TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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まずはちょっとした過去から書くのがTS好きの嗜み。
基本原作沿い。劇場版マシマシなのも最近のスタンダードだよね。


無印
第一話 TS転移! 私名無しのナシコちゃん


 

 

『ドラゴンボールを七つ揃えし者よ、どんな願いも三つだけ叶えてやろう』

 

 不意に響き渡った声。

 見上げれば、真っ暗闇に浮かび上がる神々しい東洋龍の姿があった。

 ゆるゆると動き続ける真っ赤な体を持つその龍は、俺の眼前で口を開閉させた。

 

『さあ、願いを言うがいい』

 

 …………????

 

 願いを言え、と突然言われても、頭の中真っ白でなんにも思い浮かばない。

 というか目の前にいるのはあの名作"ドラゴンボール"の"神龍(シェンロン)"……だよな? なんか赤いけど。赤い神龍……見覚えはあるんだけど、いつ出てきたやつだったかな。

 

 じゃなくて、えっと、願い、願い……なんかあった気がするんだけど、ああくそ、こんな急に思い出せるかよ!

 

 普段から『もし突然願いが叶うとしたら』とふざけて、でも真剣に考えていた願い……七億円欲しいとか? いや、そんな俗物的な事神龍に願っていいのか!?

 

 神龍だぞ神龍、神の龍やぞ。

 なんと美しい姿か……。

 そのお姿に俺の汚い欲望などあっさり浄化されてしまった。

 そして残ったのは、このドラゴンワールドに相応しい願いがたった一つだけ。

 

 

 ゆっくりと両腕を挙げる。

 手の平は天に。

 この体の全てを捧げるように、全身を使って願いを叫ぶ。

 

 

 

「このフリーザを不老不死にしろぉおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 全力発声。

 喉がビリビリ震えて鉄の味が口の中に広がるくらい、本気の本気で叫んだ願いに、神龍は。

 

『無理だ。お前は"フリーザ"という者ではない』

「あっはい」

 

 至極当たり前の事を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢だけど、夢じゃなかった……」

 

 気が付くと俺は石像になっていた。

 文字通りの意味である。なんか動けんしまばたきもできないんだが……何これ? と考えていると、なんとなく自分の現状がじんわり理解できたのだ。

 それでもってなんにもできずにぼうっとしていると、細い山道をえっちらおっちらやってきたお爺さんが、俺の前におだんごを置いて手を合わせるのだ。

 

 なにこれ。

 ていうかいい加減動き出いんだけど……あ、動けそう……動けっ、動けってんだよこのポンコツ!

 むずむずする体の感覚と予感に従っておりゃーっと体を動かせば、ばりーんって感じで石が砕け散り、生身の俺が爆誕した。おじいさんはひっくり返った。……ごめんおじじ。

 

「我は神なり」

 

 ぼーぜんと俺を見ているおじいさんにテキトー言いつつおだんごをいただく。もぐもぐ、うまー。

 ところでここどこ? お山? 振り返ると、小さなお社がある。……祀られてたのか? 俺。

 おじいさんを見ると、どうにも凄い怯えてる。ぎゅーっと目をつぶってぷるぷるしておる。

 うーむ、いろいろ聞きたい事があるんだけど……これ以上脅かすのも悪いし、自分で勝手に把握するとしよう。おじいさんも『消え失せろ! 二度とそのツラ見せるな!』って言ってる気がするしね。こわやこわや。という訳で山へ向かっていざ出発。

 

 

 

 さっきの神龍とのやりとりは、夢じゃなかったっぽい。自分の身体に触れてみれば、もう完全に女の子であった。……うむ。実は俺は、神龍にとんでもねぇお願いを三つもしたのだ。

 それは女の子になること。

 この世で一番かわいい奴になること。

 

 なんでそんな事願ったの? と言われるとあれだけども。

 いや叶うとは思わんじゃん普通。

 

 

「ふぃー。冷たいお水おいしおいし」

 

 川べりにしゃがんで、小さなおててで掬った水を口に運ぶ。喉を通るひんやりとした感覚が超気持ち良い。体中に活力がみなぎるぜ。清流は生水なれど口当たり良し。お腹壊さないか心配だけど、喉の渇きには抗えなんだ。人心地ついたので改めてさわさわと自分の体を探ってみれば、男の時には無かった柔らかな感触がこの胸に。

 神龍のサービスか何かか、何故か着ている黒いタンクトップの布越しにあるのは、小さな手の平で覆い隠せる大平原。

 男の時の俺より小さい(胸板的な意味で)。

 

 素晴らしい。

 これこそ俺が求めていた最強のお山。

 

 うへへとだらしのない笑みを漏らしてしまって、おっと、と口元を拭った。

 一人で勝手に笑ってるなんて、まるで変人じゃないか。俺は普通の人だよ。悪い事とかしたことない。死んだらきっと天国行けるタイプの善人。……善人は自分を善人と言わない? それはまあ、そうね……。

 

 さあ、探索再開。できれば日が暮れる前に人のいる場所に出たいんだけど、お水を求めて山道を外れた結果、まよっちったのよね。アホの所業。でも不思議と危機感は皆無。夢心地なのかもしれない。夢遊の浮世。泡沫の夢。

 

「むねん~むしゅう~」

 

 へたっぴな歌を歌いつつ、その辺で拾ったかっこいい枝を振りつつ道なき道を歩く。

 こんなに空気も美味いから、本気で歌うわよ~。

 

 

 まああんまり能天気すぎてもあれなので、頑張って現状の考察と振り返りもしてみる。

 「なってみてえよ女の子」のノリで神龍にお願いしたらマジでなっちゃった。

 美少女なら人生勝ち組だろうなーとかかわいいかわいいってちやほやされたいなーとか常日頃考えて生きてきたのだ。だから「女の子にしてくれ」と願った。それが叶ったのはまあよしとして、オマケの転移はいったい何事か。

 女の子になるに際して、めちゃくちゃ注文しまくったから神龍怒ったのかなぁ。

 

 「髪の色は黒で」とか「長さは肩甲骨に届くくらいで」とか「瞳は翡翠で」とか「めちゃんこ可愛く」とか「胸は平らで」とか。

 数分に渡る数百もの注文は『願いの数を大きく超えている』という言葉によって止められ、思わず呆然としてしまったものの、なんとか無い頭振り絞って願い事が一つで済むような言葉を捻り出した。

 

『この俺を俺が思い描くとおりの最高の美少女にしろーっ!!』

 

 叫ぶ必要はなかったね。

 

 承知した、と神龍が目を光らせて、たぶんその時にはもう俺の体は今のように少女のものとなっていたのだろう。

 そん時の俺はなんだかとても曖昧な存在だったらしく、自分の体を確認できなかったので実感はわかなかったが。

 

「だがこの俺は違う」

 

 高く澄んだ幼い声が自分から発せられる不思議な感覚に恍惚としながら、肩掛けのバッグに手を突っ込む。

 このバッグは二つ目の願いで手に入れたもの。

 

『その美しさを維持できる道具をおーくれ!』

 

 って言ったらくれた。

 

 いやね、ちょっと考えてみまして。

 せっかく美少女になっても怠け者で面倒くさがりの俺の事、髪やお肌のお手入れなんて早々しそうにない。

 するかもしれないが、絶対にすると断言できるほど俺は俺を信用していなかった。

 ので、それも頼んじゃえーって感じで。

 

 バッグから鏡を取り出して覗いてみれば、ほうれ見てみろ、なんという美少女か!!!

 すっと通った鼻筋、細い眉、穏やかな瞳に小さなお口、そして小顔! しゅごい!! えろい!!!

 ぺろぺろしたい……。

 

 人を最も印象付けると言われる髪は艶やかで、まるで常に濡れているかのような美しさ。

 

 ちょちょいと鏡の位置をずらして自分の体を観察することしばし。……うーむ、好みである。そりゃ自分好みの姿にしてもらったんだから当然なんだが、それにしたってなんかこう、凄いなこれは……。

 

 一言で言えば美少女。あ、だめだ語彙力がたんない。とにかくカワイイとしか言えなんだわ。

 しかしこの姿、もう何しても怒られなさそうだしちやほやされそうだしな無敵感に溢れてオラわくわくしてくっぞ!

 

「ふっ……やったぜ。」

 

 横髪をさらっと手で払って得意げにしてみる。

 さながらスターダストブレイカーを打った後のゴジータのごとく。……これ口に出して言ったらファンにぶん殴られそうだからやっぱなしで。

 

「素晴らしい……ちびっここそ神龍の恵みの究極」

 

 気分よく枝を振りつつ、木漏れ日の差し込む森の中を歩く。

 なぜこんなにも万能感に溢れているのか。

 それはね、俺が最強だからなのだよ。

 俺こそが宇宙一だからなのだよ!

 

「俺が宇宙最強だ!!」

 

 雑クウラ様をしつつ、木陰でちょいと休憩。体のサイズ感への違和感はないものの、なんかさっきからずっと歩きづらいんだよね。靴を脱いで確認したりしても、靴擦れになったりはしてないから、そこら辺の問題ではないみたい。

 まあ、体がガラッと変わったら違和感の一つや二つあるもんだろ。そんな事より、そろそろあれを試してみよう!

 

「ふんっ……!!」

 

 立ち上がり、ぐっと拳を握って、いつしか体の中にあった不思議な熱を引き出す。

 ボウッと噴き出した光は、力強い透明な"気"。

 

『パワー、だ! パワーをくれぇぇぇぇぇ!!!』

 

 それが神龍への三つめの願い。

 世の中ね、顔かお金か暴力なのよ。やはり暴力……! 暴力は全てを解決する……!!

 ほら、願いで女の子になったら無戸籍無一文になるじゃん? そこで最強パワーを持ってれば襲われる心配も無し、大道芸で日銭も稼げると考えた訳ですよ。俺って頭良いね……。

 この身にサイヤ人のような戦闘力があれば、銃弾だって怖くないし、強ければピッコロ大魔王もラディッツもナッパも、あのベジータや、果てはフリーザ様だって敵ではない。

 力というのは良いものだ。

 

「俺は今、究極のパワーを手に入れたのだーっ」

 

 うおーと吠え猛り、意味もなくぶんぶんと枝を振り回して重い風切り音に快感を覚える。見てこれ、気で強化されてるから全然折れないの。……良い感じの枝をもう二本使いして、両手持ち&口にくわえてゾロごっこでもしたくなってきた……。しかし大人としての自制心が戻って来たので、あえなく実行には移さなかった。

 この格好良い一本の枝は手放さないけどね。杖代わりになるし、草木を払うのに使えそうだし、道に迷ったらこいつを倒してその方向に行くとしよう。

 

 

「……うむ?」

 

 えっちらおっちら疲れ知らずの身体で歩いていれば、大きな畑が見えてきた。それでもって、小さな村を発見。

 

 こんにちはー、と声をかけてみれば、あっ、さっきのおじいさんだ。

 ぽかんとしてるおじいさんだけど、なんだか見知った顔(?)に出会えて嬉しくなってしまった俺は、その気持ちのまま彼に近づいた。……人と関わるのが苦手な俺だけども、今はあんまり相手が人間だって実感が無いのでアクティブに動けるのだ。

 

「もし、そこのお方。一晩ひさしをお貸ししてはくださりませんか……」

 

 丁寧に丁寧に頼む俺。どや、これが社会人の礼儀正しさや!

 ところがおじいさん、口を半開きにしたまま無言で立ちすくんでいる。俺が声をかけた瞬間の彼の様子は……こう、『ゾッ』と汗を逆噴かせるような感じだった。

 それでもってひっくり返って動かなくなった。

 おお。あまりの俺の美少女っぷりに限界化してしまったらしい。

 なんと罪な俺……と酔いつつ素早く息を確認し脈をはかり……大丈夫、気絶してるだけだ。最近講習受けたのが役にたったな。いや気絶って結構やばくない?

 診ている間に気付いたけど、俺まだ光ビカビカやってるまんまだったわ。気が高まる……溢れる! なるほど、ハイテンションの理由はこれかー! えーと、気を消す、気を消す……ふっ。……うわあ、急に落ち着くなぁ。

 

 それでもって俺のせいで倒れてしまったおじいさんを手で扇いで風を送りつつ様子を見る。

 とかやってるうちに起きたおじいさんは、最初はびびっていたものの、見違えたようにコミュ障を発揮して縮こまる俺に驚き、「泊めてくだしゃい」と泣きついたのを思い出してくれたのか、家に入れてくれた。ありがてぇ……感謝!

 

 卑しくも握り飯を食わせてもらいつつ話を聞くに、西の都だのホイポイカプセルだの、まさしくここがDBワールドであるのがうかがい知れる単語の数々。おじいさんが重度のDBオタクでないのなら、俺は森に転移しただけでなく、DBワールドに来てしまったらしいな。

 

 

 パワー頼んどいてよかった……てっきり現代でやりなおせると思ってたよ。

 とはいえ、来てしまったものは仕方ない。意識を切り替えて新しい人生を楽しもう!

 

「はっは、元気なおなごじゃの。よいよい、好きなだけ泊まっていけ」

 

 おじいさん、優しい。ほろり……。

 オラなんだかすんげぇ恩返ししたくなってきたぞ!

 

「ぁ……ぇへ……」

 

 まあコミュ障なんで意思表示なんかできませんけどね。

 その代わり、その後の畑仕事を凄いパワーでえいやっと手伝ったり……手で掘りまくったり……。

 おじいさんのお野菜をふもとの町まで運んで売るのを手伝ったり……。

 なんかえらい亀仙流の修行みたいになってるけど、恩返しだからね、これ。

 

「神様の御使いかのう……」

 

 なーんか勘違いされてる気がするけど、勘違いさせるような事言ったっけ? 記憶にございません。……なに、石ばりーんして出てきた時点でおかしいって? 僕もそう思います。

 

 

 

 

 それから、あっという間に20年の月日が流れ……。

 

 ボォリボォリ。

 ちゃぶ台に頬杖ついて昼ドラ見ながら食べる海苔巻き煎餅はなんて美味なんだ。緑茶がすすむね。うめぇ。

 

「ズズズー……ふはー」

 

 口の中のものをお茶で流し込んだ俺は、熱い息を吐き出してごろんと仰向けになった。

 ずっしり重い塊が胸の上で動く感覚に、長い足を曲げてぽりぽりともう片方の足を掻く。

 ちょっと頭を動かせば、腰まで届くほどに伸びた髪の毛が体の下敷きになっていて頭皮が痛んだ。

 

「あー……何やってんだろう、俺」

 

 重い溜め息とともに独り言ちたって、現状はなんにも変わらない。

 

 

 

 ここは都から少し離れた山奥の小さな家。今の俺の居城。

 ほら、俺、人苦手だからさ……都会に行ったは良いものの肌にあわなかったと言いますか。だから人気のないお山に家を建てたのね。凄いのね、快適なのね~。虫対策も都のよくわかんにゃい機械でらくちんだし。

 

 それでもって、俺は現在、だいたい三十数歳の大人の女に成長していた。

 ……そう、成長してしまっていたのだ。

 

 腕をついて体を起こせば、古くも真新しいブラウン管テレビの画面に俺の姿が映った。

 見事に成長してクールな美人さんになってしまったお顔。成長に成長を重ねて牛のようになってしまったお乳。そしてちょっとだらしない肉のついたお腹。

 

「どうしてこうなるかなぁ」

 

 俺がどういう思いで神龍に美少女にしてくれと頼んだのか貴様にはわかるまい。

 俺は……スーパーロリータだ。

 いわばロリコンのエリートだったんだ。

 つまり俺が望んでいたのは、永劫変わらないエターナルロリ!

 

「だのに!」

 

 なんだこの大人のお姉さんは!

 違うだろ! これじゃない!

 俺が求めてたのと違う!

 

 ……と嘆いても、みっともないだけなのでやめておく。

 画面の向こうの女性は困ったように溜め息を吐いて幸せを放出した。

 

 

 

 

 この体たらくをどうしてくれようか。いやどうしようもないのだけども。

 

 修行代わりにしていた畑仕事もしなくなって、ぐうたら三昧の日々。かつては一度山を下り、ふもとの町よりももっと先、大きな街へ向かったんだけどね。

 

 一宿一飯の恩をおじいさんに返し、意気揚々と新しく生活の基盤を固めようと思ったのだ。力はあるから、身元を問われない力仕事関係から始めようかなーみたいな。おじいさんとこの畑弄りで力加減も覚えたしね。オデ、もうクレーター作らない……ちゃんと手加減できる……。

 てなわけで元気全開でお仕事を開始し、見た目にそぐわないパワーに驚かれたり褒められたりして舞い上がっていた俺は、絶望のどん底に叩き落された。ていうか実は随分前から人生に絶望してた。

 

 きっかけは生理である。女の子の日とも言われるあれ。

 生き物なら、そして健常な女の子なら当然訪れるモノ。

 だが俺は、外見年齢で言えば8歳か9歳くらい――それが転移当初の姿――で、くるにしてもまだちょっと早いんじゃないか、いやそもそも来るはずがない、なんて焦っていた。

 

 俺は自分が不老不死であると、なぜか信じて疑っていなかったのだ。

 

 きっとそれは、一番初めに神龍にお願いしたフリーザがどうのこうのが原因だろう。

 いつの間にか俺の中であれは受理された願いになっていた。しかも『フリーザ』の部分は『俺』に変換されて。

 なぜそんな都合の良い記憶の改変をしてしまったのか。アホでごめん。おじいさんもびっくりしてたね。

 

 言い訳をするなら、毎日毎日自分の美しさを確認するために鏡を覗き込んでいたから、些細な変化に気付けなかった。

 成長する自分の体に気付いた時には全身から血の気が引いて、立ち眩みに負けて倒れてしまった程ショックで……。

 

 すぐには立ち直れなかったんだよね。我ながら面倒くさい性格だが……。

 楽しんでいた筋トレも、トレーニングも、全部が無意味に思えてしまったりとメンヘラぶりを発揮し、時間がそれを洗い流し、都での新生活でナイーヴになり、メンヘラが再発し……。

 ロリボディを維持できるようお願いする発想が無かった俺の姿はお笑いだったぜ。

 

 くそっくそっ。

 

 ドラゴンボールの物語を子供の姿を活かして無邪気に追う作戦も、自らの永遠のアイドルになるという俺の計画も、何もかもおしまいだ。

 

 取り敢えず仕事をする事でいったん何も考えないようにして、しかし否応なしに体は成長していって、背が伸び、体つきが変わると周りの視線も変わってきて。

 

 いや結構きついよそういう目で見られるの。

 俺は自分カワイイできればそれでいいの!

 

 そういう視線を想定してなかったのかと問われると、まあ全然考えてなかったって言うか。

 俺が想定していたのはずーっと小さいままの俺が、「かわいい~!」とか「お人形さんみたいね!」とか、欲望抜きにちやほやされる事で……こんな現実的な感情を向けられるのはお断りだった。

 

 ので、仕事をやめて引きこもり生活始めました。

 

 いや、最初はね? 別の仕事探そうと思ったんだよ。

 でも事務職とかさ、経歴無しの俺には厳しかったし……それにね。

 もう充分地に足がついた生活はできてたんだから、そろそろ原作キャラを一目見に行こうと思って西の都に行ったら……いなかったんだ、ブルマが。

 

 ……ブリーフ博士とかはいたんだけど(わりと簡単に会えたから、もっと早く会いに来てれば良かったな、なんて思ってしまった)、肝心のブルマは生まれてすらいなかったのだ。

 

 歴史が違う、とかではない。

 単純に時代が違ったのだ。

 

 つまり俺は、原作よりだいぶん昔に現れてしまったらしくって。

 

 この世界の暦は『エイジ』という言葉で表される。

 ……さすがにわからんて。覚えてないって細かい年表は。

 だから俺が気付けなかったのは仕方のない話で……。

 

 しかし期待していた俺の心は滅多打ちで、「うちで働いてもいーよ」って言ってくれたブリーフ博士には悪いけど、辞退させていただいて、家に帰るその足でそのまま都を出た。

 

 ショックだった。

 俺がいるのが悟空達と同じ時代じゃないんだってのもそうだけど、それらを知らずに期待だけ膨らませて生きてた自分があほらしすぎて、もうなんとも言えなかった。

 それと、もしブルマに会えたらドラゴンレーダー貸して貰おうと思ってたのもショックの一因。

 

 成長してしまったなら、ドラゴンボールで若さを取り戻せばいいやって、長い時間をかけて見つけた答えが無意味になったのは、俺を無気力にさせるには十分だった。

 

「ん゛あ゛ー」

 

 そんな訳で妖怪ぐーたら女に変貌した俺は、貯金を消費しつつ日々食っちゃ寝して戦闘力を衰えさせているのでした、まる。

 さすがに危機感だとかもったいない精神はあるから筋トレとかはしてるんだけどね。邪魔なお胸を感じるたびにメンヘラになる。なった。

 

 ドラゴンボールの物語が始まるまでに自分はどれくらい老けてしまうんだろうかとか、そんな姿で彼らの前に現れたくないなぁとか思ってしまって、そうなると世界の情勢をチェックして原作開始を待つ、みたいな事をする気にもなれなくて。

 

 最近の日課はもっぱらアンチエイジング。

 神龍から貰った謹製のお櫛となんかよくわからない液体の数々があれば美を保つのは簡単で日課と言えるほどではないかもしれない。

 こんな簡単にケアしてるのを世の女性達に知られたら刺し殺されそうだな、なんて。

 この道具達は死守せねば。

 

「あーあ、向こうからやってきてくんないかなぁ」

 

 凄い受け身な事を呟きつつぐーたらする。

 寿命くる前に原作始まってくれないと困るよー。

 良い事した訳でもないから、死んだら肉体貰えなさそうだしさ。

 

 延命しようとドラゴンボール探すのはめんど……手掛かりすらないし、原作を変えたくないからできないしで、八方塞がりって感じ。

 あーあ。はやく原作が見たいなぁ。

 

「今日もお茶がうまーい」

 

 ズズズー。ボォリボォリ。

 はーぐーたらどっこいしょ。

 

 ……もう美少女って言えないな、これ。




TIPS
・主人公
DBワールドに転移したコミュ障TSロリ改め、TSお姉さん
当初は小さなお社の前に佇む石像としてひそかに祀られていたらしい
本人はそんなのすっかり忘れている
戦闘力は100万

・おじいさん
性格の良いタイプのおじじ
彼の握り飯は天下一品とナシコの中でもっぱらのうわさ
一人寂しい生活の一時の花に、†神に感謝†するなどした

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