影宗の師匠呼びの話から数百年が経った。ココ最近、時間が経つのが早く感じるようになった気がする。歳が歳なんでそう感じるのは仕方がない。修行してる身でもあるんで集中しすぎもあるだろうけど。
相変わらず影宗は師匠呼びでこちらにやってくるので懲らしめてやった。まあ、良い奴だったよ。慈悲はないが。
そんなこんなで修行の日々を送っていた俺は、ある時、影宗にこんなことを言われた。
「師匠の師匠は何者なんですか?」
師匠の師匠って、他にも言い方があるだろ。まあ、確かに気になるな…
「神だが、お前はなんだと思う?」
まあ、本人が言ってるし神だろう。その場にあぐらをかいて座り、話を聞く体勢になる。
「神、ですか……だけど神力感じなかったんですよね」
「……神力ってなんだ?」
「そこからですか!?」
神力が分からなかったので神力その他もろもろ影宗に教えてもらった。神が使う力が神力、人間が使う力が霊力、妖怪が使う力が妖力、人間は霊力の他にも魔力を使うらしい。人間の体には神経の他に『魔術回路』なるものがあるらしいが正直知らない単語が多くて困る。
「まあ、こんなもんですよ!」
「そうか……ところで魔術回路ってのは俺の体にもあるのか?これでも元は人間だからあると思うが」
「そんなことでしたら僕が調べますよ!ではちょっと背中見せてください」
「あ、ああ」
服を脱ぎ、背中を見せるために寝そべる。影宗の冷たい手が俺の背中を触る。意外と冷たいな。
「で、分かったか?」
「す……凄いですよ!0本です!」
影宗が大きな声で叫ぶ。ぜ……ゼ、0本?
「あのー影宗さん?0本って零のことですか?」
「はい!0です、全くないです!」
oh……まさか0とは、神よ…。てか神に頼めば増やせるのでは?なんだ簡単じゃないか!
「無いなら頼めばいいんだ!影宗、そうしよう!」
「誰にですか?」
「神様だが?」
「僕はやめた方がいいと思いますがね」
「どうして?」
「正直神力感じないし、何の神か分からないし、胡散臭いんですよね」
「そんなもんか?」
「そんなもんですよ。この世界の神はろくな奴しかいませんので」
ろくな奴しかいない…か。俺の場合、あの髭ジジイの神しか知らんが他にいるのだろうか?
「師匠は神のことを信用してますが、僕は信用できませんね」
そう言うと影宗は背を向ける。口に手を当て、影宗は何か考えてる様子だった。正直何考えてるか分からんがめんどくさいことなのは分かる。
「なんだ、もう帰るのか?」
「ええ、まあ……調べることが出来たんで」
「いいけどよ、あまり無理すんなよ?」
「……はい」
そう言い、影宗は影に溶け込んで消えていった。影宗がどんどん離れていくのを感じ取る。あぐらの足を解き、痺れた足で立ち上がる。影宗に聞かれたことによって神について知りたくなってしまった。
「……どうせ知るだろな。うーーんっと、そんなことより修行だ、修行」
背筋を伸ばして、仙術の修行を始める。影宗の事だ、それなりの情報を持ってくるだろう。あいつの上司は閻魔だし、同僚たちもいるし大丈夫だよな。
影宗と神は何者なのか、という話をしたその日の夜、俺は神に呼ばれた。神が呼び出すとはこれまた珍しい。そんなことは言うけどどうせコソコソと俺達の会話を聞いてて「堂々と聞いてこい、たわけが」とか言われそう。そんなこんなで神のところに着く。
神は修行に来る以外は小屋に住んでいる。くっ、俺は山篭りなのに家の暖かさを味わいやがって解せん。小屋の扉をノックする。
「暁です、神様いますか?入りますよ」
「ああ、入っていい」
許可が出たので中に入ると机とイスがポツンと置いてあるだけ。他にあるとすればランプぐらいだろう。
「茶しかないがそれでいいか?」
「いいですけど、呼ばれてきましたがどうしました?」
「それなんだが、これで修行は終わりにしようと考えたんだ。儂にも色々と用事が出来た。だからこれからの事をお主に話そうと思ってのぉ」
「そろそろだと思ってたけど、今かー」
置かれた茶を飲みながら考える。そうかぁ…とうとうこの長い修行が終わるのか。千年以上前に転生してからここまで来たのか。第一の目的として立てた、まず修行に生き残るが達成するな。
「今回の修行ではお主の生き残る手段、仙人、能力の強化だがほぼ未完成に等しい。能力に関しては少ない数しか扱いきれてない。仙人は、鍛えきれていないところがある。言っても数え切れないぐらいあるがまあ、今言ってもしょうがないだろう」
「これだけやっても仙人になってないのかよ!」
あの千年間はまだ仙人なってなかったのかよ。いや、それだと矛盾してるな。仙人になってないのに影宗はなんでやってきたんだ。
「じゃあ影宗はなんでやってきたんだ?」
「すまん、言葉が足らんかったのぉ。この世界ではほぼ仙人なってるだろう。だが、完全なる仙人になるにはあることを使えなきゃならん」
「その使えなきゃならんってやつはなんだ?」
「魔法って知ってるかの?」
「は……ま、魔法?」
魔術に対しても驚いたが魔法って、魔術と同じようなものなのか?
「魔術みたいなものか?俺、そこら辺はよく分からないんだが」
「いや魔術とは根本的に違う、説明するとなぁ」
魔術は人為的に神秘と奇跡を再現したものらしい。で、魔法はその魔術の最終目標に辿り着ける方法らしい。他にもポンポンと知らない単語があったが俺はなんとか覚えることが出来た。仙術も魔術の類らしい。
「だがその話で出てきた魔術回路が俺には無いらしいぞ?」
「なんじゃと!?」
そう言うと俺の腕を掴み、脈を見てるかのようにじっと見ていた。見終わったら、残念そうに顔に手を当てた。
「そんな……まさかの……」
「支障でもあるのか?」
「無い訳では無い。ただ単に開いてないだけだが…これが開かなければ話にならん。どうするか…そうだ。暁くん、君のその眼を使えば出来るかもしれん」
「ん、どゆこと!?」
「お主のその眼は一種の『魔眼』じゃ。魔眼には大抵別となる魔術回路が備わっている。それを利用すれば開いてない回路を開くことが出来る!」
ま、魔眼!?初めてだぞ、そんなことを聞いたのは。いや…確か他に能力があるって言って『目的を果たす能力』とかなんとか言ってたな。
「だがどう使うかわからん。たまに変な気が流れる時があるが……」
「それだ。それを使って開いてない回路を開くんだ。霊力のように魔力を目に集中させて、お主の魔術回路のスイッチを作るんだ」
「難しいこと淡々と言わないでくれ、集中できん」
えーと、魔力を操るために魔術回路のスイッチがいるんだよな。だったら霊力のように魔力を目から辿って体に纏った感じでやってみる。すると目から体中に激痛が走る。目元を押さえながら、倒れ伏せた。
「大丈夫か!?やはり無理にこじ開けたからか?」
「い、いや大丈夫だ。……なんとか痛みが引いてきた」
そう言い立ち上がり、目元を抑えていた手を離した。瞼を開いたり閉じたりと、何も起きてないか確認する。
「ふむ、『宝石』……か……」
「どうかしたか?」
「いやなんでもない。ところで魔術回路はどうじゃ?」
「ああ、そうだった」
まだ痛みはあるが魔術回路の魔力の流れを確認する。霊力と違って上手く操ることが出来ない。
「どれ、魔術回路の数でも見るか」
先ほどと同じように神は脈を見るかのようにじっと見始める。確かめてる間、魔術回路で魔力の流れを確認する。見終わると神は腕を離した。
「魔術回路の本数は24本、質は中の中でまずまず、量は……そうかなるほど……」
「どうだった?自分で言っちゃあなんだが鍛えてるからそこそこいいと思うが?」
これまで鍛えてきたのだ。その魔術回路が良くなければ落ち込むぞ。
「結果的に言うとお主の魔術回路は、中途半端じゃ。本数も平均、質は平凡だが、なんと言っても量がこれまでにない量じゃ。あくまで推測だが、お主の魔力は霊力と混合している。何か心当たりあるか?」
このことを聞いて魔術回路は良いのか?自分の中では良しとしよう。さて心当たりか。もしかして、
「魔術回路を開く時に霊力を使うように魔力を纏うようにやったが?」
それを聞いた途端、神は目頭を押さえる。何かやらかしてしまったのだろうか?
「それが原因で霊力と魔力が混合しているのだろうな。これからも霊力とでも呼んでおけばいいだろう」
「わ、分かりました」
試しに霊力と魔力を分けることが出来るか試してみる。案の定分けることはできませんでした。霊力=魔力になったが別に支障はないだろう。
「てか魔法の話をするんじゃなかったのか?」
「ああ、そうだったのぉ。まずある世界の魔法で六つ確認されている。確認されてはいるんじゃが、どのような力なのかは明確には知られていないんじゃ。すまんの」
「いや別にいいよ。俺って、魔法って言われてもピンッと来ないしさ」
急に魔術とか魔法って言われても、困るぐらいだし。
「それで魔法がどうかしたのか?」
「それなんじゃが……魔法を使えるようにしてもらいたい」
「はぁ?いやいや、魔法使えるようにしてもらいたいって言われてもなぁ。困るだけなんだが」
「困るのは分かっておる。じゃがこの世界にはまだ魔法使いがおらん。そこでこの世界での魔法使いの一人としてなってもらいたいんじゃ!」
そう言うと神は俺の目の前で土下座をする。何かあるのか、少し疑問に思うがあの神だ。何かあるのはわかるが事情があってこんなことをしているんだろう。ここまで鍛えてもらったんだ。少しは役に立つか。
「神様、もう頭を上げてくれ。なんとか魔法ってやつを使えるように努力するよ」
「それはホントか!?」
「ああ、だけど神様にも協力してもらうぜ」
「それならお安い御用、出来ることなら協力するのぉ」
言質を取ったが魔法を目指すのって大変なのでは?まあ、そこらへんは後で神にでも聞くか。
「さて伝えることは伝えた。儂はそろそろ行くかのぉ」
「用がある時は呼ぶから来てくれよな」
するとにっこりと分かったと言って、神は縮地のように消えた。ほんとにあいつは神なのに仙術を使うとは何者なんだ?
「さて俺もこれからどうすっかなあー」
神がいなくなって今、魔法の事以外でこれからどうするか決めるか。魔法を使えるようにまた修行か、修行も飽きたしこれからについて影宗にでも相談するか。そんなことを考えながら、俺は茶を飲み干して小屋を出たのだった。