「えっと……あれ? ここはどこだ?」
ゲートを使って転移したのだが、俺が姿を現したのは遊園地だった。
幸い……本当に幸いなことに、遊園地ということもあって多くの者が自分達の事に集中しており、ゲートで転移してきた俺の姿に気が付いた者はいない。
建物の陰だったから、というのも俺の存在に気が付かなかった大きな理由でもあるんだろうが。
ただし、問題なのはこの世界が一体どういう世界かという事だろう。
いつもであれば、俺が転移した先では何らかの騒動が起きているという事が多かった。
それも絶対という訳ではないのだが。
今回もそんな感じか?
そんな風に思いつつ、取りあえずこれからどうするのかを考えて遊園地の中を歩いていたのだが……
「なるほど、あれか」
遊園地の中を歩いていたところ、騒動の臭いを嗅ぎ取ってそっちに向かったところ黒ずくめの男が高校生らしい男の背後から殴りつけていたところだった。
遊園地に転移してきたという事で、もしかしたらこの世界は平和な世界なのでは? と一瞬思ったのだが……別にそういう訳でもないらしい。
何より黒ずくめの男は高校生を背後から殴りつけるのに、一切の躊躇がない。
こういう行動……いわゆる暴力沙汰に慣れているのが十分に理解出来てしまう行動だった。
暴力の臭いがするその男は、暴力が日常になっている男なのだろう。
だとすれば、この世界の主人公はあの男か?
もしくは、ダークヒーロー的な存在で、あの黒い男こそがこの世界の主人公……といった可能性も否定は出来なかった。
そうして迷っていたのだが、しかしそんな俺に決断を促すように事態は動く。
高校生の男を殴った男が、まだ生きている男に何らかの薬を飲ませようとしたのだ。
どうする? と一瞬迷ったが、取りあえずあの高校生を助ける事にする。
薬を飲ませるよりも前に気配遮断を解除し、わざとらしく音を立てて姿を現す。
「おいおい、こんな場所で何をしてるんだ?」
「てめえ……どこから現れた? いや、それはいい。この光景を見た以上、お前にも死んで貰う必要があるな」
そう言い、男は素早く拳銃を取り出す。
サイレンサーつきのその拳銃は、なるほど。遊園地のような場所で使うには悪くない選択肢だ。
だが……俺に銃口を向けたのが間違いだったな。
拳銃の引き金が引かれる間に、瞬動で黒ずくめの男との間合いを詰め、拳を振るう。
鳩尾にめり込んだ俺の拳は、男の意識を絶つに十分だった。
「あ、兄貴!? くそったれがぁっ!」
もう1人の黒ずくめの男が、手にしていたアタッシュケースを地面に投げ捨てながら、こちらも拳銃を取り出すが……次の瞬間、俺は間合いを詰めると鳩尾を殴って最初の男と同様気絶させる。
「さて……問題なのはこれからどうしたものかだよな」
「う……うう……」
まるで俺の呟きに反応するかのように、高校生が意識を取り戻す。
取りあえずこのアタッシュケースは邪魔なので空間倉庫に収納し、ついでに気絶している高校生や黒ずくめの男達を纏めて影のゲートを使って転移するのだった。
「う……ここは……」
影のゲートで転移した、どこかの倉庫。
その倉庫の中で、高校生が目を覚ます。
使われていない倉庫だけに、中には何もない。
そこには、俺と目を覚まして周囲を見ている高校生、そして縛られたまま気絶している黒づくめの男が2人存在していた。
「目が覚めたか?」
「っ!? あんたは……そいつらは!」
高校生が俺を見て訝しげな表情を浮かべつつ、縛られた黒づくめの男達を見て驚きの声を上げる。
「遊園地でお前が襲われているのを見て、俺が助けた」
「そうだ、俺はどこかの社長か何かがこいつらに脅されているのを見て……それでいきなり殴られ……あれ? 傷がない? 血はあるのに」
男は自分の頭を触って痛みがないのを疑問に思う。
夢だったのかと思っているようだったが、服に血が付着しているのを見れば、やはり夢だった訳ではないと判断したのだろう。
戸惑った様子を見せる。
「怪我なら俺が回復しておいた。感謝しろよ」
「回復って……どうやってだよ?」
「魔法だな」
正確にはネギま世界で得た魔法薬なんだが、その辺は言わずにおく。
「は? 魔法って……一体何を言って……うおっ!」
この世界には当然のように魔法が存在しないらしいので、指を軽く慣らして炎獣を生み出す。
それを見た高校生は、ただ唖然とするだけだ。
そんな高校生に向かい、話し掛ける。
「見ての通り、俺は異世界の存在だ。魔法とかが普通に使える。……さて、こう見えて俺は命の恩人なんだが、この世界について色々と聞いてもいいか? ああ、その前に自己紹介をしておくか。俺はアクセル・アルマーだ。お前は?」
「工藤新一。高校生探偵の工藤新一だ」
高校生探偵?
この世界は探偵とかそういうのが活躍してる世界なのか?
「新一か。で、これからどうする?」
「どうするって言っても……そもそも、ここはどこなんだよ? 俺は遊園地にいた筈なのに」
「ここは港にある、誰にも使われていない倉庫だ」
探偵とかそういう世界だと考えると、あるいはこの倉庫に来たのは間違ってなかったのかもしれないな。
「って、倉庫!? どうやって俺を遊園地から……」
「魔法だな」
「またそれかよ」
炎獣を見ても、俺の言葉は完全に信じる事は出来ないらしい。
まぁ、別に無理をして信じて貰う必要もないしな。
「で、どうする? この黒づくめの男達の処理とか。何なら俺が処理してもいいが」
ピクリ、と。
俺のその言葉に男の片方……新一を背後から殴った奴が微かに反応する。
どうやら目が覚めているらしい。
俺が魔法を使うというのも、これだと向こうに聞かれたな。
「と、とにかく遊園地に戻してくれ! 蘭を遊園地に待たせたままなんだよ!」
蘭? 名前から考えると、女か。新一の恋人か?
取りあえず、俺は新一を影のゲートで遊園地に送ると、すぐに倉庫に戻ってくる。
すると予想通り、さっき目が覚めていた方の黒づくめの男が起き上がっているのが見えた。
「やっぱり目が覚めていたか」
「お前……一体何者だ?」
「俺と新一の会話を聞いていたんだろう? 魔法使いだよ」
「……ふんっ、ふざけた事を言う。それより、俺をどうするつもりだ?」
「処分しようかと思っていたんだが、新一に止められたからな。警察に引き渡すらしい」
その会話を最後に、男は何も言わなくなるのだった。
結局倉庫の中にいた2人の黒づくめの男達は、新一が呼んできた警察に逮捕される事になった。
そして俺は新一の知り合いという事で解放された。
高校生探偵って、何気に影響力が大きいらしい。
その後は阿笠とかいう発明家の家で厄介になる事になり……それからは特に騒動に巻き込まれたりするような事もないまま、時間はすぎていく。
その間にも新一は色々な事件に巻き込まれたりしており、時には俺がそれを助ける事もあった。
そんな流れで、新一を通して美和子と知り合ったり、その友達の由美と仲良くなったり、あるいは新一の友人……というか新一の友人以上恋人未満の蘭の友人の園子と仲良くなったり……とまぁ、色々とあった。
何だか女関係ばかりなような気もするが、取りあえずその辺は置いておく。
実際に女3人とそういう関係になってるのは間違いない事実なのだが。
美和子と由美は警察官なんだから、園子とそういう行為をするのはちょっと問題なんだが……これもいわゆる、愛故にという奴なのだろう。
別に女だけではなく男ともそれなりに知り合ったりはしていたのだが。
ただ……俺が住んでいる米花町は殺人事件が多発する危険な町で、噂によると犯罪都市――町なのだが――とも呼ばれているらしい。
うん、多分この世界ってそういう原作の世界だからこそ、殺人事件が多発してるんだろうな。
そんな中で、黒づくめの男達……最近では黒の組織と呼ばれていたが、その黒の組織の活動に巻き込まれる事になってしまう。
キッドの一件も終わったし、美和子と由美も明日は有休を取っていたし、日曜ということで園子も学校は休みなので、今夜はたっぷりと楽しむつもりだったのに。
「ちょっと、アクセル! 一体何があったの!?」
「美和子、落ち着いてよ。それより園子ちゃん、大丈夫!?」
「あ、はい。アクセルさんのおかげで何とか……」
4人で出掛けた……デートというか、正確には園子の祖父に怪盗キッドからの予告状があり、それを見に来ていたのだが、その中で黒の組織が操縦している戦闘ヘリが俺達がいた高層ビルの屋上にあるレストランに射撃をしてきたのだ。
美和子は咄嗟にテーブルを盾にし、由美と園子はそこに隠れる。
「新一が揉めた黒の組織の仕業だな。戦闘ヘリに乗っている中にジンの姿があった」
ジン、SEED世界のMSではなく、新一の頭を殴った黒づくめの男だ。
あの後、結局警察に捕まっていた2人は脱走に成功している。
新一がちょっとその辺に絡んだ事があり、遊園地の一件で新一を殴った男の方がジン、もう1人がウォッカらしい。
「戦闘ヘリを日本の街中で使うなんて……一体何を考えているのよ! アクセル、すぐに警察に連絡をするから……」
「今のこの状況で警察に連絡をしても、やって来るまでの時間は足りないだろ」
「じゃあ、どうするっていうの!?」
「美和子さん、落ち着いて。アクセルさんなら、この状況でもどうにか出来るんでしょ。混沌精霊なんだから」
「園子ちゃん……」
美和子が園子の言葉にようやく落ち着く。
今のを聞けば分かるように、この3人は俺の正体を知っている。
当然最初にそれを知った時はかなり驚いたのだが、米花町という犯罪都市に住んでいるだけあって、俺を受け入れることもそう難しい話ではなかった。
「さて、話は決まった。とはいえ……問題なのは、このレストランにいる客達の目をどう誤魔化すかだよな」
戦闘ヘリから次々に銃弾を撃ち込まれているので、レストランの客達にも多くの死傷者が出ている。
また生き残っている者も必死に隠れているので、こっちに視線を向けているとは限らないのだが……それでも誰が見ているのか分からないこの状況で、素直に魔法を使ったりといった真似は出来れば避けたかった。
そう思っていたのだが……
「っと!」
ジンが俺のいる場所を見つけたのか、それとも偶然なのかは分からないが、こっちに向かって戦闘ヘリの機銃を撃ってきたのだ。
その攻撃を白炎を使って防ぐ。
当然ながら、白炎……白い炎が突然現れれば、このような状況でも周囲の注意を引く。
結果として、白炎は多くの者に見られる事になった。
そして当然ながら、レストランの外を飛んでいるジンにも白炎は見られ……
「しょうがない、派手にやるか!」
このままでは隠しきれないと判断し、いっそ思い切り派手に戦う事にした。
白炎から炎獣を無数に作りだし、窓から飛び出していく。
無数の炎獣に襲われた戦闘ヘリは、当然ながら対抗出来る筈もなく……やがて爆発した。
ただし、俺の目はジンが戦闘ヘリが爆発するよりも前にコックピットから飛び出していたのを見ている。
その背中に脱出用のパラシュートがあったのも。
「けど……逃がすと思うか!」
炎獣に指示を出すと、やがて空を飛べる炎獣は脱出したジンに向かって殺到し……全身を燃やしつくされるのだった。
「さて、問題なのはこれからどうするかだな」
ここまで派手にやってしまった以上、当然ながら警察を誤魔化すとかそういう真似は出来ない。
警察の方で動き出すのも問題だ。
「俺は一旦隠れる。黒の組織を滅ぼす必要があるしな。お前達は……どうする?」
そう尋ねた俺の言葉に、3人は揃って、それも即座に一緒に行くと言う。
正直なところ、社会的な立場とかを考えると不味いと思うんだが……いや、この3人にそれを言っても意味はないか。
やる気満々な様子なのは、見れば分かる。
「分かった。……よし、じゃあ来い」
そう告げると、3人は俺の側に来る。
当然ながらレストランにいた者の多くはそんな俺の様子を見ていたが、白炎や炎獣を見せた以上はもう隠しても意味はないと考え、影のゲートでその場から移動するのだった。
「園子、本当に行くの?」
「うん。蘭には悪いけど、私はアクセルさんと一緒に行くわ。……蘭もしっかりやりなさいよ」
蘭と園子が……それ以外にも俺についての事情を知ってる者達が集まり、別れを惜しむ。
他にも新一を始めとした面々がやって来ている。
「アクセル、本当に行くのか?」
「ああ、俺の力を見せてしまった以上、どうしようもないだろ。高校生探偵がどうにかしてくれるのなら、話は別だけどな」
「無茶を言うな、無茶を。事件を解決するのならともかく、アクセルが力を見せたのをどうしろってんだよ」
「さてな。それはそれで何とかなるだろ」
そうして話をした後で、俺と美和子と由美と園子の3人は旅立つのだった。
この後、黒の組織と戦い続けた結果何故かベルモットまで俺の恋人になったりするのだが……ともあれ、黒の組織が壊滅した後は悠々自適に愛欲の日々を送るのだった。