「こんにちはカリン様」
「またお主か」
「仙豆ください」
「第一声がそれか」
「ここが頂上か……」
「あ、こいつはペットのラディッツ」
「雑な紹介じゃなあ……ヒエッ!?」
やってきましたカリン塔。
ラディッツには身一つで登ってくるように言いつけ、俺は舞空術で一足先にやってきたのだが、さすがのスピードでラディッツはすぐにやってきた。
ので、会話が雑な感じに。
「お、お主、そ、そいつは……!」
「ペットです。ねー?」
「…………」
「めちゃくちゃ不満そうにしとるじゃないか!」
戦慄するカリン様を安心させようとおどけた紹介をすれば、ノリが悪いラディッツは挨拶一つしやしない。
そんな態度をとると尻尾にぎにぎしちゃうぞー。
にぎにぎ。
「ッ! ……フン」
「あれっ? おかしいなあ、なんでフニャッツにならないの?」
いつもならふにゃふにゃ~っと脱力してヤメロォと嘆願してくるのに、今日に限って尻尾を握っても全然堪えてないみたい。なんでなんでー?
「馬鹿め、貴様が馬鹿力でしょっちゅう握り締めるからいい加減鍛えられたわ」
「えっ、そんなぁ!? じゃあこれからずーっとフニャッツは見られないってこと!?」
「ええい鬱陶しい、纏わりつくんじゃない! フニャッツとかみょうちくりんな名前で呼ぶな!!」
えーん、ラディッツが尻尾を克服してしまったせいで遊びが一つ減っちゃったよう。
くそう、もっともっとにぎにぎしてやれば良かった。
にぎにぎ。
ああっ、手を払われた! 乙女のか弱い手をなんて雑に振り払うんだこいつは。
ああー手が痛いなー、ラディッツに叩かれた手がすっごく痛いなー。
フニャッツを見れば治るかもしれないなー?
わざとらしく手をすりすりしながら隣に立つラディッツを上目遣いで見上げるも、なんと無視である。こ、こいつ……。一目もくれないとは良い度胸じゃないか。
「遊んどるところ悪いが、仙豆はそうポンポンやれるもんじゃない。帰ってくれ」
どう料理してやろうかな、と考えていたら、カリン様に邪険にされてしまった。
ならば奥の手を使うしかないな。
「えー、いいじゃないですかぁちょっとくらい」
「ぶりっこなぞ通用するか。ヒッ、速い!」
むむっ、俺のアイドル力にびくともしやしねぇ。カリン様、おめぇほんとつぇえなあ(マスコット的な意味で)。
しょうがない、実力行使だ、と背後をとり、胸に抱いてモフモフする。
お猫様ゲットだぜ。
「やめんか!」
「あてっ」
調子に乗ってたら杖で頭叩かれた。いったーい……。
いくら戦闘力が高かろうと、気を抜いてたら痛いもんは痛いのだ。
その自慢のモフモフで俺を癒させ、無力化してから殴るとは……カリン様、おめぇほんとつえぇなあ。
「して、ここに何しに来た」
「あ、わかります? 目的が仙豆だけじゃないってこと」
「当たり前じゃ。……が、わかるのは何か別の目的がある、という事だけじゃ」
うんうん、はっきり俺が思い浮かべている言葉や記憶は読めないんだよね。
前回来た時は結構ビビりながらの相対だったけれど、それがわかってしまえばこっちのもんよ。
「今日は超神水に挑戦しに来まして」
「ほう、あの超神水にか」
「ええ、彼が飲みます」
とラディッツの後ろに回り込んで背を押し出せば、腕を組んで素知らぬ顔をしていたラディッツはつんのめってカリン様の前に出た。
そんな不満気な顔で俺を見たって、尻尾を克服してしまったのは許しませんよーだ。
帰ったら排球拳の練習するかんね。お前ボールな。
「ほう……お主、ラディッツとか言ったな」
「……ああ」
「ふぅむ……ううむ……むむむ……めちゃくちゃ邪悪な感じがするのう」
「ええっ、そんなまっさかぁ」
ラディッツを眺めて唸りだしたカリン様があんまりにもおかしな事を言い出すもんだから、思わず笑ってしまった。
いや、たしかにラディッツはまだまだ悪人だと思うよ? 一応俺の言う事は聞くし、悪い事もしてないけど、改心した! って訳ではないし。
……邪悪な感じかあ。どんなもんなんだろうね、実際のところ。
待っていろ、と言ってカリン様がふわふわ飛んでいくのを見送り、ラディッツの背を眺める。
いつも通りの腕組みポーズ。今日はジャンパーにジーンズといった出で立ち。コーディネイトはもちろん俺。
お茶汲んだりお掃除したり洗濯物畳んだりしてるラディッツを毎日見てるから、全然邪悪って感じしないんだけどなあ。
あ、頭にくるぜ……戦いが大好きで紅茶淹れるのが上手いサイヤ人なんてよ……!
でも料理は壊滅的に駄目だったから、我が家は今日もコンビニ弁当である。
「ほれ、これが超神水じゃ」
微動だにしないラディッツを眺めること数分、カリン様が杖に水差しみたいなのを引っ掛けて戻って来た。
あれが劇薬の超神水かー……うーん、やっぱり俺は飲みたくないな。毒だもんね。やだやだ、苦しむアイドルなんて誰も望んじゃいませんよ。
「よいか、これを飲み、数多もの戦士が命を落としていった。引き返すなら今じゃ」
「……おい、聞いてないぞ」
「言ってないもん」
飲んだら死ぬよ、と言われてラディッツは「えっ」と顔を上げた。それから俺を睨んでぶつくさ言うので、親指を立てて見せる。
でぇじょうぶだ、サイヤボディなら耐えられるでしょ。
「これに耐えきる事が出来れば、お主の内に眠るパワーが解放される事じゃろう」
「だってさ。ほら飲んで、さあ飲んで」
「待て! ……待て、本当に飲むのか?」
何を躊躇してる。手っ取り早くパワーアップするには良い方法だからここに連れて来たんだぞ。俺はやんないけど。俺はやんないけど!
「ラディッツのー、ちょっと良いとこ見てみたい! ほーれいっき、いっき!」
「お主も苦労しとるようじゃの……」
「……ちぃっ」
こぽこぽと湯呑みに墨汁のような毒々しい液体を注ぎ、ラディッツに手渡すカリン様。
ラディッツは数秒湯呑みの中身を見下ろしていたが、そのままでいても俺にどやされるだけだってのはわかっていたのだろう、一気に口をつけて飲み干した。
「がっ……!?」
その手から湯呑みが落ち、床で砕ける。
喉を押さえたラディッツが声なき声を発しながら床をのたうち回るのを、俺は端の手すりに背を預けて眺める事にした。
「うーむ、あの恐ろしい男をここまで手玉に取るとは……やはりお主もただ者ではないな」
「そりゃそうですよ。アイドルなんで」
「アイドル……アイドル?」
え、何その疑問形。
カリン様アイドル知らないのかなあ。
まさか、俺をアイドルとは思えない~、みたいなこと考えてたりしない?
それこそまさかだよね。この宇宙のどこを見たって俺よりアイドルに相応しい女の子はいないよ。
「………………」
「あ、ラディッツが死んだ」
スイーツ(笑)
じゃないよ。まさか死んでしまうとは。
しょうがないにゃあ……。
「がはっ!?」
「俺の気を以下略、後は勝手にしろ」
「ぐ、ぐぐ……ぎ、ぎざま……!」
「もう少し耐えれば超パワーが手に入るんだから、ほーらがんばれ♡ がんばれ♡」
この俺の全力の応援の甲斐あってか、三時間後にラディッツはふっと表情を緩めて立ち上がった。
そして自分の両手を見て、何度か開閉させると、呆然とした顔を俺に向けた。
「か、格段にパワーが上がっているのがわかるぞ……! ほ、本当にパワーアップするのか」
「え、なに、疑ってたの? さすがにそういう嘘ついてまで苛めたりしないよ?」
「貴様、つい三日前に「お砂糖たっぷりの愛情ミルクティーだよ」とか言いながら大量の塩を入れた紅茶を俺に飲ませた事、忘れたとは言わせんぞぉ!」
「あれはほんとに間違っちゃったんだってば。しつこいなぁ」
もう、三日も昔の事を掘り出すなんて女々しい男だ。
せっかく俺が自ら紅茶を入れてやったってのに。
ラディッツだって「ありがとう」って受け取ったでしょ?
……まあ、うっかりやらかしちゃったのは悪かったと思ってるけどさ。
「こ、これなら間違いなくナッパの野郎をやれる! ふはははは! 感謝するぞナシコ!」
「うんうん、どういたしまして。カリン様にもありがとうって言おうね?」
「はっはっは、お安い御用だ! おいそこの、感謝するぞ。この俺のパワーを、よくぞ引き出した!」
「う、うーむ……恐ろしいのお。ああいや、パワーを引き出したのは、お主自身の精神力じゃ。そこは勘違いせんようにな」
カリン様に、自分の力で戦闘力を上げられたのだと聞かされたラディッツは、それまでも笑っていたんだけど、それ以上に嬉しそうな笑顔を浮かべて俺の前へ来た。
「ここにまだ何か用があるか? ないならさっさと帰って修行するぞ!」
「ふふっ、やる気十分で結構。なら帰るか。カリン様、今日はどうもありがとうございました」
「ほっほっほ」
なんかカリン様から笑って乗り切れオーラを感じる。
じゃあ、お暇するとしよう。
早く帰ってラディッツをボールにしなきゃだしね。
◆
「ナシコー、来たわよー!」
地面に生えているラディッツを引き抜こうとしている時にブルマさんがやってきた。
そいえば連絡がきてたっけ──ブルマさんが俺用に一方的に用事を入れられる連絡装置を作ってくれたのだ。返事しなくていいって素敵──。いけない、ラディッツに促されるまま帰って来といてよかった。
映画行く予定はキャンセルだな。来週にしよう。
「はいはーい、今行きまーす!」
コミュ障でも相手の姿が見えないならこんな感じに元気にお返事ができたりする。えっへん。
大急ぎでぱたぱたと正面玄関の方へ移動する。あー、ラディッツは……まあほっといても死なんだろう。
「ぶ、ブルマさん。……おはよ、ございます」
「おはよー。あら? あんた随分汚れてるわね。土いじりでもしてた?」
俺を見つけると、浮いてるスクーターから下りて近付いてくるブルマさんに、いつも通りたじたじな対応の俺。姿が見えた途端にこれである。コミュ障ってそういう生き物なの。
「い、いえ、あの」
「はいはい、じゃあ設置場所に行きましょうか」
「は、はいっ」
最近ブルマさんが俺と話す時の、変に急な話題転換だとかが俺専用の話術なのだと気がついた。
頻繁にどもる俺の話すスピードにいちいち付き合ってられないのだろう、向こうからさっさと話を進めたり、違う話題を振ってくれたりするのは、大変ありがたい事だったりする。
「……妙なオブジェ植えてんのねー」
「あっ、やだ、すみませ……」
ちょうど設置場所に選んでいた平地は俺とラディッツが修行場所に使っていたところで、つまりはまだラディッツが犬神家ごっこをしていた。
あーもう、恥ずかしいなあ。なんて格好してるんだよ。やったのは俺だけど。
急いでラディッツを引き抜いて森の方へ放り捨て、ごめんなさいねーおほほーと誤魔化せば、さすがブルマさんというべきか、あんまり気にしてないご様子。
「じゃあ投げるわよー。離れてー」
言われた通り遠巻きに眺めていれば、ブルマさんは手にしたカプセルをぽいっと投げた。
するとあら不思議、ドーム状の建物が山の中に現れたじゃないか!
科学の力ってスゲー。
「はい、おしまい。それで、この後はどうするの?」
「あ、あの、ラディッツくんと……修行、しようかなって、思ってます」
「ふぅん……修行ねぇ。たまにはショッピングでもいかない? あんたに似合いそうな服みかけたのよー」
「えっ……あ、はいっ、行きます、行きます!」
ううー、設置してもらった重力室を試してみたいけど、まさかブルマさんのお誘いを断る訳にはいくまい。なくなく出かける準備をして、その日は一日ブルマさんとデートをした。
……結構楽しかった。
TIPS
・ブルマ
最近ちょっと、女の子もいいかなーと思い始めている
・神様
時折真下から凄まじいパワーを感じるのだが……
危機感を抱き、下界を覗いてみると、その出所は人畜無害そうな少女ではないか
悪の心もなさそうだ、と緊張が緩んだその一瞬、それが神の最期だった
パーフェクトスマイルとウィンクチャームに貫かれ、哀れ名もなきナメック星人……!
ここにただ一匹の囚人と化す……!!
・ミスター・ポポ
神様、最近なんか変。
ずーっと下界覗いてる。
時々光る棒振っている。
神様、最近なんか変。
・ピッコロ
近頃、心臓が破裂するかのような錯覚を覚える事が多くなった
ウイルス性の心臓病かな