ドラゴンクエストビルダーズ 紡がれるもう一つの歴史 作:seven river
ノリンが回復した日の夕方、病気の間木のベッドで寝ていた彼は寝室のベッドもそちらにしたいと話す。
それを機にファレンとエルも自身の木のベッドを作り、3人で一夜を明かした。
翌日、ファレンは最初に目覚め、ケーシーの様子を見に行く。
「起きては来てないか…もしかして、まだ治ってないのかな?そんなことないといいけど…」
ノリンの時とは違い、元気に外を歩いている様子は見られなかった。
治ったけれどまだ寝ているのだと信じて、ファレンは病室の扉を開ける。
だがそこには、顔色が紫色のまま、高熱と激しい咳で苦しんでいるケーシーの姿があった。
彼女は起きているようで、ファレンが来たことに気づいて話しかける。
「あっ、ファレン…ごほっ、ごほっ…。一晩寝てみたけど、治らないみたい…」
薬草が効かないのであれば、現在の技術では治すことが出来ない。
昨日は希望を持ち初めていたケーシーだったが、また絶望に沈み始めていた。
「やっぱり、あたいはもうだめみたいだね…ここまで助けてくれてありがとう…」
「まだ死ぬって決まった訳じゃないよ。何とか新しい治療法を見つけるから、それまで頑張って。これからエルとも相談して来るよ」
だからと言って、ここで治療を諦めることは出来なかった。
しかし一人では何も思いつかないので、ファレンは一度病室を出て、エルを起こして新しい技術の相談をしようとする。
「エル、起きて。相談したいことがあるんだ」
「…どうしたのですか?深刻そうな顔をしておられますが」
「さっきケーシーの様子を見てきたんだけど、治ってなかったんだ。それで、新しい治療法の相談をしようと思って」
重症だったため予想出来たことではあったが、それを聞いてエルも悲しそうな顔になる。
「…やはり、薬草だけではだめでしたか。そうであれば、特殊な薬を作らなければならないでしょうね」
「どうやって作るんだ?」
「実は…私は薬に関しての知識は浅く、そこまでは分からないのです。しかし、知識を持つ人に心当たりがあります」
エルは病を治したいという志は強いものの、薬の知識には乏しいようだった。
知識のある者の居場所を尋ねると、エルは一度寝室から出て、拠点の南にある丘を指差す。
「どこにいるんだ?早く治さないといけないし、これから連れて来るよ」
「あの丘の上に、ゲンローワという薬師が住んでおられます。彼の知識と物作りの力が合わされば、特別な薬もきっと作り出せるでしょう」
南の丘には、昨日通った枯れ木の森から登ることが出来る。
「そっか。じゃあ、今から行ってくるよ」
「ありがとうございます。彼は強情で変わった方なのですが、ファレン様なら大丈夫だと思います」
変わった人と聞いてファレンは少し不安にはなるが、新しい薬を作るため連れて来ない訳にはいかなかった。
彼がゲンローワの元に向かう間、エルはケーシーの看病を行う。
「そうなんだ…でも、とにかく行ってくるよ」
「お願いしますね。私はその間、ケーシー様の看病をしております」
ファレンは拠点を出発し、まずは魔物たちを避けながら枯れ木の森に向かっていった。
森に着くと、そこから崖を登って丘の上を歩き始める。
丘の上には拠点近くの高台と同じで白い花や薬草、綿毛草が生えており、毒矢頭巾が何体も彷徨いていた。
しばらく進んでいくと、メルキドでも見た枝豆の姿が目に入る。
「枝豆か…苦キノコばっかり食べるのも嫌だし、集めておこっと」
ようやく美味しい食材が手に入ると、ファレンは枝豆を刈り取っていく。
しかし、とりあえず今はゲンローワを探すことが目的なので、多くは採取しなかった。
丘の上を歩き続け、人の姿がないか見回していく。
そうしていると、4つの木で出来た墓標と、その隣に佇む老人の姿が見えてきた。
老人の近くには、メルキドでも見た形の宝箱も置いてある。
「あのおじいさんがゲンローワかな…?」
老人は緑色の服を着ており、髪は全て白髪になっていた。
暗い顔で墓標を眺め続けており、話しかけ辛い雰囲気を放っている。
老人だとは聞いていなかったが他に人の姿もなく、ファレンは思い切って声をかけた。
「…ねえ、そこのおじいさん」
「むっ…お主は初めて見る顔じゃが、どこから来たのじゃ?」
「僕はファレン。エルって人に言われて、薬の知識を持ったゲンローワって人を探してるんだ」
「それなら、ゲンローワはわしのことじゃな…エルはまだ、病との戦いを諦めてはおらぬのか…」
ゲンローワはエルとは違い、病との戦いを諦めているようだった。
しかし、物作りの力があれば薬も作れるだろうと思い、ファレンは彼を連れて行こうとする。
「こんな世界だから諦めるのも無理はないと思うけど…僕は物作りの力を持ったビルダーなんだ。物を作る力があれば、薬も作れると思うよ」
「お主が、あの伝説のビルダーか…すまぬが、今のわしは何もやる気が出ぬのじゃ。どうか、放っておいてくれぬか…」
ゲンローワは暗い表情をしたまま、再び木の墓標の方を見る。
よく見ると、墓標を置く台が5つあるにもかかわらず、墓標自体は4つしかなかった。
「もう一人弔いたいのじゃが…そのための木の墓すらない…」
「それなら、僕が作ってくるよ。ちょっと待ってて」
墓がなければゲンローワはやる気を出しそうになく、ファレン自身も死者を放っておきたくはなかった。
一度彼の元から去って、リムルダールの拠点へ木の墓を作りに行った。
二本の太い枝で十字架を作り、それらをヒモで固定すれば作ることが出来る。
帰り道に太い枝を集め、早足で歩いていった。
拠点に戻って来ると、ファレンの足音に気づいたエルが病室から出てくる。
「ファレン様、戻って来られたのですね…ゲンローワ様は来られなかったのですか?」
「うん。死者を弔うための墓が足りなくて、やる気が出ないみたいなんだ。墓を作っても来てくれるかは分からないけど、とりあえずやってみるよ」
ゲンローワは薬師として働いていたものの、患者を救えなかったようだ。
その悲しみから彼が立ち直れるかは不安であったが、薬の開発のためにもう一度説得に向かう。
「そうでしたか…墓を作りましたら、また説得してみて下さいね」
「そのつもりだよ。何とかして薬を用意しないとね」
「はい。ケーシー様も頑張ってはおられますが、時間はかけておられません」
エルとの話の後、ファレンは木の作業台を使って木の墓を作り始めた。
回収した2本の太い枝を取り出し、それらをヒモで縛って十字架の形を作る。
墓が出来ると、ファレンはそれを一度ポーチに入れ、再びゲンローワの元に向かっていった。
先ほどと同じ道を辿り、南の丘へと登っていく。
ゲンローワの元に着くと、空いている台に木の墓を設置した。
「ゲンローワ、墓を作って来たよ」
「むう…確かにこれは木の墓。これを作れるとは、お主は誠に伝説のビルダーのようじゃな…」
実際に墓を作った所を見て、ゲンローワもビルダーの力を認めていた。
そこでファレンはもう一度説得を試みるが、一筋縄ではいかないようだった。
「この物作りの力があれば、病を治す薬を作れると思うんだ。物作りの仕方ももちろん教えるよ…だから、一緒に来てくれないか?」
「確かにお主の力はすごいようじゃ…しかし、そもそも死とは抗うべきものではない。自然の摂理として受け入れるべきものなのじゃ…」
ゲンローワは諦めの果てに、病や死に抗うのをやめ、受け入れるという考えに至ったようだ。
エルの言っていた通り、確かに変わった考えの持ち主だった。
しかし、エルは病に抗いたいという強い想いを持ち続け、人々も絶望しつつはあるものの生きたいと願っている。
「そうなのかもしれないけど…それでも僕たちはどうしても病を治したい、リムルダールを復興させたいと思ってる」
「死に抗おうとするのは人間だけじゃ…おこがましいことだとは思わぬか?」
確かに人間だけのことで、ゲンローワの言う通り自然の摂理に反しているのかもしれない。
しかし、それだからこそ人間らしいのだと、ファレンは強く思った。
「確かにそうだけど…だからこそ、人間らしいってものなんじゃないか?」
「人間らしい、か…お主、間の抜けた顔のわりに、随分それっぽいことを抜かすではないか」
ファレンの言葉に、ゲンローワは意外そうな顔をする。
間の抜けた顔というのには納得出来なかったが、彼も少しはやる気を出し始めたようだった。
「…いいじゃろう。お主たちの作った拠点に、わしも連れてってくれ」
「来てくれるんだね…本当にありがとう」
来てくれることになり、ファレンはゲンローワに深く感謝する。
彼の知識がどれほどのものかは分からないが、病との戦いに役立つことは間違いなかった。
出発の前、ゲンローワは近くに置いてあった宝箱を指さした。
「お主とエルの覚悟のほどを、わしが見極めてやろうぞ。…そうじゃ、確かこの宝箱の中に、大昔の人が作った移動に役立つ道具が入っておるぞ」
「そうなんだ。それじゃあ、それを使って帰ろう」
ゲンローワの持ち物だと思って先ほどは放っておいたが、ファレンは宝箱を開けてみる。
すると、中には3枚のキメラの翼が入っていた。
大昔の物とのことだが状態は良く、これを使って帰れそうだった。
「キメラの翼だね…すごい速さで飛んで帰る道具だけど、大丈夫か?」
「わしもそこまで老いてはおらぬ…安心して使うのじゃ」
素早く飛ぶのでファレンは少し心配になったが、ゲンローワは問題ないと答える。
「分かった。それじゃあ、拠点に行こう」
ファレンは拠点のことを思い浮かべながらキメラの翼を放り上げ、その瞬間二人の身体は高く飛び上がった。
空を真っ直ぐに飛んでいき、リムルダールの拠点の上空へと向かう。
「おお…これが空から眺める大地か…いつもとは違って新鮮じゃな」
「まあ、ほとんど汚染されちゃってるけどね…あっ、そろそろ拠点に着くよ」
ファレンたちは空を飛びながら、汚染された大地や湖を眺める。
あっという間に二人の身体は拠点の上へとたどり着き、希望の旗の台座へと急降下していった。
2章以降に関して。1話の長さを短くして毎日投稿出来るようにするか、1話の長さはこのままで不定期更新にするか、どちらが良いでしょうか?
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