TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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第二十四話 思いつき症候群

「んー、修行してみよっかな?」

「なんだ藪から棒に」

 

 レッスンを終えて、新人の子とお喋りしてたら、ふとそういう事がしたくなった。

 付き合ってくれていたウィローちゃんが怪訝そうにするのに笑いかける。

 へへー、思い付きー。

 

 むふんと無意味に得意げにすれば、真新しい染料の匂いが入り込んでくる。

 新築の事務所は下にカフェありエステあり、上にシアターあり遊戯室あり、お外に屋内プールありとなんでもござれの最新鋭。

 こないだオーディションに合格した子やスカウトされてひょっこり来た子もいるから、どこを見ても新しいものばっかりで、私まで若々しいやる気に満ち溢れてしまったのだ。

 

「あああのっ、な、ナナナシコちゃんに会えてとっっても嬉しいです!」

「そ? 私も可愛い子に好かれて嬉しいよー」

「かか、カワイイだなんてそんな……ふぅ、ふぅ……」

 

 このどもりまくってるのはもちろん私じゃなくて新人の子。

 見よ、この先輩然とした私を! ちゃんと喋れてる! 凄いでしょ!! さいっきょうっでしょ!?

 でも身長は向こうのが上だし向こうのが先輩に見えるんだよなー。

 

「後でまたお伺いします。その時に、あの、さ、サインを頂けたらと……!」

「うん。いいよいいよー」

「ほんとですか! やったぁ! ああ、アイドルになって良かったぁ……ありがとうございます! あの、ナシコちゃんのこと、お母さんも大好きで、昔っから大ファンで……なのであの……そ、それじゃあまた!」

「くすっ。転ばないようにね?」

 

 初々しさ全開でレッスンルームを飛び出していった子を見送って、ちょっとして。

 がくりと膝をつく。もはや瀕死である。

 はぁぁー……会話しんどかった……。

 

「お前のそれはどうにかならぬのか」

「性分なので……」

「わたし達と話す時は普通だというに」

 

 それは、ウィローちゃん達は家族みたいなもんだしー。

 あ、でも昔はお義父さん相手でもコミュ障発揮してたから、家族とか関係ないか。単に私があがり症なだけ。

 ていうかさ、さっきの子さ、地味に現実突きつけてきてたよね……そっかあ、私、彼女のお母さん世代かあ……。

 いや、そんなに経ってないでしょお!? デビューから12年だよ私! 彼女が14歳だとしても、デビュー当時は2歳……うーん、おかしくはないのか?

 

「うーやめやめ。数学は苦手なんだよ」

「お前に得意な教科などあるまい」 

「……ちょっと辛辣じゃない?」

「事実を述べているまでじゃ」

 

 くっ、否定できない……!

 そもそも彼女達の認識じゃ、私勉強してないどころか学校行ってない子だもんね!

 こう見えてきっちり高等教育受けてるんだけどなあ。

 でも悟飯ちゃんがやってる塾の宿題は一欠けらも理解できないのであった、まる。

 

 現実を突きつけると言えばもう一つ。

 さっきの子さあ、ナシコの大ファン! って感じだったでしょ?

 でも最初、真っ先にウィローちゃんに話かけてきゃあきゃあ盛り上がってたんだよね。

 その間話し相手とられた私はずーーーーっと隅っこで突っ立ってたんだよね。

 ………………複雑な気分。

 

「で、修業か。何をするつもりだ」

「んー、それは色々考えて、スケジュール組んでみてー」

「ふ……む」

 

 ウィローちゃんに話を振られてデッドゾーンから舞い戻った私は、顎に指を当ててふうむとうなった。

 思えば今までやってきた『修行』は運動不足解消レベルだった。腕立て伏せとか腹筋とかシャトルランとか、それって修行なのか? ってやつ。

 組み手だとかもしたことあるけど誰とも全然勝負にならないし、100倍の重力も大して負荷にならないし。

 じゃあまともな修行をしてみよう! ってなるじゃん?

 

 ……んん? なにウィローちゃん、その遠くを見るような顔は。あの、どこ見てんの? おーい?

 

「ふむ、珍しいな。ナシコが勤勉な態度をとるのは50年に一度あるかないかだ」

「……辛辣過ぎない?」

「冗談じゃ」

 

 いや、今のウィローちゃんの声音、完全にマジだったよ……?

 私だってやる時はやるんだよ! 見てろよー、超サイヤ人とか超えちゃうくらい強くなってやる……!

 

 燃えに燃える私は天井の隅を指さして、そこに輝くアイドルの星に誓った。

 新技とか開発して、ぜーったいみんなの度肝抜いてやる!! 

 

 そうしてその晩、お家に帰ってさっそく重力室に駆け込んだ私は、これ以上ないくらいの猛特訓を開始した……!!!!

 

 

 

 飽きた。やめた。

 料理しよう。

 飽きた。遊びに行こ。

 

「そうれみろ」

「う……」

 

 ちゃちゃっと準備して髪纏めて地味子の装いでお外へ行こうとしたら、玄関脇にスタンバってたウィローちゃんがしたり顔で煽ってきた。

 ぐぬぬ……きょ、今日はちょっと気分が乗らなかっただけだし! ほんとはもっと凄いし!

 そもそも修行って何すればいいのかわかんないんだよそれがいけない……浮遊ロボットでシューティングでもすりゃいいの?

 

 でも私が気弾飛ばしたりしたら一発で消し飛ばしちゃうし……全部壊しちゃったから新しいの作ってー、なんてブルマさんに言えないから、そういうのもできない。

 ……私が壊さなくてもうちのサイヤ連中が全破壊しちゃうんだけどね!

 はぁあ……新造をお願いしに行く私の身にもなってほしい。超気が重いんだから……。ブルマさんやブリーフ博士は快く引き受けてくれるし、嫌な顔一つしないけど……。代わりに歌うたったりしなくちゃいけなくなるんだから。

 

 ナシコの生歌は、そりゃ確かに貴重かもだけど、それを代価にするのはどうなのかなー。素の状態で改まって歌うのってかなり恥ずかしいんだよね。ブルマさんは、そんな私の羞恥心を楽しんでる感じだし、ブリーフ博士はいつもぼーっとした顔で聞くし、奥さんはずーっと笑ってるしで調子狂うし……。

 

「トラブルは起こさぬようにするのだぞ。何かあったらすぐに連絡しろ。くれぐれも気を抜かないことだ」

「はぁ~い。わかってますよーだ」

 

 ウィローちゃんってば、そんなのわかってるよっ。子供じゃないんだよー、見た目は子供だけど。

 ちゃんと自分が有名人だって事自覚した行動を心がけます。トラブルとは無縁でいたいしね。

 

「そう言って誘拐されかけたのはどこのナシコだ?」

「いや、あれは……はい」

 

 指摘されたのは、ちょっと前に連れ去られそうになった事だった。

 連れ去る、なんて言っても、怪しい奴が怪しい事を言って誘拐しようとかそんな感じじゃなくて、感じの良いお姉さんがアンケートに協力して欲しいって言うからついていっただけ。

 

 悪い事なんかしそうにない柔和な笑顔の人だったのですっかり油断しきっていた私は、出されたジュースを飲んじゃって、意識を失って。

 気が付けばお家で、般若なラディッツにウィローちゃんのダブルお説教が待っていたのだった。

 

 ああいうのは回避不可能だと思うんだけどー……言い訳しようとすると怒られちゃうので、素直に頷いておく。

 

「どこへ行く」

「ちょっとそこまで~」

 

 腕を組み、私を見据えるウィローちゃんにウィンクして、お外の世界へ飛び出す。

 うひー、風が気持ち良い! 絶好のお散歩日和だね! あれ? 夜だとなんて言えばいいんだろ。

 予定も目的地もないけど、たまにはそういうのもいいよねーってねー。

 

 子供に戻ってから、なんだかみんな揃って不安だ不安だって心配してくるようになったけど、そんなの必要ないのにね。

 夜遊びだってできちゃうんだぜー。

 

「……お?」

 

 さあ遊ぶぞ、と空に飛び上がった気がしたのに、なぜか寝っ転がっていた。

 ええ、今までのは夢? どこからどこまでが?

 寝ぼけ頭で体を起こせば、ごろりと何かが転がり落ちた。

 んー? ……マイク? なんぞ……?

 

「うー、頭いたい……」

 

 なんかガンガンする。肌も熱っぽかったり冷たかったりで風邪ひいてるみたい。

 というかここ、私の家じゃない。

 部屋を見回してみれば、あー、あれ。カラオケ。そんな感じ。

 

「あ、起きた?」

 

 ガチャリと扉が開いて、男の人が入って来た。

 その瞬間がなぜだか凄くゆっくりに見えて、さあっと血の気が引くのを感じた。

 ウィローちゃんの注意が脳裏をよぎる。

 ひょっとして私……とんでもないことになっちゃってるんじゃ……?

 

「……うん。いや、トンデモないコトされたのおれね」

 

 部屋に入って来たのは、えらくくたびれた様子のクリリンだった。

 おお。

 ……なんだこの状況。

 

 とりあえずマイクを拾い上げてふらつかせる。うーん、頭いたい……。どういうじょーきょー?

 どうぞ、とクリリンがお水をくれたので飲む。つめたくておいしー。ありがとね、と微笑みかけたらシュボッと真っ赤になっちゃった。……クリリンってなんかかわいいよね。おじさんなのにね。

 

 ぼーっとマイクを握っていると、その様子じゃなんにも覚えてないみたいだね、とクリリンが言うので、こくこく頷く。

 何が起こってるのかさっぱり。絶賛大混乱中。

 えーと、何かご迷惑をおかけしました?

 

「いや、驚いたよ。街中で偶然出会ったのもそうだけどさ、お酒飲むとも思ってなかったから」

「え、お酒……ですか?」

 

 私、お酒はあんまり飲まない人間なんだけど……なんだろ、クリリンと会って、盛り上がって、ノリで飲んじゃったりしたのかな。

 彼だって結構好きな人だからなー、そういうことしちゃうかもしんない。

 

「そしたら大暴れするんだから、参っちゃったよ……ナシコちゃんって酒癖悪いのな」

「ええ~……」

 

 よくみたらクリリンさんが着てるシャツ、よれよれだ。裾とかめっちゃ伸びてるんだけど。……下手人はだれだっ!

 

 話を聞くと、偶然出会った彼を遊びに誘ったのは私で──なんとなく思い出してきた。夜遊びできるぜってのを証明したかった的な思考をしていた気がする──、気後れしない貴重な相手に羽目を外して、普段は飲まないお酒を飲んで、大して強くないのは昔から変わってなかったのかすぐに潰れちゃったらしい。バタンキューしたのはまさにここ。カラオケに無理矢理クリリン連れ込んでむりくり歌ってもらってたみたい。きっと翼をくださいとか聞きたかったんだろうなぁ、私。

 

 大暴れってのは、主にクリリンの頭を撫でたり叩いたりじーっと見つめたりと……とてつもなく失礼な事してたみたい……。でもその額のぽつぽつってずっと気になってたんだよね。ほくろ? 見せて欲しいなー。だめかな。ボタンになってたりしない……? しないかー。

 

 ぐーすか寝こける私を自分の家に連れ帰る訳にもいかず、歌って起こす訳にもいかずに困り果ててたんだって。

 

 ……マズイ。

 非常にマズイです……。

 人様に迷惑かけた事がウィローちゃんやラディッツにバレたら、夜遊び禁止令が出てしまうかもしれない。

 百歩譲ってそれはいいとしても、ながーいお説教と何がしかの罰はあるだろうし、何より不安的中したーって思われるのはヤダ!

 これは……もはや口封じをするしかあるまい。

 クリリンには悪いけど、口のきけない体になってもらうとしよう……。

 私は自分のためなら悪事もいとわないあくとーなのだよ……ふっふっふ、覚悟したまえ。

 

 そうと決まれば!

 

「クリリンくん」

「えっ! な、なんだいナシコちゃん」

 

 マイクを横に置いてぴゃっとソファから飛び降り、クリリンに急接近。

 たじたじになって背を反らす彼の胸に手を当て、壁際まで追い詰めて、そうっと頬へと顔を寄せて囁く。

 

「今夜のことは、あなたと私だけの──秘密にしようね?」

「……ふぁい」

 

 よしゃ! 言質とったり! これで一先ずは安心だねー。

 ポケーっとしちゃったクリリンが元に戻るまで、歌でも歌って楽しんでよっと。

 一瞬どうなることかと思ったけど、なんとか乗り切った。これはもう、夜遊び検定一級でしょ!

 

「ふんふんふーん」

 

 なーんて、頭の痛さも忘れてお水をのみつつ持ち曲をローテしつつ、メニューを開いて目についたものを片っ端から頼んではぱくつく一人宴を開く私は、まだ知らなかった。

 根が真面目なクリリンが告げ口してしまう事を……そして恐ろしい怪物を呼び覚ましてしまう事を……!

 

「あ、ここのポテトめっちゃおいしーい!」

「へ、へへへ……」

 

 ケチャップにつけたポテトをぱくり。サクサクほくほくでどえら美味い!!

 なんと至福のひとときなのだろう。

 夜はまだまだ永いのだ。今日は朝まで歌いまくるぞー!

 

 

 

 

 くっそ怒られた。なぜだ。なぜバレたのだ。

 ううう、クリリンには悪いことしたって思ってるよぉ~!

 独占ミニライブ開催するからゆるしてゆるして……。

 

 

 

 

 私とウィローちゃんのユニットは、大人な私と子供なウィローちゃんの組み合わせで色んな表情を持っていて、表現の幅も広かった。

 今は子供同士、目線もばっちり合うユニットになっちゃったけど、幸い私と彼女とではタイプが違うのでバリエーションには困らない。

 クールな私と、天真爛漫なウィローちゃん……これは見た目の話。性格は真逆だね、私が元気爆発担当で、ウィローちゃんはカッコイイ担当って感じ。

 

 その役割に変わりはないけれど、既存の曲の、身長差で魅せる事を前提としたダンスだとかは見直さなくちゃいけなくなって、振り付け考える人には負担をかけてしまった。

 

 なんというか、私の勝手で方々に迷惑をかけてしまって申し訳ないと思うけど、子供に戻った事を後悔はしてない。

 だってこっちのがかわいいもんね。私だって、この体ならもっと自信を持てるし、よりよいパフォーマンスもできると思う。

 

 とはいえ戸惑って少し離れたファンもいる。

 大人の自分を求めている人もいる。

 でも大丈夫。この魅力で全員私の所へ戻って来るくらいメロメロにしてやるのだ!

 

 ──なんて事を、モデルのお仕事をしながら考えたりしたのです。

 小さくなってからこっち、もっぱら雑誌の撮影なんかは動物と絡む事が多くなった。

 癒し系って言うのかな。そういう売り方に切り替わったみたい。

 私としては助かるなー。着飾ってポーズとってパシャリなカメラさんとの一対一より、意識を向ける事の出来る生き物がいるこっちの方が気が楽で良い。

 しかしこの後のお仕事はマンツーマンな取材なので気が重い。はやくお家帰ってのんびりしたーい……。

 

 そんな風にお仕事に勤しんだり、悟飯ちゃん達と遊んだりしていれば、あっという間に時間は過ぎて、ナメック星のドラゴンボールが再び使えるようになった。

 ブルマさんから連絡があって、集まる事になったので支度をする。

 

「もう130日も経ったんだねー。こないだまで寒いと思ってたらもうあったかいんだもん」

「年を取ると時間の流れがはやく感じるようになるというが、若い体であってもそれは同じだな」

 

 ドレッサーに座ってぼやくウィローちゃんに、とっときのお櫛でさっさか髪を梳いてあげながらそうねーと同意する。

 お互い結構年寄りだよね。私もこう見えて、前の世界を含めれば60超えているのだ。

 でも体が若々しい期間が長かったおかげなのか知らないけど、全然老いてる感じがしない。

 ……単に私が成長できてないだけなのだろうか。

 

 それともちゃんと成長してる? 自分じゃわかんないよね。今のところ、誰からも「おばあちゃんみたい」とか言われた事ない。

 あっ、大人とは思えない、なら何度も言われてる!

 やっぱナシコは若々(わっかわか)しいんだよなぁ~ん♪

 

「ほい完成!」

「うむ。ありがとう」

「どういたしましてだぜー」

 

 ポニテに纏めてはい完了、今日もウィローちゃんはとってもかわいい!

 後ろからぎゅっと抱き締めれば、鬱陶しいって睨まれた。でも腕を払ったりはされないのである。私がしつこく抱き着くから、もはや追い払うのも面倒なんだってさ。

 ところでこういう後ろから腕を通す感じの抱き着き方ってなんて言うんだっけ。あすなろ抱き?

 どこかで聞いた覚えがあるけど……なんだっていいか。ウィローちゃん体温高くて、くっついてると気持ち良いー……。

 

「さっさと行くぞ」

「はあい。待たせちゃ悪いもんね」

 

 それは私達の支度を待っているラディッツとターレスしかり、ヤムチャさんの帰りを待ってるブルマさんしかり、みんなを生き返らせようと集まっている悟飯ちゃん達しかり、母星に帰ろうとしているナメックの人達しかり。

 

「ごめーんお待たせー!」

「ああ、待ったぞ、まったく。早く乗れ、時間が押している」

 

 整地された外に車を回して待機していたラディッツに、顔の前に手を立ててお詫びして、助手席の方へ回り込む。

 と、窓越しにターレスと目が合った。頬杖ついて空を眺めてぼーっとしてたみたいで、目が合うと、なんだか気の抜けた顔をされた。

 う、わー……今の、完全に悟空さんだったよ……!

 なんだか最近、ふとした時にターレスが気の抜けた表情をしているのを見る事が多くなったような。

 なんだろう、燃え尽き症候群にでもかかってしまったのだろうか。ラディッツも一時期そんな風にフニャッツになっていたのを思い出す。

 かわいかったよなーあの頃は。今はナマイキになっちゃってさ、やれ早く寝ろだの部屋を片付けろだのうるさいの。あの頃のフニャッツ帰ってきてー!

 

「お前に任せるとウィローの準備まで時間がかかるな」

「あのねー、女の子の支度にゃ時間がかかるのはトーゼンでしょ!」

 

 とりゃっと助手席に飛び乗って、シートベルトをいそいそ。

 ウィローちゃんがターレスのお隣に座り、シートベルトを締めるのをミラーで確認したながらぶつくさ言うラディッツに憤慨する。カプセルコーポレーションに行くんだから、恥ずかしくない格好をしなくちゃいけないし、何より今日は復活記念パーティだって開かれるんだよ。めいっぱいおめかししなくちゃ!

 

「まあなんだ……キマってるぞ」

「お? ……へへー、さんきゅ!」

「ふん」

 

 前を向いてハンドルを握ったラディッツの珍しい褒め言葉に、ちょっと照れちゃいながらもおどけてお礼を言う。

 ほんっと……照れちゃうんだけど。

 いっつも眉つりあげてばかりなのに、なんで急にそういう事いうのかなー。

 

 座席に体を沈めて、そうっと羞恥の息を吐き出した。

 

 

 

 

 都の空は星一つない暗闇に覆われ、光を纏う巨大な龍が私達を見下ろす。

 カプセルコーポレーションについた私達は、挨拶もそこそこにポルンガと相対した。

 

「では、願いを!」

 

 振り返ったデンデが促すのに、ブルマさんやそれぞれと頷き合って、段取り通りみんなの代表としてブルマさんが前へ出た。

 

「私の心の中の願いを叶えてちょうだい!」

『──この者の心の中の願いを叶えたまえ』

 

 その願いを、ナメック語に変換してポルンガへ伝えるデンデ。

 ブルマさん、さっそく私の伝えた神龍活用術を実践してるね。さっき会った時張り切ってたもんね。指折り数えて叶えたい願いを鼻息荒く語っていた。両手の指じゃ足りない数も、一工夫したお願いの仕方なら、ばっちりオッケー!

 

『それは無理な願いだ……叶えられる願いの数を大きく超えている』

「えっ? ちょ、ちょっと、なんでよー!」

 

 ……あれ?

 オッケーマークを作ってくれると思ったポルンガは、しかし願いを叶えてはくれなかった。

 

「ブルマさん、欲張り過ぎなんじゃ」

「う、流石に27個は多かったかしら……」

 

 クリリンさんの呟きにばつの悪そうな顔をするブルマさん。

 た、確かにそれは多すぎ……でも、そっか。このお願いの仕方にも制限があるのか。

 そりゃそうだよね、そう上手くはいかないか。でも3つ以上叶えられるのに変わりはない。

 

「じゃ、じゃあこれならどうだ!」

 

 っと腕を振り上げたブルマさんに代わり、ナメック語で願いを告げるデンデ。

 

『無理だ。願いの数を大きく超えている』

「げげっ! 15個まで減らしても駄目なの……!?」

 

 どうやらそうらしい。

 無理な事ばかり言われてどこか不満げにしている気がするポルンガに背を向けて、慌てて指折り数えて願いを決めるブルマさんに、なんだかおかしくて笑ってしまう。

 ああ、笑っちゃいけないよね。これじゃ私が嘘を教えたみたいになってるじゃん。それは不味いよ……!

 

「10個!」

『無理だ』

「7個なら!」

『だめ』

「ろ、……5個!」

『願いはないのか? ないなら消えるが、いいか?』

「ちょっとちょっとちょっとどういうことよー!? ぜんっぜん叶えられないじゃないの!!」

 

 憤慨するブルマさんの怒りに当てられてあわあわする周囲の人達。

 その中には当然私も入っていて──どうなってんの! と詰め寄られるのに涙目になってしまう。

 そ、そんなのわからないですよぅ……。

 

「わ、私がお願いした時は、3つ以上でも、大丈夫でした……」

「ほんとです! 確かにナシコさんの心を読み取って叶えて貰った時は、ポルンガはOKしてくれました!」

 

 悟飯ちゃんの援護射撃に、顎に指を当てて唸るブルマさん。

 ナメックの人達はざわざわしてる。そういうお願いの仕方は想定してないとかなんとか……。

 

「んじゃー試しにあんたがお願いしてみてよ」

「わ、私、ですかっ?」

「そ。ヤムチャ達を生き返らせるのと、宇宙を彷徨ってる孫君連れ戻すのと、ナメックさん達をおうちに帰してやんの」

 

 どうしよ……頼まれちゃった。

 直前にブルマさんが失敗してるからすっごく気が重いんだけど……頼みを断れる訳もなく頷く。

 デンデの方を見れば、肩越しに振り返っていた彼は、戸惑いがちに頷いて促してくれた。

 

「じゃ、じゃあ、お願いね……思い浮かべてみるから」

 

 まずは、孫悟空さんの帰還──たぶん拒否されるんじゃないかな? って思うけど、いちおう。

 それからヤムチャの復活と、天津飯たち……は同時には無理だから、ブルマさんが言ってた、えーと、ナントカリロンが証明された学術書と、髪をケアできるお薬と、隈ができないようにするのと、それからそれから──。

 

『オッケー』

 

 計12個ほど思い浮かべた願いは、あっさりと叶えられた。

 

「うそー……何よ何よ、神龍の癖にヒイキとかしちゃうわけ?」

 

 願いの産物を抱えて呆然と呟くブルマさんだけど、そればっかりは私にもさっぱりわからない。

 ナメックの人達も戸惑ってるみたいだし、復活したてのヤムチャさんだってよくわからないって顔をしてる。

 

『2つ目の願いを言え』

 

 続いての願いも、流れで私が頼むことになった。

 目をつぶり、手を組んで心の中に複数の物事を思い浮かべる。

 

 ……こらっ、誰だ耳元で願い事を囁くのは! くすぐったいからやめて!

 ブルマさんじゃん!? まだお願いしたりないの!?

 ナシコが賢くなりますように──ウィローちゃん、なんなのそれは。私じゅうぶん頭いいでしょ! ギャルのパ──言わせねぇよ! 壊れない完全食洗器……ってぼそりと呟いたのはターレスで、ばかを治す薬って呟いたのはラディッツで、おうこら。何に使うんだそんなもん──悟空さが真面目になって働いてくれること……はい……わしゃぴちぴちギャルのお嫁さんが──爺さんは黙ってなさい。

 

 ヘンテコな願いは放り捨てて、ちゃんとお願い事考えなくちゃ。えーと、天津飯天津飯……あ、ついでに私のお願いも……。

 

『孫悟空というものをここへ連れてくる事はできない。後で自分で帰ると言っている』

 

 それ以外は容易い願いだ、とポルンガの目が光った。

 ああ、やっぱり悟空さん帰って来ないのかー。

 ……チチさんがカンカンになってるんだけど。怖い。

 

「この薬さえあれば、少しは暴虐を抑えられるか……?」

「ようし、これで一つ手間が減った……おいラディッツ、鍵貸せ。車に積んでくる」

「お、おういナシコちゃん、わしのお嫁さんはどこじゃ? どこにおるんじゃ!?」

「悟空さはちーっとも真面目になってねぇでねえか! ちゃんとお願いしただか!?」

「あ、これ欲しかった本だ。ナシコさん、ありがとうございます!」

「うむ、神龍謹製の櫛、確かに頂いた」

 

 がやがやがや。

 復活した天津飯そっちのけで盛り上がるみんな。

 ヤムチャが天津飯の肩に腕を回してうんうん頷いているのが遠目に見えた。

 仲良いね!

 

 それから、3つめの願いでチャオズが蘇り、ナメックの人達も母星に帰っていった。

 亀仙人は妥協して手に入れた、最近凝っているというエクササイズグッズを手にしてご満悦で、ウーロンは『ギャ』と『ル』の文字の形に焼かれたパンを二つ持って不貞腐れている。

 

「さあーっ、三人の復活を祝して、パーッとパーティいっちゃいましょー!」

「おー!」

 

 明るくなった空に目をしばたたかせながらも、私はブルマさんの音頭に合わせて勢いよく腕をあげた。

 死んじゃったヤムチャ達を復活させられて、ようやっと肩の荷が下りた気がする。

 これで心置きなくごろごろできるよー。

 

 ……今までもわりとごろごろしてた気がするけど、それはまあ、うーん。

 

 

 

 

「馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! この大馬鹿者が!!」

「いったぁ~い!!」

 

 翌日、悟飯ちゃんちに遊びに行った私は、ラディッツにいっぱいゲンコツを食らわされていた。

 頭を押さえてしゃしゃっと逃げて威嚇する。治っとらんではないか! ってなに? なんの話?

 

「こんなの困っちまうだよ、どうすりゃいいんだ」

「お、お母さんが、朝起きたらちっちゃくなっちゃってて……」

 

 困り果ててる小さなチチさんの前に襟首掴まれて突き出される。

 ううー、涙出てきた……本気で叩きすぎだよ! 女の子の頭をなんだと思ってるの!

 確かにチチさん子供に戻してってお願いしたのは私だけど、だってだって、チチさんがぼやいてたんだもん。ただでさえ若々しいサイヤ人が、死んでた期間もあって全然老けてない。自分だけ年食ってるみたいでいやだーって愚痴ってたの。

 私それ聞いて、力になってあげたいなーって思ってて。

 機会があった事だし、やっちゃえーって。

 

「仕方あるまい。一年を待ってドラゴンボールで元に戻すしか」

「ええ~、戻しちゃうのぉ?」

 

 ゴチン!

 瞼の裏に星が飛ぶ。

 

「こいつ、微塵も反省の色が見えんな」

「うう、かわいいのに……」

 

 幼いチチさん、私の好みばっちしだよ~。

 ころころまるまるしてるの~。

 こーんなにかわいいのに、戻しちゃうなんてもったいない!

 そんなことしなくたっていつかは成長しちゃうんだからさー、若さを楽しもう!

 

「はは……あんまり自由奔放すぎて、怒る気力もわいてこねぇだな……」

 

 首を傾けてふるふる震えているチチさんが気の抜けた声で言うのに、良かれと思ってやったんだけど、お気に召さなかったみたい?

 ちょっとして落ち着いたチチさんは、こういうのはせめて一言くらい前もって教えてくれるのが礼儀でねーのか、と懇々と説いてきて、おっしゃるとーりです、と涙目になった。

 

「ちゃちな薬では暴虐は止められんかったか……すまん、チチよ」

「ラディッツさんが気にする事はねぇ。ま、ナシコも反省してるみてぇだし、なっちまったもんはしょうがねぇしな」

 

 頭をつっつき合わせて溜め息を吐く二人に、ぶすーっとする。

 ……悪かったとは思ってるけど、こんなに殴る事はないのに……!! 

 

「困りますよぅ、ナシコさん……」

「……ごめんね」

 

 途方に暮れている悟飯ちゃんに、それだけ絞り出した私の目線は、明後日の方向に向かっていた。

 ……ほんとごめんね!

 




TIPS
・脳トロボイス
人類特攻。
だいたいの生物を無条件で恍惚状態に陥れさせるナシコの得意技
ただし孫悟空には効果が無い

・エンジェリックスマイル
人類特攻。なんか魔術でも使ってるのかってくらい魅力的な笑み
笑って乗り切れ大作戦で効果を発揮する
た孫効無

・チャームタッチ
さり気ないボディタッチはどきどきすること間違いなし
心の壁を無視して強制的に親愛度をガン上げする
孫無

・クリリン
迷惑かけられまくったけど割と幸せそう
ナシコが大人でも子供でもデレデレしちゃう人
わりとミーハーだったが独占ミニライブによって完全にハマッてしまった
洗脳されたともいう。武闘家、ドルオタになるってよ

・チチ
少女期に戻ってしまったチチ……でも満更困ってばかりでもないらしい
なんだか悟飯ちゃんと会話しやすくなったような気がするのだとか
しかしナシコの視線がいやらしくなったのは困りものである

・ナシコ
ロリコンなロリ

・ターレス
無職

・ラディッツ
専業主夫

・ウィロー
いいとこのお嬢さんめいている
割とご近所付き合いもする

・ポルンガ
神龍のクセにひいきとかしちゃうのだ

・ばかをなおす薬
神龍謹製のおくすり
飲むと賢くなるんだと思う
ナシコのおばかは神の力を越えていたので当然無効!!

・悟飯
母親が突然子供になってしまった
戸惑ったものの、怖いお母さん像が薄れたのは確か

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