けものフレンズ2視聴しておりました。完走しました
もうやだ
ともえちゃんかわいい
なんとか立ち直れたので更新スピード上げていきます
読者さん戻ってくるかなー……
トランクスは、仙豆を飲み込むような余力が残っていないようだった。
だから今はウィローちゃんが傍について治療を施している。それから仙豆を食べさせる事ができれば、きっと彼は大丈夫だろう。
「…………」
「しっかりするんだ、トランクス!」
「死ぬな!」
天津飯やヤムチャが懸命に声をかけ続けている。それが余計に痛ましくて……。
胸に斜めに穴が空いて……それは私を狙った光線に貫かれたせいなのだから、どうしたって心配してしまう。できれば駆け寄って声をかけてあげたい。元気になるまで見守りたい。けど、今はそれよりも優先しなくちゃいけないことがある。ウィローちゃんが治してくれているんだから、彼女に任せて……そう思えば、なんとか前に集中できた。
……できたからといって、この戦いに貢献できることは、私には……ない……!
胸の奥に走る痛みと頭痛や吐き気で、全開パワーで立ち向かう事もできない。これじゃあなんのためにここにいるのかわかんないよ……!
「うわあ!」
額を打たれた悟飯ちゃんが仰向けに倒れる。
割れた額を押さえてなんとか起き上がる彼を、セルは悠々と見下ろしていた。
三対一。
普通の人間だったら、数の優位で押し切れる状況だ。
でもこれは尋常の戦いじゃない。
スパークを散らすセルに敵う者はいない。
悟飯ちゃんも、ラディッツも、ターレスも、容易く蹴散らされてしまった。
「──っく!」
瞬時に詰め寄ったセルによる拳撃を受けて吹き飛ばされた悟飯ちゃんが、空中で一回転してスタッと着地する。
ダメージが残っているために衝撃を逃がすのに失敗したらしく姿勢が変だ。
前に打たれた頬が今頃痛み出したのか、切れた唇から血が垂れて、それを拭う仕草さえ苦しげだった。
「フフフ、どうだ? この素晴らしいパワーは……」
ウィローちゃんが教えてくれたから、今のセルの最大パワーはわかっている。
20億あまり。ラディッツやターレスの倍なんていうふざけた数値。
ううん、数値だけでいえばブロリーの方が上だった。それでも、そんな化け物をやっつけたって事実は、なんの救いにもならなかった。
「悟飯……!」
ピッコロさんの悔しそうな呟きに、んっと息を呑む。
人智を超えた力を持っているのに、それがなんの役にも立たない……力量不足の状況に打ち震える事しかできない。
彼らの傍に倒れ伏す悟空さんやベジータを助けたいのに、誰も割って入れない。
10億もの戦闘力で遊ばれるのだから、8億だとか、それ以下で太刀打ちできる訳がない。
それは私にも言える話だ。たとえ悟空さんと同じ戦闘力であろうと誤差にしかならない。
これ以上のパワーアップは、私にはない。
……あるはずなのに、出せない。それがこの上なく悔しくて、痛む胸に、衣服を握り締めて咳を抑え込む。
あいつの、あんな意味のわからないパワーアップさえなければ、今頃はきっと押し切れていたはずなのに……!
「なぜ私がこのようなパワーアップができたのか……知りたそうな顔をしているな」
弱った心がありもしない空想の未来を描いてしまうのを、セルに見抜かれた。
さもしい姿を曝け出されてしまったみたいで、嫌な汗が滲むのに、視線を下へ向ける。
「正直私も驚いている。パワーアップできると踏んでいたのは確かだ。だがここまで劇的とはな」
嬉しい誤算だった、と笑う彼は、片手間にラディッツの攻撃を捌いて跳ね返す。
超サイヤ人が三人揃って通用しない。……悪夢のような光景だった。
「そもそもこの時代へやってきて、21号との邂逅も想定外の出来事だったのだ」
だが、私を育て上げたコンピュータはこの事態を予期していた……。
朗々と語るセルは、よっぽど自分の強さを知ってほしくてたまらないらしい。いっそ弾むくらいに朗らかな声音だった。
「数多の予測の中に、未知なる未来の人造人間を取り込んだ場合のパワーアップケースが提示されていた。私の計算では、それはお前達がなんらかの術でパワーを上げたとしても上回れるだろうというほどだったが……まさか新たな力を獲得してしまうとはな……」
素晴らしい変化に自分でも驚いているよ、と、セルは肩をすくめてみせた。
その合間にも攻撃を受けているのに、その場から動きもせずに対処している。傍から見ているだけでもわかる、血の気が引くほどの強さ。
「たとえ21号がここへやって来ていなくても問題はなかった。奴が時折発するナシコ、お前の気を探れば……瞬間移動するのは容易いからな」
……人造人間に気はない。だから気を探って行う瞬間移動はできない。
だけどセルが言う通り、21号は私の細胞を元にしていて、私の力も持っていたから……微かに私の気配を感じる事があったのは確かだった。
「完全体となった私が吸収したところでさほどのパワーアップになるとは思っていなかった、ゆえに保険……奥の手だったのだ。……奥の手を隠していたのは自分達だけだと思っていたかな?」
「だああ!!」
果敢に挑む悟飯ちゃんの蹴りを腕で受け止めたセルは、大きく振り払って気合砲を放った。
地面にぶつけられて跳ねた悟飯ちゃんの体がさらに弾かれて舞う。
「っ……」
握りしめた衣服越しの手の平に爪が食い込む。
見てられなかった。せっかく戦うって言ってくれたあの子が、一方的に甚振られている姿なんて……!
「どうした孫悟飯。私を倒せるのではなかったのか?」
「く、くそっ……く!」
「実を言うと、かなり期待しているのだぞ。ナシコが言うのならば現実味があるし、実際に今もお前のパワーは少しずつ上昇を始めている……微々たるものだが、今の私に匹敵する程成長する可能性もある……さあ! 怒って見せろ! そうすれば真の実力とやらが発揮できるのだろう!」
戦う楽しみを求める怪物は、完全に悟飯ちゃんに標的を移して追い込んでいる。
立ち上がる悟飯ちゃんに足早に歩み寄ったかと思えば、左右で構えたラディッツとターレスを殴り飛ばした。
「どうだ! 仲間がやられて怒りがこみあげてくるだろう!」
「ぐ……! く、くっ……!」
「……、……。そう、か。これだけでは足りんか」
悟飯ちゃんだって、必死に自分に眠る力を呼び覚まそうとしている。けど、上手くいってない。
心優しい彼が怒るって事はそうそうないから、きっとどうすればいいのかわからないのだろう。
「では父親が死に追いやられる様を見せつけられたならどうかな」
「っ!」
セルは、今度は倒れる悟空さんの背を踏みつける事で悟飯ちゃんの怒りを買おうとしていた。
悟空さんが苦悶の表情を浮かべると、その分だけ悟飯ちゃんの気が膨れ上がっていく。
金の髪が騒めいて、体表面に輝きが纏わる。
「やめろーっ!」
「あと一歩が足りんな……」
その足を退かせようと飛び掛かった悟飯ちゃんは、しかし打ち返されてしまった。
まだ力が及ばない。気が安定していない。
超サイヤ人の壁を越えなければ、きっとセルには敵わない……!
「げほっ、けほっ!」
心臓が痛んだ。それは、緊張とか悪寒とか、そういったものからくる痛みだった。
どうして悟飯ちゃんがこんな思いをしなければならないのかって、そう思うと遣り切れない。
結局彼に頼ってしまっている。いけないのに……私、なんにもできなくて。
「う、く……!」
ううん、そんなの言い訳に過ぎない。きついからって何もしてない。きついのはみんなも同じなんだ。
弱音を吐いてちゃいけない。自分に負けてちゃだめだ!
それに……! いつまでも悟空さんを踏みつけているセルを、私だって許せないんだから!
「はぁあああ……っ!!」
熱を吐き出すように、低く唸るように声を出す。
神経を突き刺すような痛みを、芯に亀裂が走るような致命的不快感を無視して思い切り光を噴き上げる。
ここで戦わないでいてやられるくらいなら、全力で足掻く!
……大丈夫! 痛くったって、きつくったって、そんなの後になれば平気だから! たぶん!!
「ぁああああ……!!」
普段より多くの時間をかけて、赤い光にスパークが混じる。
ルージュスパークリング。全開まで高めたエネルギーは、もう数秒だって持ちそうになかった。
「おや? お前も孫悟飯を怒らせる手伝いをしてくれるのかな? フルパワーになるだけで随分消耗しているらしいが……」
「はあっ、はあっ、んっ、」
「確かお前とこいつは相当仲が良いんだったな……痛めつければ、相応のきっかけになりそうだ」
元々苦しかった息がいっそう苦しくて、何度も大きく息を吸ってるのに、全然酸素を取り込めている感じがしない。喉がせばまって、呼吸自体もしづらくて……。
それでも、フルパワーを維持するのに支障はないと自分に言い聞かせた。
私だけ不調を理由に休んでいるなんて許されない。戦うべき時に戦えないなんて役立たずにはなりたくない。
それだけを胸に、駆け出す。
「お姉さん!」
私を呼ぶ悟飯ちゃんの声に何が含まれているかは、敢えて考えないようにした。
拒絶のような気がした。来るなって言われているみたいだった。
そうするべきなのかもしれない。このまま悟飯ちゃんが怒りを爆発するのを邪魔しない方が良いのかもしれない。
けどそんなの私が耐えられない。だから……やるしかない。
「うぐっ!」
だけど、意気込んだところで力関係が変わる訳じゃなかった。
放った拳は空ぶって、背を肘で打たれるのに地面に落ちて滑る。
軋む体に全身固まってしまって、勢いが消えて止まった時には、変身すら解けてしまっていた。
「あ、う……」
「思った通り、もはや敵ではないな」
勝ち誇るでもなく、ただ実感のこもった声を発するセルに、地面を掴んで立ち上がろうともがく。
まだ終わっちゃいない。まだ死んでないから……戦いたいのに……! どうして、ただ立ち上がるって、それだけのことができないの!
悔しい。悔しいけど、でも、悟空さんから足を退かせるくらいはできた。
私が立ち上がりさえできれば、セルだって無視できないはず。
「さあ孫悟飯……このままではお前の父親が死ぬぞ?」
「ぐああ……!」
「お、お父さん……!!」
……!
な、なんで? 私がここにいるのに、どうしてまた悟空さんを……!
眼中にないってわけ……く、ううっ!
「どうだ? これでも怒れんか?」
一歩引いたセルが悟空さんの首を裏から掴んで持ち上げた。
ぶら下げられて悟飯ちゃんに突き出されるのに、嫌な気持ちが胸の中で暴れて、泣きそうになる。
ふざけないでよ……ふざけんな! なんでそんなことができるの……!?
「うん?」
自分でも気づかないうちに立ち上がっていた。
片手を空へ向けて、元気を集めながら。
この技なら、きっとセルを倒せる……今までだってそうだった。
呼びかけるのさえ辛いけど……これなら……!
「フ、では私も元気を頂くとするか」
「なっあ!? えっ、ああ!」
すっ、とこちらへ向けられた手に、私の手から光が吸い取られていく。
──理解が追いつかなかった。
何が起こってるのかわからなくて、手を挙げたまま動けないでいる私の前で、セルは、吊り上げたままの悟空さんの背に手を押し当てて。
「!」
ボ、と空気を燃やす音がした。
瞬いた光に、悟空さんの半分が砕けて溶ける。
「──!!」
地面に落とされた悟空さんを目で追う。
まだ息があるみたいだった。だって、超サイヤ人が解けてない。
……それでも、もう、駄目だっていうのはわかってしまった。
悟空さんのお腹から下が無くなってる……から。
「孫悟空といえどもこんなものか。随分呆気ない幕切れだったな」
「あ……ぁ……」
頭の中が真っ白になって、胸の中がぐちゃぐちゃになって、もう何がなんなのかわからない。
私が……私が集めた元気で悟空さんが……!?
「カカ、ロット……!!」
視界の端にがくがくと震える腕で起き上がろうとするベジータが見えて開いてしまっていた口を閉じる。
空白だった心に激情が流れ込んできて、突き動かされるように気を噴き上げた。
「ゆ……許さない……! も、もう、怒った……!!」
膝が震えて、太ももを掴んで押さえながら白い光を引き出していく。
「きさま如きが今さら怒ったところで、なんだというのだ」
私に向き直ったセルが挑戦的な笑みを浮かべて構える。
それだけでも良かった。せめて私に意識を向けさせたかった。
きっと仙豆さえあれば悟空さんは大丈夫だから……体だって、神龍に頼めば治して貰えるから……!
「サイヤ人のように怒りで爆発的にパワーを増す訳でも無ければ、この私との絶対的な差が埋まる訳でも──」
ふっと風が通り抜ける。
「──ない」
攻撃されたのを認識することもできずに叩き伏せられていた。
遅れて襲ってくる衝撃に息がつまって、体がばらばらになってしまいそうなほど痛くて、目をつぶる。
そうするともう、立ち上がる気力もなかった。地面に擦りつけてしまった頬がひりつく。
勝てないよ……どうしようもないよ……!
どうにかしたいのに何もできず、事態を悪化させるだけなんて……私、私……!
「う、う、う……」
ようやく吐き出せた息は湿っぽくて、体を起こそうともがけば、握り締めた拳に涙が零れた。
「泣けば何か変わるのか? この私が滅びるとか? フッフッフ……」
そんなんじゃない……!
嘲笑されて、見下されて、惨めな気持ちでいっぱいになった。
きっと、もっと他に方法があった。ちゃんとした作戦を立てていられたら、こんなことにはならなかったのに……!
超サイヤ人ゴッドを作り出したり、誰か一人にパワーを集めたり……!
今さら何か作戦を立てようなんてしても無駄なのに、拳に落ちる涙の数だけ後悔が過ぎって、考えずにはいられなかった。
みんながそれで納得してくれるかなんて度外視した考えだから、意味ないのに。
「悲劇のヒロインぶりおって」
歩み寄って来たセルに髪を掴まれて持ち上げられる。
頭皮の痛み以上に、自分の情けなさ以上にセルが憎くて、睨みつける。
それが精いっぱいだった。もう、抵抗もできなかった。
「お前のような腑抜けた女を見ていると虫唾が走る。今ここで……息の根を止めてやろう」
ぐっと、さらに高く持ち上げられて、私を見上げるセルは浮かべた笑みとは裏腹に嫌悪を含んだ声で語り掛けてくる。
その声が遠くに聞こえた。
セルの肩越しに倒れ伏す悟空さんが見える。傍らに膝をつく悟飯ちゃんが見える。
悟飯ちゃんは瞬きもしないで、涙を流して、差し伸べることも引っ込めることもできない両手を浮かせていた。
「わ、悪かったな、悟飯……」
「お父さん……!」
今わの際の、悟空さんの声が鮮明に聞こえる。
絞り出すような、苦しげな息の合間の声。
「おめぇが戦いを好きじゃねぇってわかってて、戦わせっちまって」
悟飯ちゃんは、微かに頭を振って、何かを言おうとした。
でもなんにも言えなくて、小さく口を開いたまま唇を震わせるだけだった。
「でもな、悟飯。今でも父ちゃんの考えは変わらねぇ……」
彼をあんな姿にしたのは私だ。
セルが元気玉を使えるのなんて知ってたはずなのに、目の前で気を集めてしまった。
そのせいで悟空さんがやられて、悟飯ちゃんにあんな顔をさせて。
私、もう、やだよぉ……!
「お前が100%全力を出し切れば、ここにいる誰よりも強くなれる。一番強くだ。オラにはわかる……」
強く、力強く、悟空さんが言い切る。
伸ばした手で悟飯ちゃんの腕を掴んで、気持ちを伝えるように揺さぶる。
「悟飯……! セルはとんでもねぇ奴だ! このままじゃみんな殺されちまう! みんなを……みんなを助けてやってくれ……頼んだ……ぞ──……」
「あ……」
力を無くした腕が落ちて、悟飯ちゃんは、愕然とその行方を追ってうなだれた。
涙が流れる。
溢れ出して止まらなくて、現実に耐え切れずきつく目を閉じて何もかもをこらえる。
死んでしまった。悟空さんが……。
もう、もう──
「うわああああああ!!!」
「む!?」
爆発的な気の高まりに体が揺さぶられて、目を開ける。
黄金の光が膨れ上がっていた。地面には中心から亀裂が走って砂ぼこりを吐き出して……悟飯ちゃんが、怒っていた。
天を貫くような哀しい声をあげて。
「あああああ!!!」
膝をつき、倒れ込むように両腕で地面を叩いた彼の姿は、私の知る超サイヤ人2のものになっていた。
その目前に倒れていたはずの悟空さんがいない。どこにも──。
こんな事ができるのは神の奴だけだ、というピッコロさんの声を、どうしてか思い出した。
「──…………その手を放せ、セル!!」
「……こいつは面白い。それが貴様の真の力とやらか」
立ち
「悟飯……!」
とんでもない気の大きさに、誰かが声を発する。
向かい合う二人に手を出す事はできず、お互いが雄叫びをあげてぶつかるのを、私はまた見ている事しかできなかった。
◆
「だああ!」
「ぐぼ! ぬぐう!!」
「うっ!」
セルの腹へ膝をめり込ませた悟飯ちゃんが頬を殴り抜かれる。
その攻撃が同時に起こり、激しい風が吹き荒れて私の体を動かした。
流れる髪に顔を伏せて目を閉じ、収まったらすぐに顔を上げる。
そうして、倒れたまま悟飯ちゃんの戦いを見守っていた。
「は、ははっ! いいぞ! いいぞ孫悟飯! 予想通りのパワーだ!」
「ぐ、くっ……!」
二人の実力は拮抗しているみたいだった。
どころか、少しずつ、ほんの少しずつ悟飯ちゃんの気が上回り始めているように見えた。
それは拳を交えているセル自身よくわかっているのだろう、見開いた目をそのままに汗を流し、両手を自身の胸へ扇ぐような動作を繰り返して攻撃を誘っている。
「もっとだ! もっと打ち込んで来い! 戦いを楽しもうではないか!!」
「……! う、ああああ!!!」
擦り切れそうな叫び声と共に悟飯ちゃんの体から光が溢れ出す。
きっとセルの言葉が怒りに触れたのだろう、だって、戦いを楽しむだなんて理解できない。悟空さんを殺しておいてそんな事を言うなんて許せない。倒れてるだけの私でさえ泣きそうなくらい怒りたくなるんだから、直接言葉をぶつけられた悟飯ちゃんの気持ちは計り知れない。
一気にパワーが上がって、その勢いに押されて顔を庇うセルへ飛び込んだ悟飯ちゃんが頭を蹴り抜いた。
「ぐるぅあ!」
「!」
伸ばした足を掴まれて振り回された悟飯ちゃんは、乱暴に投げられても身を翻しながら着地して片足で地面を擦った。斜めの姿勢からぐんと風を引き込む突進を仕掛ける。
「むぐん!」
仰け反っていたセルは背筋だけで上体を戻し、かなり膝を曲げて腰を落とした姿勢で迎え撃った。
ぶつかり合う二人の間に雷が迸り、お互いの拳をお互いが掴む姿勢でせめぎ合う。
私が無敵の印象を持っていた超サイヤ人2の悟飯ちゃんの表情は険しく、セルも余裕などない、歯茎を剥き出しにした獣の表情で唸っている。
何度もスパークが散って、焦げた臭いを広げる。
「ぎっ!」
「う!」
受け止めていた拳がずれて相手の頬を打つ。それがほとんど同じに起こって、でも背を反らしただけの悟飯ちゃんに対し、セルは弾かれてしりもちをついた。
実力の差が表れ始めている。きっと……このままいけば、悟飯ちゃんが勝つ。
「う、う……!」
体中が痛むのに泣きそうになりながら、全身に力を籠めて立ち上がり、倒れ込むように一歩踏み出す。
私も手伝わなきゃ。少しでもセルの気を逸らす事ができれば、きっと一気に片が付く。
そうしなきゃ、そうしなきゃ、まずいよ!
「ぬ、ぎぎ……!!! こ、このガキ……!!!」
「はぁっ、はぁっ、……っ!!」
蓄積するダメージに膝を震わせながら睨むセルに、息を荒げていた悟飯ちゃんは、それを飲み込んでキッと睨み返した。血煙の混ざった風が吹く。お互い多くの傷があって、セルの傷は緩やかに塞がりつつあるけど、再生が追いつかないくらいダメージを負っている。
力の差はまだまだ広がると思う。でもその速度は速いとは言えない。だからきっとセルは追い詰められて……もしかしたら、自爆を手段の内に入れてしまうかもしれない。
そうなったら、いくら悟飯ちゃんが強くなっても無意味になってしまう。
瞬間移動が使える悟空さんは消えてしまった。ウィローちゃんも使えるけど、でも、そんなことさせたくないよ……。私が使えたなら、私がやるのに!
……だから、一気に決めないとまずいって思ったんだ。
きっとセルは悟飯ちゃんに恐れを抱き始めている。「自分と同等くらいにはなる」と余裕ぶっていたのに超えられているんだから。だから、あんな顔をして、足を震わせているんだ。
「はーーッッ!!」
片手を突き出して気功波を放ったセルは、着弾点から急速上昇で抜け出した悟飯ちゃんをキッと睨み上げて捉えると同時に額に指を当てて掻き消え、その背後に出現して殴りつけた。
表情を歪めながらも振り返った悟飯ちゃんとセルが持てる力の全てをぶつけ合う。位置を変え、高度を変え、殴り合っている。それはもはや、凄まじい応酬としか言いようがなかった。とてもじゃないけど、私なんかが割り込める戦いじゃない……!
「ぎえ!」
激しい攻防のところどころで悟飯ちゃんの攻撃がクリーンヒットしていく。
顎を打ち上げられたセルが悪鬼の顔で殴り返し、捌かれ、攻防の末に上を取られて組んだ両手を叩きつけられ、落ち行く中で足を後ろにやって追い縋る悟飯ちゃんに反撃する。それさえ防がれて殴られ、地上に打ち落とされては、土煙の中で絶叫して空を振り仰ぐ。
「はああああ!! ぁああああ!!!」
「……!」
バッと片手を突き出したセルが気功波を放ち、そのまま交互に両手を出して連続でエネルギー波を撃つ。一発一発が恐ろしい気を秘めているのに、悟飯ちゃんは構わず突っ切った。
ガードに回した腕に光線が触れる瞬間に微かに前へ動かすだけで跳ね除けて、あっという間に接近していく。でもダメージがない訳じゃない。あっという間に衣服はボロボロになって、腕は火傷の斑模様で、傷を厭わないほど怒ってるんだってわかった。
「だぁあああ!!」
「ぐっはぁあ!!」
斜め上空からのキックを腹に突き込まれて、直立したまま何メートルも後退したセルは、いよいよ耐え切れない痛みに腹を押さえて喘いでいる。開きっぱなしの口から唾液が垂れて地面を濡らす。血走った目の焦点が合う時には、目の前に悟飯ちゃんが立っていて。
「ぎっ!」
セルが咄嗟に振った腕をくぐりぬけ、アッパーカットで吹き飛ばす。
轟音が芯まで響き、きゅうっと肺が縮まって痛んだ。
「はーっ、はーっ、ば、バカな……!!」
「…………」
「バカな、こ、こんなことが……こ、こんなことが……!!」
体勢を整えて着地したセルは、悟飯ちゃんを見るばかりで構えすらあやふやになっていた。
怒った悟飯ちゃんのパワーが予想を遥かに超えていたためだろう。実際、物凄い気の波動は、こっちに向けられてないというのに怖いくらいだった。
「は……ははは!!」
「何がおかしい……」
突然狂ったように笑いだすセルに、悟飯ちゃんが足を止める。
ああっ、だめ! 止まらないで!! すぐに倒して……!!
「そんなに離れて良かったのかな?」
「……?」
自爆する、と、そう思って注意を促そうとして、背中にかかる重圧に潰される。
思わず閉じかけた視界からセルの姿が消えていた。けど、スパークが落ちてきたから、居場所はすぐにわかった。
「なっ!?」
「こ、こうなれば迂闊に手は出せまい……!」
「きさま……!!」
踏み躙るように足を動かされて、圧迫された体の痛みに呻く。
こいつ、私を人質に……!? うそでしょっ、わ、私、また足手纏いにっ……!?
「くっ!」
「おっと、動くなよ!? 迂闊な動きを見せれば、この女がどうなるかわからんぞ……!?」
「……!!」
愕然とした表情を見せたのは一瞬。すぐに構えた悟飯ちゃんは、セルの脅し文句に動けなくなってしまった。
「私の、ことなんかっ、ぁっ!」
考えるより先に気にしないで戦ってって言おうとして、かかる力が強まるのに息が詰まる。
勝手に手が閉じて、体が震えて、鼓動の音がやけに大きく聞こえてくる。
「どれ……」
紫色の細い光が飛ぶ。
それが悟飯ちゃんの左腕を穿って、大きく弾いた。
「うっ、く……!」
「フフ……良い子だ……そのまま大人しくしていろ」
「悟飯!!」
靴音に、セルの向きが変わるのを背中の足越しに感じた。
ピッコロさんの気が一気に上がって、たぶん飛び出してきたんだと思う。見ていられなかったんだ。
「ごはぁっ!?」
けど、無情にも撃ち抜かれて近づく事さえ許されなかった。
「そうら!」
「!」
連続した爆発が半円を描くように巻き起こる。
倒れていたトランクスも、その周りにいたみんなも巻き込んで、きっと邪魔ができないように……!
倒れ伏すピッコロさんに、安否のわからないみんなに、悟飯ちゃんはギリギリと歯を噛みしめて、でも動こうとしない。
それほど私が重しになってしまってるんだ。みんながやられてしまっても躊躇してしまうほどに……!
「だい、じょうぶっ! 大丈夫だよ、悟飯ちゃん!」
見てらんない! 見てらんないよ!
どうしてこんな……こんな事になるなら、もっと離れてるんだった!
「わた、しの事は気にしなくてっ、いいんだよ! もし、でも! ドラゴンボールで生き返れるからっ!」
「お、お姉さん……!」
「チッ、小うるさいガキめ」
一度は持ち上がった足に踏みつけられて、でも、声を発さないように我慢する。
ただでさえ悟飯ちゃんの心に負担をかけているのに、苦しむ姿なんか見せられない。
……こんな事も、言いたくなかった。だって、嘘だもん。
メタルクウラと戦った時に、私は一度甦ってるから、今度死んだら生き返れる訳ない。
でも悟飯ちゃんは知らないから……だから。
……私ごとでいい。セルをやっつけて。
「で、でもお姉さん!」
「……!」
そんなことできっこないってうろたえる悟飯ちゃんに、笑顔の一つでも向けてあげたかったけど、あいにく苦しすぎて、表情を変えようとしたらどうしたってきつい顔になっちゃうから、うつむいて隠す。
ほんとはやだよ。私ごと倒させるなんてさせたくない。
それで勝っても悟飯ちゃんが嫌な思いをしてしまうから。
でも、このままやられるんじゃ、それこそだめだよ。
「うぐっ! っ、く、くそぉ……!」
「ふん、良かったなナシコ。孫悟飯はお前のことが大好きなようだぞ?」
足を撃ち抜かれて膝をつきそうになった悟飯ちゃんは、反対の足も撃たれて倒れ込み、両手をついた。
それでも視線だけは落ちず、セルを睨みつけている。
「く、く、う……!!」
「……!!」
腕も足も大怪我をして血を流しているのに、立ち上がった彼は、無事な手を握り締めて構えた。
険しい表情をして、気を噴き上げている訳でもないのにまだパワーが上がっていくのがわかる。
余裕を取り戻していたセルも怒りを肌で感じたのか、身動ぎするのが伝わってきた。
「っあ!?」
その直後に、ドッと視界が揺れた。蹴り飛ばされたとわかったのは転がっている最中だった。
四肢が投げ出されて、仰向けになって荒い呼吸を繰り返す。
息をするたびに蹴られた脇腹が痛むのに、庇おうとしても腕はちっとも動かなかった。
「許さんぞ……この私を超えるなど……!!」
「なっ、く!」
地面の振動で、セルが最大限力を解放したとわかった。
激しいスパークの音が耳の奥で反響して、視界を染め上げる青い光に、何をしようとしているのか察してしまった。
「この技で……! すべてを闇にしてやる……!!」
「あ、ああ……!」
終わった、と、誰かが呟くのが聞こえた。
思い切り首を振りたかった。
まだだよ! まだ……! きっと悟飯ちゃんが止めてくれるから! 撃ち負かしてくれるから!
痛みに耐えながら、セルの取った手が悪手だと心の中で笑う。
気功波同士の正面勝負なら、悟飯ちゃんがきっと勝つ!
……けど、セルのパワーがどんどん一点に集中していくのに、悟飯ちゃんの方に動きがないのに気づいてしまった。
な、なんで……? なんで悟飯ちゃん、動かないの!?
「くそっ……!」
それは……それも、私のせいだった。
セルと悟飯ちゃんの間に私が倒れているから、悟飯ちゃんは躊躇してるんだ。
セルのかめはめ波に対抗するにはその場で気功波を放つしかない。でもそうしたら、私を巻き込んでしまうから。
そんなの気にしないくていいのに! ……なんて言っても、駄目、だよね……。
「うう、う………!」
情けなくて涙が出てくる。
どこまでお荷物になれば気が済むんだろう。
どうして邪魔ばかりしてしまうんだろう。
涙を流すだけで何もできない自分に、立ち上がれない自分に、握り締めた拳を地面にぶつける。
もう少し時間があれば、立ち上がって、退くことができるまで回復できそうなのに、そんな時間の猶予はなくて。
持ち上がった腕は、目を覆うことくらいにしか使えなかった。暗闇の中に過ぎるたくさんの後悔に、しゃくりあげて、それだけ。
……私、ばかだなぁ。
もっとがんばってればよかったな……。
未来の事を知ってるのに、どうしてこうなっちゃうんだろうな……。
「地球ごと消えて無くなれぃ!!」
「ぁ──」
過剰なくらい気を溜めていたセルが、技を完成させてしまった。
あとはもう放たれるだけ。今から悟飯ちゃんが私を諦めても、もう間に合わない。
……ごめんなさい。
ああ、こんなことになってしまっても……謝る言葉が思い浮かばない。
「うおおおおおおっ!!!」
もうどうしようもないから、諦めてしまっていたら……ぐんと引っ張られて誰かに抱き上げられた。
激しく揺れる視界にびっくりして言葉を失ってしまう。
「はうっ!」
「んっ!」
訳が分からないうちにがくんと体が揺れて投げ出され、肩をぶつけてしまうのに声が出た。
腕をついて体を起こせば、すぐ傍に座り込んで、引っかけたらしい足を擦って大袈裟に痛がっているサタンがいた。
「あ……え?」
……わからない。
どうしてサタンがいるのかさっぱりわからない。
あ、ううん。彼をセルと戦うメンバーに入れたのは私だけど……そっか、いたんだっけ。
「し、しまった……つい体が動いてしまった……!! ど、どうしよう……!!」
私の視線にはっとしたサタンは、俊敏に立ち上がったはいいものの泣きそうな顔をしていた。
こういう戦いをトリックだなんだって言う印象のある彼だけど、目の前で繰り広げられる戦いを見て危機感を抱かなかった訳じゃないのだろう。きっと、セルを怖いって思っただろう。
なのにどうやら、この人は私を助けに飛び込んできてくれたらしい。
それが意外すぎて、全然頭がおっつかなかった。
「セ、セル! 何をビカビカやっとるんだ!! ここからはこのミスター・サタンが相手だ!!」
「……」
腰を落とし、凄まじい気を腰に留めた両手に集めるセルは、強気な発言をするサタンをぽかんとした顔で見ていた。彼にも予想外の出来事だったのだろう。
「か……め……」
「ぬ!」
「は……め……!」
私という障害がなくなれば、悟飯ちゃんに躊躇う理由なんかなくなる。
前へ出した片手を後ろへ。その手の先に光球を生み出し、広げて、大きな気の球体に包まれる。
あっという間にセルに対抗できるだけのパワーに達した悟飯ちゃんが、大きく腕を振りかぶった。
「波ぁああああ!!!」
「チィッ! くたばれぇー!!」
「あわ、あわわわわ!!」
もはや壁と表現できそうな青白い光がぶつかり合い、せめぎ合う。
世界を青に染める光にころころとサタンが転がっていってしまった。
あんまりにコミカルだったから、なんだか体にあった痛みを忘れてしまった。
かっこわるい…………けど、かっこよかったよ、ミスター・サタン……ありがとう!
「これで終わりだ……! 終わりにしてやる……!!」
「くう、う……!!」
一見拮抗しているようだったかめはめ波は、徐々にセルが押し込んでいるみたいだった。
傷を治してしまったセルと違って、悟飯ちゃんは腕にも足にも穴が空いた状態だ。力は入り辛いだろうし、片腕だけで支えるのは大変だ……!
「うぁあああ……!!」
「ふ、ふは、フハハハハ!」
必死に頑張ってるけど、気の大きさで完全に負けている。
このままじゃ遠からず押し切られてしまう。
だったら……立ち上がらないと!
せめて、支えるくらいはしてあげないと!
「みんなっ──……来てくれ……!!」
巨大なかめはめ波を押し留めながら、悟飯ちゃんが声を絞り出して呼びかける。
「お父さんがあんなになってまで言ってくれたのに……! ボクはっ、ボクはまだ、全力を出せないでいるんだ……!」
目をつぶって、叫ぶように大きな口を開けているのに、辛そうな声。
気功波を支える腕が小刻みに震えている。少しずつ足が地面に沈んでいる。
「情けない……! ボク一人じゃセルは倒せない!」
みんなの力を貸してくれっ……!!
……その呼びかけに応えられたのは、私だけみたいだった。
ふらつきながら悟飯ちゃんの下まで辿り着く事ができた。纏った気が混じり合ってその体を支える事ができたし、片手を前へ伸ばして、ほんのちょっとの加勢もできた。
「……情けなくなんてないよ。悟飯ちゃんは、情けなくなんかない」
喋るたびに喉が痛む。激しい風に吹きつけられて、目を開けているのも辛い。
けど、出てきた声はわりと綺麗で、よく通っていて、ちょっとほっとした。
「私が、保証する!」
今出せるだけの全力のかめはめ波を放ちながら、彼の背を支える手を伸ばして、垂れ下がる手に重ねる。
いつかそうして励ましてくれたように、そっと指を絡めて握れば、人差し指の先っぽだけが私の指を握り返してくれた。
力を合わせれば、ほんの僅かに押し返す事が出来た。
でも、それ以上は無理だった。
私も悟飯ちゃんも満身創痍だ。ううん、私を悟飯ちゃんと比べちゃ駄目だけど……正直、このまま気の放出を続けていればなんだか体が砕けちゃいそうだって恐怖感でいっぱいだった。
いつ力尽きてしまうかわからない。でも、怖いなんて言ってられない。
私にできるのは、ただただ体の中の全部を出せるように、全力の全開で気を放つだけ。
「はあっ!!」
そうしているうちに、斜め後ろから黄色い光の線が伸びてきて私達の気功波の後押しをしだした。
この気は、ピッコロさんだ。
心なしか悟飯ちゃんが嬉しそうにした気がした。
……そうだよね。
悟飯ちゃんの声に応えるのが、私一人なわけ、ない!
「だああ!!」
雄叫びとともに放たれた紫色の光線が、援護してくれる。
この気はベジータだ。彼でさえ、なんにも言わずに悟飯ちゃんに力を貸してくれた。
「くそったれめ!!」
「はぁあ!!」
倒れていたラディッツとターレスも、気力を振り絞って加勢してくれた。
「ずぁあ!!」
近くに下りたったウィローちゃんが、片腕を支えてエネルギー波を放つ。
それよりもっと後ろから、ヤムチャ、天津飯の気功波も伸びてきて。
その力が、みんなの気が、悟飯ちゃんのかめはめ波に合流して、そのたびに少しずつセルのかめはめ波を押し返していく。
あと一歩。
あと一歩があれば……!
「はい! もっと、もっと全力で……!!」
声を張り上げる悟飯ちゃんに、私も、震える腕がそれ以上ぶれないようめいっぱい力を籠めて突き出し続ける。
足が地面に沈む感覚。押されてる……のか、押してるのか……!
「わかり、ましたっ……!!」
ぐ、と息を呑むように悟飯ちゃんが囁く。
ほとんど頬がくっつく距離で聞こえたその言葉が、私に向けられたものじゃないとわかって……体中に熱が広がった。
ああ、今。
私達の後ろに、悟空さんがついてるんだ。
「セルーーッッ!!」
「!! と、トランクス!!!」
光の向こう側で大きな気の発露があった。
それはトランクスのもの。全力の一撃が揺らぎを生み出し、押し込んでくる気功波から一瞬抵抗が消えた。
『今だ!!』
「お父さんと作った力を……見せてやるっ!!」
その隙を逃さず、静かに意気込む悟飯ちゃんが一気に腕を押しこんでいく。
「うわああああああ!!!!」
爆発的に高まる力で地面が削れ、かめはめ波が激しく波立つ。
「し、しまっ──!!」
セルがトランクスの攻撃に気を取られたのは、本当にほんの一瞬だった。
けれどそれが命取りになった。たった一瞬で取り返しのつかないほどにかめはめ波は押し返された。
熱が離れていく。
押し込んで、押し込んでなお止まらずに力強く歩み始めた悟飯ちゃんが、セルを倒そうと向かっていく。
「ぎええええーーッッ……!」
どんどん離れていってしまう悟飯ちゃんの背中に、そっと腕を下ろす。
力が抜けて、そのままへたり込んでしまった。
光の中に聞こえた断末魔が掠れて消えていく。
セルは、その細胞の一片までを焼き尽くされて、この世から消え去った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
地平線の果てへ光線が抜けていって、過剰な光が消えて、正常な視界を取り戻す。
気を使い果たした悟飯ちゃんは黒髪になると同時に背中から倒れ込んで、大きく胸を上下させながら、笑顔を浮かべていた。
汗ばんだ体で、体を揺らして酸素を取り込む。
二の腕までずれた衣服を直すことも思い浮かばないまま、しばらくの間、そうして呼吸だけをしていた。
◆
戦いは終わった。
悟空さんという犠牲を払って、私達は平和を勝ち取ったのだ。
『さあ、願いを言え……』
神様の神殿で、私達は傷を癒した。
それから、悟空さんを蘇らせるため、戦いのために荒れてしまった地形を元に戻すため、神龍を呼び出した。
「それじゃあ、お願いします」
「うん」
悟飯ちゃんに頼まれて、一歩前へ出る。
願いを言うのが私とわかった神龍は、流れる体をそのままに顔を下ろした。
「私の心の中にある願いを読み取って、叶えてください」
『……それは容易い』
真っ赤な双眸が妖しく光る。
……それだけでは何が起こったかはわからないけれど、これで荒れた地形や、もしかしたら周辺に住んでいて被害にあった人も元に戻ることができたと思う。
……悟空さんは、生き返らなかったけれど。
「やはり、駄目か……奴は一度甦っている」
私のお願いなら叶えてくれるかなって思ったけれど、さすがに一度死んだ人をもう一度生き返らせるのは駄目だったみたいだ。
『ちょっといいか?』
「あ、お父さん……?」
悟空さんの声が聞こえて、一度私を見た悟飯ちゃんが空へ視線を戻すのに、俯く。
……悟空さんは、このままあの世で楽しく過ごすって、そう言った。
過去の強い武道家達と戦うのが今から楽しみだ、って。だから気に病むな、って。
『オラが死んだのはおめえのせいじゃねえさ。オラも楽しくやっから、おめえも楽しくやんだぞ、ナシコ』
「……は、はいっ」
私に語り掛けてくれるとは思ってなくて、反応が遅れてしまった。
どう考えても私が余計な事をしたせいなのに、気を使わせてしまうなんて……。
「お父さん……お父さんに代わって、これからは、地球の平和はボクが守ります」
『ん? 悟飯……勉強はどうすんだ。偉い学者さんになりたいんだろ?』
突然そんな宣言をした悟飯ちゃんの方を、思わず見てしまった。
空を見上げたままの彼の顔は、変わらず凛々しくて、ずっと年下の子供だなんて思えない。
決意を秘めた瞳が……眩しかった。
「夢も叶えます。でも、これからも修行は続けます」
『……そうか。うん、それなら、オラもうかうかしてらんねぇな』
「……?」
悟飯ちゃんは不思議そうな顔をしたけれど、私には、悟空さんの言ってることの意味はわかった。
きっとたくさん修行して強くなった暁には、戻ってくるつもりなのだろう。7年後に、一日だけ……。
『そんじゃあな。バイバーイ!』
死人とは思えない朗らかさで別れを告げる悟空さんに、気の抜けた雰囲気になってしまう。
私がするべきは、その時の天下一武道会が最後まで正常に行えるような世界にしておくことだ。
地球を守ると言った悟飯ちゃんを見て、改めて決意した。
妥協とか限界とか、そういう言い訳や怠けるのはもうおしまい。
全ての外敵を打ちのめせるようになろうって、そう決めた。
『もう一つ願いが残っているぞ。願いはまだか』
痺れを切らしたように語り掛けてくる神龍に、今回の願いはもういいんだ、と言おうとして、はたと動きを止める。
そういえば、18号がいない。……彼女もセルと一緒に死んでしまったんだ。
何か足りないとは感じていたんだけど……そっか。
「あのさ、ちょっといいか?」
クリリンの方を見れば、ちょうど私に声をかけてきた。
内容は人造人間達の事だ。悪い奴らじゃなかったから、できれば、私さえよければ、生き返らせてやってくれないか、って。
……うん。それくらいなら。彼女達に悪い印象って、特にないし。……いや、色々身に着けてた21号はちょっと印象強めだったかな……。
『もう一度、心の願いを叶えればいいんだな?』
「はい」
問いかけてくる神龍に頷いて、手を組んで、目をつむる。心の中でお願いを浮かべる。
人造人間達を生き返らせてあげてください。
えっと、そうだ。体の中にある爆弾は取り除いた形で……。
「……!?」
「ん、なんだ……?」
神龍の双眸が光れば、願った通り、人造人間達がこの場に甦った。
16号、17号、18号、21号。
みんな戸惑ったように辺りを見回している。
「生き返らせた……? な、なぜあんたが、私達を……!?」
状況の説明を求めらると、クリリンが代わりに話してくれた。
私は今、あんまり喋りたい気分じゃないから助かる。でも、私が、じゃなくてクリリンのお願いで、ってくらいは言わせてもらうね。
セルに吸収された事を思い出したのか、へたり込んでべそをかいている21号から視線を外して、神殿の方へ目を向ける。
「……。そんなの、決まってるさ」
17号がわかった風に言うのを聞きながら、役目を終えたドラゴンボールの行方を眺めていたデンデが視線に気づいて寄ってくるのを見下ろす。
どうかしましたか、と聞かれて、特に用はなかったから、首を振る。
「『それはほのかな恋の予感』……ってヤツだ」
17号が口にしたのは、私達の曲の歌詞だった。
なんでそこで出てくるのか不思議なんだけど……車の中とかで聞いてたんだろうか。
「はんっ、なんだいそりゃあ。……何赤くなってんだい」
「はは、いや……」
図星のように照れるクリリンにつられてか、18号までちょっと赤くなっている。
「ふん、誰がそんな歌……私は別のクールなやつのほうが好きだね」
照れ隠しか、誰も聞いてないのに好みを話す18号に好奇の視線が集まると、余計にあせあせと照れ始めた。
そうしてみると、彼女も普通の女の子みたい。……生き返らせてあげられてよかったなって思えた。
「と、とにかく、感謝なんぞしてやんないからな! 行くよ17号!」
「おお、怖い。それじゃあオレは礼を言っとこうかな。感謝するよ……よし、16号、お前も来いよ。どうせアテなんてないんだろ?」
「……。孫悟空ももはや死んでいる。……そうさせてもらうとしよう」
「ぁのっ、あ、わた、私……ちょ、ちょっとー、ぁの……はい」
早々に飛び立ってしまう18号を追って17号達も去っていく。
やたら挙動不審な21号は私達と仲間とを何度も見返して、ウィローちゃんをじーーーーっと見て、とても名残惜しそうに、後ろ髪を引かれながら、未練がましく飛んで行った。
……賑やかな子達だったな。
あれなら、平和に楽しくやれるだろう。
私達も、少し言葉を交わした後にお開きになった。
チチさんに悟空さんが亡くなった事を伝えなければならないけれど、私は用事があるから、ラディッツとウィローちゃんに行ってもらう事にした。……ターレスはやめてあげてね。
ほんとは私も慰めてあげたいけど……お線香だってあげたいけど、やりたい事があるから。
「……それじゃあ、お姉さん」
「うん。ばいばい、悟飯ちゃん」
みんなが次々と神殿から降りていく中で、手を振って挨拶をしてくれる悟飯ちゃんに、小さく手を振り返して応じる。
こんなに近くで手を振り合うのって、なんかちょっとおかしいね。
「ナシコちゃんは、一緒に帰らないのかい」
「……」
ここでの戦いが終わったからか、安心した顔で問いかけてくるトランクスを見上げる。
お母さんに切ってもらったのだろう、短い髪の毛が、そよそよと風に揺れていた。
ちょいちょい手招きをしてしゃがむように促す。
「……?」
怪訝な顔をしつつも目線を合わせてくれた彼の顔を両手で挟めば、とても困惑した顔をされた。
うん、まあ……特に意味はないからね。お疲れ様、未来でも頑張って、って感じかな。
「あの、な、ナシコちゃん……?」
「お話ししたいことがあるから、未来に帰るのはちょっとだけ待っててね」
「え? あ、ああ」
離した手を腰の後ろで組む。
トランクスはよくわからないって表情をして、それでも頷いてくれた。
「話とはなんだ。ここでは話せないのか?」
「まあ……ちょっと長くなっちゃうしね。腰を落ち着けて話したいから」
ラディッツの疑問に答えつつ、ウィローちゃんと向き合う。
彼女はなんだか不機嫌そうな目つきをしていた。どうしてそんな目で私を見るんだろう?
……わかんないや。
「ごめんね、先に帰っててね」
「……うむ」
控えめに頷いた彼女と、悟飯ちゃん達は、ゆっくりとした足取りで神殿を後にした。
しばらくは、彼女達が去った空をデンデやポポと一緒に見下ろしていて、それから……。
ポーチから出したカプセルホンを起動させて、電話をかける。
「ん……、ぁ、お疲れ様、です……はい、ナシコです。あの、少しお休みを頂きたくて」
相手はタニシさん。
急な事だけど、直近に大きな仕事はないし、カバーできる範囲だからって、理由も聞かずに承諾してくれた。
良かった……駄目だって言われたらどうしようかと思っちゃった。
一度胸に抱いたカプホをポーチに戻して、今度は神様へ向き直る。
こっちにも、お願いをしなくちゃ、だね。
幸い、二つ返事で了承して貰えたから……。
よし、頑張ろう。
TIPS
・セル(パーフェクト)
基礎戦闘力は3450万
超2化60倍で20億7000万
・悟飯(超サイヤ人2)
基礎戦闘力は2300万
超2化60倍で13億8000万
怒りによる倍率の上昇で、90倍で20億7000万
・消えた孫悟空
デンデがやってくれたらしい
前の神もやっていたが、どういう技なのだろうか
・界王様と界王星
生存ルート
封印が解かれないのでボージャック達は現れない
次回の更新は明日か明後日にでもできれば、と思います。