パーパルディアからの殲滅戦の宣言。
パーパルディアにしてみれば、自分達こそが有利であると、そう考えていたのだろう。
でなければ、そのような宣言など出さないだろうし。
実際、パーパルディアにしてみれば日本は……そして日本を通して接触するしかなかった俺達シャドウミラーは、文明圏外の国と認識していたらしい。
それでもフェンで日本に負け、ニシノミヤコで俺達に大きな被害を受け、パーパルディアの軍事施設に大きな被害を与えたといったような事になれば、普通なら彼我の実力差を理解出来るだろう。
だが、レオンが日本政府との交渉で入手した情報によると、パーパルディアの人間は頭が硬いというか、特権意識に凝り固まっており、シャドウミラーという今まで聞いたことのない国が自分達を凌駕する実力を持っていることは、信じられないと思っているらしい。
あるいは、信じたくないのか。
ともあれ、そのような真似をされるとシャドウミラーとしてもそのままには出来ない。
……既にパーパルディアの軍事施設を襲撃したんだから、その時点で既に戦争状態であったと言われても、否定は出来ないのだが。
そんな訳で、シャドウミラーとしても対処することになり……パーパルディアという国を包囲するようにメギロートやバッタ、イルメヤを配置する。
ちなみに従属国に関しては、エザリアが手を回して中立姿勢を取ることにさせた。
幸いにも、以前企業からの依頼を受けてパーパルディアの軍事施設を攻撃した事により、パーパルディアの戦力は多数がダメージを受けているので、従属国から駐屯軍の大半が引き上げられている。
従属国の連中にしてみれば、そのような状況でパーパルディアの者達に対処するのは、難しい話ではない。
何しろ、パーパルディアから派遣された者達は、今まで好き勝手にやって来たのだ。
戦力がいなくなっても、殆どの者はその行動が変わらず……結果として、大半の者が従属国の者達によって見るも無惨な姿となって殺される事になる。
とはいえ、その連中がやって来た事を考えれば当然なのかもしれないが。
街中に出ては、難癖を付けて店から商品を奪い、それに抗議すれば気にくわないからという理由で処刑、美人や可愛い女がいれば強引に連れていく。……そして連れていった先でそのような女達がどのような目に遭うのかは、考えるまでもないだろう。
そんな者達だけに、迎えた結末は当然のものだった。
そして、パーパルディアの中でも本当に少数の善良な者達は、捕まえられはしたが軟禁といったような形になっていたが……そんな者達は非常に少ない。
「では、降伏するように言ってきます」
「必要はないと思うけどな。一応、気をつけろよ。敵が何かしてきたら、反撃しても構わない」
「は!」
そう言い、量産型Wは街に向かう。
「大丈夫かしら?」
「マリューが心配するのも分かるけど、量産型Wだぞ? パーパルディアの人間が何をしようと、単独でどうにかなるだけの能力は持ってるよ」
心配そうなマリューにそう告げる。
実際、量産型Wは生身での戦いという点においても大きな力を持つ。
凛の持つ魔術刻印と全く同じ……といった訳ではないが、ガンドを放つ事は出来るし、金ぴかの身体から培養された細胞が植え込まれているので、サーヴァントの力を多少なりとも持つ。
とはいえ、本来なら量産型Wはパイロットとして運用されるのが前提としているのは間違いないのだが。
もっともそんな量産型W達だが、ホワイトスターではパイロットでも何でもなく牧場を任されていたり、畑仕事をしていたりといったような事もあるのだが。
ともあれ、高い能力を持っている以上は現在俺達の視線の先に存在する街を……正確にはその街の前で俺達を迎え撃とうとしている軍隊を前にしても、信じて任せることが出来る。
「あ」
不意にマリューがそう告げる。
そんなマリューの言葉に、視線を量産型Wの方に向けると……そこでは、何人もから銃撃を受けている量産型Wの姿があった。
とはいえ、火縄銃より少しはマシといった程度の銃であり、そんな攻撃が量産型Wに通じる様子はない。
そのまま敵の攻撃を回避しつつ、量産型Wはこっちに向かって戻ってくる。
「申し訳ありません。降伏させるのに失敗しました」
敵の集中攻撃を受けたのだが、それでも全くダメージを受けた様子はない。
この辺り、金ぴかの細胞を使われているだけの事はある。
……幸いなのは、金ぴかの細胞は使われていても、その性格の影響は受けていないといったところか。
「気にするな。この状況でも向こうが降伏をしないというのは、向こうが選んだ事だ。そうである以上、こちらとしてはもう向こうの心配をする必要もない」
そんな俺の言葉に、マリューは悲しそうな表情を浮かべるものの、何も言わない。
マリューにしてみれば、現在の状況に思うところはあるのだろうが……それでも、パーパルディアを相手に中途半端な真似をするのは許されないと、そう理解しているのだろう。
だからこそ……戦闘に関しては、蹂躙と呼ぶに相応しい光景となった。
イルメヤが地上を真っ直ぐに進み、メギロートとバッタが空中から襲いかかる。
パーパルディアの軍隊は、魔法であったり銃であったり……中には大砲に近いような武器を用意していたのだが、そのような攻撃で無人機をどうにか出来る筈がない。
中には、上手い具合に魔法が命中してダメージを与えるといったような事もあったが、ダメージを受けた程度で無人機が怯む筈もない。
ダメージを受ければ、それなりの対応を行う。
ただ、こうして見る限りでは魔法の方が銃弾よりもダメージを与えているのは間違いない。
これはかなり興味深い現象ではあるな。
「マリュー、やっぱり魔法の方が無人機には効果があるみたいだな」
「そうね。銃弾の類であれば、無人機の装甲を貫くことは出来ないわ。徹甲弾の類でもあれば話は別かもしれないけど、見た限りではそういうのもないし。けど、そんな銃撃に対して、魔法は範囲攻撃というか、液体状の攻撃……というのは少し違うかしら。とにかく、銃弾に比べると広い範囲に攻撃が出来るから、その際に装甲の隙間とかから内部にダメージを与える事も出来るといったところかしら」
「装甲の隙間か。そうなると、防ぐのは難しいな」
装甲の隙間というのは、機体を動かす必要があるからこそ、そのような隙間が存在しているのだ。
そうである以上、単純に装甲を塞ぐといったような真似は、出来る筈もない。
そうなると、無人機の受ける被害はどうにもならないダメージと……一種の必要経費的なダメージだと思った方がいい。
とはいえ、そんな偶然で倒せるのは無人機の中のほんの一部でしかない。
そうである以上、戦っているパーパルディア軍の被害は、考えるまでもないだろう。
「他の戦場でも、無人機は多少なりともダメージを受けてると思うか?」
「パーパルディア軍の戦力は銃の類が多いようだから、そこまで心配はいらないと思うわ。寧ろ、都市とかじゃなくてこういう都市の方が魔法を主力としてる分、危険でしょうね」
なるほど。マリューの言葉には一理ある。
パーパルディアの主力武器は、魔法よりも銃だ。
だが、無人機にしてみれば、火縄銃とそう代わらないだろう威力の銃よりも、魔法の方が苦手となる。
「なら、そろそろ俺も行くか」
「……アクセルが行くなら、それこそ無人機なんて必要ないんじゃない? 今更の話だけど」
そんなマリューの言葉を背にしながら、俺は既に半壊状態……いや、全滅寸前にまで被害を受けたパーパルディア軍に向け、多数の炎獣を放つのだった。
「これが、パーパルディアの首都か」
パーパルディアとの戦いが始まってから数日、既にパーパルディアに残る拠点は、この首都エストシラントだけとなっていた。
日本にも劣る戦力しか持たないパーパルディアだが、それでも現実を見る事が出来ず……自分の信じたい事だけを信じ、それに従ってはシャドウミラーと戦っては滅ぼされていった。
ちなみに、村、街、都市といった場所の住人は、出来るだけ殺さないようにした。
それは別に親切心からという訳ではなく、その生き残りの全てをエストシラントに向かわせる為だ。
実際には、パーパルディア国内での移動速度を考えるとまだエストシラントに到着していない者も多いのだが、それでも既にかなりの人数がエストシラントに収納されている。
当然の話だが、それだけの人数を収納すれば首都であっても許容人数を超えるのは間違いなく……バッタで偵察させたところ、建物の中に入りきれずに道路に寝転がっている者も多数いるらしい。
ちなみにエストシラントの制空権は既にシャドウミラーが確保しているし、無人機がエストシラントを完全に包囲しており、逃げ出すような場所もない。
地下通路とかを使って遠くまで移動するといったような事が出来るかもしれないが、そちらの方はどうしようもない。
「アクセル、そろそろ降伏勧告の時間よ」
レモンに促され、俺は拡声器のスイッチを入れる。
パーパルディアに通信機の類もあるのは知っているが、そっちは俺が知っている形式とかなり違うんだよな。
科学ではなく魔法を使った通信機だけに、それはしょうがない。
技術班なら、そんな通信機にも割り込めるといったような機械を作る事も出来るのだろうが、今は他にも色々と興味深い技術の方に集中している。
「さて、パーパルディアの者達、聞こえているか? 今の状況は既に理解しているだろう? もうお前達に勝ち目はない。このまま戦えば、お前達が宣言した殲滅戦が、そっくりそのまま返されることになる」
その言葉に、エストシラントの内部で動揺した様子が理解出来る。
今までの経験からか、もしくはエストシラントの防壁には余程に自信があるのか……あるいは、この状況になってもまだ現実を見る事が出来ないのか。
その辺の理由は俺にも理解出来なかったが、籠城をする事に決めたのは間違いないらしい。
もっとも、現状でパーパルディアの採れる選択肢としては、それは決して間違いではない。
そもそも、戦力の差が比べものにならないくらいにあるのだから、まともに戦っても勝ち目はない。
奇襲を仕掛けて相手の大将首……つまり俺を殺すといったような事が出来れば、あるいは何とかなるかもしれないが、これもまず無理だろう。
シャドウミラーの本拠地を攻撃する。
これなら、可能性はあるかもしれないが、その本拠があるの世界の狭間と呼ぶべき異次元だし、そこに行くゲートは日本に設置されているので、パーパルディアにはそれを攻撃する手段もない。
それ以外だと、万が一にもどこか他の場所から援軍が来るというのを期待するか、あるいは俺達の補給が限界を迎えるかを期待し、籠城するしかない。
だが……
「籠城をしているようだが、それでどうするつもりだ? 制空権は既に俺達のものだ。幾ら城壁があったところで、その気になればすぐにエストシラントの中に入れる。それ以外にも、現在エストシラントの内部には限界以上の人数がいるのを知っている。最悪、こうして包囲したまま消耗戦に持ち込んでもいい」
建物に入りきれないだけの人数がいる以上、食料の消耗は激しい。
エストシラントは大都市と呼ぶに相応しい大きさを持つが、数日程度ならまだしも一週間、半月、一ヶ月……といったように時間が経過すれば、当然ながらその間に食料の多くは消耗してしまう。
そうして最後に残るのは、餓死か……もしくは、比喩でも何でもなく、文字通りの意味で人を食うしかない。
「降伏すれば、敗戦国としてそれなりの扱いはしてやる。死にたくないのなら降伏しろ……っと」
拡声器を使って喋っていた俺に向かい、銃弾が飛んでくる。
それを摘まみ取り、再度口を開く。
「こうして攻撃をしてきたということは、降伏をしないと判断した。殲滅戦を宣言したくらいだ。お前達の現実を見る事が出来ない蛮勇が何をもたらすか……思い知れ」
その言葉と共に、攻撃開始の合図を出す。
メギロートのサークルレーザーと、イルメヤの尻尾から放たれるガトリングフォトン、そしてバッタから発射されたミサイルが、エストシラントの防壁に次々と命中していき……本来なら大抵の攻撃は防げる筈の防壁は、あっさりと破壊される。
また、地上で攻撃が開始されるのと同時に、メギロートとバッタが空を飛んでエストシラントに襲撃する。
エストシラントに残っていた戦力が、何とかして空を飛んでいるメギロートやバッタを攻撃しようとするものの、そのような相手には先制攻撃が行われ、それこそ戦力の大半は肉片となる。
殲滅戦に対する反撃という事で、今までのように民間人を殺さないようにとは命令していない。
それでもこれだけの人数がいるとなれば、全員が死ぬといったと事はないだろう。
無人機達も、無意味に一般人を殺せといったような命令はされていない。
そうして……結果として、戦闘開始から20分と掛からずにエストシラント内部の戦力は殲滅されたのだった。