこれは! ボクはこの写真を! この銃を! 全部知っているぞッ!! こんなこと許されるわけがない! もう一度裁判をやり直そうよ!!!?」

「悪ィな都築。いまのテメェを信じることは出来ねェ」

「せめて、あっちの世界で深海さん達と仲良くしてちょうだい」

「あの遺体は!? プールに仕組んだ板は!? 塩素剤は!? ボクを犯人だっていうなら全部証明しろよ!? なんだよ……なんなんだよおおおおおおおおおッ!」

「これが、事件の真相だよ」

『うぷぷぷ! 結果は出たみたいだね。それではみなさん! 投票ボタンを構えてくださいな!』

 待ってましたと云わんばかりに喋りやがって! クソ! そのニヤケ面やめろ! ボクを見るな! 俺を見るなぁ! ボクじゃない……俺じゃない……

「違う……ボクはやってない……ボクじゃない! お願いだよ……信じてよ」

「もう、見てられないわ」

 そんなこと云わないでよ夢見さん……なんでもいいよ……闇の力でも、嘘でも、なんでもいいから……助けてよ……。

「ごめんなさい。航くん、ごめんなさい」

 なんで謝るんだよ玉村さん。どうして……こうなった……どうして……うわぁ……ああ……俺じゃない、俺じゃないんだ……。

「ボクじゃないんだ……俺は……尊を殺してない……俺……ボク……あれ? どっちだっけ……ボク? ……俺? ……ボクは俺で……俺はボク? ……ボク、俺は……」

「クソッ、胸糞悪ィ。今までで一番最悪な裁判だぜ」

 本当だよ……胸糞悪い事このうえない……気持ち悪い……自分が自分で無くなる……自分は誰だっけ……。

「つづきサン……ユーのぶんも、パワフルいきるデス」

 違うよ花子さん。ボクじゃない……ボクは、やってない。俺は……殺して……。

「俺は、殺した? ボクを殺した? ……尊を……違う……違うッ! そうだ! 俺が殺したのは航だ! 俺が航を殺したんだ! この手で……浴槽に、頭を……ああ、ああ……ッ!」

「もう見てらんねェ。おいモノクマ! 投票タイムだ! さっさとこいつを――」

「待って」

「なんだよ紫中!? テメェまだこいつを苦しめてェのか!」

「そうじゃない。この裁判は、やり直しだ」

 


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