コリンと出会ってから、ハリーの日常は少しだけ変化した。ドラコがクィディッチの訓練に時間を取られるようになった事もあり、コリンを連れ回すようになったのだ。コリンはどんな事に対しても興味を抱く好奇心旺盛な性格で、去年ハリーがヒッポグリフによく乗っていた事を聞きつけると自分も乗りたいと言い出した。
ハリーはローゼリンデにもヒッポグリフに乗る楽しさを教えてあげたいと思って、二人をハグリッドの下へ連れて行った。
「ハグリッド! ロゼとコリンをヒッポグリフに乗せてやりたいんだ! 準備を頼む!」
「おう、任せとけ!」
ハグリッドはハリーに頼られる事が嬉しくて、二つ返事で了承してくれた。後輩をヒッポグリフに乗せてあげたいというハリーの心意気に対して、ハグリッドはニコニコだった。
コリンは持ち前の好奇心ですぐにヒッポグリフに慣れる事が出来た。けれど、ローゼリンデはヒッポグリフを完全に恐れてしまっていて、何度お辞儀をしてもそっぽを向かれてしまった。
そこでハリーはバックビーク*1に彼女を乗せる事にした。
「ほら、ロゼ。大丈夫だから、乗ってみろ」
ハリーは怯え切ってしまっているローゼリンデを抱え上げてバックビークの背中に乗せると、その後ろに自分も乗った。
「バックビーク、重くないか?」
ハリーが問いかけると、バックビークは《問題ない》とばかりに嘶いた。
「あ、あの、ハリー・ポッター様」
「安心しろ、ロゼ。ボクが一緒だ。怖がる必要は無いんだ。身を委ねろ。そして、楽しめ!」
ハリーはバックビークを走らせた。ローゼリンデは悲鳴を上げた。けれど、ハリーは構わずにバックビークを飛翔させた。
瞼をかたく閉ざすローゼリンデ。そんな彼女の頭をハリーは撫でた。
「安心しろ、ロゼ。安心するんだ。お前が危険に晒される事は決してない。このボクの配下なのだからな。ボクが必ず守ってやる。だから、瞼を開けるんだ」
「ひゃ、ひゃい……」
耳元で囁かれたハリーの言葉にローゼリンデは赤面しながらゆっくりと瞼を開いた。胸のドキドキが恐怖を和らげたのだ。
そして、彼女は見た。
キラキラと輝く湖面を、
ホグワーツ城の雄大な姿を、
競技場を飛び交う緑の影を、
近くを飛びながら手を振るコリンとエスメラルダ*2の姿を。
彼女はバックビークの背中から見る景色に見惚れた。彼女が頬を緩ませると、ハリーも穏やかに微笑んだ。
ドラコやロンがいればレースを始めていた所だけど、ハリーはローゼリンデを怖がらせない為にのんびりと遊覧飛行に徹した。
湖面ギリギリを飛び、バックビークが爪で水面をひっかくと美しい波紋が広がり、徐々にローゼリンデはそれを見て喜んだ。
「コリン! カメラは持ってきているな?」
「もちろんです! ハリー!」
「よーしよし!」
ハリーはマーキュリーを呼んだ。最近、彼女はハリーの専属カメラマンと化していた。ハリーはいっそ彼女用のカメラを買おうか悩んでいた。
「ハグリッド! 一緒に撮ろうぜ!」
「お、おう! 待っとくれ、ヒゲを整えるでな!」
バックビークとエスメラルダも並ばせて、ハリーはローゼリンデ、コリン、ハグリッドと写真を撮った。
コリンは撮影した写真をその日の内に現像し、焼き増してくれる。だから、ハリーは朝食の時に必ずアルバムを持って来るようになった。
「ハリー! 昨日の写真だよ!」
「ありがとう、コリン。写真の現像は手間だろうに、実に丁寧に仕上がっている。素晴らしいぞ、コリン」
ハリーに褒められるとコリンは嬉しくて堪らなくなった。
コリンが朝食を食べにグリフィンドールの席に戻ると、ハリーはドラコやローゼリンデとアルバムを捲った。
日毎に増えていく写真のハリーは常に笑顔だった。ドラコは時々やれやれという顔をしているけれど、やはり笑顔だった。ローゼリンデも笑顔だった。
アルバムにはドラコを取り囲むスリザリンチームの写真があったり、ハーマイオニーとハリーの舌戦の真っ最中の写真があったり、フレッドとジョージが決め顔を浮かべている写真があったり、ガチガチに緊張した様子のパーシーの写真があったり、マクゴナガルとハリーのツーショット写真があったり、ニュートとハリーをたくさんの魔法生物が取り囲む写真があったり、ハリー達とそれなりに仲の良いスリザリン生との写真も収められている。それはハリーにとって大切な宝物になっていた。
第二十八話『開催! 第一回・ヒッポグリフレース!』
コリン・クリービーは毎日が楽しかった。憧れのハリー・ポッターは彼の想像した通りの人物だった。
彼が連れて行ってくれた《秘密の部屋》はまさに秘密に満ちた空間で、そこに棲んでいるバジリスクは恐ろしげだけど、その背中に乗せて秘密の部屋中を駆け回ってくれた。ヒッポグリフに乗ったり、厨房で屋敷しもべ妖精達にお菓子をもらったり、図書館で勉強を教えてもらったり、ハリーはコリンにホグワーツの楽しさをこれでもかと教えてくれた。
彼はまさにコリンにとってのスーパーヒーローだった。
「アレン! ねえ! 今日、競技場でヒッポグリフレースをするんだ! 絶対に見に来てよね! 僕、優勝してみせるからね!」
「それ、もう何回も聞いたし、いいよって何回も言ってる」
ルームメイトのアレン・マクドネルも、とっくに上級生達の噂など信じていなかった。他の一年生達の大半もそうだ。
コリンは毎晩の如く、談話室でハリーと一緒に遊んだ事を自慢した。
その光景を見かける度にハーマイオニーやロン達は苦笑した。
コリンがアレンと向かった先は競技場だった。今日はたまたまスリザリンチームの訓練がなくて、おまけにグリフィンドールチームの訓練もなかった。
そこでハリーはドラコ、ローゼリンデ、エドワード*3、ダン*4、ロン、フレッド、ジョージ、パーシー、ハーマイオニー、コリンに召集をかけた。
ハグリッドとニュートと一緒にマクゴナガルに頼み込んで競技場を貸してもらい、本格的なレースを企画したのだ。
その企画を面白がった呪文学のフリットウィックがレースを楽しくする為に競技場に幾つかの呪文を掛けた。
虹色に輝く光の道が地上から天空に向かって、超巨大なバネのように螺旋状に伸びている。それがコースなのだ。虹のコースの途中には幾つものリングがあり、そこを通り抜けなければならないというルールもフリットウィックが勝手に決めた。
マクゴナガルはやれやれと苦笑しながらスタート地点とゴール地点に巨大なオブジェを建造したし、ニュートはレプラコーンを解き放ってレースを盛り上げようと企んでいる。
教師達が勝手に凝り始めて、レースは思った以上に本格的なものになってしまった。
興味を抱いた生徒達が観客席に座り、クィディッチの試合で実況を務めているリー・ジョーダンがレースの実況も勤める事になった。
「ロゼ、大丈夫?」
身内だけのひっそりとしたレースのつもりが、いつの間にか大観衆の中での本格的なレースになってしまい、ローゼリンデはガチガチに緊張してしまっている。
落ち着かせようとしているハーマイオニーも緊張のあまり吐きそうになっていた。
「ロゼは大丈夫かな?」
ドラコも心配そうにローゼリンデを見つめている。
「……心配だが、ロゼが乗るのはバックビークだ。フォローしてくれる筈だし、これはこれで悪くない」
ハリーはローゼリンデが心配だった。いつも自信が無さそうで、何かを怖がっている。まるで自尊心というものが足りていない。
だから、大観衆を前に結果を出せば自信が持てるのではないかと考えた。
無論、わざと負けるつもりなど毛頭ない。けれど、バックビークならば優勝を狙える筈だと睨んでいた。
「バックビーク」
ハリーは待機しているバックビークに近づいた。
「ロゼを頼むぞ。安全に、けれど最速で飛ぶんだ。ただし、ロゼが怖がらない範囲でな」
「無茶振りし過ぎじゃないか……?」
「バックビークなら出来る筈だ」
バックビークも重すぎる期待にちょっと吐きそうになった。
そして、いよいよレース開始の時間が近づくとローゼリンデやハーマイオニーだけでなく、ロンやパーシーも真っ青になった。二人共、大観衆に注目される状況に慣れていなかった。
「へい、パーシー! 兄貴として、バシッと決めてくれよな!」
「ロン! 俺達の弟なんだから最下位なんかになったら罰ゲームだぞ!」
フレッドとジョージの言葉に二人はますます緊張してしまった。
「エドとダンはあんまり緊張してないんだな」
ドラコはそれぞれの愛馬であるグスタフとヴァーサに声を掛けているエドワードとダンを見て言った。
二人共、ドラコがクィディッチの訓練で居ない時などにハリーに連れ回されている。ヒッポグリフにも半ば強制的に乗せられたけれど、悪い気はしていないらしく、それぞれ自分の愛馬の世話を定期的に行っていた。
「どうでもいい連中に見られた所で何も思わないさ」
エドワードは結構シビアな性格だった。
「ヘヘッ、レースなんて燃えるじゃんか! 負けねぇぞ!」
ダンはクラッブやゴイルほどではないけれど、中々の脳筋だった。
ちなみにハリーはクラッブとゴイルもヒッポグリフ乗りに誘ったけれど、二人はヒッポグリフに一度も認めてもらえなかった。
「今日はよろしく頼むぜ、ベイリン!」
ハリーは今日の相棒であるベイリンに声を掛けた。こげ茶色の毛皮の勇ましいヒッポグリフだ。
やる気満々の様子で嘶くベイリンの頬を撫でてやると、いよいよ選手入場のアナウンスが流れた。
ハリー達はそれぞれのヒッポグリフを引き連れながら、マクゴナガルの渾身の力作であるヒッポグリフの門へ向かった。二頭のヒッポグリフが互いを威嚇し合っている様を石像にしたものだ。
その門の向こうにはフリットウィックの虹の道が伸びている。
「……すげー」
「がんばり過ぎだろ、先生達」
「勝手にルールブックまで作ってるしね……」
あまりにも本格的なレース会場に呆れている彼らをマーキュリーがコリンのカメラを持って飛び回っていた。
ウォッチャーとフィリウスもそれぞれ別のカメラを持って飛び回っている。
なんと、マクゴナガルが出資したらしい。
「みなさま、がんばってください!」
「応援しております!」
「決定的瞬間を激写してみせます!」
屋敷しもべ妖精のトリオも張り切っていた。コリンはちょっとだけ現像するのが大変になりそうだと冷や汗をかいた。
「コリン様! 我々も現像の方法を学びました! お許し頂ければ、お手伝い致します!」
「いいの!? ありがとう!」
フィリウスの申し出にコリンは飛びついた。最近、ちょっと寝不足になっていたのだ。
【さあ! いよいよ始まります! 第一回ヒッポグリフレース! ホグワーツの新しい伝統行事となるのか!? 企画者はあのハリー・ポッターだ!!】
実況のリー・ジョーダンの声が響き渡る。
「第一回!?」
「第二回もあるの!?」
「伝統行事!?」
「知らんぞ!? ボクは知らんぞ!!」
いつの間にか恒例行事にしようという動きがあるらしい。参加者はフレッドとジョージ以外誰も知らなかった。フレッドとジョージは主犯だった。
「だって、こんな面白いこと、一回だけなんて寂しいじゃん!」
「ダンブルドアにもきっちり許可取ってあるんだぜ!」
二人の手回しの良さに他のメンバーはやれやれと肩を竦めた。
【それでは! 選手達はヒッポグリフに乗ってください!】
ハリーはおどおどしているローゼリンデの下へ向かった。
「大丈夫だ、ロゼ。乗るのはバックビークだ。信頼してやるんだ」
「ひゃ、ひゃい……」
ハリーはローゼリンデがバックビークの背中に乗るのを手伝った。バックビークも足を曲げて乗りやすくした。
手綱はヒッポグリフ達が嫌がる為につけられなかったけれど、安定して乗る為の鞍は受け入れてくれた。鞍にはベルトもついていて、ハリーはしっかりとローゼリンデを鞍に固定した。
「よし! これで大丈夫だな。無理はしなくてもいいが、がんばれよ」
「は、ハッ! かしこまりました!」
若干声が裏返っていたけれど、必死な表情を浮かべる彼女にハリーは微笑んだ。
「ああ、期待しているぞ」
そして、ハリーはベイリンに跨った。
すべてのヒッポグリフが《ヒッポグリフの門》の前に並び立つと、いよいよスタートは目前となった。
【さあ! スタートの合図はヒッポグリフの門の石像が嘶いた瞬間です! そろそろですよ、用意はいいですか!?】
直後、石像のヒッポグリフが嘴を開き、大きな声で嘶いた。
【スタートです!!】
各ヒッポグリフが一斉に飛び出した。
虹の道は泡のように僅かな触感があるのみで基本的に加速は翼のみだった。
【さあ! このレースでは虹の道の途中に存在するリングをすべて潜らなければなりません! くぐり抜ける事に失敗した場合、戻ってくぐり直さなければならない為、大幅なタイムロスとなってしまいます!】
まっさきに先頭へ踊りだしたのはハリーとベイリンだった。
彼らの前に1つ目のリングが現れる。
「飛び込め、ベイリン!!」
ベイリンは嘶きながらリングを潜る。その直ぐ後をハーマイオニーと彼女の愛馬であるギルフォードが追いかける。
「負けるな、エスメラルダ!」
コリンも必死に追走する。
「遅れるなよ、ヴァーサ!」
その後をダンが眼をギラギラさせながら追う。
「バ、バックビーク……! わ、わたしも……! わたし達も……!」
最下位のローゼリンデは必死に勇気を振り絞ろうとした。
そして、バックビークは彼女の心に答えようと翼をはためかす。
【おーっと、最下位のローゼリンデ選手とバックビーク! ここに来て追い上げ始めたぞ!】
レースが続くにつれ、リングをくぐるのが徐々に難しくなって来た。
一頭ずつしか通り抜けられない程小さかったり、くぐった直後に急カーブしないと間に合わないような場所に次のリングがあったり、幾つものリングが密集していてくぐる順番が分かり難かったりといじわるになって来た。
「ベイリン!!」
けれど、ハリーとベイリンは止まらなかった。ハリーの動体視力と的確な指示、そして、ベイリンの持ち前の胆力によって確実にリングをくぐっていく。
問題なく追走出来ているのはドラコ、フレッド、ジョージのクィディッチ選手達だけだった。
「ああ、もう! またくぐり直し!?」
「しまった!? こっちじゃない!」
「クッソ、こんなの無理だろ!?」
リングの密集地帯は阿鼻叫喚だった。そんな中、追い上げてきたローゼリンデとバックビークは確実にリングをくぐった。彼女の慎重な判断にバックビークが全力で応えた結果だ。
いよいよ、彼女は五位にまで順位を上げていた。
そして、レースが佳境に入り始めるとニュートのレプラコーンがコース上に現れた。降り注ぐ金貨によってレース上は更に美しく彩られて観客は大興奮だが、選手達にとっては視界を塞がれレースの難易度が上がるのだった。
「うわっ、金のリングと金貨が同化しちゃってるぞ!?」
「ど、どこにリングはあるんだ!?」
「惑わされるな、ベイリン!!」
「金貨の向こうに次のリングがあるぞ!」
ハリーとドラコはレプラコーンの金貨地帯を突破した。
慌てて追いかけようとするフレッドとジョージ。すると、後ろからバックビークが現れた。
「は、ハリー・ポッター様!」
彼女の眼は金貨やリングではなく、ハリーを追っていた。そして、彼の軌跡に沿うようにフレッドとジョージを追い抜いてリングをくぐり抜けた。
その姿にフレッドは口笛を吹き、ジョージは微笑んだ。
「やるじゃん、ロゼ!」
「さすがは偉大なるハリー・ポッター様の御配下様だぜ!」
二人もそれぞれの愛馬と共にリングを抜ける。後続の選手達もぞくぞくとやって来ている。
そして、レースは終盤に至る。
「負けないぞ、ハリー!」
「ッハ! シーカーの座は譲ったが、ここは譲らん!」
乗り手だけでなく、ハリーのベイリンとドラコのアグラヴェインも互いを威嚇し合っている。
【さあ、レースも終盤! いよいよ、ゴールまでの残りのリングの数は三つです!】
リー・ジョーダンの声に、ハリーとドラコは表情を引き締める。
「ベイリン!!」
「アグラヴェイン!!」
リングが見える。すると、いきなり目の前にオーロラが現れた。
どうやら、ラストのリングには魔法で障害が用意されているようだ。
「駆け抜けろ!」
「進め!」
ベイリンとアグラヴェインがオーロラを貫く。すると、リングは少しだけ右にずれていた。
慌てて旋回する二頭。くぐり抜けると、その先のリングは左右に高速で動いていた。
「問題ない! 動きを計算するんだ! そこだ!!」
「クソッ、簡単に言いやがって!!」
ハリーは迷わずリングをくぐり抜け、ドラコは僅かに遅れてしまった。
「いけ……、いけ! バックビーク!!」
ドラコがリングをくぐり抜けると、その直後にローゼリンデとバックビークがくぐり抜けてきた。
「ロ、ロゼ!? あのリングを簡単に!?」
ドラコは動揺してしまった。そして、アグラヴェインとバックビークが横並びになる。
「ド、ドラコ・マルフォイ様!?」
「す、凄いじゃないか! ロゼ! よし! そのまま、ハリーを追い越すんだ!!」
「えっ!? あ、はい!」
ドラコはちょっとだけアグラヴェインに速度を緩めさせた。このレースは思った以上に難しい。箒乗りのテクニックとヒッポグリフ乗りのセンスの両方が必要となる。
それなのに、彼女はここまで追い上げてきた。ドラコは彼女に箒乗りとしての才能を見た気がした。
「頑張れよ、ロゼ!」
そして、いよいよ――――、
【さあ、ハリー・ポッター選手! 最後のリングです! なんと、左右だけでなく、上下にも揺れています!】
リー・ジョーダンの言う通り、リングは上下左右に高速で動き回っていた。
「……ッハ、結局はさっきのリングと同じじゃぁないか! ベイリン!!」
ハリーは迷う事なくベイリンを走らせた。
そして、
「バ、バックビーク!!」
その声を聞いて、少しだけ思考が揺れた。ベイリンはリングをくぐり抜ける事に失敗してしまった。
「キュイ!?」
「しまっ!?」
そして、後から来たローゼリンデとバックビークは見事にリングをくぐり抜けた。
「あっ……、あっ……、は、ハリー・ポッター様……!」
「いい! そのままゴールへ行け!!」
ハリーは嬉しそうに笑顔を浮かべながら叫んだ。
「ひゃ、ひゃい!」
そして、バックビークはゴールラインとして浮かべられているヒッポグリフの石像が握りしめている巨大なリングに飛び込んだ。
【ゴール!! 凄い!! なんと、優勝は!! 序盤最下位だったローゼリンデ・ナイトハルト選手だ!! 怒涛の追い上げ!! お見事です!!】
直後、ゴールに辿り着いたハリーはローゼリンデを抱き上げた。
「負けたぞ! やるじゃぁないか! ロゼ!」
真っ赤な表情を浮かべる彼女をバチンと現れたマーキュリーが激写した。
「う……、うへへ」
彼女は嬉しそうに笑った。