ホムンクルスの少女と死者の王   作:ノーネーム
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逆鱗に触れた者

「おやおや、夜分遅くに急いで何処へ向かわれるのかな?」

 

 地面を抉る音と共に、光量が増す。バルブロ一行は足を止め、進路を阻むアンデッドの存在に背を震わせた。

 

「な、なん」

「惚けても無駄だ。既に貴様の部下が白状したのでな」

 

 アインズが持ち上げるのは、自分の肉で作られたソーセージを食わされた男の首。それにスキルを使用し、その場に落とすと首は溶け、鎧を纏った巨大な骸骨の騎士になる。

 

「デス・ナイトだ。見るのは初めてか?」

「クッ、化物が!」

 

 バルブロが王国の秘宝、レイザー・エッジを手に駆ける。アインズに斬りかからんとするのを、強者の余裕から悠然と腕を組み見下ろす中、二人の間に一つの影が。

 

「っ、アイ―――ッ!?」

 

 街先で突如明るい地点が現れた結果、好奇心が勝ったのだろうイリヤが転移してきたのだ。そして、その華奢な体に、翡翠色の刃が肩口から滑り込む。元のレベル差と、咄嗟にアインズがイリヤを抱き寄せたお陰で、肩部から右胸半ばまで斬られる程度で済んだ。

 種族的な防御スキルも、職業的な防御スキルもなく、その上防御に一切振っておらず、とことん脆いビルドであることが、低レベルの相手からの攻撃でダメージを貰ってしまう事に繋がったのだろう。ドレス自体のMP残量に応じての防御力強化も、レイザー・エッジの防御スキル無効化能力を前には意味が無かった。

 

「イリヤ!?」

「うぐ………っ、ぁ………」

「ああもう、迂闊過ぎだ!」

 

 何が起きたか理解できず、緑の鮮血を溢れさせるイリヤの傷に、急いでユグドラシルポーションをかけるアインズ。迂闊過ぎだ、という言葉は、果たしてどちらに向けたものか。

 傷が完全に癒えるも、イリヤに傷を負わせたことにご満悦のバルブロはそれに構わず、剣を天に掲げ、叫ぶ。

 

「は、ははは!流石我が国の秘宝だ!」

 

 俯き、肩を震わせていたアインズが、完全に激昂した。

 

「………クッ、ズどもがああああああ!!!許さん、許さんぞ!俺の、俺たちの大切な仲間を、よくも!」

 

 スキルを駆使し、デス・ナイトを十二体揃える。抑制されてもされても沸き上がり続ける憤怒のままに、アインズは一体一軍に匹敵するアンデッドらに殺戮を命じる。

 だが、彼らが動くより先に激情の発露を上回る抑制が起こり、頭の冷えたアインズは手をかざし、楽な終わりを許さぬ姿勢を見せた。

 

「いや………やめだ。そのような生温い終わり等、与えるものか」

 

 デス・ナイトたちが攻撃せんと振り上げていた腕を止め、一団を逃さぬように散開する。

 

「餓食狐蟲王の………いや、温いか。だが………」

「ぬおおおおおっ!!!」

 

 バルブロの振り抜いたレイザー・エッジが、アインズに傷を刻む。久し振りの痛みに驚きながらも、バルブロの顔を掴み、魔法を発動。

 

「タッチ・オブ・アンデス………麻痺」

 

 麻痺したバルブロを無造作に放り捨て、序でで他の者たちを範囲魔法で麻痺させ、クリエイト・フォートレスで彼らを逃がさぬよう城壁を創り出す。

 

「はぁ………大丈夫か?」

「………ごめん………」

「全くだ。相手が雑魚だからよかったものを………」

 

 アインズにとって、イリヤは唯一共に居てくれた仲間だ。無駄に強烈な崇拝染みた忠誠を向けるNPCたちとはまた違う意味での、心の拠り所である以上、無意識の内にNPCたち以上に過保護になっていたのだろう。予想以上に激昂してしまったことを反省すると共に、そんな仲間に手を出した愚か者に相応しい結末を考える。

 

「………イリヤ。シャンタクを国中に散開させろ。王を発見次第、そこに向かってくれ。コイツらは、私の方で見張っておこう」

「………そうね。早めに報告した方がいいわよね」

 

 イリヤが転移で戻る中、アインズはクリエイト・グレーター・アイテムで椅子を創り出し、腰かける。

 

「………餓食狐蟲王で生温いとなると、どうするべきだ?ニューロスト………んんんん………」

 

 イリヤを手にかけんとした愚物をどうするか、アインズはアンデッド故睡眠が不要なのを存分に活用し、考え続けた。

 

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「………なんという………!」

 

 ランポッサⅢ世の前に引っ立てられたバルブロの顔は、最早蒼白を通り越していた。周囲に集まるのは、イリヤ直轄の眷属たち。今にも飛び掛からんばかりの剣幕の面々が立ち止まっているのは、激情を抱きながらも、強い理性でそれを律するバーサーカー、キングハサン、スカディの三人と、アインズの存在あってのこと。

 

「この男は、私の大切な仲間を殺そうとした。元より死罪の身、どうか処断を私に一任していただけないだろうか?」

「………やむを得ません。構いませんね、父上」

「………そうだな」

 

 バルブロが何かを乞うより先に、喉に鉄杭染みた短剣が突き刺さり、音を殺す。

 

「では、他の者ども同様の場所でよろしいですね?」

「いや、一度ニューロストに預けておけ。追って私直々に裁こう」

「畏まりました」

 

 キングハサンが開いたゲートに皆が消え、アインズと王族、ガゼフらのみとなると共に、ランポッサⅢ世が溜息を零した。

 

「………この度の一件で、我がヴァイセルフ王家は終わりやもしれんな」

「陛下………」

「私がいる場で言うべきことですかな?」

 

 呆れ気味のアインズがその場を去ると、ランポッサⅢ世は首を鳴らし、再び溜息。

 

「………次の王の選定には、苦労しそうだな」

 

 その呟きは、誰に向けてのモノだったか。




イリヤの強さ

生身では最弱。アウラにすら殴り敗けるレベル。ただし、ナザリックの外では超人格。
防御の低さのせいで、バルブロの鈍らな腕前でもダメージを貰う羽目に。ただし、普通の剣なら天の衣は貫けない。





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