ソードアートオンライン:ユニコーン   作:ジャズ

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お待たせしました、ジャズです!
ペースを上げなきゃならないとはわかってるんだけど、中々進まない……



第二十七話 合流

どこまでも青く澄み渡る空に、少女はゆっくりと手を伸ばす。

そよ風が優しく肌を撫で、その心地よさに思わず少女は笑みをこぼす。

 

五感で受け取る情報は全て現実そのものではあるが、ここは現実世界ではない。

ここは仮想世界ALO、《アルヴヘイム・オンライン》。

そしてここに、紫の《闇妖精族(インプ)》の少女、《ユウキ》は再び仮想世界に降り立った。

 

ユウキ「…ははっ。また来ちゃったなぁ〜、あんな目にあったのにさ」

 

自嘲気味にそう呟くと、左手を振ってステータスを確認する。

 

ユウキ「えっとぉ……ってうわっ?!なんじゃこりゃ!!

え?ボクってここに来たばかりだよね?なんでこんなに数値が高いの?!」

 

初心者ならばまず有り得ない高ステータス。

ユウキは訳がわからないまま、一つ一つのステータスを確認していく。

ふと、ユウキは何かに気づいた。

 

ユウキ「これってもしかして……SAOの時のステータス?」

 

見間違える筈がない。

これは、SAOでユウキが死と隣り合わせの状況で毎日積み上げたステータスだ。

 

ユウキ「……なんでかわからないけど、でもこれならサクサク進められるね。

よし、行くか!」

 

あまり深く考えることをやめたユウキは、とりあえず武器や防具を揃えるため、商店街へと向かった。

 

幸い、所持金までこのゲームに引き継がれていたため、金には困らず自分好みの装備を揃えることができた。

ユウキが今身につけているのは、赤いバンダナ、紫基調の服である。

 

ユウキ「ふぅ、まあこんなところかな……あ、アスナ達に連絡しなきゃ!」

 

ユウキは事前に聞いていたキリト達のプレイヤーIDを入力し、メッセージを送信した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

場所は変わって、インプ領のサラマンダー領域隣接地域。

ここで、1人の女性プレイヤーが追われていた。

彼女の名は《ラン》。サラマンダー領の近くでモンスター狩りを行なっていたのだが、それがサラマンダー兵士に見つかり、領域侵犯と勘違いされて今この状況に陥っているのだ。

 

背後から無数に放たれる魔法攻撃を寸前のところでかわし続け、逃亡を試みる。

しかし、彼らもサラマンダーの中でも一級の兵士。そう易々と逃してはくれない。

 

仕方なく、ランは腰の刀を引き抜き、中段に構える。

それに対してサラマンダー兵士たちも、装備の大型ランスを構えて同時に突貫する。

 

ランはサラマンダーが自分に近くギリギリまで待つ。

そして、兵士が自分にランスを突き刺すその瞬間、ランは飛び出した。

すれ違い様に刀を横薙ぎし、サラマンダーの横腹を切り裂く。その正確無比な一撃を受けた兵士は、その身を蒸発させエンドフレイムとなって消滅する。

 

「くっ、野郎!!」

 

味方がやられ、怒ったもうひとりの兵士が違う方向から突撃する。

しかしランは、落ち着いた動作で刀を構え、今度は上段から刀を振り下ろす。

その一撃で兵士は体を両断され消滅する。

 

その後も、ランはその正確な斬撃でサラマンダー兵士たちを次々に仕留めていく。

彼女が刀を振るうたびに一人、また一人と兵士が消えていく。

 

が、ここでランに思わぬ攻撃が入った。

背後から、遠距離魔法攻撃の直撃を受けたのだ。

 

ラン「ぐうっ?!!」

 

その一撃でランは飛行能力を失い、地面へ落下していった。

それを追って残った兵士たちも降下していく。

 

地面に落下したランだったが、幸いにもHPは全損しなかった。刀を地面に突き立て、それを支えにして何とか立ち上がる。

と、そこへランを追って降りてきた兵士たちが彼女を取り囲んだ。

 

「…おっと、誰かと思えば《絶刀》さんじゃねえか」

 

《絶刀》ーーこれは、ランに付けられた二つ名で、《絶対無敵の刀使い》の略。

彼女の刀の技術はALOの中でもトップクラスであり、それを恐れたプレイヤー達によっていつのまにか付けられていたものだ。

 

「まじかよ。どうりで強いわけだ」

 

先程までのランの戦い振りを見ていた他の兵士が納得したように頷く。

 

「……でもまあ、いくら《絶刀》さんでも、この人数をソロで倒すのは無理だよな?」

 

「だな。それに、《絶刀》を倒したとなりゃあ軍での俺たちの評価もかなり上がるぜ」

 

「おおっ!そりゃいいなぁ!俄然やる気出てきたぜ!」

 

「つぅ訳で《絶刀》さんよぉ。悪いんだけど、ここで死んでくれや」

 

一通り話し合いが終わったサラマンダー兵士たちが、その手に持った武器を一斉にランの方へ向ける。

 

一対五。先程のサラマンダー兵士の言う通り、いくらランの強さがあれど、この人数差を一人で覆すのは至難の業だ。

 

するとランは、深く息を吐き、右手の刀をゆっくりと鞘に納めた。

 

「お?何だ、諦めたのか?」

 

兵士の一人が嘲笑気味に問いかける。

それに対し、ランもまた嘲笑うような笑顔で応える。

 

ラン「諦める?まさか。確かに、この状況では私が不利なのは明白ですね。

でも、私にもプライドというものがあります。故に……」

 

言い切る直前、ランは左足を後方にずらし、足を開く。

腰を低く落とし、右半身を前にして更に右手を刀の柄に添える。

《抜刀術の構え》だ。

 

そしてランは、鋭い目つきでサラマンダー兵士を睨みながら、

 

ラン「ーー最低一人は、道連れにします。

私に斬られたい方がいらっしゃるのなら、どうぞ前へ」

 

怒気を交えた声でそう宣言した。

ただならぬ殺気を放つランに一瞬たじろいだサラマンダー兵士達だったが、直ぐに気を取り直し

 

「ーー素晴らしいプライドだ、敬服するぜ。

んじゃ、まずは俺からだ!」

 

そう言って、1人の兵士がランに突っ込む。

ランも神経を研ぎ澄まし、刀を引き抜くタイミングを見計らう。その瞬間、ランは視界がスローモーションになる感覚に陥る。ランの集中力が極限まで高められた状態だ。

 

敵のランスが徐々に近づく。その間、約2メートル前後。

 

ーーまだだ。

 

ランは焦る気持ちを押さえつけ、ギリギリまで刀を抜くタイミングを見極める。

ランスはこちらに向けて進み続ける。

 

ーーまだ!あと少し!

 

そして、ランスと自分の距離が1メートル弱までに近づいた。

 

ラン「(ここだ!!)」

 

ランは目をカッ!と開き、右足を大きく前へ、力強く一歩踏み出す。

その勢いで、右半身を時計回りに捻り、刀を一気に引き抜く。

そしてそのまま、右足、上半身の回転で生み出した勢いを殺さず、自分の出せる最高速のスピードを持って刀を振るう。

放たれた銀色の刃は目にも止まらぬ勢いでランスの中腹に食い込み、そのまま一閃しランスを斬り裂いた。

 

その光景に驚き目を見開くサラマンダー兵士だったが、もう遅い。

 

ランは引き抜いた刀の刃と峰の向きを変えると、そのまま

袈裟斬りの要領で左下に向けて振り下ろす。

銀色の刃が兵士の首を捉え、そして斬り裂いた。

 

首を刎ねられた兵士は、HPを全て消し飛ばされ消滅した。

 

「まじかよっ?!」

「くそっ、こうなったら全員でやっちまえ!!」

「かかれぇーー!!」

 

ランを取り囲んでいた残りのサラマンダー達が一斉に彼女に飛びかかった。

ランは刀とその戦闘スタイルの性質上、複数を同時に相手するのは不可能に近い。

ランは覚悟を決め、目を閉じた。

 

ーーその時だった。

 

「そこまでだっ!!!」

 

突如、サラマンダーとは違う別の男性プレイヤーが上空から猛スピードで急降下し、ランの目の前に落下、轟音と土煙を上げて着地したのだ。

 

煙が晴れると、そこには白を基調とした装備の少年が立っていた。

 

「1人の女の子を複数の男性で攻撃ですか?あまり褒められたことじゃありませんね」

 

少年は凛とした声でそう告げた。

 

「…何だてめぇ。部外者がしゃしゃり出てんじゃねぇよ!!」

「俺たちに剣を向けるってことは、それ相応の覚悟が出来てんだろうな?」

 

サラマンダー達は威圧感のある声で少年に言う。

 

「……覚悟なら、出来てますよ?」

 

それに対し、少年は臆するどころか不敵な笑みを浮かべながら背中に装備された白い片手剣を引き抜き、構える。

 

「上等だ!こいつもやっちまえ!!」

「おらぁ!死ねやぁー!!!」

 

サラマンダー達は再び一斉に斬りかかった。

ランも刀を構えて臨戦態勢を取るが、直後信じがたい光景が目に飛び込んだ。

 

少年が消えたのだ。

そして、2人のサラマンダーが胴体を斬られ消滅したのだ。

 

いや、実際には消えてなどいない。

そう錯覚してしまうほどの驚異的なスピードで少年はサラマンダーを斬ったのだ。

 

ランはこのALOがサービスを開始した当初からこの世界で活動している古参のプレイヤーだ。実力も《絶刀》と呼ばれるほど高いし、その自負もある。

だが、目の前の少年はどうか。

今まで自分が積み上げてきたものを全否定してしまうほどの圧倒的な強さ。それをたった一瞬で見せつけた。

 

ランはそれらの情報に理解が追いつかず、ただ呆然と立っている。

残った2人のサラマンダーもまた、先程の光景に目を疑っている。

 

「嘘だろ……こ、こいつまさか!!」

「お、おい……どうしたんだよ?」

 

ふと、1人のサラマンダーが何かを思い出したように叫んだ。

 

「そうだ……盾なしの白い片手剣、白い装備、そして圧倒的な速さ……こいつアレだ!最近巷で噂になってる、《白い悪魔》だ!!」

 

サラマンダーの言葉に、ランも驚愕のあまり目を見開いた。

《白い悪魔》ーー2ヶ月前、突如として現れた種族も不明な謎多きプレイヤー。

ALOはPK推奨のゲームではあるが、稀に弱い女性プレイヤー等を複数のプレイヤーで痛ぶったり暴行したり、強盗まがいの行為をするプレイヤー達がいるのだ。

しかし最近、その被害に遭っているプレイヤーを助ける者が現れた。白い装備と悪魔的な強さから、いつしかそれは《白い悪魔》と呼ばれ、ある者からは救世主と崇められ、ある者からは怪物と恐れられたプレイヤーだ。

 

それを思い出したランは改めて目の前の少年を見遣る。

見た感じだと自分とほぼ変わらない年齢に見えるが、その背中はまさに歴戦の戦士のように力強く、頼もしく見えた。

 

「まじかよ……そんな奴がこんなトコにいるなんて聞いてねぇぞ!!」

「だったら、せめて《絶刀》を殺していくぞ!!」

 

そう言って、サラマンダー達はランを標的にして飛びかかった。

ランは反応が遅れ、気付いた時にはもう敵のランスが目の前に迫っていた。

 

が、またしてもここでランは信じがたい光景を目にすることになる。

 

「ーーストレア!!」

 

「はいはーい!」

 

少年が誰かの名前(?)を叫ぶと、どこからか陽気な少女の声が響く。

その直後、紫の閃光がランの目の前を包む。ランはとっさに左手で目を覆った。

そして手を退けて見ると、そこには先程までは居なかった紫の大剣を持った少女が立っていた。

髪は薄紫のウェーブがかかっており、真紅の瞳を持ち、紫のドレスを身に纏い、手に持った大剣は少女の身の丈ほどの大きさがある。

 

「な、なんだてめぇ?!どこから湧いて来やがった?!!」

 

サラマンダーは驚きのあまりやや早口でそう尋ねるが、

 

「えー?答える必要なんてないでしょ?だってアナタ達はここでアタシに斬られちゃうもん」

 

陽気な声で紫の少女はそう告げると、大剣を右肩に担いで左手を剣の柄に添える。

 

「えいっ♪」

 

そして、その大剣を思い切り横薙ぎし、2人のサラマンダーを斬ったのだった。

サラマンダー達はその一撃で身体を蒸発させ、エンドフレイムとなってやがて消滅した。

 

「お疲れさま、ストレア」

 

「えっへへ〜、バナージもね!」

 

少年と少女は笑顔でハイタッチを交わす。

そして少年はランの方へ歩いて行く。

 

「えっと、君。大丈夫だった?」

 

彼の問いかけにランはハッとした顔で

 

ラン「はっ!あ、あの、だいじょうぶですっ!その…ありがとうございます!助けてくれて…」

 

ランはやや早口になってそう答えた。

少年は安心したように笑顔になると、

 

「じゃあ、俺たちはもう行くから。気をつけて帰るんだよ」

 

そう言って、少年は背を向けて飛び立とうとする。

が、ランは半ば無意識にそれを引き止めた。

 

ラン「あ、あのっ!ちょっと待って!」

 

少年は振り返り、疑問符を浮かべた顔でランを見つめる。

 

ラン「その、えっと……お、お礼をさせて下さい!助けて頂いたんだし、私が何もせずに立ち去るなんてこと…」

 

「いや、いいよ。俺は当然の事をしたまでだから」

 

少年は手を横に振って断る。

 

ラン「それでもですっ!お願いします!」

 

ランは頭を下げた。少年は困ったように頭を掻く。

すると、紫の少女が少年の肩をポンと叩き

 

「まぁいいじゃん!お礼はしっかり受け取っとかないとダメだよバナージ?」

 

「ストレア……分かった。それなら甘えさせてもらおうかな」

 

それを聞いてランはパアッと笑顔になる。

 

ラン「それなら、近くの町でお茶でもしましょう!勿論私が奢りますので」

 

「ありがとう。それじゃ早速行こうか」

 

ラン「はいっ!あ、私《ラン》って言います!」

 

「《ラン》さんね。俺は《バナージ》だ。こっちは《ストレア》」

 

「よろしくね〜!」

 

そして三人は、一斉に飛び立った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

インプ領内にあるとある喫茶店で、彼らは談笑していた。

 

ラン「へぇ〜、ストレアさんは《プライベート・ピクシー》なんですね!」

 

ストレア「そうだよ〜!まあでも、たまにしかちっちゃくてならないんだけどね〜」

 

ストレアはパンケーキを頬張りながら答える。

 

バナージ「それにしても、ランはすごく強いんだね。《絶刀》だっけ?」

 

ラン「あはは。一応はそう呼ばれているみたいですね。

リアルでは剣道をやっているので、それが生きたんだと思います」

 

バナージ「そうなのか!実は、俺の義妹も剣道をやってるんだよ。しかも全国大会まで出てて」

 

ラン「全国大会ですか!それは凄いですね!一度勝負してみたいものです」

 

ランは一度ミルクティーを口に含む。

 

ラン「それより、バナージさんの方が強いじゃないですか。あのサラマンダー兵士、確かALOの中でも熟練の舞台なんですよ?そんな人たちをあんな一瞬で……」

 

バナージ「まあ、俺のはちょっと色々あってね…」

 

バナージが言いにくそうにしているのをランは察し、それ以上問うのを辞めた。

 

ラン「ところで、バナージさんの種族は何なのですか?見たところ、多分《土妖精族(ノーム)》のようにも見えますが……」

 

バナージ「あ、えっと……」

 

するとバナージは、隣りに座るストレアに小声で尋ねる。

 

バナージ(こういう時なんて言えば良いかな?)

 

 

ストレア(うーん……アタシは一応《土妖精族》だから、同じで良いんじゃない?少なくともランちゃんはそう思ってるみたいだし)

 

バナージは納得したように頷くと、

 

バナージ「そ、そうそう!俺もノームなんだ」

 

ラン「そうなんですか!でも、ノームでしたら何でこのインプ領に?」

 

バナージは少し真剣味を帯びた顔になると、ゆっくりと口を開く。

 

バナージ「…実は、世界樹に行きたいんだ」

 

ラン「え?世界樹に?」

 

バナージは頷く。

 

バナージ「済まない、今は詳しくは言えないんだけど……でも、どうしても行かないといけないんだ。何があっても……」

 

呪詛のように繰り返し呟くバナージを、ストレアとランは心配そうに見つめる。

すると、ここでランが意を決して

 

ラン「でしたら、私が案内役をやります!」

 

バナージ「え?」

 

バナージは思わぬ言葉にポカンとしている。

 

ラン「わ、私、これでもALOは長いんです!だから、世界樹までの道のりは把握してますし、絶対に足手まといにはなりませんから……だから……お願いします!私もご一緒させて下さい!!」

 

しばらくランを見つめていたバナージだったが、やがてふっ、と笑みを浮かべると

 

バナージ「実を言うと、俺も世界樹の行き方はよく分かっていなかったんだ。こちらからお願いしたいくらいだよ」

 

ラン「あ、ありがとうございます!では、よろしくお願いします!!」

 

そう言って、2人は握手を交わした。

 

ストレア「よぉ〜し、それじゃあ世界樹に向けてしゅっぱーつ!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

〜シルフ領・スイルベーン〜

 

日付が変わり、約束の時間にログインしたキリトとアスナ、リーファの三人。

 

キリト「よう、早かったなスグ」

 

アスナ「おはよう、リーファちゃん」

 

リーファ「ああ、お兄ちゃん、アスナさんちょっと買い物しててね」

 

キリト「そっか。そうだ、俺とアスナの装備も揃えないとな」

 

アスナ「そうだね。流石に初期装備のままじゃ心許ないし」

 

そして彼らは、商店街で装備を買いに出向いた。

キリトはSAO時代のものを思わせる黒のロングコート。

アスナは衣装は初期のものを、防具にチェストアーマーを購入し、武器は勿論細剣だ。

が、ここからが長かった。

 

キリトがいざ剣を購入するとき、店主に「もっと重いやつを」とと要求し、店主が次のものを持ってきたら「もっと重いの」と要求することを繰り返すこと20分。

結局、キリトは身の丈ほどもある漆黒の大剣で妥協した。

 

リーファ「……そんな重いやつ触れるの?」

 

リーファが内心引きながらそう尋ねる。

キリトは剣を左右に振ってみると、うんと頷き

 

キリト「大丈夫だ。問題ないよ」

 

キリトは涼しげな顔で剣を振ると、そのまま背中の鞘に剣を納める。

すると、キリトとアスナの元に一本のメールが届いた。

 

キリト「……ユウキ?」

 

差出人はユウキだった。

内容は、街に着いたから合流しよう、と言うもの。

 

アスナ「ユウキってインプだよね?どうやってここまで来たんだろう?」

 

インプ領はここシルフ領からは遠く離れた場所にある。にも関わらず、ユウキはたった一人でここまでやって来た。

普通ならこんな短時間で複数の領地を超えるなど不可能だ。だがしかし、キリトとアスナには、《ユウキならやりかねない》とどこか納得してしまっていた。

 

キリト「スグ、俺の仲間が今この街に到着したらしい。合流したいんだけど、待ち合わせ場所はどこにすればいい?」

 

リーファ「えっと、それなら《風の塔》にしよう。あそこなら分かりやすいし、これから飛ぶときに高度も稼げるから」

 

そうして、三人は《風の塔》に向けて歩き出した。

塔の内部は円形状のロビーとなっており、中央に二基のエレベーターが設置され、周囲には様々なショップが軒を連ねている。

 

三人がエレベーターへ向かう途中、彼らを呼び止めるものが現れた。

 

「リーファ!」

 

振り返ると、そこには三人組のシルフの男性が立っていた。中央の人物は左右の二人と比べてかなり体格がいい。

 

リーファ「こんにちは、シグルド」

 

シグルドと呼ばれた男性は、いかにも不機嫌そうな声でリーファに問いかける。

 

シグルド「…リーファ、パーティーを抜ける気か?」

 

リーファ「うん……まあね」

 

リーファは少し申し訳なさそうに答えるが、シグルドはさらに気を悪くした声になる。

 

シグルド「他のメンバーに迷惑がかかるとは思わないか?」

 

リーファ「パーティーに参加するのは都合のつく時だけで、いつでも抜けていいって約束だったでしょ?」

 

シグルドの言い分に少しムッとした声色になるリーファ。

しかしシグルドはそんなリーファの言葉を気にとめることもなく、

 

シグルド「だが、お前はもう俺のパーティーメンバーとして名が通っている。理由も無く抜けられたら、こちらの面子に関わる」

 

あまりに横暴なシグルドの言葉に何も言えなくなるリーファ。

 

アスナ「ちょっと、リーファちゃんは条件付きで貴方のパーティーに参加していたんでしょう?なら……」

 

シグルド「ウンディーネの貴様には関係のない話だ。余計な口を挟むな!!」

 

アスナが眉をひそめながら抗議するが、シグルドはそんな彼女をピシャリと制した。

尚も抗議しようと口を開くアスナだったが、キリトが彼女の肩を持ってそれを止め、代わりに彼がアスナとリーファの前に出た。

 

キリト「仲間はアイテムじゃないぜ」

 

シグルド「なんだと?」

 

キリトは更にシグルドの方に歩き続け自分よりも頭一つ分は高いシグルドの目をじっと見据えながら言い放った。

 

キリト「他のプレイヤーをあんたの大事な装備や鎧みたいにロックしておくことは出来ない、って言ったのさ」

 

シグルド「き、貴様ぁ!!」

 

キリトのストレートな物言いにシグルドは憤慨し腰につけられた剣の柄に手をかける。

 

シグルド「屑漁りのスプリガン風情がつけあがるな!!お前も、そこのウンディーネも、所詮は領地を追われた《レネゲイド》だろうが!!」

 

今にも抜剣しそうな勢いで捲し立てるシグルド。

 

リーファ「失礼な事言わないで!キリトくんとアスナさんは、私の新しいパーティーメンバーよ!」

 

シグルド「……リーファ、領地を捨てるのか?」

 

リーファは暫しの沈黙の後、

 

リーファ「……ええ。あたしここを出るわ」

 

シグルドは「そうか」と呟くと、腰の剣を勢いよく抜剣し

 

シグルド「小虫が這い回る程度には見逃そうと思っていたが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎだ!

ノコノコと他種の領地に踏み込んだんだ。斬られても文句は言えんぞ?」

 

威圧感のある声でキリトに言うシグルド。

だがキリトはそれに対して呆れた顔でため息をつくだけであり、シグルドはますます怒りに顔を歪めていく。

一触即発のピリピリとした空気に、周囲のプレイヤー達も何事かと視線を集める。

と、その時だった。

 

「いやあぁぁぁぁ!!!だれか止めてえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

と、少女の悲鳴が遠くから響き、段々と大きくなっていく。

そして直後、シグルドの背中に何かが思い切り衝突した。

 

シグルド「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ?!!!」

 

その勢いでシグルドは大きく吹き飛ばされ、キリト達三人の脇をすり抜けて後ろの壁に激突した。

そして、シグルドが立っていた場所で今度は別の人物がゆっくりと立ち上がった。

 

「痛ったぁ〜…あれ、ボク何かにぶつからなかったかな?」

 

そこに立っていたのは、紫の長髪に赤いバンダナを巻いた《闇妖精族》の少女。

キリトとアスナは、その人物に面識があった。

 

キリト「えっと……もしかして《ユウキ》か?」

 

キリトがおずおずと尋ねる。

その声に反応した少女がキリトの方を見る。

 

「あっ!キリトにアスナだ!やっほー!」

 

ユウキと呼ばれた少女は無邪気な笑顔を浮かべながらキリト達の方へ駆け寄る。

 

アスナ「ユウキ!ちゃんと辿り着けたんだね!」

 

ユウキ「うん! 親切な人が飛び方を教えてくれてさ〜!」

 

リーファ「……止まり方は教えてくれなかったんですね」

 

リーファが未だに土煙の中で倒れているシグルドの方を見ながらボソッと呟く。

 

キリト「……それじゃ、ユウキも来たことだし早速行こうか!」

 

「「「おー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

アスナ「…ところで、シグルドはどうしようか?」

 

キリト「ほっとけばいいだろ」

 

 




お読みくださりありがとうございます!
バナージの《白い悪魔》の異名、ガンダム好きの方ならもう分かりますよね!

さて、今後どうやって話を進めていこうか模索しながら進めて参りますので、次回も少し期間が空いてしまうかもしれません。
どうか気長に待ってくださると嬉しいです!
では、また次回!!

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