TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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特に意味もなくラディッツ視点


第四十七話 戸惑うトランクス

「ば、化け物だ……次元が違いすぎる……!」

「こんなに強いのかよ……! 人造人間ってやつは……!」

 

 倒れ伏す天津飯とヤムチャが土を掻いて呻く。

 俺もまた倒れていたが、同じように土を握り締め、なんとか顔を上げることができた。

 だがその先にはいけない。体中に満ちる怒りの捌け口などどこにもなかった。

 

「未来でオレ達がやられちまう訳だ……まるで通用しない……!!」

 

 ピッコロの言葉には、同意せざるを得なかった。

 ナシコがオレ達を今だに雑魚だと──それも自分を含めて!──評していたのは、おふざけでも謙遜でもなかったのだ。

 

 片腕を掴んで腕を組むようにして立つ、なんの感情も浮かべていない人造人間の女。

 ナシコの前で興奮していた姿はもはやなく、初めから人形のように無表情だったのではないかと錯覚させられる。

 あんな奴に、俺達は揃いも揃ってやられてしまったのだ……!

 

 カカロットを始めとして、あのベジータ、ヤムチャ、ターレス、ウィロー、悟飯、クリリン、ヤムチャ、天津飯、ヤムチャ……いかん頭が混乱している。とにかく全員が全員、ほとんど一撃で土を舐めさせられちまっているって訳だ。

 悔しいが、ピッコロの言う通り、俺達の力は少しも通じなかった。未来から来たとかいう小僧が言っていた人造人間とやらの恐ろしさは本物だった……!

 

 いったいこの3年の修行はなんだったというのか。

 ……いや。俺もターレスも仕事を始め忙しくなってきていた。

 修行ばかりしている事もできず、己の力や、それを軽々と上回るウィローの力、そして絶大なナシコのパワーを信頼しすぎていたのだろう。だからこうなってしまった。備える事を怠ったからだ。

 だが、もしこうなるとわかっていても、俺達にどうにかできたのか……?

 俺達サイヤ人の中で一番伸びているベジータでさえあのザマなのだ。こうなっちまうのも無理はない、と自分を慰めるほかない。歯を噛み合わせ、地面を殴りつけたって無力だという事実は変わらないのだ……!

 

「ら、ラディッツよお、起き上がれるか……?」

「当たり前だ……! こ、この程度のダメージ、どうってことないわ!」

 

 言いつつ、傍に倒れていたターレスと協力して立ち上がる。

 ──ああ、ちくしょう。まさかナシコまでやられちまうとは。

 あいつこそがこの中の誰よりも最強だった。

 それがあっさりと……いや、「やーらーれーたー」などと暢気な倒れ方をしてはいたが……奴らのアジトへと連れ去られてしまった。

 

 胸を掻き毟りたくなるような後悔と寂寥感に苛まれる。

 これは、長期間ナシコと離れると感じるやつと同じものだな……!

 依存、というやつだ。どうにも俺達はナシコに入れ込みすぎているらしい。

 ……そうだ。この感情を抱いているのは俺だけではない。隣で息を整えているターレスとて、限りなくナシコを求める飢えと渇きを持っていることだろう。証拠に、常の余裕が陰っている。獣の呼吸に、血走った目で必死にいきりたとうとする自身を抑える。

 

「まだ、立ち向かう気なんですか……?」

「それ以外の何に見える」

「いえ、その……ごめんなさい」

 

 先程は俺達全員が倒れ伏していたと言ったが、正確にはそうではない。

 ダメージをダメージとして受け取らない体を持つウィローだけは奴の前に立ち続けていた。

 だが、逃げたジジイを追う事はできない。21号とかいう女はそれを妨害してくるのだ。

 

「わ、私達の目的はあくまで孫悟空さんなんです……それ以外を傷つける気はありません」

「へっ、だとよ? 信じられると思うか?」

 

 ウィローの隣まで歩み、余裕を装うために声を発する。

 勝てるヴィジョンが見えない。気を感じられないというのがこれほど不気味だとは……。

 ウィローが相手ならば、そんなものは感じない。長い付き合いだからな。

 同じはずの21号には気味の悪さしか感じられなかった。

 こんなものにいきなり出会っちまった未来人の小僧を思うと、まったく気の毒になるぜ。

 

「奴はわたしとはやり辛いようだ……ここ一番で奇襲をかける。お前達で引き付けてくれ」

「あいよ」

「了解だ」

 

 指示を飛ばすウィローの頭頂部を見下ろして答える。小さな体が大きく跳ねて後退すると、入れ替わりでベジータがやって来た。呼吸もままならない疲労困憊だ。

 怒りに満ちて言葉もなかったが、共闘の意思ありと見ていいだろう。そうなのか、と聞いても怒鳴り散らされるだけだろうから何も言わんで合わせてやるがな。……話しかけるとキレ散らかすのはナシコのようだな、とふと思った。

 

「……?」

 

 ふと、巨大な気が近づいてくるのを感知した。これは……誰だ?

 覚えのないものだ。新手か!

 

「みなさん、無事ですか!」

 

 下りてくる最中で気を散らして着地したのは、あの未来小僧だった。

 ああ、そういえば応援に来ると言っていたな。こいつも超サイヤ人だ、戦力に数えて良いという事だろう。

 

「はあっ!」

 

 一も二もなく超化する小僧。状況が悪いのはわかっているようだが……なんだ、おい。

 

「な、なんだこいつは……し、知らないぞ、こんな奴……!」

「……トランクス」

「お、オレを知っているのか……!?」

 

 ぽつり、名前らしきものを呟くのに、それがこの小僧の名前なのか、なぜ知っているのかと疑問に思う。

 トランクスだと、と喘ぐように振り返るベジータと偶然同じタイミングで振り返る。

 

「おい小僧……トランクスという名なのか。どっちを見ている……敵は向こうだぞ」

「え? いや、でも、こいつも人造人間では……?」

 

 泰然としているウィローを指して戸惑うトランクスに、いやまあそうだがと頷くほかない。

 なるほど、そういえば前回ウィローはこいつと顔を合わせていなかったな。勘違いしてしまうのも無理はないか。……それで背中合わせになるように下りてきた訳だな……。

 

「……」

「す、すみません! え、あの……す、すみません!」

 

 ウィローが両手を上げて無害をアピールすれば、こいつは素直なのかなんなのか慌てて方向を変えて構え直した。

 さて……人数が増えたところで、オレ達の役目は変わらん。単なる囮になるしかない。

 奴はどうにもナシコやウィローへの攻撃を躊躇っていたからな……光明となるならばそこしかないだろう。

 

「奴は桁違いの強さだぞ。お前のいた未来ではどうだったかは知らんが、こちらの一番の実力者でも歯が立たなかった」

「それは、この場に孫悟空さんがいないのと関係があるのですか……まさか、殺されて……!?」

「さあな。少なくともカカロットの野郎は傷を負っていなかったようだが」

 

 ターレスが代わって説明するのに、ああ、それは俺も見ていたと頷く。

 21号の放った光線は確かにカカロットの胸を貫いていたが、ダメージはないように見えた。

 ……その技には見覚えがあるぞ。ナシコやウィローの使う、あ、あのみょうちきりんなやつかもしれんな……!

 

「……」

「無駄口を叩いている場合ではないぞ!」

 

 

 21号が身動ぎするのにピッコロが声を上げる。

 確かにそうだが、構えていたところで奴のスピードに対応できるかは怪しい。

 地面を見つめて困り果てているような表情を浮かべるその姿は一見してか弱いが、パワーもスピードも天井知らずに上がるようだ。

 

「私……」

「……」

 

 昂る気の吹き荒ぶ音の中で、奴が呟く。

 

「『Forever2018』、好きなんです」

 

 突然の告白の、その意味を正しく理解できたのはいったい何人だっただろうか。

 呆気に取られる俺達に、反して険しい顔のままのベジータやトランクス。

 

「普段と違うバラードの、語り掛けるような歌詞が、好きなんです」

 

 

 ──帰れない

 

 

 頭に響いた寂し気なナシコの声に、強く目を瞬かせる。

 奴が口にした『Forever2018』とは、最近ナシコが発表した、奴自身が作詞したソロ曲だった。

 

「戻らない過去に想いを馳せる1番。今だからそれが大切な歴史だったと綴る2番」

 

 淡と話すその語り口とは裏腹に、やや目を上げた21号の顔が赤らんできていた。興奮しているかのように語気も強くなる。片腕を握る手にも力が入っているようだった。

 

 

 ──還りたい

 

 

 また、歌声が聞こえた。

 ……奴の歌は、だいたいが聞くものを楽しませるものばかりだ。

 だがこれは、あたかも自分がそうであるように強い郷愁を抱かせる、そんな歌だった。

 同調を強いるようでいて、拒絶を示す曲。

 

「過去があるからこそ今の自分がある。この世界で生きていく……」

 

 転調。波のない静かな海から一変して、光あふれる都会に下りるような。

 溢れ出す大好きを贈る、笑顔の歌。

 3番は、今まで通りの奴のイメージのものに変わるのだ。

 

「何が言いたい」

「……戦う意思は、ないんです。命令はされましたけど……逆らえないって訳ではなくて」

 

 ピッコロの問いかけに、奴がもじもじとして答える。

 たしかに敵意は感じ取れないが、それは気がないから故ではないのか。

 だが本当に奴の言う通りだとしたら、こんなところで時間を食う意味はない。さっさとナシコの救出に動かなければならないのだから。

 

 ウィローが動いていないところを見ると、中々ナシコの気を掴めていないのだろう。

 もしかすれば、奴らのアジトはそういった気配を遮断してしまう作りになっているのかもしれない。

 

「どうする」

 

 周りを見渡しても、誰も何も言わなかった。

 俺も意見を言う気にはならない。戦わなくて良いならそれに越したことはないが、納得できなさそうなのが二人いる。

 その内の一人に声をかけた。

 

「……今来たばかりのオレには、判断が難しいです。信じられない……でも、確かに今、あいつは襲っては来ていない……」

 

 額に汗を浮かばせ、背の剣に手をかけたまま緊張を保つトランクスは、判断に迷っているようだった。

 

「それに、あの人にナシコちゃんをどうこうさせるのは、さすがに我慢できなくて……も、もう無理です! あの、本当にごめんなさい!」

「え、お、おい」

 

 わたわたと俺達に、そして左の方に立つピッコロに、右の方に立つヤムチャ達に連続で頭を下げた21号がこちらに背を向けて駆け出す。

 止める間もなく飛び立っていくのに、俺達は顔を見合わせた。

 

「……ひょっとしてあいつ、帰るタイミングに困ってたのかな……」

 

 ……そうだったのかもしれん。

 あいつ、どことなくナシコに似た性格をしていると感じた。人見知りを発揮している時のな。

 話すタイミングにそれを切り上げるタイミング、誤った事を言ってしまった時に訂正するタイミング……それらに困っている時のナシコにそっくりだった。

 

「なかなか気が感じ取れん。やむをえん、奴を追うぞ!」

 

 言うが早いかウィローが飛び立つ。

 反射で追ったのか駆け出したトランクスが、しかし足を止めて振り返った。

 

「オレも行きます! おそらく奴らのアジトの場所がわかるはずだ……! オレが知っている人造人間がもしいるのなら、起動を阻止したいんです!」

「ああわかった。よし、その気のあるものだけついてこい!」

 

 答えたのはピッコロだ。

 俺やターレスは答える前に飛び出していた。

 いや、会話の意思はあったのだが、体が先に動いてしまった。

 21号の雰囲気に騙されていたが、あの20号というやつはいかにも邪悪だった。ナシコに何をされるかわかったもんではない! 早く助けに行かねば!

 

 ……それにしても、あいつを助けるなんて事になるとは……そんな事態がくるなど思ってもみなかった。

 時折未来への不安や現状の強さに不満を示していたナシコの気持ちがようやくわかったぜ……!

 あんな化け物が来るとわかっていたなら、そりゃバカげた修行に身を入れ込みもするだろう。

 

 しばらくは21号を追いかける事に始終した。

 いくら奴の戦闘力が飛びぬけていると言っても、そこまで飛行スピードが違う事はない。

 とはいえ距離は縮まらず徐々に離れているし、そもそも豆粒のような姿しか見えないが、遮蔽物の無い空ならば問題ではない。

 

「ベジータは来ておらんのか……意外だな」

 

 ふとその事に気付いて傍らのターレスに話しかける。

 

「あっさり負けたのがよっぽどショックだったんだろうよ。王子様は頂点でなければ気が済まないようだからなぁ」

 

 オレ達と違って強さを最上位に置いているからな、と言われて、それで納得する。

 ああ……俺達とて少なからずショックを受けてはいるが、それよりナシコの救出を優先した。

 強さへのこだわりやプライドの上にナシコが位置しているからだ。

 こう言うとまるで信奉者のようだが……単に身内のピンチに気をもんでいるだけだ。

 

「見えた!」

 

 21号が岩山に下りていく。

 先頭のウィローとトランクスが下りて行くのに俺達も速度を緩め、高度を落としていく。

 纏っていた気を散らして着地した場所は整地されていた。洞窟へと駆け込み、巨大な鉄扉の脇の制御盤を操作する21号に少し距離を開けてウィローらが立っている。

 

「気を付けてください。あいつが騙し討ちを考えている可能性もあります」

「いや、それはないだろう。そんなことをしなくとも奴はオレ達を殺せてしまえるんだ」

「それほどなんですか……!? そ、そんな奴が現れるなんて……」

「い、今更だけど、この先にいるかもしれない他の人造人間が怖くなってきたよ、おれ」

 

 ああ、クリリンもついて来ていたのか。手に袋を持っている辺り、誰にも渡す暇のなかった仙豆を持って来てくれたらしい。こいつも大概人が良いな……。

 天津飯やヤムチャもついてきている。視線に気づいた奴らは、「面ぐらい拝んでおきたいからな……」と言った。

 ということは、あの荒野にはベジータ一人だけが残っているのか……。

 

「開いたぞ」

 

 腕を組んで待っていたターレスが、鉄扉がゆっくりと左右にわかれるのに待ちくたびれたように言った。

 駆けこんでいく21号に俺達も続く。

 

「16号……? あなたも稼働させてもらったのね……!」

「ん、なんだお前ら。ぞろぞろと騒々しいな」

 

 やはり他の人造人間もいたか。3人もいるとは。

 当初現れる人造人間は2人だ、と言っていたトランクスはというと、「あいつらだ……!」と身を固くしている。17号、18号……ナシコの言っていた容姿と一致している。なるほど、奴らが未来に現れたという……。

 

「うるさいねぇ、寝てる子もいるんだから静かにしておくれよ」

「ナシコ……! ナシコに何をした……!?」

「さて、何をしたと思う?」

 

 研究所内の中央あたり。

 床にほど近い鉄板の上にナシコが寝かせられていた。おそらくは乗っていた何かを吹き飛ばして作ったスペースだろう。奥の壁付近に黒煙を開ける棺桶のようなカプセルが横たわっている。

 

 ナシコは、縁に腰かけた金髪の女の膝に頭を預けて、暢気にぐーすかと寝息を立てていた。

 黒髪の男の言い方はまるで何かしたかのような不安を煽るものだったが、あれを見る限りは手を出してはいないんだろう。思わせ振りな言い方をしおって……!

 

 ああ、ふう。思わず息を吐き出す。

 無事なようで安心したぞ。

 

「あの人は……」

「ドクターゲロをお探しか? あいつなら出かけたよ」

 

 中央に陣取る3体の人造人間へ歩んでいく21号に、おそらく17号だったかが答える。

 ゲロ……あの爺だな。20号の事だ。

 

「どこへ?」

「地獄だよ。もう帰っては来ない」

「……!」

 

 はっとして傍らを見下ろした21号は、そこに何かを見つけたようだ。

 機械群の影になっていて見えないが、そこに爺の死体でも転がっていたのだろう。

 状況は読み取れないが、見たままを言うならば17号らが反乱を起こし、20号を殺してナシコを助けた……の、か?

 

「んー……」

 

 頬を撫でる、おそらくは18号の手が髪に触れて、指で梳かす。それに心地良さそうに身動ぎするナシコは緊張感の欠片も無かった。

 

「16号、どうにもこいつはお前の事を知っているようだが、知り合いか?」

「…………いや、記録にない」

「お、やっと口を開いたな? しかし知らないと来たか。じゃあいったいこいつは誰なんだ?」

 

 モヒカンの、かなりガタイの良い男……これもナシコが話していたな。16号というやつだろう。

 そいつの否定に21号はかぶりを振って、白衣のポケットに手を突っ込んだ。

 素性を探る17号はどことなく楽し気にしている。不気味な奴らだ……。

 

「ナシコってのは、この子供の名前だったな……保護者か? それにしては怖い顔をした奴らばかりだが」

「そっちの子は可愛らしいよ、17号。きっと姉妹か何かだよ」

「残念だな。オレ達の旅の仲間にしようと思ったんだが、迎えが来てしまった」

 

 ……ふむ。

 その口ぶりからするに、奴らはナシコに危害を加える意思も無ければ、素直に返してくれるつもりでもあるらしい。

 人造人間が恐ろしいのはその戦闘力ばかりなのか。危険を説いていたトランクスを見れば、言葉なく動揺しているようだった。

 

「うぁ……ぞんびだ……ぁ?」

「ああ、起きちゃった。あんたらがうるさくするからだよ」

「そいつはすまなかったな。16号ほど無口にはなれないのさ」

 

 ようやく眠り姫がお目覚めだ。

 やつめ、のんきに大あくびなんぞしおって。

 

「おはよう」

「おはよ……ふあ~~あ……あおっ!!?」

 

 髪を掻き上げながら覗き込んだ18号を視界に入れたナシコは、裏返った声を発してビシリと固まった。

 

 

 

 

「ああそうだ。オレ達は孫悟空を倒すために動くつもりだ」

「やめる、って手はないのか……?」

「それはできない。孫悟空を抹殺する事が人造人間の目的だからだ」

「だとさ」

 

 研究室の奥のこぢんまりとした一室で、俺達は人造人間と相対していた。

 だがその雰囲気に殺伐としたものは欠片も無い。カカロットの奴を殺す殺さないなんて言っているが、俺達サイヤ人にとってはそんなもの挨拶程度のものでしかない。

 こいつらはどうにも話せる奴らのようで、21号が注いだ紅茶を飲みながら話す17号、18号にも敵意がなかった。

 

「ナシコを狙ってはおらんのか」

 

 テーブルについているのはその2人の他にナシコとウィローがそうだ。

 俺達はのんびりする気にもなれず……というか丸テーブルが個人用のようで小さいので座れず、部屋の端に散って会話を眺めている。

 

「うん? ああ、こいつの事か。オレ達の抹殺命令は取り下げられたが、16号、お前はどうだ?」

「オレには元々そのような命令は入力されていない。殺すべきは孫悟空ただ一人だ」

「……らしいぜ?」

 

 ウィローの向かい側に座るのはナシコだ。17号と18号に挟まれて極限まで小さくなっている。

 忙しなく瞳が揺れ動き、呼吸も浅い。気の毒なくらい緊張している……悪人相手に過剰に強気になれるあいつがああなっている辺り、やはりこいつらは良い奴と判定されたのだろう。

 

 視線を落とし、何か考え込んでいたトランクスが眼差し鋭く顔を上げた。

 勢い込んで発した声は、ナシコに負けないくらい緊張を含んでいた。

 

「人々を無作為に殺したりは……!」

「しません。そんな事をするほど私達の論理は狂っていない……あの人が生きていれば、また違ったでしょうけれど」

「し、信じられない……! そんな事は、信じられない……!」

 

 奴のいた未来は人造人間が遊びと称して人間を殺して回り、かなり凄惨だったらしい。

 といってもこれはトランクスの口から聞いたものではない。ナシコとの会話の中で奴が意識せず語った、未来の姿だ。いやなんで未来の事を知ってるんだお前は。……気にするのはやめておこう。そう肝に銘じておいただろう……。

 

「あの、あのね?」

 

 トランクスが納得できないのも無理はない、と思っていたところで、ナシコの奴がおずおずと話を切り出した。

 

「え……」

 

 そして語られる未知の人造人間セルの話。

 混乱を避けるために一段落ついてからこうして語る事にしたらしいが、トランクスの戸惑いは激しく……反対に、自分達が吸収されると聞かされた17号や18号に動揺はなかった。

 

「セル……? どこかで聞いた覚えがある……」

「そんな奴がいるなら、力を取っておけばよかった……!」

「何? どういう事だ」

 

 ピッコロが不思議に思っているようだが、考えるだけ無駄だ。

 

「いえ、あの。先程私が使った力は、以前ナシコちゃんから頂いた……奪ったもので一時的にブーストしていただけで……」

「そ、そうなのか!?」

「ええ、はい。そうすれば、みなさんはきっと抵抗しようとは思わなくなると思ったので……ああ、とっておけば……なんて、後の祭りです」

 

 あの異常なパワーは、なるほどそういう事だったのか。

 

 

 セルとやらは、未来から来た者と現在製造されている奴がいるという。

 ここより地下は自分の管理している場所しかないはずだ、と21号が言ったが、手分けして探せば、ほどなくしてその地下への道は見つかった。

 普段は出入りを禁じられていたらしい扉の向こうに、深い穴と梯子があったのだ。

 俺達はそこだけでなく、この研究所そのものを破壊しつくすという事になった。

 

「す、少し待ってくださいね! データを回収しなくっちゃ」

「待て。データとはなんだ? これ以上化け物を生み出されちゃ困る」

 

 慌てて自分の研究施設へ走る21号をピッコロが止める。

 それもそうだ。見るからに科学者であるこいつも、こういった人造人間を生み出せてしまうのかもしれない。可能性は少しでも多く潰しておきたいところだな。

 

「いえ、あの子達……AItuberを回収してあげないと」

「……ん? もしや科学者ニーサンというのは……」

「え、あ、はい。私ですけど……」

 

 よくわからんが、どうにもそれは危険なものではないらしい。

 ナシコやウィローが反応していたが、破壊活動には特に関係がなかった。

 

 とりあえずはこれで一息つける訳だ。

 しかしまだ恐ろしい奴が潜伏しているらしい。それについての対策はしてあるから安心してよ、とナシコは言うが、不安でしょうがなかった……。




TIPS
・Forever2018
時々昔に想いを馳せて寂しくなる事を煩わしく思ったナシコが
歌として発散した曲
異世界の歌

・17号
ナシコには直接触れていないので浸食は軽度
原作とそう変わりはない
設定上は18号よりほんの少し強いらしい
戦闘力は2億

・18号
ナシコに触れてしまったので陥落した
表面上ではクールだがナシコの髪を梳いてる時の内心はムツゴロウ並みである
ムツゴロウって通じるのかな
戦闘力は2億

・16号
こちらも原作と大きな変わりはない
21号の記憶は意図的に入っていない
ドクターゲロが21号を完全に掌握するためにそうしたのだ
戦闘力は2億3000万

・21号
科学者ニーサンと名乗って世間に身を晒し資金集めをしていた
戦闘力は2億

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