「とぁあーっ!」
「ふっ!」
気合いの声をあげ、13号を殴りつける。でも避けられちゃった。
向こうは余裕がなさそうな顔してるけど。っと!
「後ろ!」
「ぐふ!」
こっそり回り込んできて攻撃してきた15号のお腹に肘を打ち込み、バリッと走るスパークで弾き飛ばす。
続いて剛腕を振るう14号の拳を腕で受け止め、巨体の脇から顔を覗かせた13号の正拳を、膝を突き上げるようにして足で受ける。
「っく……くく……ぅ!」
「仕掛けろ!」
「シャーベット!」
13号の号令に合わせ、三角の位置取りで私を囲んだ三人の猛攻が襲い掛かって来る。
いくら戦闘力に開きがあるからって、拳や蹴りの乱打を片腕と足だけで受けきるのはちょっと難しい! スウェイで避けようとするとヤなタイミングで刺し込んでくるしっ……! 行動パターン見切られてるのってイヤ!
「ふっく、うりゃ!」
「おぐ!?」
突き出され引き戻されていく腕、蹴り上げ、蹴り下ろされる足によって巻き起こる暴風に乗るようにして避けつつ反撃。13号の鼻面に頭突きをかませば、彼はこの輪から抜け出して様子を見始めた。
うんっ、二人相手なら……!
無理かもっ……!?
「んっ!」
「くひ……!」
不意打ちアイビームもちょっと下方向へスライドされるだけで避けられてしまった。穿たれた氷の壁からパラパラと落ちる氷片に混じり、上昇してきた15号がくつくつと笑う。当然技も把握してるって訳? やらしーよそういうの!
「ガァ!」
「んっく!」
組んだ手を振り下ろす14号のパワーハンマーを腕を上げて防ぐ。ガァンと視界と体がぶれて、でもダメージなんか全然ない! 腕痛いけど、痛いのなんか知らないしっ!
ていうか今ちょっと左手の位置ずれたずれたっ、やば、見えちゃうから! 隠せ隠せ! やばいやばいやばい!
「ゴアアッ!」
「痛った! っんの!」
手の位置を直してるところに頭を殴られて、キッと見上げたとこにはもういない。気を感じらんないから動く風の感じや音とかで把握しようとしてんのに、このっ、このっ、こいつら~~!
もう怒った!!
「やめろーーっっ!!」
「ぬ、ぐ!」
「ォッ!」
叫ぶと同時に目をつぶって、見上げるようにして思い切り気を噴出させる。
全方位への気合い砲で弾き飛ばした二人は、でもすぐに戻ってきて攻撃を絶やさない。氷壁に跳ね返ってそのままシームレスに殴り掛かってくるのに慌てて対応する。
くっそ、全然ペース変わんない! こいつら永久式でエネルギーも体力も無限だもんね! ずるいよなあ!
「99.9%……きさまの行動は全てお見通しだぞ、ナシコ」
「どうかな!」
「潰せ」
ややタイミングをずらして前後から襲い来る二人を、その場で急速回転して流れる髪で牽制すると同時にフルパワーエネルギー波の発射体勢にっ、く!
見透かされてたのか、青い光に腕を打たれ、放った光線が空の彼方に消えていく。そのほんの数ミリ横の位置に浮かぶ14号は、チリチリと焦げた髪を気にせずに歯を剥いて突進してきた。
「はあああっ!」
「……!」
「ふひ……!」
避けて捌いていなして逸らす。
アニメや映画じゃよく見た高速の格闘戦も、実際やってみたんじゃ忙しくって敵わない!
数十数百の打ち合いは体感時間数分くらい。ほんの何秒のうちにそれだから、わりかし腕が攣りそうだったりスタミナがガシガシ削られていってしまう。いくら私の方がずっと強いって言ったって、このままじゃジリ貧かも!
「でもっ!」
振り抜かれた腕を掻い潜ってショルダータックルをぶちかます。即座に右肘で背後の15号の顔を打ち──寸前で止めて腕を広げて吹き飛ばす。下降して避けようとした15号が見事にフェイントに引っかかって回転しながら氷壁に着地し──光を噴出させて頭突きをし返してきた。っ、読まれてた! ダメージ無し! ってかまた手ぇずれそうになったんだけどぉ!?
「くっそ!」
やり辛くって敵わない。動き読まれてるし、気がないから動き読めないし察知できないし、何より左手使えないから手数減って、あと同じポーズ維持しなきゃで普段と違う構えしてるからバランス崩れてしょうがない!
隠そう隠そうと意識しちゃうと気が逸れるからってのもある。胸に手を当てたままじゃ動き辛いからってのも当然。
でもこんなの不利じゃない。ピンチじゃない。
い、い、いざとなったら、ひ、左腕だって使って一気に……!
「そうらっ!」
「!?」
視界を塞ぐようにして攻撃してきていた14号15号の間から突然に13号が割り込んできて、ガードに回した腕を突くように蹴られる。
ダメージを与えるってより怯ませるのが目的っ!? 勢いを止めきれず後ろの氷壁にぶつかって跳ね返ったところを、さらに二人同時の体当たりに弾かれて氷にぶつかる。頭から帽子が零れて──。
「くっは……あ!」
片方が塞がった視界が細まって、にじり寄る14号と15号に、ノーモーションの気功波を撃とうとして──背中に衝撃。
上空から飛び蹴りを仕掛けてきた13号の足にぐんぐん押されて、背中が反った状態で地上へと追いやられていく。
抜け出す方法を思いつく前に地面についた。一面銀の雪世界。ズボッと入った雪粒が押し固められて結晶になり、13号とでサンドイッチしてくるのにうめく。それでも手は絶対に離さない……!
その場で寝返りを打つみたいに上下を入れ替えて奴の足を払おうとして、飛んで逃げられるのに、体の前面から光線を放てば手刀で弾かれた。咄嗟だったから威力足んなかったかな……! 見たとこその手からは黒煙が上がって、ダメージ入ってるぽいけど、13号の余裕の表情に変わりはないからいまいちわからない。
上昇する彼と入れ替わりで14号と15号が下りてくる。片や棒立ち、片や後ろ腰で手を組んで、まるきり余裕ってわけ? 馬鹿にして。
姿勢を変え、両腕を前に突っ込んでくる二人に、手をついて跳ね上がる。放物線を描いて後方へ。
地表すれすれで飛行して追い縋って来ては着地時の隙を狙う二人に、揃えた両足で地を蹴り雪を散らしてバク転。もいっちょ、今度は大距離バック宙!
「これでもくらえっ!」
「!」
「……!」
足を開いた状態で着地し、振りかぶった右手を突き出して片手かめはめ波を放てば、急停止した二人も同時に光線を放ってぶつけてきた。
気功波同士が競り合う。状況はこっちが有利。向こうがぶつかる寸前に攻撃に転じたのもあるけど、単純に、腕が埋まってるの関係ない気の大きさ勝負ならこっちのが上!
「ヌ、グ、グゥ……!」
「ゥギ……! ギ……!」
雪に四本の線を引いて後退していく二人に、さらに出力を上げつつ警戒は欠かさない。
今上空に逃れた13号が攻撃の機会を窺っている。これ以上力んだら即座に光線でも打って来るつもりか……! それとも気の放出が終わった直後に仕掛けてくるか!?
どっちにせよ、待ってなんかやんないけどね!
14号、15号両方の背中が氷壁にまで到達した、その瞬間。
『今だっ!!』
「っ!? このデータはっ!?」
「波ぁああああっ!!!」
悟空さんの声が響き渡り、合わせてMAXパワーにまで引き上げた気功波が氷の壁を溶かして二人を押しこんでいく。13号は、攻撃を仕掛けてはこなかった。スカウターみたいな計測音を鳴らし、私の気の質の変化についてこれず戸惑っている。
「そ、孫悟空……データはそう示しているが……!?」
氷河地帯を照らしていた光が収まり、同時にそびえる氷壁を砕いて二体の人造人間が飛び出した。
どっちもボロボロの満身創痍だけど、パワーは落ちてないし、表情も変わらない。消し飛ばせなかったか、頑丈な……! ていうかあれほんとにダメージ受けてんのかな……!
「SSデッドリィボンバー!!」
「ん!」
柏手を打った13号が、手を広げるとともに必殺の気弾を作り出す。
真っ赤な球体を核として、薄い膜を張る大きな光弾。
あれはたしか、かなり追跡してくるやつ!
「はあっ!」
ポウッと放たれたそれに、こんなの避けるまでもない、と構え──んーん! 目の前!
斜め上空から迫るデッドリィボンバーに視線を向けた瞬間、二人が超低空飛行で突っ込んでくるのに気付いて防御姿勢。
「ぜぇい!」
気合い
「てえりゃあっ!」
足の甲が捉えた薄い膜さえ質量があってぐんにゃり曲がり、衝撃を吸収しようとしてきたけど無駄! 核まで押し退け、空へと逃がす!
「ここだ!」
「んあっ!?」
視界から赤い光が消えると、それに身を隠すようにして仕掛けてきた13号に胸を隠す腕を蹴り上げられた、っけど! 後退が間に合って、左腕のほんの表面を掠れさせるのに止めることができたっ……!
おおま、おま、お前! 今なんでそこ狙ったの!?
「っ、戦ってるのにふざけないでよ!!」
「ふざけてなどいない。オレ達は常に最適な攻撃を仕掛けているだけだ」
「そんなのおかしいでしょ!?」
頭のおかしな戦い方をしやがって! 正々堂々やれ!
摩擦熱の残る左手でしっかり胸をカバーして、がるるっと威嚇する。
13号は肩を竦めて笑うのみだった。むかつく……! この変態! 死ね!
「見えたぞ」
「えっ」
──うそ。
やだ、うそっ。だってちゃんと手で隠して──!?
ふっと空気の圧が被さってくるのにはっとして、振り返ろうとしたところに背後から組みかかられた。14号だ!
太い腕に首を絞められ、頭を押さえつけられるヘッドロックの姿勢。奴が背を反らすのに合わせて体が持ち上がっちゃったせいで、外そうとする力が逃げてしまった。
「っぐ、ふぐっ、う!」
「ふっふっふ、お前の行動パターンはお見通しだと言っただろう。そうして動揺して隙を見せるのはわかっていたのだ」
こ、このっ、じゃあやっぱり嘘だったんじゃん!
で、でもっ、こんなの意味ないよ! 全力で暴れればすぐ脱出できる!
さっきからの攻防で力の差は把握した。マッシブな14号だけど、私の細腕の方が遥かにパワーは上なのだ!
「やれ! 14号!!」
「シャーベット……!」
「う!」
ぎゅっと首を絞められるのに、首筋に力を入れて対抗する。ばかめっ、そんなの意味ないったら!
前のクウラ様の尻尾より全然らくちんに跳ね返せそうな腕を引っ張りにかかる。向こうも全開パワーで抵抗するけど、もう気道確保できちゃった。んでもって、このままなら反撃確定でぶっ壊せそうだってところで、頭から離れた手が一瞬の間をおいてお腹に当てられた。
ゴツゴツした大きな手。冷たい感覚に肌が攣るのに、何がしたいのかよくわかんなくて──。
「んぐぅ!?」
ぎゅん、と力が抜ける感覚に身を丸めた。
お、お腹、おなかのっ、あて、当てられたとこ、なんか丸いのある……!?
それに気が吸い取られてるような……まさか、えっ、でも、こいつら永久式……!?
「ふああうっ! ふっ、ふっう、く、ん……!」
「よし、押さえ込めているな……」
「んんーっ、このっ、はぁう!?」
何これっ、何これっ、ほんとに力が抜ける!
パワー吸収されてる! めっちゃ吸われてる! お腹ふわふわする!
やばいまじこれやばいよ! なんか、なんか、やばい!
「そいつはエナジー吸収装置だ。きさまのパワーを根こそぎ奪いつくしてやろう」
得意げに話す13号に、目をつぶって体に力を込め、拘束から脱しようともがく。
でも、これ、心地良くって……だめだ……!!
な、なんで気持ちいいのっ!? こういうの痛いんじゃないの!?
痛いの覚悟する練習はしてきたけど、こんなの予想してなかったよ!!
「まあ、奪ったエネルギーをオレ達にプラスする事はできんがな」
「くっ、ぐくっ、うぁあんっ!」
「だが、こうしてパワーダウンさせる事はできる……もはや勝機はないぞ」
きゅうっと手を握ってパワーを全開にしても、噴出して最大まで達した傍からお腹に当てられた冷たい球体に吸い取られていく。
甲高い音をたてて激しく荒れるスパークに、力の抜けちゃいそうな体に喝を入れるように声を上げながら足をばたつかせた。
っでも……ぜんぜん、ちから、はいんなっ……!?
「きゃううっ! ひぅっ、こっ、こんなっ」
「どうだ。リラックスしてきただろう? 痛みを与えるより快楽を与える方がスムーズに気が吸い取れるのだ。疲労も回復してしまうが、その時にはもう、お前は無力となっている……」
「やぁっ、はなっ、はなしてっ!」
「離すな、14号。まだそいつの方がオレ達よりパワーは上だ」
「……!」
首に巻き付く腕に力が入って、けはっと息を漏らす。
苦しいのに、こんなに力んでるのに、まるでマッサージ屋さんにいる時みたいに気持ち良くて、眠っちゃいそうなほどで……。
う、だ、だめだめっ、意識はっきり保つんだ、ナシコ! がんばって! 負けちゃだめだよ!
こんな奴らに負けちゃったら、ばかばかしくってたまんないんだから!!
「ううーっ……! ふんぬぬぬ……!」
「……!?」
全力全開。出し惜しみなんかしない。
さらに激しくスパークして、噴き上がった気に14号が仰け反るのを体で感じた。
一瞬跳ねて離れたエナジー吸収なんちゃらに、でもすぐ押し当て直されて力が抜けてしまう。
ま、まけるかっ……! まけてたまるかっ……!!
「やはり、まだそれだけの力を発揮してくるか」
ギチギチと締め付ける腕を片手だけで掴んで、引き剥がしにかかる。
もうお腹のやつは意識しない! ふわっふわってなって、きもちいくって仕方ないけど!
「ふーっ、ふーっ、ふんううう……!!」
私の気に赤い焔の如き揺らめきが上乗せされる。
スーパー界王拳だ! こ、これで押し切ってやる……!
「ッ!? 15号!!」
「……!!」
そう思ったのに、加勢して取りついて来た二人に押さえ込まれて、しかももう一個あったっぽいエナジーなんとかに、鎖骨のちょっと下あたりからもぎゅんぎゅん気を吸収され始めた。
「ふわぁっ! んっく、あ!」
叫ぼうとして、もうなっさけない声しか出てこないのに苛立って、その苛立ちさえリラックスさせられちゃうのに消えていく。
うあああ、お布団に包まれてるみたい……やっばい、眠い! ちょー眠い! こんなのあり!?
開いた口が閉じらんなくて、その気もないのに声が出ちゃうのに、頭を振る。
「これは……界王拳か! この状況で使用してくるとは……! 相当意識が乱れているはずだ……!」
気持ち良いのから逃れようと頭を伸ばして、狭い中で足を動かしてつま先でどっちかの太ももを蹴りつける。効いてるのか効いてないのかわかんないけど、ちょっとだけ見えた13号の顔は焦った感じだったので、たぶんまだ、私が優勢……!
「ひゃ!?」
ぐい、と左腕を引っ張られるのに、大慌てで力を籠めて対抗する。
な、ななな、なんで腕剥がそうとすんのっ!
いや、あの、狙いはわかるけどっ! わか、わかるけどっ!
「や、やだっ、やめ、ひっぅ、やめてよっ! んっ!」
「くっ……! まだパワーが上がっていく……!!」
「ヌ、グ……!!」
「……!!」
「は、なし、てっ! っひゃう!」
やば、やばいやばい! 力抜けてるせいで15号に左手引き剥がされそう!
わか、わかってんの!? そんな事したらお前ら全員一瞬で粉々になるんだよ!?
やめよ!? そういうのやめよ!?
「!」
スーパー界王拳を2倍まで引き上げてようやく拮抗していた15号の手の力が弱まり、お胸をばっちりガードできるようになった。そ、そうそう、それでいいんだよ! せっかくナシコのパワー吸収してさ、弱体化狙ってるんだったらそのまま大人しく吸収し終わるまで待ってようね!
「はーっ、はっぐ、はぁぅ……!」
でもどうしよ、ほんと、じり貧だよこれ!
結構、息も苦しくなってきた。抵抗するのも辛いのに、凝りを解すようにぎゅう~って感じで気とか疲れとか吸い取られてきてて……あれっ? なんか元気になってきたかも。
うあー、でも、きもちー……おなか、ぎゅんぎゅんしてるー……。
「って、いやいや違うでしょ!」
「!」
「ひゃぅううんっ!?」
ほげー! 自分で自分にツッコミ入れたらめっちゃ気ぃ吸い取られて変な声出た!
ああ、でもおかげで目が覚めたよ……! そのまんまの意味でね!
試したことないけど、10倍まで界王拳の倍率上げて、一気に抜け出して倒すしかない!
「ふぅぅぅっ、ふ、んんんんーっ」
乱れに乱れた意識と呼吸を安定させる。
んぐぅとなんとかお口を閉じて、深いところに意識を落としていく。
そうすると余計に胸とお腹から吸い取られていく気の感覚が鋭敏になって、合わせた唇が震えてしまう。背中を駆け上るものに思わず声が出ちゃって、無意識に頭を振った。
だめ、だめだよっ……ちゃんと集中して……!
「んぐっ!?」
ドッと体が揺れた。
反射的に開いた目に、お腹に突き刺さる拳が見えて、それが15号の手だとわかると徐々に痛みを自覚してきた。
お腹を圧迫していた拳が引き抜かれていくと、私の体が伸びて弛緩する。
「っぎ!」
ドス! って、今度は13号が殴ってきた。
たぶん、私がパワーアップしようとしてるのを察知して妨害してきたのだろう。
再びお腹を殴ろうとする15号のパンチを、なんとか持ち上げた足で受け止め、でも13号の方に対応できずにくらってしまう。
「っげほ、げほっ、ふぐっ!」
引き上げるように首を絞められて、今度は15号に殴りつけられた。気で強化してガードしようにも、全部吸い取られちゃって上手くいかない。痛いのと気持ち良いのが交互に来る。
13号と15号のお腹へのパンチも、交互に来た。
「あぐっ! やめっ、がふっ!? っぐ! うぐっう!」
一発一発の衝撃が凄い。みるみる青あざができていくお腹に、こっちも自由な両足で反撃しようとしてるんだけど、てんで力が入らなくって失敗する。
そのうちに喉に鉄の味が広がってきて、咳込んだら血が出てきた。
「ぁ……」
纏っていた気が消え、スパークもまた消える。
スパークリング、解けちゃったみたい……。
朦朧としてきた意識をなんとか繋ぎ止めながら、喘ぐように息をする。
「くひひ……」
もう、パンチはこなかった。
完全に無力化したと判断したのかもしれない。
そうしたら、次はトドメ? ……私を殺すのが目的だって、言ってたもんね。
でも、そう上手くはいかせないよ……!
「ふんにっ!」
「……!?」
「む!」
ぐぐぐっと四肢が伸びる。ぐんと身長が伸びて、大人なナシコへと変わっていく。
その過程でほんの僅か、首を絞める腕にできた隙間になんとか指を差し込んで脱出をはかる。
──よし、抜けれたっ!
「ヌガァ!」
「んっしょ!」
お次は反撃! 再び捕まえようと抱き着こうとする14号の股下を抜けて、足首を掴んで振り回す。
そうすれば大慌てで飛び込んできた15号と13号を打ち返すことができた。
「お前も行ってこい!」
「!!」
氷壁へ向けてぶん投げた14号が、分厚い氷を砕いて突き進んでいくのを見届け、ふうっと息を吐く。
それからずっしり重たいお胸を押さえ直して、頭を振って髪を揺らす。ゆっくりと地上に下り立ち、足元のふかふかな雪に体重をかけて固めていく。
「っ痛ぅ……」
うげー、お腹痛い……好き勝手やりやがって……! 私じゃなかったら死んでたよ!
ていうか、ああ、大人なナシコになんかなりたくなかった! 余計胸隠すの難しくなってるし、ていうかもうこれ半分見えてる感じじゃない!? え、だいじょぶこれ? 強く押さえとこ……あっあっ、やっぱやめとこ! いかがわしい感じになってる!
「──!」
瓦礫のように折り重なる大きな氷片の山の中から、光を纏った14号が飛び出してきた。
合わせて15号が飛行してきて並列し、その上空に僅かに遅れて13号も来る。
対応しようとして、ふらっと足が崩れそうになるのに吐息する。なんとか持ち直そうとするけど、膝が笑うのを抑えきれなかった。
髪が半分視界を遮るのを直す間もなく、接触。
「よいっしょお!!」
「ウガァ!?」
「ちぇいっ!!」
「!?」
ふらつく私に愚直に突っ込んできた14号にラリアットをかまして地面へ叩きつける。バアッと舞い上がる粉雪の中で回し蹴りっぽく15号の体を足裏ぶつけて吹っ飛ばし──迎撃準備に私が死にそうなフリをしていたのすら計算の内だったのか、空からSSデッドリィボンバーを放ってきた13号に、これを片手で受け止める。
「ふぎぎぎぎっ……!!」
熱波が吹きつけてくるのに歯を噛み、ザリザリと後退するのに踏ん張って押し負けないように頑張る。
だけどパワーがガタ落ちした今のこの体じゃ、ちょっと跳ね除けらんない……!
だったら、こうしよっかな!!
「えすえす、でっどりぃ、ぼんばぁーっ!!」
「なんだと!?」
私の気で包んだ大きな光弾を無理くり操って跳ね返す。それは、さすがに驚愕を露わにする13号に迫り──避けられた!
「むだだよっ!」
「!」
でもどこまでも追いかけてくからね! そういう技でしょ、それ!
腕を振りつつデッドリィボンバーを操って高速機動で逃げ惑う13号を追わせる傍ら、小ジャンプして背中から倒れ込む。体重を乗せた肘打ちが起き上がろうとしていた14号の顔面に突き刺さった。
「っく、ふ!」
即座に横へ転がって退避すれば、槍のように落ちてきた15号のパンチが雪の礫を撒き散らした。
腕を振って風を起こし、散らす。それから息を止めて力んで、もっかいスパークリング!
「うりゃあーっ!!」
「! っ!!」
忌々し気に顔を歪める15号へ超速突撃キックをぶちかます。
サングラスが割れ、積もった雪に一本道を作って転がっていく15号に、いったん止めていた息を吐き出した。
おっきく肩が上下する。そのたびに白い吐息が漏れて、あと、胸、重い……。
でもちっちゃくなる隙がさ。
「ないんだよね!」
「シャーベット……!」
「っぜい!」
背後からの貫手を前傾姿勢で避け、同時に後ろ蹴りで反撃。立ったまま数メートル後退した14号と、前の方でこんもり積もった雪山から抜け出してきて帽子をかぶり直す15号と対峙する。
「ふーっ……はーっ……」
「……」
「……」
どっちも、やっぱり堪えて無さそうだった。
凄くやり辛い相手だ……今さらながら、いっそう気を引き締める。
変な登場の仕方をして、卑怯な戦い方をしてくる奴らだけど、本来めちゃくちゃ手強い奴らなんだ……頑張らないと!
沈黙が支配する中で、冷たい風が吹く。
出方を窺う。ほんとは早く子供に戻りたいけど、あれ、どうしたって目線や体格の変化に適応するのに数瞬かかるから致命的な隙になりかねない。
吹き荒ぶ風の中、そっと髪を押さえ、素早く後方と前方を確認する。
14号のおさげが揺れる気配があった。
15号の帽子から零れ落ちた雪がほんの微かな音をたてた。
どれも、動き出す合図にはならなかった。
どれがそうなるのかわからないから、子供にも戻れずに警戒するほかなかった。
荒い呼吸が段々落ち着いてくる。
おもむろに酒瓶を取り出した15号がそれを口に含むのに、でも、まだ動かない。子供ナシコになるチャンスかもしれなかったけど、それもしない。
背後を警戒してるのもあるけど、やっぱ、あれ。
恥ずかしいし、重いから嫌なんだけど、今子供に戻るのはやめる事にした。
上手くタイミングが合えば、相手の攻撃を躱す手段になるかもしれないから。
「SSデッドリィボンバァアア!!」
遠くに轟く13号の叫び声。
直後に、そびえたつ氷壁のずっと向こう側から真っ赤な光が溢れ出し、私達が立つこの場所にまで届いて染め上げた。
それが合図だった。
「──!」
「……!」
同時に挟撃を仕掛けてくる二体の人造人間相手に、私は右腕を空へ突き上げ、作り出した気弾を思い切り地面へと叩きつけた。
TIPS
・エナジー吸収装置
接触すると猛然と気を吸い取り始める、19号や20号の使うものと同系の赤い球体
カスタマイズされ、生命エネルギーを吸収しつくすまではいかないようになっている
携帯型のようだ
・片腕縛りナシコ
戦闘力2.4億→2億にダウン
3対1だとちょっと辛いかも
・悶えナシコ
熟練のマッサージ師に丁寧に凝りを解されるような心地良さに危うく永眠するところだった
基本的に怠け者なのでこういう攻撃にめっぽう弱い
・SSデッドリィボンバー返し
下手をすると界王神界より硬いんじゃないかと噂される地球を半分吹き飛ばすほどの威力を秘めた
光弾を、自身の気でコーティングして操る、結構無茶苦茶な技
・爆裂気弾
攪乱用の技
地面へ叩きつけて爆発させ、生まれた煙に紛れて姿を隠す
・Dr.ゲロ
「……これは鼻血、か……?」