色々なものが見える少年   作:太陽光
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第十四話 集まる仲間達

ー北蓮寺 山門ー

 

「ここ……だよな?」

「そうみたいですね」

 

 北蓮寺の山門前では一人の青年と一人の女性が立っていた。大阪から来た謙一と鳳翔である。謙一自身は『一人で行く』と言っていたのだが、鳳翔がどうしてもと言って聞かなかったので、やむを得ず連れてきた。深海棲艦はいないと思っていたが、万が一を考えて普段はポニーテールの鳳翔だが、今日は髪を下ろしてロングにしている。

 

「入ってもいいのかな?」

「さぁ……どうなんでしょうか」

 

 謙一達が境内に入るのをためらっていると、後ろからバイクの音が聞こえてきた。謙一達が振り返ると、若い女性が後ろに少女を乗せてこちらに向かってくるのが見えた。

 

「ふぅ、長かった~」

「運転お疲れ様です結衣さん」

「流石に京都は遠いよ~」

 

 結衣がヘルメットを脱いで大きく伸びをしていると、謙一と目が合った。

 

「えーっと……もしかして君もここに来るように妖精に言われた人?」

「えと、あの……その……は、はい」

 

 謙一の問いかけに結衣は顔を真っ赤にしながらたどたどしく答えた。

 

(結衣さんすごい顔が真っ赤になってる……昔から全く変わってない)

(耳まで真っ赤に……緊張しやすい方なのでしょうか?)

 

 結衣の表情を見て結衣の隣にいる初霜は自分達が雪山家に来た頃と全く変わらない結衣に少し呆れ、謙一の隣にいる鳳翔は頬を手で触りながら不思議そうに結衣を見ている。

 

「そうなんだ。じゃあ、君の隣にいるのも艦娘?」

「は、はい!そうです。初霜ちゃん」

「はじめまして。初春型駆逐艦の初霜です。よろしくお願いします」

 

 初霜は謙一と鳳翔に対して丁寧にお辞儀をした。それに釣られて慌てて結衣もお辞儀をする。見た目は身長の問題もあって結衣がお姉さんで、初霜が妹に見えるのだが、立ち振る舞いは完全に初霜の方が上である。

 

「丁寧にありがとう。僕は香谷謙一。こっちは一緒に暮らしてる鳳翔だ。よろしく」

「鳳翔型航空母艦の鳳翔です。よろしくお願いしますね」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 鳳翔に差し出された手を結衣は慌てて掴んだ。その時、結衣の乗って来たバイクの後ろに白い高級車が停まり、中から帽子を被った白髪の男性と二人の女性が降りてきた。滋賀県から来た米倉と扶桑、それから山城である。

 

「おや?皆さんも妖精からお誘いを受けた方達ですかな?」

「貴方もですか?」

「ええ。私は滋賀県で医者をしています米倉という者です。後ろにいるのは一緒に暮らしている扶桑と山城です」

 

 謙一が答えると、白髪の男は帽子を取ってお辞儀をし、扶桑と山城もそれに倣った。

 

「ここが例の男の住んでいるところ……どのような方なんでしょうか姉様」

「それはあってからのお楽しみよ山城」

 

 扶桑と山城が山門の奥を見ていると、奥の方から全速力で誰かが走ってくるのが見えた。

 

「おや?誰か来ますね」

「え?」

 

 米倉と謙一も山門の方を見ると、赤い髪をした見るからに不良の格好をした少年が全速力で走ってくるのが見えた。少年は米倉達の前で止まると、息を整えながらお辞儀をした。

 

「わざわざこの様なところに来てくださりありがとうございます。俺……じゃなくて、僕が貴方達を集めるように妖精達に頼んだ張本人の北野蓮です」

 

 蓮が自己紹介を終えると、蓮以外の全員が絶句した。どんな男があんな事件を起こしたんだろうと思っていたが、まさかこんな不良が主犯とは……謙一達が黙っていると、米倉がゆっくりと一歩進み出た。

 

「こんにちは。わざわざ今日は呼んでくれてありがとう。私は滋賀県から来た米倉という者です。こっちは扶桑と山城です」

「これはわざわざ遠くからありがとうございます」

「ほら、皆さん。自己紹介自己紹介」

 

 米倉に促されて、謙一達も自己紹介を行った。

 

「では、ここで話をするのも何ですので中で話しましょう。案内します」

 

 蓮は山門をくぐると皆を本堂の方へ案内し始めた。

 

ー本堂ー

 

「それで、私達をここに呼んだ理由をまず聞かせてもらおうか」

 

 本堂に着いて腰を下ろすなり、米倉は蓮に視線を向けた。

 

「その前に、皆さんに今回僕が何故この事件を起こしたのか説明させてもらいますね」

 

 そう言うと蓮は、今回の事件の経緯を述べた。兄が提督で、その指揮下にあった艦娘達に幼い頃は面倒を見てもらっていたこと。兄の幽霊に頼まれ、どうしても見捨てておけず、友人達と共に事件を起こしたことを話した。

 米倉達はそれを真剣に聞き入っていたが、蓮が言い終えると米倉が大きく息を吐いた。

 

「なる程ね……幽霊が見えるとかは置いといたにしても、そういう理由があったのか」

「身勝手なことをしたというのは重々承知です。ただ、どうしても自分が世話になっていた艦娘達を見捨てては置けませんでした」

 

 そこまで言うと、蓮は俯いた。

 

「確かに助けたかったっていう気持ちはわかるわ。でも、その後はどうするつもりだったの?」

 

 結衣の言葉に蓮は顔を上げると結衣達を見た。

 

「そのことなんですけど、ある程度は妖精から聞いていると思いますが、皆さんの力を貸して欲しいんです」

「貸すとは言ってもうちには軽空母一人と駆逐艦が四人しかいないぞ。艤装?とかいうのもないし。工廠とかはあるから作れるのかもだけど」

「私の所は正規空母に戦艦、重巡、駆逐艦が一人ずつの四人ね。艤装もあるし、燃料弾薬も満タンよ。ただ、補給や修理はできないわね」

「私の所は正規空母二人に戦艦が二人。重巡が一人に駆逐艦が……えーっと五人だね。艤装、燃料、弾薬は問題ないよ。北野君の所は?」

 

 米倉の言葉に、皆の視線が一斉に蓮に集中する。蓮は咳払いをすると口を開いて話し始めた。

 

「正規空母が四人、戦艦が四人、重巡二人に軽巡二人。あとは駆逐艦が三人で、艤装、燃料弾薬共にあります」

「随分と戦力が整っているみたいだけど、それでもまだ僕らが力を貸す必要ってあるのかい?」

 

 謙一の言葉に蓮は頷くと、懐の中から日本地図を広げて三つの地点を指さした。

 

「艦娘達の話によると近畿地方……特に日本海側には舞鶴に深海棲艦の中規模の駐屯地があるようです。さらにそこ以外にも豊岡、敦賀の二カ所に小規模な駐屯地があり、深海棲艦が攻め込むとしたらこの三つの拠点を使うと考えられます」

「数はわかるかい?」

「ええ。舞鶴には常時三十から四十体ほどの深海棲艦がいるようです。しかし、ここを拠点にして東北や北海道の沖合で構えているロシアとの戦線に向かう艦隊がいれば、六十から七十体ほどにまで増えるそうです。その他の二拠点は基本的に多くても二十隻。少ないときは十隻ほどしかいないそうです。それから、豊岡より西の日本海側には殆ど深海棲艦がいないみたいなので、この三つの拠点を同時に制圧できれば実質近畿より西側の日本海側の安全は確保できると思われます」

 

 蓮の言う通り、舞鶴より西の日本海側には深海棲艦があまり展開しておらず、太平洋側では小笠原諸島近海と八重山諸島近海にアメリカの太平洋艦隊が迫りつつあるためこちらに回している余裕はない。北海道やカムチャッカ半島でも激戦が続いているため、日本にいる深海棲艦達も迂闊に動くことはできないのだ。

 

「それで、私達はどうすればいいの?」

 

 結衣の言葉に、蓮は地図の敦賀と豊岡を指差すと顔を上げた。

 

「皆さんには有事の際……と言っても深海棲艦が宣戦布告したり侵攻してきたら豊岡と敦賀を攻めて欲しいんです。敦賀から最も近いところにいる米倉さんのところは戦力が整っているので大丈夫でしょう。香谷さんと雪山さんは共同で豊岡にできれば向かって欲しいですね。皆さんの仕事とかの都合でどうしても無理なら、僕一人でなんとかしますが」

「でもそれだったら厳しいんだよね?力貸すよ?私はまだ就活生だから余裕あるし」

「うーん……僕は会社勤めだからね……悪いけど何かあって直ぐって言うのは難しいかもしれないな」

「私は開業医だからその日は臨時休業にすればいいし、もう歳だから最悪畳めばいいからね。幸い余生を過ごすぐらいのお金はあるからね」

 

 蓮の言葉に結衣と米倉は笑顔で、謙一は渋い顔で答えた。しかし、結衣に関してはその後の人生を左右する就職活動の真っ最中である。謙一の言葉も、普通の会社に勤める者ならごく当たり前のことといえる。実質何かあって即動けると考えていいのは蓮と米倉のみだ。

 

「わかりました皆さんくれぐれも無理はしないでください」

「「わかった(わ)」」

「では何かあったときは皆さんよろしくお願いします」

「あ、ちょっといいですか?」

 

 蓮が頭を下げ、全員が立ち上がろうとしたとき、鳳翔が手を挙げた。

 

「どうかしましたか?」

「あの、謙一さんが忙しくても、無線があれば最悪私達だけで向かうことはできます」

「確かにそうかもしれないが、指揮はどうするんだ」

 

 鳳翔の言葉に謙一は困ったような顔で鳳翔の方を見た。

 

「海軍があった頃にも緊急時には近隣の鎮守府の提督が代わりに指揮を執ることはよくあることでした。なので、もし謙一さんが直ぐに動けない場合は北野さんか米倉さん、もしくは雪山さんに代わりに指揮を執ってもらいます」

「私達も万が一結衣さんが一緒に動けないときは北野さん、もしくは他のお二人の指揮下に入ります」

 

 鳳翔の言葉に初霜も頷いた。謙一も結衣も慌てたようにそれぞれの艦娘を見た。

 

「お、おい鳳翔さん。別にそこまでする必要はないだろう?いざとなったら北野君と米倉さんがなんとかしてくれるんだぞ?」

「そ、そうだよ。それに、初霜ちゃん達はお祖母ちゃん達との約束が……」

「謙一さん。私達は艦娘です。自らの命をかけて深海棲艦と戦い、人間を守るという使命があります。深海棲艦が攻め込んでいるのに自分の指揮官がいないから動きませんというのは私の艦娘としてのプライドが許しません」

「結衣さんのご家族には申し訳ありませんが、鳳翔さんの言う通り、私達は艦娘。深海棲艦の侵攻を食い止めるのが最優先なんですよ」

 

 鳳翔と初霜の言葉には異論を受け付けないという強い意志があり、誰もそれに対して反論することができなかった。謙一と結衣はしばらく黙っていたが、根負けしたのかやがて大きなため息をつきながら蓮の方を見た。

 

「……わかった。北野君。もし僕が動けないときは鳳翔達の指揮を任せるよ。ただし、絶対に死なせるなよ。もし死なせたりしてみろ。僕は君を絶対に許さないからな」

「初霜ちゃんがここまで言うのなら仕方ない……か。北野君、私が動けないときは初霜ちゃん達をお願いね」

「わかりました。本日はこの様な田舎の山寺にわざわざ出向いてくださって本当にありがとうございました」

 

 蓮が礼をすると、謙一達も礼をして立ち上がった。

 

「あ、そうだ。皆さんにお土産があります。ちゃんと人数分に分けてあるので、よかったら家に帰ってから皆さんで召し上がってください」

 

 謙一達が本堂から出ようとすると、蓮は自分の後ろに置いていた紙袋を謙一や結衣、そして米倉にそれぞれ手渡した。

 

「あ、結衣さん!プリンですよプリン!」

「ホントだ!それもこれって美谷(みや)プリンでしょ!?結構高いんじゃないの?」 

 

 紙袋をのぞき込んだ初霜が目を輝かせながら嬉しそうに声を上げると、結衣もびっくりしたように声を出す。それもそのはず。美谷プリンは蓮の住むこの町でしか作られていないプリンで、味や舌触りの良さから百貨店などでは高級品扱いされているプリンなのだ。ちなみに蓮がこのプリンを手に入れることができたのは、源の知り合いに美谷プリンを製造している人がいるために源がよく貰ってくるためである。 

 

「いえ、祖父に美谷プリンを製造している知り合いがいるので、よく貰ったりしてるんですよ」

「うわー羨ましいな。私も知り合いがいたらよかった……」

「そういえば従業員を探してるって話でしたから、一度受けてみてはどうですか?」

 

 プリンを眺めながらため息をつく結衣に対し、蓮は源が以前美谷プリンを作っている会社の社長が従業員を探しているという話を聞き、結衣に持ちかけた。蓮の言葉に結衣はパッと顔を輝かせながら顔を上げた。 

 

「本当!?」

「え、ええ。確か求人まだ出してたはずですから今からでも間に合うかと」

「じゃ、じゃあ早速家に帰って調べてみるね。もし上手く行ったら毎日美谷プリンが食べれるかも……北野君、ありがとう!じゃあ私達はこの辺で。あ、連絡先教えとくね」

 

 結衣は嬉しそうに蓮にお礼を言うと、蓮と連絡先を交換し、初霜を連れて本堂から出て行った。

 

「じゃあ僕達もこれで」

「プリン。ありがとうございます」

 

 結衣と初霜が出ていってすぐに、謙一と鳳翔も蓮に連絡先を教えて本堂から立ち去った。

 

「私もこれで失礼するね。しかし、ワクワクするね」

「あはは……」

 

 米倉は帽子を被ると扶桑と山城を連れて本堂を後にした。

 

「……さて、後はいつ宣戦布告してくるかだな」

 

 本堂に一人残った蓮は自分のためにとっておいた美谷プリンを出すと食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 






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