TS転移で地球人   作:月日星夜(木端妖精)

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無駄に長くなってしまった


第五十四話 視聴率100%! セル、恐怖の独占生放送

「そういう事で、じゃあねトランクス! ベジータ届けたらそのままブルマさんとこにいてもいいからね!」

「え、あ、はい」

 

 セルが完全体になったその日。

 落ち込んでいる暇などなく、私は超特急で活動を開始した。

 まず事務所に駆け込んで簡易ステージの撤去を依頼するでしょ、新しいステージを特設するために業者を手配。

 連絡から即依頼先の会社に突撃して、必要な機材や人材を運搬する。働く車に乗り込んだ人達を空の旅へご招待。

 そいでもって、だいぶん昔にぶらり原作名所巡りでこの辺りだろうなーって辺りを付けてた地区に下り立ち、テープを張って地面を均してもらう。

 後のお仕事は違う人がやってくれるので撤収! 立ち入り禁止区域の前に『セルゲーム会場建設予定地』の看板を打ち立てて置いて、ああ来た来た!

 

「あとよろしくおねがいしまーす!」

「お先失礼っしゃしゃー!」

「っしゃーす!」

「ちゃっちゃー!」

 

 ふわーっと飛んできたセルが私を見下ろすのにぶんぶん手を振って挨拶しておく。業者さん達も礼儀正しく引継ぎのご挨拶。

 会場作るんならここに作ってね! じゃあねばいばい!

 

「…………なんなのだあいつは」

 

 車に乗り込んだ彼らをうおーっと持ち上げて御社まで送り届ける。

 お次はアポとった会社の人にご挨拶だ。事務所に戻って大人ナシコに大変身。正装に着替えて──着替えさせてもらって、えーまだ一時間くらいあるのでいったんお家に戻ります。

 

「あああ、やめんか! やめろ!」

「駄目だよウィローちゃん安静にしてなきゃ、腕すぐ治してもらおうね、それまで我慢、我慢だよ!」

 

 片腕を失ってしまって可哀想なウィローちゃん……私が看病してあげなくちゃ!

 とりあえず救急箱持って来たから消毒して包帯ぐるぐる巻いとこうね! ちゃんとベッドで寝ててね!

 ナメック星の神龍に腕治して貰うよう頼んでくるから、それまではベッドに釘付けだよ!

 

「シロちゃん見張りお願いね! ほっとくと平気な顔してやれけんきゅーだの実験だのしだすんだから!」

「あいあいあさー! シロに任せて! ドクター監禁りょーかい!」

「じゃ、お仕事行ってくるからね!」

「むぐぐぐぅ」

 

 なんだろ。ウィローちゃんとっても何か言いたそうにしてるけど包帯でお口塞がってるからもごもごになっちゃってる。

 よくわかんないので前髪を上げておでこにキスを落としてお別れする。

 ところでさっき培養槽にやべぇ感じのボコボコがあったんだけどアレなに? バイオハザード的な悪い事画策してない? 気のせい?

 

「じー……」

「むぐ」

 

 数ミリの距離で顔を覗き込んで監視するシロちゃんが頼もしすぎるので安心してお仕事に出られるよ。

 リビングで遊んでるラディッツとターレスにも一声かけておこ。

 

「ねえ! 後で神様のとこに集合ね!」

「あん?」

「……ああ」

 

 暢気な反応にふんっと息を吐き出して乱暴に扉を閉める。

 まったく、この非常時になんでオセロなんかやってんだろ。お遊戯民族にでもなっちゃったのかな!

 でも駄目です。しっかり修行してもらいます。そうだな、明日辺りに神殿に来てもらって精神と時の部屋にぶち込もう。今日はあれでしょ、悟空さんと悟飯ちゃんがこもってるから入れない。私は、ウィローちゃんの腕が治り次第入ることにしよう。

 

 でもその前にやる事がたくさんあるの! ひー、ああなんだっけ、なんだっけ、順番忘れちゃったよ!

 

「あーん! メモでもしておけばよかったよう!」

 

 髪くしゃくしゃーってしながら玄関先でわたわたしちゃう。

 あ゛あ゛ー゛しまった、せっかく整えた髪がぐしゃぐしゃに! 誰だこんなひどいことした奴!

 

「もー! 時間ないのに! あーやばやばやば……!」

 

 肩掛けバックからお櫛を取り出して靴箱脇の姿見で髪を整える。よしっ、おけ! スティックノリもとい、えーなんだっけこれ。二本の名称ど忘れ化粧物体を唇に塗り直してんまんまする。うげ、崩れた! もっかい……これ苦手なんだよなあもう!

 

「ん、ばっちし!」

 

 ピンクできらきらぷるぷるの唇に指を近づけ、ちょっと流し目でキメてみる。

 ふふん、クールビューティーってやつだね。大人の魅力あふるるナシコだ。わかんないけど。

 いつもの運動靴じゃない、外向け用のヒール付きのお靴履いてはい出発!

 

 

 

 

 ゆったりレストランでお食事しつつ、しゃっちょさんとのお話が完了した。

 会社の応接室でお話するって思ってたのに、社長さんとか会長さんが出張ってきてお食事に誘われたので、乗るしかなかったのだ。ふぇー、ご飯食べるの想定してないお化粧だよ……急なお話ですから、みたいな感じで押し切られたけど、私ちゃんとこの事ずーっと昔から頼んでたよ?

 そんな訳で諸々の許可と明日の番組をジャックさせてもらう事を承諾してもらって、偉い人お見送りして、車が見えなくなるまで微笑んどいて、よしぶりっ子終わり!

 

 しゃしゃっと業者さん手配して突貫作業で会社に手を加えさせてもらう。施工終了予定時刻は17時30分? はっや。さすが技術が発達してるだけあるね!

 そういやうちの改装とかも1週間かからなかったもんなあ。この世界の技術の発達具合がよくわかんない。

 

 お昼は抜く予定だったけど思わぬ接待でこなれてるのでよしとして、アポアポアポ……。

 あっちに飛んでは事情を通し、こっちに行っては押し通し。

 明日の準備は完璧ねってなった頃には空は真っ暗で私もくたくた。

 

 ひょろひょろ飛んでお家に戻り、ベッドに直行……。

 

「なぜこっちに来る」

「お帰りー。ちゃんと閉じ込めといたよ!」

 

 むすっとしたウィローちゃんは、ベッドのヘッド部分に背中を預けて本を読んでいるところだった。

 片手でも読めるように機械のアームや小さな横長机がベッドに備えられてたんだけど、そういうの全然使われずに隣に並んだシロちゃんが本を読んであげてたみたい。

 本を放り投げ、ベッドから抜け出して私に報告しつつ腕を広げるシロちゃんを抱き締めて労わる。

 

「よーしよしよし、偉い!」

「きゅふふふ! バブみじゃー! バブみ神……」

「あはは、くすぐったいよ、もう」

 

 胸に顔を埋めて匂い嗅いでくるシロちゃんの短めの白髪をすいすい梳いて、それからウィローちゃんにただいまを言う。

 

「ああ、お帰り……」

「ね、腕大丈夫? お土産包んで貰って来たから食べて。早く元気になってね?」

「病気ではないと言っておろうに……ありがたく頂いておく。ここに置け」

 

 お高いレストランテだったからたぶん美味しいよ、と包みを持ち上げてみせれば、ウィローちゃんはお腹の上の机を横へ押しやって、それを指で叩いた。なんか不機嫌? 一日動けなかったからきっと体力有り余ってるんだね。犬もねー、お散歩とかさせてあげられないとストレス溜まって無駄吠えとかするようになっちゃうんだよね。

 

「よいしょ」

 

 シロちゃんを抱っこして、そのままベッドへゴーイン。

 鬱陶しがるウィローちゃんの横へ体を押し込み、超速就寝。

 はぁあ~~……落ち着く……。

 

 

 翌朝、ドバンと大気を揺るがす超パワーにむにゃりと起きて、気配の方を拝んでおく。悟空さんの気だー……御利益ありそう。

 精神と時の部屋から出て、パワーはどんなもんかなって試してみたところだろうか。おかげで目が覚めました。

 

「やっと起きたか。放せ」

「むにゃむにゃ……」

 

 左にウィローちゃん、右にシロちゃんの両手に花な、私は肌着のナシコです。

 また服脱いじゃってたみたい。堅苦しいかっこで寝てたからね、仕方ない。

 ああー、この温もりが最高……お目覚めのちゅうする?

 

「しない!」

「じゃあシロちゃんにちゅー」

「するな!」

 

 なあんで! もー。文句ばっかりなんだから……ほら、シロちゃんは唇突き出してばっちこいしてるよ!

 ふふん、なーんて冗談冗談。

 

「ちょっとからかっただーけ。真っ赤になっちゃって……子供ね?」

「こいつ……」

 

 指をたて、お茶目に悪戯の成功を宣言する。その指で頬を撫でれば、ほんとに赤くなってぷるぷる震えているウィローちゃんが悔しげに呟いた。彼女には無い大人な魅力でマウント取っちゃうのも楽しい。大きいナシコも悪くないね。子供の方が好きだけど。

 でも今日はまだ子供に戻る訳にはいかない。シロちゃんを抱き上げてベッドから出て、下ろしてあげたシロちゃんのほっぺむにむにして目を覚ましてあげて、洗面所に向かいつつ髪を纏める。

 相変わらずこの研究所は薄暗いね! 窓付けたらいいのに。……地下だから意味ないか。

 

「今日はちょっと撮影に出てくるね」

「……こんな時にも仕事か」

 

 顔を洗い、歯を磨き……。お隣でおんなじように歯ブラシを操りつつ、やや呆れた風に言うウィローちゃんに頷く。こんな時だからこそ、だよ。といってもアイドルとしての活動が主って訳じゃないんだけど。

 事務所に行く前に悟空さんとこにも行かなきゃだから、ふう、ふう、気合いを入れて……よし、急ごう。

 

 研究所を出て、一度本宅に急ぎ、ぐーすか寝こけていたラディッツとターレスの首根っこを掴んでパオズ山へ。

 

「なんだおい、説明も無しに!」

「待ち合わせの話しか? てめぇ結局神殿とやらには来なかったじゃねぇか」

 

 何言ってんの、神殿には今日の午後とかに行くんだよ?

 あと目が覚めたんなら自分で飛んで。後ついてきてね。

 

「おはようございまーす!」

「お、ナシコでねーか。ラディッツさんと……そっちはターレスさんだな?」

「朝早くからすまんな」

 

 下り立ちつつお庭で布団を干していたチチさんにご挨拶する。

 悟空さんと悟飯ちゃんは中ですかー。ちょっとお話良いですかー。

 あ、お食事中? じゃちょっと待った方が良い? 大丈夫?

 気にしないでいいらしいのでお邪魔させてもらう。

 

「おはようございます、ナシコお姉さん」

「え、オラに用事?」

 

 また結構成長している悟飯ちゃんに挨拶しつつ頭なでなでして癒され、それから緊張を持って悟空さんにお願いする。ほああ、超サイヤ人かっこいい……もちろん悟飯ちゃんも格好良いよ! ああ、最高……。

 

 彼は私のお願いを心良く引き受けてくれた。もちろん悟飯ちゃんも一緒。一回くらいは会っといた方が良いか、と判断した悟空さんがチチさんから許可を貰ってくれたのだ。

 ほいじゃあこの放送局に……はい、はい、どうも……。それでは!

 

「ああ! またな!」

 

 朗らかに見送ってくれる悟空さんに控えめに手を振りつつ、二人を伴って陸路で少々離れ、それから飛び立つ。

 ……孫家を出てすぐ飛んだらはしたないように見えちゃうからね!

 

 という訳でやってきました。ここが都で一番大きな放送局。

 世界ニュースを取り扱うここは、国王様との対談にも使われた凄いとこなのだ。

 私もウィローちゃんもかなりお世話になってるよね。

 

「ぜ、全国放送とは、ちょっと緊張するぜ……」

「ヤムチャさんは野球の試合で映ったりした事もあるんだからまだいいじゃないですか。おれなんか初めてっすよ……」

「遅れてすみません。本日はお集り頂き、ありがとうございます」

 

 控室に集まっているのは、昨日と今日に声をかけて集めたZ戦士のみなさんだ。

 ピッコロ、クリリン、ヤムチャ、天津飯、チャオズ……は辞退されちゃったからいなくて、ベジータも一応声かけたけど来てくれてる訳ないか。でもトランクスはいて、戸惑いがちに挨拶を返してくれた。

 

「せ、セルの脅威を伝えるため、それに対抗する者がいるのを伝える……と聞いていたのですが……本当にオレ達が出る必要はあ、あるのでしょうか……」

「ん、未来法規定的にまずい事があったりする?」

「いえ、そういう訳ではないんですが……法などもありませんし」

 

 テレビに出てねって説明はしてあるものの、この時代に未来のトランクスの記録を残すのってまずかったりするんだろうか、と思ったけど、そうでもないみたい。じゃあいいね。

 

「おい、本当にセルの奴は来るんだろうな」

「ええ」

 

 隅の方で腕を組んで立つピッコロさんが問いかけてくるのに自信を持って頷く。

 だって昨日、告知があるならここに来てねって伝えておいたし。……もしかしたら関係ない放送局にいっちゃうかもしれないけど、この(なか)の都以外に全国へ一斉に生放送できる局ってないし、たぶんここに来るんじゃないかな。それ前提で色々頑張ったんだから来てくれないと困るよ。

 

「あ、悟空!」

 

 シュピン、と瞬間移動してきた悟空さんに、クリリンが反応する。私も喜色を浮かべて彼に挨拶しようとして、その後ろに不機嫌顔のベジータがいるのに固まってしまった。

 

「よ。みんな揃ってんなー」

 

 なんでベジータまでいるんだろうって聞いてみたら、暇してたみたいだしせっかくだから連れて来たんだって。

 そ、そうなんですか……。

 

「チッ、くだらん……」

 

 めっちゃ怖い顔してますけど……暴れたりしない?

 さすがにそういう事されると私が怒られちゃうんだけどな……。

 

「彼女達もいるんですね」

 

 悟飯ちゃんは、壁際に立つ16号と、その腕をとっている21号に目を向けた。

 うん、声かけたら二つ返事で来てくれたよ。16号は無反応だったけども。

 

「それではみなさん、もうしばらくお待ちください。備え付けの冷蔵庫にあるものはご自由にどうぞ」

 

 ぺこり。お辞儀して廊下に出る。待っていたスタッフさんにお願いして代わりに中に入ってもらい、私は着替えに向かう。

 全国向けだから落ち着いた感じの、暗い赤のドレス……露出は控えめで、しっかりした感じ。

 アイドルっていうよりは女優さんみたいだけど、顔に合ってるらしいので問題はないだろう。

 全国放送だとか(ナマ)だとかは何回やっても緊張するけど、いい加減慣れないとね。今日はみんなもいるわけだし……。

 

 

 

「失礼しました」

 

 訪れた控室のドアを閉じ、一息つく。

 とりあえずご挨拶も終えたし、後は用意してもらった資料の確認と、セルがちゃんとこっち来てくれるか確認して……。

 

 なんて諸々やってるうちに時間が来た。

 スタジオ入りして、アナウンサーさんに呼ばれるのにお邪魔する。

 

「みなさん、おはようございます。アイドルのナシコです。本日は少々のお時間、世界ニュースにお邪魔させて頂きますね」

「ナシコさん、よろしくお願いします。いやー、感激ですね……ナシコさんと一緒に仕事ができる日がくるなんて」

 

 少しお年のいったアナウンサーさんに会釈をしつつ横に座り、まずはご一緒にニュースをお届けする。

 セルが来るまでは普通にお仕事だ。アイドルとして可愛い感じでニュース番組に出た事はあるけど、真面目な感じでやるのは初めてだから普通に緊張する。国王様との対談は、相手がもふもふだったから緊張も何もなかったなー……。

 

 先日から周知されているUMAについて、目撃情報を交えて、昨日の簡易ステージ方面を震源地とする地震や騒ぎについて触れていれば、ようやくお出ましだ。

 私達が座る机と、カメラの間の床に作られた1階から直通の通路を通ってぬぅっとセルが姿を見せた。

 

「ここで臨時ニュースをお伝えします。先日より世間を騒がせていた未確認生命体"セル"、その完全体のお披露目と相成りました。セルさんの登場です」

「…………」

 

 あわてず騒がず、アナウンサーさんは用意されていた資料に目を通しつつ紹介する。

 表情がなく何を考えているかわからないセルが何をするより早く、席を立ち、彼の下へ歩いて行って案内する。

 こちらへどうぞー。

 

「……フ」

 

 傍らに立つ私を見下ろした彼は、「おもしろい」とでもいうように笑みを浮かべると、されるがまま机の横に立って腕を組んだ。

 よしよしいい子いい子。ちょっと大人しくしててねー、視聴者のみなさまにご説明しなきゃだから。

 

「──……と、いうことは、未来の世界からこの時代の人類を死滅させるために送られてきた生物なんですね」

 

 第一形態からの歩みやらなんやら、私が伝えておいた情報とはなんか色々面白おかしく変わってるけど、おおむねその通りなので笑顔で相槌を打っておく。

 ちなみに完全体になってイケメンになりましたねっててきとう言ったら、割とセルは得意げにして顎を擦るなどしていた。

 

「そんな驚異的なセルが、武道大会を開くとのお話ですが……?」

 

 ここでスタッフさんに扮したうちのアカちゃんがセルに寄っていってマイクを渡す。

 セルは、手渡されたそれをしばし手の内で弄ぶと、手を下ろしてカメラへ目を向けた。

 

「ご紹介に預かった、私がセルというものだ……」

 

 マイク使わないんかーい!

 なんて突っ込みたくなる気持ちを抑え、彼がノリノリで自己紹介をするのにほっと胸を撫で下ろす。

 今のところ暴れたり、誰かを傷つけたりする様子はない。会場づくりでもお膳立てをしたためか、無駄に民家を破壊したりして更地を作り出したりもしなかったみたいだ。

 

「今日は平和で楽しく暮らしている諸君らに素晴らしい話を持って来たのだ……」

 

 順調に、セルはセルゲームの開催を宣言した。

 自分が勝てば世界を滅ぼす事ももれなく加えたけれど……果たして、それを信じる人がどれだけいるだろうか。

 今のところ、セルって人的被害をまったく出してないよね。

 

 今この場でも、ほんとに怪物として見ている人っていないかもしれない。大人しくしてるのもあって、悪役プロレスラー程度の認識になってそう。

 人々に危機意識がないのはいざという時危ないけれど、でも、賑やかし程度に捉えているなら、それが一番いい。

 それで、そのまま、誰も恐怖を感じないまま終われば最良。そのために尽力しなくちゃね。

 

 今日の最大目標はセルに何も傷つけさせないで会場まで帰らせる事。

 副目標は、冷やかしや観戦目的でセルゲームに参加する人がいないようにする事。

 

「では、このセルゲームに挑むという勇敢な選手たちにご登場願いましょう! どうぞ!」

 

 セルの話が一区切りついたところで、端に控えていたみんなに出てきてもらう。

 ……一人足りない。

 

「あ……で、では、一人ずつ自己紹介と意気込みを聞いていきましょうか!?」

「は、はい!」

 

 ほんとなら遅れたお馬鹿にビシッと一言決めて貰って終わりなはずだったのに、なぜか遅れているのでアナウンサーさんが機転を利かせて自己紹介のコーナーとなってしまった。

 仕方ないので私が担当させてもらう事にして、気は進まないけどマイクを取って席を立つ。

 えー、あの、すみません悟空さん……お願いします。

 

「え、なんだ? 名前言やぁいいのか?」

「ええ、どうぞ」

「ふーん。オラ、孫悟空だ」

 

 ざわり。スタジオの空気が一変する。

 セルも腕を組んで楽し気に悟空さんを見ているので、なるほど、強者というのは名乗るだけで場を沸かせる能力があるのだと納得した。

 

「セルはオラたちが必ずやっつけるから安心してくれ」

「言うじゃないか、孫悟空。思っていたよりも随分ウデを上げているようだ……」

「まあな」

 

 睨み合う二人に、空気はばっちり。

 続いて悟飯ちゃんにマイクを向ければ、彼は戸惑いながらもしっかりとした自己紹介をしてくれた。

 意気込みは、頑張りますって普通なものだったけど、うんうん、君はそういう感じでいいんだよ。あーかわいい。

 

「大魔二世だ」

「……はい」

 

 ピッコロさんが、微動だにしないままヘンテコな名前を名乗った。

 え、なに、ダイ……? なんで真面目に名乗らないかは不明だけど、意気込みを言う気配はないので切り上げて置く。名前しか言わないのは予想できてたしね。

 

「…………」

 

 そして問題の人物です。

 マイクを向けたベジータは、生意気にも反対側へ目を向けてだんまりだ。

 

 当初、私だってみんなにこんな風に自己紹介して貰って、セルと戦う選手は決まってるんだぞって周知しようと思ってたんだけど、それを断念した原因がこれだよ。この人絶対喋んないもん!

 

『カプセルコーポレーションから来た、ブルマの夫のベジータだ。セル! 貴様にフィニッシュを決めるのはこのオレだと覚えておけ!!』

「え……」

 

 しょうがないのでベジータの後ろに隠れて声真似で対処する。

 組んでいた腕を解いて私の方に振り返る彼ににっこり笑いかけておく。

 はい、じゃあ次はトランクスね!

 

「ど、どうも、トランクスです。えっと……きっとセルを倒して見せますから、ご安心ください!」

「ありがとうございます」

 

 精一杯たどたどしく言い切った彼に、視聴者を代表してお礼を言っておく。

 その後も、それぞれ自己紹介をしてもらって、意気込みを語ってもらって……。

 何も喋らないかなーと思ってた16号も、空気を読んでか、それとも21号に肘でつつかれたからか、ちゃんと口を開いてくれて助かった。

 

 そして……まだ来ない。

 ので、うちの子に再び働いてもらって、パンチングマシーンを用意する。

 

「では、セルは如何ほどに強いのか!? それを見せて頂きたいと思います」

 

 不正を疑われないよう、まずはスタッフ数人でパンチパンチパンチ。

 ……数値ひっく!

 

「で、ではわたくしも失礼して……」

 

 アナウンサーさんも上着を脱いで腕まくり。

 うおおっと気合い一声パンチして、えー、はい。

 あんまり無理しない方が良いお年なのでは……?

 

「ふう、ふう。あ、ナシコさんもやりますか?」

「いえ、遠慮しておきます……」

「では! セルのパワーを見せて頂きましょう!」

 

 一人勝手にエキサイトしているアナウンサーさんが身を乗り出してカメラへ向かって叫べば、セルが動き出す。

 この空気でやってくれるのかわかんなかったけど、やってくれるんだ……。

 腕を振り抜いたセルは、容易く機械を貫いて破壊した。

 

「こんなカスどもと比較されるのは業腹だが、力を見せておかなければ冷やかしも増えるかもしれんからな……この対価は高くつくぞ、ナシコ」

「あ、はい」

「それでは諸君……9日後の正午を楽しみにしているぞ」

 

 壁に手を向けて気を放ったセルは、大穴を開けてそこから飛び立っていった。

 ……マイク持ってくんかーい!

 

「……はい、セルゲーム開催……でした。続いては世界のお天気のコーナーです」

 

 あんぐり口を開けて固まるアナウンサーさんに代わって司会進行する。

 終わり? って顔をする悟空さんに、こくこく頷く。

 はい、セル帰っちゃったので、ここまでです。お集り頂きありがとうございました!

 

「……ありがとな、ナシコ。オラ達にできねぇ事をやってくれてたようだ」

「え、あ、いえ、あの……」

 

 お開きとなって退出していくみんなと違って、悟空さんは私に近づいてきて、ぽんと肩を叩いた。

 ほめ、褒められるとは思ってなかったし、触れて貰えると思ってもなかったので、あう。

 かあっと赤くなる顔を見られたくなくて俯く。マイクを持った手を胸に押し当て、止まってられなくて、しきりに髪を弄る。

 

 ざわざわ。

 なんだかとても胸がざわつく。

 でも、それは決していやな感じではなくて。

 

「おめぇの力で救われた命がきっとたくさんあるはずだ。オラからも礼を言わせてくれ」

「……」

 

 ぽうっとしてしまう。

 込み上げる嬉しさに、あっつくなってしまう。

 こんなにはっきり言われるだなんて思ってなかったから……。

 ああ、頑張って良かったなって思った。悟空さんに褒められるために走り回った訳ではないけれど……うん。

 

 彼の顔を見上げる。

 落ち着いた翡翠の瞳に、逆立つ金髪。

 私の憧れそのもの。

 

 とくとくとくって脈打つ心臓に、その熱に突き動かされるまま口を開こうとして──。

 

「はあっ、はあっ、あれ、番組は……!?」

 

 ドタドタとやってきたミスター・サタンが、息を荒げて室内を見回した。

 

「またな」

 

 軽く手を振って離れた悟空さんが、壁際で待っていた悟飯ちゃんの肩に手を置いて瞬間移動する。

 ……はあ。

 ミスター・サタン、来るの遅すぎ……。

 

「も、もしかして終わっちゃってたり……?」

「ええ」

「そんなあ」

 

 頷けば、がっくり肩を落とす彼に、そうしたいのは私の方だよと内心で溜め息を吐く。

 せっかく彼を主役に話を進めようと思ったのに、まさか撮影に遅れるどころか来さえしないとは。

 ナシコも随分舐められたもんだよね……そうないがしろにされないくらいにはネームバリューあると思ってたんだけどなあ……。

 

「……?」

 

 ん、なんか局内が静か……?

 あ、ああ、そっか、私が進行しなくちゃだ!

 えーと、資料資料……お天気やって、それから19時までアナウンサーさんのサポートを……。

 ……アナウンサーさんまで固まってるし!

 

 もー、みんな、これ生放送だよー!?

 

 なんでか知んないけど、それから1分近くの間みーんな時間が止まっちゃっていたのでした。謎。

 

 

 

 

「あああ、やめんか! やめろ!」

「良かったぁ、ウィローちゃん良かったねぇ!!」

 

 おうちに帰ったら、ウィローちゃんの腕が復活してた!! びっくり!!

 

「この程度ならすぐ治せるのだ。なめるな」

 

 ふんっと腕を組むウィローちゃんの頭をよしよしすれば、激しく頭を振られて弾かれた。

 ああかわいい。そして凄い! さすが天才ウィローちゃん!

 こりゃもう舐めれないね。

 ……ふふんと得意げにしているウィローちゃんの頬に顔を寄せて、ちろっと舌先を当てる。

 

「なめるなっ!!?」

「へへー」

 

 肌の味ー。当たり前だけど。

 

「シロも! シロもなめる!」

 

 ぴょんぴょん飛ぶ白いメイドさんが、ウィローちゃんに迫るも額を押さえてつっぱられ、うーうー唸っている。

 

「お前の真似をしたがるんだから迂闊な真似はやめろ」

「はーい」

 

 私が研究所に来るとすっ飛んでくるシロちゃん、クロちゃんとは対照的に私にべったりで、私のやることなすこと真似っこするんだよね。ウィローちゃんをぎゅーしたり、ほっぺや額にちゅーしたり、一緒に寝たり……。

 

「そうだ、ウィローちゃんも完全回復した訳だし、一緒に修行しよ! 精神と時の部屋で!」

「む……まあ、やぶさかではないが……なんだそこは」

 

 そこはねー、超修行できる場所です。

 

「……そうか」

「シロも行く!」

「ごめんねシロちゃん、あそこ定員二名なんだ。二人までしか入れないの」

「大丈夫だよ、シロヒトじゃないしー」

 

 ……え、なにいきなり闇深いこと言ってるの?

 し、シロちゃんは人間だよ……?

 

「『お前はもう……ヒトじゃないだろ』」

「シロちゃん、それ誰に言われたの? 教えて?」

「きゅふふふ!」

 

 真面目な顔して、低い声で不穏な事を言うシロちゃんに、きっと誰かに酷い事言われたんだと判断して肩に手をかけ問いかけるも、笑うばかりで答えてくれない。

 ウィローちゃんに目を向けるも、肩を竦めるだけ……え、え、どう反応すればいいのこれ。

 

「修行だな。わかった、準備をしておく」

「え、うん、おねがい……?」

「きゅふふ! きゅふふふふ!」

 

 ウィローちゃんが部屋を出てしまうと、残るのは裏返りかけた甲高い笑い声ばかり。

 あの、私はこの子の闇とどう向き合えば良いのでしょうか……教えて神様ー!

 神様と言ってもデンデだぞ。

 あ、そういやまだデンデ呼んでないや。今度呼びに行かなくちゃ。

 

 そんな流れでデンデが地球の神様になりました。

 やったね。




TIPS
・ウィローの腕
有機培養にて復活
これでいくら体が欠損しても大丈夫になったね!

・大魔二世
ピッコロが即席で考えた世間向けの名前
魔ジュニアもピッコロも世間的にまずいので
それっぽい名前を用意した


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