秘匿日誌 対象艦名:戦艦レ級   作:三河葵
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久しぶりに艦これやったらマップが最初からだったりマップ渡航中BGM変わってたりで本当ビックリしたどん! 艦これ二期ってそういう意味だったんですね! まだまだ気付いていない変化ありそうで楽しみですな!(超今更)


処遇監察

 

 ―――

 

「…来たか。入ってくれ」

 

そろそろ陽が沈みかけてきた夕刻時。時計の短針が真下を指した頃に提督執務室にノックの音が響く。あの話の後で呼び出したのは一人だけ、時間通り。どうやら彼女は軽い調子と裏腹に真面目な部分もあるようだ。そう理解しながら提督はノックの主を迎え入れる。

 

「オウ提督!」

「元気そうだな。調子はどうだ?」

「オ陰デコノ通リサ!」

「それはなにより」

 

 見た限りではあるが、レ級の言う通り、ふらつきや変わった様子も見られない。入渠に加えて高速修復も施工したことを鑑みても、支障が残った様子が無いのは奇跡的かもしれない。

 

「……むっ」

「ドウシタ?」

「頭の傷、塞がってないのか」

「アアコレカ。摩耶ガ言ウニハ、傷ガ古カッタカラジャナイカッテ」

「傷が古い、か……それもあり得るな」

 

 中破以上した艦娘を放置しての入渠なんて彼には経験が無いし、そんな報告というのも無い以上、初めての事例に他ならなかった。時間も大分経過しているのか、大分塞がっているにしても、切り傷のような、明らかな怪我の痕ははっきりと残っている。

…元よりレ級は、気が付けば浜辺に打ち上げられているところを発見されている。それを考えると、覆った肌にいくつかの傷がまだあるのかもしれない。並みの艦娘で無くても生存は怪しい程の傷だろうに…提督はなんとなしに溜め息を吐く。

 

「っと、そうだレ級。お前を呼んだのは理由があってな」

「ナンダ?」

「明日のヒトサンマルマルに、お前の演習を行う」

「演習…? イキナリジャナイカ」

「まあ最後まで聞いてくれ」

 

 …ここからが本題。レ級がどの程度の知識や知能があるかも把握出来ていないが、こちらの尻尾を掴まれることは避けたい。提督は思索を巡らせながら、レ級との談合を開始する。

 

「演習なんて言い方をしたが、単純な身体慣らしというか、だたの身体機能の状態把握だ」

「ダカラ、アタシハ別ニナントモ」

「少なくとも、こっちから見たお前は漂流してきたんだ。今日時点で発見したことを考えれば、前に戦闘したのがいつか分からず、それどころかお前の練度すらも分からない」

「…ナルホド。ソレナラオ互イ状態ヲ理解シナイトダナ」

「そういうことだ。急な話で済まないな」

 

 記憶の無い状況というのが働いたこともあり、話はどうにか無難に治まる。内心で安堵の息を吐く一方、話の意図を理解出来ている。つまり、レ級は快活で能天気な半面、頭も回ると来ている。下手を踏めば勘付かれるやもしれない。不安もあるが、こちらに好意的であり、装備も持たない以上は敵では無い。一先ずに安心を得て心穏やかに構える。

 

「でだが、明日は砲戦を想定した演習とするが」

「砲戦…? ()()()()()()

「それだけ?」

「自慢ジャナイガ、アタシハ雷撃モ航空戦モ出来ルンダゾ」

 

 否定しながらもふふんと胸を張るレ級。確かに記録上、戦艦レ級は砲撃のみにならず、雷撃や航空戦力の使用も確認されている。記憶が無いと言っていたが何故それを…? 提督は疑問に思わざるを得なかった。

 

「…覚えているのか?」

「ソウヤッテ闘ッテタッテダケ。ナニト戦ッテタノカハ覚エテナイケド」

「そうか……」

 

 自分を艦娘と思っている辺りある程度の戦闘能力があるだろうと予想していたが、まさかレ級が自身の性能を把握しているまでは思わず、提督は少し狼狽を示してしまう。

 

「? ナンデ変ナ顔シテルンダ?」

 

 提督にしてみればそうもなる事態に近付いていた。敢えて悪く考えれば、装備を増やすことでレ級自体の戦力が増強されることは、艦娘への被害も倍以上に増えるということに繋がる。今穏やかな内にその案は却下したいところだ、そう踏んで提督は口を開く。

 

「……病み上がりなんだ、そう慌てる事も無い。追い追い慎重にやっていくつもりだ。なにを慌てている?」

「ソッチコソ、ナンデソンナ顔シテルンダ?」

「そんな顔?」

「……ココニ来テカラソウダガ、ホトンドノ奴ガアタシト変ニ関ワリタガラナイ。アンタモソンナ顔シテル」

 

 温和で快活だった表情が次第に曇り、上がっていた口角すらも下がっている。レ級のその顔は正に、不快感を前面に出した疑念に滲んでいた。

 ……レ級のその物言いは、一日中感じていたからか声音にも陰りが現れている。気付かない程に能天気ということでも無いということらしい。提督はここで、レ級に対する自身の偏見や印象を改める。

 

「……そうか、それは悪かった。それに関しては言い訳しか無いが聞いてほしい」

 

 だが、ここで主導権を渡されたらまずいことになる。あくまで自分の主体で事を運びたいと提督は、前のめりにしていた姿勢を正してレ級と目線を並べる。

 

「…レ級、お前は気が付いたら浜辺にいた。そうだな?」

「アァ」

「言い方は悪くなるが、どこから来たのか分からないレ級のことをどう接したら良いのか分からない。それが本音だ」

 

 ……嘘は言ってはいない。流れ着いれたはぐれ者をおいそれに「仲間」と呼ぶことは難しい。人柄や性分がどうあれ、出会って日が浅いだけに信頼というものは未だに薄い。

 そも気取られている以上隠しても仕方ない。レ級の状況確認を兼ねて、提督は努めて冷静に発する。

 

「…要ハ余所者ダカラ信用出来ナイ、テカ?」

「……………」

 

 肯定を意する沈黙。ここまで核心を突かれた以上、誤魔化しは返って怒りを買うことは分かっているから、提督はなにも言わない。

 これでどんな反応をするのか……? やはり怒るか? どう怒るかも予想がつかないだけに、提督も然る対応の為に机の引き出しを開ける用意をするが、

 

「……ソレハ済マナカッタ」

「なに?」

「冷静ジャナカッタ。アタシガ同ジ立場デモ、簡単ニ信用ハ出来ナイ。何処ノ所属カ自分デモ言エナイ艦娘ガ、不審ニ思ワレルノモ仕方無イ事ダ」

 

 提督は目を丸くした。率直に、驚きを隠せずにいた。

 どこか好戦的とも思っていたが、その実冷静で沈着、状況の分析まで正確に行えると来た。部下として見るならこれだけでも有用極まりないのは明白だが、まさか自分の立場を分析まで出来ているとは、想定外に提督は呆然と見つめる。

 これだけ合理的に分析出来ているのなら、自分のこれからというのも或いは予想しているのかもしれない。レ級は申し訳無さそうにしながらも、その瞳は強い光が瞬く。 ……無機質な瞳。本来なら空虚で仄暗い――それこそ、海の底を思わせるような光の無い瞳。そこに不気味さがあるもの、意志を宿した光が宿っている。

 目は口ほどに物を言う。が、この戦艦レ級はどちらも達者。

 

「ソレナラ、明日ノ演習デ一先ズ示シテヤルサ。アタシガココノ味方ダッテ所ヲナ」

 誰かへの呪いを吐く事も無く、況してや弱音の類も見せず、言い切る。

 …提案した提督の方がバツが悪そうに表情が陰ってしまうもの、それは帽子を目深にかぶり直してから上手く隠す。上手い具合にレ級も「フム」と頷いていたこともあり、気取られることすらも無く、一連は自然に流れた。

 

「…そうだな。まずは信頼を得るところから始めなくちゃな」

「ソノ後デアタシノ処遇ハ決マル、トイウ事カ」

「そうなるな……さて、後の細かい事だが」

「クギギ、提督ハ優シイッテ言ワレナイカ?」

「その類なら言われるな。どうしてだ?」

「ソノ気ニナレバ、上官命令ト説キ伏セル事モ出来タダロウニサ」

 

 結果論になるが、提督自身にその考えはあった。少なからず、「艦娘」が相手じゃない以上行使すること視野にあったが、可能性の話をすればする気というのはあまり無かった。理由のひとつがレ級も言ったように、根がお人好しであるという部分。もう一つは

 

「…無駄に強権振って、意志を奪うことをあまりしたくない」

 

 …つまるところ、やはりお人好しに尽きる。

 

「クク、クギャギャギャ! アンタ最高ダヨ!」

「茶化さないでくれ…でだ、演習を行うことについてだが…異論はあるか?」

「本当ニ砲戦ダケカ?」

「そうだな……お前がどうしても気になるなら、雷撃も航空機の使用も許可しよう」

「本当カ!」

「ただし、お前がなんと言おうと病み上がりには変わらないんだ。内容は抑えたものにする」

「分カッテルッテ」

 

 にかっ、と快活な笑顔が再び浮かぶ。笑顔に対しても少なからず慄く節はあるが、それがまさか味方として向けられるとは……複雑ながらも提督は微かに口角を上げながら、細かな演習を内容を伝えていく。

 

 ―――

 

「……ということだ大淀。申し訳無い」

『本っ当にお人好しなんですから。 …一つ間違えば、友軍はおろかこの鎮守府への打撃も有り得るんですよ?』

 

 レ級とのやり取りが終えて十分後。入る気配が無いことを確認してから、この部屋のやり取りを通信室から傍受していた大淀と黒電話を繋ぐ。予定外の流れで主砲以外の使用も許可することになったので、軟化した態度にしても部下からのお叱りは当然ある。

 

「…それについては本当に済まない。 ……信じてくれないかもしれないが、あれは本気だったんだ」

『本気?』

「あぁ。本気で俺たちを味方だと思っている。少なくとも、俺を信用していた」

『裏の様な物は感じませんでしたか?』

「驚く程にな。敵意も邪気も無い。大淀から聞いて、レ級はどうだ?」

『私見で言えばですが―――信頼に足るかと』

 電話越しの向こうで、大淀は軽い調子で笑みを零す。

 

 ―――

 

 

「オォ! ココハ凄イナ!」

 

 記憶の無いレ級にとっては、その光景はひどく新鮮なものだろう。

 時間は既に黄昏時。七時という日も暮れ始めている時間ながらも、食堂内の雰囲気は艦娘の声と笑顔で賑やかに溢れていた。

 

「エエット……オォ天龍!」

「レ級か。提督の話はどうだった?」

「アア、ドウナルカト思ッタガ、纏マッタヨ。明日ハ身体慣ラシニ演習ダトサ」

「そうか。やる気があるのは良いが、怪我治ったばかりで動けるのか?」

「ソノ確認モ兼ネテルカラ問題無イサ。ヤバイト感ジタラスグ止メルサ」

「聞いたからな」

 

 流石に見知った相手、天龍となれば口も自然と軽くなる。レ級が演習を行うことは既に周知となっている事で緊張の必要もなく構えられるが、それにしてもと天龍は笑う。まさか敵として認知していた相手と仲良く談笑とは夢にも思わなんだ。記憶喪失が招いたこの状況にしても、珍妙な出来事に違い無い。こちらを味方と認識している以上、天龍は相手を無下にすることは無い。

 

「天龍さん!」

「ここにいたのね!」

「オ前タチハ確カ……」

「電と雷だ」

「改めてよろしくなのです!」

「よろしくね!」

「…ん? 暁はどうした?」

「連れて来た」

「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね響!?」

「暁は見た目で判断しすぎる」

 

 旗の立った食事を両手にした暁を連れながら、銀の髪を揺らす2番艦の妹・響は静かに雷の隣に座る。

 響…否、厳密に言えば二段回改装――通称改二を施したことで名前自体も変わっているが、外見や記憶に変化が訪れた、ということも無い為に姉妹からは変わらず響の名前で通っている。

 

「初メテ見タ顔ダナ」

「ひび…Верныйだ」

「ベー……ナンダッテ?」

「ヴェールヌイだ。信頼できると言う意味なんだ」

「信頼……良イ名前ダナ! 宜シク!」

「よ、宜しく…」

 

 さしものヴェールヌイにしても、レ級の距離感の詰め方というもには戸惑いがあった。

 実のところ、雷や電の話で聞いた以上の情報しか持ち合わせることしか出来ず、納得に欠ける部分もある。それがヴェールヌイの真意であったが、実際言葉を交わしてみるとなんのことはない、無邪気で敵意が無い。二段階改装を行うまでの練度を誇る彼女なりの経験則や受けた感覚は……天龍と同じ結論に至らせた。

 

「…うん、天龍さんの言う通りだ」

「だろ?」

「ナニガダヨ」

「言うなよヴェル。こいつの恰好がつかん」

「ナンダヨソレ」

「内緒だ。ってお前、ご飯は注文したか?」

「アッ。ソレハ駄目カ?」

「こ、これは暁のなんだから!」

 

 反射的に暁は夕食を載せたトレイを手前に引く。勢いの強さから汁を零しそうになるもの、幸いにも波立たせた程度で事は済まされる。

 暁は冷静になってから、レ級の行為を拒否したという行為に緊張を覚える。駆逐艦たちとの仲が良好とは言え、「全ての」という話に至らないのが現状。そも人相や風貌からも自分たち違うことは明確だ。自分たちとは違う敵がどう反応するのか。暗夜の寝覚め以上の恐怖と向かい合い、心臓は早鐘を打っている。それは最早、警鐘とも言える色を前面に出している。

 

「怖ガルナッテ。冗談ダッテノ」

 

 脳内で自身の最悪の未来を巡らせて二秒程。暁の想像とは真逆の対応が返ってきた。「クキキ」と口角を歪ませながら、レ級はなぜか隣に座る電の頭をぽんぽんと軽く叩く。その加減たるや、痛みを与える類等とは遠く、むしろ褒める仕草や意味合い寄りの雰囲気を醸している。

 

「わっ! ビックリしたのです…」

「アア済マナイ。 …シカシ、ドウヤッテ飯ヲ頼メバ良インダ?」

「通りで手持ち無沙汰な訳だ…」

「はい、どうぞ」

 

 天龍が呆れて溜め息を吐いた直後に、柔らかな声調が入り込む。レ級の前には白米と味噌汁に加え、かき揚げの載った定食セットがことんと優雅に置かれたことで、レ級は思わずトレイを差し出した主に目を向ける。

 「口に合えば良いのですが」抑えた語調に比例してお淑やかに佇む彼女、鳳翔はレ級に対して穏やかに笑みを返す。当然ながら初対面同士。レ級が首を傾げるのも当然の反応だろう。

 

「あ、突然すみません。私は航空母艦の鳳翔と言います」

「鳳翔、ネ。宜シク!」

「宜しくお願いしますね。あ、やっぱり注文の仕方が分からないみたいでしたので、勝手ながらこちらで用意しましたけど」

「良イッテ、ムシロ助カッタ!」

 

 第六駆逐に限らず天龍が目を点にするのも無理は無い光景だ。重ねて説明すると、レ級と鳳翔はここで初対面。にも関わらず、二人は肩を組み交わせそうな勢いで言葉を向けあう。鳳翔が中立派であるにしても、基本的に寛容な性分なだけに余程の事をしない限りは睨まれることすら無い。

 

「……オイ、ソレッテ」

「あ、よく考えたら今日来たばかりだから知らないですよ。これは戦いによる痕です」

 

 談笑していたのも束の間、鳳翔の異様な体勢が気になっていたレ級はその違和感を目で追う。 …左脇に挟まれた木製のものが松葉杖と気付き、次第に目線を落としたことで、()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()

 

「…過去に敵の魚雷が直撃しまして。それからは戦線を退いて、こうして食事処の主として精を出している、と言ったところですね」

「………呑気シテ悪カッタ」

「いえ良いんです。こちらこそ気を遣わせてすみません。普段なら義足なのですが、何分調整していたので」

「気にするな、なんて言っても難しいかもしれんがお前は普通に飯を食ってくれ。それだけでも鳳翔さんが元気になれる」

「流石天龍さん、分かっていますね」

「茶化さないで下さいって!」

 

 身体の一部を失うという損失――艦娘という存在なら殊更深い意味を持つ差し引きを、彼女は笑顔を以って発する。戦う為の存在たる艦娘が戦力として機能しないどころか、食事の提供という一市井の場に身を置いている。極論ではあるが、それは提督にも出来ることだ。戦いと関係の無い場所で戦う人間と過ごしている事に、レ級は更に首を傾げざるを得なかった。

 

「…レ級さん。私がここにいることが不思議ですか?」

「エ、アア」

「単純な理由です。食事というのは人の士気に関わります。美味しいものを食べた後は気分が良くなる。そして腹が減っては戦が出来ない、という言葉もあるように万全に備える身支度の一つを快く差し出したいのです。それだけでも、戦地に赴く心の在り方は変われると思いません?」

「確カニ…」

「とは言いましたけど、ここにいるみなさんが好きだから一緒にいたい、というのが本音ですけどね」

 

「ふふっ」落ち着いた風貌と欠損した脚。不釣り合いな状態にも関わらず、鳳翔は温和に破顔する。

 

「レ級さん。提督から伺っていると思いますが、知らない場所から来た貴方に心開けない方もいらっしゃいます。ですが、レ級さんがみなさんの事を仲間として接してくれるのなら、私たちはいつでも受け入れるつもりですからね?」

 

 その言葉にどれ程の意味が込められているのだろうか。場にいる中、正確な理解が出来ていないのはレ級だけにしても、自分たちが思っている以上の想いが込められている。天龍と第六駆逐たちはそこまでの思案にしか至れない。だが、変わらず笑顔の鳳翔を見るに対して

 

「当タリ前ジャナイカ。アタシタチハ同じ艦娘、仲間ダロ?」

 

 実に即答。レ級も変わらずニッと笑う。

 

「…そうですね。話し込んでしまいましたね、食事の邪魔をしてしまってすみません」

「コッチハ良イッテ。ナア?」

「お前以外みんな食べ終えてるぞ」

「暁がまだよ」

「レディは食事を味わうものなの!」

「ヨーシ、アタシト競争ダ!」

「あ、おい待てレ級!」

 

 天龍がレ級を止めようとした理由は三つある。結果を言えば一つに行き着くが、四つの悪因を一瞬で行ったことで横合いを強める。

 一つ。白米とかき揚げを手で掴んだこと。

 二つ。口を開けて咀嚼したこと。

 三つ。食べ物を通して遊んだ事。

 四つ。「いただきます」という食事前の一言

 極めて残念なことに、それらの行為を調理した鳳翔本人の目の前で行為してしまっている。 …天龍は食べる前に止めようとした。その事自体は咎められる理由にならないし、むしろ賛辞を投げられるべきだろう。

 「………」色合いこそ変わっているが、尚も鳳翔は笑っている。だが、仲間として見慣れた天龍と第六駆逐の面々には恐々とさせている。気付かずにご飯を食べる手を止めないレ級以外は知っているのだ。

 

「――レ級さん」

「オウ鳳翔、コレ美味シイ……カ、顔、ドウシタ…?」

「どうやら食事の作法が全くなっていないようなので、食べ終わったら厨房に来てくれます?」

「ア、 アア…」

「待っていますね……では私は、自分の仕事に戻ります…」

 

 鳳翔は怒らせると一番怖い艦娘であると。

 なるほど。剣幕張った鳳翔さん相手なら笑顔も消えるようだ。場に居合わせた彼女たちは図らずも、また一つレ級の情報を得ることになった

 

 ―――

 

「本当に良いの~?」

「まあなんだ。俺も監督してないとだからな」

 

 時間は夜の十時。現状と先行きを鑑みてレ級の寝床は独房となっていたが、天龍が同室することを志願したことで、狭い部屋に二人分の布団が用意されている。レ級自身も不満が無い訳じゃない。しかし、自分自身ですら何者かも曖昧である以上、止むなく首肯せざるを得なかったもの、心細さは一層に感じなくなっていた。無論天龍を止める意見は多くあったもの、本人の頑なな態度が変わらない為に渋々の了解、というのが真相ではあるが。

 同室の艦娘であり天龍の妹に属する2番艦、龍田の間延びした語調は崩れない。むしろ応援するように、「真面目ね~」と枕を手渡す。

 

「…龍田。お前は反対してないのか?」

「なにを?」

「レ級の在中だよ」

「…天龍ちゃんって考えている割に、単純で感情的で行動的でしょ~?」

「俺馬鹿にされてねーよな?」

「けどね、勘の様なものは冴えてるの。だから私、天龍ちゃんの直感を信じてるということ~」

「龍田…」

「でもなにかあったら始末書お願いね~」

「龍田あぁっ!!」

 

 それだけを言い残して、龍田は手を振る。

背を見せて自室に戻る龍田に申し訳無さを感じるが、折角笑顔で了承したのだ。ならばと天龍も軽く手を振る。

 

「……ツッカレタ」

「だろうな。 …ていうか鳳翔さんからなにされたんだ?」

「飯ヲ食ベル時ノ作法ノ勉強ヲ……二時間ホド…」

「そ、そうか……」

 

 その疲労具合はレ級の挙動からも伝わるだろう。大の字に仰向けになったりうつ伏せになったりと、二人分の布団を転がって行き交うほどの乱雑を見せているとなれば、当然敷かれた天龍の布団に皺が入るのも自然とも言える。

 

「レ級お前俺の布団を!」

「フハー…ジャネ! 悪イ!」

「いやいいけどさ…寝れれば良いんだし」

「マアソウダケドサ」

「ちなみにだが、明日からは鳳翔さんに怒られないだろうな?」

「箸ノ使イ方マデ覚エタカラ大丈夫ダ。 …多分」

「不安になるだろうが! ああもう、明日一緒に食うぞ!」

「オウ頼ンダ!」

 

 我ながら不思議だと思えることに、天龍にはもう「クギャギャ」という笑い声に然したる恐怖心は持たなくなっていた。ただ楽しいから、ただ面白いから笑ってる。随分見てくれが違うだけで反応は同じ。レ級にとっては結局「ただ笑ってる」だけの反応。

 

「…? ドウシタ?」

「いや別に。さ、今日は寝るぞ。今日はあって色々疲れたろ」

「ダナ。 …天龍、今日ハアリガトウナ」

「…気にするなっての。電気消すぞ」

 

 こうも素直に感謝されては返って反応に困る。天龍は目を逸らしながらも、頬を指先でなぞって誤魔化す。

独房とは言え最低限のものだけは揃っている。少し色の薄い電球の光に対してふむっと頷いてから、天龍はパチッとスイッチを押す。代わりに部屋の中を薄く照らすのは淡い月の光。幕よりも軽やかに照らしていることから阻害にもならず、むしろ風情と感じるほどに整った綺麗さを醸していた。

……そうして訪れた静寂。騒がしかったレ級が静かになることもあるのかと奇妙な驚きはあったもの、冷静に考えが及ぶ。なによりこの状況に振り回されているのはレ級自身だ。記憶喪失は嘘、彼女は敵。ここに来て一日なのだ、その意見が無い方がおかしいだろう。けど、天龍の直感は変わらない。レ級は味方だ。波の音すら遠いこの場所、加えて艦娘のいる宿舎からも離れていると来た。そこで自分を嬲ろうと思えばいくらでも出来る。だが、レ級からその意思も気配も無い。感謝までされる程だ。信頼を得る為に振りをしている線が無いのか聞かれれば、無いという答えは嘘になる。だがそんな理屈以上の感覚が天龍に根付いていた。

 …考えても仕方ない。どうあれ明日の演習で腹の下を探れる。天龍は被った布団を整え直してから、意識を沈ませていく――




毎度投稿の度に誤字修正の報告が来ています。連絡してくれている読者の方本当にありがとうございますm(__)mフカブカ


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