カナリアは大空を夢見る   作:鞍月しめじ

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剥離

 作戦会議室に集められた自分とバーバチカのアニマたち。前方に投影されたロシアの地図には、ザイの侵入経路が描かれていた。

 モンゴルからまっすぐ、こちらへ入ってくる。その迎撃に自分たちが選ばれたようだ。すでに空軍機が被害を受けたと説明もされた。

 

「久しぶりにゆっくりするつもりだったのにな」

 

 ドーターへの移動中、ジュラーヴリクがごちる。確かに急な話ではあったけど、スクランブルという訳でもない。

 ただ、今も通常機パイロットは戦い続けている。自分たちがスクランブルでないのは、空域が遠いからだ。ただ、それも時間の問題。恐らくこちらがドーターを起動し、上がる頃にはザイに抜けられる。

 

「ミグ、ジュラの命令は絶対だ。ジュラが認めたなら私に不平は無いけど、命令違反すればすぐに私が殺す」

 

 ラーストチュカは相変わらず自分にナイフのように鋭い視線を向けてくる。ジュラーヴリクの判断なら、というのは恐らく間違いない。ただ何処かで本意でない気持ちもある筈だ。

 

「大丈夫です。フォローはしますから」

 

 パクファは相変わらずの笑みで語る。彼女と話すことは少ない。掴み所の無い、不思議なアニマという感覚だった。

 ジュラーヴリク曰く、ロシア語以外はろくすっぽ話せないのだとか。日本に行った時に少し覚えてきた位らしい。

 ともかく、自分は彼女達の編隊機の一部として飛ぶ。ベルクトが飛んだ空を、次にライバル機であった1.44である自分が飛ぶ。

 

 ドーターに乗り込んで、システムを起動。機関砲、ウェポンベイ共に実弾を積むのは初めてだ。

 ダイレクトリンク、システムチェック。異常はない。トーイングカーで引き出されてから、タキシングを行う。

 BA01、ジュラーヴリクから順番に離陸だ。色とりどりの機体が次々に蒼空目掛けて昇っていく。こちらもスロットルを操作し、勢い良く滑走路を駆け抜けた。

 加速力は変わらない。フル装備で多少変わるかと思ったが、むしろAL-41Fは調子良く吹けている。

 

〈全機上がったか? ザイどもを吹っ飛ばす用意は出来てるだろうな?〉

〈BA02、いつでもいいよ〉

〈BA03、こちらも問題ありません〉

 

 離陸を完了して、自分も三機の後ろに付く。

 

〈BA04、ミグ! 用意できてんのか!?〉

「はい! 問題ありません!」

 

 危ない。危うく報告を忘れてしまうところだった。ジュラーヴリクからの叱責に慌てて返答して、編隊を維持する。

 甘えてばかり居るわけには勿論いかない。これから向かうのは実戦の場なのだから、意識を持ち直さなくては。

 眼下の森がすさまじい速度で後ろへ流れていく。普段は基地上空の空域だけだったから新鮮な感覚を得ると共に、実戦に向かうという意識が高まってくる。

 妨害装置の件もある。自分は戦えるのか? 少しだけ不安だった。

 

(いや、迷惑をかける訳にはいかない。全力で戦わなきゃ!)

 

 不安を振り切って武装チェック。全速力で向かっていたからか、既に戦闘空域は近い。ザイもレーダーの隅に映り始めた。

 敵機数は10機程度。

 

〈空軍機下がれ! あとはバーバチカが引き受ける!〉

 

 ジュラーヴリクの声と共に、既に戦闘に上がっていたスホイが後退する。かなりの数が上がったのは間違いないと思うが、こちらが確認しただけで片手で数えられる程度しか味方を確認出来ない。

 それでも、ザイには数機ほどダメージを受けたものも確認できた。健闘している、それは良くわかった。

 

〈全機、残りのザイを潰せ。指示を出すまでは任意戦闘、まずは味方を逃がす!〉

 

 ジュラーヴリクの指示に、自分を含めた全員が了承。編隊を解く。少なくともザイ相手に編隊を組んだまま戦うのは無理だ。

 ジュラーヴリクとラーストチュカはともかく、こちらはパクファとそのまま左右へ散開しザイの処理に当たる。

 

「……捉えた」

 

 傷付いたザイはあまりに遅い。ミサイルを温存して、機銃を打っても当たりそうなほど。だが次の瞬間、狙っていたザイが眼前から消える。

 

「しまった!」

 

 ロスト。レーダーは自機の背後にザイがいると告げている。ザイのHiMATによって、一瞬にして転進したようだ。

 一瞬にして攻守が入れ替わる。人間が対抗できなくて当然だ。あの機動に人間がついていくなら、内臓の幾つかは犠牲になるし機体も空中分解しかねない。

 しかしあいにくこちらはドーター。人間が開発し、ザイに勝つため生まれた兵器。機内に響くミサイルアラートすら、自分たちにとっては脅威ではない。

 いや、脅威には違いないが回避する術は幾らでも計算できる。

 

(そう来るなら)

 

 機首を思い切り持ち上げ、上昇と共に一回転。ザイがこちらをオーバーシュートする直前、上空から機銃を放つ。雨のように撃ち下ろされた曳光弾がザイを貫いていくのを眼前で確認、四散するザイを横目に次の標的へ移る。

 

(あれ……)

 

 スロットルからのフィードバックがおかしい。なんだか空回りしているような感覚だった。どれだけスロットルを開いても、加速しない。操作だけして、エンジンが反応しないような感覚。

 気味が悪い。ザイがこちらの不調を見逃す筈もなく、すぐに転進しては機銃でこちらを撃ってきた。

 

「くっ、うっ!?」

 

 機銃弾を受けて痛みに怯んだが、大丈夫。まだ飛べる。飛べる。刹那ミサイルアラートが鳴り響く。

 妙な感覚だった。ミサイルアラートがどんどん遠くなる。機内が闇に染まっていく。瞼が重い。意識を保てない。

 

(そんな……初戦闘でこんな……)

 

 こんな体たらく、絶対にあっちゃいけない。だけど、それに反しようとすればするほど急速に反応が鈍くなっていく。

 機体がぐらついた。それからはひたすら闇。機体も、空も、向かってきているミサイルも無い。闇だけが自分に覆い被さっていた。

 

『起きて』

 

 不意に、妙な声が聴こえた。まだ幼い少女のような声。

 

『起きて、戦って』

「誰? どこにいるの?」

 

 辺りを見渡す。頭が重い上に周囲は真っ暗。方向感覚など無い。

 

『早く起きて』

「何が起きたの? ねえ、教えて――」

 

 突然、視界を光が差した。コックピットの中だ。ミサイルが向かっている。フレアを撒いている暇は無い。

 フィードバックは先程と打って変わり、良好だった。スロットルを一気に開き加速。それから左エンジンを停止、右エンジンだけの推力で機体を反転させザイのミサイルと正対し機関砲を制射する。

 機関砲弾一発がミサイルに当たった。爆発により正面が爆炎に包まれるが、ダメージは喰らった破片くらいだ。直撃よりはずっとマシだろう。

 すぐさまロックオンし返し、ミサイルを放つ。逃げるザイ。ミサイルの管制を行い、ザイを追い回す。至近距離でミサイルを炸裂させ、撃破。

 左エンジンを再始動し、スロットル操作で回転数を合わせる。

 

「二機、撃墜……。次に……次――」

 

 まただ。また機体とリンク出来なくなっていく。また闇に呑まれていく。

 次、とその先に続く言葉が出てこない。ジュラーヴリク達の声が聴こえない。これ以上思考が回らない。

 それから完全に全ての感覚が絶たれるまで、さほど時間は掛からなかった。

 

 □

 

「おい、BA04! ミグ!」

 

 ジュラーヴリクたちはザイを撃墜し終えていた。レーダーはクリア、敵機は居らず逃げていた味方は無事。

 だが、カナリアイエローの1.44だけはダイレクトリンクの発光現象を失いふらふらと高度を下げていた。

 

「このままじゃ墜落する、コントロールは私が受け持つ。ジュラ、基地に緊急着陸の要請を!」

 

 アクアマリンに輝くMiG-29が寄り添うように1.44の傍へと向かい、高度を下げていた1.44をコントロールする。エンジンも何もかもが止まっている。

 これだけの機体を一人で受け持つには演算量も二倍だ。だが戦闘は終了している、ただ飛ばすだけならラーストチュカでも出来そうだった。

 

「クソッ! ラーストチュカ、頼んだ。パクファ、二機でミグを基地までコントロールしろ。ラーストチュカ一人じゃキツすぎる」

「了解」

 

 PAK FA-ANMも1.44の傍へ。イリデッセンスとアクアマリンの色が1.44で交ざり合う。

 演算量を分割したおかげでラーストチュカへの負担は減った。パクファの演算量も凄まじいものになるが、そこは第五世代機のアニマだ。多少の演算量増は気にならないようだった。

 

「なんだってんだよ一体。ミグに何が起きた、チクショウ!」

 

 基地への連絡を済ませ、部隊を率いるジュラーヴリクは機内で毒づいた。

 一刻も早く基地へ。それからミグに検査を受けさせなければ。ジュラーヴリクは後ろについてくる編隊機たちへ目を配らせて、ゆっくりスロットルを開いていった。




11巻でガーリー・エアフォースもいよいよ完結。
表紙はドーターグリペンとアニマグリペン。最後にふさわしい、かなり豪華な仕様に見えました。

そしてこちらは更に謎を増やして終わりです。
またちょっとスランプ入り始めてますね。こわいよぉ……。
まあでもこっちは割りと最後まで道は出来てるんですが。
やっぱジュラーヴリク姉貴かわいいわ。あ、勿論トップはライノなんやで。
でもみんなかわいいです。ね?ね?

次回もまた読んでいただければ幸いです。

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