ドウシヨウモナイザーの朝は早い。怪人トニカクツヨーイ達は朝昼晩問わずにいつでもやってくる。
ドウシヨウモナイザーの愛機であるバイク、クロスサンダーにまたがって今日も戦うのだ。
「おい!トニカクツヨーイ!今日こそお前らを倒してみせる!」
ドウシヨウモナイザーはお決まりの変身の掛け声と共にベルトの横にぶら下げていた変身アイテム、ヴォルケイノスティックとクロスブリザードスティックを大体丹田くらいの位置にあるクロスオーバードライバーに差し込んだ。
《ヴォルケイノ!クロスブリザード!トランスフォーム!!》
これは相反する火山と吹雪の力を一身に宿したドウシヨウモナイザーが三世代に渡って開発し続け、今朝完成した人類の希望の力なのだ!
「フハハ!!数える事206248回お前らドウシヨウモナイザーは我らに勝利した事など一度も無いではないか!」
そう、ドウシヨウモナイザーは強い。一般人とは比べものにもならないし、現代兵器では戦略兵器を持ち出さなければ傷一つ付かないだろう。それでも今までトニカクツヨーイに勝てたことはないのだ。
「それも今日までだ!いくぞ!うおおおおお!!」
ドウシヨウモナイザーはクロスブリザードスティックについているボタンを押し込んだ。すると、辺りに冷気が充満し、下がった気温がトニカクツヨーイのパフォーマンスを落とす。
《ブリザード オーバー ドライブ!》
「ぐっ、体がうまく動かない!?…だが決め手に欠けるなぁ!貴様では私達には傷一つつけられないのだよぉ!!」
「だからっ!これがあるんだっ!!」
ドウシヨウモナイザーは先ほどと同じように今度はヴォルケイノスティックのボタンを押し込んだ。
《ヴォルケイノ オーバー ドライブ!》
クロスオーバードライバーから音声がなると、ドウシヨウモナイザーの拳がマグマに包まれる。
「この力でっ!俺がっ!お前をっ!倒すっ!」
右、左と交互に激しく拳が振り下ろされる。ブリザードの効果が進行して、足が凍りついているトニカクツヨーイはそれを避けることができない。
「馬鹿な!この私がこんな奴にぃ!」
「終わりだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
《ツインスティック!マキシムオーバードライブ!!!》
赤と白の混ざり合った一撃がトニカクツヨーイを砕いた。
「俺は…勝ったのか?……勝った!勝った!うおぉぉぉぉ!!!!」
ドウシヨウモナイザーは勝利の雄叫びをあげる。祖父、父、そして自分の因縁に決着がついた。諦めない心が生んだ奇跡は最高の結果をドウシヨウモナイザーにもたらした。……
…かの様に見えた。
「がっ…何故だ…お、お前は、倒した、はず、で、は…」
ドウシヨウモナイザーの腹にはどうしようもなく致死に至らせるだけの大きさの穴が開いていた。そしてそれを実行したもの、それはドウシヨウモナイザーが決着をつけたはずのトニカクツヨーイだった。
「ククク、気づかなかったのか?ドウシヨウモナイザー。死んだ私が自らを私達と形容していたことに。クク、わかったか?我々は群体だ。全体で5674人いる。1人減ったからキリの良い数ではなくなってしまったよ。ハハハ」
呆然とするドウシヨウモナイザー。自分達が三世代かけて倒した相手が5675人のうちの1人だった事を知らされて平然としていられる方がおかしいのだ。彼はどこもおかしくは無い。そう、彼が戦いという行為に対して必死に隠してきた恐怖、その封印が解かれ、彼を蝕んでもそれは当たり前のことなのだ。
「嫌だ…もう戦いたく無い。こんなの勝てっこない!死にたく、無い!うわぁぁぁ」
「そうだ、いいことを教えてやろう。お前が倒した私、あいつは私たちの中で最も遅く生まれた言わば最弱だ」
その瞬間、彼に残っていた微かな希望が砕けた。
「ハハハ!ハハハハハハ!!!どうしようもない!もう何にもできっこない!!ハハハ!人類は終わりだぁ!俺は、…僕はいったいなんのためにぃぃぃ!!!!」
完全に打ち砕かれて壊れて、ただの少年に落ちぶれたドウシヨウモナイザーを見てトニカクツヨーイは至極愉快そうに笑う。
「人類が終わる?面白いジョークだ。我々による人類の統治は既に終わっている。貴様らは人類の平穏を守ると言っていたが、それを揺るがせていたのはお前達だよ、ドウシヨウモナイザー?」
彼の最後の問いだった戦う意味。その疑問すら絶望で埋め尽くされた少年は、最早言葉を失い微かな唸り声を上げるだけとなった。
「本部に入電。国家反逆者ドウシヨウモナイザーを確保しました。応援を要請します」
テロリストとして連れて行かれるドウシヨウモナイザー、国民から浴びせられる罵詈雑言は、不幸中の幸いか少年の壊れきった心には届かなかった。
「この少年の戦闘センスには眼を見張るものがあった。洗脳処理と再教育をしたのち、第3宇宙の最前線に送るぞ。改造手術を急げ」
統率のとれた動きで少年を運ぶトニカクツヨーイの部下であるカーガク=シヤは少年を手術室へと連れて行った。
時は流れて、ドウシヨウモナイザーは戦争の中にいた。
「トニカクツヨーイ様達はこの宇宙を守るために戦ってるっていうのに、なんであいつら異星人はわからないん、だっ!」
独り言を呟きながら敵兵の頭を握りつぶりて笑うドウシヨウモナイザー。改造手術はもちろんのこと、クロスオーバードライバーにも改良が施され、ドウシヨウモナイザーに変身した時の性能もかなり上昇していた。
降伏しない敵兵を虐殺して周りの兵士の心を折ろうとしていたドウシヨウモナイザーは兵士のうちの1人が何やらペンダントの様なものを握りしめて死んでいたことに気づいた。
「ん?なんだこれは」
そこに写っていたのは、幼い頃の自分。それと先ほどの兵士がそれを抱いて微笑んでいる様子だった。
その瞬間ドウシヨウモナイザーの頭を猛烈な頭痛が襲った。
フラッシュバックする記憶。それはトニカクツヨーイ達によって消された都合の悪い記憶達だった。
「そんな!俺はなんてことを…父さぁぁん!!!」
そう、今ドウシヨウモナイザーが殺した兵士の中には、昔、体の衰えが隠せなくなり、彼に力を託して前線から退いた先代ドウシヨウモナイザー。つまり少年の父親がいたのだ。
「くそっ!くそぉぉぉ!!!トニカクツヨーイ供め!殺してやるぅぅ!!!!」
ドウシヨウモナイザーにとっては屈辱だが、過去の自分に比べてトニカクツヨーイ達の技術が混じったドウシヨウモナイザーは格段に性能が向上していた。
「見つけたぁぁぁ」
ドウシヨウモナイザーの拳がトニカクツヨーイのうちの1人を捉える。3〜5メートル近く転がった後、ヨロヨロとトニカクツヨーイは立ち上がる。
「ククク、洗脳が解けましたか。うーむ原因は…っそうか!最近現れたレジスタンス!君ぃ!父親を殺したんだな?それで一気にストレスがかかって記憶が戻った!そうだろう?かハヒヒヒヒ!もう遅いわ!馬鹿が!これを見ろ!君の力だぁ!」
そういうとトニカクツヨーイは少年にとって見覚えのある。いや魂に刻まれているほどに共に戦ったあのドライバーが握られていた。
「そうだ!いいことを思いついた。おぉい皆集合だ!」
トニカクツヨーイが叫ぶと他の個体が一つの場所に集まってくる。
「な、何をする気だ?」
「決まってる。これを使ってすることなんてさ」
「「「「変身」」」」
「正義は私達だ」
「嘘だ…く、来るな!うわぁぁぁ!!!!!!!」
そうして少年が最期に見たものは5674体のドウシヨウモナイザー。人類の希望が群体をなして襲いくる光景だった。
彼は死にました。救いはありません。