ソードアートオンライン:ユニコーン   作:ジャズ

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こんにちは!ジャズです!
今回、かなり長くなりました!
それと、この話は主にキリト視点です。
それでは第五話、行きまーす!


第五話 月夜の黒猫団

2023年6月14日 第十一層タフト

キリトside

少し前に第一層をクリアしてから、俺とバナージは別行動を取っていた。なぜなら、俺たちは第一層のボス戦の騒ぎで“ビーター”の汚名をつけられたので、一緒にいてはまずいという判断からだった。もちろん、一緒に迷宮区の攻略をすることもあるが、それでもあいつと一緒にいる時間はゲーム開始時、いや現実世界にいた時より極端に少なくなっていた。

寂しくない、といえば嘘になる。なにせ、俺とバナージは生まれた時から一緒に過ごしてきた相棒なのだ。けれど、こうなった以上、やはり離れ離れになるのは仕方のないことだし、それにあいつのことだ、そう簡単に死ぬなんてことはないはずだ。俺は何も心配はしていない。

 

そんなこんなで、俺は今第十一層に来ていた。最前線の層から少し離れるが、俺がこの層に来ていたのは俺の剣の強化素材を集めるためだった。けれど、やはり最前線より下の層ということもあって、ドロップする素材も最前線のそれに比べて良いものではないが、ここは死んだら終わりのデスゲーム。安全に越したことはない。まあ、この層の安全マージンは十分ある、どころか、この層のモンスターは俺のレベルでは少しソードスキルを掠めれば一瞬で消えてしまうくらいになっているのだ。

 

キリト「(もう少し上の層でとっても良かったかな?)」

 

俺がそう思って帰ろうとした時だった。ふと、視界に一つのパーティが見えた。そのパーティはモンスターの群れと戦闘を行なっている。いや、あれは追われているのか?

ともかく、あれを放っておくのは流石にまずいと感じ、俺は愛剣を抜いて救援に向かうことにした。

 

キリト「あの、よければ前を支えましょうか?」

 

すると、おそらくそのパーティのリーダーらしい青年が

 

???「ほんとですか?!ありがとう!」

 

と許可を出してくれたので、俺はすぐさまソードスキル《ホリゾンタル》でモンスターを一掃した。

……うむ、やはり呆気ない。

すると、先ほどの青年が俺に声をかけてきた。

 

???「あなた、すごく強いんですね!あの、本当に勝手で申し訳ないのですが、俺たち、さっきのを見てくれればわかると思うのですが、あまり戦闘慣れしていなくて。なので、出口まで一緒に来てくれませんか?」

 

俺は、この後特にやることもなかったので、了承することにした。

 

しばらくして迷宮区の出口に到着し、俺はそこで別れようとしたのだが、そのパーティメンバーが俺にお礼がしたいと言い、(俺は断ろうとしたのだが)あれよあれよという間に彼らのホームに連れてこられた。

 

そして、なぜか打ち上げみたいなのに参加させられた。

 

???「我ら《月夜の黒猫団》にかんぱーい!」

 

一同「「「かんぱーい!!!」」」

 

おっと、パーティかと思ったがどうやらギルドらしい。

 

???「そして、我らの命の恩人にかんぱーい!」

 

一同「「「かんぱーい!!!」」」

 

キリト「へ?あ、ああ、乾杯?」

 

命の恩人って、そんな大げさな…。

 

???「そうだ、自己紹介がまだだったねーーーーー改めて、俺たちはギルド《月夜の黒猫団》。俺はこのギルドのリーダーをやってる《ケイタ》だ。よろしく!」

 

そう言ってケイタは握手を求めてくる。

 

キリト「あ、ああ、《キリト》だ。よろしく…」

 

俺はケイタの迫力に押され、自己紹介と握手を交わす。

俺よりも長身で、かなりハイテンションなやつだ。すると、ケイタはおずおずと俺に質問してくる。

 

ケイタ「失礼ですけど、キリトさんのレベルは幾つですか?」

 

俺は、その質問に対しどう答えたら良いのか迷った。もし正直に答えて、あとで《ビーター》だと言われるのが怖かった。けれど、彼らに嘘をつくのもどうなのかとも言え思った。……迷った末、俺は

 

キリト「えっと……に、25です」

 

と、嘘をつくことにした。本当は45だがーーーー

 

ケイタ「へえ!俺たちとほぼ同じレベルなのに、すごいですね!」

 

と感心したように俺を褒めてくれた。心が痛い……

 

キリト「……ケイタ、敬語は無しにしないか?こっちの方が話しやすい」

 

ケイタ「そ、そうです……そうだね。じゃあ俺も普通に話すことにするよ」

 

そして、しばらくお祭り騒ぎが続いた。

俺は素直に、良いギルドだなと思った。なんだか、とてもアットホームな雰囲気なのだ。このギルドにいれば、寂しいなんて思わないだろうな…と思っていた矢先

 

ケイタ「そうだキリト、よければうちのギルドに入ってくれないか?」

 

キリト「えっ?」

 

思いがけない言葉だっだ。まさか、あんなこと考えていたら勧誘されるとは…

ケイタは言葉を続ける。

 

ケイタ「うちのギルド、前衛ができるのがメイス使いのテツオだけなんだ。こいつ、サチって言うんだけど、盾持ちの片手剣使いに転向してもらおうと思っていてね。それで、キリトにはサチの指導をしてもらいたいんだ」

 

すると、サチと呼ばれた少女はむくれて

 

サチ「何よ!人を味噌っかすみたいに」

 

ケイタ「ん?」

 

サチ「だって、いきなり前衛なんて…おっかないよ…」

 

メンバーは皆、ビビりすぎだとサチをからかい、彼女は頰を膨らませてそっぽを向く。それを見て皆は笑っている。

ーーーー本当に良いギルドだ。

 

ケイタ「うちのギルド、実は現実では同じ高校のパソコン部のメンバーなんだ。ああ、大丈夫。キリトもすぐ馴染めるよ」

 

メンバーもそれに合わせて頷く。

 

俺はーーーー正直、入りたいと思った。バナージと攻略をあまりしなくなり、少し孤独を感じていたからだ。

 

キリト「……ありがとう、みんな。けど、少し待ってくれ。実は俺、一層から一緒に攻略している相棒がいるんだ。今は少し訳あって別行動しているんだがーーーそいつに確認を取ってからでも良いか?」

 

ギルドのメンバーはそれを了承してくれたので、俺は急いでバナージにメールを送る。

すると十分後、あいつから返信がきた。

 

バナージ『キリト、ギルドに入るんだ!良いじゃないか!話を聞く限り、すごく仲の良さそうなメンバーだし、入りなよ!俺のことは気にしなくて良いぜ!』

 

と返信がきた。バナージも誘おうかと思ったのだが、あいつにはあいつの日常があるのでそれを無理やりこっちに連れてくるのはどうかと思ったのと、そもそも俺たちが別行動している理由は《ビーター》呼ばわりされるのを防ぐためなので、ここであいつがきて『ビーター》がバレるとまずいと思ったからだ。バナージには申し訳ないが……

 

キリト「お待たせ、みんな。あいつから許可が降りたよ。

と言う訳で、俺もこのギルドに入ることにするよ」

 

すると、ギルドメンバーは

 

「まじで?!やったー!!」「祝!《月夜の黒猫団》に強力な新メンバー加入!」「よっしゃー!そうと決まれば改めてパーティだー!!」

 

と、再びお祭り騒ぎである。

 

ケイタ「ありがとうキリト…本当にありがとう!」

 

サチ「これからよろしくね!」

 

キリト「……ああ!」

ーーーーーーーーーーーーーー

その翌日から黒猫団の特訓が始まった。内容は、主にサチの片手剣スキルの向上だ。彼らが拠点にしている層より少し上のフィールドで訓練を行う。

だが、俺が彼らの戦闘を見て一番に思ったのはーーーー

 

キリト「(これは…思っていた以上にひどいな)」

 

そう、彼らは戦闘慣れしていないのだ。

数日戦闘訓練を行ったが、やはりみんな、俺のフォローなしではモンスターを倒せずにいた。

 

ある日、俺たちが一日の訓練を終え、拠点にいる時だった。

 

ケイタ「…すごい、もう四十層突破か!」

 

新聞を見ながらケイタは呟き、

 

ケイタ「なあキリト、俺たちと攻略組って、一体何が違うんだろ?」

 

彼はこんな質問をしてきた。

俺は実際攻略組の一人なので、なるべく勘付かれないような答えを出す。

 

キリト「…多分、情報量じゃないかな?あいつらは、フィールドの美味しい狩場を知っていて、そこで効率よくレベリングとかしてるし」

(まあ、俺もその一人だがな…)

 

そう言って、俺は一人心の中で自嘲する。

そして、俺の答えにケイタは

 

ケイタ「情報量か…なるほど。確かにそうだな。けど、俺が足りないのは“意志力”だと思うんだよな」

 

キリト「意思?」

 

ケイタ「うん。例えば、ギルドのメンバーだけじゃなく、全プレイヤーの命を守る。そして、生きて現実に返す……

そう言う意志さ。もちろん、仲間の命も大切だけど、俺はいつか、俺たちみんなで攻略組の仲間入りをしたいんだ」

 

そう言って、ケイタは空を見上げる。

 

キリト「そうか…ああ、きっとそうだな!」

ーーーーーーーーーーーーーー

その日の夜、それは起きた。

サチが突然失踪したのだ。俺とギルドメンバーは大騒ぎだった。

と言っても、この世界にはフレンドリストというものがあり、それを見ればフレンドの現在地などが一目でわかる。なので、探すのは困難ではなかった。なので、彼女の特訓を見てきた俺が捜索を名乗り出た。

 

十分後、俺はサチを見つけた。彼女がいたのは、主街区から少し外れた水路だった。彼女はマントを羽織り、項垂れて蹲っていた。

 

キリト「ここにいたのか、サチ」

 

サチ「…キリト」

 

サチの表情はこれ以上ないくらい暗かった。

 

キリト“みんな心配してるぜ?早く戻ろう?」

 

俺がそう話しかけるが、

 

サチ「ねえ、キリト…わたし…逃げたい…」

 

キリト「逃げるって、何から?」

 

サチ「黒猫団のみんなから…この街から…この層から…そして……」

 

サチは一呼吸置き、

 

サチ「この世界…ソードアートオンラインから」

 

キリト「(やっぱり…)」

 

俺は、サチの呟いた言葉に納得した。

彼女が非常に怯えているのは、前々から気づいていた。

そして、こうなることも予見はしていた。けれど、どう言葉をかけたらいいか、俺にはわからない。

サチは言葉を続ける。

 

サチ「どうせ…どうせ、みんな死んじゃうんだ。この世界、ソードアートオンラインからは出られないんだ。ねえ、キリト…私、怖いよ。どうせ死ぬのに、私、何もできない……」

 

俺はサチの言葉に理解した。

彼女は、どうしようもなく絶望していたのだ。絶望の深淵に入り込み、そのまま出られなくなっていたのだ……

 

 

 

 

 

だけど、俺はそういう時、なんて言えばいいかを知っている。それは、俺のたった一人の相棒ーーーバナージが常に言っていた、俺にとっての《希望》の言葉だ。

 

俺は、サチの横に腰かけ、優しく話しかける。

 

キリト「サチ、君の気持ちはよくわかるよ。確かに死ぬのは怖い。俺だって怖いし、逆に怖くない奴なんてそうそういないはずなんだ。けれどーーーーーーだからって、諦めちゃいけないんだ」

 

サチ「え?」

 

キリト「俺の相棒がな、昔よく言ってたんだ。《例え、どんな絶望の中に立たされても、“それでも”と言い続けろ》ってさ。

俺、この世界に来てからーーいや、ここに来る前も、何回も絶望した。何回も諦めそうになったし、それこそ死にたいとか思ったこともあった。けど、その度にさっきの言葉が俺に立ち上がる力をくれたよ。諦めちゃダメなんだよ。

無理だ、できない、って最初から決めつけるなんて、そんなの悲しいだろ?誰もがみんな、《可能性》を持ってるんだ。内なる神、可能性という名の神を」

 

それを聞いて、サチは顔を伏せる。

 

サチ「そんなの、楽観的すぎるよ…私には、そんなのないよ。だって、キリトだって見たでしょ?私は戦闘が極端に下手なんだよ?そんなのでこの世界から出られるわけがないよ」

 

キリト「それは……」

彼女のなおも否定的な言葉に、俺は何を言えばいいかわからなくなる。

そこで、俺は決意した。

 

キリト「……サチ、大丈夫。君は死なない…俺が死なせない。必ず守るよ」

 

すると、サチは驚いたように顔を上げ、

 

サチ「…ホント?」

 

キリト「ああ、必ずだ」

 

俺がそう言うと、サチは安心したのかふっと笑い、

 

サチ「ふふっ、なんか、プロポーズみたい」

 

キリト「ぷっプロポーズ?!!」

 

サチ「だって、『君のことは俺が守る』なんて、プロポーズで言うセリフじゃない」

 

俺は何もそう言うつもりではなかったので、慌てて否定する。

 

キリト「えっ、あ、いや、べべ別に、そんな…プロポーズとか…そう言うわけじゃなく…」

 

するとサチは少し残念そうな表情を浮かべ

 

サチ「えぇ…プロポーズじゃないんだ…私はプロポーズでもよかったんだけどなぁ〜」

 

キリト「さ、サチさん?!な、何か勘違いしてません?!」

 

すると、サチは俺の方を向いて大笑いをして

 

サチ「あはははっ!わかってるよー冗談だってばw」

 

それを聞いて俺は安心する。…いや、かなり焦ったぞ。

 

そして、サチは立ち上がる。そして、その表情はどこか吹っ切れているように見える。

そして、俺の方を向き、

 

サチ「…ありがとう、キリト。君のおかげで、私はこの世界でもう少し頑張ってみようと思う。だから……これからもよろしくね?」

 

キリト「ああ、こちらこそ」

 

そして、俺たちは二人揃ってホームへ戻る。

 

俺たちが並んで歩いているのを見て、ギルドのメンバーから「恋人だ」「夫婦だ」などと言われて囃し立てられたのはまた別の話…。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

俺が黒猫団に加入してから数週間が立った。

ギルドのメンバーは皆、みるみると成長していき、いつのまにか最前線の少し手前の層まで戦えるようになっていた。

その中で、特に成長が著しかったのはサチだった。今彼女が使っているのは槍である。これは、俺がサチの戦闘スタイルを見て、槍があっていそうだからそう進言したからだ。そして、俺の読み通り、サチは槍を非常にうまく使いこなしていた。やはり、人には向き、不向きというのがあるものなのだと痛感した。

そんなこんなで、俺自身もギルドにだいぶ馴染んでいき、最初から一緒だったんじゃないかというくらいみんなと打ち解けていた。

ケイタやみんなとワイワイはしゃいだり、遊んだり、時にはふざけてバカをやったりしてーーーー俺も、彼らと過ごす日々を楽しんでいた。

 

そうこうしていたある日、ケイタがこんなことを言い出した。

 

ケイタ「みんな、俺はそろそろギルドホームを買おうと思う」

 

そう、ギルドホームーーつまり、俺たち《月夜の黒猫団》

のギルドとして正式な拠点を構えようというのだ。

当然、みんなはそれに賛成し、話がまとまってケイタは、

始まりの街へ向かって行った。

 

すると、残ったメンバーの一人が

 

「なあ、俺たちで何かホームの家具とか用意しないか?」

 

と言い出した。常にギルド全員のことを第一に考え、頼りになるリーダーのためにサプライズで恩返しをしようというのだ。

みんなはそれに賛成し、早速出かけることになった。

 

俺は、いつものフィールドでやろう、と提案したのだが、彼らは「もう少し上に行って出来るだけ多く稼ごう」

と行ったので、俺たちは二十七層に向かった。

二十七層は、トラップが非常に多いフロアで、攻略組もそこへ行くときはかなり警戒する場所だった。

 

幸い、モンスター狩りは順調で、特にトラップにかかることもなく俺たちは進んでいった。

やはり、彼らは確かに成長したのだ。彼らの戦闘スタイルは、もはや俺が黒猫団に加入したての頃とは違う。これなら、ケイタが目指す攻略組入りもすぐにーーー

 

俺がそう思っていたときだった。

 

「あ、おい!見ろよ、隠し扉があるぜ!」

 

メンバーの一人がそう叫ぶ。そして、その扉を開けたその中には

 

「宝箱だ!」

 

そう、扉を開けると、その中には広い空間の中にポツンと宝箱が置いてあったのだ。

ーーーーだが、あれは違う!あれは“トラップ”だ!!

俺はすぐに仲間に警告する。この時、俺がちゃんと止めていればーーーーーー

 

俺がそういったものの、メンバーは「大丈夫大丈夫!」

と、それを開け………

 

その瞬間、部屋が真っ赤に光り、けたたましい警告音と共に、扉が閉まる。やはりトラップだったのだ!

 

そして、四方のしまっていたはずの壁が開き、中からモンスターの群れがぞろぞろと近づいてくる。

 

キリト「まずい、早く転移結晶を!」

 

みんなはそう言われて慌てて転移結晶を使おうとするが、反応しなかった。

ーー最悪だ。トラップやボス部屋などで稀に見る《結晶無効化空間》である。文字通りここではいかなる結晶アイテムは使用不可となり、ましてデスゲームであるこの世界においては、プレイヤーを地獄に叩き落とす『死の間』となる。

 

そして、モンスターは俺たちに慈悲もなく近づいてくる。

ギルドのメンバーは応戦しーーーー最初は、普段の訓練の成果もあって対処はできていた。

いける!そう思った矢先、メンバーの一人が死角からのモンスターの攻撃を受けてしまい、転倒する。

 

「う、うわあああああーーー!!!」

 

転倒した彼に、彼にモンスターが群がり、容赦なく彼に攻撃する。

そして、とうとう彼のHPはゼロになり、彼の体はポリゴン片となって四散した。

 

「!!ちくしょおおおおおお!!!」

 

メンバーの死を目の当たりにしたメイス使いが激昂し、モンスターの群れに突っ込んでいく。

 

キリト「だめだ!!落ち着け、一人で行くなあああ!」

 

俺の制止も虚しく、彼は一人でモンスターに攻撃していく。俺は、それまで隠していた片手剣の上位ソードスキルを全て使い、彼を止めに行くが、遅かった。

 

「あ、ああああああっ!!!」

 

メイス使いは多数のモンスターに対処できず、彼もまたHPをなくし、消滅した。

 

「うわあああああああ!!」

 

それに続き、ダガー使いがモンスターに集団で攻撃され、彼もまた消滅する。

 

キリト「くそおおおおおおおお!!!」

 

俺はもう、無我夢中で剣を振り続けた。

残ったのは俺とサチだけ。そして、彼女もとうとうモンスターに囲まれ、

 

キリト「サチいいいいいいいいいい!!」

 

俺は彼女の元へ向かおうとするが、とても間に合わない。

ーーー約束したのに。「君は俺が守る」って、いったのにーーー

 

サチは、俺を見て少し寂しそうに微笑み、

 

『ありがとう、さよならーーーーー』と口にした。

 

俺は必死で手を伸ばすが、それも届かず、サチはモンスターに攻撃をーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「させるかあああああああああああああ!!!!」

 

突如、赤い閃光が飛び込んできて、彼女を取り囲んでいたモンスターを一掃した。

 

ーー何故?俺はそれを見て最初にこう思った。何故なら、“彼”はそこにはいるはずのない人だったから。

 

???「大丈夫か?!キリト!!」

 

 

 

 

 

 

 

キリト「…バ……ナージ……?!」

 

そう、俺の相棒だった。

 

時は、彼らが二十七層に入ってすぐのところに巻き戻る。

ーーーーーーーーーーーーーー

バナージ side

キリトが《月夜の黒猫団》というギルドに入って、数週間が過ぎた。彼から送られてくるメールには、どれも彼らと過ごす楽しそうな毎日のことだった。

羨ましい、と思った。なにせ、こんなデスゲームの中、そんなアットホームな雰囲気のギルドなどそうそうない。

ましてや最前線のギルドとなると、皆攻略のことばかり考え、殺伐とした空気のものがほとんどだからだ。

俺はそんな空気が嫌なので、ギルドの勧誘はされても入らないようにしていた。そしてそれは、キリトも同じで、俺たちがギルドに入ることはないだろうーーーそう思っていたのだがーーーーー

 

ある日、俺は一人で二十七層に来ていた。理由はーーまあ、なんとなくだ。特に目的があったわけでもないし、別に二十七層には特別な何かがあるわけでもない、ただなんとなく俺はこの層に来ていた。

 

すると、何やら楽しそうな話し声が聞こえてきて、その方を見ると……

 

バナージ 「(ん?キリトじゃないか。ということは、あれがキリトが入ったっていうギルドなのか)」

 

そう、本当に偶然だった。俺が彼らを目にしたのは。

とても良さそうなギルドのだった。みんなが楽しそうで、仲が良くて、互いを尊重しあっている。そして、どうやらキリトもそれに馴染んでいるらしい。

 

俺は、なんとなく彼らについていくことにした。バレないように、隠蔽スキルを使った。まあ、キリトを後で驚かせてやろうと思ってやっただけだった。

 

ーーーまさか、あんな悲劇が起こるなんて、俺はこの時想像もできなかった。

 

彼らの攻略は、俺から見ていても順調だった。おそらく、キリトの教えの賜物だろう。さらに、彼らの中の良さも相まって、連携も完璧だった。

 

バナージ「(彼らが攻略組に来る日も近いだろうな)」

 

俺は純粋にそう感じた。それほどまでに、彼らは期待できそうだった。

もし、彼らのようなギルドが攻略組に来れば、あの攻略のことしか頭にない殺伐とした空気も変わるだろうなーーー

 

俺がそう思っていた時だった。彼らは、隠し扉の中にある宝箱を見つけ、それを開けてしまったのだ。

それはトラップだった。扉が閉まり、彼らは中に閉じ込められた。

 

俺はそれを見て、大急ぎで扉を解除する方法を探した。

すると、扉のそばにレバーのようなものがあり、俺はそれを急いで下に降ろした。

 

そして、俺が目にしたのはーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まさに、モンスターに殺されそうになっている少女の姿だった。

 

バナージ「させるかあああああああああああああ!!!」

 

俺はとっさに《NTーD》を発動し、その中に飛び込んだ。

そして、闇雲に剣を振り続け、少女を囲んでいたモンスターを一掃したのだ。

 

そう、俺がここにいるのは全て偶然だった。偶然が重なって、こうして俺は一人の命を助けることができた。

 

キリト「…バ…ナージ……?」

 

キリトは、掠れた声で呟いた。

 

俺は辺りを見回す。そして、すぐに気づいてしまった。

ーーー明らかに少ない。今この場にいるのは、俺とキリト、そして先程の少女だけ。

俺は全て理解した。理解してしまった。残酷な真実をーーーーーーあの時いたはずの他のメンバーはもう……

 

バナージ「…く……そ……くそ、ちくしょおおおおおお!!!」

 

俺は、やり場のない怒りをモンスターにぶつけていった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

キリトside

バナージがこの場に来て、どれくらいの時間が経っただろう?いつの間にか、トラップで発生したモンスターは全滅し、ただ俺たちだけが残っていた。

 

キリト「……バナージ、お前、なんでここに?」

 

バナージ「…偶然だよ。たまたまキリト達を目にして、隠れてついてきたんだ」

 

キリト「そうか…ありがとう、バナージ」

 

俺は礼を言うが、バナージは首を横に振り、

 

バナージ「いや、礼を言われるほどのことじゃないさ。それより……」

 

バナージは静かに、サチの方を見やる。

 

サチ「テツオ……ササマル……ダッカー……みんな………っ!……どこにいったのよおおおおおお!」

 

バナージは辛そうに彼女を見ていた。そして、

 

バナージ「……ごめん……君の友達…助かられなくて…」

 

バナージはサチのそばに歩み寄り、頭を下げた。

サチは、目に涙を溜めながら、

 

サチ「いや……いいの……ありがとう…助けてくれて…」

 

けれど、バナージも目が潤ってきて、

 

バナージ「…っ!ごめんっ……ごめんな…!」

 

ただただ、バナージは彼女に謝罪していた。

 

そして、俺も彼女に謝罪する。

 

キリト「バナージ、お前の責任じゃない。全部俺が悪いんだ。あいつらを…もっとしっかり止めていれば……サチ、ごめん!みんな助けられなくて……!」

 

俺は、必死にサチに謝罪する。すると、サチは…

 

サチ「キリトのせいでもないよ……大丈夫だよ……だから……だか…ら……ふっ…くっ…うっ…うえぇぇ…」

 

俺たちは、ただその場で泣いていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜三十分後〜

サチ「…そろそろ、戻ろう?ケイタも心配してるよ…」

 

俺は、それを聞いてはっとなる。

 

キリト「そうだ…ケイタ…!俺、あいつになんて言えば…」

 

サチ「大丈夫…かどうかはわかんないけど、でも…誰も悪くないんだよ…だから、多分許してくれる…」

 

バナージ「そうだと…いいんだけどね……」

 

俺たちは、暗い帰り道をとぼとぼと歩いた。

そして、とうとう拠点に到着した。

 

 

 

 

最初、ケイタは俺たちだけで帰ってきたのを不思議に思った。ーーー苦しかったが、全て洗いざらい話した。二十七層のこと、トラップのこと、そして…仲間の行方も……

 

ケイタはやはり絶望の表情を浮かべた。当然だ。仲間が死んだのだ。しかも一気に三人も。けれどケイタは、無理やり笑顔を作り、

 

ケイタ「…そうか…それは災難だったな…でも、君たちが無事に帰ってきてくれてよかった…!本当に、よかった……!」

 

俺は、その言葉がとても痛かった。全部、俺のせいだから。俺がしっかりしていれば……

そして、ケイタはバナージの方を見て

 

ケイタ「君が駆けつけてくれたんだね。本当にありがとうございます…仲間を助けてくれて……」

 

バナージ「いえ、礼を言われることでは……それに、おれはこのギルドのメンバーを三人死なせてしまいました。本当にごめんなさい…!」

 

バナージは、静かに頭を下げた。

するとケイタは、こんな質問をした。

 

ケイタ「それにしても、トラップの中のモンスターを全滅させるだなんて、君も本当に強いんだね…レベルは幾つなんだい…?」

 

バナージ「えっと…四十五です」

 

ケイタ「四十五?!すごいな!キリトさんより上なんて!」

 

そして、事情を知らないバナージの次の言葉で、話の空気は一変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バナージ「キリトより上……?そんなバカな、彼は俺と同じレベルのはずですよ?」

 

ケイタ「えっ……?」

 

ーーなんてことだ。そうだ、バナージは知らないんだ!俺が本当のステータスを隠していることを……!

 

ケイタは信じられないという顔で、バナージに確認する。

 

ケイタ「そんな…キリトはあの時、自分のレベルを二十五って……」

 

バナージ「え?キリト、お前隠してた…の……か…っ?!」

 

そこになってようやくバナージは全てを察した。

慌てて口を抑えるが、もう遅い。

 

ケイタ「……キリト…どういうことなんだ……?」

 

ーーーー俺は、全て話した。俺の本当のレベル、ステータス、そして、それを隠していた理由を……

 

ケイタ「…そうか、そうだったのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふっ……ふふふっ……あはははは!」

 

サチ「け、ケイタ……?!」

 

突如笑い出したケイタに、サチは驚愕の表情を浮かべる。

 

ケイタ「そうか、お前、《ビーター》だったのか!そうか、どうりで……」

 

そういうと、ケイタは走り出した。

 

サチ「ケイタっ!どこに行くの?!」

 

サチに呼び止められ、ケイタは恨めしそうに俺を振り向いてこう言った。

 

ケイタ「《ビーター》のお前が、俺たちに関わる資格なんてなかったんだ……!」

 

そして、ケイタは再び走り出した。

 

サチ「待ってっ!ケイタっ!」

 

バナージ「ケイタさん!」

 

サチとバナージが彼を追いかける。

 

ーー俺は、動けなかった。さっきの彼の言葉がずっと、俺の中で反復していた。

 

『《ビーター》のお前が、俺たちに関わる資格なんてなかったんだ……!』

ーーーーーーーーーーーーーーー

バナージside

俺は、サチと一緒にケイタさんを追いかけた。

そして、彼はフロアの外周に立った。

 

バナージ「まさか……!ケイタさん、だめだ!!」

 

彼は、自殺するつもりだ!

 

サチ「待ってケイタ!だめだよ!キリトはそんなつもりじゃ…!」

 

俺とサチは必死に彼を引き止めるが、

 

ケイタ「ごめんな……サチ…けど俺…もうだめだ。

頼む、君は生きてくれ。せめて君は生き抜いて、現実世界に戻ってくれ……」

 

サチ「ケイタっ!!」

 

サチは泣きながらケイタを呼ぶ。

すると、ケイタさんはこちらを向き、

 

ケイタ「バナージさん、お願いします…どうか…どうかサチを…生きて現実に返してください…!それと、キリトに……『ごめん』と伝えておいてください!」

 

そう言うと、ケイタさんは外周から飛び降りる。

 

バナージ「ケイタさああああああん!」

 

サチ「ケイタアアアアアアアアアア!!!」

 

俺たちは必死に手を伸ばすが、届かなかった。

下を見ると、彼の体はポリゴン片になって消滅していた。

 

サチ「そ……んな……ケイタ……私を…私を一人にしないでよおおおおおおおお!!!」

 

サチはその場でうずくまり、慟哭した。俺は彼女を、静かに抱きしめるしかなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

しばらく経って……

 

バナージ「大丈夫…?」

 

サチ「…どうだろう……私にもわからないや……悲しいことが多すぎて……自分でも大丈夫なのかどうか……」

 

サチは、声を震わせながら俺にそう言った。

 

バナージ「そうだよね……でも、君は死んじゃだめだよ?ケイタも言ってたでしょ…?君は、生き」

 

サチ「大丈夫。わかってるよ。私、決めたんだ。絶対に生きるって……」

 

バナージ「……そうか。あ、自己紹介がまだだったね、俺はバナージ。キリトの友達だよ」

 

サチ「バナージ……そっか、あなたが…」

 

それから、サチはキリトのことを話してくれた。

黒猫団を助けてくれたこと。ギルドに入った経緯。そして、自分が絶望していた時、かけてくれた言葉のことも…

 

サチ「キリトにはあの時、本当に勇気付けられたよ…だから、私が死んだら、キリトはすごく悲しむだろうなって…

だから私、生きることにしたの。諦めちゃだめ。《それでも》って言い続けるって……ひょっとして、キリトにこの言葉教えたのって……?」

 

バナージ「ああ、多分俺だよ。そっか、あいつそんなこと言ってたのか……」

 

サチは少し笑って

 

サチ「…信頼されてるんだね。キリトに」

 

バナージ「まあ、信頼されてるかはわからないけど…少なくとも、俺はあいつとは……」

 

 

 

 

そこで、俺はあることに気づく。

 

バナージ「ん?そういえばキリトはどこ行ったんだ?」

 

サチ「あれ…そういえば私も気づかなかったや」

 

そう、キリトがこの場にいないのだ。

ーーー嫌な予感がした。俺は、即座に立ち上がり、サチに言った。

 

バナージ「サチ、キリトを探すぞ!君はあっちを頼む!」

 

サチ「えっ?あ、ちょっと、バナージ!!!」

 

 

俺は彼女の制止も聞かず、一目散に走り抜ける。

向かうのは、黒猫団のホーム。ケイタとさっきあった場所だ。

ーーーーそこにはキリトはいなかった。

すると、サチがこちらに走ってきた。

 

サチ「はあっ…はあっ…ダメ、あっちにもいなかった!」

 

俺はそう聞いて、急いでフレンドリストを確認する。この機能は、フレンドがどこにいるのか表示してくれるのだがーーーー

 

バナージ「ーーーっ!あの、バカ!!」

 

ーーーそこにはキリトの名前がなくなっていた。考えられるとしたら、キリトがフレンドリストから俺を削除したのだろう。

 

サチ「ーー!私の方にもない!」

 

バナージ「なんてことだ……!」

 

迂闊だった。俺がケイタとサチに気を取られ、彼のことが頭から完全に抜けていた。しかも、彼の精神状態を鑑みるとーーー最悪の予想がよぎった。

 

バナージ「くそっ!あいつ、早まるなよ!!サチ、第一層に向かおう!《黒鉄宮》行くんだ!」

 

サチ「わ、わかった!」

 

そして、俺とサチは大急ぎで走り出した。

ーーーーーーーーーーーーーーー

キリトside

俺は、木の陰からバナージとサチが走っていくのを見つめていた。

 

キリト「(ごめんな……サチ…バナージ。けれど俺にはもう、お前らに会う資格はないんだ)」

 

そう、全て俺が招いたことなのだ。あの三人の死も、ケイタの自殺も、全部俺のせいなのだ。だからーーーー

ーーーーー

 

気がつくと、俺はフィールドに来ていた。

ボーっとしていたので、今自分が何層のどこのフィールドにいるのかわからない。

しばらく歩いていると、目の前にモンスターの群れがPOPした。俺は、剣を引き抜き、構える。

 

キリト「(俺のせいだ……全部……俺の……)」

 

すると、俺の体から何やら黄色い光が現れ始める。そして、それらはどんどん濃くなっていき、その光が増幅するのと同時に俺の心も、何かに蝕まれるようにーーー

 

キリト「(俺は……俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺はっ!!!!)うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄色い光がオレの体を完全に包み、体の中から何かとてつもないパワーが溢れてくる。

そして、目の前に黄色い文字が現れた。

そこに書いていたのはーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《NTーD》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長くなって本当にごめんなさい!
これにて五話は終了です。
というわけで、サチ生存ルートに突入しました!なぜサチを生かしたかというと、彼女には生きてキリトを支えて欲しい、と思ったからです!
そして、キリトもとうとう《NTーD》が発現しました!
黄色い光はまさかーーー?!
それでは、第六話も宜しくお願いします!

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