TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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第四十六話 アンドロイドフィーバー

「きゃっ、言っちゃった!」

 

 私の手を掴んだまま赤くなった顔を背けて照れる21号に、どう反応して良いのかわかんなくなってしまった。

 お触り禁止なんです、ごめんなさいって言えばいいのか、なんのつもりだーって臨戦態勢になればいいのか……腰を屈める彼女の、軽い香水の匂いに意識を傾けながら対応を考える。

 

 

「ふぁ、ファン……ですか?」

 

 とりあえず、私の聞き間違えじゃないかを確認する事にした。

 とくん、と心臓が脈打つ音が大きく聞こえる。もちろんそれは私の心音。

 悲しいかな、敵じゃない、悪人じゃないってなると、私のコミュ障センサーが張り切り始めてしまうのだ……!

 

「あ、あの、そうでしゅ……」

「そ、そ、そうなんで、……か」

「ふぁぃ……」

 

 一瞬私に目を合わせた21号がすぐに下へ視線を逸らす。

 困り眉に、忙しなく動く瞳に、震える手。

 あっ、この人同族だ!

 一瞬で確信した。この人、アガッちゃってる。明らかに挙動不審で、なんか親近感湧いちゃう……。

 

「ぁのしゃしっ、切り抜きでですね、なナシコちゃんの事知りましてですね、あっあBDも見たんですけど集めてるんですけど秘密でっどうしても手に入らないものもあって、ぁの申し訳ないんですけど、サイン会も行けなくて悲しくて、でもこうして本物に会えるなんて感激です……!」

「あ、はい」

「お、お、お触り厳禁ですよねっ、す、すぐに放しますので……!」

 

 はい。

 典型的な照れ屋のファンですねこれは。

 そして放すと言いつつも私の手を両手でがっちり握ったまま、ひたすらにあせあせとしている21号。

 わかる……わかるよ。動けないんだよね。放したいのに放せないんだよね? 緊張してアガッちゃうとどうにもうまく動けなくなるんだよね! わかるわかる!

 でも大丈夫。今手を放したって不快に思ったりはしないからね、安心してねー。

 

「……!」

 

 パーフェクトスマイルを差し上げれば、21号はぱっと笑顔になって手を戻すと、自分の手首を握って両手を胸へ当てた。気の弱い子が取るようなポーズだ。というか、笑顔なのに眉下がりっぱなし。……困り眉属性?

 

「どうした21号! はやくこいつらを始末しないか! このノロマめ!」

「あっ……うう」

 

 ぽかんとしていた20号……ドクターゲロの怒声に肩を跳ねさせた彼女は、視線ばかりを後ろへ向けて、困った顔をした。

 

 

「ええい、21号! おどおどしおって、お前は昔からその気弱さが欠点だった!」

「す、すみません……」

「有機培養などするべきではなかったか……どんくささが増しておる!!」

 

 むむ、ゲロめ、完全に余裕を取り戻している。

 でも、そうか。今は弱々しい眼差しをしているこの人も、さっきは一撃でベジータを下していた。

 超サイヤ人を一発だ。一回り戦闘力が離れている相手の攻撃を受けても超化を解かずに踏ん張れるサイヤ人が、不意打ちとはいえやられちゃうなんて……相当この子には戦闘力があると見ていいだろう。

 

「あのー……」

「はい?」

 

 なおも顔の近い距離で、囁くような声量で話しかけてきた彼女に普通に反応してしまう。

 いや、だって敵意感じないんだもん。それが演技とかなら大したもんだけど、そうでもないっぽいし……。

 

「で、できれば大人しくしていていただけませんか……? む、無駄に傷つけたくないんです」

「ぇと、その……」

「あっ、あぅ」

 

 うん。

 目を合わせらんないや。

 

 お互い目を逸らしてぼそぼそと会話する事しかできないのは煩わしい。

 ので、私の方が頑張る事にした。むんっと気合いを入れて短期アイドルモードに移行する。

 

「でも、悟空さんが目的なんでしょ?」

「わ……あ、は、はい」

 

 問いかければ、私の雰囲気の変化にぽけっとした彼女が慌てて頷いた。

 じゃあ駄目かなあ。こっちも抵抗させてもらう。……この子、あんまり悪い子に見えないからすっごいやり辛いけども。

 

「弱りました……」

 

 困り眉で体を戻した彼女が腕を組む。片腕で胸を胸の下に通して、その手の甲に肘を置き、頬に手を添える、ちょっとセクシーな大人のポーズ。

 背の高さは、19歳のナシコとおんなじくらいかな? この距離だとぐっと見上げないといけなくて首が辛いので一歩下がっておく。

 そうするとウィローちゃんにぶつかりそうになっちゃった。ごめんごめん、ってかいつの間に真後ろについてたの?

 

「こいつの戦闘力の計測を完了した。3億だ……お前ならば十分倒せる相手だが、妙な予感がする。油断せず……」

「うひゃっは、うぃ、ういろちゃ、くすぐったいよー!」

「…………」

 

 首に息がかかって思わず手で押さえちゃった。うー、背中ぞくぞくした!

 もう、やめてよねー。でー、えっと、何? 3億かー。それならまあ、確かにベジータより強いけど……一撃ってのはやっぱり不自然だ。

 

「ふぁっ、ウィローちゃん……」

 

 とろとろボイスで呟いたのは21号だ。ちょっと心配になるくらい小刻みに震える瞳を私の斜め後ろに向けている。

 こんなだから、ウィローちゃんもさっき攻撃仕掛けようとした時からなんにもできないでいるみたい。攻撃を躊躇っちゃうその気持ち、わかる……。意外なのは、うちのサイヤ連中もまったく手を出してこないって事だよね。私が危ない! って時にも声さえ出さなかったし……ナシコはとっても不服です。

 

「こ、このか、かわいい女の子も、人造人間だってのか……?」

「ふっふっふ、そうだ。お前達は我々の出現を予測していたようだが、これはわからなかったようだな」

 

 クリリンの疑問にゲロが得意げに答えた。

 私が話した人造人間の特徴と一致しない、まったく未知の存在。

 いや、私はこの人知ってるけど、もし現れるならもっとずっと先の話だと思っていたから、誰にも伝えていなかったのだ。

 

 次世代ゲーム機の横スクロール格闘アクションゲームに登場するラスボス。

 そいつは魔人ブウみたいな姿に変身できた。セルと同じように様々な細胞を集めたタイプの人造人間。

 故に気を発しているはずなんだけど、目の前の21号からはまったく気を感じられない。

 

 たぶんだけど、私がいる事で歴史が変わってしまったんじゃないかな。21号の製造が早まってしまった、とか。

 そうするとどうなんだろう。魔人ブウみたいな姿になれるんだったら、割と厄介な相手だ。人をお菓子に変えてしまうビームとか強力だし……再生能力も厄介。今の時代に相手できる強さじゃないと思う。

 

「ま、まじん……ぶう、ですか? ごめんなさい、わからないです……」

「そっか」

 

 わからない事は聞いちゃえばいいじゃんってノリで質問してみたら、こんな反応。

 どうだろ、嘘ついてる? いや、つく必要はないか。

 

「……抵抗するというのなら、致し方ありません。戦うのは好きではないのですが……」

 

 言いつつトンッと地を蹴って後退した彼女に、釈然としない思いを抱きつつも、ウィローちゃんやみんなが構えるのに、私も腰を落として構える。vs初期ベジータな悟空さんポーズだ。

 

「ふざけやがってぇ!!」

 

 戦うポーズを取ったまではいいものの、動く気になれないでいれば、悟飯ちゃんが持って行った仙豆で復活したらしいベジータがいきりたって襲い掛かった。

 あっ、と声を発しそうになって、でもそれが考えなしの猪突猛進ではない事に気付いた。

 怒ってはいるけどその目は冷静だ。見極めようとしているみたい。

 

「ごはっ!?」

「ベジータ!」

 

 それでも、駄目だった。

 拳を振り上げたベジータが、背中が盛り上がる程の拳撃を受けて唾液を散らす。

 膨らむ風が21号の白衣をなびかせて、落ち行く彼に入れ替わって悟空さんが突貫する。

 

「ちぃ、行くぞ!」

「やっと出番って訳だぜ!」

 

 順次超サイヤ人になったラディッツとターレスが私の頭上を飛び越していく。

 冷静さを欠いたその動きは、動揺ゆえか。一度ならず二度までもベジータが破れた。そして今、超低空飛行で足から突っ込んでいった悟空さんが21号の倒れ込むようにして放つ肘打ちに地面へ叩きつけられ、勢いのまま滑っていくのを見た。

 二人とも戦闘力はラディッツとターレスとほとんど変わらない、いわば同格。普段なら無策で突撃なんかしないと思うんだけど、さっきまでの気弱そうな彼女とのギャップのせいかな、勝負を焦ってしまったのかもしれない。

 

「オレ達も行くぞ!」

「お、おう!」

「はい!」

 

 案の定ラディッツもターレスも一蹴された。戦闘技術だとかセンスだとかを一顧だにしないパワープレイ。長い足を振り回し、その一撃で二人を打ち返す21号の表情は無機質なものに戻っている。やっぱさっきのは油断させるための演技……?

 

 重いターバンとマントを脱ぎ去ったピッコロに、クリリンと悟飯ちゃんが続く。

 けれど順番に打ち据えられ吹き飛ばされて倒されてしまった。

 

「は、くっ!?」

 

 転がりざまに立ち上がって構えた悟空さんの胸を桃色の光線が貫く。

 顔を歪めて胸を押さえ、膝をつく彼に、私も様子見なんかしていられずに全開パワーを引き出して飛び出す。

 

「奴の戦闘力が5億に跳ね上がった!」

 

 迸るスパークが空気を焼く音に混じって、後ろをついてくるウィローちゃんの声。

 そりゃいったいどういう原理だろうね! まだ上がったりする!?

 

「とりゃーっ!」

「っ……!」

 

 お腹にくっつくくらい引き絞った膝を爆発的な速度で突き出す神速キック。

 それは私を見て苦い顔をする彼女が防御に回した腕ごと突き上げて吹き飛ばした。

 

「おおお!」

 

 衝撃を全部相手に与えて止まった私の上をウィローちゃんが飛びぬけて、追撃の光弾を放つ。ターレスのカラミティブラスターに似た技だ。

 迫る光に顔を上げた21号が腕を解き、ゆっくりと腕を持ち上げた。弾かれる──!

 

「しめた! 21号!」

「──!」

 

 バッと前へ手を突き出したゲロが指示を飛ばす。光弾を弾く軌道をこちらに変えて吸収させろって感じか!

 僅かに目を動かして窺った21号は、私達へ視線を戻して。

 

「きゃーっ」

「に、21号!?」

 

 悲鳴をあげて被弾した。

 防御した腕を弾き上げられた体勢で数メートル飛んだ彼女は、着地してもなお地を削って後退し、長い線を引いてようやく止まった。

 

「ゆ、油断しました……!」

「何をやっている! このマヌケめが!! ぐずぐずしてないで早く片付けてしまえ!!」

「……、……。……はい、20号」

「ええい返事などいい! さっさとせんか!」

「は、はいっ」

 

 腕を広げ、やや腰を落として弱々しく構える彼女の困り顔に、こっちも覚悟を決める。

 そういう顔されると攻撃しづらいんだけどなあ……。

 

「はあっ、はあっ、」

「お、お父さん……?」

 

 荒い息遣いに横を見れば、片膝と片手をついて自らの胸部分の衣服を握り締める悟空さんがいた。

 助け起こそうとする悟飯ちゃんに意識を割く事もできないらしい。何、あの異常な疲労は……まさか心臓病!? あ、あんなにお薬飲んでたのに……!?

 

「ど、どうしちまったんだ、オラ……! じ、自分が自分じゃなくなっちまったみてぇに……!」

「孫! 下がってろ! 悟飯、孫を連れて遠くへ逃げろ!」

「は、はい! ピッコロさん!」

 

 熱が出ているのか顔も赤く胸を押さえる彼を、悟飯ちゃんが担いで連れていく。

 抹殺が目的の20号が追おうとするのをピッコロが阻んだ。

 なんとかといった様子で起き上がったラディッツやターレスも20号を囲む。

 そっちだったら、ダメージの残る体でも倒せそうだと踏んだのだろう。

 

「に、21号! 来い!」

「えっ、あ、はい……!」

 

 焦って21号を呼ぶゲロに、そうはさせるかとスパーク全開。

 21号がいるならゲロはいいや、手加減抜きで戦闘不能に追い込んじゃって!

 私としては破壊したって構わないけど、嫌なら生かしていいから!

 

「待てナシコ! 先程の一瞬、奴がやる気を見せた際、その戦闘力が10億を超えていた……」

「えっ、うっそ」

 

 10億とか、ちょっとそれはどうなんだろう。パワースカウターの故障じゃない……?

 だってインフレ激しすぎでしょ! 軽く私の倍あるじゃん!

 

「それにどうにも、得られたデータを解析すると……あれはお前の気の質そのものだ」

「……どゆこと?」

「来るぞ!」

 

 21号が発した気が私のものってのはどういうことか。それを聞く暇はなかった。

 10億というのは誇張でもなんでもないのだろう、戦士達を次々に下していった21号は、すっごく不本意そうな顔で私達を見ると、表情とは裏腹に超スピードで突っ込んできたのだ。

 

「ごめんなさいっ。恨まないでくださいね……!」

「ふげーっ!?」

 

 カウンター決めちゃる! と身構えたものの、腕がぶれるのを認識するのがやっとのことで、良い一発を貰って膝をついた。

 う、う、う……息が詰まる……!

 

「すみませんっ」

「くっ!」

 

 ウィローちゃんもアッパー気味に弾き返されて放物線を描いて飛んで行ってしまった。

 私は、あれ。鳩尾をたんっと叩かれたっぽい……! 明らかに傷つけないような攻撃だけど、浸透する破壊力は半端ではなく、わりとこういう痛みに弱い私は涙目で喘ぐ事しかできなくなってしまった。

 

「クソッタレェー!!」

 

 残心する21号にベジータが殴り掛かる。今度のそれはやぶれかぶれだった。

 

 

 

 

 まあ、無理だよね。

 さすがにきつくて、私だって本気でやったんだけど負けちゃった。

 それで今、私がどうなっているかというと、あの世送りにされてしまった……という訳ではなく。

 

「うひー……」

 

 ゲロの脇に抱えられて、岩地を疾走しております。

 戦い辛さもあって、私達はあっさりやられてしまった。

 そこで何を考えたのか、ゲロは私を掴み上げてパワーを吸収するのもそこそこに研究所に引き上げると宣言したのだ。損傷が激しいからかもしれない。一番の目当てである悟空さんが逃げてしまった事も関係しているだろう。

 私を殺さず連れて行こうとしてる理由は不明。

 

 

 脇腹に押し当てられた手の平から今もなおぎゅんぎゅん気が吸い取られてるんだけど、これは全然気持ち良い感じではなくて、ちりちりと火傷してるみたいな痛さがある。

 あと位置が悪くて凄くくすぐったいんですけど……!

 

「あのー、おじいちゃん、ちょっと持ち直してくんない?」

 

 そういう訳でぐたーっとしながらお願いしてみる。

 前を向いたままドクターゲロが返事をくれた。

 

「の、暢気な奴だ……ううむ、お前の細胞で21号を作り出したことをますます後悔したぞ」

「えっ、21号って私の細胞使ってるの!?」

 

 今明かされる衝撃の真実!

 いや、ウィローちゃんが感知した気が私に似ているって部分で薄々感じてはいたけれど……それにしては気を感じ取れない完全人造人間タイプなんだね?

 

「そうだ。かつて採取したお前の細胞を使い、お前を抹殺する戦士を作り出そうとしたのだ」

 

 それはなんとも悪趣味な事で。

 私を殺すのに私の力を使おうとしたのは、なんだろ。いやがらせ?

 てゆーかそんなことしなくても13号とか差し向けてきていたじゃん!

 

「……なぜ貴様が13号の事を知っているのだ。あれらは処分したもののはずだが……」

「えっ? あ、そうなんだ。じゃ勘違いだ。それっぽい無関係な奴ら?」

「……」

 

 あ、よくわかんない反応されたから変な事言っちゃった。

 え、でも、って事は13号達が襲撃してきたのって、このお爺ちゃんの指示ではない……?

 でも彼らはゲロの指示だって言ってた気がするし……ううむ、考えてもよくわからん。

 ゲロの方もよくわからなかったらしく、21号の説明に戻った。

 

「だが生来の気質に加え、きさまの人見知りや口下手を濃く継いでしまったのは誤算だった……!!」

 

 ぐぬぬと唸るお爺ちゃんに、ぺちぺち手を叩いて抗議する。

 そういうのいいから持ち直してー。うー、力が抜けるー……。

 

「21号こそ私の完璧なしもべになるはずだったのに……!!」

「ん、奥さんじゃなかったけ?」

「!!?」

 

 なんとなくそんな設定があったような、と思いつつ口にすれば、足を止めた20号が得体の知れないものを見るような目で私を見てきた。

 見つめ返せば、たじろがれる。

 微笑めば、すっと目を逸らされた。

 

「なんだその顔は。じ、自分の状況がわかっておらんのか……絶体絶命なのだぞ!」

「その割には、もう気の吸収もしてないみたいだけど?」

「……」

 

 これもまた感じたままを口にする。

 さっきまで痛いくらいに気を持ってかれてたのに、それがなくなってる。

 ゲロは答えなかった。ただ私を抱え直すと、そのまま走り出した。

 くすぐったくなくなったのは良いけれど、激しく揺れる視界に今度は気持ちが悪くなってきた……うえー。

 

 やがて研究所へ辿り着くと、ぴょんぴょんと岩場を左右へ跳んで入り口まで上る羽目に。

 本格的に吐きそうになってしまった。いやもう吐くかも。吐く。おえ。

 なんもでんかった。

 

 明かりで満たされた研究所は、意外にも明るい雰囲気だった。

 

「よし、17号と18号も起動するか」

「ぐへ」

 

 べしゃ、と私を床に落とした20号が、意気揚々と二つのカプセルへ歩みを進める。

 あれ? ゲロって17号とかを恐れてなかったっけ? 記憶違いだったかな……。ていうか腕直しに来たんじゃないの?

 

 疑問を解決する事もできず尺取虫になってずりずり床を進む。

 思考は余裕そのものな私だけど、わりかし体はきっついのです。結構エネルギーも奪われちゃったし、体へのダメージ半端ないし……。

 

 そうそう、あの場に残った21号は、他の戦士の抹殺命令を受けていた。でも、連れ去られる私と目が合った彼女を見て、なんとなくそうはしないだろうなーと感じた。完全に勘だけど。

 だから大人しくここまで連れてこられる事にしたんだよね。これで研究所の場所が判明した訳だ。

 

 後はどうにかして17号らを起動してやろって思ってた。だって今の私じゃゲロにすら敵いそうにないし。

 くそー、仙豆の重要性を改めて認識したよ。欲しくなった時には手元にないんだもんなー……カリン様、私にはくれないし。

 

「おはようございます、ドクターゲロさま」

「おお、17号。目覚めたか……不調は直ったようだな?」

「はい、おかげさまで……」

「では18号も目覚めさせるぞ」

 

 どことなく声の弾む20号が、それでも念のためか緊急停止装置を手にしながらカプセルを開くボタンを押す。

 蓋が上がり、冷気のもやが溢れて中から金髪の女性が現れる。その視線がゲロの手元に、そして17号の目に向かい、ほんの微かに頷き合う。

 

「ごきげんよう」

「おお、さすがは私だ。18号も完璧に直ったようだな!」

「そちらの子供はなんでしょうか。私達のように改造するおつもりで?」

「そうだ!」

 

 え、そうなの?

 

「それは…………とても素晴らしい。この子供も喜ぶでしょう」

「そうだろう、そうだろう!」

 

 なんと私、人造人間にされてしまうらしい。

 ははあ、なるほど。だから殺さずにつれてきたんだ……従順なしもべとするために。

 

「なぜだか気分が良い。こんなにも思考がクリアになったのはいつ以来か! ああそうだ、17号、18号、"ナシコの抹殺命令"は取り消すぞ」

「は、了解しました」

 

 丁寧に礼をする17号に、ゲロはご満悦に息を吐き出した。

 でもそれに不快そうにする二人の僅かな機微は読み取れなかったらしい。

 それでもって、のそのそ進んでいた私が中央に横たわるカプセルまで辿り着くのにも気づかなかったみたいだ。

 

「よいしょ、っと」

 

 力を振り絞ってよじ登り、ぽちりとボタンを押す。

 それでようやくこちらに気付いたドクターが「いっ」と驚きを露わにした。

 

「ななな、なにをしておるか! それを起動しては──」

 

 あ。

 私なんかに気を取られたせいで、背後に忍び寄る17号に気付けず、ゲロは手刀に胸を貫かれてしまった。

 その手に握っていたコントローラーも18号に取り上げられてしまっている。

 今度は彼の方が絶体絶命になっちゃったみたい……あーあ。

 

「き、きさまら……なぜ……!?」

「なぜ? オレ達がお前なんかに従う訳がないだろう」

「こんな子供まで改造しようとするなんてね……ゲスが」

「あ、あああ……!」

 

 腕を引き抜かれ、一歩、二歩と前へ進んだゲロは、振り返って何かを言おうと口を開いたところで18号の放った光線に頭を消し飛ばされてしまった。

 バチバチと紫電を発する首に、遅れて体が倒れる。なんともあっけない最期だった。

 

「大丈夫か?」

 

 傍らに座った17号に手を貸してもらって立ち上がる。

 無表情っぽいのに、ちょっと笑ってる感じ。うわあ、イケメンだ……。

 

「あ、ありがと……」

「お礼なんていいよ。あんたが隙を作ってくれたおかげでこいつをぶっ壊せた訳だしね」

 

 言いながら床に落としたコントローラを踏みつけてぐりぐりと踏みにじる18号に、私もこういう風に事が運ぶのを狙ってたとはいえ、なんだかやるせない気分になってしまった。

 

「……」

「うん? もう一人オレ達のような人造人間がいたのか」

 

 カプセルからのっそりと起き上がる16号に、感心した風に声を上げる17号。

 ……さて、みんなにセルの事を伝えなくっちゃ。21号も説得しなきゃだから……。

 …………その前に、誰か仙豆をください……。

 

「あ、おい」

 

 考えた通り上手くいったのにちょっと安心したら気が抜けちゃって、そのままふらっと倒れ込む。

 誰かに抱き止めてもらいながら、意識は眠気に負けて暗闇に沈んでいった。




TIPS
・21号
2年半ほど前に稼働を開始した人造人間
13号らに指示を飛ばしたりしていたのは彼女だ
命令は全て平和に生きる事に偏っていたが
管理コンピュータが命令を抹殺へと書き換えてしまったので仕方なく対応していた

・20号
ナシコに触れてしまったために興奮状態に陥った
意気揚々と17号らを復活させ、即座に殺されてしまった

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