【完結】ハリー・ポッターは邪悪に嗤う   作:冬月之雪猫

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第三十五話『開幕、新学期』

 白い閃光がホグワーツ特急を駆け抜けた。

 

「なにこれ!?」

 

 ジニーが悲鳴を上げる。

 

「守護霊の呪文!? 使えたのか、ハーマイオニー!」

 

 ドラコは驚愕していた。守護霊の呪文は悪霊の火の対となっている高難易度の防衛呪文だ。それが使える魔法使いは一流と呼ばれる程の魔法である。

 彼とハリーも覚えようと躍起になっていた時期がある。

 悪霊の火を使いこなせるのなら、対の守護霊の呪文も使いこなせる筈だとハリーは息巻いていた。

 けれど、教本通りに杖を振って呪文を唱えても守護霊は現れなかった。

 

「……ハリーから、守護霊の呪文が悪霊の火の対になっていると聞いてからずっと訓練して来たの。その内、目の前で使って驚かせようと思ってたのに……!」

 

 怒りに満ちたハーマイオニーの声と共に彼女の守護霊がすべての吸魂鬼を退散させた。

 戻ってきた守護霊の姿はカワウソだった。

 

「……さすがだと言っておくよ、ハーマイオニー」

 

 ドラコは悔しかった。

 親友の危機に対して何も出来なかった事が、

 どんなに頑張っても会得出来なかった魔法をハーマイオニーが会得していた事が、

 そして、親友が助かった事よりもそんな事を気にしている自分があまりにも情けなくて、かっこ悪いと思った。

 

「ドラコ……」

 

 ハーマイオニーはドラコの気持ちに気づいていた。

 彼との付き合いは二年に及ぶ。悔しい時、彼はギュッと目を細める事を知っていた。

 けれど、何も言わなかった。ハリー同様に、彼もプライドの塊であり、今の自分が何を言っても素直に聞き入れてくれないだろうと察したからだ。その事も彼女は熟知していた。

 

「あっ、灯りが!」

 

 ジニーが叫ぶ。汽車に灯りが戻ったのだ。

 動き始めた汽車の中でハーマイオニーはハリーを椅子に寝かせた。

 青褪めた表情でキュッと唇を噛みしめる彼女をジニーはジッと見つめた。

 

「……ハリーは大丈夫なのか?」

「たぶん……。吸魂鬼は幸福とか、希望の感情を吸い取ってしまうの。それらを食べられてしまうと、普段は心の底に仕舞い込まれているような不幸や絶望の感情が浮上して来てしまう。普段は表に出さないけど、やっぱりハリーは……」

「寂しがり屋なんだよな、ハリーは……」

 

 ドラコとハーマイオニーはやれやれと肩を竦めた。

 

「わたし、車内販売でチョコレートを買ってくるわ。マシになるって、本に書いてあったから」

「いや、僕が買ってくるよ。君はハリーの傍にいてくれ。多分、その方が喜ぶ」

「ド、ドラコ!?」

 

 顔を真っ赤に染め上げるハーマイオニーにドラコは苦笑した。

 

「あれ? ジニーはどこに行ったんだ?」

 

 さっきまでコンパートメントの中にいたジニーの姿がいつの間にか無くなっていた。

 首を傾げながら、ドラコは車内販売のおばさんを探しに向かった。

 

 第三十五話『開幕、新学期』

 

 汽車がホグズミード駅に到着すると、ドラコはハリーに気付け呪文を掛けた。

 

「なんだ!?」

 

 飛び上がって起きるハリー。

 

「おはよう。そろそろ到着だから着替えた方がいいよ」

「はぁ!? 到着!? ボクはいつの間に寝ていたんだ!?」

 

 ハリーの記憶が混濁している事にドラコは胸をなでおろした。

 吸魂鬼に襲われて気を失った事を彼が思い出せば、間違いなく荒れる。

 おまけにハーマイオニーに助けられた事を知ったらどんな顔をするか、容易に想像がついた。

 

「気にするなよ。それより、さっさと着替えよう」

「お、おう」

「あと、これ」

「ん? チョコ?」

 

 ドラコはハリーに板チョコを渡した。

 

「買い過ぎて食べきれなかったんだ。食べといてくれよ」

「はぁ? 食べ切れる分だけ買えよな。もったいないだろ」

 

 ぶつぶつ言いながらも、ハリーはチョコレートを齧った。

 

「美味いな!」

 

 じんわりと体中に不思議なぬくもりが広がった。

 

「それはなにより」

 

 ◆

 

 去年と同じく、ハリーとドラコはセストラルが引く馬車に乗った。ロンやハーマイオニー、それにエドワードとダンも一緒だ。

 ハリーはローゼリンデを探したけれど、見つける事が出来なかった。マーキュリーに連れて来てもらおうかとも思ったけれど、ホグワーツにつけば会えるだろうと思い直した。

 馬車に揺られている間、ロンは延々とエジプト旅行の話をし続けた。すべて手紙に書いてある通りで、ハリー達は聞き流した。

 

「見えてきたわ!」

 

 ハーマイオニーが馬車の外を指さした。

 ハリーとドラコ以外は歓声を上げた。二人にとっては家から目を凝らせば見えてしまうのでありがたみが薄かった。

 

「結局、ホグワーツ特急でもドラコとばっかり話してたし、意味なかったな」

「お、おう。そうだな!」

 

 どうやら、ハリーの記憶はハーマイオニーが訪ねてくる前のところで消えているらしい。

 ドラコとハーマイオニーは頷きあった。

 

「ああ、ディナーが楽しみね!」

「そうだな!」

 

 二人はとにかく誤魔化し通す事に決めた。

 

「なんだ? そんなに腹が空いてたのか?」

 

 ハリーはキョトンとした。

 

 ◆

 

「ハリー・ポッター様!」

 

 大広間に到着すると、ローゼリンデと無事合流する事が出来た。どうやら、彼女はコリンやジニーと一緒に居たらしい。

 

「あれ? そう言えば、ジニーと汽車で会ったような……?」

「き、気の所為さ! それより、ロゼ! はやく座るんだ! そろそろ一年生が入ってくるぞ! 君も先輩になるんだからな! しっかりするんだぞ!」

「は、はい! ドラコ・マルフォイ様!」

 

 ドラコは生きた心地がしなかった。この状況でハリーが暴れだしたら、さすがに不味い。

 

 席につくと、教員の席には見知らぬ男が二人も増えていた。

 スラグホーンとマクゴナガルの後任なのだろう。

 マクゴナガルの席に他の人間が座っている事にハリーは複雑な感情を抱いた。

 

「……ハリー、一年生が入ってくるよ!」

 

 ハリーが消沈している事を察したエドワードが必要以上に明るい声で言った。

 彼の言う通り、大広間の扉が開かれて、ぞろぞろと一年生が入って来た。引率しているのはスネイプだった。

 

「スネイプ先生が副校長に就任したらしいぜ」

「マジかよ!?」

 

 スネイプに連れてこられた一年生達は若干表情が強張っていた。

 マクゴナガルも厳格な雰囲気を漂わせていたが、スネイプは彼女以上だ。

 

「そう言えば、スネイプ先生はどうなるのかな? 闇の魔術に対する防衛術を継続するのか、それとも、魔法薬学に戻るのか……」

「意外と変身術の先生になったりしてな」

「それだとスネイプ先生大変過ぎないか?」

「でも、ちょっと興味あるよな。どんな授業するんだろ」

 

 スリザリンのテーブルでは誰もがスネイプがどの授業を担当する事になるのか興味津々だった。

 

「おっ、組分けが始まるぜ!」

 

 ダンが叫ぶと全員が鎮まった。

 スネイプの担当授業と同じくらい、新入生の組分けにも興味津々だった。

 

「ロバート・アッカーソン!」

 

 スネイプが新入生の名前を高らかに叫ぶ。一年生達はその度に飛び上がっていた。

 

「あの役割はフリットウィック辺りに頼んだ方がいいんじゃね?」

「一年生達、めっちゃビビってるぜ」

「ま、まあ、マクゴナガルの時もそれなりに怯えられてたし……」

 

 散々な言われようだ。

 

「アステリア・グリーングラス!」

 

 上品な顔立ちの少女が組分け帽子を被っている。

 

「あっ、ダフネの妹じゃない!」

「うん。今年からホグワーツなの」

 

 どうやら、彼女はダフネの妹らしい。ダフネ・グリーングラスはハリーやドラコの同級生だった。

 

「スリザリン!」

 

 無事、彼女は姉と同じ寮に配属された。嬉しそうに姉の下へ駆け寄っていく。

 それからも組分けは続いていく。

 

「ロルフ・スキャマンダー!」

「スキャマンダー!?」

 

 ハリーは思わず立ち上がりそうになった。

 

「そう言えば、孫がいるって聞いたけど、今年の一年生だったのか……」

 

 ハリーはそわそわしながらロルフの組分けを見つめた。

 

「レイブンクロー!」

「ファック!」

 

 ハリーは悔しそうに頭を抱えた。スリザリンに来て欲しかったのだ。

 

「ハ、ハリー。落ち着け」

 

 周囲の生徒は一斉に警戒した。

 組分け帽子を心の中で罵倒する者も少なくなかった。

 

「ええい! 後で挨拶をして来る! やはり、魔法生物に興味があるのかな? エグレを見せたら喜ぶだろうか? まずはゴスペルを紹介しよう……」

「は、ハリー……」

 

 ドラコはちょっと引いた。

 

「……ハリー・ポッター様」

 

 ローゼリンデはハリーの服の袖を掴んだ。

 ハリーが他の後輩に関心を寄せるのが面白くなかったのだ。

 

「ん? ああ、そうだ! ロゼも一緒に挨拶に行くぞ! 彼はニュートのお孫さんなのだ! 失礼のないようにな!」

「へ? あ、はい……」

 

 ロゼは俯きながらレイブンクローの席で上級生と握手を交わしているロルフを怖い顔で睨みつけた。

 それをうっかり見てしまったエドワードはビクッとした。

 

 ◆

 

 食事が終わると、ダンブルドアが前に出て、新しい教師の紹介を行った。

 

「皆の者、満腹になった事じゃろう。ベッドにはやく潜り込みたいところじゃろうが、少しだけこの老いぼれの話に付き合ってもらいたい」

 

 そう言うと、ダンブルドアは毎年恒例の諸注意を語った後にヨレヨレのローブを着た男を指し示した。

 

「まずはリーマス・ルーピン先生じゃ! 今年から、闇の魔術に対する防衛術を教えてくれる事になった」

 

 ルーピンは照れた様子で片手を上げた。その隣でスネイプは渋い表情を浮かべている。

 

「うわぁ、やっぱり取られたな、スネイプ先生」

「凄い顔だな」

「よっぽど取られたくなかったんだろうな」

「授業、楽しそうだったもんね」

「教科書に載ってない事まで教えてきたもんなー」

「わざわざ自腹で教材買ってきたりね」

「えっ、そんな事までしてたの!?」

「可哀想……」

「折角、生き残ったのに……」

「まあ、ルーピンが居なくなれば復帰出来るだろ」

「ルーピンはどのくらい保つかな?」

「一年は保つんじゃない?」

「でも、今年は吸魂鬼が蔓延ってるし、シリウス・ブラックも彷徨いてんだぜ? これ、もう死ぬんじゃね?」

「ブラックなんて、ハリーが返り討ちにするでしょ」

「ああ、勝てる光景が全然浮かばないな」

「でも、その余波で死ぬ可能性があるんじゃない?」

「その場合って、俺達も危なくね?」

「その為に盾の呪文を必死になって覚えたんじゃないか! 一年生にもまずは盾の呪文を教えないとな!」

 

 ハリーとルーピンも散々な言われようだった。

 

「き、貴様ら……、ボクをなんだと……」

 

 ハリーはさすがに言い過ぎだと思った。

 

「いや、これに関しては自業自得だろ」

 

 ダンがピシャリと言った。

 

「まあ、去年の事があるしね。ここは我慢我慢。ほら、カボチャジュースでも飲んでリラックスしなよ」

 

 エドワードは苦笑しながらカボチャジュースをハリーに渡した。

 ハリーはムッとしながらカボチャジュースを飲んだ。

 

「大丈夫です! ハリー・ポッター様ならシリウス・ブラックなどイチコロです!」

「……よし、決めた!」

「え?」

 

 ハリーは立ち上がった。

 次の先生を紹介しようとしていたダンブルドアは固まった。

 他の生徒と教師も固まった。

 

「は、ハリー……?」

 

 ドラコを含めて、周りのスリザリンの生徒達も非常に嫌な予感がした。

 ローゼリンデだけは瞳をキラキラさせていた。

 

「マーキュリー、ウォッチャー、フィリウス!」

 

 バチンという音が立て続けに響き、ハリーの目の前に三人の屋敷しもべ妖精が現れた。

 

「ハッ!」

「参上致しました!」

「ハリー・ポッター様!」

 

 ドラコは両手で顔を覆った。

 

「君達なら、ブラックを見つけられるかい?」

「必ずや!」

「速やかに!」

「捕らえてまいります!」

「グレイト! だが、捕らえなくていい。危ないからな。見つけるだけでいい。見つけたらボクを連れて行け! ブラックはボクが直々に出向いてぶっ倒す!」

「ハッ!」

「かしこまりました!」

「行って参ります!」

 

 バチンという音と共に三人は姿くらました。

 

「は、ハリー……」

「君ってヤツは……」

「おいおい、魔法省が吸魂鬼を配備した意味が……」

「オレ、これから何が起こるか想像ついちまったよ」

「さらば……、シリウス・ブラック」

「いやいやいやいや!! 魔法省が総力を上げて探しても見つからないんだぜ!? 屋敷しもべ妖精なんかに見つかるわけが……」

 

 誰かが叫んだ瞬間、バチンと音がした。フィリウスが戻ってきたのだ。

 

「発見しました!」

「ウソだろ!?」

「ええっ!?」

「待て待て待て待て!! 魔法省の総力が屋敷しもべ妖精に負けた!?」

「ってか、早過ぎるだろ!?」

「一分も経ってないぞ!?」

 

 周囲が騒ぐと、フィリウスは言い難そうに呟いた。

 

「い、いえ、あの……、すぐ近くにおりましたもので……」

「近く? この近くか?」

「は、はい……」

 

 ハリーが問いかけると、フィリウスは言った。

 

「あの……、シリウス・ブラックを探知する為に魔法を使ったところ、本当に目と鼻の先におりました」

「いや、君達ならやってくれると思っていたぞ! さすがだ! 素晴らしい! 卓越している! よし、ダンブルドア! ボクはちょっとシリウス・ブラックをぶっ倒してくるぜ!」

 

 誰が止める間もなくハリーはフィリウスと共に姿くらましてしまった。

 

「……吸魂鬼って、何の為に配備されたんだ?」

「分からん」

 

 誰も、シリウス・ブラックが明日の朝日を拝めるとは思っていなかった。

 犯罪者である彼に対して黙祷を捧げる者もいた。

 そして、十分後の事だった。

 バチンという音と共にハリーがウォッチャーと共に戻ってきた。

 

「ロン!」

「へっ!?」

 

 ハリーは何故かロンの下へ勢いよく駆けていった。そして、彼の近くでチーズを齧っていた太っちょなネズミを掴んだ。

 

「ハリー!? スキャバーズに何をするの!?」

「っていうか、ブラックはどうしたんだ!? まさか、十分も保たなかったのか!?」

「ハリー……、ローブに汚れ一つついてない……」

「し、死んじまったのか……?」

「可哀想に……。ホグワーツの傍に近寄るから……」

「ルーピン先生……、生き残った!」

 

 好き放題な事を言う外野を無視して、ハリーはあろう事か、スキャバーズを放り投げた。

 

「スキャバーズ!?」

 

 ロンが慌ててキャッチしようとしたけれど、その前にハリーが杖を振った。

 

「フィニート・インカンターテム!」

 

 すると、スキャバーズの体が一気に肥大化を始めた。

 そして、ロンが全身でキャッチした時には小太りで頭の禿げ上がったおじさんに変わっていた。

 

「……へ?」

「は?」

「え?」

「ほえ!?」

「ええっ!?」

「何事!?」

 

 誰もが目を丸くして、ロンがお姫様抱っこしているおじさんを見た。

 

「す、スキャバーズ……?」

 

 ロンが声を掛けると、おじさんはぎこちなく微笑んだ。

 

「……ど、どうも」

 

 そのおじさんをハリーは思いっきり蹴り上げた。ロンの腕を掴んでフレッドとジョージの下へ投げ飛ばし、容赦なくおじさんの腕を踏み砕いた。

 

「ピーター・ペティグリューだな? 一応、確かめてやるぜ。ブラックのようにな! レジリメンス!」

 

 ハリーが呪文を唱えると、ピーターは悲鳴を上げながらもがいた。

 そして、一分の後、ハリーは呪文を終了させた。

 

「は、ハリー。今のは開心術か?」

 

 傍に居たパーシーが問いかけた。

 

「ああ、呪文だけは知っていたからな。ブラックをボコボコにした後に折角だから試してみた。どうやら、アッチは無実らしい。こっちが真犯人だ。確かめたから間違いないぜ。さあ、ピーター・ペティグリュー。覚悟はいいか? ボクは三年目を気分良くスタートしたいんだ。だから、貴様は」

 

 怯えきったピーターを見下ろしながら、ハリー・ポッターは邪悪に嗤う。

 

「この場でボクが!」

「そこまでだ! ハリー・ポッター! そこから先は我々の仕事だ!」

「……あ?」

 

 いきなり、大広間に謎の集団が雪崩込んできた。

 

「誰だ?」

「私の名はルーファス・スクリムジョール。闇祓い局の局長だ。君の手柄を奪うようですまないが、その男には聞かねばならない事がある。渡してもらえないかね?」

「……えっと」

 

 ハリーはスクリムジョールの顔をマジマジと見た。確かに、彼の顔は本に掲載されていた写真で見た事があった。

 けれど、どうして彼がここに居るのかサッパリだった。

 

「ほ、本物か?」

「ああ、本物だ。実は吸魂鬼と共に我らもホグワーツの防衛の任務に就くはずだったのだ。君のおかげで紹介前に任務が終わってしまったがね」

 

 ハリーはダンブルドアを見た。

 ダンブルドアは咳払いをすると「彼らは本物の闇祓いじゃよ、ハリー」と言った。

 

「そ、そっか……。じゃあ、はい……」

 

 ハリーはピーターをスクリムジョールに譲り渡した。

 

「ありがとう。無茶をした事は咎めねばならないが、それは先生方に任せるとしよう」

「ど、どうも」

 

 スクリムジョールはピーターをロープで雁字搦めにした後、その腕と足の骨を抜き取った。

 

「これで動けまい」

「わーお」

 

 ハリーは容赦のないスクリムジョールの手際に感心した。

 

「アンタ、すげークールだな」

「お褒めの言葉をありがとう、ハリー・ポッター。ついでにシリウス・ブラックの居所を教えてくれるかね?」

「ホグズミードの外れにある小屋だよ。まだ、寝てると思う。一応、エピスキーを掛けたけど、早いとこマダム・ポンフリーに診せたほうがいいぜ。先手必勝でボコボコにしたから……」

「闇の魔法使いとの戦いなのだから、それが正解だ。気に病む必要は一切無い」

「いや、なんか無実っぽくて……」

「それでもだ。慈悲の心は相手を動けなくした後から働かせればいいのだよ。動いている間は敵なのだからな」

「マジでクールだぜ」

「君こそ、直接会えて良かったよ。どうやら、君には優秀な闇祓いの素質があるようだ。卒業後にその気があれば席を用意しておくよ?」

「悪いけど、働くなら魔法生物関係だって決めてるんだ」

「そうなのかね? それは残念だが、君の将来の夢を応援するよ。では、我々は引き上げるとしよう」

 

 そう言うと、スクリムジョールはピーターを魔法で浮かせた。

 

「きょ、局長!?」

 

 呆けた顔をしていたスクリムジョールの側近が再起動した。

 

「ガウェイン。我々の仕事は終わった。帰るぞ」

「ええっ!? 終わった!? いや、あの、まだ何もしてないっていうか……、ええっ!?」

「やる事はある。シリウス・ブラックも回収せねばならん。それに、ファッジに報告して、吸魂鬼も引き上げさせねばな。帰ってからが忙しいぞ」

「は、はぁ……」

「そういうわけだ、ダンブルドア! 我々は引き上げる!」

 

 スクリムジョールはそう言うと去って行った。

 取り残された者達は十分程度放心し続けた。

 

「よし! これで晴れ晴れとした気分で新学期を迎えられるぜ!」

 

 ハリーは悠々と自分の席に戻った。

 

「さすがです! ハリー・ポッター様!」

 

 ローゼリンデが称賛すると、ようやく他の者達も我に返った。

 新入生達は大騒ぎだけれど、在校生達はあまり騒がなかった。

 

「……ああ、ホグワーツに帰ってきたんだな」

「これがホグワーツだよな」

「すげーよ、ポッター」

「っていうか、スキャバーズ!? えっ!? どういう事なの!?」

「お、落ち着け、ロン!」

「お前のネズミはおっさんだった。それだけの事じゃないか!」

「いや、待て! アレは元々は僕のネズミだったんだぞ!? おっさん!? スキャバーズがおっさん!?」

 

 こうして、ホグワーツの三年目は賑やかにスタートしたのだった。


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