TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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おめぇ、まだ上があんのか……!?


第三十一話 ナシコスパークリング!

 最初に言っておく。

 もう(スーパー)サイヤ人なんて、ナシコの敵じゃないんだよねー!

 

「ほい」

「が!?」

 

 鶴の構えで小突けば吹っ飛ぶ、金髪で戦闘服のターレス。

 入れ替わりで向かってくるモサフワ金髪で戦闘服のラディッツの攻撃をてきとうにあしらいつつ、ちょんと足を刈って転ばせる。

 

「んの野郎!」

「ちぃっ!」

 

 同時に立ち上がった二人に、わざとらしく大きく肩をすくめてみせれば悪態をつかれてしまった。

 わー怖い。やれやれの形にしてた腕を組んでちょびっと浮かぶ。その瞬間にターレスもラディッツも姿を消すのに、目を細めて小首を傾げた。

 

「後ろっ」

「!」

「ぐあ!」

 

 前へ倒れれるようにして後方へ足を伸ばせば、背後に現れてコンビネーションアタックを仕掛けようとしてきていた二人が仲良く吹っ飛んだ。

 

 ふわり、直立に戻って地に足をつける。

 ここは重力室。そしてナシコは修行中。

 組手相手に暇してた二人を連行してきて、監督役にウィローちゃんを呼んで、本格的にやっているのだ。

 

 あ、ちなみに二人とも超化できてるのは、ナシコがアドバイスしたらあっさり超サイヤ人に覚醒しちゃったからなんだよね。

 

 最初は悟空さんもベジータも超サイヤ人になった事に落ち込んだり悔しがったりしていた二人だったから、さすがに見かねてこう言ったの。「超サイヤ人なんて基本でしょー?」って。

 それに、最近ナシコが頑張って習得した技なら、ただの超サイヤ人なんて相手にならないしー。って調子乗りまくってたら、超化の仕組みを問いただされた。

 

「パワーは足りてるんだから、あと必要なのは強い怒りとか悲しみとかの感情だけでしょ?」

「ほう? そいつは良い事を聞いた……」

「なるほどな……ふっふっふ」

 

 消沈してた二人は立ち上がると、次にはMAXパワーになっていて。

 

「そこら中にパンツを脱ぎ捨てるなと何度言ったらわかるんだ馬鹿者ォーッッ!!」

 

「ガキでもねえのにいつまでも好き嫌いしてんじゃねぇーーっっ!!」

 

 ドギャウ、と、超サイヤ人になったのであった。

 ……怒髪天を突く、みたいな感じで。

 なんかその目覚め方、納得いかなーい!

 

 そんなわけで、パワーアップした二人を相手に、私は戦闘訓練をしているというわけだ。

 

「な、なにが伝説の戦士だ……! ナシコにすら敵わんではないか……!」

 

 息を荒げて両手をつくラディッツに、そりゃまー、と頷く。

 

「今すぐ超サイヤ人2でも3でも4にでもなんない限り、ナシコは負けないよー」

「……超サイヤ人……ふぉ、4……?」

 

 座り込んで片膝に腕を乗せたターレスが、片目をつぶった顔を私に向ける。

 そそ。ま? ナシコが強くなりすぎちゃっただけなんだけどね~~??

 

「お前、何をどこまで知っている」

「そろそろ話せ。俺たちサイヤ人に関わる事だろう」

「えっ? あー、あっちょっと待って!」

 

 待って待って、この話はまだ早かった!

 超2とかはセル倒したくらいの話だもんね、いやー失敗失敗。

 

「ふむ……この恐ろしいパワーを持つ超サイヤ人の、さらに上があるのか?」

「あー! あー! あー!」

 

 戦闘力の推移とかを計って纏めてくれていたウィローちゃんが、せっかく私が誤魔化したのに掘り返そうとしたので大声を出して誤魔化し直す。

 ふー、危なかったぜ。このままじゃ根掘り葉掘り聞かれてしまうところだった。

 未来の事は、まだまだ内緒なのだ!

 

「お前の言う"超化"とやらは基礎戦闘力を最大まで引き出した数値を50倍にまで伸ばすものだ。これだけでもあり得ないほどのパワーアップなのだが」

 

 あれっ、ウィローちゃん誤魔化されてくれない!?

 なんでなんで? ラディッツやターレスはちゃんと誤魔化されてくれるのにっ。

 そう思って二人の方を見れば、サッとそれぞれが明後日の方向に顔を逸らした。

 

「……なんでいつもあんなので誤魔化されてやっちまうんだろうな」

「……しょうがあるまい」

 

 あっあっ、まさか二人とも、誤魔化されたふりしてたの!?

 そんな……ナシコの完璧な話術が破れていただなんて……!

 これじゃプライドが傷ついたぜ……! もう怒った。

 

「ふん!」

 

 全開最大パワーまで引き出せば、体中を這っていたスパークがバチバチと激しく蠢きだした。

 ……ふっふっふ、これがナシコが修行の末に獲得した新たな力、その名も『スパーキング』だよ!

 

「凄まじいといえばナシコのその技もだな。戦闘力がおよそ40倍にまで膨れ上がっているぞ」

「へへーん。ぶいっ!」

 

 ピピピ、と左目に文字を走らせてパワーを計測してくれるウィローちゃんにVサインを突き出す。

 凄いっしょー。最強でしょ!

 

 この新技獲得してから、変身しなくても基礎戦闘力の10倍までは引き出せるようになったんだよ!

 これ、超サイヤ人に覚醒済みのサイヤ人と同じみたい。

 

 一度超サイヤ人に至れた奴は、ノーマルの状態で基礎戦闘力を大猿に変化する並に引き出す事ができるようになるようで、たとえば悟空さんならノーマル300万だから、変身しないで発揮できるパワーの上限は3000万、てな感じ。そこに界王拳とかを乗せるのはー、たぶん無理だと思う。だって私がそうだしね。

 

 いやぁね、最初は界王拳を突き詰めようとして、悟空さんを真似て常時25倍界王拳で過ごそうとしてみたんだけどね。なんか界王様がしょっちゅう通信飛ばしてきて、やれ「死ぬぞ!」とか「危険だからやめろ!」とか「もう見ちゃおれん」とか、しまいには「みんな呼びつけて取り押さえさせるぞっ」と脅してきたのでやめた。

 せーっかくなんかもう一個壁超えられそうだったのにー。

 

 不貞腐れた私は、しばらく重力室で寝転がってたんだけど、運動してた熱が体の中で暴れ回ってたのに突き動かされて、しだいにごろごろ転がり回るようになって。

 強くなるならどんな風がいいかなー、と考えてて、それなら超サイヤ人2とか3みたいにバチバチするカッコイイ感じのやつほしいー! って跳ね回ってたら、なんかできた。

 

 そのまんま超2みたいな感じのスパークがバリバリパワーを私に与えてくれる新形態!

 その名もナシコスパーキング! ……あれ? これさっきも言ったかな。

 ま、いいや。この力があれば怖いものなしだぜー。

 

「地球人にもこのような変身があったとはな」

「……戦闘民族とはなんだったのか、という気分になってくるぞ、おい」

「言うな。泣きたくなる」

 

 ずーんと落ち込む二人に、なんだよーサイヤ人らしくないじゃんかーと頬を膨らませる。

 強い奴と戦うのに喜びを見出すんじゃないのかよー。はやく戦おうぜー。シュッシュッ!

 シャドーボクシングをしてみせても、風に髪を靡かせるだけで動こうとしない二人。

 

 じゃ、ちょっと趣向を変えてみようか。

 

「はっ!」

 

 体中に力を入れて──ほんとは力む必要なんかないけど、気分的に──気を噴出させ、変身の予兆を演出する。

 そう、ナシコにはもう一段階上の変身があるのだ……!

 ぎゅぎゅんと手足がすらっと伸びて、大人なナシコに大変身!

 

「──! ……こいつがスーパー頑張りナシコちゃん4(フォー)だ」

「なっ……!」

「お前……!」

 

 驚愕して立ち上がる二人に、得意になって両手を腰に当て、胸を反らす。

 邪魔くさい大きな胸が強調されて、うーん、やっぱこの形態下位互換じゃない? って思った。

 あ、ちなみにその時に着てるお洋服もちゃんと伸び縮みする仕様だよー。破けちゃったら大変だもんね。

 

「い、いつの間に戻れるようになったんだ……?」

「ん? お願い自体はずっと前にしてたし、お仕事でちょこちょここの姿にはなってたよー」

 

 ラディッツの疑問に、髪を弄りながら答える。

 19歳相当の見た目な私。いわゆる大人なナシコは、アダルティなアイドルを求めるファンに応えるために神龍に頼んで可変式にしてもらった私の変身形態の一つ。

 といってもあとは元のちっちゃい9歳相当の私に戻るだけなんだけど。あ、界王拳もかな?

 お仕事の幅が広がって、色々やれるようになったーってオーナーさんは大喜び。タニシさんは苦笑いしてた。私も苦笑い。こんなおっきなおっぱいはいらなかったよ。

 

「今度の私は……ちっと(つえ)ぇぜ?」

「くっ……!」

 

 ちょいちょいと指で誘って挑発すれば、立ち上がった二人が黄金の光を噴出させた。

 その戦闘力は、ラディッツが1億5000万に、ターレスが1憶7500万。

 こんな超パワーアップ、40倍じゃ追いつけないだろうって思うかもだけど、基礎戦闘力が違うんだよねー。

 

 私、戦闘力2億~。基礎最大戦闘力は500万、それの40倍。

 クウラ様との戦い含め、ちょこちょこっと修行したら戦闘力伸びたんだよね。

 うんうん、私強い! ……かな? うーん、弱い……?

 でも界王拳合わせてスーパーパワーアップすれば、たぶんクウラ様の最終形態とも普通に戦えると思う。

 

「ずぇりゃあ!」

「だぁああ!!」

 

 息を合わせ、サイヤパワーを振り絞って殴り掛かって来る二人に、敢えて避けない。

 二つの拳を顔で受け止め、ゆっくりと両者の胸へ手を伸ばす。

 

「『痛くも痒くもないぞ!』」

「誰だ!」

「声真似をやめろ!」

 

 驚愕混じりに抗議してくる二人を軽い気功波で吹き飛ばす。

 ていうか、あのね。なんで顔狙ったの……? 万が一傷ついたらどうするつもりだったの? キレていい?

 

「ターレス!」

「ああ!」

 

 シャシャッと後方へ離脱を計るラディッツに、逆に私へ向かってきながら両手を張り合わせるターレス。

 何かコンビネーションをしようとしてるみたいだけど……っと。

 

「!?」

 

 ドン、と私の胸にラディッツの後ろ頭がぶつかる。

 あ、なんか今のぽよんって感じだった。胸痛い。この脂肪の塊、鍛えようはあるのかなー。まじで邪魔。

 

「ちょっと、スピードを上げたら……もう、ついてこれないみたいだね?」

「…………!」

 

 たらー、と冷や汗を垂らすラディッツの耳元で囁いてあげれば、ぴくぴくと耳が動いた。

 あはは、耳真っ赤! かわいー。

 

「ぎっ!」

 

 私のウィスパーボイスをまともに受けて瞬時に反撃してくるラディッツに感心する。当たってあげないけどね。よしよししてやろう、と肘打ちをかまして地に伏せさせる。

 

「SNSで絡んでくるウザいオッサンの顔文字みたいな顔やめろ!!」

「しっ、辛辣!? ひど~い!!」

 

 バッと顔を上げたラディッツが叫ぶのに、心底傷つく。

 超銀河アイドルをおっさん扱いとは、許せん!

 

「おしおきデスビーム♡♡♡!」

「うおおっ、な、なんだこれはぁっ……!?」

 

 という訳でピンクの光線で貫いちゃう。

 胸を押さえて赤面したラディッツに顔の横で手をぴろぴろさせながらあっかんべーをする。

 そこでときめいてろばーかばーか!

 

「おあああ!!」

 

 ぐおお、と風を引き込む勢いで、腕を引き絞ってこちらへ昇ってくるターレスに、うあーかっこいい、と見惚れちゃう。サイヤンスピリッツだよ~!

 でもスウェーで避けちゃう。

 

「! っぐ!」

 

 突き出された拳を上体を反らして躱せば、私の胸越しに見下(みくだ)すような翡翠の瞳とかち合って、ちょっち背筋がぞくぞくってした。その荒々しい目、すき!

 

「だりゃりゃりゃりゃ! りゃあ!」

「よっ、ほっ、うんしょ、よいしょ」

「ざけんじゃねぇ!!」

 

 ぶんぶん振るわれる拳は猛りに猛っていて、うん、ターレスもラディッツも覚醒したばっかりだから、特有の興奮状態をまったく抑えられてない。攻撃が単調すぎるし、力に振り回されてるよ。

 そこらへん、やっぱり悟空さんは凄かったんだなあ。ナメック星で見る事のできたあの人の動きは常に綺麗で、武道に則った動きをしていた。覚醒直後なのに、超パワーを完全に使いこなしてた。

 

「ずぁあ!!」

 

 回し蹴りをふわりと後退して避ければ、思い切り拳を引き絞ったターレスが光線を放ってきた。フルパワーエネルギー波だ。

 

「てい!」

 

 前傾姿勢になって全身に込めた力を右手へ移動させ、手刀で弾く。

 後方で大爆発を起こす力に髪をなびかせながら口角を吊り上げれば、悔し気に顔を歪めたターレスが、フッと超化を解いて黒髪に戻った。

 

 そのまま床へ降りていくのに、腕を組んで息を漏らす。押し上げた胸が服を突っ張らせちゃったので、腕を組み直して調整した。あーんもう、ほんと邪魔! この胸デメリットしかないよ~。時々タニシさんが親の仇を見るような目で見てくる事もあるし、足元見えないし~。

 

 私も後を追って下りつつ、後ろ髪に手を通してばさりとやる。背にかかる風がきもちいー。

 

「『つまらない。戦う気がまるでなくなっちゃったみたいだね』」

「やめろっつってるだろうが」

「きゃんっ」

 

 得意げにフリーザ様の声真似したら額を小突かれた。こらぁーっ、だから顔はやめてって言ってるでしょー!?

 あっだっだからっておっぱいも駄目だからね!

 きゃー、と胸を庇って身を捩って隠せば、ターレスは真面目な顔して黙りこくった。

 ……あの、何か言って? じゃれあいのつもりだったんだけど……あああこれだからコミュ障はー!!

 空気読めない事に定評のある女だよ。へへ、じゃあねばいばいもうお部屋戻るね。

 

「ナシコォーッ!」

「──おお。来いやぁ!」

 

 気まずい雰囲気を嫌ってお部屋に戻って不貞寝しようと思ったんだけど、ラディッツはまだやる気満々みたいで、超速力で突っ込んできて私の前に大着地、勢いを乗せたままスライド突進して猛攻をしかけてきたので、全部応えてやる。

 私もスライド後退しながらその拳の全てを弾き、反らして、渾身の一発を受け止める!

 瞬間、前方へ気を噴き出せば、はい。ラディッツ完全停止~。

 

「てりゃっ!」

「おぐ!?」

 

 ドバン! と殴りつけて吹っ飛ばし、即座に地を蹴って後を追う。

 長くなった足を振るってバチリと蹴り飛ばし、握った手を顔の前で震わせ、腕を突き出すと同時に溜めたパワーを放つ!

 

「ばっ!」

 

 気合い砲。

 さらに弾かれたラディッツが向こうの壁にぶつかってめり込んだ。

 ありゃー、あれはちょっと自動修復機能じゃおっつきそうにない壊れっぷりだよー。

 

「あ、ラディッツも降参?」

「……ぐ、く、くそ……!」

 

 黒髪に戻って、ふわふわって浮き上がっていた長髪が落ちるのに問いかければ、呻き声で返された。そっかそっか。

 でも私、まだまだ全然大丈夫なんだけどなあ。

 

「ウィローちゃん、やる?」

「馬鹿を言え。もうわたしでは追いつけない領域だぞ」

「そっかー……」

 

 ダメもとで振ってみたけど、フラれちゃった。

 そうなると今日は組手はもうおしまい? あーん、暴れたりないよぉー!

 私、戦うのは好きじゃないしぃー、殴ったりするのも好きじゃないけどぉー。

 超パワーを振るうのは気持ち良くってだーいすき! 凄くすっきりする!

 それにカッコイイ人負かせるのもすきー。へへ、ナシコってば小悪魔~?

 

「私に負けちゃった罰としてー」

 

 壁から抜け出して膝をつくラディッツに歩み寄り、傍に座り込んで頭を抱える。

 無抵抗でされるがままな彼の顔を胸に埋めさせていじめる。

 うりゃうりゃ、苦しいかー? 降参?

 

「今日は一緒に寝ること!」

「……わかったから離せ」

「はあい」

 

 なんだ、ラディッツってばてんで効いてないの。やっぱサイヤ人じゃだめかー。

 こんな胸の使い道なんてこういう悪戯して反応を楽しむくらいにしかなさそうなんだけど、うちの子は誰も反応してくれなくてつまんないよー。ウィローちゃんは、あれ。ガチで悲しそうな顔するの。やばいの。

 

 やっぱおっきな胸っていらなくない? 満場一致! 神龍に頼んで萎ませてもらおっかな。

 しかしファンはたぶんこれ込みでアダルトナシコを求めているっぽいので、泣く泣くこのままにするのでした……けっ、何が良いのかねぇ。

 

 腕で胸を挟んで強調してみる。魅力がわかんない。

 アダルトナシコは手足が長いからその分リーチがあって、子供ナシコより断然格闘戦で有利だとは思うんだけど、この大きなお胸はとにかく動くのに邪魔でね? 動くたんびにちょっと痛いし。当たり判定もおっきくなっちゃってるから、うーん、やっぱり幼い私が最強フォームってことで。

 

「ちゃららーん」

 

 しゅるると縮まって子供ナシコに戻れば、今度は私があぐらを掻いたラディッツの中にすっぽり。

 首に腕を回してしなだれかかれば、さりげなく背中を支えてくれる優しさにほろりと涙が。

 ラディッツ……成長したね……お母さん嬉しい。

 その調子で存分に私を甘やかすのだ! すりすり。

 戦闘服ってゴムみたいなのに、すべすべだよねー。すりすりすり。

 

「ナシコよ、そろそろこやつらに、お前の知る超サイヤ人について話してやれ」

「えー? あのね、ウィローちゃん。私がサイヤ人について知ってるわけないっしょー?」

 

 歩み寄ってくるウィローちゃんとターレスにすっとぼける。

 だから、そういうの秘密なんだってばー。

 

「地球人だよ、私。宇宙人の伝説について知ってるわけー」

「話すのなら今日からまた一緒に寝てやろう。明日だけ寝る前にアイスを食べるのも許可する」

「超サイヤ人とは1000年に一度現れる伝説の戦士、でもそれは大いなる間違い──」

 

 あっこら勝手にお口がぺらぺらと……!

 だから秘密なの! 話しちゃいけないの!

 こらっ、何二人とも体育座りして聞く体勢に入ってるの!? ウィローちゃんはホワイトボード用意しないで!

 

「たしかに秘密多き女は魅力的に映るかもしれないが、わたし達にまでそうなのは寂しいぞ」

「……ううー」

 

 そういう言い方はずるいなあ。

 しぶしぶウィローちゃんからペンを受け取る。

 仕方がないからその気になった私だぜ。

 未来の事は内緒だけど、超サイヤ人のことくらいは説明したげよう。

 

「といってもどこから話したもんかな~」

 

 キュキュッ、キュッと落書きしつつ考える。

 私話下手だから、順序立てて説明したりするの苦手なんだよなー。

 いつもしっちゃかめっちゃかになっちゃって、中途半端に終わっちゃうの。

 ほい、超サイヤ人3の悟空さん完成~。わ、私、絵うますぎ……!? 芸術家の才能もあるかもっ。

 

(おい、なんだあれは)

(お前じゃないのか。あの髪らしき何かは)

(……冗談じゃないぞ。まるきり化け物ではないか)

 

 ふんふんと上機嫌に鼻唄やりつつ、超1の悟空さんも描いていく。

 矢印つけて、超1、と注釈をつける。

 

「じゃん。これが超サイヤ人だっ」

「………………カカロットか?」

「そだよ? なんで? 見りゃわかるっしょー」

「うむ、見ればわかるぞナシコよ」

 

 でしょ? なんでラディッツもターレスも目を細めてんのかなー。目ぇ悪くした? サイヤ人が? まっさかー。

 

「これ、戦闘力が高いサイヤ人がぽこっとなれる形態で~、この上に超サイヤ人2があってー、3もあってー」

「待て待て待て待て!!」

「つ、2とか3とか訳の分からんことを……!」

 

 おっとっと、二人とも困惑してる。ちょっと話すスピード早かったかな? ゆっくりめでいこう、ゆっくりめで。

 

「これがー、悟空さんやベジータ、ラディッツにターレスがなってる基本的な形態で~」

「……」

「……」

 

 黙りこくってる二人に、なんか質問ある? と視線を向けたら、いいから話せって感じで顎をしゃくられた。

 そ? じゃ話すけど。

 

「あ、そーだ。この基本形態にも段階があってねー、ムキムキになる第2段階と、超ムキンクスになる第3段階と、常に超サイヤ人でいることで慣らして無理なくフルパワー使えるようにした第4段階とー」

「っ……、……。」

「なあ、おい……」

「しっ。水を差すな……!」

 

 なに? なにこそこそ話してんの。私、自分が話してる時に遮られるのいっちばん嫌いなんだけど!

 ……うんうん、注目注目。ナシコお姉さんに注目してね! お口にチャックだよ~。

 

「もうちょっと戦闘力高めると次のステージである超2に変身できるようになるよ。ナシコみたいなバリバリかっこいいやつ!」

「……」

「……」

「3は眉がなくなって髪が伸びるの! ラディッツみたいな感じ! 超カッコイイの~!!」

 

 胸元できゅうっとペンを握ってはしゃぐ。

 ああーっ、はやく悟空さん帰って来ないかなあ! 超サイヤ人3にならないかなあ!!

 私、あの悟空さんが一番好き! 龍拳いっちばん好きなの~!

 せっかく生で見られるんだから、間近で見たいなっ。パワーを肌で感じたい!

 ふふー、ホワイトボードの超3悟空さんに花丸つけちゃう。これ、最高の形態ね!

 

「そいで次は超サイヤ人ゴッドねー。サイヤ人の神様!」

「……どっかで聞いたことあんなぁ」

「そうか? 聞き覚えがないぞ。ナシコの出まかせではないのか? ──ピギュ」

「そこ! 私語は厳禁! だよっ」

 

 

 せっかくナシコが秘密にしなくちゃいけない事を話してあげてるのに、失礼なこと言ったラディッツにペンを投げつける。スコーンとぶつかって戻って来たペンをかわいくキャッチ。

 次そういうこと言ったらもう話してあげないからね!

 

「痛ぅ~……わ、悪かった、わかったから!」

 

 額を押さえてぶんぶん手を振るラディッツに、両腰に手を当てて覗き込む形で「めっ」てする。

 さっきも言ったけど、話を遮られるのほんとにヤなの! 気分最悪になるんだよ。マジで怒るかんね!

 

「なんだっけなー、5人の正しい心を持つサイヤ人が、もう一人にパワーを注ぎ込む事でサイヤ人の神が誕生して、えー、そのパワーを慣らした状態で超サイヤ人になれば、ブルーの完成! あ、最初はね、超サイヤ人ゴッド超サイヤ人って呼ばれてたんだけど、さすがに長すぎるのかブルーって呼び方になったんだよね!」

(……4はどこにいった?)

(疑問はわかるが大人しくしとけ)

「あの、ブルーはねー神の気ね、感じられない感じの、神のね、そういう領域の超サイヤ人なんだよ。破壊神ビルス様とかもそうなんだけど、神に至ると気を感じ取れないほどクリアなものになって、あ、でも強くなればそうなるって訳じゃなくて、ヒットとかジレンってたぶん普通に気が表面化してるだろうし、あ、ヒットとジレンっていうのはここじゃない他の宇宙の戦士で、それぞれ別々の宇宙なんだけど、ここが第7宇宙で、そういや他の宇宙には伝説の超サイヤ人の女の子がいて、もちろんうちにも伝説はいるよ! でも別換算っぽいんだよね。それこそが1000年に一度生まれる伝説の戦士、あ、でもそれは4っぽいかな? やっぱりブロリーとかケールは別枠なんだと思う。伝説といえば、才能があれば戦闘力なくても超サイヤ人に覚醒できるっぽいんだよねー、バーダックとかそんな感じだと思う。それで、第……10宇宙? どこだったっけ、忘れちゃったけど、私ジレン好きなんだよねー。つぶらな瞳が案外かわいいっていうか。最初はあんまり好きじゃなかったんだけどね。だって理不尽に強いし、悟空さん以上とかありえない! って思ってたよ。過去編はいらなかったなー、でもゲームやってたら好きになった。ジレンが出てくるとうおお、こいつは強いぞ! ってなるんだよね。あ、ヒットも好き! 時飛ばし格好良いの! あれ超能力なのかなあ。覚えられるのなら覚えてみたいなー。そういや他の宇宙のサイヤ人だと超サイヤ人になるのにS細胞とかいうのが必要らしいんだけど、聞き覚えある?」

 

 ふと、新設定あったけど、ここだとどうなってるんだろうって疑問に思って二人にペンを向ける。

 ……うん? あのー、聞いてる?

 二人とも目をつぶってるんだけど、まさか居眠りしてる訳じゃないよね?

 単に別の宇宙のサイヤ人の事なんか知らないーってだけだよね?

 ……ならいっか。

 

「それでね、あ、そうだ、ブルーと超サイヤ人4っておんなじくらいの強さって聞いたなあ。4はねー、あんまりわかんないや。GT見たの結構前だからなー。ゲームとかじゃよく見るんだけど、なんだっけなー。ブルーツ波がどうこう。ブルマさんに頼めばなれる機械作ってもらえるんじゃない? 頼めないけどねー。私はやだよ、お願いしたかったら自分達で行ってね!」

 

 この重力室のことだけでももう何度も頼み事してるんだから、こんな装置作って、とか言えないよ。迷惑かけっぱなしだよ。

 えーと、どこまで話したっけ。ちょっと思考が脱線すると忘れちゃうんだよなー。

 

「あっ」

 

 ペンを顎にとんとん当てながら思い出そうとしてたら、そのペンをウィローちゃんに取り上げられちゃった。

 なになに? と思う間もなく背中を押されて歩かされて、ウィローちゃんがしっしと追い払ったラディッツとターレスのいたところに座らされた。

 

「質問形式に切り替える。……最初からこうすれば良かったのだ」

「え、なんでなんで? わかり辛いとこあった?」

「…………わたしが聞いた事にだけ答えろ。余計な事は言わなくていいから……」

「えー、なにそれ」

 

 ホワイトボードの前に移動して、はぁっと溜め息をついて腕を組むウィローちゃんの左右にラディッツとターレスが控える。

 ……何その微妙な顔。なんなの……? よくわかんない。

 

 よくわからないまま質問タイムが始まって、超サイヤ人が伝説の存在ではないとはどういう意味かーとか、段階とは何かーとか聞かれて、スムーズにお話しできたかな。でも超サイヤ人1の話しかしなかったんだけど、いいのかなー。超サイヤ人ロゼの話とかいらない? え? いらないの。どうしたの、頭痛いの? だいじょぶ?

 

 へへ、私の知識もたまには役に立つね。たっくさんお話しちゃったから喉乾いちゃった。途中途中で三人が審議タイムに入っちゃうから結構時間も経っちゃったし、もう夕飯の時間じゃない?

 

「もしもーし。今日のご飯はなんですか~?」

「確かに変身すると気性が荒くなる。気のコントロールも上手くいっていない感じがした」

「ああ。慣らせばフルパワーを出せるようになるってのはそういう事だろうな」

「だが、そう上手くいくのか? ただ変身するだけでも中々難しいものがあるぞ」

「基礎戦闘力が足りねぇって事なんだろ。おかしな話だぜ、ここまでパワーアップしたってのにナシコが言うには雑魚なんだとよ?」

「訳がわからんな……」

「同感だ」

 

 ……無視されたー。悲しい。

 乱暴に目元を拭い、私そっちのけで話し込むサイヤ人連中は放っておいて、ホワイトボードを片して戻って来たウィローちゃんに構って貰うことにする。

 

「ぐすっ、あのねあのねっ、私の新形態の名前、聞きたくなーい!?」

「…………ああ」

「でしょ! あのね、バチバチってするところから考えたんだよ。名付けて『ナシコスパークリング』!」

「スパークリング……?」

「うん! ……?」

 

 ん、なんか違和感?

 えーと、なんだろ。何が変だったのかわかんないや。

 というわけで、ナシコの新形態はスパークリングに決定だよ!

 ワイン? ……ん、なんでワインって今思ったんだろ。私お酒はあんまり飲まないんだけどな。

 

「あ、今日ピザ取ろうよ! 食べたくなっちゃった」

「ふむ、時間があればターレスが作っただろうが、たまには店のものを食べるのもよいか」

「ピザならコーラも飲んでいいよね。醍醐味だもんね~」

 

 普段はご飯の時にジュースは禁止だけど、ピザ食べるならコーラに決まってるんだから、飲みたい飲みたい!

 一度その欲求に憑りつかれてしまったナシコはもう止まらないのだ。俺はとことん止まらない!! 許可を得るためにウィローちゃんに抱き着いてほっぺたすりすりおねだりする。

 おねがいおねがぁい♡ ね、ね、いいでしょ~?

 

「わかったわかった、やめんか鬱陶しい」

「へへー、やったぁ!」

「はぁ~……」

 

 耳元で特大の溜め息を吐かれるのにくすぐったくて身動ぎする。

 ウィローちゃんも抱き返してくれて、ぽんぽんと背中を叩いてきた。ふっふっふー。

 さしものウィローちゃんも密着状態でお願いすれば、断れるはずもないのだ!

 この世にナシコの可愛さに敵う者はいないんだよ……!

 

 それはそうと、ご飯食べ終えたら修行しなくっちゃ。

 摂取したカロリーを燃やし尽くす目的もあるけど、一番は戦闘力向上だよね。

 守りたいものを守るためには、何よりパワーが必要不可欠。

 ……襲ってくる宣言してたベジータも怖いし、返り討ちにできるようめいっぱい鍛えとかないと。

 

 この時期ベジータがどんくらい強かったかなーと考えつつウィローちゃんをお姫様抱っこして運ぼうとして、頭引っぱたかれて涙目になったりするのであった、まる。




TIPS
・ついに目覚めた伝説の戦士!
ラディ「とっくにご存じだろう?(お前のだらしなさに日々キレていることを)」
タレ「オレは台所から貴様を叱るためにやってきたサイヤ人……」
ラディ「強靭な堪忍袋を持ちながらも激しい怒りによってブチぎれた伝説の戦士……」
ラディタレ「超サイヤ人※1だーーっっ!!」

・※1
おかん、またはおとんと当て字する

・ナシコ
最初は言葉で、次は頭を叩かれて
最後におしりぺんぺんなどのお仕置きを受けるようになってもちっとも懲りない伝説のぐうたら人間
むしろスキンシップとして喜んでいるフシがある
悪戯もだらけも気を惹くためなのかもしれない……
いややっぱりただのぐうたら人間だ
基礎戦闘力は500万。ノーマル上限5000万

・ナシコスパークリング
三日間絶食のうえ、25倍界王拳の継続使用で壊れかけた体を100倍の重力下で激しく苛め抜いたナシコが辿り着いた境地
自らの潜在パワーを不完全ながらに解放している
ちなみにスパーキングをスパークリングと言い間違えたのには後日気付いたが、今さら引っ込みがつかなかったのでこの名前で定着した
最大戦闘力は2億

・スパークリング界王拳
スーパー界王拳と同じ分類
スパークリング化(以下超化と表記する)とは別換算

界王拳の倍率は1.5だが
超化した際の40倍の戦闘力にこれをプラスする形となる

500万×1.5=750万
よって最大戦闘力は2億750万

10倍界王拳なら2億5000万
負担が大きいのに見返りが少ないのは、本家本元のスーパー界王拳と同じだ

・ナシコ(子供形態)
9歳当時のナシコの姿。身長は128.8cm、体重は24kg
天真爛漫、元気溌溂、子供パワー全開
可愛い×子供=何をしても許されると思っているため
無茶な言動が多発する、もっとも気苦労をかける形態
甘えたがりで引っ付きたがり。邪険にすると頬を膨らませて拗ねるぞ

・ナシコ(大人形態)
19歳当時のナシコの姿。身長は165㎝、体重は57kg
幼さはすっかり抜けて目元の涼し気なクールな美人さん
胸を疎ましがっているが、やたら強調したりするのは、やはり人の気を引くためだろうか
このナシコは大人形態になるとバブみが春蟹鱒
子供の時と違ってやたらと甘やかそうとしてくるぞ

これは秘密だが、子供形態より体重も増してるので攻撃の威力も地味に上がる

・ナシコ(アイドルモード)
礼儀正しく明るく元気、清楚で清純、ちょっと潔癖
恥じらいがあり、常識があり、遠慮があり、気遣いがある
子供の時はもっぱら元気、大人の時はだいたいクール
ラディッツ・ターレス・ウィローらが満場一致で最も推している形態である

・ベジータ
超化した際の最大戦闘力は1億5000万

・ソリッド・ステート・カウンター
相手の攻撃を完全に受け止め、反撃したあとに追撃する

・痛くも痒くもないぞ!
防御せずに相手の攻撃を受け、気功波で反撃する
魔人ブウ(悟飯吸収)の声真似のおまけつき

・ソニックスウェイ
その場で相手の攻撃を全て避け、反撃する
大人形態だと成功率が下がる

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