謎の敏腕プロデューサー、巽幸太郎。
いつも無茶苦茶な行動でアイドル、フランシュシュをプロデュースする男。
そんな彼は、最初から巽幸太郎では無かった。


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巽幸太郎の軌跡

 ゾンビランドサガ・プロジェクト。

 それは佐賀県を救う為に、巽幸太郎と言う男が立ち上げた壮大な企画。

 事故などで亡くなった女の子達をゾンビとして蘇らせて、アイドル活動をさせる事で佐賀を盛り上げる。

 当初は上手く行かなかったが、活動を続けたゾンビ達は徐々に知名度を広めて行った。

 

 そして、フランシュシュと言うアイドルグループは順調に佐賀を盛り上げて行った__と思われた。

 

「・・・・・・明日、か」

 巽幸太郎は物憂い気に、黒のベールに浮かぶ月を見ていた。

 数日前、順調と思われた彼女達に悲運が訪れた。

 フランシュシュのゾンビ一号、源さくらが車との衝突事故でゾンビとしてからの記憶が失われた。

 それは、これからの活動に関わる大規模ライブが迫っていた時だった。

「天気は大雪。だが、彼女達ならきっと」

 気象も最悪。しかし、巽幸太郎はそんな事は関係無いと言う表情を浮かべる。

「それに俺は幸運を持っているからな」

 彼女、源さくらは不運だ。記憶を失ってからは、運を持っていないと口癖に様に言う。

 そこで巽幸太郎は掛けていたサングラスを外して、過去を思い出す様に遠くを見つめた。

 

 __そう、彼女はいつも持ってないと言っていた。

 いつからだろう。そんな彼女を追いかけていたのは。

 

***

「おい、乾。職員室までこれ運ぶの手伝ってくれ」

「え、あ、はい」

 担任の先生に言われて、席を立つ。

「・・・・・・重いな」

 授業で使った資料を持つが、とても一人で持てる量じゃない。担任は先に行ったし、分けて持っていくしかないか。

 周りを見ても手伝ってくれる人は居ないみたいだ。

 それとも、クラスで目立たない存在の僕が見えてないのかな。

 ため息を吐いて、憂鬱な気分で教室を出る。

 その時、後ろから誰か着いてくる気配を感じた。

「まって、乾君っ」

「源さん?」

 源さくら。中学生から高校生の今まで同じ学校だが、まともに話した事は無い。

「これ、手伝うねっ」

 源さんは、持ちきれなかった分の資料を持って僕の隣を歩く。

「・・・・・・ありがとう」

 そうお礼を言うと、彼女は笑顔で気にしないでと首を振る。

 名前の通り、さくらの花が咲き誇る笑顔。

 __そんな彼女に目を奪われたのが、一度目のきっかけ。

***

 その日以来、源さんと話す事は無かった。

 けれども、自然と目で追ってしまう。

 自分でも何故かは分からないけど、気が付くと源さんを見ているんだ。

「さくらー、またアイアンフリルの曲?」

「うん。愛ちゃん、やーらしかー」

 高校に入ってからの彼女は変わっていた。

 中学の頃は、いつも無表情に近い顔で毎日を過ごしていたのに、最近になってからは別人だ。

「持ってない私でも、愛ちゃんみたいに強くなれるかな」

 

 源さんはいつも教室でアイドルの曲を聴いている。

 アイアンフリル、だっけ。アイドルになりたいのかな?

「お前らー、昼休みが終わったら体育だぞ。早く着替えろー」

 クラスの男子が皆に呼びかける。

 僕も別室で着替える為に体操服を持って歩くと、足下にCDが落ちてくる。

「あっ」

 そのCDを拾うと、短く息を漏らした源さんが駆け寄ってくる。

「拾ってくれてありがとう、乾君っ」

 あまり話した事は無いのに、彼女の笑顔を見ると胸の鼓動が煩くなる。

 __それが、二度目。

***

 源さんはアイドルに憧れている。

 僕は、そんな彼女の支えになりたいと思っていた。

 調べて見ると、プロデューサーと言うものがある。

 源さんをトップアイドルにする為に、プロデュースの勉強を始めるが、

「まずは形から。・・・・・・似合わないな」

 プロデューサーはカーディガンを首に巻いて、サングラスを掛けるモノらしいので買ってきたけど、何かしっくりこない。

 いくら家の中でもこの格好は恥ずかしくなってきた。

「コンビニでも行くか」

 慣れない格好をしたせいなのか、とても疲れた。

 癒やしの為に甘い物を食べたいと思って、私服に着替えて家を出る。

 

 コンビニに入ると、見慣れた後ろ姿が目に入る。

「何してるの? 源さん」

「へっ、乾君!?」

 源さんは何かを探す感じで店内を徘徊していた。

「何か探してるの?」

 そう聞くと、源さんはアタフタと口籠もる。

「えっと、その。履歴書を・・・・・・」

 観念したのか、恥ずかしそうに言う彼女を見て、僕は首を傾げる。

「店員さんに聞いたら?」

 見つからないなら聞けばいいと提案するが、

「聞いたと。ばってん、売り切れんやった。どやんしよ・・・・・・」

 別の日にまた来ればいい話なのに、源さんは焦った様子だ。

「もしかして、アイドルの?」 

 それを聞いた源さんは、目を見開いて僕を見る。

「な、なんで?」

「いつも教室でアイアンフリルの曲を聴いてるから、応募するのかなって」

 源さんは、恥ずかしそうに顔を伏せた。

「えぇ、バレとったん・・・・・・」

 恐らく、応募の締め切りが近いんだろう。

「履歴書なら、家に余ってるのがあるよ。良かったら__」

「ほんにっ!?」

 食い気味に迫る彼女に、後ずさりながら肯定する。

 

「えっと、近くに公園あるよね? 取りに行くからそこで待ってて」

 そう言って、十分後。公園で待たせていた源さんに履歴書を渡す。

「ほんにありがとう、乾君っ」

「ううん。それより、やっぱり応募するのはアイアンフリル?」

 源さんは、照れくさそうに頬を掻く。

「うん。持ってない私が、また頑張ろうと思ったきっかけ」

 持っていない。それは、彼女の口癖。

 

「源さんなら、大丈夫だよ」

「え?」

 ・・・・・・つい溢してしまった。

「いや、えっと。僕が持ってる」

「えっと?」

 源さんは苦笑いで首を傾げた。いや、僕は何を言ってるんだ。

「僕は、プロデューサーになろうと思ってるんだ」

 口が勝手に動いてしまう。

「だから、源さんが持ってなくても・・・・・・。持ってる僕がプロデュースするから大丈夫だよ」

 すると、今まで微妙な表情をしていた源さんが吹き出した。

「ふふっ。プロデューサーかぁ」

 変な事を言ったんだ。笑われるのは当然か。

「あっ、馬鹿にしてる訳じゃなか」

 落ち込む僕を見て、慌てて弁解する源さんを見る。

「大人しい乾君がプロデューサーって意外だなぁって。もし、ほんに私のプロデューサーになったら輝かせてくれる?」

 からかうように僕を見る彼女に、

「もちろん、佐賀を代表するアイドルにしてみせる」

 僕の本気を、源さんに伝えた。

 本気の想いが伝わったのか分からないけど、彼女は一言、

「そっか」

 優しい笑顔を向けてきた。

 __僕の決意が固まった、三度目。

***

 次の日の教室。源さんは欠席していた。

 登校ついでに履歴書を出すと言っていたが、無事に応募出来たのだろうか?

 その時、校内放送が響き渡る。

『緊急集会です。皆さん、体育館に集まって下さい』

 

 授業が潰れて幸運だと思っていた僕だったけれど、

『・・・・・・源さくらさんに黙祷を』

 体育館に集まった僕達に訪れたのは、訃報。

 周りで、彼女と親しかった人達の泣き啜る声が聞こえる。

『二度とこの様な事が起こらないよう、交通安全運動を・・・・・・』

 先生達が演台で何か言っているが、頭に入らない。

 言っている事が、理解出来ない。

 皆が泣いている中、僕は源さんが何でこの場に居ないのか不思議に思っていた。

 

 放課後、団体で帰る事になった。

 けど、僕の家の方角は僕以外に居なかったみたいで、いつも通り一人で帰路につく。

「皆が皆、源さんが死んだって言ってる」

 このまま帰る気分にはなれず、寄り道をする事にした。

「きっと、張り切りすぎて風邪を引いたとかだろう」

 昨日、源さんと話した公園に来た。

「死んだなんて、嘘だ」

 ベンチに座り、空を見上げる。

「・・・・・・嘘だ」

 黄昏色の夕焼けなのに、雨なんか降っていないのに、

「うそ、だ」

 ポタポタと地面に雫が落ちてくる。

「うあ、あぁっ。うっ、うぁ」

 どんどん息苦しくなってきた。なんでだろう、言葉も上手く発せられない。

***

 すっかり夜の帳が下りた公園。

 僕は相変わらず帰る気にはならなかった。

「源さん・・・・・・。本当に、死んだのか」

 いつまでも現実逃避はしていられない。

「約束したのに。このままじゃ、僕は嘘つきになってしまう」

 立ち上がり、空に浮かび上がっている月を睨み付ける。

「彼女は死んだ、もう居ない。だけど、せめてプロデューサーになって__」

「ほう、諦めるか」

 その時、ベンチの後ろにある木の裏から人影が出てきた。

「っ、誰、ですか」

 暗闇でよく見えない中、その人影は近づいて来る。

「あ? 俺は通りすがりの、バーテンダーだ」

 月明かりで照らされたのは、白い髭を生やした大柄の男性だった。

「・・・・・・諦めるって、どういう意味ですか」

 その男を睨み付けても、飄々と笑ってくるだけ。

「そのままの意味だよ。盗み聞きするつもりはなかったが、気持ちよく寝てた所にピーピーと煩い声が聞こえたからよ」

 そう笑って言う男に、僕は怒りが沸いて胸ぐらを掴んだ。

「聞いてたんだったら、なんでそんなに可笑しそうに笑ってるんだっ」

 まるで人が死んだ事を何とも思っていないみたいだ。

 確かに関わりの無い男だが、笑う状況では無い筈だろう。

 怒りを煮やしていると、目の前の男は口角を上げた。

 

「生き返らせる。とかは考えないのか?」

「は?」

 突然、何を言ってるんだ。

「馬鹿な事を言うなよ。そんなゾンビ映画みたいな__」

「そう、ゾンビだよ」

 きっと、酔っ払いの類いだろう。急に馬鹿らしくなってきた。

 掴んでいた手を離し、公園を出ようとすると、男は追ってくる。

「おいおい、信じてないな?」

 不審者の言葉を流していると、僕の前に立ち塞がって来た。

「分かった分かった。証拠を見せてやる」

 着いてこいと手招きをする男だが、無視するのに限る。

 だが、

「また会える幸運を捨てるのか?」

 別に戯れ言と吐き捨ててもいいが、万が一の事があったらと考えてしまう。

「・・・・・・信じた訳じゃないぞ」

 表情を歪ませて、男の方へ脚を動かす。

***

 連れてこられたのは、古びたバーだった。

「何を見せてくれるってんだ」

「俺はここのマスターでなぁ。ちょっと待ってろ」

 ただの客引きだったなら、直ぐに帰ろう。

 男は店の奥に引っ込むと、何かを引き摺ってくる。

「う、あ、ぁあぁ」

 この男は不審者どころではなかった。

「その女性はなんだっ。お前、誘拐犯か!?」

 男が引き摺ってきたのは着物を着た女性で、口に猿轡を嵌めていた。

「いや、これ付けないと噛んでくるからよぉ」

「直ぐに警察をっ」

 携帯を持って外に出ようとすると、慌てた様子の男に携帯を取り上げられた。

「落ち着け、この女が証拠だ」

 くそっ。せめて、この女性の猿轡をっ。

 助けようと、口の拘束具を外すが、

「あ、あ、がぁっ」

 外した瞬間、女性は僕に噛みついてきた。

「な、なんでっ。ぐっ、痛っ」

 止めようと女性の手首を掴んだ時、あり得ない事が分かった。

「冷たい・・・・・・。脈も、無い」

 それによく見ると、その女性は全身に血が巡っていないせいで青白かった。

「だから証拠って言っただろう? そいつはゾンビだ」

 男はそう言って、ポケットから出したイカゲソを女性の口に突っ込んだ。

「たくっ。意識が不完全で見境が無いから外すなっての」

 むしゃくしゃとゲソを食べている女性から離れて、男に問いただす。

「あんた、何者だ」

 ニヤリと笑った男は、

「だからバーテンダーだよ。少しネクロマンシーが出来る、な」

 その時の男の目は、怪しく煌めいていた。

***

 日を改めてバーに訪れると、男はまた女性にゲソを食わせていた。

「なんでイカゲソ食べさせてるんだ?」

 男、マスターは溜め息を吐きながら愚痴る。

「まだ目覚めていないゾンビには、コレを食わせて落ち着かせるんだ。じゃないと噛んでくる」

「その女性は、あんたが生き返らせたのか?」

「あぁ。ゆうぎりってんだが、まだ完全じゃない」

 ゆうぎりと呼ばれた女性は、確かに映画に出てくるゾンビと同じで唸るだけ。

「意識が戻るのか?」

 あり得ない事だが、マスターはソレを肯定した。

「何か強い刺激があればな」

 

 詳しく話を聞くと、ますます不思議に思ってくる。

 生き返らせる手段を聞いてみるが、特別難しい事はなかった。

「それで、僕にも出来るんだよな?」

「俺に弟子入りすればな。どうする、やるか?」

 そっちから誘ってきたのに、今更何を。

「外道になる。と言う事だ」

「構わない」

 即答すると、マスターは眉を釣り上げる。

 そうだ。外道の身に墜ちても、彼女の夢を叶えると決めた。

 

 僕の揺らがない決意を感じたのか、マスターの口元が歪む。

***

 それからの数年は、激動だった。

 

 __まずは、源さんの確保。

 幸いにも土葬だったので、掘り返して確保する。火葬だったらその時点で計画は終わるからな。

「傷だらけだ・・・・・・」

 所々、腐り始めているのか骨も見える。

 

 __例え生き返らせても、このままじゃ人前には出せない。

 なのでメイクの技術を学んだ。

 勿論、ただのメイクだと直ぐにバレるので特殊メイクだ。

 

 __アイドルは歌う。

 ピアノやギターなどの楽器。作詞作曲も勉強した。

 

 __服装も大事だ。可愛く着飾らなきゃいけない。

 衣装デザインも必要になってくる。

 

 __事務所も必要だ。

 何処か広い屋敷を拠点にしよう。資金も大量に必要になってくる。

 

 __今のアイドルはグループの方が話題になる。

 源さん以外にも誰か生き返らせなければ。

 伝説的なモノを遺した子達がいい。

    

 __なにより、僕はプロデューサーだ。

 売り出す為の話術。一人で全部やるから、マネジメント技術も磨かなければ。

 

 気が付けば、十年が経とうとしていた。

 

 必要な事は身につけた。

 後は、彼女達を目覚めさせるだけ。

「おい、乾。そろそろ動くのか?」

「えぇ。環境も人材も揃いましたしね」

「ったく。ゆうぎりまで連れて行きやがって」

 カクテルを作りながら愚痴るマスターに苦笑する。

「ずっとこのバーに居ても、意識は戻りません。後は任せて下さいよ」

 飲み干したカクテルを置いて立ち上がる。

「そういや、お前が生き返らせる子は知り合いだろ。素性を明かすのか?」

 僕はマスターの言葉に反応せず、お金を置いて店を出た。

 

「もう十年だ。きっと、僕だとは気付かない」

 でも、名前くらいは変えた方がいいのだろう。

 いっその事、性格も変えようか。

「そういや、八卦とかあったな」

 ネクロマンシーの事をマスターに教わった時、ゾンビと関わりの深いキョンシーの事を学んだ。

 そこにあった、陰陽や八卦の図に乾の字があった。

 そして、正反対には巽の字。

「正反対の巽。持っていないと言う、源さんに幸運を」

 この十年で、乾という男は死んだ。

 サングラスを掛けて、路地のカーブミラーを見る。

 ならば、自分は誰か?

***

 屋敷の中で、少女が鏡を見つめていた。

「何なん・・・・・・。私、何で」

 その少女は、鏡の移る自分の姿に怯えていた。

「お前は源さくらだ」

 少女の元に男が歩いてくる。

「お前は十年前に死んだ。そして今、ゾンビィとして蘇った」

 その男は、サングラスを掛けていて、変わった犬を抱えていた。

「え、死んだ? それにゾンビって、何を言って」

「黙って聞けーいっ。俺の言う通りにすれば何も問題無い」

 混乱している少女を強引に説き伏せる男。

「というか、誰ですか?」

 引き気味の少女が、男の胸ポケットから生やしているイカゲソを不思議に思いながら問うと、男はサングラスを輝かせて胸を張った。

 

()()()()()()っ、お前らをアイドルにする男じゃあぁいっ」

 

***

 源さくらが記憶を失いながらも、挑んだ大舞台。

 大雪の中、ライブは開催された。

 歌い始めてから直ぐに、ステージが壊れたりのハプニングが起きたりしたが、

『アンコール、行くぞーっ』

 曲の途中で記憶を取り戻したのか、源さくらは最初と違って生き生きと歌って踊っていた。

 結果、ライブは成功した。

 

 終了後、舞台裏で集まるフランシュシュ。

「お前らぁっ、何っ、何を満足してるんじゃいっ。ライブはネット配信してある。これから忙しくなるんじゃいっ」

 パンパンと手を叩き、喧しく騒ぐ巽幸太郎に辟易とするフランシュシュ達。

「特にさくらぁっ。この馬鹿ゾンビィ、次に面倒事を起こしたら坊主だっ。嫌だろぉ、ん? ん?」

「は、はぃ・・・・・・」

 巽幸太郎はその返事に満足したのか、鼻息を一つ荒く吐いて部屋を出て行く。

「なんば今回のグラサンはいつも以上に喧しか」

 フランシュシュのリーダー、サキは耳をほじりながら、車を取りに行った巽幸太郎の方を見る。

「確かに、いつもよりさくらさんへの当たりがキツかったですね」

 昭和のアイドル、純子もサキの疑問に同意する。

「案外、さくらはんの事を心配したんでありんしょ」

 花魁のゆうぎりが微笑みながら答えるが、

「えぇ・・・・・・。巽だよ? それは無いんじゃないかな」

 元子役の男の娘、リリィがソレを否定する。

「まぁアイツなりの激励でしょうし、あまり気にしない方がいいんじゃない?」

「がうがうっ」

 元アイアンフリルの愛と伝説の山田たえが、さくらに声を掛けた。

「そう、だよね」

 巽幸太郎が出て行った方向を見つめたまま動かないさくらを、フランシュシュの皆が心配して肩を叩く。

「さくらー、いつまでボーッとしてんだ。ぶっ殺すぞ」

 サキがさくらの顔の前に手を振りかざしても、反応は薄い。

「記憶をはっきり思いだしてから、幸太郎さんが知り合いに似てる気がして」

 その言葉を聞いた皆は、ギョッとした。

「まさか、死ぬ前にアイツと知り合いだったの?」

 愛が恐る恐る聞くと、さくらは自信なさげに頷いた。

「いつか私のプロデューサーになって、佐賀を代表するアイドルにするって約束した・・・・・・んだけど」

 

 そこで、扉を開いて巽幸太郎がやって来た。

「早く着替えんかぁいっ。次の営業先までケツカッチン、とにかく急がんかいっ」

 叫び出す巽幸太郎に、さくらは怯まず質問する。

「あの。乾、君?」

 巽幸太郎は、さくらの言葉にピタリと口を閉じ、

「こんの偉大なプロデューサーの名前を間違えるなっ、このアホゾンビィッ」

 さくらの耳元でそう叫ぶ巽幸太郎に、さくらは確信した。

「ふんっ。この巽幸太郎さんを呼び間違えるとは」

 ブツブツと独り言を言いながら部屋を出て行く巽幸太郎を見送ったアイアンフリル達は、目線でさくらにどうだったと聞くが、

「やっぱり・・・・・・。人違いだったみたい」

 死んだ魚の様な目、いやゾンビな目で耳を抑えるさくらは、溜め息を吐いた。

「乾君と性格が全然違うし・・・・・・」

***

 フランシュシュ。それは佐賀を代表するアイドルグループ。

「いいか? 今回は一万人規模のライブ。成功すれば、佐賀復興の大きな足掛かりとなる」

 巽幸太郎が真面目モードで、舞台裏にスタンバイしているフランシュシュに発破を掛ける。

「絶対に成功させろ。いや、させるっ。何故なら? この俺は持っているからなぁっ」

「いや、ステージに上がるのは私達だから」

 愛が突っ込むと、フランシュシュの皆は円陣を組む。

「いよっしっ。覚悟は良かか?」

 リーダーのサキが皆の顔を見回して、

『フランシュシュー・・・・・・。おぉーっ』

 気合いを入れた彼女達はステージに上がり、空高くマイクを掲げた。

 

『おっ、はよーございまーっす!』

 

 ゾンビランドサガ・プロジェクト。

 まだまだ道のりは長いが、彼女達はきっと成し遂げるだろう。

 

 

 

 



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