TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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弾三十八話 未来への咆哮

「はぁあっ!」

 

 左手で胸を強く押さえ、掲げた右手の先に生み出した気弾を思い切り地面へと叩きつける。

 同時に跳躍。広がる爆炎の中に前後から突っ込んできた14号と15号が私を見失って衝突──。

 

「な訳ないか!」

「……!」

「オオ……!」

 

 すれ違いざまにお互いの腕を掴んで回転した二人が勢いを保ったまま上昇し、私を挟むように飛行してくるのに、そうなるよなって思いつつもどう打ち込まれても良いように心構えをしておく。

 火照った体が吹き付ける風に冷やされていく。打ち合った疲れと、気を吸い取られたのに加えて寒さでかなり弱ってきている。体が固まってしまったらそれこそ勝機がなくなるよ。これ以上戦いを長引かせたくないんだけど……!

 

「!」

 

 思考を流したその瞬間に二人が接近してくるのを察知し、咄嗟に横へ方向転換する。タイムラグなくついてくるのに牽制の気功波を放つも、最小の動きで避けられてしまって距離を離せない。どころか少しずつ詰められてきている。予想以上に体が冷えるのが速い。必要以上に気を噴出させて冷気をガードしてるんだけど……今さらながらなんで氷河地帯なんかを戦う場所に選んだんだって後悔してきた。荒野とかなら寒さで動きが鈍るなんてなかったのに!

 

「シェア!」

「ん!」

 

 とうとう追い抜かれて、向かい来る蹴りと拳を回転して擦り抜ける。同時に15号の足を引っ掴んで最大速力でぶっ飛べば、引っ張られた15号が堪えきれずに体勢を崩した。

 

「ちぇえりやあっ!!」

「ォ!?」

 

 そのまま地面へ急降下。氷が覗いている地面へ小柄な肉体を叩きつけ、飛び退きざまに気弾をプレゼントする。

 

「!」

 

 放射状に走る罅から光が溢れ、次いで爆発。余剰気力が光の柱を作り出し、突風に靡く髪を気にせず後方へスライド移動。

 

「だらぁ!!」

「ゴ!?」

 

 身を捻り、足を振り回して後方上空へ蹴りを放つ。ぐんと伸ばした足が14号の頬を捉えた。

 向かってくる相手へのカウンターに成功したその瞬間にやや相手への距離を詰め、その首に足を絡めて膝裏に引っかけるようにして地面へと引き倒す。片足で挟んで乗しかかり、背中へ手刀を叩き込む。

 

「うぇっ、かったぁー……!」

「ウガァ!」

「きゃっ!」

 

 貫くつもりだったのに、揃えた指は筋肉質な背中の表面に僅かに埋まるだけで止まってしまって、逆に手を痛める結果になってしまった。おまけに跳ね上がった背中にしりもちをついてしまう。やば、これ隙……!

 焦燥感に突き動かされながらも、高速回転して立ち上がった14号が拳を振り上げるのに腕を掲げて防御姿勢に──。

 

「っあぐ!?」

 

 背中に衝撃があって仰け反る。15号だ! やばっ──!

 

「ガァ!」

「けっは!!」

 

 剛腕が喉を穿つ。首の骨が折れちゃうかもしんないくらいの衝撃は、くると覚悟しててもやばいくらいに痛くて。

 ニッと口の端を吊り上げた14号を滲む視界に捉えた時には、再び背後から攻撃されて、前からもやられて。

 

「あっ! あっう!」

「……!」

「うっは、はぐっ!!」

 

 たこ殴りだ。へたり込んでたはずなのにいつの間にか立たされて足が浮いちゃうくらいに前から後ろから殴られまくっちゃって、もう痛いんだかなんだかわかんなくなってきた。

 スーパー界王拳はとっくに切れている。反動もあるから、力入んなくて反撃なんかできなかった。

 

 拳撃の嵐に翻弄されながらも左手だけは離さない。この期に及んでまだ隠すのかって自分でも思うけど、こんなのもう意地だよね……! こうなりゃ死ぬまで隠すっきゃない!

 

「ぇげっ!」

 

 腰の捻りを加えたヘビーブローにえげつない声が出た。吐血が氷や雪を染めて、もう、ちょっと、限界ぽかった。

 ここまで滅多打ちにされると体だけじゃなくてスカートもボロボロだ。人前に出せないカッコになってる。もうこれだけで不味いよね。……とか暢気に考えちゃうのは、あれかな。もう、無理かもって心が折れちゃったからかも。

 

「っけぅ!」

 

 だってこれ、抜けられそうにないんだもん。

 こっちだって必死に耐えようとしてるんだけど、硬くした体を突き抜けてダメージが内臓にまで届いている。ていうかブチュッて潰れてる音が体の中に広がる事が何回かあったから、割とマジでやばそう。

 

「んっぐ!」

 

 あっ、今のパンチ凄い。抉り込むようなやつ、中身割れてくのわかっちゃった。叩かれた臓器が真ん中から裂けていく生々しさに、なんにもいえない。

 …………。

 

「ごほっ!」

 

 顔狙いの容赦ない攻撃もあって、完全にサンドバックにされてるのに、もうなんかどうでもよくなってきた。

 ここまで苦しい思いをしてまで体を隠す意味とかない気がしてきた。

 もういいや。もういいでしょ。手離しちゃお。

 

「……!」

 

 離せ。

 離せ。離せ。離せ。

 

 目をつぶって耐え凌ぎながら、自分に命令する。

 なのに、私は手を離してくれなかった。

 

「最後まで貫き通したか……こんな手を取っておいてなんだが……ほっとしたぞ」

「ぅ……」

 

 いつの間にか空の高いところまで持ってこられていて、いつ現れたのか13号に胸倉を掴まれていた。

 そうまでなってもやっぱり左手は胸を隠したままだった。我ながら頑固だなって思ってしまう。

 あ、もしかしたら、あんまりに殴られたから頭おかしくなっちゃったのかも。

 だって今、ファンの子に話しかけられてるように錯覚しちゃってるんだもん……こんな時なのに。

 

「その信念は称賛に値する。オレ達の目的はお前を殺す事だがそれ以上の辱めはせん。安心して眠れ」

 

 ゆっくりと13号が腕を上げるのに揺らされて、髪の重みに頭が傾く。雲一つない空の青さにぼうっとして、それが赤く染め上げられていくのに、目を閉じる。

 

 かいおう……けん……。

 

「死ね!」

 

 最後の抵抗に、全力全開になろうって頑張ってみたけど、もはや体はうんともすんとも言わなかった。

 ああ、駄目だった。ごめんね、みんな……。ごめんね、せっかくサイン会に来てくれた人も。まだ、残ってたのにな……。

 

「──ッ!?」

 

 思考がどっかにふわーっといっちゃってたせいか、なんだか体もふわっーっとしてしまう。

 後ろから風が吹きつけてきて、髪の毛も持ち上がって、まるで落ちていっているみたいな……?

 もう、やられちゃったのかな。人造人間だから、正確に一発で殺してくれた感じかな。

 痛くないなら……思ってたより、死ぬの、怖くないかも……。

 

 少し、体全体が揺れた。凄く暖かいものに包まれてるような感覚に、身動ぎする。

 

「しっかりしろ、ナシコ!」

「……? た、れ……?」

 

 大きな声が間近でするのに肌がびりびり震えた。薄く開いた目につんつんした黒髪と見覚えのある輪郭があったので、ああ、助けに来てくれたのかなって思って。

 じゃあ、これは、きっとターレスが助けてくれて、抱き止めてくれてるんだ。

 足の裏と、背中を支える手。わー、お姫様だっこだ。

 

 ありがとー……あぶないとこだったよー……。

 感謝の気持ちを込めて、分厚い胸板にすりすりと頭を擦りつける。今、ちょっと喋るのも億劫だから、これでナシコの感謝を感じ取ってねー……。

 うー、後はお任せします……(つら)みが限界突破なので、寝させて……。

 

「でぇじょうぶか! おめぇほどの奴がここまでやられっちまうなんて……相当やばい奴ら相手にしてたんだな……!」

「……ぅぇ?」

 

 閉じかけていた目を心持ちもうちょっと開いてみる。

 掠れた視界に映るのは、やっぱりターレスの顔なんだけど。

 ……なんで悟空さんみたいな喋り方してんのかな。からかわれてる……?

 

「一人でよく頑張った! あとはオラたちに任せてくれ!」

「……うおおおお!?!? ごごくっごっごっごゴクウサ!!!!?」

「え? ああ……混乱してんだな。(めぇ)ったな。すまねぇ、傷は治してやれねぇんだ」

 

 いやいやいや、傷とかどうでもいいんだよ! 悟空さんじゃんこれ!

 は? これ? 何コレとか言ってんだお前頭おかしいんか?! 悟空さんじゃん! ごく……あれっ、ターレスはどこ行っちゃったの……?

 

「っ()……!」

「無理すんな。ここで休んでてくれ」

 

 一気に意識が覚醒して、体中鈍い痛みと鋭い痛みに包まれるのにうめく。

 痛いのとかどうでもいいから! さっき私何した!? すりすりしちゃわなかった!?

 うおおお何やってんだよおお!! いつもの癖でやっちゃったよおお!!!!!

 やばいやばいやばい、あっ、あっお胸ちゃんと隠せてる!? というか私今やっべぇカッコしてんだけど!?

 

「きさまが孫悟空か。今、どうやってここに現れた。オレのレーダーは直前まで一切きさまを捉えてはいなかった……」

「へっ、瞬間移動ってやつだ」 

 

 私を氷の地面の上に寝かせて、混乱する私を落ち着かせるように前髪を撫でてくれた悟空さんは、もう一度私に笑顔を向けてくれた。安心させようとしてくれてるのか、優しい笑顔だ。

 当然緊張や混乱は消えないどころか加速したけど、ていうか遅れて密着してた事に気付いて死にそうになったけど、なんとか意識を繋ぎ止められた。

 ああ、今の悟空さんの顔、たぶん子供に向けるのとおんなじ感じなんだろうなーってなんとなく感じて。

 

 体中に火がついた。──錯覚。熱くて、恥ずかしくて、嬉しくってたまらなかった。

 それ以上の混乱で頭の中がぐちゃぐちゃになる。

 顔が近い。顔が良い。

 うああっ、顔が良い……!!

 

「抹殺対象がここに揃ったのは、手間が省けたな!」

「! あぶねぇ!」

「ひぇ」

 

 リストバンドを弄りながら立ち上がった悟空さんが、でもすぐに私を抱え直してその場から離脱した。

 直後に地上で膨れ上がる真っ赤な半球。13号がSSデッドリィボンバーを放ったんだ。

 ぽっかり空いた暗い穴を眺める間もなく着地。衝撃は全部悟空さんの腕に受け止められて、あうっ、て変な声が出てしまい、慌てて口を閉じる。

 ……二回目の、お姫様抱っこ。

 死んだ。

 

「いきなりぶっ放しやがって……! おいおめぇら! あんまし自然を破壊すんじゃねぇぞ!!」

 

 怒りのこもった悟空さんの注意に、なんでかこっちまで委縮してしまう。

 だって戦ってる時の私って、周囲の事にまで気が回ってなかったから……私もあいつらと同類だよ……! ごめんなさい! ごめんなさい、悟空さん……! うう、お顔が凛々しいです……!

 

「キャオラァ!」

「うっ!?」

 

 と、14号か15号かわかんないけど、隙を窺って攻撃を仕掛けてきたらしく、そのお顔に足が突き刺さった悟空さんがたまらず吹き飛んだ。同時に私の体が放り出されて──すぐに、誰かの手に受け止められた。

 

「大丈夫か、ナシコ!」

「ぁ、ウィロー……ちゃん」

 

 細い腕に、すぐに誰かわかった。

 ウィローちゃん、来てくれたんだね……。

 

「すまないナシコ。妙な機械兵士の妨害を受けて遅れた。大した奴らではなかったが数が多く、破壊に手間取ってな」

「だ、だいじょぶ……へへっ、も、もうだいじょぶそう」

 

 そうなんだ。それで、すぐには来れなかったんだ。

 でもいいよ。こうして来てくれたんだし……二人が来てくれたなら、だいじょ……あああ、だめだぁ体溶けちゃいそう……ふあああ、やば、やば、触れちゃった、触れちゃったよぉ!

 不敬にもほどがあるけど、幸せに蕩けちゃいそう……我が生涯に一片の悔いなし……!!

 

「おい、おい起きろ! 正気に戻れ! ウィローちゃんに注目(ちゅーもーく)、だ!!」

「はぁーい……ってあれ?」

 

 コールに反応して手を振り上げれば、私を覗き込むウィローちゃんのお顔が目の前に。

 それは、どこかへ降り立つと同時に他所へ向けられた。

 

「孫悟空! 妻子持ちの身でありながらナシコを誑かすとは、節操がないぞ!!」

「ええー、そ、そりゃねぇだろ……オラ、助けてやっただけだぜ……」

「しっし!」

 

 ちょちょちょ、ウィローちゃん何言ってんの!? 何あっちいけーってやってんの!? いつからナシコ過激派親衛隊に入隊しちゃったの!? やんわりアカウントブロックするよ!?

 えっ、待って待って、あの、おい、今悟空さん蹴ったのウィローちゃん……?

 

「ナシコもナシコだ、お前はアイドルなんだぞ!? 孫悟空にかまけていてどうする!」

「そ、そんなこと言ったってぇ……」

「むむむ……! もういいっ。知らん、もう一緒に寝ない!」

「ええーっ!? な、なんでぇー!!」

 

 なんでそうなるの!? だめだよ、ウィローちゃんは私のなんだから、そういうのだめですー!

 だめだめだめ! ほんとにだめだからね!? 寝よ? これからも一緒に寝よ!?

 

「ふひ……!」

「おめぇら気を感じねぇとこみると人間じゃあねえな……」

「その通りだ。オレ達はきさまやナシコを抹殺するためにDr.ゲロが生み出した人造人間だ」

「なに……!? ……そりゃあずいぶんとお早いお出ましじゃねぇか……」

 

 並んで浮かぶ三人と悟空さんが対峙するのを地上から見上げる。……15号こっち見てない? 気弾とか撃ってきたらウィローちゃんじゃ防げないだろうし、っく……構えとこ……。

 あと注意を促しとかなくちゃ。

 

「ウィローちゃ……なにやってんの!?」

「ん?」

 

 気を付けてって言おうとして、私の背中を片手で支えたまま衣服を脱ぎにかかっているウィローちゃんの腕を掴んで止める。ブラ見えてる、スポーティなの見えてるから! なんでいきなりストリップ? 私を喜ばそうと!? 露出に目覚めちゃったとか!?

 

「お前に巻くために決まっているだろう。酷い怪我だし、何よりその格好をなんとかせねばならん」

「い、いいよ、駄目だよウィローちゃんは肌見せちゃ」

「馬鹿を言うな。お前こそ」

 

 眉を寄せて無理矢理脱ごうとするウィローちゃんをなんとか押さえ込んでいれば、上空で戦いが始まったようだ。状況は3対1。でも悟空さんなら大丈夫なはず……! って思ったんだけど、すっごい苦戦してる……!

 

「どうした孫悟空! そんなものか!」

「くっ、こいつらほんとつぇえな……! ナシコがやられっちまうわけだ……!」

「……!」

 

 通常状態だから劣勢なんじゃない。悟空さんはとっくに超サイヤ人になってるんだけど、それでも押し切られてる。3年後の人造人間襲来に備えて修行してたみたいだけど、ナメック星の時からさほど戦闘力が上がっていないんだろう。そうすると1億8000万とそれに近いの2体を同時に相手取るのはいくらなんでもきついのか!

 

「なんだナシコ、負けちまったのかよ」

 

 ふと傍に下り立つ気配があって、振り向けば、ラフな格好したターレスがいた。

 腕を組み見下すように私を見ている。なんか、不機嫌……?

 疑問に小首を傾げ、遠方から大きな気が近づいてくるのにそっちへ顔を向ければ、今度はラディッツがやってきた。

 

「なんてザマだ、ナシコ。それでもアイドルか」

 

 纏っていた光を散らして腕を組むラディッツが辛辣な言葉を投げてくるのにムッとして、頬を膨らませて無言の抗議。こんなにボロボロになってる私を労わってくれてもいいのに! 優しくしてくれるのはウィローちゃんだけだよー……こらっ! 脱ごうとしない!! 手で間に合ってるから!!! 大丈夫だから! ほら、見えてないでしょ!?

 

「カカロットめ、苦戦しているようだな」

「仕方ねぇな……5分しかねぇが、下級戦士のお遊びに付き合ってやるとするか」

 

 腕を解いたターレスが、ラディッツが順次超化して冷たい衝撃波を発するのに、ぶわっと髪が持ち上がる。うああっ、さっむ!! やめろ他所でやれお前ら!! さっむ!!

 

「三人がかりの不意打ちでなければ人造人間は倒せんか……?」

「何言ってんだお前」

「放っておけ。いや、おいナシコ、ボケは時と場合を選んでしろ」

「ぼけてないよ」

 

 伝説の超サイヤ人が、三人も揃ったんだ。三大超サイヤ人。つまりは、これであいつらはおしまい。

 ふいー、ようやく私も休めるよー……。あーあ、サイン会どうしよう。残りの方達、日程変えてもう一度呼ぶのかな。他所の都から来てくれてる方もいるのに? 交通費とか、出したり……うー、うー……こういうの、タニシさんにお任せしよ……。できれば被害を被ったファンの方には、私の方からも何かしらしてあげたいな。

 

「行くぞ!」

「応!」

 

 すっかり息の合った合図を交わし、黄金の気を噴出させて加勢に向かう二人。

 だーかーらーっ、風やめてね! 寒いでしょ!!

 

「ナシコよ、腕を上げろ」

「ウィローちゃんは脱がないの!! ああーもおー!!」

 

 制服脱いであられもない格好を晒すウィローちゃんに、こっちが赤くなってしまう。

 うけっ、けっ、こくっ……くぁ、かわいい……死ぬ……!

 美少女と密着してしまい瀕死のナシコです……もうここで寝ちゃおっか? そうしよ??

 

 

「ぼああ!」

「ッ!!」

「くたばれぇ!!」

「……!?」

 

 抵抗するウィローちゃんを組み伏せて服を着せ直してあげていたところで、空に二つの光球が膨れ上がった。

 向こうは一瞬で片が付いたみたいだ。

 

 二体の人造人間は孫悟空さんとの戦いから引き剥がされ、1対1の状況を作り出されて、ほんの数秒の攻防の後に破壊された。

 ターレスの戦闘力ならそれはわかるんだけど、ラディッツでよくやれたなー……頑張った! あとでご褒美あげなくちゃ。何がいいかな……最近構ってあげられてないし、二人でおでかけしよっかな。ご褒美はその時に決めよっと。

 

「14号と15号がやられたようだな」

「くっ!」

 

 悟空さんをガードの上から蹴り抜いて吹き飛ばした13号が不敵に笑う。

 ……あっ、そうだそうだ、忘れてた!!

 

「ラディッツ、ターレス! 残骸残しちゃだめ! 合体するよ!! 完全に消滅させて!!」

「あん?」

「おい、なんだそれは。そういう事は早く言え!!」

 

 言いつつ、ぱらぱらと零れ落ちていく人造人間の欠片に気弾を連射し始める二人。

 よしっ、これで……!

 

「そんなことまで知っているとはな……だがこれで100%、お前の行動パターンを補完した」

 

 ベストを開き、そこに仲間のパーツを吸収し、同じく額からも飲み込んで取り込んだ13号が変貌を始める。

 くっ、遅かった……! 事前に説明できていれば、回避できてたはずなのに……!!

 

「ソンゴクウ!」

「なっ、くぉっ!?」

 

 髪は赤く染まって逆立ち、盛り上がり肥大した筋肉を誇示する青い肉体に、目も無く赤く染まった双眸。

 合体13号は、駆け付けたターレスやラディッツには目もくれず、一目散に悟空さんに突撃してラリアットをかました。

 

「悟空さん!?」

「野郎!」

 

 氷山に激突する彼に思わず口元を押さえてしまう。入れ替わりに突撃したラディッツは、ああ、駄目だ! 素早い拳撃に顔を打たれて怯んだところを髪を掴まれて振り回され、ターレスへと投げつけられてしまった。

 それを避けてキルドライバーを発射ターレスも、被弾を意に介さず突っ込んでくる13号の頭突きに打ち落とされてしまった。

 

「はぁああッ!!」

 

 光の柱が立つ。悟空さんだ!

 氷山から飛び出してきた彼が一直線に13号へと向かっていくのに、力を振り絞って立ち上がる。私も行かなくちゃ!

 そうしようとして手を掴まれた。振り払おうかと思ったけど、さすがにそれはあれだから、振り返って文句を言おうとして。

 

「その体で無茶をするな、と言っても聞かんだろうな。持っていけ」

 

 諦めたように笑うウィローちゃんの手から暖かいものが流れ込んでくる。

 ん……失っていた気が、少しずつ……ほんの少しずつ回復していくのを感じる……。

 

「こんな程度ではなんの足しにもならんだろうが、それでもこれくらいはさせてくれ」

「ウィローちゃん……」

「さあゆけ、ナシコよ。どうせならお前が勝利を掴んで来い」

 

 言いながら、ラディッツ達が落ちた方へ顔を向ける彼女に、深く頷く。

 うん、二人の事は頼んだよ。きっと、あいつは私がやっつけてみせるから!

 

「頼んだぞ……」

 

 なけなしの気を振り絞って飛び立つ。

 一直線に13号の下へ。殴り飛ばされた悟空さんの背中へ向けて。

 

「悟空さん!」

「ナシコか! よしっ!」

「はい!」

 

 言葉を交わす暇はない。吹き飛びながらもこっちへ顔を上げて手を伸ばした彼に、躊躇なんか捨ててその手を掴み取る。勢いのまま振り回し、悟空さんの体を13号目掛けて投げ返す。

 その際、ウィローちゃんからもらった分も含めて私の気を全部悟空さんへと受け渡す。

 

「だありゃあ!!」

「ッ……!」

 

 黄金の気を激しく噴出させて一つの弾丸となった悟空さん渾身の頭突きが13号を怯ませた。そのまま格闘戦に持ち込もうとする彼だけど、硬すぎてダメージが通ってない。最初の一撃以外は微動だにしない13号の片腕のハンマーによる反撃で地上へと打ち落とされてしまう。

 

「ナシコ……!」

「っはや、ちょ!」

 

 その巨体でなんというスピードか、一瞬で距離を詰めてきた13号が大きく腕を広げるのに、見上げる以外できなかった。避けるなんてもってのほか。なびく髪の感覚だけがはっきりとしていた。

 

「がぁああっ!!?」

 

 ガバッと抱き着かれてすぐ、締め上げられるのに悲鳴をあげる。接近に対応しようとして外しかけた左手だけが13号の体を押し返そうと奮闘したんだけど、こうも力の差があるとびくともしない……! っく、潰れる……!?

 

「ひっ、ぁぁあああ!!!」

 

 悶えて、もがいて、でも抜け出せなかった。

 挟まれた左手も痛ければ潰れた胸も痛いし、このままじゃ背骨折られるどころか上半身と下半身がブチッといって泣き別れそう……!

 ……って、ああ、何やってんの私! ここだよ!

 

「──!?」

「っく、ふ!」

 

 しゅるるっと子供に戻れば、大人と子供の大きさの差分隙間がひらいて、でも、動けない私じゃそこから抜け出す事はできなくて。

 

「ナシコ!」

 

 掴まれた足を引っ張られ、自分の意思とは無関係に抜け出せた。数瞬遅れてバァン!! と13号の腕が締まる。うあっ、あっぶなー……なんちゅう音出してんだよ……!

 流れる視界の中、左腕が自然と胸を押さえた。ああ、そうだった、丸出しになるとこだった!

 

「ぁ、ぁありがとございまっ、」

「下がってろ! 頼むぞ、ナシコ……!」

 

 浮遊して、構える悟空さんの横に並ぶ。今のは彼が助けてくれたんだ。

 お礼を言おうとして、キッと睨みつけられるのに胸がきゅんとする。

 それから、頷く。彼と接触していた際、心の中に声が響いた。

 元気玉だ。もうそれしか手はねぇ。オラが時間を稼ぐ。頼む……! って。

 

「はい!」

 

 頷いてすぐ、右手を空へ上げる。

 彼も頷いて返してくれた。ワイルドな笑みを浮かべて、それから、途方もないくらいかっこいい表情が前へ向き直って行ってしまうのをスローで見送る。

 

「だっ!」

「ソンゴクウ……!!」

 

 光の線を引いて戦士はゆく。

 その拳は、蹴りは、全然通用しなくて、相変わらず劣勢だけど。

 決して閉じない翡翠の瞳の、その煌めきが私の胸を熱くした。

 

(空よ……海よ……大地よ……)

 

 目をつぶり、俯きがちになって世界へ、宇宙へと呼びかける。

 お願い、また、私に力を貸して……!

 

「シカトぶっこいてんじゃねぇ!!」

「きさまの敵はカカロットだけでは断じてないぞ!!」

 

 復帰してきた二人も攻撃に加わって、蹴散らされていく。

 腕の一振り、気弾一つの発射で大ダメージを受ける彼らの苦悶の声が胸を締め付けた。

 はやく……! みんな殺されちゃう……! はやく……!

 

「だぁあ!!」

「! ヌ、ソ、ソン──ゴクウ!」

「いいぞカカロット! 押さえ込め!!」

 

 気の動きから状況を把握する。悟空さんが奴を羽交い絞めにして、抜け出されないように全力出力を発揮している。感知しなくたって噴き上がる力の波動が私の体をも突き抜けていく。

 同じように全力全開になったターレスとラディッツも、胴部分に、足にしがみついて動きを止める。

 ……みんな、私が元気玉を完成させるのを待ってるんだ……! みんな、私を信じてくれて……!

 

「ぐぎぎぎ……!」

「ぐ、くくっ……馬鹿力めがッ……!」

「サイヤ人をッ……舐めるな……!!」

 

 凄い……! 凄いよ、みんな!

 押さえ込めてる……! 押さえ込めてるよ……!

 あとは、あとはっ、私がこれを完成させるだけ!

 

 宇宙のみんな。ファンのみんな。

 ナシコに力、わけてくれ!

 

「んっ!」

 

 空へ向けていた右手に元気が宿る。

 完成した──そう確信して、目を開く。

 確認した手には、白い光が纏わっていた。

 

「やれぇーー!! ナシコーーっっ!!」

「やっちまえ!! てめぇの力見せつけてやれ!!」

「オレ達の事はかまうな!! そのままぶち抜けぇ!!」

 

 みんなの声に、手を握りしめて頷く。

 右腕を引き絞り、突進体勢に入れば、もがく13号の目が私に向いた。

 

「ナシコ──!」

「ふぅっ!! く!!」

 

 スパークする。

 限界を超えた体の、さらに限界を超えて力を引き出し、スパークリングへ移行する。

 それはたぶん1秒持たないし、反動もやばいだろうけど!

 

「終わりだよ!!」

「!!」

 

 お前を貫くのには充分だ!!

 

「だぁあああっ!!」

 

 いっそうもがく13号へ接近していく。

 それがどうしてかゆっくりに感じられた。

 歯を食いしばる13号の表情も、三人の顔もはっきり見えて。

 

「ナ、シ、コ──!!」

「うりゃあああ!!!」

 

 鳩尾に突き立つ小さな拳がメリメリと沈み込んでいくさまも。

 目を見開き、ゆっくりと口を開いていく13号の顔も。

 ついには肩まで突き込んで、機械的な中身に腕を削られながら反対側へ突き抜けた手が、オイルを吹き散らして冷たい空気に触れるその感覚も。

 

「ナ、シ、コ────!!」

 

 瞬間、三大超サイヤ人の気が膨れ上がる。

 それが13号の体を押し潰すように広がっていくのに腕を引き抜いて離れる。

 三方から狭まっていく黄金の気が風穴に達した瞬間、13号の体が捻じ曲がるようにして暴れた。

 

 ──爆発。

 

 広がる白光に咄嗟に顔を庇い、爆風に煽られて吹き飛ばされる。

 上下もわからないまま、私の意識は光の中に消えていって──。

 

 

 

 

「なし、ナシコちゃっ、はふ……」

「あっ、大丈夫!? もう、しっかりしてね?」

「ふぁい……はへへ」

 

 デパートの広い一室。

 私の前に立つファンの子が立ち眩みを起こしてしまうのに声をかければ、持ち直して笑うのに、写真集を返す。

 嬉しそうに本を胸に抱えるその事少しお喋りして、お別れして、次の方。

 

 はふぅ。

 

 私達は、全員無事にお家に帰る事が出来た。

 私の怪我も、ターレスが持って来てくれた仙豆で完治させることができた。

 助かったよー……生活するのめちゃ大変だったもん……。

 ぴって指で弾いて仙豆渡してくれたターレスのドヤ顔かわいかった。

 でもなんかあの仙豆土ついててジャリッてしたんだけど、なんだったのかなあれ。採れたて?

 

「あ、ごめんなさいっ。握手は駄目なんです」

「そうだったんですか……残念!!」

 

 接触を求めてくる人に申し訳思いつつもお断りして、本を渡し、お話しする。

 前のサイン会から日を開けて、前の方達に個別にお知らせして、新しい方達も抽選で募集して。

 またこうしてみんなと会う事ができた。

 衣装もばっちり新調して、今日の日を迎えた。

 

「応援ありがとう」

 

 ふと、なんとなく 横を向いた時に、タイミングよくファンの方と話し終えたウィローちゃんもこっちを見て、目が合った。

 1秒にも満たない短い時間、視線を交わし合う。

 

「えへっ」

 

 ぴんっ、とウィンクすれば、ウィローちゃんはくすりと笑った。

 




TIPS
・未来(明日)への咆哮
あるゲームの燃えソングだよ

・孫悟空
遠方で増大したナシコの気が小さくなるのに、様子を見るために瞬間移動してきた
悟飯、ピッコロとの修行開始から4ヶ月。戦闘力にはさほどの変動はない
基礎戦闘力310万 超化1億5500万

・ターレス
ナシコ親衛隊その2
東の都にて何やらやっていたようだ
こちらも戦闘力にさほど伸びはない
基礎戦闘力370万 超化1億8500万

・ラディッツ
ナシコ親衛隊その3
ラディッツも都に用事があったようだ
何をしていたかは不明
超サイヤ人同士で組手を行う事ができる環境であるためかなり伸びている
基礎戦闘力は370万 超化1億8500万

・ウィロー
ナシコ親衛隊その1
SNSに蔓延る過激派ナシコ親衛隊とは対立している
ちなみにスポブラは水色でリボンの柄が一つあしらわれている
戦闘力は23万

・13号
たまにウィロー達の方をチラ見してニヤついていたのは
ナシウィてぇてぇ状態になっているだけであり
攻撃の意思はなかった

・合体13号
合体する、という点ではセルの試作型的存在だったのだろうか
戦闘力は単純に足し算にするとしよう
1.7+1.7+1.8=5.2億
よって最大戦闘力は5億2000万

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