ビルバインと戦った日から、数日。
オーラソードライフルを奪った隙を突かれてビルバインに逃げられたというのは、ある意味で失態だった。
だが……オーラソードライフルという武器は、その失態を補ってあまりある程の新技術が詰まってると判断されたのか、ドレイクからは特に問題ないと言われる。
とはいえ、当然だが何の代価もなしにという訳ではない。
このオーラソードライフルの解析結果はドレイク軍でも共用されるという事になった。
とはいえ、正直なところその程度であれば全く問題なかったりする。
オーラバトラーや、使用武器に関しての技術は俺にはない。
勿論、オーラバトラーもショットが知っている地上の技術を流用しているので、全く何も分からないといったことはないものの、それでも恐獣の素材に手を加えてオーラバトラーの部品としているといったような感じの事は、殆ど分からなかった。
一応キッス家にもその手の技術者はいる。
何しろキッス家で使っているオーラバトラーの整備や修復であったり、あるいはヨルムンガンドにある機械の館に関してはその手の知識や技術が必須だし。
そういう意味では、オーラソードライフルの解析もやろうと思えばヨルムンガンドの面々だけで出来たのだろうが……それでも、キッス家の技術者とショットやゼットといった者達を比べれば、圧倒的にショットやゼットの方が上だ。
オーラソードライフルの解析を完全にやるとなると、やはりショットやゼットに任せた方がいいだろうという事で……
「へぇ、これがオーラソードライフルか」
ヨルムンガンドの機械の館で、ゼットの驚くような声が響く。
そう、本来ならラース・ワウで仕事をしている筈のゼットだったが、オーラソードライフルの解析の為に急遽俺が影のゲートを使って連れてきたのだ。
本来ならショットも連れてきたかったのだが、さすがにショットとゼットの2人が揃ってラース・ワウからいなくなるというのは、何かあった時に問題がある。
タータラ城とラース・ワウの間で通信が繋がればいいのだが、それは無理だし。
もしショットとゼットが揃ってこっちにいる時に何か問題があったら、取り返しがつかない。
そんな訳で、ゼットだけがこっちに来る事になった。
ちなみに、ゼットにしてみればこっちに来る事に不満はなかったらしい。
……恋人のガラリアもこっちにいるしな。
寧ろ、ゼットにしてみれば今回の件は恋人に会う機会という事で、嬉々としてこっちに来る件を了承した。
ガラリアの件だけではなく、オーラソードライフルという未知の技術についても興味を示しているのは間違いなかったが。
「じゃあ、これから色々と調べてみる。ただ、これが本当にアクセルが予想しているようにオーラ力をビームのような形にして使う事が出来るというのなら、アクセルは……いや、サーバインでは使わない方がいいだろうな」
「やっぱりそうなるか?」
オーラ力をビームっぽい感じにして発射するというのが、俺の予想だ。
そうである以上、俺がそれを使わない方がいいというのは、明らかだった。
何しろ、俺が普通のオーラバトラーに乗った場合、オーラコンバータが俺の魔力を吸収しきれずに爆発したり発火したりする。
俺の持つ魔力とオーラ力というのは、エネルギーとしての密度が違いすぎるのだ。
そうである以上、もし俺がオーラソードライフルを使おうものなら、どんなに最上の結果となっても、1発撃つ事が出来てオーラソードライフルが破壊されるというものだろう。
最悪の結果となると、1発も発射する事なくオーラソードライフルが壊れるといった感じか。
「ああ。アクセル用のオーラコンバータ……の技術を流用すれば、あるいはどうにかなるかもしれないが、もしそういう風にするにしても、まずこれがどういう技術で動いているのかといった事を解析する必要がある。すぐに使うといったようには出来ないな」
そんなゼットの言葉に、俺は残念な思いを抱く。
とはいえ、これを入手した時からその辺については予想していたので、そこまでショックを受けた訳ではないのだが。
「なら、解析の方を頼む。もしオーラ力をビームとかに変換出来るのなら、オーラバトラーを開発する上でも大きな意味を持つだろう?」
「それは……まぁ、そうだな」
ん? てっきりもっと喜ぶのかと思ったが、予想外の反応だな。
「どうかしたのか? 何だか俺が予想していたのとは違う反応だが」
「いや……実はな、ショットと話していて、オーラバトラーはこれ以上の発展が望めないんじゃないかって話になってな」
「それはまた、随分と急な話だな」
最初のオーラバトラーのゲドが開発されてから、まだそこまで時間は経っていない。
そんな中で、もうオーラバトラーの発展が望めないというのはどうなんだ?
まぁ、確かにズワァースの説明において、オーラバトラーの最終形と言っていた覚えがあるが。
あれは、現時点において最終形という意味だと思っていた。
例えばUC世界の1年戦争でガンダムが開発されたのは、連邦軍が当時持っている技術の粋を込めて作られている。
ズワァースもそういう意味だと思っていたのだが、ゼットの様子を見る限りでは俺が心配しているように、本当の意味でオーラバトラーの最終形であると、そう言ってるように思えたのだ。
急速に技術が発展した以上、これ以上新型のオーラバトラーを開発する事は出来ない、か。
勿論、機動力や防御力、攻撃力に特化しているといったような、そういう意味での新型を開発しようと思えば出来るだろうが、それは新型というよりはバリエーション機といった表現の方が相応しい。
これから新型のオーラバトラーを開発するとすれば、それこそ基礎技術をしっかりと高めていく必要がある筈だった。
「けど、このオーラソードライフルを見れば分かると思うが、オーラマシン関係の未知の技術がここにある。これを解析すれば、新たな技術として新型のオーラバトラーを開発出来るんじゃないか?」
これは、俺がこのオーラソードライフルを使いたいから、そのように言ってる一面もある。
何しろ、オーラ力をビームとして撃つ事が出来るのなら、それは他の実弾兵器と違って残弾の心配がいらない。
特に俺の場合は魔力でオーラバトラーを動かしており、スキルの関係で魔力の回復速度も早く……だからこそ、もし俺がオーラソードライフルを使えるようになれば、それこそ残弾を気にせず撃ち放題となる。
オーラバトラーが基本的に近接攻撃を重視しており、射撃武器も実弾で残弾の心配があったから、俺もサーバインで戦っている時はオーラソードを使った近接戦闘を多用していた。
だが、本来の俺の得意攻撃は、射撃なのだ。
……まぁ、PPでステータスを上げすぎたせいで、普通に近接攻撃でもかなりの威力を出せるようになっているが。
「少し前なら、その可能性もあったかもしれないな」
「そんな言葉が出るって事は、既にもうオーラバトラーじゃない兵器を開発中なのか?」
「そうだ。俺が現在開発中なのは、オーラバトラーの機動力にウィングキャリバーの高速性能を組み合わせた、オーラファイターという種別の兵器だ。そしてショットは、俺のオーラファイターに対し、更にオーラボムやオーラシップの要素も組み合わせたオーラボンバーという種別の兵器を作っている」
「それは、また……」
ウィングキャリバーやオーラボム、オーラシップのコンセプトを融合させているとなると……MSに対するMAみたいな感じか?
ちなみに、ウィングキャリバーやオーラシップは分かりやすいが、オーラボムというのはドロやタンギーといったような種別の兵器だ。
「オーラボンバーがオーラファイターの能力も有しているのなら、その2つの種別を統合してみるとかどうだ?」
「いや、似たようなコンセプトの機体なのは間違いないが、違いもある。具体的には、俺が開発しているオーラファイターは全長22mくらいなのに対して、オーラボンバーは全長34mくらいだ。アクセルなら、兵器の大きさが10m以上違うということの意味を理解出来るだろう?」
「それは、また……」
オーラバトラーは機種によって大きさが結構違うが、それでも10mはない。
それに比べて、全長22mに34mというのは……どうやら俺が予想したように、MSに対するMA的な存在らしい。
うーん……とはいえ、ゼットやショットの現在の状況は、何とも言えないな。
個人的にはオーラバトラーの開発を進めて欲しいという思いがあるが、未知の世界の技術を習得するというシャドウミラーの国是を考えれば、オーラファイターとオーラボンバーという、全く新しい種別の兵器が生まれるというのは、寧ろ歓迎したいところだ。
この辺、オーラバトラーとかの設計が出来るのがショットやゼットだけというのが痛いよな。
いや、正確に考えれば、ギブン家に亡命した技術者が新型のオーラバトラーの設計が出来るのだから、現在ショットやゼットの下で働いている者の中にも同様に設計が出来る者がいるのかもしれないが……それでも、当然ながらショットやゼットと同レベルにとはいかないだろう。
そう考えると、ビショットの技術者としての有能さが際立つな。
ラウの国やナの国もオーラバトラーを開発しているが、それはダーナ・オシーの発展系だ。
……いや、違うな。ビルバインを開発したという事を考えると、向こうにも相応の技術者がいる可能性が高い。
ショウのダンバインをベースにして開発したのだろうが、それでも色々と新しい機能が備わっているビルバインは驚異だ。
特にオーラ力をビームにして……いや、待て。オーラ力をビームに?
俺は、それと似たような技術を知っている。
全く同じという訳ではないが、ナの国で戦ったボチューンはオーラソードの一撃にオーラ力を乗せて威力を増すといったようなシステムがあった筈だ。
だとすると、やっぱりビルバインを開発したのはナの国?
いや、ボチューンはラウの国でも使われている機体で、ナの国と共同開発したと考えるのが自然だ。
だとすれば、ラウの国がビルバインを開発したとしてもおかしくはない。
「アクセル? どうした?」
「いや、オーラファイターやオーラボンバーについて考えていたんだよ。確かに全長が10mも違うと、全く別の種類の兵器になってもおかしくはないと思ってな」
「だろう? まぁ、そんな訳で、現在そっちに集中しているんだ。その為、新型のオーラバトラーを開発するというのは少し難しい」
「例えば、ビルバインを鹵獲した場合、それでも新型のオーラバトラーを開発するのは難しいか?」
「どうだろうな。アクセルから話を聞く限りでは、かなり興味深い機体なのは間違いないが」
そう言いつつ、迷った様子を見せるゼット。
ゼットにしても、オーラバトラーを開発したくない訳ではないのだろう。
だが、それでも現在はオーラファイターの開発に集中したいといったところか。
そこまで考え、ふと思いつく。
「ゼット、お前もしかして……現在開発中のそのオーラファイター、ガラリアを乗せる為に開発してるとか言わないよな?」
「ぐ……」
図星をつかれたかのように、ゼットの口から呻き声が上がる。
マジか。
とはいえ、その気持ちは分からないでもない。
ゼットにしてみれば、ガラリアは絶対に死んで欲しくない相手だろう。
だというのに、ガラリアが乗っているオーラバトラーは、機動力は高いものの防御力という点では難ありのバストールだ。
そうである以上、ゼットとしてはもっと防御力の高い……戦いの中で生き延びる可能性が高くなる機体に乗って欲しいと思うのは当然だろう。
「あー……うん。まぁ、話を聞いた限りだとオーラバトラーよりもオーラファイターの方が生き残る可能性は高いよな。オーラボンバーの方がもっと大きいらしいから、更に生き残る可能性は高そうだけど」
「ショットの野郎……」
いや、そこでショットに責任転嫁をするなよ。
そう思ったが、ゼットが開発中のオーラファイターをベースにして新型を開発している以上、ゼットが不満を抱く気持ちも分からないではない。
「ともあれ、話は分かった。……今はどうあってもオーラバトラーを開発する余裕はないんだな」
「そうだ。だから……」
そうゼットが何かを言おうとした時、不意に兵士がこっちに向かって走ってくるのが見えた。
必死なその様子は、場合によっては俺やゼットを暗殺しにきたガロウ・ランかと思ってもおかしくはない。
いやまぁ、キッス家の兵士として見覚えのある人物だったので、そんな勘違いをするような真似はしなかったが。
「アクセル王、至急ブリッジへお戻り下さい!」
その言葉から、急いでいるというのは分かる。
だとすれば、またビルバインが出撃してきたのか?
そう思ったのだが、次の瞬間兵士の口から出た言葉は、完全に予想を超えたものだった。
「ラース・ワウから、シルキー・マウがギブン家の手によって奪われたという報告です!」