ソードアート・オンライン 桜花の剣閃   作:石月

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このサイトでは初投稿となるので温かく見守っていただけたら幸いです。ストーリー重視で書いていくので、原作に書かれている設定はほとんど端折ると思います(茅場のチュートリアルも端折るけど要点は言うから許して)。わからない部分があったら原作の小説を読んでください。(質問、意見、書いてほしいシーンの要望等がありましたらコメント欄に書いてください)
それと、ヒロインの登場は次回になりますのであしからず。


第一話 剣の世界

 六畳の静かな部屋に、ニュースキャスターの声が響いている。

 

「お兄ちゃん、部活行ってくるね~」

 

 階下から聞こえる妹の声に、少年は読んでいた雑誌を閉じると、立ち上がって窓の外を見た。

 学校の制服に身を包み、背中に竹刀のケースを背負った妹が小走りで玄関から出ていくのを無言で見送り、少年はテレビを消して机の上にある「それ」に手を伸ばした。

 濃紺色をした流線型のヘッドギア、あるいはヘルメットのような形状の機械――ナーヴギアを頭にかぶり、あごの下でハーネスをロック。ケーブルをつないで部屋のベッドにあおむけで横たわる。

 視界右上に映るよう表示されている時間が十三時になった瞬間、少年は目を閉じ、口元に微笑を浮かべて「その言葉」を口にする。

 

「リンク・スタート!」

 

 

 

 視界をカラフルな光の群れが後方へと流れていき、目の前にセットアップの確認ウィンドウが浮かんではOKの文字をつけて視界の隅に並んでいく。

 それが五つそろったところで、セットアップが終了し、目の前に現れたウィンドウにIDとパスワードを入力すると、「βテスト時に登録したデータが残っていますが、使用しますか?」という確認画面。YESボタンを押すと、目の前を青い光が覆い、「Welcome to Sword Art Online!」という英文が流れ、光が消えた。

 目を開けると、周りには中世ファンタジー風の建物。辺りは何千人入れるかわからない大きな広場。

 世界初のVRMMO《ソードアート・オンライン》通称《SAO》。

 舞台となるのは、空に浮かぶ巨大な石と鉄の城《アインクラッド》。

 そのスタート地点である《はじまりの町》の懐かしい景色の中に、少年は立っていた。

 視線を落とし、自分の体を見下ろす。

 青を基調としたシンプルな服の上に簡素な革の胸当て。石畳を踏みしめる革のブーツ。

 懐かしい景色と服装に喜びがこみ上げ、少年――キリトは指ぬきグローブに包まれた両手を強く握り締めた。

 

「戻ってきた…この世界に…!」

 

 感慨深げにそう呟くキリトの周りでは次々に青い光が出現し、そこからプレイヤーたちが現れては、喜びの声をあげている。

 あちこちでプレーヤーたちが喜びをあらわに談笑している中、キリトははじまりの町の商業地区を走っていた。入り組んだ裏道にある安い武器屋に向かうためだ。

 

「おーい、そこの兄ちゃん!」

 

 そんな彼に、声をかける青年がいた。

 振り向いたキリトの前で、走って追いかけてきた青年は軽く息を整えて顔を上げた。

 やや長い赤紫の髪に悪趣味な柄の赤いバンダナを巻いた、長身痩躯で戦国時代の若武者を思わせる整った顔立ちの青年だ。といっても、それは現実世界の彼そのものではなく、エディターによってゼロから作った仮想体(アバター)なのだが。

 当然キリトも、気恥ずかしいほどにカッコイイ、ファンタジーの勇者然とした精悍な容貌をしている。

 

「その迷いのない走りっぷり、あんた、ベータテスト経験者だろ? 序盤のコツ、ちょいとレクチャーしてくれよ」

 戸惑うキリトをよそに、青年は自己紹介をした。

 

「オレは、クライン。よろしくな」

「あ、ああ…。俺は、キリトだ。えっと…とりあえず、武器屋行くか?」

 

 こうして、二人は武器を買った後、パーティーを組んでフィールドへと出ていった。

 

 

 

「ぬおっ……とりゃっ……んなっ…どわっ!」

 

 奇妙な掛け声とともに剣が振り回されるが、それはすべて空を切り、直後に青いいイノシシが俊敏な動きで攻撃してきたクラインに強烈な体当たりを見舞う。見事に吹っ飛ばされ、情けなく草原を転がる姿を見て、見ていたキリトは思わず笑い声をあげた。

 

「ははは……、そうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだ、クライン」

「ってて……にゃろう」

 

 毒づきながら立ち上がったクラインは、情けない声をキリトに投げ返す。

 

「ンなこと言ったってよぉ、キリト……あいつ動きやがるしよぉ」

 

 そう言うクラインの足元がふらついているのを見て、キリトは足元の小石を拾って肩の上にぴたりと構えた。

 すると、剣技(ソードスキル)のファーストモーションをシステムが検出し、小石がほのかなグリーンの光をまとう。

 次の瞬間、自動的に右手が閃くように動き、投げた小石が青イノシシの眉間に命中した。

 怒りの声をあげて向かってくる青イノシシの突進をいなしながら、

 

「訓練用のカカシじゃないんだから、動くのは当たり前だ。ちゃんとモーションを起こしてソードスキルを発動させれば、あとはシステムが技を命中させてくれるよ」

 

 とアドバイスする。

 

「モーション…モーション……」

「どう言えばいいかな……スキルの通りに体を動かすんじゃなくて、初動でほんの少しタメを入れてスキルが立ち上がるのを感じたら、あとはこう、ズパーン! って打ち込む感じで……」

 

 そう言ってキリトは青イノシシの腹を蹴ってクラインの方へ向かわせた。

 

「ズパーン、てよう……」

 

 クラインはなおも情けない顔をしながらも、右手の海賊刀(カトラス)を中段に構えた。

 気を引き締めるように何度か深呼吸してから、腰を落とし、右肩に担ぐように剣を持ち上げる。今度こそ既定のモーションが検出され、刀身がオレンジ色に輝く。

 

「うりゃあっ!」

 

 太い掛け声とともに地面を蹴り、打って変わって滑らかな動きで青イノシシに向かって突進し、鋭い突きを見舞う。

 片手用曲刀基本技《リーバー》。その威力は半減しかけていた青イノシシのHPをきれいに吹き飛ばし、直後、ガラス塊を砕くような音とともにその体はポリゴンの破片となって四散した。

 

「うおっしゃあああ!」

 

 キリトとクラインの目の前に現れたリザルトウィンドウを見て、クラインは大きくガッツポーズをとり、キリトとハイタッチを交わした。

 

「初勝利おめでとう。といっても、今のイノシシ、ほかのゲームじゃスライム相当だけどな」

「えっ、マジかよ! おりゃてっきり中ボスかなんかだと」

「なわけあるか」

 

 キリトは苦笑し、剣を背中の鞘に納めた。

 その後も順調に狩りを繰り返し、周りのMobが狩りつくされたところで、二人は小高い丘の上で休憩をとることにした。

 おさらいのつもりか剣を振ったりソードスキルを空打ちしたりしているクラインを尻目に、キリトは辺りを見回した。

 驚くほど広い草原が、夕暮れ時の日の光を浴びて輝いている。

 遥か北の森のシルエット、南にある湖の湖面の輝き、東にうっすらと見える《はじまりの町》の城壁、西には、無限に広がる空とオレンジ色の雲海。

 まさに壮観だった。

 

「しっかしよ……こうして何度見回しても信じられねえな。ここが《ゲームの中》だなんてよ」

 

 満足したのか、剣を収めてキリトの横に並んだクラインが感慨深げに言った。

 

「正確には、ナーヴギアが俺たちの脳に直接見せているだけだけどな」

「そういうこと言うなっての。おりゃこれが初のフルダイブ体験なんだぜ? マジ、この時代に生まれてよかったぜ!」

「大げさな奴だなぁ」

 

 そう言ってキリトは苦笑したが、彼もその気持ちはわからないでもない。キリト自身、SAOのベータテストに初めてログインした時の感動は昨日のことのように覚えている。

 

「じゃあ、あんたはナーヴギア用のゲーム自体も、このSAOが初めてなのか?」

「おう。つーか、むしろSAOが買えたから慌ててハードも揃えたって感じだな。なんたって、初回ロットがたった一万本だからな。我ながらラッキーだよなぁ。……ま、んなこと言ったらβテストに当選したお前の方が何倍もラッキーだけどよ」

「ま、まあ、そうなるかな」

 

 半ばうらやましそうな目でいうクラインに思わず目をそらし、キリトは少し離れた場所に出現した青イノシシを指さした。

 

「ほ、ほら、モンスターが再湧出(リポップ)してきたぞ。もう一戦行くか?」

「ったりめえよ! と、言いてぇとこだけど……」

 

 クラインの目線が右に動き、視界の端の時刻表示を見た。

 

「そろそろ落ちて、メシ食わねぇとなんだよな。五時半にピザの配達頼んでっからよ」

「準備万端だなぁ」

 

 呆れた声のキリトにクラインはおうよと胸を張り、思いついたように続けた。

 

「あ、んで、オレそのあと、他のゲームで知り合いだった奴らと《はじまりの町》で落ち合う約束してるんだよ。どうだ、紹介すっから、あいつらともフレンド登録しねえか?」

「え……うーん」

 

 その提案に、キリトは歯切れの悪い声を漏らす。

 正直なところ、キリトはゲームでも現実世界でも人付き合いが苦手で、クラインのように波長が合う場合はともかく、彼の仲間とも仲良くやっていける自信はない。むしろそっちとうまくやれずにクラインとも気まずくなってしまうことだってありうる。

 

「そうだなぁ……」

 

 そんな理由を悟ったのか、クラインはすぐに首を振った。

 

「いや、もちろん無理にとは言わねえよ。そのうち紹介する機会もあることだろうしな」

「……ああ。悪いな、ありがとう」

「いやいや、礼を言うのはこっちのほうだって! おめぇのおかげですっげえ助かったよ。この礼はそのうちちゃんとすっからな、精神的に」

 

 にかっと笑って親指を立てると、クラインはもう一度時計を見た。

 

「そんじゃ、おりゃここで一度落ちるわ。マジ、サンキューな、キリト。これからもよろしく頼むぜ」

 

 そういって突き出された右手を、キリトは笑って握り返した。

 

「こっちこそよろしくな。また訊きたいことがあったら、いつでも呼んでくれよ」

「おう、頼りにしてるぜ」

 

 そう言って互いに手を放す。

 一歩下がると、クラインはログアウトボタンを押すためにメニューウィンドウを開く。

 キリトも、ここまでの狩りで得たアイテムを整理するためにメニューを開いて操作し始めた。その時、

 

「あれっ、なんだこりゃ。()()()()()()()()()()()()

 

 クラインの素っ頓狂な声に、キリトは手を止めて振り向いた。

 

「ボタンがないって、そんなわけないだろ。よく見てみろよ」

「……いや、やっぱどこにもねぇよ。おめぇも見てみろって、キリト」

 

 そういわれてキリトも自分のメニューウィンドウを見ると、確かに本来ログアウトボタンがあるはずのところには何もない空白のボタンがある。当然、押してみても何の反応もない。

 メニューウィンドウ全体を探して場所が変わったわけではないことを確かめ、キリトは視線を上げた。

 

「……ねぇだろ?」

「うん、ない」

「ま、今日は正式サービスの初日だかんな、こんなバグも出るだろ。今頃GMコールが殺到して、運営は半泣きだろうな」

 

 のんびりとした口調でそう言って笑うクラインに、キリトは少々意地悪な表情と口調で突っ込みを入れた。

 

「そんな余裕かましてていいのか? ピザの宅配、もうすぐだぞ」

 

 時刻表示を見ると、五時半まであと十分を切っている。

 

「うおっ、そうだった!」

「とりあえずGMコールしてみろよ」

「さっきから試してるけど、何の反応もねーんだ。って、あと五分しかねーじゃん! やべぇ俺様のアンチョビピッツァとジンジャーエールがぁー! おいキリトよう、ほかにログアウトする方法はねぇのかよ!?」

 

 必死の形相で聞いてくるクラインに、キリトは少し考えこみ、

 

「……ない。自発的ログアウトをするには、ログアウトボタンを押すしかない」

 

 それ以外の方法を、キリトは知らない。というより、存在しない。

 

「んなバカな……ぜってぇ何かあるって! 戻れ! ログアウト! 脱出!」

 

 クラインはあれやこれやと喚きながら飛んだり跳ねたりしているが、キリトはそれが無駄な努力だとわかっている。SAOにはそういったボイスコマンドは存在しないからだ。

 

「無駄だよ、クライン。マニュアルにもその手の緊急切断方法は載ってなかった」

 

 無論フルダイブ中は体を動かせないから、ナーヴギアを自分でとることもできない。

 

「……じゃあ、結局のところ、このバグが直るか、向こうで誰かがギアを引っぺがしてくれるのを待つしかねぇってことかよ」

 

 クラインの問いに、キリトは無言で首を縦に振って答えた。

 

「でもオレ、一人暮らしだぜ。おめぇは?」

「……母親と、妹が一人。だから、晩飯の時間になっても降りてこなかったら、強制的にダイブ解除されると思うけど…」

「おお⁉ キリトの妹さんって幾つ?」

「この状況で余裕だなお前。あいつ運動部だしゲーム嫌いだし、俺らみたいな人種とは接点皆無だよ」

 

 途端に目を輝かせて身を乗り出してくるクラインを押しのけて、キリトは呆れ顔でそう言った。

 

「んなことよりさ、なんか……変だと思わないか」

「そりゃ変だろうさ、バグってんだから」

「ただのバグじゃない。《ログアウト不可能》なんて今後のゲーム運営に関わる大問題だよ。こんな状況なら、運営サイドはまずサーバーを停止させてプレイヤーたちを強制ログアウトさせるのが当然の措置だ。なのにサーバー停止どころか運営のアナウンスさえないのは奇妙すぎる」

「……言われてみりゃ確かにな。SAO開発元の《アーガス》と言やぁ、ユーザー重視の姿勢で名前を売ってきたメーカーだろ。その信頼があったからこそナーヴギアもSAOもこんな人気になったんだ。なのに初日からこんな大ポカやっちゃ意味ねぇぜ」

「まったく同意する。その上VRMMOの先駆けであるこのゲームで問題を起こしたら、ジャンルそのものが規制されかねない……」

 

 そんな話をしていた二人の耳に、突如として、リンゴーン、リンゴーンという鐘の音のような音が大ボリュームで響き渡った。

 

「な…何だ?」

 

 突然の出来事に驚く間もなく、二人の体が鮮やかなブルーの光に包まれる。

 

(これは、強制テレポート?)

 

 キリトがそう思った次の瞬間には、二人はそれまでいた草原とは全く違う景色の中にいた。

 

「ここは、はじまりの街か?」

「みたい…だな」

 

 そこは間違いなく、《はじまりの街》の中央広場だった。

 周囲には、色とりどりの装備をまとった眉目秀麗な男女の群れ。ざっと一万人はいるであろうその集団は、間違いなく他のSAOプレイヤー達だ。

 

「あっ…上を見ろ!」

 

 不意にそんな声が響きわたり、反射的に一万人のプレイヤー達が真上を見上げる。

 百メートル上空、天井のように広がる第二層の底面を、深紅の市松模様が染め上げていく。その一つ一つをよく見ると、「Warning System Announcement」と書いてあるのが読める。

 

「システム…アナウンス……?」

 

 クラインもそれが読めたようで、ようやく運営のアナウンスがあるのかと二人そろって肩の力を抜きかける。

 だが、続く現象は、その予想をはるかに裏切るものだった。

 突然、赤く染まった天蓋から液状の何かがどろりと垂れ下がり、広場のたちの上空で形を変えた。

 そこにあったのは、真紅のフード付きローブを纏った巨大な人の姿だった。おそらく身長二十メートルはあるだろう。

 ローブそのものは、キリトもβテスト中に何度か見たことがあるGMの服装だ。

 だが、深く下げられたフードの中には、本来あるべき顔がない。フードだけで中身のないその姿はまるで幽霊のようで、プレイヤーたちは言いようのない不安を感じずにはいられなかった。

 不意に、だらりと垂れ下がるローブの袖が動き、これまた中身のない白い手袋がのぞいた。

 わずかに両腕を広げた姿勢で、中身のないはずの赤ローブから、低く落ち着いた男の声が響き渡った。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

「私の世界……だと?」

 

 キリトは、困惑を隠せずにそう呟いた。

 だが続く言葉は、キリトの困惑を驚愕へと変えた。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

「な……」

(茅場……晶彦!?)

 

 キリトは驚愕を隠せずに巨大なローブの顔の部分を見上げた。

 一万人近いプレイヤー達が驚愕に包まれる中、続く茅場の言葉は、二年間にわたる戦いの始まりを告げるものだった。




とりあえずここまで書き終えた…(達成感)
まだ序章すら終わってないって? 学生だからいろいろ忙しいんです!ここまで書くのに半月はかかったんだから!

予告通り茅場のチュートリアルは大幅に端折ります。あと、次回はヒロイン視点から始まります。とりあえずキリトとヒロインが合うところまでは書く予定ですが、そのあとの二人の行動については全くのノープランです。

「この言い回し原作でも使われてるだろ」等のコメントは受け付けません。だって原作読み込んでから書いてるんだもん。普通に書いたら最初の三行で語彙力死んじゃって執筆止まるから許して。ああでも、誤字脱字等は片っ端から指摘してくれると助かります。
以上、人生初の後書きでした。

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