転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編117話 模擬戦

 現在、UC世界の月においてはギャン・クリーガーとガルバルディβの戦いが行われていた。

 どちらも、まだディアナが開発した先行試作機といった機体であり、実際に量産された機体ではない。

 そんな戦い……模擬戦の中で、どこか異常がないのかどうかを確認する必要があり、それを見極める為の模擬戦だった。

 

「どうしたんだい? そんな様子じゃ、せっかくの新型の性能が泣くよ!」

 

 シーマがそう言いながら、ビームライフルを撃つ。

 当初ギャン・クリーガーの設計案が出された状態の時は、速射砲……実弾の武器を使うものの、ビームライフルを使う予定はなかった。

 しかし、その設計案を最初にルナ・ジオン軍のエース級パイロットの見せたところ、皆から反対意見が来た。

 これからのMSは、ビームライフルが一般的になるのに、何故実弾兵器なのかと。

 勿論、1年戦争においてビグ・ザムが使ったIフィールドを思えば、ビーム兵器以外にも実弾兵器の必要性が消えるという事はないだろう。

 だが、それでもビームライフルの方が重要な兵器になるのは間違いないと、そう皆が判断したのだ。

 同時に、それは宇宙をそこまで汚さないように配慮しているという事も意味している。

 ビーム兵器の場合は、時間が経てばビームの威力が消滅し、周囲に被害を及ぼすような事はない。

 しかし、実弾兵器は違う。

 マシンガンだろうがミサイルだろうが、実弾兵器の類は一度発射すればそれは何かに命中するまでは止まらない。

 それこそ、下手をすればコロニーに穴が空いたり、飛んでいる宇宙船に被害が出たりといったような事になりかねないのだ。

 その辺の事情を考慮しても、やはりビーム兵器の方が色々な面で上回っていると、そう判断されたのだ。

 幸いにも、ルナ・ジオン軍は1年戦争中にギニアスが開発した、ゾックの持つ4000kw近い出力を持つ動力炉をベースに開発した、独自の動力炉がある。

 ビームライフルを使用するには、動力炉の出力が重要になってくる。

 実際、ジオン軍が使っていたMSは、水陸両用型で使っているような例外を除けば、多くが動力炉の問題でビーム兵器を使用出来なかった。

 ……中には、ケンプファーのように動力炉の出力を機体性能の方に回したといった機体もあったが。

 もっとも、そのケンプファーにしても、ビームライフルは使えないがビームサーベルは使えるようになっていたのだが。

 ともあれ、ビーム兵器を使うには動力炉が重要となる。

 そしてゾックの動力炉をベースに開発された新型の動力炉は、ビーム兵器を使うには十分な出力を持っていた。

 とはいえ、ゾックの動力炉は水陸両用MSで、海水を使って冷やす事を前提としているMSだ。

 それを海水を使わずに冷却する必要があるので、どうしてもゾックの使っていた動力炉よりは出力が下だったのだが……それでも、ギャン・クリーガーやガルバルディβがビーム兵器を使うには十分だった。

 ちなみに、ビームライフルの他にもシールドとビーム砲が一体化したビームランチャーという武器もあるのだが、この辺はパイロットが自分で選ぶ形となっており、シーマはシールドではなくビームライフルを選んでいた。

 

『くっ! 負けないわよ!』

 

 ガルバルディβに乗っているクリスの悔しそうな……そして苦しそうな声がシーマの耳に聞こえてくる。

 ギャン・クリーガーの攻撃を回避する事は、それだけ苦しいのだろう。

 元々、ギャン・クリーガーはエース用のMSとして開発されており、ガルバルディβは普通のパイロットが乗るMSとして開発された。

 言ってみれば、ザクⅡS型とザクⅡF型が戦っているような感じだ。

 いや、ギャン・クリーガーとガルバルディβの間にある性能は、それ以上のものだろう。

 そしてパイロットも、ギャン・クリーガーに乗っているのは宇宙の蜉蝣の異名を持ち、セイラとはまた違った意味でルナ・ジオン軍の象徴的な存在とされている、シーマ・ガラハウ。

 ガルバルディβに乗っているのは、パイロットにしてMS開発の能力も持ち、精鋭と呼ぶに相応しいだけの実力は持つが、それでも異名持ちにはなれないクリスチーナ・マッケンジー。

 お互いの実力差は明らかであり……にも関わらず、こうしてクリスがシーマに食らいつく事が出来ていたのは、ガルバルディβの開発にクリスも参加しており、そのおかげで機体特性を十分に理解していたからだろう。

 元々はペズンで開発されていた、ガルバルディ。

 フィーリウスというザビ家の血筋と近しいという人物だったが、その能力は非常に高く、ガルバルディの開発にも大きく寄与していた。

 そんなフィーリウスの意見を聞き、全天周囲モニタやリニアシートといった最新技術を取り込み、それ以外にも様々な最新技術を注ぎ込んで、ガルバルディβは開発された。

 基本的に宇宙用ではあるのだが、ジオン軍のザクと同様に汎用性を重視しており、多少性能は落ちるが地球でも使用可能となっている。

 ……とはいえ、ルナ・ジオン軍の地球での領土となるとハワイ周辺だけだ。

 多数の島が存在している場所なので、汎用MSであってもそれなりに使えるのだが……それでもやはり、主力は空を飛べるグフ・フライトタイプであったり、ドム系やザメルのようにホバー機能を持つMSであったり、あるいは水陸両用MSであったりするのだが。

 

「ガルバルディβはパイロットの追従性が高いんだ。その性能を十分に活かすんだよ! ほらほら、そのまま黙ってやられるつもりかい!?」

 

 煽るように言いながら、シーマのギャン・クリーガーから放たれるビームライフルが放たれる。

 とはいえ、その攻撃はガルバルディβの側を通りはするが、命中するといったような事はない。

 もっともこれは模擬戦である以上、ビームの出力は最低限に設定されており、実際に命中しても殆ど影響はないのだが。

 それでも、やはり撃たれるというのは面白い訳ではない。

 同時に、こうして今のように意図的に攻撃を外すといった真似をされることも、当然ながら面白くはなかった。

 

『くっ!』

 

 このまま射撃戦では勝ち目がない。

 そう判断し、クリスはビームサーベルを手に全速力で前に出る。

 汎用型というだけあって、ガルバルディβはビームライフルを使った射撃戦も、ビームサーベルを使った格闘戦のどちらも得意としていた。

 それだけに、射撃の技術では勝ち目がないが近接戦闘なら……とそう思ったのだろう。

 だが、それはクリスがギャン・クリーガーの性能を甘く見ている事の証でもあった。

 元々、ギャンは汎用MSとして開発されたゲルググと違い、ビームサーベルを装備した近距離戦特化のMSとして開発された。

 一応射撃武器は持っていたが、それはシールドに内蔵されたミサイルの類だけだ。

 そんなギャンをベースとして改修された、ギャン高機動型。

 ギャン・クリーガーは、そんなギャン高機動型をベースに開発されたMSだった。

 つまり……ビームライフルを使った射撃戦も十分にこなせるが、それ以上に近接戦闘が得意なのだ。

 一般的な……ジムやガンダムといった連邦系のMSが使うのと同系統のビームサーベルを構えるガルバルディβに対し、ギャン・クリーガーが装備する近接戦闘用のビーム兵器は、ビームランス。

 それこそ、中世に使われていた馬上槍のような形状をしている。

 ビームサーベルと同じく、柄の部分は手に持てるようになっており、そこからビームで出来た馬上槍のような形をした、巨大なビームの槍が形成されるのだ。

 馬上槍の形をしてはいるが、ビームで構成されている以上、当然ながらそのビームランスの切っ先以外の場所に触れても、それは大きな被害を受ける事になる。

 ビームランスは巨大なビームソードであると言っても、決して間違いではない。

 クリスもそれは分かっているのだろうが、ビームサーベルを使っての攻撃でどうにか対応しようと、そう考えての行動だったのだろうが……

 

「甘いねぇ」

 

 ギャン・クリーガーに向けて振るわれたビームサーベルの一撃を回避すると、そのままビームランスを振るう。

 横殴りの一撃。

 攻撃を回避したところでカウンター気味に放たれた一撃である以上、クリスにもその一撃を回避する真似は出来ず……命中判定が出る。

 

『そこまで!』

 

 と、その反応を察知したのだろう。

 通信でディアナのオペレータがそう言ってくる。

 それを聞き、シーマはクリスに向かって通信を送る。

 

「残念だったね。とはいえ、ガルバルディβは問題ない機体だ。それはクリスが証明したと思うけど」

『一方的にやられたようにしか思えませんでしたけどね』

「その辺は、腕の差もあるからしょうがないさ。それに、機体の性能差も」

 

 エース用のギャン・クリーガー、一般兵士用のガルバルディβでは、当然その性能は大きく違う。

 もっとも、コスト的な意味でもギャン・クリーガーの方が上で、ギャン・クリーガーを1機製造するのに必要なコストは、ガルバルディβ2機分に等しい。

 普通なら、そんな高コストの機体を製造するのは、軍としては避けたい。

 しかし、ルナ・ジオンは月を支配している。

 月を制する者は宇宙を制す。

 それは、UC世界ではよく知られた言葉の1つでもある。

 そんな経済的な重要拠点を有しており、1年戦争での勝者という事もあり、移住希望者は戦争が終わっても増えていた。

 何しろ、街中にはコバッタや量産型Wが多数存在し、何らかの違法行為をした場合は即座に捕らえられるのだ。

 戦後という事で地球や宇宙も決して治安がよくない中、月の治安のよさは多くの者にとって魅力的だった。

 勿論、中には量産型Wやコバッタに見張られているようで気にくわないといった者もいるのだが、特に何か後ろ暗いところがない者にしてみれば、その辺はあまり関係ない。

 どうしても嫌だと言うのなら、それこそ月から出ていけばいいだけの話だ。

 戦後の混乱も何もなく、平和に暮らせる場所として、月には多くの移住希望者がいた。

 税金の類もコロニーと比べれば遙かに安く、仕事も多数ある。

 また、コバッタや量産型Wのおかげで企業や役人も不正を働けば即座に発覚し、強制労働となる。

 ……もっとも、その強制労働はあくまでも農業であり、強制労働という言葉で思い浮かべるような過酷な仕事ではない。

 ただし、強制労働中の食事はマブラヴ世界から輸入している、改良前の合成食なのだが。

 働いている者の中に料理が出来る者がいればまだしも、ろくに料理の技術がない者の集まりだと、食事は地獄と化す。

 また、今までは企業で働いたり、役人として働いていた者にしてみれば、農業という作業は肉体的にかなり厳しいだろう。

 そのような理由から、月で違法行為を行う者は皆無となった……訳ではないが、それでも地球やコロニーと比べれば圧倒的に少数なのは間違いない。

 後ろ暗いところのある者にしてみれば、非常に暮らしにくいが、そうでない者にしてみれば非常に暮らしやすい。

 そうである以上、多くの者が移住を希望するのは当然だろう。

 また、これは公にはなっていないものの、ルナ・ジオンはシャドウミラーの協力を得て、転移技術を使用出来る。

 これにより、連邦では数年がかりで行き来する木星との間を一瞬で行き来する事が出来て、そことの貿易によって大きな稼ぎを得ており、それもまたギャン・クリーガーのような高コストの機体を製造する糧となっていた。

 

「ふぅ、さっぱりするね」

 

 模擬戦を終え、シャワーを浴びて汗を流したシーマは、バスタオルを身体に巻いただけの格好で、そう呟く。

 もし男が見れば、その強烈な女の色気に我を失うといったような事があってもおかしくはないのだが、幸いな事にここにいるのはシーマと……

 

「シーマさん、少しはしたないですよ」

 

 こちらはバスタオルではなく、Tシャツのようなラフな格好をしているクリス。

 そんなクリスが、シーマに注意していた。

 ……とはいえ、クリスもまた湯上がりということで瑞々しい魅力を持っており、その美貌もあって男が見れば唾を飲み込んでもおかしくはなかった。

 

「何言ってるんだい。あたしはマハル育ちなんだ。これでもしっかりとしてる方さね」

 

 マハル……と口にした時、少しだけ悲しそうな表情を浮かべるシーマ。

 シーマの故郷たるマハルは、1年戦争の中でギレンの指示によってソーラ・レイに改造されている。

 つまり、シーマの故郷は消滅してしまった。

 とはいえ、今のシーマにしてみれば月が自分の新たな故郷と認識しているのだが。

 シーマの事情については、マハルの件も含めて広まっている。

 当然クリスもそんなシーマの事情を知っているのだが、シーマはその件で気を遣われたくないと知っているのだろう。

 すぐに話を逸らす。

 

「それで、今日の模擬戦……ディアナの方ではどう判断すると思いますか?」

「そうだね。問題はないと思うよ。どっちもゲルググやジムと比べても数段上をいく性能を持っている。……とはいえ、こういう技術は日進月歩だ。特にジオン共和国は数を揃える事が出来なくなった分、質でどうにかするだろうしね」

 

 ガルマが率いる事になった、ジオン共和国。

 だが、腕の立つ技術者は既に多くをルナ・ジオンが引き抜いており、アナハイムもそれなりに技術者を引き抜き、更にはガルマではなくキシリアの下に向かった者もいる。

 そういう意味では、質という点でも新型MSを開発するのは難しいのだろうが……

 それでも、シーマとしては連邦の目を逸らす為にも、ジオン共和国には頑張って欲しいと、そう思うのだった。


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