戦艦大和は沈まない   作:カラミナト
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第三艦隊へ

大和が去った横須賀鎮守府の司令官室内で、一人残った佐々木秋頼は大和がこの部屋に来る前にかかってきた電話の内容を思い出していた。

 

戦艦大和の艦娘が現れたという情報が流れて関係各所に少なくない動揺があった。

 

現在、世界においてはもちろん日本でも深海棲艦という人の手に余る災害を退けることが出来る艦娘の存在を国家規模で保護していた。

故に、第二次世界大戦で大日本帝国の象徴としてのネームバリューを持つ“戦艦大和”を名乗る大和が大海原で発見されたことを知った者たちは、大和を失わないようにして気を配るようにという意思を横須賀鎮守府の司令官である佐々木秋頼へと伝えた。

 

普通に考えれば少し過保護だろうという風にも思うだろうが、艦娘は死んだら彼女たちの艤装をモデルとした適応者が使用する艤装がどうなるのかが分からないために過保護になるのは仕方ない。

特に大和は、その場に出くわした海上保安庁からの報告により装甲の厚さも火力も他の艦娘と比べても段違いの性能であることが分かったため、日本という国家は大和に対して過保護になったのだ。

 

扉を叩く音が聞こえる。

 

「失礼します」

 

佐々木の許可を得て司令官室に入ってきたのは、短い茶髪で黒いウェアに巫女服のような服を着た女性だった。

 

「よく来た、日向。

少し頼みごとがある。

入ってくれ」

 

「はい」

 

何があるのか少し不安そうな表情をしている日向を前に佐々木は、責任感の強い彼女の今後のことを考えて少し申し訳なく思いながらも顔に出さずに日向を真っすぐに見る。

 

「今日、任務中の第一艦隊が新たな艦娘を発見したのを知っているな?」

 

「はい。

確か、戦艦大和を名乗る艦娘だそうで・・・」

 

「ああ、そうだ。

それで、ちょうど一人空いている第三艦隊にその大和を入れるつもりだ。

彼女のことを頼みたい」

 

信頼する提督に旗艦としての能力を買われて自らに新人を任せてくれるのだと言われて少し嬉しそうにしているのが佐々木には分かった気がした。

 

「分かりました。

で、彼女は今どこに?」

 

「今、自分の部屋に案内されている。

夕食の時間になったら彼女を迎えに行ってもらいたい」

 

それくらいならば構わないと日向は頷いた。

そして、この司令官室を退室しようとした彼女だったがそれを佐々木は止めた。

 

「それともう一つ、大和には第三艦隊の旗艦を任せる。

以上だ、下がっていい」

 

もう話は終わりだと言わんばかりに執務机に戻って今日中の決済が必要な書類仕事を始める。

 

「し、失礼しました・・・」

 

良くも悪くも軍人らしく何処か固いところがある日向は表情も特に崩すことなく黙々と退室していく。

 

「悪いな、日向。

・・・この異動で日向が、第三艦隊が更に良くなればいいが」

 

誰もいなくなったその部屋で佐々木のその言葉が空気へと溶けて消えた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

司令官室の前で一等海曹を名乗る男性に連れられて鎮守府の中を案内される。

 

この自衛官の人が言うには、艦娘たちの部屋はこのだだっ広い横須賀鎮守府本部の中にあるのだという。

詳しく言うのならば、この鎮守府本部とは中庭や渡り廊下などを挟んだ別館のようなところにあり、都合が言いように艦娘たちには必要な入渠施設や工廠と鎮守府本部の間にあるのだという。

 

廊下ばかりを歩いてきたものだから気付かなかったが、入渠施設から鎮守府本部まで別館の廊下を進んできていたのだろう。

 

そうやって自衛官に案内されているうちに俺達は艦娘たちの寮に辿り着いた。

 

「大和さんの部屋はここになります」

 

鎮守府別館の三階の“206号”と書かれたプレートのある部屋の鍵を自衛官が開けるとその中へと通された。

 

「うわぁ・・・」

 

その部屋の中を見た俺は思わず声が漏れた。

 

玄関のようなものがあり、左の方に進めば部屋の全容が分かった。

ベッドや机などの家具あるが、左の方にはキッチンもあってその装備の充実はただの寮ではありえないくらいだった。

この部屋は10畳以上かまたは15畳近くはあるだろう。

トイレや風呂も二つに分かれており、風呂場も脱衣所付きで非常に豪華だ。

 

「え?

艦娘ってみんなこんなに広い部屋を使っているんですか?」

 

「はい。

国家でも有数の貴重な存在ですからこうして周囲の環境は完備されています」

 

どうやら随分と恵まれた職場で働けるみたいだ。

 

この部屋まで案内してくれた自衛官の方が部屋を去ると俺はベッドの縁に腰を下ろした。

 

部屋のキッチンの向かいには部屋でも特に大きな窓がある。

バルコニーも見える窓からは海の向こうの北の空にぼんやりと夜の空に輝く夜景がよく見えた。

 

考えてみれば随分と遠くまで来たという風な思いに捉われた。

最初は何も分からず大海原に佇んていたが、ここに至るまでに艦娘や深海棲艦の存在を知って、そして横須賀鎮守府にまでやってきた。

 

日本近海にはびこる深海棲艦を退治する艦娘として横須賀鎮守府に居場所を得たことでようやく一息つけた気がする。

 

今日一日の疲労もあって俺はベッドに倒れ込んでそのまま目を瞑った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

扉から聞こえるノック音で目が覚めてそのままベッドから起き上がった。

 

時計を確かめると俺が寝てから1時間も経っていないみたいだ。

しかし、やけに空腹感が募る。

 

・・・そういえば提督が夕食の時間になったら人が迎えにやってくるって言ってたっけ。

 

少し寝ぼけた目をこすりながらドアの近くまで行く。

 

ドアを開けるとそこには短い茶髪で巫女服のようなものを着ている女性がいた。

 

「あなたが大和ですか。

提督からはあなたを食堂まで案内するようにと言われました」

 

「あなたは?」

 

「伊勢型戦艦2番艦日向。

所属はあなたと同じ第三艦隊です」

 

それを言うと言うべきことは言い終えたとばかりにドアから離れて自分についてくるように促してくる。

 

第三艦隊か・・・

ということは俺の先輩みたいなものなんだろな。

 

そんなことを考えながらもまるで言われたことしかやりませんといった風な日向について行く。

 

部屋はまるでホテルのように閉めれば自動で鍵がかかってしまうタイプのようで随分と楽が出来る。

鍵はカードキーとかじゃなくて普通の鍵なのだが。

 

「第三艦隊ってことは私が所属するところみたいですけど・・・」

 

「そうですね。

提督からもそう聞いています」

 

・・・大丈夫なんだろうか。

第三艦隊に所属している彼女とは今後は一緒になるみたいだけど、彼女は少し関わりづらいところがある。

 

俺は今後一緒になるだろう第三艦隊のメンバーについて少し不安になる。

 

俺達はこの別館の中にあるエレベーターを使って一階まで下りて食堂へと向かっていく。

 

自動ドアを開けて、まるで大学にあるような広い食堂に入るとそこにはさっきまで一緒にいた第一艦隊の艦娘たちも含めて20人いないくらいの女性たちがいた。

彼女たちの雰囲気からいわゆるオリジナルの艦娘もそうだが艤装適応者もいるみたいだった。

 

勝手が分からない俺はそのまま日向について行く。

 

受付のようなところにおいてあるおかずやら何やらを取っていく日向を見ている俺に好きなだけ食べてもいいのだと言われて俺も空腹の赴くままに大盛の料理をお盆に置いていく。

どうしてもお盆が小さくて料理は少ししか取ることは出来なかったけど、まあ、後でまた取りに行けばいいか。

 

日向も好きなだけ食べていいと言ったんだから。

 

それに、横にいる日向も俺と同じくらいに大盛の料理を盆の上にのせているしな。

 

「あ、大和だ」

 

二人で料理を持って席を探しているとふと何処からか声が聞こえた。

辺りを見渡すとそこには声をかけてきたらしい睦月と彼女と一緒にいる木曽や響たち第一艦隊の皆がいた。

俺はこの横須賀鎮守府で唯一知っている人たちの元へと向かおうとするが、日向は黙って別の方へと向かっていく。

 

そこにも第一艦隊の皆と同じように固まって夕食を食べている人たちがいた。

 

「ねえ、あの人たちってもしかして・・・」

 

第一艦隊の皆の元に行って声をかけた。

 

「ああ、第三艦隊の人たちだね」

 

「旗艦の日向とさっきまでいたんだろ?

何も聞かなかったのか?」

 

へえ、あの日向って第三艦隊のリーダーなんだ。

 

少し人付き合い悪そうな感じはするけど皆をまとめるという点においては確かに合っているのかもしれないな。

 

「他の人たちは?

第二艦隊っていうのもいるんじゃないか?」

 

「ん?そう言えばあいつらいないな」

 

「何言ってるの木曽ちゃん。

第二艦隊は今地方に出張中だよ」

 

「てことはあいつらいないのか」

 

「ふーん、第二艦隊はいないのか。

なら、他の人たちは?」

 

この第一艦隊と第三艦隊の集まり以外には自衛隊の制服らしい服装をしている人たちが多い。

 

「あの人たちは艤装適応者。

私たちとは違って6人一組の艦隊じゃなくて不定形の二人一組で海上自衛隊の護衛艦と一緒に日本近海のパトロールをしている」

 

そうか、彼女たちが艤装適応者なのか。

自衛隊なのは分かっているけど多くの艦娘を見ていたらなんとなくオリジナルの艦娘とは違った感じがするな。

 

「それより大和も一緒に食べようよ」

 

そう言って睦月が自分の席の隣を指して席に座るようにと促してくる。

 

「いや、今日は遠慮しておく。

第三艦隊のところに話を聞いておきたいから」

 

「そうか、大和は第三艦隊に配属されるんだったね。

わかった。

じゃあ、また今度ね!」

 

俺は、睦月たちに見送られて日向たちがいるところへと向かっていく。

 

「あれ、この人は誰なのじゃ、日向?」

 

最初に俺の姿に気付いたツインテールの彼女が俺が日向の方に向かっていることから日向に尋ねた。

 

それに気付いた他の第三艦隊のみんなも俺のことにようやく気付いたようだった。

 

「今日、第一艦隊が任務中に発見した艦娘。

今度から私たちの第三艦隊に配属されることになった」

 

「へえ、新人か。

吾輩は利根である!

今後よろしく頼むぞ」

 

「大和型、一番艦、大和。

よろしく」

 

ツインテールの彼女、利根と自己紹介をすると周囲の人たちが俺に群がってくる。

 

「へえ、大和なんだ!

良かったね日向、今までよりも火力が増えるんじゃない?」

 

この利根も含めて真面目そうな雰囲気の第三艦隊でも明るいキャラをしている飛龍というらしい艦娘が、やはり“戦艦大和”というのを聞いて興味を持ったのか話をしようと迫ってくる。

 

この第三艦隊には戦艦日向と重巡洋艦利根、正規空母飛龍の他にも重巡洋艦高雄に軽巡洋艦夕張という艦娘がいた。

 

「そうなんだ、私たちと一緒の第三艦隊に入ったんだね。

結構大変だけど一緒に頑張ろう!」

 

夕張のその言葉に対して俺は頷く。

 

「そういえば、こうやってこのメンバーを見てみると随分と火力の高い艦隊になったものじゃな」

 

「そうですね。

私たちは5人だった時から既に他の艦隊よりも随分と火力の高い艦隊でしたからね。

これで大和さんが話で聞くような高火力で非常に厚い装甲をお持ちなら益々火力の高い艦隊になるでしょうね」

 

利根と高雄の話を聞く限りこの第三艦隊は他の艦隊に比べて火力の高い艦隊だというが、まあ、実際にこのメンバーを見る限りだと戦艦も2人になるわけで空母はもちろん駆逐艦の代わりに軽巡と重巡がいるのは確かに火力重視かもしれない。

 

日本において艦娘は、そもそも20人しかいないと言っていたからこの中から六人一組の艦隊を作ろうとするのなら少しくらい偏ってしまうのはどうしようもないことだがこれは偏りすぎな気がするな。

 

それを考えたら第一艦隊は戦艦もいて空母もいて小回りの利く駆逐艦もいてと随分とバランスのいい艦隊だったな。

 

「でも大丈夫でしょ。

日向なら大和がいたっていつも通りに私たちを導いてくれるよ!」

 

夕張のその言葉で第三艦隊の皆も明るい雰囲気になる。

 

さあ、それじゃあ新人の大和の歓迎会だ!とばかりに利根が音頭を取って盛り上がろうとしたところに発した日向のその一言で一気に冷めていってしまった。

 

「提督の命により、明日からこの第三艦隊の旗艦は大和ということになりました」

 

「・・・え?」

 

何でこの横須賀鎮守府に来たばかりの俺なんかが艦隊のリーダーにならなきゃならないんだ?

 

・・・それに、この冷え切ってしまった雰囲気を一体どうすればいいというんだ・・・


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