うげぇってなる人いるかも
第十四話 誕生! 人造人間500号!!
燃え尽き症候群にかかった。
俺ではなくラディッツが、の話だけど。
なんか、弟さんの成長に色々と馬鹿らしくなって、ついでにナッパを倒せたからやる気が無くなっちゃったんだとさ。
そんなぐちゃーって腑抜けてられたら一人暮らしとなんも変わんないんですけど。
うー。
むー。
……んな事はどうでもいいから洗濯物畳んでよ。というか、お前が動かなかったら誰が家事やるんだ、誰が。
ほら動け、やれ動け、それ動け。
そんな感じでせっついてたら、いつの間にかいつものラディッツに戻っていたので結果オーライかな? うん。よかったよかった。
ついでに俺がドヤ顔で「一緒に戦うぜベイベー!」って言ってたのも忘れてくれててオーラオーライ。
いやね、俺ね、アイドルの時ちょっと頭変になっちゃうんだよ。こう、記憶というか考え方ががらっと変わるというか。
それさえなければすぱっと飛び込めたんだけどなあ俺もなあ。こればっかりはコントロールできず申し訳ないというか……。
はあ……。
ちなみに俺はあの戦いの後、全速力で会場に戻って、結局アンコールに応えて歌う事になった。
離れていた時間は二十分もなかったけれど、お客さんの熱が冷めるには十分だったはずだ。
なのに俺を待ってくれていた事を凄く嬉しく思う。
フェスが終わって家に戻った後は、知らぬ間に原作通りにみんな死んじゃっていた事になんとも言えない脱力感を覚えて食事も喉を通らなかったけど、みんな甦るんだって知ってるからすぐ立ち直れた。
けど、俺が人死にを知ってて見ない振りをした事には変わりはなく、その点への罪悪感は拭いきれない。
だからその償いとして、俺も彼らの復活に協力してあげたいと思った。あげたいっていうか……しなくちゃ。
それはつまり、彼らとともにナメック星へ行くって事なんだけど……その間アイドル稼業はどうするのよ、って話になってしまう。
いくら最強無敵のナシコちゃんといえども二人にわかれたりはできないので、ナメック星に赴いている間はお仕事ができなくなってしまう。それは困るけど、ナメック星に行かないって訳にもいかないし……。
誰か俺の代わりがいればいいのになあとタニシさんに話を振ってみたが、俺の代わりが務まるような子は他にいないって言われてしまった。
まあ、うん。
俺がスーパーアイドルであるとか関係なしに、ナシコの代わりは他にはいナシコって訳で。
あはは。
……はあ。
というか、最強とか自称しちゃったけど、今の俺の戦闘力じゃフリーザ様には勝てない気がする。
第一形態ならともかく、最終形態とか絶対ムリゲーだよ。死にに行くようなもんだよ。
圧倒的に力量不足で、しかも俺は地球人なのでサイヤ人みたいに急激に力を伸ばしたりはできない。
それもまた不安の一つだ。
はあ……。神龍に「サイヤ人にしてくれ」って頼むべきだったなあ。
そこら辺、ほんと抜けてるよね、俺って。……ひょっとして凄くあほなのでは?
んな訳ないか。
◆
冬の風が染みる今日この頃。
寒いねー、寒いねーとラディッツに纏わりついていたら、俺の代わりになれそうなアイドルを見つけた。
「じゃあん、じゃあん、紹介します! じゃららららら」
「なんだそのテンションは……とうとう頭がパーになったのか?」
「は? な、なんでそんな事言うの……悲しいよ、しくしく」
「なっ、お、おい泣くな!?」
現在地はブルマさんの家、ブリーフ博士のところ。
奥の大きな機械を弄っている博士を眺めながらドラムロールを口ずさんでいたら、ラディッツに正気を疑われたのでめそめそしてみた。
……慌ててやがる。ざまあ。
ぺろっと舌を突き出せば目を丸くするのが面白い。
「ちっ、嘘泣きか……!」
「ラディッツってば、単純な手に引っかかりすぎ~」
最近はこういう時に怒ってみせてもツーンとしちゃって、ラディッツも生意気になってきたなーと思ってたけれど、なんてことはない。ちょっと女の子らしくするとタジタジだ。アイドルモードの俺が苦手らしいので、普段の俺がそういう素振りを見せればこの通り、あっさり引っ掛かりやがって。
うひひ、もっといじめちゃおーかな?
「よし、起動するぞい」
「待ってました!」
おっと、博士の準備ができたみたいだ。ぱちぱち手を打って歓声を上げる俺の横で、ラディッツが不満気な息を吐き出して腕を組んだ。
「スイッチ~、オンっと」
ブリーフ博士が手元の台のボタンを押せば、大きな機械……壁に立てかけられた縦長の棺桶みたいなのの蓋が開き、冷気の靄が室内に流れ出す。
その中に見える小柄な影。
輝く金の髪は肩で切り揃えられ、頭の後ろで一つ縛りにしたポニーテイル。
閉じられていた瞳が開けば、俺と同じ翡翠色の輝きがきらりと光り、しゅっとした高めの鼻の下にある、小さなお口が悪者みたいにニヤッと笑う。
ボディは俺の要望でキュッキュッキュッのハイパー素敵使用、見た目年齢は七歳から八歳、白いシャツと黒いスカートがシンプルながらによーく似合う。戦闘力は二十万二千と飛んで六!
「うわーい、新しいアイドルの誕生だあ!」
テンション高めに両腕を上げて万歳すれば、俺達の前に立った人造の少女は腕を組んで一つ頷くと、俺を見上げてちいちゃなお口を開いた。
「この世で一番強い体……確かにいただいた」
おおお、まさしく奇跡の声!
澄んだ高い声は一点の淀みもない可愛らしいロリヴォイス。
はあはあ……脳みそ蕩けそう。おっとよだれが、えへへ。
「うんうん。これで正式に君は俺の家族になると言う訳だ」
「よろしくお願いする……娘よ」
見た目にそぐわない老成した雰囲気を纏う少女は、伝説のアイドルに似せたボディを動かして、シェイクハンドを求めて来た。
その手をしっかり握り返し、そりゃもう両手でにーぎにーぎしてにっこり笑いかける。
「こちらこそ、末永いお付き合いを。Dr.ウィロー……いや、ろーちゃん」
「…………」
俺が考えに考え抜いて付けてあげた名前を呼ぶと、ろーちゃんは露骨に嫌そうな顔をして、壁際の方へ視線を移した。
そっちにはウィローの復活に咽び泣く鬱陶しい老人……Dr.コーチンがいて、ろーちゃんはそっと溜め息を吐いた。
◆
それは、遡る事3日前。
11月7日、午前8時くらいの事。
早朝のランニングを終えてひとっ風呂浴びて、ラフな格好で休暇を楽しんでいた俺は、なんだか邪悪な気を感じるなあ、と気が付いて、料理に失敗して卵焼きを炭の塊にしていたラディッツの手を引っ掴み、世界の果て近く、永久凍土はツルマイツブリの山へとやってきたのであった。
それで、邪悪な気の出所はどこよと上空から探してみれば、何やら凍土を削って自然破壊に勤しむ老人と複数のヘンテコ生物の姿があった。
「おはようございまぁーす。何してらっしゃるんですかー?」
とお声を掛けさせていただけば、ぎょっとした老人は白い息を吐き散らして、ヘンテコ達をけしかけてきた。
そんな雑魚はラディッツが一蹴してくれました。レディを守るなんて偉い! あとでご褒美に焼肉連れて行ってあげよう。それから映画行って、そのあとお買い物ね。ディナーは北の都の有名なレストランにしようかなー。
と暢気してたら、ラディッツの放ったかめはめ波で永久凍土が爆散した。
「……なんと脆い」
お前……やっぱおでかけじゃなくて修行にしようか。激突ウルトラブウブウバレーボールの練習でもしようかな。お前ボールな。
やっぱり? って顔しても許してあげないからね。
『ワシを目覚めさせたのは誰だ……』
「お、おお……! Dr.ウィロー! わたしです! コーチンです!!」
『ほお……我が同志コーチンか』
崩れゆく氷の中には不気味な形をした建物があり、その中からどでかい機械の怪物が飛び出してきた。
おお、見た事あるぞこいつ。ウィロー……ははあ、あんまりゲームじゃ見かけないドクターウィローか。
丸みを帯びたボディから生える楕円の体と細い四肢。両腕の先は蟹のハサミみたいになっていて、たしかこいつ……悟空さんの界王拳を跳ね返し、かめはめ波をものともしないくらい強いんだっけ?
映画は原作と同じ事をやるの法則に則って考えるに、こいつの戦闘力は一万八千前後かな。3倍界王拳あたりを跳ね返せるあたり、もっと上……3万か4万くらい?
ラディッツには荷が勝ちすぎちゃうなーこりゃ。
『どれ程の間眠っていたかは知らぬが、今こそ我らが科学力で、この頭脳を理解しようとせず葬り去った愚かな人間どもに復讐を――』
ていうか、寒い! 今さらながらにめっちゃ寒い!!
一面の雪景色と、氷でできたお山達に、ここをライブのステージにするのも素敵だなーと思ってたけど……無理無理!!
せめてPV撮るくらいしかできないね! って訳で、ボシュッと気を纏って冷気をガード。
『!!!』
おっと、あんまりいきなり気を高めたから余波でラディッツ吹っ飛ばしちゃった。ごぬんね。
あのおじいさんは……うん、ちょっと雪に埋もれてるけど大丈夫そう。
それで、Dr.ウィローといえば、うーむ。球体上部の分厚いガラス越しに見える脳からはなんの感情もうかがえない。
ただ、斜めに引かれたボディと腕の広がる角度からして、慄いてるっぽい感じ?
『娘よ……なんだ、その凄まじい力は』
「暖房」
『……どういう事だ。暖房……機械の力だと言うのか?』
まだ寒いのが収まってないから喋るのもおっくうで、端的に話したら何やら一人でぶつぶつ言い始めた。やだ、ボケてんのかな。
『今の科学力はそれほどまでに発達しているというのか? それならば、我が頭脳も活かせるやもしれぬ』
「惑わされる事はありませんぞ、Dr.ウィロー! そのような高度な科学力、この世に存在しませぬ!」
『それはまことか、コーチンよ』
「ははぁっ。わたしがこの目で、人間の進歩を見届けて参りました! 人間はまだ、我々のレベルとは程遠い……!」
『そうか……ならばやはり、復讐を』
「おお! 愚かな人間どもに復讐を!!」
うーん。なんか勝手に話が進んでるなあ。
この俺が、いずれ銀河の覇者となる真のアイドルのこの俺が目の前にいるというのに、こいつらは爺さん同士でわいのわいのと盛り上がってやがる。
……ちょーっと、気に入らないな。
「ねえねえ、ウィローさん?」
『娘よ。お前のその強い体、ワシが貰い受ける』
「ないわー。そんな変態的な事しようとしたら有無を言わさず宇宙の塵にしちゃうぞ」
こっちが優しく話しかけてあげたってのに、無礼な口をきくなあ。俺がビルス様だったらもう破壊してるよ。俺は寛大だからしないけどね。俺はね。
「くっ、やはり地球は化け物揃いか……!」
「あ、お帰りラディッツ」
「ナシコよ、奴はとんでもない力を持っているぞ……!」
うん。わかってるから、そんな戦慄しなくてもいいからね?
俺だって気を感じるくらいできるんだから、相手と自分の力量差くらい読み取れる。
……てんでよわっちい。そう感じてるよ。
「で、ウィローさん。たしか、その体……醜い体に代わる新しいボディが欲しいんだっけ?」
『……そうだ。ワシは再び人の肉体を得る。そのためにこの世で一番強いヤツの体が必要なのじゃ』
「ふうん? ……別に探す必要はなくない?」
「何を! Dr.ウィロー、そやつの言葉に耳を貸す必要はありませんぞ!」
む、お爺さんうるさいな。俺とウィローの会話に割り込まないでほしい。
こっちはちょっと良い事思いついて、それを成功させたくてうずうずしてるんだから。
ラディッツけしかけてあのお爺さんには黙っててもらおうかな。
『黙れ!』
「!? ど、Dr.ウィロー……?」
『黙れ。……娘よ、なにゆえ肉体を探さなくても良いと言う?』
あら。
ラディッツを使うまでもなく、彼自身が俺との対話を望むんでいらっしゃるみたいで、コーチンはそれで沈黙した。……凄く不満そうだけど。
「あなたのプロフィールは知ってるよ。なんやら凄い研究をして疎ましがられてたみたいだね」
『そうだ。……だがそれが今の話にどう繋がる』
「焦らないで聞いて。それで、あなたの復讐って、自分を知らしめる事でしょ?」
『極端に短く纏めるのならば、そういう事になる』
よし、彼の肯定で俺の考えから外れていない事がわかったぞ。
なら、彼の望み通りにみんなに彼の事を知らしめてあげるとしましょうか。
◆
俺は、即興で思いついた作戦……その名も『アイドルに勧誘大作戦!!』を開始し、彼を我が同志になるよう洗脳、もとい勧誘すべくぺらぺらと舌を回し始めた。
悪人相手なら普通に話せるし、アイドルの魅力なら二時間でも三時間でも話せるぜ。
「人々を支配したい、自分の研究を認めて欲しい。それはみんなに認められたい、つまりは輝きたい! って事でしょ?」
『"輝きたい"……いや、そういう訳ではない。ワシはワシを認めなかった人間どもに、ワシをこの凍土の下に葬り去った人間どもに復讐を』
「ほらー、アイドル向いてるじゃん!」
『!?!? ……どういう事だ。そもそもアイドルとはなんなのだ?』
「おっとー、まずはそこからか? いいよいいよ、聞かせたげる! アイドルの素晴らしさ、そして楽しさを!!」
……………………。
『ワシの力で人々を熱狂の渦に?』
……………………。
『この地球だけに留まらぬ壮大なスケール……?』
……………………。
『なんと! それほどまでの力がアイドルにはあると言うのか!?』
……………………。
『なるぞ……ワシはアイドルになるぞおおおおおお!!!』
「やたっ、代わりゲット!」
両腕を上げて大音量の叫び声を上げるDr.ウィロー改め、同志ウィローに俺も万歳をしてみせる。
ひゃほー、八時間語り通した甲斐があったぜ。ウィローさんてばちょろいんだからー。ばんざーい、ばんざーい。ほら、ラディッツも一緒に! ……無視すんなし。
ちなみにコーチンは事の成り行きについていけないみたいで口をあんぐり開けてぷるぷる震えていた。
『必ずやワシはこの才能で、かつて不世出と
「そーそ。しかも今ならこの世で一番人気のアイドル、ナシコちゃんとユニット組めるんだよ! 最強だよ最強!」
『近道すら用意しているとは、末恐ろしい娘よ……』
「ウィローさんも娘になるんだよ?」
『そうか……そうじゃったな』
きゃっきゃうふふとウィローさんとお話する俺の横で、なぜかラディッツはうんうんと頷いて俺を見ていた。
ちらっと見た限り、なんかすごい納得してるっぽい。……何に? 何にそんなに納得してるのかなラディッツは。
ウィローさんがアイドルに向いてるよって事にかな? たぶんそうだろうな。
『だが肉体はどうする?』
「そーんなの造っちゃえばいいんだよ。Dr.ゲロっていう天才科学者も、宇宙に名を轟かすフリーザって怪物をあっさり超えるくらいのパワーを持つ人造人間を作り出したんだ」
「えっ?」
「天才のあなたなら簡単簡単!」
『なんと! やはり今の世にはそれほどの天才がおるのか。……ふっふ、張り合いも出てくるというものじゃ。だが娘よ、我が研究所は未だ永久氷壁の下。氷を砕けば諸共破壊してしまうだろう』
「ちょっとまてナシコ、今の──」
「じゃあ……知り合いに凄い科学者さんがいるから、その人のとこに行きましょ」
話はトントン拍子に進んで、ブリーフ博士の下にアポ無し訪問したところ、彼は複数の助手っぽい人達と忙しそうに宇宙船を造っていた。たぶん神様がナメック星を脱出する時に乗ってきた宇宙船だな。わあ、見れて感激……凄い。
口下手を発揮しつつもなんとかブリーフ博士にお話をすると、興味を示してくれた。
一緒に来ていたウィローは宇宙船に興味津々。これを作ったブリーフ博士とお話したがったので、俺とラディッツは少しの間席を外す事に。
「娘! 貴様、ウィロー様になんたる事を吹き込んでくれた!!」
なぜかついてきたDr.コーチンがよくわからない怒りを発していたので、てきとうにあしらいつつ待つ事数時間。
ウィローさんの方は話がついたようで、設計図を作ると息巻いていた。バイオ工学も応用したいがためにコーチンが必要らしい。必要とされてコーチンも大喜びだ。
俺達に向けていた怒りは一転歓喜に代わり、上機嫌でウィローについていく老人の後ろ姿を見送った。
◆
強い地球人の細胞とサイヤ人の驚異的細胞をちょちょいと提供して、それを元に培養された僅かな肉に人造の肉体を繋げ、僅か三日足らずで人造人間500号が誕生した。人造人間というかホムンクルスというか。うーん、この世界遺伝子操作はフツーの技術なんだね。禁忌とかそういう認識がまったくない。
馬鹿みたいに肥大していた脳もぎっちり凝縮、縮小化に成功したのはコーチンの手柄かな。やるねぇ、おかげでちみっちゃい女の子ができた。やったぜ。
ちなみになぜいきなり500号なのかと言うと、単純な連想ゲームから発展してそう命名する事にしたのだ。
Dr.ウィロー→アイドルだからちゃん付けで……ウィローちゃん→ろーちゃん? ああ、
じゃあ500号だ。ろーちゃんまんまだね。
「いや、ウィローちゃんと呼ぶが良い」
俺の素晴らしく天才的な頭脳が導き出したこの命名は、なんでかわかんないけどお気に召さなかったご様子。なんでよー。かわいいのに。……パクリだから駄目なのかな?
仕方ない、ウィローちゃんと呼んでやるか。
これからアイドルとして新しい生を歩み出す事に決めたウィローちゃんの生体ガラスの瞳はきらきらと輝いていて、未来への希望に満ち溢れていた。
Dr.コーチンは「なぜこんな事にぃ……!! Dr.ウィロぉぉぉぉ……!!」と嬉しそうに咽び泣いていた。
あなたの大事なウィロー様は今日から俺の妹分になってしまったのだ。ご愁傷様ね。
復讐は諦めてまっとうな人生を送るんだな、このウィローちゃんのように。
「ふはははは、いいぞ……みなぎる。凄まじい気だ! この力でわたしが世界を
ほら、彼……じゃなかった、彼女は彼女なりの復讐をするみたいだからね。
でも、ウィローちゃんも残念。世界を魅了するのはこのナシコちゃんだ。
ああいや、姉妹ユニット的な感じで売り出せば競合はしないかな?
夢が広がるなあ。さっそくタニシさんにお話ししに行こうっと!
「さ、ウィローちゃん! ラディッツ! 事務所に行くよ、ついてきて!」
「おお! さっそくアイドルデビューの時が来たか!」
「……また唐突に無茶振りをするつもりだな……タニシが倒れなければ良いが」
ぶつくさ言うラディッツと元気いっぱいのウィローちゃんを引き連れ、窓から飛び立って事務所へと向かった。
結果、無事ウィローちゃんはアイドルデビューに成功。
オーナーも社長も俺の頼みは断れなかったみたい。
というか、困惑してたのは最初だけで、ウィローちゃん見たら鼻息荒く色々勘定しだしたからね。売れると思ってもらえたのだろう。夢をギッシリ詰め込んだミニマムボディ素晴らしいもんね。お眼鏡にかなうのは当たり前だ。やはり時代は妖精だよ。くぅー! 俺も早く子供に戻りたい!
大々的に宣伝した後にさっそくステージに立ってもらうから、それまでみっちりレッスンしてね、と言われてウィローちゃんは大張り切り。
普通の人にはきっついスケジュールも、体力無尽蔵の人造人間であるウィローちゃんには問題無し、天才の彼女はこの分野でも天才であったか、歌も踊りもメキメキ上達している。さすがは伝説のアイドル。
むむー、競争意識が刺激されるぞ。俺ももっともっと頑張らなくちゃ。
彼女と、ついでにコーチンの住処として俺の家を提供したため、我が家は住民四人で大変賑やかになった。
話し相手がラディッツ以外に増えて、ついでに一緒に寝てくれるかわいいロリっ子ができた事に僕満足。中身が爺さんなのはどうなんだ、だって? 知らん。見た目がロリならそれでいい。仮に声が銀河万丈だったとしても全然イケるぞ。中身が爺さんなだけならなんのその。
うひひ。かわいいかわいい。今の成長してしまったお姉さんな俺じゃちょっち敵わないくらいにかわいい。写真撮ろ。
ポーズとってポーズ! いいよいいよー! はぁ、はぁ、ああもぉ死んじゃいそう。抱き締めていい? いいよね? いいね! 答えは聞いてない!! あっ、待って逃げないで、ややややめて通報しないで!?
……危うく社会的に死ぬところだった……危なかったですよ。
ねぇラディッツくん、もうしないからさ、そろそろウィローちゃんの専属ガードマン廃業して俺の仲間に戻らない? 一緒に至宝を手に入れよう? ね? ね?
だめ? だめー?
けち。
はぁー、それにしても家が狭いと感じるって、とっても素敵だ。満ち足りる。
でもウィローちゃんもコーチンも料理はできないから、結局うちはコンビニ弁当である。
家と事務所を忙しなく行き交い、レッスンレッスンまたレッスン。時々修行と息抜きにお散歩。
そして迎えたライブ当日。
『みんなのハートにデスビーム♡♡♡ ナシコちゃんだよー!』
『この世で一番輝くアイドル、ウィローちゃんだ!』
わああっと盛り上がるファンのみんなに、私達はめいっぱい愛を振り撒いて、練習で培った全部を放出した。今日は私は引き立て役に徹して、彼女の華やかなデビューを飾るのだ!
『永い眠りの果て 見つけたよ わたしの夢!』
『キャッチだ!』
『ほらほら 時代の波に乗り遅れちゃう! 進め! どんなタイトロープも ひとっとび!』
『花道さ! ね?』
『だから、行くよ!』
満開笑顔で楽しそうに歌い、踊るウィローちゃんを見たコーチンはその日の夜の内に息を引き取った。寿命かな。
凄いげっそり頬こけてたけど、なんだか満足気な笑みを浮かべていたので幸せな終わりだったのだろう。
打ち上げ中に届いた凶報にウィローちゃんは寂しげに黙祷を捧げた後、「これで本当にまっさらなスタートだ」と大人びた表情で呟いていた。
俺は不覚にもその横顔にどきっとして、あわや恋に落ちてしまうところだった。
さいりげなさを装ってちいちゃなお膝に倒れ込み、膝枕させてもらおうとしたら転がり落とされて、そのまま50メートルほど追撃されころころと転がり続け、凄まじい酔いに襲われる羽目になった。
うう、スキンシップを許してぇ……? お姉ちゃん寂しいよう。
──とにかく、彼女を俺と同じユニットとした事で俺がナメック星に旅立っても、その間は妹分となったウィローちゃんがカバーしてくれる事になった。
これで心置きなくみんなを蘇らせるために戦える。
待ってろよフリーザ様、ナシコ流デスビームをお見舞いしてやるぜ!
TIPS
・Dr.ウィロー
1990年3月10日に公開された映画『この世で一番強いヤツ』のボス。声がかっこいい。
エイジ762年より50年前、危険な思想を持っていた大天才。
時に極端な思考をしてしまうという癖のためにナシコの毒牙にかかってしまった。
今はアイドルがめちゃくちゃ楽しいらしい。後悔はしていないようだ。
・Dr.コーチン
思ってたのと違う。あかん、駄目やこれ。
ああ、かつての栄光がまぶたの裏に。
そんな感じでお亡くなりになった。
ちなみに中身はロボットなので、きっと消費期限が切れたのだろう。
ぎぎぎ。
・ブリーフ博士
ナシコが言うほどぼけーっとはしてない
めちゃくちゃ驚き戸惑ったもののこれも人助けと思い協力した
いややっぱりぼけっとしてるかもしれない
・ラディッツ
いきなり女の子連れてきてアイドルにしますと宣言され
呆然とするタニシを慰めるために居酒屋に呑みに連れ出した。
コミュ力はナシコの三百倍。
・タニシ
最近気になる人ができた。
年も結構近いらしい。
・伝説のアイドル
ホエホエむすめ。
・デスビーム♡♡♡
三連デスビーム。
当たるとポジティブが溢れ出す。
・この世で一番輝くヤツ
2020年3月10日に公開された、ドラゴンボール超映画5作目。
50年の月日を経て目覚めたウィローは若い肉体に老いた精神を持つ。
世間の変わりようや体の差異に戸惑いながらも、ひょんな事から
アイドルの世界に飛び込んだウィローは、やがてスターへの道を歩み出す。
だが、最大の壁にして困難は、既に驚異の認知度を誇る先輩アイドルであり
義理の姉、孫梨子であった……。