「ぐぅっ……」
俺の一撃を受けた猗窩座は吹き飛び、地面に倒れ込む。
「さて、これで勝負ありだな」
「アクセル……お前の強さはどこまで……」
猗窩座は悔しげな表情を浮かべつつ、起き上がる。
それでいながら、その目に負の色は全くない。
武人同士が戦った結果として、自分は負けたと。そのように思っているらしい。
ズタボロという言葉が相応しく、それこそ人間だったら間違いなく死んでいるだろう様子の猗窩座だったが、鬼……それも上弦の参という高位の鬼の再生能力は凄まじく、その身体は急速に再生していく。
そんな猗窩座の様子を見ながら、俺は空を見上げる。
そこに広がっているのは、雲一つない夜空と柔らかな光で地上を照らしている月。
俺が現在いるのは、以前にも猗窩座と戦った山奥だ。
実はシャドウミラーの中でも呼吸を習得出来る者はあまり多くないという驚愕の事実を知ってから、数日。
鬼滅世界で色々としていると夜になり、そこで再び猗窩座の発信器に反応があった。
それも以前と全く同じ場所となれば、当然ながら俺を待ち受けていたのだろうが……そうして猗窩座のいた場所に到着すると、予想通りの光景がそこには広がっていた。
予想外だったのは、本当に猗窩座だけしかいなかったという事だろう。
鬼舞辻無惨が前回の件を知れば、当然ながら何らかの罠……もしくは待ち伏せでもしてるのかと思ったんだが。
猗窩座が上弦の参という事は、猗窩座よりも強い鬼は最低でももう2匹いる筈だった。
あるいは猗窩座より強い相手ではなくても、猗窩座をフォローする役目から上弦でも猗窩座より下位の鬼がいてもいい。
だが、結局のところそういうのは全くない。
これはつまり、今回の一件は猗窩座の独断だという事だろう。
「こう見えて、俺は結構な修羅場を潜ってきた。それこそ鬼がどうとか、そういう話以前の戦いをな」
それこそ文字通りの意味で地球の危機……どころか、銀河系の危機とかそういう戦いを経験してきている俺にしてみれば、結局は地球の国の1つでしか存在していない鬼というのは、その程度の相手でしかない。
鬼滅世界において、日本が世界でも強国の1国であるというのはこの場合関係ない。
1894年から10年おきに起きている戦争、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦……いや、第一次世界大戦は現在進行中で、まだ終わってはいなかったか。
ともあれ、そういう戦争で勝ち抜いたという意味で日本は強国の1つであると認識されているのだが、結局のところそれは地球という1つの惑星の中での出来事でしかない。
「修羅場……それは激戦か?」
「ああ、激戦だな。お前を相手に圧勝した俺でも死ぬかどうかといったような戦いをした事はあるし」
シュウ・シラカワのネオ・グランゾンとかな。
神であったり、銀河を行き来する宇宙生物であったりとも戦ったが、それでもやはり一番死の危険を感じたのはシュウとの戦いだった。
もっとも、その戦いを潜り抜けたおかげでネオ・グランゾンのパーツを色々と入手出来て、ニーズヘッグが強化されたりもしたんだが。
「そして、今回はこの世界での戦いとなるからこの程度の戦いではあるが、他の世界に行けばもっと強力な……しまったな」
最後まで言わずとも、自分が失言をしたのを理解する。
今、俺は明らかに『この世界』と、そう口にしたのだ。
とはいえ、猗窩座の様子を見る限りでは俺の言葉を真実を理解しているようには思えない。
大正時代の人間だけに、俺が口にした別の世界という言葉の意味を理解出来なかったのか。
「アクセル? どうかしたのか?」
こうして尋ねてくる様子を見る限り、間違いなく俺の言葉について理解しているようには思えない。
そういう意味ではラッキーだったな。
「いや、何でもない。とにかく、この日本という小さな国にいるだけではどうしようもない戦いというのも存在しているってことだな。お前にとってはちょっと分かりにくいかもしれないが」
「……出来ればもう少しその話を聞かせて欲しい」
「無理だな。いや、話をするのはいいが、猗窩座が鬼のままでは結局のところ俺の話を聞いてもどうしようもない。……俺の召喚獣になるのなら、話は別だが」
個人的に猗窩座を気に入ってはいるが、だからといって鬼の状態のままで猗窩座を仲間にする訳にはいかない。
日中に移動出来ないというのは致命的だろう。
人しか食えないというのは……
「ほら、これをやるよ」
そう言い、卵サンドを空間倉庫の中から取り出すと猗窩座に渡す。
「これは……?」
「サンドイッチ。パン……って言っても分からないか? 簡単に言えば、外国で米の代わりに主食として食われている奴だよ。このサンドイッチというのは、そのパンの間に具材を挟んだ……そうだな。おにぎりに近いものだと言えば分かりやすいか?」
その言葉に、以前食べた鶏ゴボウ炊き込みご飯のおにぎりについて思い浮かべたのだろう。
猗窩座は苦労しながらもビニールを外し、卵サンドを口に運ぶ。
このように、猗窩座は普通に人間以外の物も食べられる。
ただし、あくまでも鬼滅世界以外で作られた料理に限るが。
「美味い……」
パンを知らない猗窩座にしてみれば、卵サンドというのはかなり刺激的だったのだろう。
それにこの卵サンドは美味いと評判のパン屋で買ったやつだしな。
ただし、具材そのものは普通だ。
卵をみじん切りにしてマヨネーズやパセリ、タマネギといった具材と混ぜてパンで挟んだだけ。
勿論、美味いと評判である以上は俺にも理解出来ないような隠し味が色々とあるのだろうが。
「だろう? 俺の召喚獣になれば、こういう料理を食べる事も出来るぞ」
「……悪いが、そのつもりはない」
「そうか? 色々な料理を食べられて、間違いなく強くなれる。そういう意味では猗窩座にとっても悪い話じゃないと思うがな」
とはいえ、前者はともかく強くなれるかどうかは魔力に満ちた俺の血に耐えられるかどうかで変わってくるが。
もし耐えられない場合は、間違いなく死ぬだろう。
その辺に関しては、実際に試してみるまで分からないから何とも言えない。
「強くなれる……」
結局のところ、猗窩座にとって自分が強くなるのが一番大きな意味を持つのだろう。
だが、それでもすぐに頷かない辺り、鬼舞辻無惨に対して少なくない忠誠心を抱いているのは間違いないんだろう。
そんな猗窩座に対して、ふと貿易商で見つけた青い彼岸花の件を聞いてみようかと考えたが、やめておく。
猗窩座に青い彼岸花の件を聞けば、鬼舞辻無惨にその話をするだろう。
あるいは鬼舞辻無惨は他の鬼を通してその状況を入手出来るという能力があるらしいので、俺達が青い彼岸花を知っているのを鬼舞辻無惨に知られてしまう事になる。
そうなると、レモンに頼んで作って貰う予定の青い彼岸花をダミーとして鬼舞辻無惨を誘き寄せるというのが読まれてしまう可能性が高い。
「ああ、強くなれるのは間違いないな。それを示すように、シャドウミラーの中にはお前よりも強い奴がいる」
これは間違いのない事実だ。
そして猗窩座にしてみれば、ここで自分よりも強い相手がいるというのは非常に魅力的な事だろう。
自分が強くなるのが一番重要だと考えているのだから。
「まぁ、猗窩座が本当に強くなりたいと思うのなら……どうするべきかは明らかだと思うけどな」
「ぐ……それは……」
悩む様子を見せる猗窩座。
とはいえ、この状況を鬼舞辻無惨に見られている可能性を考えると、あまり露骨に誘いを掛ける訳にもいかないか。
ここで下手に誘いを掛けて猗窩座がそれに傾こうものなら、最悪猗窩座が殺されかねないのだから。
「取りあえずこの話についてはこの辺にしておくとして……ちょっと聞いてもいいか?」
「……何をだ?」
話をあまり聞いていない様子で、猗窩座が返事をしてくる。
見た感じ、猗窩座は俺の誘いについて色々と考えているんだろう。
「いや、猗窩座は人を食うのではなく、修行をする事で強くなったんだろう? だとすれば、その基礎にある武術は人間の時に習得したのか?」
「人間の……? 何?」
一瞬何が言われたのか分からないといった様子で呟く猗窩座。
何だ? 今、ちょっとした違和感が……
「だから武術だ。猗窩座が使う現在の武術は、血鬼術を使っているが、その根本となっている武術は人間の時……鬼になる前に習得したのか、それとも鬼になってから習得したのか。どっちかと思ってな」
この質問は、特に何か狙いがあって行ったものではない。
ただ、何となく……本当に何となくで尋ねたにすぎない。
しかし、猗窩座にとって今の質問は何か大きな意味があったらしい。
少し考えるようにし……次第に、その表情は真剣なものに変わっていく。
「この武術を俺はどこで習得した? 人間の時? それとも鬼になってから? いや、鬼になってから習得したということはない。それはつまり、これは人間の時に習得した筈だ。しかし……いつ、誰から習ったものだ?」
思い出そうとしているものの、それを思い出す様子はない。
とはいえ、ある意味でこれは納得出来る事でもある。
同じ鬼の禰豆子は、鬼になった結果として精神年齢が後退している。
他にも鬼殺隊の剣士や柱から話を聞いたところ、戦った鬼の多くは人間だった頃の性格とは大きく違ってるらしい。
それはつまり、鬼になった時に性格が変わり、それによって記憶にも影響が出て来るのだろう。
勿論鬼の全てを俺が知ってる訳ではないので、鬼の中には人間だった頃の記憶を持ってる奴がいる可能性も否定は出来ない。
例えば……炭治郎が協力している、珠世だったか? その鬼とかは、人を食わなくても血があれば満足出来るという話だったので、普通の鬼と違う以上は記憶が残っている可能性が高い。
「今ここで思い出せないのなら、無理に思い出さなくてもいいだろ。……ほら、次はこれだ。考えすぎて頭が痛くなってるんじゃないか? この草大福は美味いと評判の和菓子店で買った奴だ」
当然だが、この鬼滅世界ではなく他の世界購入した奴だ。
安い草大福とかだと、草大福という名前をしていても実は緑色の着色料を使っていたりとかするんだが、これはきちんとした名店で購入した草大福で、よもぎが使われている。
餡子も出来合いのものではなく、しっかりと店て作った餡子を使っていた。
大福は粒あんだよな。
……そう思うが、こういうのはそれぞれ主義主張があるので、絶対にこし餡は認められないとが、粒あんは邪道だとか、そういう騒動になりやすい。
唐揚げにレモンとか、キノコとタケノコの争いとかと同じ感じで。
「美味い……」
草大福を食べた猗窩座は、その美味さに驚く。
和菓子もまた、大正時代よりは平成時代の方が美味いんだろうな。
人によっては、古い作り方の方が美味いんだと主張する者もいるかもしれないが。
「だろう? これはかなり有名な店で売られている草大福だからな」
「アクセル達は、毎日このように美味い物を食べているのか?」
「そうだな。食べているかどうかと言われれば、人によって違うな」
まぁ、俺の場合は毎日のように愛情がたっぷりと込められた恋人の料理を食べているので、そういう意味ではかなり裕福な食生活だが。
あるいは四葉の料理とかを食べる事も多いな。
「……そうか」
俺の言葉に何を思ったのか、しみじみといった様子で呟く猗窩座。
今回の一件で猗窩座には色々と得るものがあったのは間違いないだろう。
本人がそれをどう使うのかは、俺には分からないが。
「だが……この草大福というのは、紅茶はあまり合わないな」
「そうか? ならこっちを飲め」
砂糖控えめとはいえ、紅茶と草大福は合わなかったのだろう。
そう考え、少し渋みの強い緑茶の入ったペットボトルを渡す。
本来なら和菓子に合うのは熱いお茶だろう。
だが、冷たい緑茶もまた和菓子には合う。
「これは……?」
「この部分をこう回して……そうすれば飲める」
そうか。缶紅茶は飲ませていたが、ペットボトルは初めてだったな。
そう考えつつ、猗窩座にペットボトルの開け方を教える。
俺の開け方を見て、猗窩座も無事にペットボトルを開け、それに口を付け……
「ん!? ……んん……」
一瞬渋みに驚いた様子を見せた猗窩座だったが、それでも次の瞬間には大人しく緑茶を飲む。
そうして緑茶を飲み終わると、満足そうな様子を見せる。
「和菓子にはやっぱり緑茶だよな。……合うだろう?」
「ああ。美味い。だが、それにしてもこの入れ物は不思議だな」
「だろうな」
ペットボトルが普及したのは、具体的にいつくらいなのかというのは俺にも分からない。
ただ、昭和以降であるのは間違いない。
つまり、この時点でペットボトルというのはかなり画期的な代物となる。
落としても割れず、持ち歩きにも便利で、キャップを閉めておけば零れるような事もない。
あるいは頭のいい奴なら、このペットボトルだけで莫大な利益を上げてもおかしくはない。
そんな風に思いながら、俺は猗窩座と話を続けるのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730