ラブライブ!カラフル!   作:三河葵

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友「ラブライブ(映画)何回観に行った?」
僕「………8、回くらい?」
友「うわキメぇ!」
僕「ちなみにお前は?」
友「3回」
僕「確かにやばいな」

↑という実際にあった会話。

それにしてもいっぱい食べるずらまるが可愛かったヨハぁ…


彼女が嘆くスクールアイドルという現状

 ――放課後。不思議とスクールアイドルという単語が離れないまま、奏はその時間を迎えていた。ステージで歌って踊る自分……そんな妄想をしたりしなかったりを繰り返すという我ながら珍妙なことをしている内に、正にあっという間の時間が過ぎている。これには彼女自身も驚く程だった。

 

「……単純だなぁわたしって」

 

 これだけの想像をする程だ、最早興味が無いとは言えない。しかし、自分が三年生ゆえにこれからの事情というものを考えざるを得なかった。

 近しいところを言えば受験、部活動等をしていれば当然耳にする「最後の大会」めいた単語……そして卒業。一年間に出来ることはいくらでもある、そう考えながらも三年生という立場にいることが、少しばかりつらくなった。

スクールアイドルの規定というものはよく分からないなりに、彼女は推理する。スクールアイドルがどこまでを指すのか考えた時――恐らく、高校生までが限界。話を聞いた限りでも「大学生」の単語が出なかったところを聞くと、対象の学生は高校生ほど。 ――つまり、どう頑張っても自分には最初で最後のアイドル活動になる。

 

「………」

 

少しだけずるをしよう。なんて考えながら、奏はある場所へと脚を向かわせる。

 

 ―――

 

「どうぞ」

 

 恐る恐るのノックに対して返された落ち着いた声。「生徒会室」の札がかかった扉をスライドさせてから、奏は室内書類整理をしていた女子に声をかける。

 

「やっほ響。なにか手伝う?」

「大丈夫よ。終わったところだから」

 

 なにか資料を作っていたのか、数枚ほどの紙束を整えてから、女子は疲れたように眼鏡を整える。実際疲れていることは「ふうっ」と零した息の重さからも伺えるが、同時に一つの仕事を終えたことから解放感も見て取れた。

 ――青葉(あおば)(ひびき)。明和学院からの生徒会副会長であり、七咲と統合してからも、その手腕を買われてこの役職を継続している。無駄なく整ったセミロングの髪と洒落な雰囲気を感じさせないタイプの眼鏡が、一層に彼女の生真面目さを醸し出していた。一見すれば無口で無愛想とも言えるが、静かで落ち着いた様子は正に凛然と評言出来る程に、彼女は澄んでいた。

 

「で、なにか用?」

 

 ……どこか他人行儀な語調。奏とは同じ統合前からの仲であり、更に言えば音也と奏を合わせた三人での幼馴染み。そういう関係にも関わらず、響の声調は嫌に遠く聞こえる。

 だが、その関係は今に始まったことじゃない。それに負けじと張り合うように、敢えて奏はいつも通りの明るさで振る舞う。

 

「用事、って言うのかちょっとした相談というか…」

「その顔だと相談みたいね。どんな話?」

「…仮にね。仮の話ね。わたしがスクールアイドルになるって言ったら?」

 

 ……部活動や遊ぶ時、ほとんどのことをする時はいつも一緒だった二人。もしもこれで前向きな返事が貰えたなら……奏は仄かに期待するが

 

「へえ、スクールアイドルね。それは意外。するつもりなら応援するわ」

 

 …それは奏の望んだ反応とは違うものだった。非常に素っ気なく、極めて他人行儀。驚きに口を開いていたもの、反応は想定した物から外れることは無かった。それどころか、聞いてから返事までの時間というものは短かった。突拍子も無い話題を切り出したつもりなのに、ほとんど意に介してないようにも見えてしまう。肯定的な意見を言っているが、関心を示すだけでそれ以上の反応は起こらなかった。

 

「成る程、それを考えているってことね。貴方合唱部だったし、運動も得意なんだから悪くないと思うわよ」

「ありがとう。 …ねえ」

「貴方のすることなら応援するわ。 …確かスクールアイドル研究同好会というのがあったわね」

「………」

「発想は悪くないにしても、いかんせん部員が少ないのよね。おまけに部活動としての内容も怪しいし、結果の出せる部とも思いにくいし……」

 

 果たしてわたしはどう思われているのか。こうして力になってくれることもあるが、基本的にはどうしてもあしらわれる部分が強いし、気付けば異様な距離感を保った関係として今も維持されていた。

 親友として並び立っていたことも今はあの時、なにをするにも一緒だった時間は、奏自身の知らない内に冷えたものに変わっていた。

 

 ―――

 

「……はぁ、なんで響と上手くいかなくなったんだろう」

「そもそもなにやらかしたんだ?」

「わたしはなにもしてないよ。一緒に合唱部やって、一緒にバスケ部やって……ケンカなんてしたこと無いよ」

「奏ちゃんがそこまで言うなら本当みたいだね」

 

 用事も済ませてから、奏は黄瀬兄妹と一緒に近くのファストフード店に足を踏み入れていた。静かなところで一人悩ませるほど、なにか沼に足を取られたような気分に陥りかけた為に、半ば助けを求めるように誘ったものだが、二人は快諾したことで今に至る。 …軽音部の活動もあるというのに、なにも言わずに切り上げた辺り、奏の状態を概ねに察していたからに他ならない。

 

「いつからその……距離が空いたの?」

「んー……中学二年…いや三年か。でも上がった頃は本気で嫌われていたんだよね。それこそ一緒にいることも嫌がられてたくらい」

「そんなに?」

「……確かにそんな空気だったな。俺も声かけたことある」

「なんて言ってたの?」

「あまり言いたくないが……明らかにお前の絡む話題は避けていた」

「そう…でも、その頃に比べて相当良くなったではあるんだよね」

「でも最後の一線みたいなものがあると?」

「うん。どうしても、一緒になにかをしたがらないの。応援するだけ」

 

 周囲のがや騒ぎと対比した、ぽつりとした一席。並んだフライドポテトもジュースにも然程そそられなかったが、奏は少し無理にと手を伸ばした。

 

「…俺からも青葉と話をしてみる。なにか分かったら伝えるよ」

「…良いの?」

「無駄に元気なのが取り柄な奴に落ち込まれたら、こっちまでへこむんだよ。それに、俺だってあいつの知り合いだけどな。 ……高校離れてからは初めて会話するけど」

「…ありがとう」

「気色悪いな。いいからさっさと食え」

 

 そっぽ向きながら、音也はぶっきらぼうに言葉を投げる。隣ではゆかりからの冷やかしの視線を放られるが、こんなことは茶飯事だから無視…といかず、軽く睨みつけて退散させる。

 

「ねぇ、本当にしないのぉ?」

「その気は無いわ」

「でも、このメンバーでラブライブに出られるのは最後じゃけえ。わしは」

「…あまり言いたくないけど、わたしはどうしても、今のラブライブに出たいと思えないの」

 

 賑やかを取り戻した矢先に、後ろの席からタイムリーな話が聞こえてくる。 …つい釣られると、三人の女性が険しい顔を向けあっている。奏たちの悩みとは違ったものだが、深刻なものであることは明白だった。

 

「そう? ラブライブは年々盛り上がってるわよねぇ?」

「えぇそうね。ラブライブもスクールアイドルも年々盛り上がってきている。レベルも高くなってきている。 …だけど乗れないの」

「なんで?」

「……スクールアイドル間に囁かれてる優勝の法則を知ってる?」

 

 独特の間延びした語尾の女性は知らないらしく、口元に指を置いて思案している。無論奏と音也も初めて聞くものだが、ゆかりは思い出したようにあっ口を開く。

 …少しばかり呆れたような表情を浮かべながら、女性は答えを口にする。

 

「……メンバーは9人であることが理想。ハーフ、またはクォーターがいると尚良い。 …だって」

「それって……」

「雑誌とかで見る度に異様な気分になるの。みんながみんなμ’sに憧れ、μ’sになろうとしている。 …勿論、違うところもあるかもしれないけど、暗黙でその法則が噂されている。そのお陰でスクールアイドルの行きつく先が一つ二つと絞られてしまったの。 …わたしの言いたいこと、分かる?」

「………スクールアイドルの個性が減っていく?」

「スクールアイドルの定義がはっきりと決まってしまうの。はっきり言えば、μ()()s()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが現状だと思ってるの」

 

 …リーダーと思しき女性の発言とゆかりの答えは、ほぼ重なっていた。界隈に浅学である奏と音也にしても、それが危惧された発言あることも、ひとつの極論だろうとも理解出来ていた。しかし、身に覚えがあるゆかりにとっては表情を落としてしまう流れとなっていた。

 女性は一息を入れるように、ドリンクを口に含む。語調に熱が入っていたが、これをきっかけに少し欠けていた冷静さを取り戻してから話題に戻る。

 

「…別にμ’sがしたことが悪いという訳じゃないの。実際μ’sは後にも先にも起こらないことを成し遂げたし、実際真似することも難しいし、そこに憧れる気持ちも分かる。けど、そこに傾いてるせいでμ’s以降の優勝グループは、一部では「μ’sと比べて地味だよね」なんて意見もあるの。その最たる例がAqoursよ」

「まあ確かにそうだけどぉ…」

「余所は余所、わしらはわしらじゃ。そんなこと」

「そう考える方が少ないのよ。 …だからわたしの意見は、スクールアイドルとしては」

「ちょっと待って下さい!」

 

 奏自身が一番驚いていた。向こうのスクールアイドルに会話に、なぜ自分が割り込んでしまったのか。冷めた言い方だけど、自分とは関係の無いはずなのに、気付けば身体の方が勝手に動いていたのだった。

 奏の次に驚いていたのが、後ろで話していた三人の女性。スクールアイドルという話をしていた以上、当然三人の女子高生。おっとりとした口調と語尾の似合うふわっとした髪の娘、時折出る広島弁が特徴的な娘、そして二人と違った落ち着いた佇まい。彼女こそ大まかな発言の主――リーダーと思しき人物だろう。意外と分かりやすいなと感心したのも一瞬だけ、奏は目を点にしたままの相手に碌な知識も無いまま否定に回る。

 

「事情は分からないですけど、なにもしないうちにしないのは違うと思います」

「止せって奏……すみません。」

「あ、この人たちって……奏ちゃん」

「待って、もう少しだけ言わせて」

「向こうには向こうの事情ってのが」

「向こうの事情…ということは、話を聞いてた?」

「あ、はい…」

 

 僅かなやり取りから感付かれ、奏は「うっ」と肩を竦ませてしまう。

 

「…今のラブライブというのはね、以前と状況が違うの。良いスクールアイドルが評価されるんじゃないの。μ’sに近いスクールアイドルが評価される。それが今の世間なの。そこでわたしたちが出場したところで」

「スクールアイドルが嫌いなんですか?」

 

「え?」不意な問いかけに対して、彼女は言葉を詰まらせる。ある種単純明快な質問、だからこそ核心に近いところへと触れられる。

 

「…好きに決まってるわ。アイドル、これほど楽しい世界に出会ってしまうと、続けたくもなるわ」

「じゃあやりましょうよ! スクールアイドルって期間は限られてますし、参加もしないであれだこれだって言っても、なにも変わりませんよ! 好きなのにしなかったら、ずっと後悔すると思います!」

「………………………」

 

 怒号とはまったく違う、それは正に声援と同じ背中を押す言葉。引き止める奏の言葉から、不思議と力を感じた彼女は……例えばひとつの作品を終えた後の圧倒された感覚に覆われていた。

 それと同時に、脳内に張り付いていた鉛の塗装が溶け落ちる音がした。

 

「ふっ――――あっはははははは!」

「唯さん?」

「どうしたけぇの!?」

「ふふふ、そうね。なにもしていないのに愚痴を言うだけ言って逃げるなんて……目が覚めたわ」

「唯先輩…?」

「ありがとうね。わたし、スクールアイドルをするわ。愛、葉。これ食べたら戻りましょう。話をしなくちゃ」

「……っ!」

「おぉおおおぉ! 誰か知らないけどありがとう!」

「い、いやいやそんな大それたことは……」

 

 広島弁の女性に握られた手をぶんぶんと振られ当惑するが、奏には悪い気分はしなかった。正直細かい事情は良く分かってないけど、彼女たちが笑顔になれたことに対して素直に嬉しい。

 残り少なかったポテトを食べ終え、三人はテーブルを立つ。その顔にはさっきまでの険しさは無く、むしろ穏やかなものになっていた。

 

「さて、突然言ったらどうなるかしら」

「困るのは間違いないだろうねぇ」

「それはそうじゃけえのう」

「……迷惑かけてごめんね」

「良いんだよぉ~始めてくれるからぁ」

「わしらは良いけど向こうがかなぁ…」

「分かってくれるわよ。元はラブライブを優先しないのかって話も出ていたし、この際甘えるわよ」

 

 ゆかり以外が首を傾げる会話をする中、リーダーと思しき彼女は奏に向き直る。

 

「…あなたもスクールアイドルを?」

「あ、いえ…恥ずかしながら考え中と言いますか…」

「個人的には、あなたが参加してくれると嬉しいわ」

「そ、そうですかね」

「そうなの。 …ん、確かその制服、最近統合した七咲学園ね。機会があれば顔を出させてね。それじゃあまた」

「は、はいまた~…」

 

 我ながら情けない返事をしたなと思いつつも、ひらひらと手を振ることを忘れない。奏は、なんとなしに打ち解けれた三人を笑顔で見送る。

 

「どうもすみませんお騒がせしました」

「本当にすみませんでした」

「はっ!?」

 

 奏たちが盛り上がっている間に、ゆかりと音也は周りへの謝辞にて沈静化を図っていた。

 

 ―――

 

「それにしても、変わった人たちだったねぇ~」

「多分さっきの人だけじゃけえの」

「それでも、あの人たちに感謝しないとね」

 

 帰路、とは違った道を辿っているが、三人は談笑を交わしながら足を鳴らす。時折通り抜ける同年代の少女が彼女たちを眺める中、彼女たちはその視線に対して手を振って応える。

 

「話してて気になったけど、あの人たちってわしらのこと知らなかった?」

「あ、やっぱりぃ?」

「でしょうね。スクールアイドルに詳しくないって言ってもいたし」

「ふふっ、まさか知らない人に諭されるなんてねぇ~」

「知らないからこそ言えたことかもね。 …なんにしても」

 

 凛とした表情だった彼女は二人に振り返る。力の抜けたその笑顔は、感じていた印象とは裏腹に幼く、それこそ子どもが空の向こうの飛行機を指さすような高揚感が溢れていた。

 

「これからが楽しみね」

 

 

 ――

 

 

「と、triple(トリプル) joker(ジョーカー)……」

 

 帰宅後、ゆかりからの強い要望で受け取ったスクールアイドルの情報雑誌を眺めていくうちに、奏はあるページに手を止める。 …なるほどそういうことかと、彼女はその瞬間に理解した。

 triple joker……彼女たちはスクールアイドルではなく、正にプロデビューを約束されたアイドルだった。スクールアイドルでない彼女たちがなぜこの雑誌にいるのか……紹介文を読む限りだと、彼女たちの実力は折り紙つきでラブライブへの出場が叶うとしたら確実に全国を狙えるとも謳われている。まさかとんでもない人に偉そうにしていたとは…奏は店内でのしでかしを振り返って頭を抱える。

更に読み進めていく内に、あるところに目を止めた。インタビュー記事を見る限りの話ではあるが、確かにスクールアイドルをすることを尋ねられた際に暗に拒否を示す言動が見られている。リーダーだと思っていた彼女――御剣(みつるぎ)(ゆい)の発言の節々が遮られているが、事情を知った今なら、スクールアイドルをしたくない理由を口にすることを避けられていることが明白だった。

 にも関わらず嫌味を感じないのは、おっとりとした女性の姫路(ひめじ)(あい)が放つ朗らかな空気と口調、広島弁の天王寺(てんのうじ)(よう)の明朗快活な部分に寄るところかもしれない。無論、インタビューというものに縁が無い奏にはそこまで想像の限界だった。

 …今後はどうなるんだろう。ここに書いてあるのは当然過去の記事で、考え直すと口にしたのは今日の話だ。ラブライブに参加するとして、その参加表明はどうやってするんだろう? この雑誌? ……どうしても門外漢である奏には、想像を付けようがない。

 

「…あ、天王寺さんってわたしの一つ下なんだ」

 

 なんて知識を覚えてから気が付いた。 ……わたし、やっぱりスクールアイドルに興味があるのかもしれない。言いたいことはあるし、自分の立ち位置も分かっている。けど、自身に湧いた高揚感を説明することは難しかった。その様相は困惑ではなく、むしろ夢中に酔った感覚に近しい心地良いものだった。

 …明日ゆかりともう少し話してみよう。口の端を緩ませることに気付かないまま、奏は自然と雑誌のページをめくる。


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