ゴポリ、と。
行冥の入っているバルシェム生成チャンバーの液体がそんな音を立てる。
以前にも耀哉で似たような光景を見たが、耀哉と行冥ではその身体の大きさが違う。
呪いのせいで、耀哉は決して健康的な状態ではない。
……いや、でも呪いがある状況であっても、別に痩せ細っている訳ではない辺り、耀哉も頑張ったのだろう。
勿論、それは耀哉だけの頑張りではない。
耀哉の主治医といった様子のしのぶの調合した薬や、妻としてあまねが耀哉を支えているのも大きかったのだろう。
それは分かるが、それを考えた上でも耀哉の状態は悪くなかった。
「これは……随分と凄いわね」
行冥の様子を確認していたレモンが、少し驚きながら呟く。
「何がだ?」
「凄く鍛えられている身体をしてるわ。それこそ……純粋な身体能力という点では、シャドウミラーの実働班に迫るだけのものを持ってるわ」
「それは素直に凄いな」
シャドウミラーの実働班の身体能力というのは、かなり高い。
行冥はそれに迫るだけの能力を持つというレモンの言葉は、俺を驚かせるには十分なものだった。
「柱の中でも最強と言われるだけはあるか。……それで、身体の方はともかく目の方は?」
「問題ないわね。大正時代では治療のしようがないでしょうけど、シャドウミラーの技術があればどうにでもなるわ」
その言葉には、強い自信が含まれている。
今まで不治の病と判断された者達を何人も治療し、スティング、アウル、ステラといったような、薬や暗示によって強化された者達の治療も行っていた。
それを考えれば、レモンがここまで強い自信を抱くのは十分に理解出来る。
今までこれよりも難しい治療や手術を行ってきたレモンにしてみれば、義眼を移植するといったような手術はそこまで難しいものではないのだろう。
「なら、行冥の件については任せる」
「ええ。本来なら多機能な義眼を移植したいところなんだけど……」
「レーザーだけで十分だと思うぞ」
正直なところ、鬼にレーザーが効果があるのかどうか、分からない。
しかし、それでも相手の意表を突くには十分な筈だ。
これが昭和や平成の暮らしを知っている者なら、義眼からレーザーが出るというのは予想……予想……予想、出来るか?
そういうのがあるというのは、漫画やアニメ、ゲームといった諸々で知ってはいても、実際にそれが自分の前で起きるとなると、微妙なところだろう。
「そう? ビームとかも考えたんだけど。後は、義眼の性能で動体視力とかを強化するとか、場合によっては相手がどう動くのかを予想したりとか」
「いや、それはちょっとやりすぎじゃないか? ……まぁ、あれば役立つのは間違いないだろうけど」
これで行冥が一般人であれば、そこまで過剰な性能はいらない。
だが、行冥は鬼殺隊に所属しており、しかも最高戦力の柱だ。
そうである以上、場合によっては強力な鬼と戦うといったような事も珍しくなく、そういう行冥にとって動体視力が強化されたり、敵の行動を予想出来たりといった機能はあれば助かるのは間違いなかった。
問題なのは、行冥がそれを使いこなせるかといった感じだ。
大正時代の行冥に、シャドウミラーの技術で作った義眼を完全に使いこなすのは……説明して納得させるのは難しいだろうから、習うより慣れろといった具合で実際に使わせてみた方が……いや、だからこそレーザーだけの義眼にしたんだろう。
「ともあれ、ここは私に任せていいわよ。アクセルがここにいても、特に何かやるべき事はないし、どこかに行ってもいいわよ? ここにいたいのなら、私としては大歓迎だけど」
そう言うレモンは、艶然と笑う。
とてもではないが、行冥の義眼の手術の為に現在その身体を調べているといったような様子には見えない。
その手の経験がない男がこんな笑みを向けられれば、それこそ暴走してもおかしくはないだろう。
もっとも、その辺の男が暴走したところで、レモンをどうにか出来る筈もないのだが。
レモンもまた、エヴァの訓練をしっかりと受けているのだから。
「そうか。なら、行冥の件はレモンに任せるよ。俺はホワイトスターを適当に見て回ってくる」
特に何かやるべき事がある訳ではないので、散歩感覚で適当に歩き回るというのもいいだろう。
ホワイトスターは、それこそ場合によっては1日で店が変わったりといったような事は珍しくない。
そうである以上、ある程度時間に余裕が出来たらホワイトスターを見て回れば、それだけで十分に楽しめる時間となる。
それに、誰かと会えば一緒に見て回るというのも楽しい。
この前は明日菜と一緒に見て回ったけど、今日は誰と会うんだろうな。
とはいえ、明日菜と会う可能性が一番高いんだよな。
何しろ、明日菜はシャドウミラーの中でも生活班として働いているので、遭遇する可能性は高いのだが。
仕事に集中しているレモンと短く言葉を交わし、部屋の外に出る。
行冥の件はレモンに任せておけば、全く何も問題は起きないだろうし。
そうしてホワイトスターの交流区画を歩いていると……
「アクセル!」
と、どこか既視感のあるような、ないような、そんな状況になる。
とはいえ、この声の主が明日菜ではないのは明らかだった。
声のした方に視線を向けると、そこにいたのはシェリル。
そしてシェリルだけではなく、ルリとラピスの2人の姿もあった。
「シェリル、ルリにラピスも……また、随分と珍しい組み合わせだな」
シェリルとルリやラピスというのは、かなり珍しい組み合わせなのは間違いない。
だが、シェリルはそんな俺の言葉に笑みを浮かべて口を開く。
「そうでもないわよ? でも、それなりに一緒に活動しているのは間違いないわよ。ねぇ?」
「そうですね」
シェリルの言葉にルリが同意する。
ラピスもまた、手を繋いでいるルリの言葉にその通りだと頷いていた。
「そういうものか? で、シェリル達は何をしにここに?」
「アクセルが暇をしてるようだからってレモンが」
あー……なるほど。レモンの仕業か。
とはいえ、それでも俺が1人で行動してからすぐに接触してきたのを考えると、この3人は元々ホワイトスターで一緒に行動してたんだろうな。
「そうか。なら、一緒に見て回るか? ルリとラピスとはこうして一緒に出掛けるのも久しぶりだし」
「あら、子供だけで恋人の私は放っておくのかしら?」
俺の言葉に、シェリルがそう言ってくる。
とはいえ、言葉程に怒っている様子はない。
寧ろ笑みを浮かべているのを見れば、からかっているのだろう。
「いやいや、俺が愛しのシェリルを放っておく訳がないだろう? シェリルと一緒にいる時の俺は、これ以上ない幸せなんだから」
「な……」
急激にシェリルの顔が赤く染まっていく。
数え切れない程に一緒の夜をすごしてきたのに、相変わらずシェリルは不意打ちに弱いな。
自分が相手をからかうのは得意なのだが、自分がからかわれるのは苦手なんだよな。
この辺、シェリルと凛には通じるところがある。
「……ん」
俺とシェリルの話を聞いていたラピスは、無言で手を伸ばしてくる。
それが何を意味しているのかは、考えるまでもなく明らかだ。
手を繋ごうと、そう言ってるのだろう。
養子とはいえ、俺とラピスは親子だ。
それなりに甘えたがりであるというのは、当然ながら俺も知っていた。
「ルリはどうする? まだこっちの手は空いてるぞ」
手を繋いだラピスが無表情ながらも、どこか満足そうな様子を見せているのを眺めつつ、ルリにそう尋ねる。
この前の俺の帰還を祝うパーティでも、それなりにルリやラピスと話はした。
だが、それでは足りないと、そうラピスは感じていたのか、だからこそ現在はこうして俺に手を伸ばしていたのだろう。
なら、ルリもと思って尋ねたのだが、それを聞いたルリはプイ、と顔を逸らす。
「別にいいです。それより、シェリルさんと手を繋いだ方がいいんじゃないですか?」
「あら、私に譲ってくれるの? なら、遠慮なく。……はい、アクセル」
腕を組むのではなく、手を繋ぐ。……言ってみればそれだけなんだが、どこか微妙に恥ずかしさがあるな。
「そしてこっちの手は……はい」
「え?
俺の手を握っているのとは別の手がルリに差し出される。
ルリにとっては予想外だったのか、意表を突かれた様子を見せる。
ルリもラピス程ではないにしろ、表情を変えるといったことはあまりない。
そういう意味では、シェリルの行動はかなり驚いたのだろう。
……それでも、ルリはそっと手を伸ばしてシェリルの手を握る。
こうして、ラピス、俺、シェリル、ルリといったように4人で手を繋いで交流区画を歩く事になったのだが……当然ながら、そんな俺達の様子はかなり目立ち、色々な相手から視線を向けられる。
それでもさすがに他の世界から選ばれてホワイトスターにやって来ている者達だけあって、妙な風に絡んでくるような者はいない。
寧ろ微笑ましい光景でも見るかのような視線を向けられていた。
「さて、どこに行く?」
周囲の視線を完全に無視して、シェリルが言う。
銀河の歌姫と呼ばれていたシェリルだ。
大勢から視線を向けられるといったような経験には慣れているのだろう。
俺もまた、今まで色々と経験してきたので、この程度の視線を向けられても特にどうという事はない。
ラピスはまだその辺についてはあまり興味がないのか、特に気にした様子はない。
ただ……ルリだけが、自分達に向けられる視線の意味を理解し、白い肌を照れや羞恥で赤くしている。
とはいえ、それでもシェリルの手を放したりしない辺り、今のこの状況は不本意といった訳でもないのだろう。
「そうだな。取りあえずクレープ……いや、アイスでも食うか」
クレープでもいいんだが、ゴーヤクレープは教育に悪そうだし。
それに、たまにはアイスを食べたいと思うのは当然だった。
とはいえ、ホワイトスターに出店しているアイス屋というのは当然ながら個人経営のものだ。
アイスで有名なチェーン店というのもあるが、当然ながらそのような店の出店はホワイトスターでは認められていない。
当然だろう。チェーン店が出店するという事は、その会社にホワイトスターの存在を知られるという事だ。
そのような事になった場合、ホワイトスターやシャドウミラーの秘密を守りきるのは不可能になる。
そんな訳で、クレープ屋もそうだが、あくまでも個人経営な訳だ。
とはいえ、個人経営の者どうしが協力して会社……という程に大袈裟ではないが、そんな感じにするのなら、何も問題はない。
実際、クレープ屋はそうやって色々な世界に出店して、同時にゴーヤクレープの侵食も進んでいるのだが。
「アイスね。じゃあ、行きましょうか」
シェリルがアイスに賛成すると、ルリとラピスもその意見に反対するような事はせず、アイス屋のある方に向かう。
「それなりに繁盛してるみたいだな」
アイス屋の前には、数人くらいだが行列が出来ている。
ホワイトスターにいる人数を考えると、かなり繁盛しているのは間違いない。
それでも飲食店という事を考えると、超包子には劣るが。
超包子は、色々な意味でトップクラスの店だし、それも仕方がないのかもしれないが。
とにかく行列に並び、やがて俺達の順番になるとアイスを頼む。
俺が頼んだのは、ストロベリーとチョコ、そしてちょっと珍しいキウイ味の3段重ね。
他の3人もそれぞれアイスを受け取り、歩く。
当然ながら、アイスを食べながら歩いている以上、手を繋いで歩くといったような真似は出来ない。
しかし、それでもラピス達は満足そうな様子でアイスを食べているので、今の状況には満足しているのだろう。
「そう言えば、ホワイトスターに最近少し珍しいお店が出来たのよ」
「珍しい店? ホワイトスターには色々と珍しい店はあるけど……そういうのじゃなくてか?」
「ええ、行ってみましょ」
「おい、シェリル。その店がどんな店なのかまだ教えて貰ってないんだが」
「その辺は行ってみてのお楽しみね。ほら、早く行くわよ」
満面の笑みを浮かべてそう告げるシェリルに、俺は仕方がないと思ってついていく。
アイスを食べながらの移動なので、手を繋いでといった訳ではないものの、今の状況を思えばそれもしょうがないだろう。
「ルリやラピスは今どこに向かってるのか分かるのか?」
一応、といたように尋ねるものの、聞かれた2人は無言で首を横に振る。
これはどこに行くのか知らないのか、それとも知ってはいるけど俺には言えないというシェリルの言葉からそういう真似をしてるのか。
その辺は俺にも分からない。
とはいえ、ルリとラピスに聞いても恐らく話す事はないのだろう。
そうなると、今は特に何も言わずにシェリルと一緒に移動した方がいいのだろう。
ホワイトスターにある珍しい店……珍しい店?
それが具体的にどんな店なのかは俺には分からない。
分からないのなら、いっそその辺については特に考えたりしないで、成り行きに任せればいいだろうと判断するのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730