転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編128話 UC世界の女の戦い

 UC世界における一大勢力、ルナ・ジオン。

 その首都があるクレイドルの政庁において、現在特定のメンバーだけが集まって重要な会議が行われていた。

 

「じゃあ、まずあたしが行くのは決まりでいいね?」

 

 その会議の中でそう口にしたのは、シーマ・ガラハウ。

 宇宙の蜉蝣の異名を持ち、ルナ・ジオンの立役者の1人で、多くの者から慕われている。

 このシーマがジオン軍時代には上官に騙されてコロニーに毒ガスを使う事になり、それを理由にしてジオン軍全体から爪弾きにされ、汚れ役だけをやらされていた……というのは、ルナ・ジオン建国の際に多くの者が知る事になった。

 シーマとしては自分や部下の汚名が晴らされたことは嬉しかったのだが、だからといって今の状況は決して好ましい訳ではない。

 元々スラム街で育ったシーマだけに、多くの者に慕われるというのはあまり落ち着かない。

 そんな中で、シャドウミラーからX世界という異世界でバルチャーをしないかという誘いがあったのだ。

 それに乗らない筈がない。

 ……ましてや、そのバルチャーに参加するのはアクセルもいるのだから。

 シーマにとって、アクセルは憎からず思っている相手だ。

 そんな人物と一緒に行動するのだから、それを拒否する筈もなく、それどころか自分から進んでそれに立候補するのは当然だった。

 

「シーマ、何か勘違いしていない? 言っておくけど、今回の件は貴方の思っているような事ではないのよ」

「おや、モニクのお嬢ちゃんは参加しないのかい?」

 

 からかうように言ってくるシーマに、モニクは顔を赤くする。

 それは照れか怒りか……あるいはアクセルに対しての感情からか。

 しかし、すぐに咳払いをしてから生真面目な表情で口を開く。

 

「勿論参加します。私もMSの操縦訓練は受けていますし、何よりもバルチャーという仕事は色々と交渉したりといった事があると聞いています。そうである以上、私が適任なのは間違いないでしょう」

「ちょっと待って。それはずるくない? アクセルが呼んでるのはMSのパイロットでしょう? なら、やっぱり私も参加してもいいと思うんですけど」

「あら、それなら私も参加してもいいと思うわ。……いえ、X世界でしたか。その世界ではニュータイプ研究が進んでいると聞きますし。それなら私は相応しいと思いますけど」

 

 クリスが自分が行くと言えば、それに釣られるようにクスコもニュータイプの自分が行くという。

 そして……

 

「ニュータイプという事なら、私が行ってもいいと思いますが?」

『駄目です』

 

 その場にいた最後の1人、セイラがそう言うと、満場一致といった感じで全員がそれを否定する。

 当然だろう。

 セイラは確かにこの場にいる中……いや、このUC世界の中でも最高のニュータイプだ。

 しかし、それはあくまでもニュータイプというだけであって、MSのパイロットという訳ではない。

 ……実際にはMSやMAの操縦訓練は行っており、その辺のパイロットよりも高い技量を持っているのだが。

 ましてや、その操縦技能に最高のニュータイプ能力が加われば、エース級パイロットを凌駕するだけの強さを持つ。

 しかし、そんなセイラがX世界に行くというのを即座に全員に否定されるのは当然のように、相応の理由がある。

 セイラの本名は、アルテイシア・ソム・ダイクン。

 その名前から分かる通り、ジオン・ズム・ダイクンの長女。

 そして、ルナ・ジオンの女王でもある。

 そんな女王のセイラがMSパイロットとしてX世界に行くというのだから、皆がそれに反対するのは当然の話だろう。

 セイラもそれは分かっているのか、即座に全員から反対されてもそれに不満は持たない。

 いや、不満は持っているのだろうが、反対されるだろうというのは分かっていた以上、露骨に不満そうにする事はなかった。

 ……実際に自分が行くと口にしたのも、部屋の中で起きていた言い争いを止める為というのが大きいのだから。

 とはいえ、もし誰も反対しなければセイラはちゃっかりとMSパイロット……いや、MS乗りとしてX世界に行っていたのは間違いないが。

 

「ほらほら。落ち着きな。そもそも、こっちから派遣するMSパイロットは10人なんだろう?」

「ええ。テンザン級という陸上戦艦……連邦軍のビッグ・トレーやジオン軍のダブデのような物と思ってもいいでしょうけど、それに搭載出来るMSは最大12機らしいわ」

 

 シーマの疑問にセイラがそう答えると、クリスが疑問を口にする。

 

「ちょっと待って。そうなると、MSパイロットの数が合わないんじゃ? UC世界から10人、アクセルが1人。……もう1人は?」

「シャドウミラーから出すんじゃない? もしくは特にまだ決まっていないだけで、テンザン級だったかい? 11機のMSを運用するとか」

 

 クスコのその言葉に、皆が納得した様子を見せる。

 実際には、MSを確保した時の予備であったり、MSを運用する際に最大機数を運用した場合は窮屈になるかもしれないというのもあるのだが。

 ……とはいえ、アクセルには空間倉庫がある。

 連邦軍の基地を探索してMSを見つけても、別にテンザン級に収納をする必要はないのだ。

 

「そうなると、ここにいる人達は全員……」

 

 シーマはそこで一旦言葉を止め、セイラに視線を向けてから改めて口を開く。

 

「ここにいる殆どはMSパイロットとして問題はないんだろう? 寧ろここにいるだけでは足りないさね」

 

 現在この部屋の中にいるのは、シーマ、モニク、クリス、クスコ……そしてセイラ。

 ただし、セイラは女王である以上はX世界に行く事は出来ない為、パイロットとして希望しているのは4人。

 シャドウミラー側から求められているのは10人である以上、残り6人となる。

 

「そうね。MSパイロットとして考えれば他に募集をしてもいいけど……そうなると、希望する人はたくさんいるでしょうね」

 

 そう告げるセイラの予想では、それこそ殆どの者が希望してもおかしくはなかった。

 とはいえ、だからといって生半可な腕のMSパイロットをUC世界の代表とする訳にもいかないだろう。

 また、連邦軍やガルマに従わずにいるジオン軍残党が妙な行動を起こした時に、ルナ・ジオン軍として動く必要も出て来る。

 そうである以上、あまり大人数を向かわせる訳にもいかない。

 

「この話をすれば、まず黒い三連星は3人揃って希望するでしょうね」

 

 モニクはルナ・ジオン軍を代表するエース達の名前を口にする。

 黒い三連星は、技量こそ高いが性格的に問題はある。

 だが、ある意味でその辺がアクセルと気が合ったのか、今は友好的な関係だった

 UC世界において最初に出会った時は険悪な関係だったのだが。

 ある意味、河原で殴り合って友情が芽生えたというのに近いような、そんな関係。

 ともあれ、ガイア達黒い三連星にとって、アクセルは大事な仲間だ。

 そのアクセルがUC世界に助けを求めて来た――正確には違うのだが――となれば、黒い三連星がそれに協力しない筈がない。

 

「黒い三連星がX世界に行くのなら、マリオンも行くと思うわよ」

 

 クスコが自分の友人の名前を口にする。

 マリオンもまた、クスコと同じくニュータイプの1人だ。

 ただし、女ではなく少女という表現が相応しい華奢な人物なのだが。

 それでいながら、ニュータイプとしての能力は本物で、ルナ・ジオンを代表するエースの1人に数えられてもいる。

 そんなマリオンの名前が何故ここで出て来るのか。

 それはマリオンが黒い三連星の1人であるオルテガと付き合っているからだ。

 まさに美女と野獣……いや、マリオンの外見を考えると美少女と野獣といった表現が相応しい組み合わせだった。

 それでいながら、マリオンの方がオルテガにぞっこんなのだから、それを知った者の多くは驚く。

 そんなマリオンだけに、恋人のオルテガがX世界に行くとなれば自分も行きたいと言うだろう。

 それを抜きにしても、ニュータイプが存在するX世界である以上はマリオンを連れていければアクセルも喜ぶのは間違いないだろう。

 

「シーマと黒い三連星がいなくなると……正直なところ、これ以上の戦力は出せないわね」

 

 ルナ・ジオンにおいて顔となる戦力は複数ある。

 宇宙の蜉蝣シーマ・ガラハウ。

 黒い三連星のガイア、オルテガ、マッシュ。

 そして……そんな中でも最高の名声を持っているのが、青い巨星ランバ・ラル。

 ルナ・ジオンを建国する時も、中心的な存在として活躍した者達であり、間違いなくルナ・ジオンの重鎮だろう。

 とはいえ、それはあくまでも戦力としての話だ。

 政治家となると、アンリを始めとして他にも多数の優秀な者達がいる。

 ……とはいえ、アクセルが欲しているのは政治家ではなく、あくまでもMS乗りの戦力だ。

 政治家は必要ない。

 セイラはラル隊を派遣しないと、そう告げた。

 

「けど、あのランバ・ラルよ? X世界について知ると、行きたいと言うんじゃないかしら」

 

 クリスのその言葉には、皆が納得してしまう。

 ラルはセイラを大事に思っているのは間違いないが、同時に生まれついての戦士でもある。

 そんなラルにとって、X世界というのはそれなりに……あるいはそれなり以上に魅力的に映ってもおかしくはなかった。

 だが、ルナ・ジオンの中でも最大の知名度を持つラルがいなくなるというのは、不味い。

 もし連邦軍が何か妙な真似を仕掛けて来た時、そこにラルを含めて黒い三連星やシーマがいなければ、面倒な事になるのは間違いなかった。

 

「なら、いっそハワイからガトーを呼ぶかい?」

 

 シーマのその提案は一考の余地ありと判断される。

 ガトーもまた、ソロモンの悪夢という異名で呼ばれているルナ・ジオンでは有名なパイロットだ。

 他にもハワイには荒野の迅雷ヴィッシュ・ドナヒューという異名持ちもいる。

 

「いえ、今の状況を思えば、地上から戦力を引き抜くのは止めておいた方がいいでしょう」

 

 セイラがガトーを月に連れてくるという言葉に反対する。

 

「地球上は、ハワイ以外は連邦軍の勢力下です。……正確にはジオン軍の残党が潜んでいる場所も多いらしいですが」

「そうですね。もし連邦軍が……いえ、強硬派が手を出してくるとすれば、直接月に手を出してくるのではなく、ハワイ……もしくはペズン辺りでしょう。しかし、ペズンには無人機が大量にいるのを連邦軍も知っています。そうなると、やはり可能性が高いのはハワイかと。そうなった時、ソロモンの悪夢と荒野の迅雷がいないというのは……」

 

 モニクのその言葉に、他の者達も納得する。

 ジオン公国の小惑星基地だったペズンでは、色々なMSが開発されていた。

 それらのMSは高性能な機体が多く、ガルバルディはルナ・ジオンによって接収され、改修された上でガルバルディβとしてルナ・ジオン軍の正式量産機となった。

 もっとも、ガルバルディβを使うのは一般パイロットで、エース級はギャン・クリーガーを使う事になっているが。

 そんなペズンだったが、現在は地球の近くにあるルナ・ジオン軍の小惑星基地として使われていた。

 ハワイからHLVを使って上がってきた時、あるいは月からハワイにHLVで降下する時に経由する場所としても使われている。

 連邦軍にしてみれば、決して面白い存在ではないだろう。

 それこそ強硬派が攻撃をしたいと思ってもおかしくはないのだが……1年戦争でとんでもない性能を見せつけた無人機、バッタやメギロートといった機体や、量産型Wの乗るシャドウがペズンには配備されている。

 ましてや、ペズンはハワイと比べると圧倒的に月に近い。

 そうである以上、当然ながらハワイとペズンのどちらに手を出しやすいかとなると、ハワイだろう。

 

「そうなると、やっぱりハワイから人を引き抜く訳にはいかないねぇ……少し考えを纏めてみようか。今のところ決まっているのは、ここにいる4人と黒い三連星、そしてマリオンの8人だ。つまり、後2人だけど……名前がそこまで知られていなくて、それで今ルナ・ジオンからいなくなっても影響がない人物となると……誰だろうね?」

 

 ここにいる4人というところで自分が外された事に不満そうなセイラだったが、それでも女王である自分が異世界でバルチャーをやる訳にはいかないと我慢する。

 

「元外人部隊の人達はどうかしら? ケン・ビーダーシュタットという人物は腕利きだと聞いた事があるわよ?」

 

 ジオン軍の外人部隊。

 それはケン・ビーダーシュタットを始めとした勢力だ。

 能力は高いものの、外人部隊としてジオン軍ではシーマの海兵隊並に酷い扱いをされていた面々。

 しかしシーマとは違って、その件は知られていない。

 いや、正確にはある程度の情報は流れているものの、シーマのように劇的な話ではなかったので、知らない者の方が多い。

 何よりもシーマは美女だが、ケンはそれなりに顔立ちは整っているものの、男だ。

 世の中の多くが望むのは、やはり男よりも美女なのだろう。

 

「けど、ケンは妻や子供がいるって話だしね。難しいと思うよ」

 

 シーマのその言葉に、この場にいる全員は悩むのだった。


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