ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~   作:tonito

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・・諸注意・・

 
この作品は、現在発売されておりますPSP及びPS vita用ゲーム、ダンガンロンパシリーズの非公式二次創作となっております。二次創作が苦手な方、また理解の無い方の閲覧は御遠慮ください。

『ダンガンロンパ』『スーパーダンガンロンパ2』等シリーズのネタバレが含まれております。

 モノクマを除き登場するキャラはオリジナルキャラとなっておりますが、他の作品と肩書き等が被ってしまっている可能性があります。人によっては気分を害してしまう恐れがありますが予めご了承ください。

 流血や殺人等、グロテスクな描写を含みます。苦手な方はご注意ください。



チャプター2 (非)日常編 ①

 

『オマエラ、おはようございます! 朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!さぁて、今日も張り切っていきましょう~!』

 

 

 

 

 忌々しいアナウンスが聞こえてからどれだけの時間が経ったのだろう。

 昨日の学級裁判が終わった後、ボクはシャワーを浴びてからすぐにベッドに倒れた。

 朝まで寝ずに梶路さんの客室で過ごしていたからなのか、それともショッキングな映像を見せられて、心身共に限界を超えたからなのかはわからない。

 ただ一つだけわかっている事は、ボクが半日以上は眠っていたという事だけだった。

 裁判が起きる前に一度7時を告げるアナウンスを聞いているから、ボクが夢の世界に紛れて聞き逃していない限りは、一度沈んだ太陽が再び昇った事になる。

「みんなはどうしているんだろう」

 あの後、各々自分の客室に戻ったはずだから紫中君あたりはまだ眠っているかもしれない。

 自分が他人の心配をするだけの余裕を取り戻している事に気が付くと、ボクは鉛のように重い体を起こして負担を掛けない程度に体を伸ばした。

「ン~、よし。まずはレストランに行ってみよう。誰か朝食を食べに降りてきているかもしれないし」

 誰もいないのではないかという不安をかき消すように独り言を呟くと、ボクは床に転がっていた靴を履いて客室を後にした。

 

 

 

 

 ダンガンロンパミラージュ~絶望の航海~

 

 

 chapter2

 

 『 ハニーソングとダークステップ 』

 

 

 

 

 いつも通りのエレベーターで2階に降り、いつも通りのレストランの扉を開くと、丁度レストランを出て行こうとする梶路さんと鉢合わせた。

まだ一日しか経っていないはずなのに、なんだか数年ぶりに会ったかのような懐かしさにボクの口元は自然と緩む。

「……都築さん、ですね? おはようございます」

「おはよう梶路さん。よかった、てっきりレストランに行っても誰もいないんじゃないかと思っていたから安心したよ」

「そうですね。昨日の夜中は誰もいらっしゃらなかったので、今朝は賑やかで楽しいです」

「昨日? もしかして梶路さん、学級裁判の後にレストランに来ていたの?」

「はい。客室に戻ってからベッドに横になったのですが、夜中には目が覚めてしまって。まだ夜時間ではなかったので、レストランでお水をいただこうと思ったんです」

「そうだったんだ……」

 ボクとした事がしくじった。裁判の後で疲れていたとはいえ、夜中に目が覚めていればレストランで梶路さんと二人きりになれていたかもしれないのに……。

 激しく心の中で後悔をしていると、梶路さんは頬を仄かに赤くしながら気まずそうに小さな声で呟いた。

「あの、都築さん……申し訳ないのですが、そこを通してもらっても良いですか?」

「あ、ああごめんね。忘れ物?」

「いえ、その……お手洗いに」

「うわあっ!? ごめん梶路さん今退くから!」

 開いた扉に擦り付けるようにして背中を付け、すみませんと去り際に云う梶路さんを見送ったボクが激しい鼓動を落ち着かせながらレストランに入ると、最初に映ったのは険しい顔をした遊木君だった。

「朝っぱらからなにラブコメしてはるんや自分」

「遊木君……見てたの?」

「あれだけ目ん前で騒がれたらな」

 出入り口から一番近いテーブルに座る遊木君。

 彼の手には和を思わせる渋い湯呑が置かれていて、同じテーブルには向かい合う形でもう一人座っていた。

「都築君はもう少し視野を広げた方が良いとお姉さん思うな」

「ふ、深海さんも見てたんだ……おはよう」

「クスクス、おはよう都築君。いま西尾君が朝ご飯を作ってくれているから、好きな席に座って待っていればいいよ」

「う、うん。ありがとう」

 口を手で覆いながら笑う深海さんに肝を冷やしながら、ボクは自分の座る席を探すと同時にレストランを見回すと、窓際のテーブルでははなっちーの口から伸びたス○ンド(腕)を見た指原さんが顔を真っ青にして震えていた。ボクもあの恐怖は未だに忘れない。

「おはよう航くん!」

 鳥肌を鎮めるように二の腕を擦っていると元気よくあいさつをされたので振り返る。

 振り返るとそこには、ポロシャツの上にエプロンをつけた玉村さんが眩しい笑顔で立っていた。いつものスポーティな格好とは違いなかなかに新鮮だ。

「おはよう玉村さん。その格好どうしたの?」

「お手伝いしたいって云ったら圭太君が貸してくれたんだ。似合うかな?」

 見せびらかすように両腕を広げ、少し不安そうにボクの方を見る玉村さん。

「うん。よく似合っているよ」

「よかった~。エプロンなんてつけた事ないからちょっと不安だったんだよね」

 安心したように笑いながら、玉村さんは持っていたおぼんを抱くようにして自分の大きな胸に押しつける。うん、実にあざとい。

「航くんはなにか飲みたい物はある? ぼく持ってくるよ!」

「それじゃあお言葉に甘えて……紅茶をお願いしようかな」

「任せて!」

 親指を立ててから厨房に向かう玉村さんを見送ると、ボクは適当な席に腰を降ろして小さく溜息を吐く。

 朝はいつもコーヒーを飲んでいたはずなんだけどな。

 ボクはまだ、寺踪さんの死を引きずっているって事なのか? いや、もちろん忘れて良いはずはない。だけど……。

 楽な道に逃げない、迷わないと決心しておきながら、さっそく揺らぎ始めている自分に嫌悪感を抱いていると、それを吹き飛ばす勢いで出入り口の扉が開かれる。

「おはよう! なによ結構揃ってるじゃない!」

「ハミちゃん! 良かったぁ心配したんだよ!」

「あら深海さん。心配ってなんの?」

「そんなの決まっているよ。ほら、生田君にいろいろ……ね?」

「ああ。そりゃあ昨日は死にたくなるくらい落ち込んだけど、段々落ち込む自分に腹が立ってきてね。あたしウジウジするの嫌いなのよ!」

「気ィ強い女やなぁ」

「イマドキの男が軟弱なのよ」

 湯呑に口づけながらぼやく遊木君を腰に手を当て見下すハミちゃん。

 昨日あれだけ辛い言葉を生田君に云われたのに、次の日には元気な顔をみんなに見せる事が出来るなんて。ボクには想像もつかない葛藤があったに違いない。

「なによ都築君。辛気臭い顔しちゃって」

「なんでもないよ」

「そう?」

「うん。ところでハミちゃ――」

「おやおや? 鈴の音に導かれて小汚いレストランに来て見れば……女神達のお声でしたか」

 なんでこのタイミングで出てくるんだよお前は……。

 最悪なタイミングで現れた生田君は、何事もなかったかのように爽やかな笑顔でハミちゃんに声をかける。

「おはようございますハミちゃん様! そんな所に立たれてどうかされましたか?」

「……」

 まさに一触即発。

 パンパンに膨らんだ風船が今にも割れそうな緊張感がレストランに漂う。

「ま、マズイなっちー! ゲソにはちみつをかけた奴と同じくらいマズイなっちー!」

「はわわわ……どうしましょうはなっちーさん」

「座る場所、間違えてもうたか……」

 どうしよう……このままケンカになったらボクは二人を止められるのか?

 周りの様子を窺うように視線を左右に動かすと、深海さんがいつでも止めに入れるようゆっくりと立ち上がっている姿が目に映る。ボクも覚悟を決めないといけないかもしれない。

 静まりかえるレストランに無言の圧力が押しかかり、誰もがハミちゃんの口から飛び出すであろう怒声に覚悟を決める。そんな中、彼女の口から出た言葉はボク達の覚悟を安易に裏切る物だった。

「おはよう生田君。あたし、ロイヤルミルクティーが飲みたい気分なんだけど淹れてきてくれる?」

「喜んで! 心を込めて淹れさせていただきます!」

 柔らかな言葉に周りが呆気に取られる中、生田君が似合わない鼻歌を歌いながら厨房へと向かうとその場にいた女性陣が一斉にハミちゃんの元へ駆け寄った。

「び、びっくらこいたなっちよハミちゃん!」

「もう、寿命が縮むかと思ったよ……」

「やだ、あたしそんなに短気じゃないわよ?」

「え?」

「なにか云いたそうね指原さん」

「なななななんでもありませんッ!」

 眩しい笑顔で指原さんを威圧するハミちゃんに、胸を撫で下ろした深海さんが落ち着いた声色で尋ねる。

「でも、よく我慢できたねハミちゃん。私てっきり揉めると思っていたから……」

「そりゃあ、こいつどの面下げてとは思ったわよ? でも悔しいけど、口喧嘩じゃ生田君には勝てないからね。それなら思いっきりコキ使ってやろうって決めたのよ」

「い、イケメンなっちー! 姉御と呼ばせてほしいなっちー!」

「わ、わわわわ私も! あ、ご、ごごご迷惑でしたらすみましぇん!」

「姉御でも女王様でも好きに呼べばいいわ! ただし垣子って呼んだら抜歯だからね」

「姉御!」

「あ、あねご!」

「あはは! よかったね二人とも!」

 謎のテンションの女性陣にボクと遊木君が置いてきぼりを食らっていると、それに気付いたハミちゃんが不敵な笑みでボク達を見る。

「都築君も遊木君も、あたしの奴隷になりたいなら遠慮なく云ってね」

 そう云っていたずらに笑う彼女に指差されたボクは、遊木君と顔を見合いながらお互いに肩を竦めた。

「ホンマ、気ィ強い女やな。羽美と付き合う男は苦労するで」

「ハハ、ホントにね」

「ケンカ売るなら買うけど?」

 握った拳を見せ付けるハミちゃんに心底恐怖を抱いていると、トイレに行っていた梶路さんが少しだけ息を切らしながらレストランに戻ってきた。

「あのみなさん、今すぐ階段の所まで来ていただけませんか?」

「どうしたの梶路さん。そんなに慌てて」

「お手洗いから戻る途中モノクマさんに会って……四階を解放したからみんなを呼んでほしいと」

 四階が開かれただって?

 どうして急に……まさか一つの学級裁判が終わって新たな動機を作る為の舞台を用意したつもりなんじゃ……あいつならありえる。

「怪しすぎるなっちよ! 行かない方が良いなっちよ!」

「わ、私もそう思います」

「とはいえ、こんままやとあのクマ公がなに仕掛けてくるかわからへんで?」

 みんなが目に見える罠に右往左往していると、厨房にいた三人が騒ぎを聞き付けて現れる。紅茶を淹れているはずの玉村さんが何故おたまを持っているのかは気にしないでおこう。

「なになに? なんの騒ぎ?」

「四階に行けるようになったみたいよ」

「ええ!? っていうかいつの間にかハミちゃんがいるし!」

「そういや、二階と三階しか行けなかったんだったな」

 前掛けで手を拭いながら西尾君が天を煽いでいると、いつの間にか廊下に出ていた深海さんが今にも走り出しそうな勢いで足踏みをしていた。

「私、まだ起きて来ない三人を呼んでくるよ。どっちにしろみんな集まってからの方が良いし」

「そうだね。ボクも着いて行って良いかな深海さん」

「ありがとう都築君。助かるよ」

「それなら、俺達は先に三階の階段に集まりませんか? 麗しき人魚姫が宵闇のサキュバスを連れて来たら全員で四階に参るという事でいかがでしょう?」

「朝飯の支度も済んだからな。探索が終わってからみんなで食やあ良いだろう!」

「誰も貴様には訊いていない。口を閉じろ酵母菌」

「カッカッカ! パン職人だから酵母菌か! なかなか上手い事云うじゃねぇか生田!」

「……馬鹿の相手をするのはやめよう。脳が蝕まれる」

 あ、あの生田君が気圧されている……。

 西尾君のあっけらかんとした性格がここまで効くとは思わなかったな。

「気持ち悪い顔で見るなプランクトン。さっさと細菌共を起こして来い」

「云われなくてもそのつもりだよ」

 それ以上何も云わなくなった生田君を放置し、ボクは深海さんと一緒に焦る心を落ち着けるよう小走りでエレベーターへと向かった。

 

 男女別に宿泊室が別れている為一度深海さんと別れたボクは、未だ客室で寝息を立てていた紫中君と太刀沼君を叩き起こして三階のエントランスへと向かう。

 ほぼ丸一日寝ておいて未だ眠そうに目をこする二人を引きずりながらエントランスに向かうと、今日初めて顔を見る夢見さんを始め、他のみんなも階段の前に集まっていた。

「ようやく来たわね。遅いじゃない都築君」

「後ろの二人を見てよくそんな事が云えるねハミちゃん……」

「ウィ~ッス。朝っぱらから元気だなぁ垣子」

「だから垣子って呼ぶんじゃないわよ! あと、もうすぐ10時よ」

「俺様にとっちゃ午前中は朝なんだよ」

 最早定番となりつつある二人のやり取りを眺めていると、ずっと階段を見上げるように見ていた深海さんが覚悟を決めたように拳を握った。

「それじゃあ、行こうか」

「せやな」

「ところで、エレベーターと階段、どっちから行くんだ?」

「エレベーターだと……全員は乗れないかな。階段を登っていこうよ」

「マジかよ!? 面倒くせーな。これもどっかの着ぐるみのせいだな」

「アタイは重くないなっちー! オトメに対してデリカシーがないなっちよ太刀沼君!」

「どこがオトメだこの寸胴が! それに体重の事なんざ聞いてねーよ! テメェは幅取り過ぎなんだよボケ!」

「云ったなっちね!? こうなったら眼球を取り出しても洗いきれない程の花粉をその目にブッ刺してやるなっちー!」

「もう、二人とも落ち着いて」

 深海さんが太刀沼君とはなっちーの仲裁に入っていると、一歩前に出た生田君が相変わらず腹が立つ笑顔で無駄に芝居掛った台詞を云う。

「さあ、女神達は俺の後ろにお下がりください。仮にマシンガンの雨が降り注いだとしても、貴女方はこの俺が必ずお守りしてみせます! この命に代えても!」

「はいはい」

「それじゃあお願いするね」

「はい! ……というわけだ。俺の前にはお前が立てプランクトン」

「え? なんでボクが」

「俺は命を掛けて女神達を守らなければならないのだ。だからキサマが俺の盾になれ。文句はないだろ?」

 相変わらず無茶苦茶な……っていうか答えになってないし! 一度撃たれて無駄な脳みそを削った方がいいんじゃないかこいつ。

「どうした怖気づいたか?」

「は、はあ? そんなわけないし!」

「都築さん、無理なさらなくても良いんですよ?」

「大丈夫だよ梶路さん。……わかった。ボクが先頭を歩くよ」

「ふん、ならさっさと出ろ。無駄な時間をかけるな」

 怒る事自体エネルギーの無駄遣いだと気付いたボクは、生田君の雑言を無視しながら四階へと続く金色の階段を登る。

 一段、また一段と登る都度、背中に刺さるみんなの視線も相まって鼓動が激しく飛び跳ねるのを感じていると、短いのに長く感じる階段はようやく踊り場へと辿り着き、目の前に伸びた折り返しの階段の先には無機質な空間が少しだけ見えた。

 さすがにこの階段を登ったら鉄屑と硝煙が吹き荒ぶヒャッハーな世界が待っているとは思えないけれど、一応の覚悟はしておいた方が良いかもしれない。

「どうしたプランクトン。キサマの骨なら野犬に食わせてやるから早く進め」

「まさかビビってんのか都築? ゲハハハ!」

「早く進みなさいよ!」 

 返事をするのも煩わしいからあえて無視してボクは進む。というか駆け登る。

 もうどうとでもなれ! 撃たれてもその時は梶路さんの膝の上に倒れるんだ! 行ける! 今のボクならどこまでだって行ける!

 決して自棄を起こしたわけではなく勇往邁進に金色の階段を駆け上ると、目の前に広がったのはヒャッハーな世界でもドッヒャーな世界でもなく、ボクが見た無機質な空間はなんだったのかと思わせるような、眩しくて、そして心躍るそんな世界だった。

 

「おい! 急に走るんじゃねぇよ都築!」

「ハァ、ハァ……あれ? なにここ広い!」

「それに、とっても涼しいです」

 よく効いた冷房に連なるショップ。

 幼い頃、休日に両親や友人と共に思い出を作った場所がそこにはあった。

「ここは……どうやらショッピングモールみたいだな」

「さすがは豪華客船。久しぶりに買い物し甲斐がありそうじゃない!」

「ポップコーンの機械とか置いてへんかな」

 新たに解放されたエリアにみんなが興奮していると、何が起きているかわからないかのように困惑する梶路さんが隣に立つ深海さんに質問をする。

「あの、ショッピングモールとはなんですか?」

「簡単に云うと、建物の中にたくさんのお店が並んでいる場所の事だよ」

「なるほど。だから皆さん、こんな楽しそうなんですね」

「そうだね。正直云うと、私も結構ドキドキしてるかも」

「ふふ、そんな深海さんも素敵だと思いますよ」

 なんだろうあの空間……ボクも混ざりたいな。

 階段付近で微笑ましく会話をする梶路さん達を見つめていると、あちらこちらに飛び跳ねていたはなっちーが獣の如く高らかに叫ぶ。

「キャッハァァァァァァァァァァァァァァァァ! もう我慢出来んなっちー! はなっちーは一足先に探索するなっちよぉ!」

「ちょっと! あたしを置いてくんじゃないわよ!」

「ま、待って下さいはなっちーさん! ハミ……じゃなくてあ、あねごさ~ん!」

「お待ちください女神達! この生田厘駕、皆様の荷物持ちを承りますよ!」

 嵐のように去って行ったハミちゃん軍団(仮)と生物学者(笑)

 取り残されたボク達は、そわそわと疼く心を落ち着けながらお互いに目を配る。

「あ~、これからどうしようか?」

「まとまって行動したらええんやないか?」

「そうだね。何があるかわからないし、落ち着いて行動しようね……高校生らしく」

「う、うん。高校生……だもんね。ぼく達」

「ああ、あんな風にはしゃぐのはさすがにな……高校生やし」

「……」

 自分達は高校生。

 たかがショッピングモールに子供のようにはしゃいだりしない。

 そう自分に云い聞かせるように皆が目を背けていると、階段の手すりに寄りかかった紫中君が欠伸交じりに眠そうな目でボク達を見た。

「ふあぁ……別にいいんじゃない? みんな、好きな所を見て回れば良いんだよ……高校生らしくね」

 閉じそうになる瞼に最小限抗う紫中君の言葉が、それまで留めていたみんなの感情を一気に解き放つ。

「だ、だよなあ! そうと決まりゃあ俺様は先に行かせてもらうぜ! イカしたアクセが売ってるかもしれねーしな!」

「フフフ、ここまで興奮したのは、一枚の聖衣を賭けて熟練の猛者達と争った聖戦以来ね……ッ!」

「確かスパイスが切れそうだったんだよな。よし、いっちょ探してみるか!」

「駄菓子を売っている店はどこや?」

「ボーリング場はあるかな~♪」

 一度解き放たれた感情は留まる事なく噴出し、一か所に固まっていたみんなは己の欲望に従うように一目散に散らばった。学級裁判の事もあって余程溜まっていたに違いない。

 ボクはこれからどうしようかな。いろいろ見て回りたいけど、これといって欲しい物も特にないし……。

「あの、都築さん」

「どうしたの梶路さん?」

「もし予定がないのなら、わたし達と一緒に回りませんか?」

「え? それって……」

「デートだよ。都築君♪」

 梶路さんの肩に手を添えながらお茶目にウインクをする深海さん。

 瞬間、ボクの頭は一気に沸騰した。

 


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