鎌の勇者(仮)は殺人鬼【凍結】   作:聖奈

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※投稿頻度は長期休暇が終わったので元に戻ります


三十五話 フィーロと戯れる

翌朝。

 

「…どうなってんだ。全然上がってないぞ、攻撃以外のステータスは上がっているが…」

 

「ここまで来ると可哀想ね…冗談抜きで」

 

尚文は汗を拭いながら顔をしかめて吐き捨てる。フィーロの様子を見に行く前に尚文は先に起きていたミーシャに筋トレを手伝ってもらっていた。

 

回数はラフタリアやミーシャがやっているよりは少ないが結果は出ていた。尚文はあまり運動をする方では無かったので大変だったが、ステータス画面を見て上がったHPの最大値や防御力、SP等のステータスを眺めていき達成感を味わっていた。

 

しかし、攻撃力は以前と全く変わっていなかった。その事実に尚文は絶望したのだ。

 

「笑いを堪えながら言うな。殺すぞ」

 

「いや、本当に可哀想に思ったから♪」

 

「♪を付けるな死ね」

 

「冷たいわねぇ…」

 

「だったら思っても無い事を言うな」

 

部屋を抜け出した際に起こさないように抜け出したので、ラフタリアはまだ寝ている。筋トレも一段落したので、予定通りにフィーロの様子を見に行く事にした。

 

空腹で餓死していないか心配でもあり、やることが無かった。薬草の採取をしていたが、薬の調合は昨日の内に終わっていた。ミーシャに調合を手伝ってもらおうとも考えたが、彼女には尚文と同じような装備ボーナスは無い為、尚文自身が調合した方が品質は良くなるので止めた。

 

「グア!」

 

ミーシャと尚文が雑談をしながら馬小屋に来ると野太い声が聞こえる。見れば、饅頭みたいだった体型が変わって足が長く伸びて首も長くなっていた。二人から見ての印象はダチョウのようだった。

 

二人の知る鳥類とは全く違う成長をしている。高さは尚文の胸位、ミーシャの頭位だ。まだ人を乗せる事は恐らく不可能だ。

 

ぐう

 

「お腹、減ってるみたいね」

 

「ああ。買ってきておいて正解だったな」

 

フィーロのお腹が鳴った。空腹なのだろう。こうなる事は尚文は知っていたので、筋トレ前に牧場からエサを買ってきていた。

少々、金銭の消費が増えていたが装備を買うよりは安い。一日でここまで育った事に二人は驚きを隠せなかった。

 

「お前、まだ生まれて一日経ってないぞ」

 

「グア!」

 

「あっ、ずるい。私も撫でるわ」

 

スリスリと自分に懐くフィーロに尚文は自然と笑みを零す。大きくなったら何をさせるか心が躍っている。

 

そして、またも羽根が生え変わっており、よく見ると白と桜のまだら色になっている。掃除がてらに羽根を武器に吸わせる。

 

魔物使いの盾Ⅲの条件が解放されました。

 

魔物使いの盾Ⅲ

 

能力未解放……装備ボーナス、成長補正(中)

 

 

「血じゃなくても良かったのか。それなら、ラフタリアの髪をもう一度切って吸わせてみるのも良いかも知れない」

 

「怪訝な顔されるんじゃないかしら♪で、匂いでも嗅ぎながら××でもするのかしら?そんなの、ラフタリアドン引きッ♪うふーふふっ…♪」

 

「…俺はお前の頭のおかしさにドン引きしてるがな」

 

髪の話を聞いては何か思い付いたかのようにからかってくるが尚文は相手にせずフィーロを撫でる。

 

 

フィーロはまだ生まれたばかりだが、元気に走りじゃれている。

 

「グア!」

 

「さて、遊ぶか。そーらっ」

 

尚文は木の枝を遠くに投げ、フィーロに拾わせて戻ってくる遊びをする。足は速く、枝が地面に落ちる前より早くキャッチして戻ってきた。

 

「グエ!」

 

「私もやるわ!そーれっ」

 

ミーシャも遊ぶ尚文とフィーロの姿を見ては自分も遊びたくなったのか近くに落ちていた木の枝を拾うと投げた。先程よりも遠くへ飛んでいった枝をフィーロは持ち前のスピードで追いかけてキャッチして戻ってきた。

 

「上出来よ!うふふ、これは期待大ね♪」

 

「そうだな。これからどれだけ稼げるか楽しみだ」

 

二人は爽やかな笑顔を浮かべながらフィーロを撫でた。なお、会話の内容は下衆の模様。

 

「む…ナオフミ様が今まで見せた事の無いさわやかな笑顔をしています」

ラフタリアが起きて尚文とミーシャを探しており、見つけた時の尚文の顔をみては不機嫌そうに呟く。

 

「どうした?」

 

「何でもありません」

 

「ラフタリア、アニマルセラピーを舐めちゃダメよ」

 

「え?あにま…何ですか?それ」

 

「貴女も今に分かるわ」

 

「グア、グア」

 

ラフタリアをくちばしで軽くつつくフィーロ。スキンシップを取っているのだろう。

 

「…しょうがないですね」

 

ラフタリアは笑みを浮かべてフィーロの顔を両手で撫でる。

 

「グアァ……」

 

(つまり、そういう事よ。ラフタリア)

 

フィーロは気持ち良さそうに目を細めて撫でたラフタリアに擦り寄った。

 

「さて、今日はどの辺りを探索しようか」

 

「そうですね…。フィーロのエサ代の節約の為に南の草原に行くのはどうでしょうか?」

 

「…そうだな」

 

「私もそれで良いわ」

 

南の草原には雑草が生い茂っており、薬草類も豊富だ。良い場所だとは尚文は思った。目下の目的は良い装備を揃える金銭なのでベストと言える。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「グア!」

 

「はい!」

 

「ええ」

 

このような感じで気楽に草原へ行って、魔物と戦い、Lvも少し上がった。

 

尚文 Lv.29

 

ラフタリア Lv.31

 

フィーロ Lv.17

 

ミーシャ Lv.54

 

薬草の採取や、フィーロのエサとかを重点的に回っていたので今日の収穫はあまりない。色々と魔物を倒しては盾に吸い込んでいるが、中級調合レシピが出る盾は未だ見つかっていない。

 

その日の夕方。フィーロが立派なフィロリアルに成長した。

 

「早いなぁ…」

 

「デカイわね…」

 

宿屋の店主も牧場主も驚いていた。幾らなんでも早過ぎると。成長補正(小)と(中)が掛かっているからだろう。

 

「ラフタリアを買った時にインクに気付けばな…」

 

「あはは…」

 

「もしかしたら、貴女ももっと大きくなってマッチョになるかも」

 

「…それはちょっと嫌ですね」

 

ミーシャは筋骨隆々のラフタリアを思い浮かべては吹き出しつつ、言う。その発言にラフタリアも自分の筋骨隆々の自分を思い浮かべては引きつった笑みを浮かべる。

 

そして、再び骨が軋む音が響く。成長音だ。

 

「グア!」

 

もう、人を乗せられるくらいに成長したフィーロは尚文の前で座る。

 

「乗せてくれるのか?」

 

「グア!」

 

当たり前だというのかようにフィーロは鳴いて、背中に乗るよう頭を向ける。

 

「じゃあ失礼して」

 

「私も後で乗せてよ?」

 

「グア!」

 

尚文がフィーロに乗り、ミーシャが羨ましそうに言うとフィーロは良いよと言わんばかりに笑顔で頷く。

 

(手綱とか鞍とか付けてないけど大丈夫なのか?だが、乗れと言うのなら乗ってやるか。盾のおかげで頑丈だし。落ちても大丈夫だろう。乗り心地は…羽毛のお陰で悪くない。バランスさえちゃんと取れば問題なさそうだ)

 

「グア!」

 

フィーロは立ち上がる。

 

「うわ!」

 

尚文の視界がかなり高くなる。これがフィロリアルに乗って見える景色なのかと尚文は感心した。乗馬などはしたことが無いので知らなかったので感慨深いとも感じていた。

 

「グアアア!」

 

機嫌よく鳴くとフィーロは走り出した!

 

「お、おい!」

 

「な、ナオフミ様――」

 

「すごく速いわね♪」

 

フィーロの走る速度はとても速く、景色があっという間に後ろに通り過ぎていき、ラフタリアの声が一瞬で遠くなった。フィーロは試したかったのだろう。村を軽く一周すると、馬小屋の前で止まった。

 

そして座って、尚文を降ろした。

 

「大丈夫でしたか!って、いつの間に…」

 

「大丈夫じゃない?一周が終わるのと同時よ」

 

ラフタリアが心配そうに尚文に駆け寄り、ミーシャは既に尚文の隣に立っていた。

 

「あ、ああ。大丈夫だ。しかし速いな…」

 

大して疲れてもいない様子のフィーロは自らの羽の手入れを始めつつ、ミーシャへ乗るように頭を向ける。

 

「次は私の番ね!」

 

「グア!」

 

「さて、今日はこれくらいにして、部屋に戻るか…」

 

ガシっと部屋に戻ろうとした尚文の鎧の襟を誰かが掴む見るとフィーロがくちばしで尚文の襟を掴んでいた。

 

「どうした?」

 

「グアアア!」

 

泣いているような鳴き方で尚文を呼び止める。

 

「ん?」

 

尚文はお構い無しに立ち去ろうとすると、またも掴まれた。

 

「…なんだ」

 

「グアア!」

 

若干地団駄を踏むように不機嫌そうにフィーロは鳴いた。

 

「えっと、遊び足りない?」

 

ラフタリアが尋ねるとフィーロは首を振る。

 

「それなら、ミーシャに遊んで貰えば良いだろ」

 

尚文は少し溜め息を吐きながら顔をしかめる。しかし、フィーロは聞く耳を持たない。

 

「寂しい?」

 

コクリと頷いた。

 

「グアア!」

 

翼を広げてアピールを始める。

 

「とは言ってもな…」

 

尚文は考え込むように顎に指を当てて悩む。馬小屋で寝たくは無いし、大きな魔物を宿の部屋には連れて行けない、どうすればいいのかと。

 

「飽きるまで、ここで相手をしてあげましょうよ」

 

「そうよ。親と友達、どっちとも遊びたい心理じゃないかしら?」

 

「…まあ、良いか。それと、いつからお前はフィーロの友達になったとツッコミたい所だが」

 

「細かい事は良いのよ」

 

フィーロは体こそ大きいが生まれてまだ二日なので一匹、夜に馬小屋で放置するには早過ぎるかと納得して、その日は、ラフタリアと一緒に一緒に遊ぶミーシャとフィーロを見張りながら、この世界の文字の勉強を馬小屋でした。

 

フィーロはミーシャを乗せたまま、外に出て走り出した。

 

「…ほんと楽に文字が読めるようにならないものか」

 

そういう盾があるのなら早く見つかって欲しいと尚文は考える。

 

「またですか…。前もそういう事を言ってたじゃないですか。それに見つからないのですからしょうがないですよ。何でも伝説の盾に頼ってはナオフミ様の為になりません」

 

「……ラフタリア。言うようになったじゃないか」

 

「ええ、ですから一緒に、文字と魔法を覚えましょう」

 

尚文はラフタリアに注意されると尚文は楽ばかりしようとしてもしょうがないかと馬小屋で勉強を続けた。

 

「うふあはははッ!!走れ走れー!迷路の出口に向かってよーッ!!」

 

「グアア!グアア!」

 

(外がうるせえ…)

 

はしゃぐミーシャとフィーロの声が聞こえてきて、尚文は呆れたように溜め息を吐いた。

 

フィーロが満足して戻り眠った後、部屋に戻って尚文は新しく手に入った薬草で薬作りに挑戦した。結果はレシピの解読が出来ていないのでよろしくなかった。

 

 




次回、男の生命 元康、玉砕!!

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