ソードアートオンライン:ユニコーン   作:ジャズ

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みなさん、お久しぶりです!
更新が遅れた事、本当に申し訳ありませんでした。理由は、もう一つ小説を始めたところこれが大好評でして……そちらの方を優先してしまったからです。
これからは二つの小説をバランスよく進めていきたいと思っていますので、よろしくお願いします!


第二十五話 思わぬ出会い

リーファ「なっ……?!」

 

リーファは、今目の前で起こった光景が信じられず、ただ目を見開いていた。

それもそのはずだ。今自分が相手する筈だったサラマンダーの兵士たち。彼らは間違いなく相当な実力者達だ。

だがそんな彼らを、初期装備で、しかもたった一撃で倒したスプリガンの少年とウンディーネの少女。

 

直後、彼らは再び視認できないほどのスピードで2人のサラマンダー兵士を葬った。

そして、最後に残ったカゲムネの方を向くと、

 

キリト「…どうする?あんたも戦う?」

 

と問いかける。

対してカゲムネは両手を上げて

 

カゲムネ「…やめとくよ。あともう少しで魔法スキルレベルが900なんだ。デスペナルティが惜しい」

 

アスナ「…正直な人ね。で、貴女はどうする?」

 

アスナはリーファの方を向いて尋ねる。

 

リーファ「…はぁ、あたしもやめとく。けど、カゲムネさん…だっけ?今度はきっちり勝つから」

 

するとカゲムネは肩を竦ませて

 

カゲムネ「君とのタイマンも遠慮したいな」

 

と言い、体を反転させてその場から飛び去った。

静寂な空気が辺りを包んでいたが、不意にキリトが近くにある炎のようなものを見つめて

 

キリト「…これは?」

 

と尋ねる。

 

リーファ「リメインライトよ。連中の意識はまだここにあるわ」

 

リーファがそう説明する。しばらくすると、それらは全て消滅した。

 

リーファ「…で、あたしはどうすればあなたたちにお礼を言えばいいの?逃げればいいの?それとも……戦う?」

 

そう言って、リーファは右手の長刀を二人に向ける。

すると、アスナが両手を上げて

 

アスナ「まさか!そんな事するわけないよ……」

 

と言って、細剣を腰の鞘に納める。

 

キリト「う〜ん……俺的には、正義のヒーローがお姫様を助けたって言う場面なんだよなぁ…んで、泣きながら抱きついてくる的な展開が……」

 

と、キリトが腕を組みながら言う。

 

リーファ「…は?ば、バッカじゃないの?!」

 

リーファは一瞬呆気にとられていたが、すぐに気を取り直し叫ぶ。

その直後、

 

アスナ「キィ〜リィ〜ト〜くぅ〜ん?なぁ〜にを言ってるのかなー?刺そうか〜?」

 

そう言って、アスナが笑顔で(目が笑ってない)さっきしまったばかりの細剣を一瞬で抜剣しキリトの喉元に突きつけた。

 

キリト「ちょ、ちょっと待てってアスナ!冗談!冗談だって!!!」

 

 

キリトは慌ててアスナを宥める。

すると、

 

???「そうですよ!パパに抱きついていいのはママだけです!」

 

と、どこからか可憐な少女の声が響いた。

リーファが慌てて辺りを見回すが、それらしい姿は確認できない。

と、キリトが「こら!出てくるなって」と、胸ポケットを抑えるがその中から小さな何かが飛び出し、キリトの肩にとまる。そして、

 

???「パパにくっついていいのは、ママと私だけです!」

 

リーファ「ぱ、パパ?!ママぁ?!」

 

思わず素っ頓狂な声をあげたリーファだったが、直ぐにキリトのそばに歩み寄る。

それは、手のひらサイズの小さな長髪の幼女の姿をした妖精だった。

 

リーファ「ねぇ、それって《プライベートピクシー》ってやつ?」

 

リーファの問いにぽかんとしていたキリトとアスナだったが、

 

キリト「そ、そう!そんなんだよ!」

 

アスナ「あ、あはは…」

 

キリトとアスナは引きつった笑みで返した。

そんな二人を交互に見て、

 

リーファ「で、スプリガンとウンディーネが何でこんなところにいるの?」

 

と尋ねる。キリトはそれに対して少し目を逸らし

 

キリト「…み、道に迷って……」

 

と、頬をぽりぽりと掻きながら少し情けない声で答える。

リーファはその答えに思わず爆笑する。

 

リーファ「あっはははは!!道に迷うって…二人とも領地はずっと東でしょう?君たち変すぎ!」

 

アスナ「へ、変なのかな…?」

 

アスナが若干戸惑ったように呟く。

一頻り笑い終えたリーファが落ち着き払った声で

 

リーファ「ある程度の経験者ならともかく、初心者が領地から離れたところでウロウロしてるなんて、変に決まってるよ?

まあでも、助けられたのは事実だからお礼を言っておくわ。あたしは《リーファ》っていうの」

 

そう言って、リーファは右手を差し出す。

それに対してアスナがニッコリと笑顔で

 

アスナ「リーファちゃんね。私は《アスナ》。この子は《ユイ》ちゃんで、この真っ黒な人が《キリト》くん」

 

呼ばれたユイはぺこりと頭を下げる。

だがキリトは、リーファの顔を見て固まっていた。

 

アスナ「…キリトくん?」

 

リーファ「どうしちゃったの?まさかラグってるの?」

 

リーファがキリトの両目の前で手を振るが、キリトの表情は固まったままだ。

その時キリトは、現実世界の妹ーー《直葉》に言われた言葉を思い出していた。

 

 

“あたし、ALOじゃ《リーファ》ってアカウントでやってるから”

 

キリト「(リーファ?リーファって、スグのALOでのアカウントだよな……え、マジで?この目の前の金髪ロングの女の子がスグ?ウソだろ……?)」

 

そしてキリトは、意を決して口を開いた。

 

キリト「………スグ?」

 

するとリーファは、目をまん丸に見開いた。

 

リーファ「……え?」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

お互い正体を明かした三人は、小川のほとりにある岩をベンチがわりにして座り、語り合っていた。

 

リーファ「なんだぁ〜、お兄ちゃんにアスナさんだったんだ!」

 

アスナ「まさかリーファちゃんがあのさ直葉ちゃんだったなんて……でも、こんなところで会えたのも、やっぱり何かの運命なのかな?」

 

キリト「ははは…まあ、かなり驚いたけど、スグにこんなに早く会えたなら、手間がかなり省けて良かったな。スグがいるなら、なにかと心強いし」

 

キリトの方言葉にリーファは少し頬を赤く染めて

 

リーファ「そ、そんな……でも、お兄ちゃん達も強かったじゃない。何?ログインしてすぐに何かチートでも使った?」

 

と、少しジト目で尋ねるが、アスナが慌てて首を振って

 

アスナ「そ、そんなことしないよ!ただ、私達の個人データが何故かSAOのものに上書きされて……」

 

と答える。それを聞いたリーファは納得したように頷く。

 

リーファ「あー、成る程……噂で聞いた程度だけど、このALOのサーバデータはSAOのものと共通らしいしね」

 

そこまで言い切ると、リーファはスッと立ち上がる。

 

リーファ「さて!キリトくん達がお兄ちゃんと明日奈さんだとわかったところで、早速行動しましょう。早くバナージお兄ちゃんを見つけないと!」

 

キリト「そうだな。ウズウズしてもいられないしな」

 

そう言って、キリトとアスナも立ち上がる。

 

リーファ「じゃあ、とりあえずは近くの中立の村に行こっか」

 

キリト「え?スイルベーンって街の方が近いんじゃないのか?」

 

キリトの言葉にリーファは少し眉をひそめて

 

リーファ「あそこはシルフ領よ。シルフ領ではお兄ちゃん達はシルフに攻撃できないけど、逆はアリなの。つまり、襲われても命の保証が無いのよ」

 

と答える。

 

アスナ「成る程ね〜…でも、私たちにはリーファちゃんがいるんだし大丈夫だよ!」

 

と、アスナが満面の笑みで言う。

対してリーファは少しため息をついて

 

リーファ「…まあ、アスナさんがそこまで言うなら。あ、でも……お兄ちゃん達の実力ならそう簡単にやられることはないか」

 

そう納得したリーファは、早速背中に翅を展開する。

同じように背中に翅を広げるキリトとアスナだったが、ここであることに気づく。

 

キリト「あれ?スグはコントローラー無しで飛べるのか?」

 

リーファ「ん?まあね。お兄ちゃん達は……って、この世界に来たばかりだし、出来ないか。

でも、いつまでもコントローラーじゃ不便だしね。ここで随意飛行のコツを教えるわ」

 

そう言ってリーファは、二人の背後に回り込み二人の背中に触れる。

 

リーファ「今触ってるの分かる?」

 

キリト「ああ」

 

リーファ「そこから、仮想の骨と筋肉が伸びてるのをイメージして、それを動かすの」

 

キリト「仮想の骨と筋肉……」

 

キリトがそう呟き、アスナも背中に意識を集中する。

すると、二人の背中から生えた翅が少しずつ動き始める。

 

リーファ「そう!今の感覚でもっと強く!!」

 

二人は歯を食いしばりながらさらに背中に集中する。

直後、背中の翅が大きく広がり、十分な推力が生まれる。

 

リーファ「えいっ!」

 

その時、リーファが二人の背中を思い切り押した。満面の笑顔で。

 

キリト「えっ?うわああぁぁぁぁぁ!!!」

 

アスナ「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

二人は凄まじい勢いで空へ飛んでいった。

しばらく沈黙していたリーファだったが、ハッと我に帰り慌てて空へ飛行する。

 

リーファ「やばっ」

 

ユイ「パパぁ〜!ママぁ〜!」

 

リーファとユイは空中をホバリングしながら二人を探す。

すると、

 

キリト「うわあああーーーっ!!」

 

アスナ「誰か止めてえぇ〜〜!!!」

 

キリトとアスナは情けない声を上げながらふらふらと飛んでいた。

くるくると回転しながら飛び、衝突しそうになる。

 

アスナ「きゃあ?!ちょっとキリトくん!ちゃんと前見て飛んでよ!!」

 

キリト「無茶言うなって?!アスナだって周り見ろよ!危ないだろ?!」

 

アスナ「そこはキリトくんが何とかしてよ〜!!」

 

キリト「んな無茶苦茶なぁ〜?!!」

 

そんな夫婦漫才を見てリーファとユイは思わず吹き出す。

 

リーファ「あはははははは!!」

 

ユイ「ご、ごめんなさいパパ、ママ!お、面白いです〜!」

 

キリト「笑ってないでとめてくれぇ〜〜!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

一頻り笑い終えた後、リーファは何とかキリトとアスナをとめ、改めて随意飛行を教えた。

最初こそやはり覚束なかった二人だったが、あのデスゲームの世界を二年も生き抜いた二人の経験値と順応性の高さで直ぐに安定した飛行を見せた。

 

アスナ「すごぉ〜い!!」

 

キリト「おお!これはいいなぁ!!」

 

感嘆の声をあげながら、辺りを飛び回る二人。

 

リーファ「それじゃ行こうか!付いてきて!」

 

そう言って、リーファはターンして森林の彼方目掛けて巡行する。キリトとアスナもそれに続く形でリーファと並行して飛ぶ。

 

リーファ「最初はゆっくり行こうか」

 

キリト「もっと飛ばしてもいいぜ?」

 

リーファが振り返って言うが、キリトが不敵な笑みで返す。アスナも同じような顔で頷いている。

 

リーファ「…ほほう?」

 

リーファも口角を釣り上げてニヤリと笑うと、再び前を見据えて加速する。

ある程度行ったところで振り返ると、二人が付いてきていることに驚き目を見開く。リーファはこの世界でも飛行速度はかなり早い方で、彼女に付いていけるものは熟練のものでもそういない。にも関わらず、彼らは初心者でありながら自分に付いてきている。

 

キリト「これが最速?」

 

リーファ「まさか!なら、本気出すけどいい?」

 

キリト「ああ、構わないさ!アスナも大丈夫だよな?」

 

アスナ「ええもちろん!これでもSAO時代は《閃光のアスナ》って呼ばれてたんだからね!」

 

リーファ「…なら、どうなっても知らないよ!!」

 

リーファはそう言って、更に加速する。これが今彼女が出せる最高速度だ。ジェット機のような速度で飛んでいく彼ら。リーファはもちろんのこと、キリトとアスナも臆することなく付いていく。

だが、ここで一人脱落者が現れた。

 

ユイ「はうう〜〜、私はもうだめですぅ〜〜」

 

ユイはそう言ってキリトのシャツの胸ポケットに入り込み、頭を出した。

そんな彼女をみて、微笑ましい笑顔を浮かべるキリト達だった。

 

しばらく飛ぶうち、キリトにはある思考が生まれた。

 

キリト「(…もっと、早く食べたらなぁ……)」

 

そんな事を考えていたその時、キリトの身に異変が起き始めた。身体から黄色い光が溢れ始め、徐々にスピードが上がっていく。

 

キリト「…これは……!」

 

アスナ「キリトくん?」

 

異変に気付いたアスナがキリトを覗き込む。

しかしキリトは、この感覚を知っていた。そう、あれはSAO時代、幾度となく自分と仲間達を窮地から救った最強の切り札、

 

キリト「《NTーD》……!」

 

直後、キリトの背中から生えた翅がパージされ、その身が眩い黄色の光に包まれる。そして、キリトの目の前に《NTーD》という文字列が現れる。

次の瞬間、キリトは消えた。

 

キリト「うわああぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

否、《キュイイイイイイン》というジェットエンジンの音と共にその場から途轍もない速度で飛んで行ったのだ。

 

リーファ「ちょ、お兄ちゃん?!」

 

ユイ「急いで追いかけましょう!」

 

いつのまにかキリトの胸ポケットから出ていたユイが、目の前で起きた光景に呆気にとられていた二人に言う。

二人ははっ、とした表情になった後、すぐ様大急ぎで追いかける。

だが、最高速で飛ぶアスナ達でも、《NTーD》を発動したキリトには追いつけない。

そこでアスナは、キリトの現在地をユイに割り出してもらうことにした。

 

アスナ「ユイちゃん、今キリトくんがどこにいるか分かる?」

 

ユイ「パパは現在、少し先の《スイルベーン》で停止したみたいです」

 

リーファ「嘘でしょ?!スイルベーンって未だ少し先のところよ?こんな数秒でたどり着けるはずは……」

 

そう、キリトが彼女達の前から消えてものの数秒間の出来事だった。

理由はわからないが、今は兎に角キリトに追いつくことが先決。無事である事を祈りながら、スイルベーンへ急行する二人だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

キリトside

 

時は少し戻ってキリト視点。

《NTーD》が突如発動し、体の底から力が溢れるどこか懐かしい感触の後、周りの景色が急に後ろの方向へとどんどん進んでいく。

いや、そう錯覚してしまうだけで実際は自分が途轍もない速さで飛んでいるのだ。

 

キリト「うわああああああっっ!!!」

 

今まで体感したことのない高速の世界に思わず悲鳴をあげるキリト。頭の中にブザーの音が鳴り響き、目の前に《速度超過》という警告のシステムメッセージが表示され、どうにか減速を試みるものの、スピードは落ちるどころか更に速くなり、音速に近い速さとなる。

 

その時、目の前に大きな塔が見え、それはどんどん大きくなっていく。おそらく、この軌道で飛び続けたら衝突する。そして、この速度で衝突しようものならば、間違いなく無事では済まない。最悪の場合、衝突のダメージで死亡する事も考えられる。

 

キリト「と、止まれえぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

手足をばたつかせながら何とか止まろうとするキリト。

しかし一向に減速する気配がない。壁に激突する事を予感したキリトは両腕で顔を覆う。

だが、いつまでたっても衝突の瞬間は来なかった。

恐る恐る目を開けると、すぐ目前には壁がそびえていた。キリトは塔に激突する寸前のところで停止することができたのだ。

思わず安堵のため息が出るが、同時に身体から出ていた黄色い光が消え、先程までの浮遊感が消える。

 

キリト「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

キリトは地面へ落下していった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アスナ・リーファside

 

リーファ「…もうすぐ《スイルベーン》に着きますよ!」

 

アスナ「キリトくん……!」

 

二人の眼前に、色とりどりの光の群が見えてきた。

そしてとりわけ目を引くのは、街からそびえ立つ五つの塔。《風の塔》という名の、街のシンボルだ。

 

リーファ「真ん中の塔の根元に着陸しま………ってアスナさん、ランディングのやり方って教えましたっけ?」

 

リーファの言葉にハッとした顔になるアスナ。

 

アスナ「え…私、まだ教えてもらってないんだけど……」

 

リーファはその言葉に慌てて

 

リーファ「やばっ?!ああ……だめだ、もう遅いや」

 

そして、苦笑いでアスナの方を向き

 

リーファ「……すみませんアスナさん!幸運を祈ります!!」

 

そういって、リーファは下へ降りていく。

 

アスナ「え、嘘でしょ?ねぇ、ちょっとリーファちゃあああぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」

 

直後、《ドッゴオオォォォォォォン!!》という爆音が街に鳴り響いた。

 

その音に、地面で倒れていたキリトが思わず顔を上げる。

すると、上から水色の少女が落ちてくる。

 

アスナ「キィィリィィトォォくうぅぅんーー!!!」

 

キリト「あ、アスナ?!」

 

キリトは慌てて両手を広げて受け止める。

今回は何とかキャッチできたキリト。今彼は、アスナをお姫様抱っこしている状態だ。

それに気がつき顔が真っ赤になるアスナ。

 

アスナ「え、えっと………////」

 

キリト「あ、あの…これはだな、アスナを顔面から地面に落とすわけにはいかないと……」

 

キリトも慌てて口をパクパクとしながら言い訳するが、

 

アスナ「ううん、いいの。ありがとうキリトくん、私を受け止めてくれて…////」

 

キリト「あ、アスナ…////」

 

と、甘い雰囲気を醸し出している中、

 

リーファ「ん゛ん゛っ!」

 

と、軽く咳払いをするリーファ。その音にキリトとアスナはハッとした顔になり、リーファの方を見る。

 

リーファ「そういうのは二人っきりの時だけにしてもらえるかな?こっちまで恥ずかしくなるんだから」

 

 

リーファが呆れた表情で言われ、一気に顔を赤くした二人は慌てて離れる。

 

リーファ「…とりあえず、お兄ちゃんが無事で良かったよ。でも一応、回復魔法をかけておくね」

 

そう言うと、リーファは魔法の詠唱を始める。

直後、キリトとアスナの足元にエメラルドグリーンのサークルが現れ、同時にHPが一気に回復する。

 

アスナ「へえ〜、これが魔法かぁ〜!」

 

アスナが感嘆の声を上げる。

 

リーファ「高位の治癒魔法は《ウンディーネ》じゃないと使えないんです。まあでも、これは必須スペルだからお兄ちゃんも覚えた方が良いよ」

 

キリト「なるほど…スプリガンはどんな能力があるんだ?」

 

リーファ「幻惑魔法系とかトレジャーハントとかかな。戦闘にはあまり不向きな種族なんだよね」

 

キリト「トレジャーハントか…(フィリアが選びそうな種族だなあ〜)」

 

そして、キリトは立ち上がり、辺りを見渡す。

 

キリト「にしても、綺麗な街だなぁ〜」

 

アスナ「そうだね。街の灯りとかが凄く幻想的……」

 

リーファ「でしょ!」

 

すると、三人に向かって1人のシルフの少年が走ってくる。

 

「リーファちゃ〜ん!良かった、無事だったんだね!」

 

リーファ「あ、レコン!まあどうにかね」

 

レコン「凄いや、流石はリーファちゃん……って!」

 

レコンという少年はキリトとアスナに気がつくとギョッとした顔で後ずさり、腰の短剣に手をかける。

 

レコン「す、スプリガンとウンディーネ?!どうしてここに!」

 

リーファ「あ、大丈夫だよ!この2人が助けてくれたの」

 

レコン「へ……?」

 

呆気にとられているレコンを他所に、リーファはキリト達の方を向いて

 

リーファ「こいつはレコン。あたしのフレンドなんだけど、少し前にやられちゃって」

 

キリト「へえ、そうなのか。俺はキリト。こっちはアスナだ。よろしくな」

 

キリトは右手を差し出す。レコンは頭を下げて「あ、どもども〜」と握手を交わしている。

 

レコン「……って!そうじゃなくて!大丈夫なの?スパイとかじゃ……」

 

リーファ「だから大丈夫だってば。この2人はリアルでも知り合いなの。こっちのキリトくんはあたしのお兄ちゃんだし」

 

レコン「え?お兄ちゃん…………?」

 

レコンはキリトの顔をしばし見続けていたが、不意にジャンピング土下座をして頭を下げた。

 

レコン「失礼致しましたお兄様ァ!!!」

 

キリト「あ、いや。別に気にしてないから兎に角顔を上げてくれ」

 

キリトがそう促し、レコンは立ち上がる。

 

レコン「……あ、そうだ。シグルド達がいつもの酒場でアイテムの分配をやろうってさ」

 

リーファはそれを聞き、「あー、そっかぁ……」と気まずそうな顔になり、

 

リーファ「…あたし、今日はいいや。アイテムはあんた達4人で分配してきて」

 

そう言って、リーファはトレード画面から今日獲得したアイテムをレコンに転送する。

 

レコン「え?リーファちゃん来ないの?」

 

リーファ「ごめんね?今日はこの2人と予定があるから!」

 

そう言って、リーファはキリトとアスナを連れて歩き出した。後ろから「リーファちゃ〜ん」というレコンの情けない声が響いた。

そして三人は、街のNPCレストラン『すずらん亭』に入る。適当な飲み物を注文し、三人は透明なガラスに入ったドリンクを一口飲んだ。

 

アスナ「…さっきの子って、リーファちゃんの彼氏?」

 

ユイ「コイビトさんですか?」

 

そう言われたリーファは思わず吹き出し、

 

リーファ「違います!ただのフレンドで、同じパーティメンバーなだけです」

 

キリト「にしては、仲が良さそうだったけど?」

 

リーファ「リアルでも学校で同級生なの。それだけよ!」

 

と、必死になって否定した。

 

アスナ「……とりあえず、これからどうする?」

 

リーファ「そうですね。この世界のどこかにバナージお兄ちゃんがいるのは間違いないと思います。ただ、闇雲に探すのはかなりの時間が要りますね。この世界は広いですから……」

 

キリト「う〜〜ん……」

 

ふと、キリトはユイに尋ねる。

 

キリト「……なあ、ユイならバナージがどこにいるか分かったりしないか?」

 

キリトの問いに、ユイは首を横に振る。

 

ユイ「ごめんなさいパパ。私のプレイヤー探索範囲は広くなくて……そもそもにぃにのキャラクターIDは現在私には登録されていないので、探しようが無いです……」

 

キリト「……そっかぁ……」

 

リーファ「……ねえ、一ついい?」

 

キリト「ん?どうした、スグ?」

 

リーファはテーブルの上にちょこんと座っているユイを指差し、

 

リーファ「……この子って、一体なに?プライベートピクシーじゃないよね?」

 

キリト「え?ああ、そうだな。スグには話しておくか」

 

そうして、キリトはユイと出会った経緯を簡単に語った。

 

キリト「……そんなわけで、ユイは俺とアスナの……まあ、一人娘みたいなものだ」

 

リーファ「ほええ……こんな子がAIなんて……ていうか、あたしいつのまにか叔母さん?!」

 

アスナ「あ、あはは……」

 

リーファが顔が青ざめていくのを見て苦笑するアスナ。

 

キリト「…話を戻そうか。とりあえず、バナージの目撃情報は世界樹であった。なら、とりあえずそこを当たってみるか」

 

アスナ「そうだね。世界樹はこの世界の《グランドクエスト》のところなんだよね?なら、もしかしたら……」

 

ユイ「可能性は高いですね。世界樹にはこの世界の《GM》がいますから」

 

アスナ「そうなの?なら、世界樹を登って、バナージ君を見つけてもらったら……」

 

キリト「……バナージを助けられる……よし、とりあえずの方針は決まったな。俺たちで世界樹を攻略して、GMに会う」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

話し合いを終え、三人は宿へと来ていた。

 

リーファ「それじゃあたしはここで落ちるね。ログアウトするときはちゃんと部屋でするんだよ?」

 

キリト「分かった。ありがとうな、スグ」

 

アスナ「リーファちゃん、また明日ね!」

 

リーファは頷き、青白い光に包まれてログアウトした。

キリトとアスナは案内された部屋に入ると、2人ベッドに横になる。

するとそこへ、ユイが飛んで来る。身体を空中で一回転させると、ユイの身体が光に包まれて元の姿に戻る。

 

ユイ「明日まで、お別れですね」

 

そう言って、寂しげな顔で俯くユイ。

 

キリト「…大丈夫。直ぐに戻るさ。な、アスナ?」

 

アスナ「うん。明日必ず会えるからね。それまでちょっとだけ待っててね、ユイちゃん」

 

2人は微笑みながら言う。

 

ユイ「あの…パパ、ママ……その、お二人が眠るまで、一緒に横になってもいいですか?」

 

頬を赤らめながらユイがそう言うと、キリトとアスナは真ん中を空けて手招きする。

 

アスナ「いいよ。ほら、おいでユイちゃん」

 

ユイは空いたスペースに横になり、三人川の字になる。

 

アスナ「…バナージ君を助けだしたら、またこの世界に家を買おうね」

 

ユイ「はい。なんだか、夢みたいです……こうしてまた三人で暮らせるなんて……」

 

キリト「……夢じゃない、もう現実さ……今度は、バナージも一緒にな……」

 

キリトはそう言いながら、ついに眠りに落ちた。

アスナもまた、キリトの少し後に眠りについた。

そんな2人を見て、ユイは優しい微笑を浮かべて

 

ユイ「おやすみなさい。パパ、ママ」

 

 




お読みいただきありがとうございます!
まさかの序盤で正体を明かすことになったリーファとキリト、アスナの三人。そしてキリトとアスナ、ユイの家族愛。凄く良いですよね〜!アニメ見ててもあの家族には癒されます。
そして久々に登場した《NTーD》。ALOの世界でそれは何を見せてくれるのか……?!
では、次回もよろしくお願いします!

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