「では、ごゆっくり」
浅草にある宿の従業員が、そう言って頭を下げると部屋から出ていく。
こうして部屋には俺とゆかりの2人だけが残った。
「ゆかり、頬が赤いぞ。そこまで照れるような事か?」
「だって……そう言っても……馬鹿。てか、本当に馬鹿」
何で2度言う。
とはいえ、俺もゆかりがここまで照れているのには十分理解出来た。
何故なら、俺とゆかりはこの宿の従業員によって夫婦と間違われたのだ。
……まぁ、分からないではない。
鬼滅世界は大正時代で、結婚する年齢は平成世界よりも若い。
平成時代においては、それこそ30歳くらいで初めて結婚をする者も珍しくないが、大正時代であれば30歳で初めて結婚と言われても信じられないと思う者が多いだろう。
それでも戦国時代とか江戸時代とかだと、12歳とかその辺で結婚する事も珍しくなかったらしいから、それよりはマシだと思うが。
ともあれ、ゆかりは18歳。それでもペルソナ世界という平成時代に生まれ育ったので、この世界と比べると栄養のあるものを食べているので、そういう点において年齢より上に見られてもおかしくはない。
そんなゆかりと俺が一緒に宿に……それも同じ部屋に泊まるのだから、夫婦と見られてもおかしくはないだろう。
「そ、それにしても夫婦だなんて……せめて恋人同士なら事実だから納得も出来たのに」
そう言いながらも、ゆかりはそこまで悪い気分ではなさそうなのが、ちょっと意外だった。
俺が知ってる限り、ゆかりは母親との関係が悪かった筈だ。
それに伴い、結婚とかそういうのは……いやまぁ、俺と付き合ってる時点でそんな考えがなくなってもおかしくはないな。
ゆかりが母親を嫌っていたのは、父親が死んでから母親が男をとっかえひっかえしたというのが大きい。
そんなゆかりだったが、付き合っている俺はゆかり以外にも大量に恋人がいる。
そうである以上、ゆかりが母親を嫌うというのは……それに元々俺がペルソナ世界にいた時に、多少は仲直りをしていたっぽい感じだったし。
「俺はどっちでもいいぞ。ゆかりが好きな方にしてくれ。恋人の方がいいのなら、後で従業員にそう訂正しておくし。……それよりも、これからどうするかだな」
「……もうちょっと動揺してくれないと、私だけこうして動揺していて馬鹿らしいじゃない」
俺の言葉に不満そうな様子を見せるゆかり。
ゆかりにしてみれば、恋人か夫婦かというのは色々と大きな違いなのだろう。
その気持ちは、正直なところ俺も分からないではない。
しかし今の状況を考えると、その件について考えるよりももっと別の優先事項がある。
「それについて話し合うのもいいけど、今はまず遊郭の方だな。……言っておくけど、俺が遊郭に客として行くという訳ではないからな」
遊郭という言葉にゆかりが微妙な表情を浮かべる。
とはいえ、それでも俺が遊郭にいかないと言えば収まったが。
「当然でしょ。もしアクセルが遊郭に行ったら、間違いなく鬼とかは関係ないところで大きな問題になるもの」
「いや、そこまで言われるような事じゃないと思うが」
「あのねぇ。……いい? よく考えて。毎晩のようにレモン達を……私が泊まってる時は私もだけど、気絶させるまで責めるのよ? それでいて結局アクセルには勝てないの。そんなアクセルが遊女とそういう行為をしてみなさい。すぐに出禁になるわよ」
「……まぁ、その可能性もなきにしもあらずかも?」
「なきにしもあらずじゃなくて、確実に起きる事実よ」
きっぱりとそう言われると、俺としても身に覚えがあるので反論も出来なくなる。
酒を飲んでの騒動だけじゃなく、単純にそういう意味で問題を起こす可能性もあるのか。
「話は分かったけど、さっきも言ったが俺は遊郭に客としては行かない。なら、今は取りあえずそっち関係の心配はしなくてもいいだろ。そんな訳で、取りあえずちょっと周囲を見てこないか? 観光でもどうだ?」
「……そうね。今ここでアクセルに夜の件で色々と言いたい事はあるけど、今はその言葉に乗せられておいてあげる」
そう言い、ゆかりは俺の誘いに素直に乗るのだった。
「それでまずはどこに行く?」
「浅草ときたら、やっぱりまずは雷門じゃない? ……でも、私達が知ってる雷門って、いつからああいう風になってたんだっけ?」
「さぁ? 俺もその辺については詳しくないしな。エヴァ辺りに聞けば、詳細に教えてくれるかもしれないけど」
とはいえ、エヴァはどちらかといえば浅草とかよりも京都とかそっちの方を好む傾向にある。
そうである以上、もしかしたら雷門については知らないかもしれないが。
「ふーん。じゃあまずは行ってみないとね。そう言えば以前この浅草で誰かとデートをしたのよね? その時はどこに行ったの?」
「食材とかを売ってる店だったと思う」
あの店で遊郭にいる花魁とかが行方不明になっているって話を聞いて、それを輝利哉に持っていって、天元が調べ始めたといった流れだったと思う。
「なら、その時とはまた別のお店に行きましょう。……出来れば、大正時代特有の場所がいいわね」
「そう言われてもな。大正時代って俺もそこまで詳しくないしな。それに……この大正時代が俺の知ってる大正時代と同じって訳ではないし」
鬼がいるという時点で、普通の大正時代と違うのは仕方がない。
とはいえこの世界はこの世界の原作となる世界ではそれなりに色々と違いはあるのかもしれないが。
「取りあえずはどこに行くのかを決めてそこに行くよりも、色々と歩き回ってみないか? ウィンドウショッピングって訳じゃないけど」
この時代はいわゆるウィンドウショッピングって感じの店はそう多くはない。
……あるいは銀座とかそういう場所に行けば、そんな店もあるのか?
いや、大正時代だとないような気がするな。
「うーん……そうね。アクセルがそう言うのなら、そっちを見てもいいかもしれないわ。じゃあ、そんなデートを楽しみましょうか。アクセルと一緒なら、どういう場所でも楽しめそうではあるし」
ゆかりがそう言い、こうしてゆかりと2人きりでデートをする事に決まったのだった。
「うわぁ……ここが浅草なのね。私が知ってる浅草と随分違うわ」
浅草の様子を見て、感心したように呟くゆかり。
ペルソナ世界の浅草に俺は行った事がないものの、この様子を見るとゆかりは浅草に行った事があるのだろう。
俺と会う前か、あるいは俺と会った後か。
まぁ、俺もゆかりと一緒にペルソナ世界では色々な場所に行ったんだし、それを考えれば別におかしな話ではない。
「あ、ちょっとアクセル。あのお店見て。喫茶店……甘味処? ちょっと変わってるけど、どっちだと思う?」
ゆかりが示したのは、一件の店。
和洋折衷というか、和風と洋風が混ざっているような、そんな店。
喫茶店か甘味処のどっちかで迷ったのは、俺にも理解は出来た。
「和風喫茶って事にしておかないか? ……どうせなら、ちょっとあの店に寄ってみないか? ああいう店でどういう料理というか甘味が出てるのか、ちょっと気になる」
「そうね。美味しいといいんだけど」
そう言うゆかりだったが、正直なところ美味さという点についてはどうしてもペルソナ世界の料理の方が洗練されていて美味いだろう。
勿論、一流の料理人やパティシエが作ったとか、そういうのなら例外だろうが。
一般的な料理の類では、どうしても大正時代は平成時代よりも劣ってしまう。
そう思いながらも、俺はゆかりと共にその店に入る。
「いらっしゃいませ」
店の中に入った俺とゆかりを見て、すぐに店員がこちらにやって来て……だが、俺の姿を見て、少し戸惑う。
その戸惑いの理由を何となく理解し、俺は口を開く。
「日本語は分かるから、安心してくれ。2人だ」
そう、自分ではもうすっかりと慣れていたが、俺はアクセル・アルマーで日本人ではないのだ。
今までは鬼滅世界でも特にその件で戸惑われる事がなかったので、気にしなかったのだが。
ただ、考えてみれば街中に来た時は最初俺から相手に話し掛けていたな。
相手はそれで俺が日本語を喋る事が出来ると判断しており、それで戸惑わなかったのだろう。
あるいは単純に、東京だから外国人がそれなりにいて、その対処に慣れていたのかもしれないが。
ああ、でも蜜璃が滞在していた村に行った時も……まぁ、鬼滅世界だからという事で納得しておいた方がいいか。
ともあれ、店員は俺が日本語を話せるという事で安心する。
……日本人というだけなら、俺はともかくゆかりは普通に日本人だと思うんだが。
ああ、でもゆかりはペルソナ世界……平成時代の日本人だけに、この鬼滅世界では日本人とは思われないのか?
顔立ちは日本人だが、髪の毛は茶髪だし、身長も大正時代の平均よりも高いし、身体付きも大正時代の平均よりも明らかに上だ。
そんなゆかりと共に席に案内されたのだが……
「うん、やっぱり和風喫茶といった感じだな」
和洋折衷の店内だったが、メニューに書かれているのは団子とかそういうのだ。
しかも当然だが右から左に書かれているので読みにくいし。
「どうする?」
「団子でいいんじゃない? お茶も頼めば、一応それらしい感じにはなるでしょ?」
ゆかりにとっては、この店のメニューに対し特に不満はないらしい。
どうせなら、クッキーとか紅茶とかがあればそっちを注文したんだが。
そうして注文をすると、やがて団子と緑茶がやってきた。
ただ……普通の団子かと思ったら……
「へぇ、しっかりと焼いてるのね」
ゆかりが珍しそうに、そう言う。
そう、出て来た団子はしっかりと焼き目がつくくらいには焼かれていたのだ。
正確には、団子を焼くというのはそこまで珍しいものではない。
だが、スーパーとかで売ってる団子は基本的に焼いていない。
あるいは焼いているのもあるのかもしれないが、生憎と俺はそんな団子はスーパーで見た事がなかった。
そう言えば、スーパーやコンビニで売ってる団子って、どうやって火を通してるんだ?
まさか生って事はないから……茹でてるのか?
あるいは蒸しているのか。
ともあれ、焼いてはいないのは間違いない。
そんな俺にとって、こうしてしっかりと焼き目のついている団子というのは珍しかった。
餡子の類ではなく、醤油ダレが塗られているその団子を口に運ぶ。
「へぇ……これは、悪くない」
正直なところ、俺はこの店を侮っていた。
店構えからして和洋折衷といった感じだったのもあるし、店の中にいる客の数も決して多くはなかったのだから。
だが、この醤油ベースのタレが塗られた団子は、間違いなく美味い。
団子が出される直前に焼かれている為か、最初に鼻で、続けて口の中一杯に香ばしく食欲を刺激する香りが広がる。
焼かれているので、カリッとした食感があり、その中はふんわりと柔らかい。
そんな団子を、醤油ダレが包み込み……そうして団子を食べた後で緑茶を飲むと口の中がさっぱりとする。
これは間違いなく美味いと断言出来た。
「美味しいわね、これ」
ゆかりもまた、俺と同じく団子の美味さに驚きの声を上げていた。
「ああ。正直なところ驚いた。まさかこんなに美味い団子を食べられるとは思わなかったし」
「そうね。私も美味しければいいなとは思っていたけど、それでもこんなに美味しいというのは少し予想外だったわね。……もう少し頼む?」
「そうだな」
ゆかりの言葉に頷き、店員を呼んで団子セットをもう1人前ずつ頼む。
正直なところ、この団子は美味いことは美味いものの、それでもペルソナ世界で売っている甘味の類に比べればどうしても数段劣ってしまうだろう。
だが、食材や調理技術が限られている大正時代にこれだけの味を出すというのは素直に凄いと思う。
「そう言えば、エヴァが何か有名な技術者をスカウトするとかいう風に聞いたけど、それ本当?」
「どこから出た話だ? いやまぁ、実際にエヴァはそのつもりらしいが、正直なところそう簡単にいくとは思えないな」
俺が聞いた話だと、焼き物……有田焼とかが有名な、そんな感じの奴らしい。
大正時代にその技術がなくなった焼き物があるとか何とか。
日本文化的にはかなり価値があるのは間違いないが、その技術を持っている人物をホワイトスターに亡命させるというのは、正直なところかなり難しいと思う。
その技術を持っている者が、全てを捨ててホワイトスターに来るというのなら、また別かもしれないな。
だが、家族や友人、もしくは恋人といった者達を置いてシャドウミラーに所属するかと言われれば、それはそれでまた難しい話だと思う。
そこまでしてでも……と考えているのなら、俺としても受け入れてもいいとは思うのだが。
大正時代に途絶えた技術なら、それこそ日本と繋がっている世界ならそれなりに高額で取引されるようになるかもしれないし。
そんな風に思いながら、俺はゆかりとホワイトスターに来るかもしれない人物について話しながら団子と緑茶を楽しむのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730