オメガJ召喚   作:二等市民

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開戦!

 

 ──旧アルタラス王国

 

 ル・ブリアスの目抜き通りをパーパルディア皇国の騎士が巡回していた。

 馬上に揺られる一角獣の角を持つ女性騎士が、前を行く獣耳を持つピンクブロンドの小柄な騎士に話しかける。

 

「ショコランさん。ブランさんからのお手紙には……」

「ユーリィが聞きたいのはアラウダのことでしょ? 元気にやってるってさ」

 

 この2人、ショコランはブランの双子の姉(体格的にはブランは歳相応の見た目だが、ショコランは13〜14歳に見えるので見た目は姉妹が逆に見える)で、ユーリィはアラウダと竜騎士養成校の同期の竜騎士である。

 

「負傷して後方に配置換えされた2人が竜騎士として活躍して、前線にとどまった私たちがワイバーンに乗れないのは皮肉ですね」

 

 ユーリィが呟く。

 竜騎士は戦場の花形とはよく言ったもので、逆に言えば竜騎士は戦さ場を離れると持て余し気味となる。

 占領下のアルタラスで必要なのは小回りの効く歩兵や機動力がある軽騎兵で、運用コストの高い竜騎士は20騎ほどしか駐留していない。

 ショコランとユーリィはキャリア構成の観点から警備隊の騎兵に編入されていた。

 

「卑下はよしたまえ、ユーリィ君。地上での経験は必ず役に立つ。我々は誇りを持って職務に励もうではないか────うん?」

 

 ショコランの耳がピコピコと反応し、その顔に厳しい表情を浮かべた。

 

 

 

 

「やめて下さい‼︎ 娘が何をしたというのですか‼︎」

「バカモン、捜査機密だ! 取り調べで嫌疑が晴れれば解放してやる!」

 

 商店の並ぶ通りで、皇国式の制服を着た男が数人、1人の少女を捕らえていた。

 男たちは皇国の臣民統治機構に所属する上等警備兵だ。そのうちの一番年上の警備兵に少女の父親が縋り付く。

 

「し、しかし……理由もなくいきなり逮捕なんて! 若くて美人な女ばかり連れて行くではありませんか!」

「理由は有るが機密である! ……自分の娘を若くて美人とは、親の贔屓目が過ぎやせんか? 少しは謙虚さを学べ。おい、教育してやれ」

 

 警備兵達が父親を警棒で殴りつける。それでも諦めない父親は、滅多打ちされながらも必死に縋り付いていたが、やがて倒れ伏してしまう。

 

「いやぁ‼︎ お父さん‼︎ ──もうやめてぇェッ‼︎」

 

 血塗れにされた父親の姿に泣き叫ぶ娘。

 そこに、ショコランとユーリィが駆け付ける。

 

「やめろ‼︎ 何の真似だ!」

「皇軍の騎士か? 我々は臣民統治機構の警備隊だ。善良な市民を反政府組織の暴虐から守っている」

「皇国の恥だ! うせろウジ虫め!」

 

 事態を察したユーリィが騎兵用の短小銃を警備兵に向けて怒鳴り、ショコランも馬上から冷たい目で見下ろす。

 警棒しか持たされていない警備兵は銃を突きつけられて引き下がるしかない。

 

「くそっ! 覚えてろ貴様ら。報告してやるぞ」

「皇軍第6竜騎士団第8中隊、ユーリィ上等兵だ」

「私はショコラン伍長だ。忘れるなよ、豚のケツ!」

 

 少女は解放され、父親は駆け付けた従軍治癒術師の治療により事なきを得た。

 

 

 この直後、アルタラスに駐留する皇軍と、臣民統治機構の間で小競り合いが発生。重軽傷者多数を出して問題が表面化する。

 この時、シウス将軍はフェン王国へ向かう船上にあり、後任の占領軍司令リージャック中将はル・ブリアスに到着していなかった。臣民統治機構側も責任者であるアルタラス統治庁長官のシュサクがエストシラントにいたため、指揮官と責任者が不在となっていた。

 もともと、血と汗を流して領土を拡大あるいは防衛してきた軍からすると、後から占領地に乗り込んできて好き勝手に振る舞う統治機構は鼻持ちならない存在だったのだ。

 指揮官不在の状況で、皇軍の不満が暴発したこの事件は、すぐさま本国へ伝えられた。

 

 

 

 ──中央暦1640年1月10日

 レミール邸 エストシラント パーパルディア皇国

 

「シウスがアルタラスに居ないだとッ⁉︎」

 

 書斎で軍の開発局からの書類に目を通していたレミールだが、侍女からの報せを聞き書類を投げ出して慌てふためいた。

 

「どこに向かったかわからないのか⁉︎」

「私掠船が、シオス王国の近海で北東へ向かう艦隊を目撃しています。あと5日ほどでフェン王国に到着するかと」

「フェ、フェンか〜」

 

 レミールはホッと息を吐き出した。

 これで「沖縄に向かいました」などと言われていたら、パラディス城に乗り込んでルディアスに直談判するところだった。

 登城禁止の身で皇帝に直談判などしたら追放処分にされるかもしれないが、日本に攻め入るなど裸で神龍に挑むようなものであり、それに比べたらだいぶだいぶマシだ。

 

「フェンか……。フェン……は確か、日本と国交を結んでいるのだったな」

「はい。コナナ商会によりますと、政府間はともかく民間交流は────」

 

 侍女の説明を聞きながらレミールは必死に脳細胞を働かせる。

 

 フェン王国を落とせば、パーパルディア皇国は『日本海』に拠点を得られる。

 日本海軍は高性能な艦を持っているが、その数は200隻乃至300隻で、常時戦闘可能な数は100隻ほどだろう。皇国海軍300隻が自由に行動したならば、壊滅させられる前に日本本土に打撃を与えられるはずだ。

 ──そのような事態をチラつかせて、日本側に譲歩を迫る──

 と、そこまで考えてレミールはハッとした。

 

「逆だ」

「レミール様?」

「戦列艦の分散襲撃は日本国の対応力をこえる……だが、だが! 今、艦隊はフェン王国攻略のために集結している‼︎」

 

 これは罠だ。日本国の仕掛けたものか、神の企てか悪魔の意思か分からないが、皇国の水上戦力と揚陸作戦能力を持つ軍団が一網打尽にされる危機だ。

 

 逆に日本からすると、将来的に衝突する可能性の高い皇国の戦力を削ぐ良い機会だ。ついでにフェン王国に恩を売り、日本の拠点とすることでデュロの部隊に睨みを効かせることができる。

 

「まずいぞ。日本国に介入の口実を与えてしまえば……破滅への道だ」

 

 当然、皇国は躍起になってフェン再侵攻を計画するだろう。そうなれば泥沼になるか、日本の重い腰が上がる。

 トルメスの再現だ。ただし、撃ち倒されるのはゴブリンやオーガではなく、皇国の兵や民となる。

 

 そこまで想像して、レミールはフラフラと立ち上がった。その顔色は酷く悪い。

 

「気分が悪い……戻しそうだ……ウプ」

「レミール様ッ、無理はなさらずお休み下さい!」

 

 レミールは寝込んでしまい、誰にとっても貴重な時間を無駄にした。

 

 

 

 

 ──中央暦1640年1月12日 デュロ東方海域

 

 戦列艦の修理を終え、訓練航海中の皇国監察軍東洋艦隊に特命が下された。

 

「フェンへの宣戦布告文書、ですか」

《そうだ》

 

 通信機器の前に立つポクトアール提督は、奇妙な命令に首を傾げる。

 文明圏外国へ正式に宣戦布告する、だけならまだしも開戦までまだ日があるのだ。これでは奇襲も電撃的な侵攻も出来なくなってしまう。

 

《提督、これはフェン王国へ対する行動ではないのだよ》

「ああ、日本国に対してですか」

《そういうことだ》

 

 事前に、戦争になるから第三国の人間を避難させるように通告し、日本人が戦闘に巻き込まれるのを防ぐのが目的だ。

 

「損な役回りでありますな」

《君の昇進は約束しよう。勲章も》

「年金付きのでお願いします。部下の分も」

 

 

 艦隊の竜母からワイバーンが飛び立ち、フェン王国へと向かう。

 パーパルディア皇国はフェン王国に対し、正式に宣戦布告し、戦争状態となった。

 だが、これはレミールの独断による指示でカイオスが下した命令であり、パーパルディア皇国政府と討滅部隊は『奇襲』を前提としていた。

 

 さらに、フェン王国でも宣戦布告されたという事実は公表されなかった。

 日本国の力を当てにしているフェン王国側が、早期に公表すると日本は人員を引き上げてしまって巻き込めないと考え、握りつぶしていたのだ。

 

 ワイバーンの飛来に気付いた駐フェン大使の島田はフェン王国に問い合わせたが、マグレブの回答は「これまでの対応を謝罪し奴隷をよこせという書簡を持って来ただけです」というものだった。

 

 全てが、空回りしていた。

 

 

 

 

 ──中央暦1640年1月16日 フェン王国 ニシノミヤコ

 

 フェン王国軍は連日慌ただしく移動し、現地にいる日本人も異常を感じ取っていた。

 フェン王国軍の兵は海岸に穴を掘り、城下町に武器を運び込んでいるが、何が起きているのかと尋ねても「訓練です」の一点張りだ。

 

 日本とフェン、パーパルディアを行き来していた佐藤は、この時期にたまたまフェンに居た。

 チャーターした漁船に積み込まれた無線器を操作し、佐藤は斎藤と連絡を取る。

 

「フェンは臨戦態勢です。訓練にしては、休憩時間にしっかり休みすぎています」

《休憩中も自己鍛錬に走る連中がしっかり休むということは、やはり戦争か》

 

 海上自衛隊の試験艦『あすか』が電波中継任務中*1に艦隊を探知しており、幕僚会議ではパーパルディアによるフェンへの本格侵攻と捉えていた。

 

《外務省の馬鹿どもは、まだ武力衝突は起きないと思っているようだ》

「ナンセンスですな。自分たちが皇国を危険だと報告しておいて……」

《だが、馬鹿から外交の主導権を奪う機会だ。最低でも、自衛隊が外交に口を挟めるようにはなる》

「軍人が“戦う外交官”であった時代に逆戻りですか」

《残念ながら、この世界はそういう世界らしい》

 

 

 ──同日 日本国 東京都 首相官邸 総理執務室

 

 自衛隊はフェン王国へ不明艦が接近していることを政府に報告したが、表立った行動は取らないでいる。

 フェン王国に滞在している日本人の安全確保は外務省の管轄であるとして、情報の伝達だけを行なった。

 日本政府の閣僚は慌てた。

 

「現地の事業は経産省の主導だ」

「邦人保護は現地大使館の責務だ!」

「まだ戦争になると決まったわけでは……」

「明らかに侵攻を企図した艦隊だぞ!」

「在留邦人の救出は可能なのか? 事が起きてから計画を練っても遅いぞ」

「またアマノキを襲うのか、それとも港湾都市のニシノミヤコに向かうのか、それが分からないことにはな」

「とにかく現地には退去を命じなければ」

「しかし、フェンから全面的に撤退するのは……」

 

 言ってしまうと、邦人を守るだけなら可能だ。しかし、フェン王国にはすでに少なくない金額を投資しており、建設途中の発電施設など、手放すには惜しい物もある。

 

 

 

 

 ──中央暦1640年1月17日 フェン王国 ニシノミヤコ

 

 未だに『紛争当事国ではないから』という理由で、紛争が起きた場合に居合わせた自国民は保護されると思っている平和ボケした閣僚を他所に、斎藤はオメガに戦闘準備を命じていた。

 オメガチームは隠匿していた武器を手に、渋る工事関係者やその家族をダンプカーの荷台やマイクロバスに押し込める。

 

 ダンプカーの荷台に子供を引っ張り上げていた小松に、女が噛み付く。

 

「ちょっと、鉄板むき出しで汚いし狭いし……こんなところに何時間も座ってろって言うの⁉︎」

「うるせーな、戦場から遠ざかれんだから贅沢言うなよ」

「戦場って、私たちただの一般人よ?」

 

 戦争なんて関係ないとでも言いたげな女に、小松は呆れ顔をする。

 

「一般人だ女子供だって弾が避けて飛ぶわけないだろ。戦闘地域にいたら戦闘参加と一緒だ」

「そんな……」

「分かったらおとなしく運ばれろよ」

 

 荷台から飛び降りた小松に、女が叫ぶ。

 

「ちょっと! あなたはどうするのよ⁉︎」

「決まってるだろ、戦闘に参加するのさ」

 

 水平線の先に、芥子粒のような黒い点が多数見え始めていた。

 

 小松は木立の中に偽装された指揮所に向かい、装具を身に付けながら待機していた平岡たちに話しかける。

 

「パンパース帝国が来たぜ」

「ぱん?」

「小松さん、違いますよ」

「パーパルディア皇国な。パが2つってところしか合ってねぇ」

「ああ、それそれ」

 

 小松も、弾薬や着替えの入ったリュックを用意して背負った。

 

「でもよ、パー……パ皇がここを素通りしてアマノキに行かなくて良かったよな」

「パ皇に一番近いのがここだからな」

 

 大部隊が揚陸するならアマノキかニシノミヤコだろうと分析されていたが、どちらで上陸作戦が行われるにしてももう一方は艦砲射撃や海上封鎖される恐れがあったので、とにかく沿岸部からは退避して夜間にヘリで救出する手筈になっていた。

 しかし、衛星と水上艦艇のレーダーにより全戦力がニシノミヤコに集中していると判明し、海上自衛隊の輸送艦をアマノキに呼んで邦人を保護するというふうに変更されたのだ。

 

「輸送艦か。民間の船でもいいんじゃないか?」

「民間の客船は危ない所に来たがらないだろ」

 

 小松の言葉に江須原が答える。

 

「タンカーや貨物船はロデニウスやムーに振り分けてるし、日本-フェン間のフェリーも、この状況じゃ運航中止だな」

「ムーなんかより近場を、足元を固めろってんだ」

「おいおい、小松の口から足元を固めるなんて言葉が出たぞ。明日は雨が降る」

「おい江須原────‼︎」

 

DOMM! BAOM!

 

ZUZUU…M

 

 砲弾の雨がニシノミヤコの港に、海岸線に降り注ぐ。

 

 将軍シウスは、フェン王国の海岸線を望遠鏡で確認しながら部下の報告を受ける。

 

「偵察騎からの通信によりますと、内陸側にあるニシ城と港地区の詰所にフェンの軍旗が集中しています」

「ニシノミヤコ郊外に大規模な建築物があり、ムーの自動車らしき物がそこから東へ遁走中です」

「ふむ。例のニホンという国の施設か、あるいはムーの施設だな。そこには手を出すな。まずは海岸堡を確保し、市街と城を制圧する」

 

 いくら格下とはいえ、さすがに港に船をつけるのを黙って見てはいないだろう。

 ニシノミヤコには広大な砂浜があり、パーパルディア皇国軍はそちらに小舟で兵を上陸させる。

 

 

「いい天気だ。海水浴日和だな」

「ああ。戦争はこうでなくちゃな」

 

 皇国軍歩兵部隊の分隊長アルマは、上陸用の小舟から余裕の表情で海岸を眺めていた。

 戦列艦の砲撃により敵の拠点は潰され、上空には皇国のワイバーンが飛び、脅威は全く存在しない。

 

「楽な仕事だなぁ」

「なぜそう思う?」

「大隊長殿っ」

 

 気を緩めるアルマに、口髭をはやした上官が尋ねた。

 

「はい、大隊長殿。我が方の砲撃によりフェン王国の水際陣地は壊滅です。マスケットは奴らの剣より遥かに優れた武器ですし……」

「アホぬかせ! 銃砲でカタがつくなら、お前の腰にぶら下げてるサーベルはなんだ? そもそも歩兵が上陸する必要も無いだろう」

 

 大隊長は海岸線を睨みつける。

 

「いいか、奴らの剣法には『後の先』というものがある。待ち構えてるんだ。……奴らはシブといんだ。靴についた犬のクソみたいにな」

 

 

 大隊長はそう言うが、皇軍全体はアルマのように「楽な仕事」だと思っている。

 小舟が砂浜に接岸し、約1千人の銃兵が上陸を開始する。抵抗は見られず、皇軍は少し散開して海岸に降り立った。

 アルマは砂浜のところどころの色が違うことに気づいた。

 

「ん? なんだ?」

 

 不用意に近寄った、その瞬間。

──ZAC!

 

「キィィェェエー!」

 

 雄叫びを上げ、砂の下から剣を構えた兵士が飛び出してくる。その数200人余り。

 

「フェン王国兵‼︎」

「伏兵だ!」

 

 裂帛の気合いと共に振り下ろされる白刃を、アルマは銃で受けた。

 

「ちくしょう、この!」

 

 敵味方が入り乱れる状況。楽に勝てると思っていたアルマの分隊は孤立していた。

 

「誰か! 大隊長、支援を────」

 

 アルマは絶句した。助けを求めて辺りを見回すと、部隊の大半が後退している。

 しっかりと組まれた陣形の奥に、大隊長が眼を冷酷に光らせていた。

 

HUN!

 

「な、げっ、かぁ……っ‼︎」

 

 胴を切り裂かれ、アルマは血飛沫を散らしながら崩れ落ちる。

 

 大隊長は突出していた分隊が全滅すると、なんの障害も無く命令を下した。

 

「射撃用ー意、撃て!」

 

PAPAPAM! PAPAPA!

 

 フェン王国兵は奇襲により多数の皇軍兵士を討ち取ったが、態勢を整えた皇軍の銃撃により全滅。

 皇軍の大隊長はフェン王国兵の潜んでいた穴を検分し、笑みを浮かべた。

 

「こうまで侮り難い敵か!」

 

 意表を突かれ、まだ混乱している部隊に大隊長は発破をかける。

 

「諸君! キツネ狩りの続きをするぞ!」

 

 

 

 ニシ城の城主、ゴダンは籠城を決意して兵を城に後退させた。ニシ城は艦砲の射程外なので数ヶ月は保つだろうとフェン王国側は考えていたのだが、皇軍砲兵の野戦砲と臼砲がその思惑を城門ごと打ち砕いた。

 

 城下町では伏撃を行なったフェン王国武士団が、接敵前進中の皇軍歩兵戦列に掃射され壊乱した。

 ──そんな状況の中、奇妙な一団がパーパルディア皇国軍の前に立ちはだかった。

 

「戦争反対! 戦争やめろ!」

「僕たちはただの一般市民だぞ! 拘束を解け! 国際人道法を守れ!」

 

 皇国の陸将ベルトランは、両手を後ろ手に縛られて目の前に引き摺られてきた男たちを見て困惑した。

 

「なんだ、このアホヅラの団体は」

「日本人だと言っています。前進の邪魔をしましたので拘束しました」

「それと、別口でもう1人捕らえています」

 

 裸に剥かれ、より強固に縛られた殴打痕のある男がベルトランの前に転がされた。

 

「酷いもんです。こいつひとりに10名持っていかれました。……こいつの持っていた連発式の銃で!」

「なんだと⁉︎」

 

 ベルトランと幕僚は驚愕の面持ちでその男を見た。

 

「ヒィィ! 助けて、何でも言う! 協力する! 僕は日本のスパイです!」

 

 貧弱そうなその男……中村はあっさりと自白し(ゲロっ)た。

 

 

 

 

「アホどもめ」

 

 ギリスーツを纏った佐藤は草むらの中に伏せて対物ライフルを構える。

 

 平和ボケした馬鹿は切り捨ててさっさと引き上げるはずだったオメガチームだが、事情が変わった。

 電力会社か、警備会社にいる自衛隊OBからオメガがフェンに展開していることが総務大臣に漏れたらしい。

 

 ──決して日本国民を……1人たりとも敵の手によって死なせてはならぬ‼︎ 国難のこの時、今こそ団結すべき時である!──

 

 総務大臣から直接このように言われては、斎藤統幕長は計画変更せざるを得ない。

 

「まぁ、いいか」

 

 弱肉強食、強さこそ正義のこの世界で、暴力の後ろ盾がない外務省がいかに無能かを示す良い機会だ。

 ついでに、一昨日に色街に出かけてから行方不明になっている中村陸曹も捜索すればいい。

 

 対物ライフルのスコープには、皇国のリントヴルムが捉えられている。

 

《こちらオメガ5。全員準備よし》

「よし。バッドカルマより各員、始めろ」

 

PONK! PONK! BAHUN!

 KTOWKTOWKTOW! BANG!

 

 迫撃砲、ロケットランチャー、軽機関銃、対物ライフルが射撃開始し、それを陽動として救出班が前進する。

*1
無線の電波中継装置を甲板上に設置し、ムーやカルアミークとそこへ向かう船舶や航空機の通信を確保する任務。……すでに人工衛星が打ち上げられているので、実際には密輸や密入国の監視、非常時の救助活動が主。


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