結婚したい艦娘としたくない提督の日々   作:454545191919男爵

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④あれ? って思っても、静かにしてほしいにゃ

 

 

 

「ふぁ……ねむ」

「もう、だらしないわね。いくら朝だからって、もっとしゃんとしなさい」

 

 慌ただしく終わった着任初日を終えた翌朝。

 叢雲と鳳翔以外の艦娘と顔をあわせることなく、小林と霞は、まず自分たちの部屋を整えた。

 使われていなかった執務室の隣の部屋を、小林と霞の部屋にして、妖精さんたちに頼んでいろいろ生活しやすいようにしてもらった。

 さらにその隣の部屋を、風呂とトイレに改造してもらい、本日着任予定の明石と朝潮のために、空き部屋を綺麗にした。

 夕食を取る暇もなく、片付けと、大将への報告、知己への連絡、InstagramとTwitterの更新とすべきことは多々あったのだ。

 

「明石と朝潮ちゃんが来るのっていつだっけ?」

「十時よ」

 

 時計を見ると、すでに九時三十分。

 執務室で、引き継ぎの書類と格闘中だが、出迎えをしたいと考えていた。

 

「じゃあ、もう少ししたらいこっか」

「そうね」

 

 霞の返事が短いのは、小林がサインする前の書類に目を通しているからだ。

「書類は私に任せなさい!」と、平らな胸を張ってくれた霞を、小林は無条件で信頼し、任せている。付き合いこそ短いが、なかなか深い時間を過ごしたので、霞がしっかりものであることや、仕事に手を抜かない性格であることも知っている。

 根をつめることもないので、安心して任せられるのだ。

 

「さてと、今日は明石が来るから建造して、ここの艦娘にも会っとかないとまずいよなぁ」

 

 小林のつぶやきに、霞の手が止まる。

 

「なによ、会いたくないわけ?」

「そうじゃないけどさ、ほら、俺っていくつものブラック鎮守府を潰してきたじゃん?」

「そうね。たしか、艦娘たちのケアもしたんでしょう?」

「ケアっていうか、次の鎮守府を探したりね。ツテを使っただけだから、面倒でもなんでもなかったんだけどさぁ」

 

 精神面のケアは、女性カウンセラーや精神科医、同じ艦娘が行う。

 とくに暴力を受けた艦娘には徹底するのだ。場合によっては解体を望まれる場合もあるが、そのようなときはきちんと艤装を外し、艦娘から人間になったあとまで数年単位でケアがされることになっている。

 

「俺、必ずと言っていいほど襲われるんだよね」

「……え? なによそれ?」

「ほら、ブラック鎮守府ってひどい目にあった艦娘がいるじゃん。そういうところに限って規模が大きかったりするじゃん。ひどい子だと人間を憎悪しているっていうか、他の仲間を守らなきゃって感じがすごいのよ。で、提督が捕まって、外部から新しい人間がきたことがスイッチになって結構攻撃的になるだよね。まあ、わからなくもないけどさ」

「襲われたって、怪我とかは?」

「まあ、そこはそれなりに対処はしたけど。とにかく川内とか神通とか川内とか川内とか、加古とか、川内とか、川内とか、神通とかがもう闇夜に紛れて襲いかかってくるんだよ」

「……川内ばっかじゃない」

「うん。なんだか巡り合わせが悪いみたいでどの鎮守府でも川内が襲って来るんだよ」

「横須賀の川内さんはあんたのこと大好きなのにね」

 

 小林の知る、川内型一番艦軽巡洋艦川内は、夜戦好きな忍者だ。

 割とどこの鎮守府でもそうらしい。

 ただ、横須賀の川内の特徴は、「那珂ちゃんより私のほうがアイドルになったら売れそうじゃん」と本気で思っていること。実際、妹である川内型三番艦那珂に面と向かって言ってしまい、つかみ合いの喧嘩となったのは二年ほど前のこと。

 当時、神通と小林、そして金剛型四姉妹で喧嘩を止め、なだめ、仲直りをさせるのに一週間必要だった。いい思い出である。

 以来、那珂は川内を姉と慕いつつ、ライバル視しているのだ。

 

「まあ、同じ川内って言ってもそれぞれ違うからね」

「そうね……って、話してる間にもうこんな時間よ。そろそろ迎えにいきましょう」

「落ち着きなよ。いくらお姉ちゃん来るからって、これからはずっと一緒なんだしさ」

「お、落ち着いてるわよ!」

 

 丸めた書類を投げる霞の頰は赤い。

 隠しているようだったが、朝からずっとそわそわしているのだ。

 もともと霞は多くの鎮守府を転々としてきた経歴を持つ。そのため、特別な絆を結んだ姉妹艦はいない。

 だが、横須賀鎮守府で小林と出会い、彼の知り合いである朝潮と出会った。

 いろいろと問題を抱えている朝潮は、同じく問題を抱えていた霞とあっという間に打ち解けた。もともと姉妹艦であるということもあっただろう。

 一度は、鎮守府着任のため離れ離れになりかけたが、幸いなことに、朝潮も着任することになったので喜んでいるのだ。

 

「ほら、それじゃあ、お出迎えにいこうぜ」

「ええ! ほら、早くいくわよ!」

 

 急かす霞に苦笑しつつ、環は椅子から立ち上がる。

 まだ四月上旬と肌寒いので、上着を羽織って、霞と手を繋ぐと鎮守府の玄関に移動した。

 そして数分が経ち、横須賀から艦娘二人を乗せた車が到着し、中から見知った少女たちが現れた。

 ひとりは黒髪を伸ばした、生真面目そうな印象を与える少女だった。霞と同じ制服を着ている。

 もうひとりは、ワンピース型のセーラー服に身を包んだ、緑色の髪を地面に着くほど伸ばした少女だった。

 

「朝潮型駆逐艦ネームシップ朝潮です!」

「たった一隻の工作艦の明石だにゃ!」

 

 

 

 

 

 


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