弦巻家の彼は普通になりたい!   作:オオル

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お久しぶりです!今回からまたシリアスです…話は長いですが是非最後まで読んでいただきたいです。

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それではどうぞ!

今回でアギトの妹が判明します。


弦巻シンは夢を…

 幸せ、とは一体なんだろうか。

 

 毎日が楽しくて充実した生活?それは間違いじゃない、けど

 

 そんなものは…一度失わないと本当の意味でわからない。

 

「……………………」

 

 いつものように目覚まし時計により朝は起こされて賞味期限が切れてたパンを食べる。

 

「行ってきます」

 

 誰もいないのにシンはそう言い、学校に向かうがその途中

 

「シン、おはよう」

「……先輩、おはようございます」

「おはよう、千聖先輩、千歳ちゃん」

 

 2人して俺を待ってくれてたのだろうか、いや嬉しいよ

 

 そうして3人で登校する。別に何か特別な話をするわけじゃない。今日なんかはこないだあったパスパレの特番の話をしてたりしたな

 

 まあその時千歳ちゃんは機嫌悪そうな顔してたけど…

 

 学校については下駄箱で自分のスリッパに履き替え教室へと向かう。

 

「よ!シン、おはようだな」

「蒼汰、おはよう」

 

 蒼汰とおはようと挨拶を交わして席につくとそれからはお互いの最近起きた出来事などを話していては

 

「シン君おはようー!」

「おはようシン」

「おっはようシン!」

 

 香澄、おたえ、沙綾と順番に挨拶をしてきた。

 

「みんなおはよう」

 

 この朝の何気ない挨拶ってやつがもしかしたら幸せってやつなのかもしれない。

 

「シーン!おはようー!!」

「おはようー」

 

 次にこころと美咲が挨拶をしてきた。まあこころに関しては…

 

「お、おはよう、いつも急に抱きつくなよ!」

「とか言って喜んでるくせに」

「んなわけないだろ美咲!?」

 

 そうこうしているうちに

 

「よーし、HRを始めるぞー」

 

 担任の秋月先生が来たところでHRが始まる。

 

「来月行われる体育祭のチーム分けを行う」

「男女それぞれ均等になるよう別々でくじを引くからーあ、赤組と白組にわかれるからな」

 

 体育祭か、あー中学の時まともに参加したの中1の時だけだな

 

『うぉぉおおおおお!!』

「えーい黙れ男子共、特に弦巻弟」

「なんでだよ!俺叫んでないだろ!?」

 

 俺と蒼汰以外の男子共が叫んでいただけなのになんで俺が注意されるんだよ!?

 

「すまんな、お前も一緒に叫んでいるかと思ったんだ」

 

 普段叫んではいるけど一緒にしないでくれないか!?

 

「とりあえず早く決めてくれ、あ、今回は羽丘と合同だからな」

「……いやまじかよ!」

 

 俺は驚くも他のやつはあまり驚かない。文化祭、球技大会と来てみんな体制ができているのだろうか…

 

 男女各々くじを引き

 

「蒼汰ーお前何組?」

「俺は赤組だ!」

「……奇遇だな、俺もだ」

 

 くじを見せつけ同じ組だと蒼汰に話をする。いやーまさか蒼汰と同じ組とはもう勝ち確だろこれ

 

「シン何組?」

「俺は赤組だな」

「やったね!同じだよ♪」

「沙綾もか!いやー!これは楽しいチームになりそうだな!」

 

 沙綾がいるだけで俺は頑張れる!絶対いいところ見せるしかねえな!

 

「シンくん赤組かー」

「か、香澄は!?香澄も赤組だよな!」

 

 俺のマイエンジェル香澄!頼むから同じ組であってくれ!

 

「私は白組なんだよねー」

「よかったねシン君、私と同じ組だよ」

「なんでだぁぁー!」

 

 く、クソう!香澄と違う組みなのかよ!てかおたえとは同じ組なのね!?

 

「シン!あなたも赤組なのね!私もよ!」

「……先生!」

「なんだ弦巻弟」

 

 俺は先生を呼びこう言った。

 

「くじのやり直しを要求します!」

「拒否する」

「香澄と!香澄と同じ組がいいんですよ!」

「そ、そんなに私と同じ組がいいの?て、照れるなー」エヘヘ

 

 か、可愛い!さすがマイエンジェル香澄だぜ!

 

「……………………」

「ッ!さ、沙綾?」

「そこまでして香澄と同じ組になりたいの?」

「い、いえ!今の組で大満足であります!」

「それじゃあ決まりだな」

 

 とほほ、おたえとこころと同じ組なんて絶対きついだろ

 

「大丈夫だよシン君!はぐみもいるよ!」

「あーあたしもいるからこころに関しては大丈夫、花園さんは任せたよ」

「はぐみ!美咲!…って俺におたえを押し付けるな!」

 

 美咲のやつ助けてくれるかと思えば違うのかよ!?

 

「師匠!敵となったのなら容赦しません!優勝に向けて猪突猛進です!」

「私も頑張っちゃうよー!」

「うう、か、香澄ー!俺はお前と「シン!」ぐへ!」

 

 話の途中でまたこころのやつが抱きついてきた。なぜいつもこう抱きついてくるの!

 

「同じ組ね!頑張りましょう!」

「……まあ?このチームだったら優勝間違いなしだよな!」

 

 よくよく考えれば運動神経だけが取り柄の蒼汰とはぐみ、それとこころがいる!勝ち確だろこれは!

 

 あ、おれ?俺はほら、能ある鷹は爪を隠すってやつさ…何言ってんだろう

 

「んじゃ5時限目にチームごとで出る種目決めるからなーはい、HR終了」

 

 HRが終わり午前の授業が始まる。それはあっという間に終わり昼も終わる。

 

「では種目を決めましょう!」

「まてこころ、なんでお前がしきってる!?」

 

 今は赤組と白組とわかれ教室の後ろと前の黒板を利用して綺麗に別れていた。

 

「なんとなくよ!」

「なんとなくじゃない!ちゃんとリーダー的なやつを決めてた方がいいだろ?」

 

 文化祭実行委員ならぬ体育祭実行委員的な感じのさ!

 

「だったらシン君がやりなよ、文化祭実行委員長だったし?」

「おたえお前は馬鹿か、俺が体育祭委員なんてやってみろ、モテモテのモテになって学校中の女子が俺に惚れてしまう」

「それは大丈夫、シン君の彼女は私だから」

「付き合ってないから!?てかツッコめよ!恥ずかしいだろ!?」

 

 ボケてやったのになーんでツッコまない!いやまて、こんな馬鹿に求めた俺が馬鹿だったぜ

 

「んん!ま、まあ俺より適任なやつはいる」

「それってもしかして?」

「察しがいいな沙綾!」

 

 運動神経抜群でみんなを指揮れる!

 

「蒼汰しかいないだろ!」

「お、俺か!?」

 

 指で自分を指して驚く蒼汰、まあ急に言われたら驚くよな

 

「別に俺は運動はできるけど指揮を執るには…」

「まあ聞けよ」

 

 蒼汰に肩を組み小声で話す。

 

「巴にいいところ見せるチャンスだぜ?」

「ッ!」

「体育祭の後は…」

「あ、後は!?」

「まあそこは、ほら?自分で考えてくれ」

 

 体育祭の後はとか言ったけど俺は特に何も考えていない。蒼汰が何を考えるのか自由だけど何を考えるんだろうな

 

「……よーし!俺が指揮を執る!」

「とりあえずみんな4月にあった体力テストで測った50メートル走の記録を教えてくれ!」

 

 蒼汰が指揮を執ることになり話を綺麗に進んでいく

 

「シンは…借り物競争とかでいいか?」

「なんでもいいよ」

 

 蒼汰が決めるのなら間違いはないだろう。あの時は足遅かったしな、速さを求める系の競技には出ないってことはわかってたさ

 

「おたえは何になったんだ?」

「パン食い競走」

「そ、そんなのあるんだな」

 

 なんかモカが好き好んで出そうだな!

 

「はぐみは1000メートル走だよ!持久走は得意だから任せて!」

「それははぐみにしかできないことだぜ!頼んだ!」

 

 女子ではぐみが出るのなら?

 

「男子は俺しかいないよなー」

「……まあ好き好んで走るヤツなんてはぐみぐらいだろ」

 

 蒼汰で決定と

 

「沙綾とこころは?」

「あたしは50メートル走よ!」

「私は障害物競走だよ!弟達も来ると思うからいいところ見せないとね♪」

「……そうだな」

 

 弟か…ってことはシンジとかも来るのかな?それだと母さんやアレックス、そして親父も来るのか

 

 なんかいいな、屋敷以外で家族が揃うのって、昔は…親父のことが怖かったから来て欲しくないって思ってたけど今は来て欲しいって思うな

 

 他の男子や女子も普通に決まり時間が余ってたため雑談をしていた。

 

 正直言ってこの時間が楽しくてずっと続けばいいと思っていた。

 

 いや、この時間だけじゃない。今の俺の人生自体が楽しいからずっと…ずっとこのままで誰も傷つくことなく過ごせれたらいいなと思ってる。

 

 

 

 

 

 

 けど、人生はそんなに上手くいかない。

 

 

 

 

 

 

「師匠!今度行われるパスパレのワンマンライブ!チケット確保出来たのでお渡しします!」

「い、イヴさん!?急になにを!」

「はい!師匠には私達のライブ()を見届けて欲しく用意しました!」

 

 ワンマンライブってあれだよな?パスパレしか出ないやつだよな!?

 

 それがイヴから貰える?それって無料だよな!

 

「い、イヴ様ー!あなたは女神様ですが!」

「いえ仏様です!」

 

 イヴからチケットを渡されたシンは感極まってチケットに頬擦りをしては幸せそうに笑い、ライブ当時が来るのを楽しみにしていた。

 

「もちろん皆さんの分もありますよ!」

 

 イヴはそう言いチケットの束を手にクラスのみんなに話しかける。

 

「クラス分の確保は難しかったですが…皆さんにも見て欲しくて私頑張りました!」

「……俺だけじゃないのかよ!?」

 

 シンは自分だけが渡されたと思っていたらそうではなく、ただイヴがクラスのみんなに来て欲しいって理由で渡して来たと知った時、クラスのメンツは喜んでいるのにシンは悲しみ場違いな存在になっていた。

 

「まあまあクラスのみんなで行けるし結果オーライでしょ?」

「沙綾…そうだな」

「ところでシン、席はどこ?」

「あーAの18だな、最前列じゃん!いやイヴ様、仏様様ですな」

「……そうなんだー私はAの19だよ?隣だね!」

「本当か沙綾!いや偶然にしてはスゲーな!」

 

 と、シンは言うが、沙綾は先にシンの席を確認してチケットの回収を行っていたのだ。

 

「シン君Aの17?私の隣だね!」

「香澄もか!?パスパレのライブを香澄と見れるなんて嬉しいよ!」

「私もシン君と見れて嬉しいな!」

 

 シンと香澄は男女の仲であるにも関係なく、お互いの手を、指を絡み合い一緒に喜んでいた。

 

 それはまるで恋人繋ぎのように…して

 

「……………………」

 

 沙綾はその光景をただ近くで見ていることしかできなかった。

 

「…………私のなのに」

「沙綾?どうかしたの?」

「……ううん!なんでもないよ、それより2人は手なんか絡めて恋人同士なのかなー?」

『ッ!』

 

 その発言にシンと香澄は自分達がしている行動を確認して咄嗟に繋いでいた手を離す。

 

「か、香澄ごめん!」

「う、ううん!わ、私こそごめん!」

 

 まるで付き合いたてのカップルのような仕草をお互いが行う。

 

「ダメだよ香澄ー?シン君は私の彼氏なんだから、でもー3Pって言うんだけ?楽しそうだよね」

「おたえ…いい加減俺と付き合ってないって事実を認めろ」

「……………………」

「さ、沙綾?」

 

 沙綾はさっきのこともあり下を向く、いや斜め下をずっと無言で眺めていた。

 

 彼女が今どう思っているのか、それは彼女自身しかわからない。そのためシンなんかにわかるはずがないのだ。

 

 話し合いは終わり5時限目も終了間近

 

 そんな時、運命(試練)がシンを襲う

 

「?」

 

 廊下から数人が走ってこちらに向かっているような足音がする。

 

「こころ様!シン様!」

 

 教室のドアを開けたのは黒服の人だ。

 

「……部外者は校内立ち入り禁止なんだが?」

 

 秋山先生はパイプ椅子に深く座っていたが黒服が来たためなのか立ち上がりそう言った。

 

「申し訳ございません、許可はいただいております」

「…………でしたらどうぞ」

 

 黒服は予め学長に許可をいただきこちらに来たのだ。

 

「それよりあなた達どうしたの?」

「適当な用事だったら許さないぞ」

「……適当なんかではありません」

 

 黒服はそう答えると深呼吸を数度行い、口を開く

 

「奥様の病態が悪化しました」

「……んだよそれだけかよ、風邪をひいてることは知ってるよ」

 

 数日前に訪れた時体調を崩していると話を聞いた。勝手に風邪だと思い込んでいたけど…なんだ?インフルか?

 

「やはり知らされてなかったのですね…」

『?』

 

 こころと俺は黒服の言っている意味がわからなくて首を傾げていた。

 

「驚かずに聞いてください…は、無理そうですね」

 

 

「正直に言いますが…………、…………ます」

 

 

「は?」

 

 シンはとても低い声でその言葉発した。発したと言うより勝手に口から出た行った方がいいかもしれない。

 

「なに冗談言っているのよ、そんなこと信じられるわけないじゃない!」

「こころ様、我々が一度でもあなた方に嘘をついたことがございますか?」

『ッ!』

 

 黒服の言う通りだ。あいつらが俺達に嘘を言ったことなんて一度もない、でも証拠が…

 

 いいや、そんなことはどうでもいい!黒服の発言が嘘か本当か自分の目で確かめればいいだけだ。

 

シンは教室のベランダに出てそのまま下へと飛び降りた。

 

 着地の際は前転受け身、と言うのだろうか、転がるように前に出て落下のさいの負担が体に来ないよう行い、屋敷向かって全速力で走り出した。

 

「ッ!先生!屋敷に行ってくるわ!」

「…………ああ、わかった」

 

 秋山先生はすぐに許可をしてこころは黒服の車で、シンは己の足でそれぞれ屋敷へと向かう。

 

「せ、先生よかったんですか?」

「ん?あーなんだ、あれだよ」

 

「大切な人が……時は近くで見届けたいもんだろ」

『ッ!』

 

 クラスメイトのみんながその言葉を聞いてわかってしまった。シンとこころの身にこれから何が起きるのかを

 

「…………シン」

 

 沙綾は教室から見えるシンの走る姿を見て名前を呼ぶことしかできなかった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 シンが学校を抜け出して走ること数分、すぐに屋敷につく

 

「!」

 

 黒服達の車は止まっており門も空いている状態だ。

 

 そこから入り全速力で母さんの部屋目掛けて走ると

 

「ッ!な、なんだよこれ…!」

 

 目の前には…

 

「離しなさいアレックス!あなた自分で何してるかわかってるの!?」

「アレックスさん痛いって!は、離してください!」

 

 アレックスが片手でこころの両手首をつかみ、もう片方の手では篠崎先輩をこころと同様につかみ拘束していた。

 

「……何してんだよ」

「ッ!」

「何してんだって聞いてんだぁぁぁああ!!」

 

 シンは叫びながら懐のポケットから木刀を取り出し大きく一振し、アレックスに木刀を向ける。

 

「……シン様、もう来たのですね」

 

 アレックスも同様に木刀を取りだしシンの一撃を防ぐ

 

「なんでこころと篠崎先輩にあんなことした!」

「……あんなこと?ああ、ちょっと手首を掴んでただけです」

「んなこと聞いてんじゃない!なんで拘束するように掴んでたんだよ!」

 

 アレックスが理由なしにこんなことをするやつじゃないことぐらいわかる。けどなんで、なんでさ!

 

「簡単です。奥様にあなた方を部屋に入れるなと言われているからです」

 

 その言葉を聞いて一瞬空気が揺れたような気がした。

 

「そんなこと母さんが言うわけないだろ!」

 

 シンは力を込め防がれていた木刀を振り払いもう一撃与えようとしたところで

 

「ッ!」

 

 木刀を止め後ろへと下がる。

 

「……こころ、篠崎先輩」

「……なにシン?」

「俺がアレックスを引きつけるから先入っててくれ」

「む、無理だよ!アレックスさん強すぎるよ」

「いいから入ってろ!」

『ッ!』

 

 こころと篠崎先輩はその場から立ち上がり母さんの部屋へと入る。アレックスは抵抗すると思ったがすることなくずっと俺を見つめ木刀を構えていた。

 

「いいのかよ、入れるなって話はどこいったんだ?」

「……まあ彼女達ならいいでしょう、なんせ特にシン様だけは入れるなと言われていましたので」

「ッ!だから…そんなこと母さんが言うわけないだろ!」

 

 またもしてシンはアレックスに木刀を振るも

 

「なっ!」

 

 呆気なく避けられてしまう。

 

「前にも言ったはずでシン様は怒りで考えを放棄する傾向があると」

 

 アレックスはシンの背中に思っきり木刀を振り壁へとぶっ飛ばす。

 

「ガハッ!」

「……あなたは私に勝てない」

 

 上から見下ろすアレックスはいつものようではなくまるで騎士のような立ち振る舞いでそう言う。

 

『お母様!』 『奥様!』

 

 こころと篠崎先輩の声が聞こえる。

 

 その声は普通に母さんを呼ぶような声ではない。まるで驚いた時に人が出すような声音だ。

 

「……………………」

 

 シンは無言のままその場に立ち上がり木刀を構え出す。

 

「悪いけど俺はもう誰にも負けられないんだ」

「……そう、ですか」

 

 千聖先輩と約束した、もう負けないって…稽古じゃなくてアレックスの剣を交えるとなるとそれは勝負と言って他ならない。

 

 だったら俺に負けは許されないんだ。

 

「行くぞアレックス、俺はなんとしてもここを通る」

「いいでしょう、あれからどれほど強くなったかアレックスが見定めて差し上げます」

 

 アレックスも構えだしお互いが同時に地を蹴り剣を振るった。

 

「ッ!」

 

 アレックスの一手が早くてシンに攻撃が当たりそうになるも、シンはその攻撃を受け流す。

 

「……アレックス、悪いな」

 

 シンが小声で言うと

 

「はぁぁぁああああ!!」

「……ッ!」

 

 シンはスライディングする形でアレックスの足と足の間を通り抜け部屋の前のドアにつく。

 

「……ふざけるな、ふざけるなふざけるな!」

「放っからアレックスと戦うつもりなんてなかったのですか!」

「……ああ、だって俺アレックスに勝てないもん」

 

 振り向き笑ってシンはそう言い、部屋のドアを開ける。

 

「ッ!……シン、あなたは優しすぎです」

 

 アレックスは一瞬木刀を握る力を強くしたがすぐに緩めてしまう。

 

「なに笑ってんだよ」

「……アギト?」

「ったく、てめぇらが勝手なことしたせいで台無しじゃねーか」

 

 アギトの後ろにはシン達を迎えにきた黒服のメンツがいた。

 

 そう、アギトは黒服にこころ達にはこのことを知らせるなと命令していたのだ。しかし黒服はその命令を破ってでもこころ達を連れてきたのだ。

 

「……申し訳ございませんアギト様、しかし我々が知らせるべきだと判断して行った行動です」

「後悔はございません」

「どんな罰でも受けます」

 

 アギトは頭をかいた後に口を開く。

 

「覚悟はできてんだよな?」

「…………コク」

「……だったら門の閉鎖をしろ、簡単に人が入ってこれるだろ、後は普段の警備に戻れ」

『ッ!はい』

 

 黒服は普段の仕事に戻れと命令されたため戻りそれぞれの作業を行うようだ。

 

「あなたのことだからエロいこと要求するかと思いましたよ」

「そんなことしねーよ」

「それよりシンは行ったのか?」

「……ええ、行ってしまい、ましたよ…!」

 

 アレックスは肩を震わせ、木刀を強く握ってしまう。彼女は…泣いていたのだ。

 

「私と同じ目にあって欲しくないから、だからあんな態度取ったのに…最後なんて笑ってたんですよ?」

「……こんな所で泣くな」

「わかってます…!」

 

 アレックスはメイド服の袖で涙を拭き2人でシンの入った部屋へと足を運んだ。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「母さん!」

 

 部屋に入ると同時に俺は母さんと叫ぶ

 

「ッ!……な、なんだよ、これ」

「シンさん、来ちゃった……のね♪」

 

 目の前にいるのは紛れもなく母さんだ。だけどその様子はいつもと違う。

 

 様々な機械から管が出ておりそれが母さんの体に刺さっている。つぐみの時に病院で見たような機械なんかじゃない。

 

 素人の俺がみても全く違う機械だってわかってしまう。それによくドラマとかで見るような心拍数を測る機械だって置かれてる。

 

 こころと篠崎先輩は母さんの左側に膝をつき手を包み込むように握っていた。

 

「嘘だ…!こんなの嘘に決まってる!」

「……………」

「ほらドッキリ大成功の看板は!?どこか隠してるんだろ!なあ!」

 

 こ、こんなのドッキリに決まってる。手の込んだ芝居しやがって、あんまり俺を舐めるなよな!

 

「そんなわけないだろ」

「ッ!」

「シン様…紛れもない事実なのですよ?」

「……嘘だ!」

 

 後ろからアギトさんとアレックスが事実だと言ってくる。

 

 やめろ、やめてくれ…!あんたらが言ったら俺は認めざるを得ないじゃないか!

 

「……ごめんねあなた達、迷惑かけたくないから黙ってたの」

「迷惑なんてないわよ!話してくれれてたらあたし!あたしはもっとお母様と!」

「私もです奥様!迷惑なんてこれっぽちかかりませんよ…!」

「俺は、俺は…?」

 

 どうして俺は母さんが病気と戦っていたなんて気づいていないんだ?俺は何をしてたんだ?

 

 ああ、そうだ、そうだよ、俺は屋敷にいなかったんだ。弦巻家のことが大っ嫌いで抜け出していたんだ。

 

 久しぶりに会っても様子が変わってなくて安心しきっていた。

 

 でもそれは当たり前のことだったんだ。母さんは俺達に迷惑をかけないために黙ってたって言ってた。

 

 つまりバレないよう仕草をしていた、ってことになる。

 

「……………………」

 

 シンは無言のままこころと篠崎先輩がいる反対側の手元に行く

 

「俺のせいだ」

『……ッ!』

「俺が……気づいてなかったから…!」

 

 シンはそう言うがそれをシンの母さんが納得するだろうか、否、するわけがない。

 

「何言ってるのよシンさん、私は生まれた時からこうなる運命だった、のよ♪」

「違う!俺が母さんに色々、たくさん迷惑かけたから!」

「……シンさん」

 

 シンの瞳からは涙が止まることなく頬を流れ床へと落ちてしまう。顔を下げて自分が悪いと自分に言い聞かしていた。

 

「馬鹿ねシンさん、私は一度もあなたのせいなんて言って……ないわ♪」

「……でも俺が!」

「あなたの悪い所よ、自分を責めるのは小さい頃から変わらないわね」

「…………だって、だってさ…!」

 

 シンは一度言うと口が止まることなく言い続けた。

 

「俺が悪いじゃん!俺が屋敷が嫌いだったから!金持ちの家が嫌いだったから!だから屋敷を抜け出して…」

「たくさん迷惑かけた!連絡もしなくて生きてるかもわからないって不安をかけた!」

「俺が初めからいい子で入れば…!いずれその時が訪れたとしても!今日にはならなかったはずなんだ!」

 

 シンは泣きながらそう言う。自分が悪い、自分が家を抜け出してたくさん迷惑かけたから今日、母さんが亡くなるまでになったのではない、かと

 

「……シンさん、こっちに来て」

「………………はい」

 

 シンは涙を拭き、母親の元へと近づく

 

 シンの母さんは手を伸ばしシンの顔に近づける。

 

「ッ!」

 

 シンは怒られると思い顔に力を入れた。だって自分が原因だと思っていたから、ビンタされるの当然だと思ったからだ。

 

 でも、それは違った。

 

「ッ!か、母さん?」

 

 そっと優しい手でシンの頬を撫でる。

 

「私は一度もあなたを恨んだり、憎んだり、嫌いになったりしたこと…ないわ♪」

「……シンさんよく「不幸だ」って言うわよね?」

「…………う、うん」

 

 頬を撫でながら話はまだ続く、その手は今にも重力にしたがい下ろされてもおかしくない細腕なのにずっと、シンの頬を撫で続ける。

 

「これだけはちゃんと聞いて…」

「私はあなたが……シンさんが生まれてから一度も不幸だと思ったことないわ♪」

「ッ!」

「いいシンさん、私はあなたが思ってる以上にあなたを愛しているのよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間今まで止まっていたシンの涙腺が動き出す。頬から離れそうになる母親の手を取り言葉を発した。

 

「ッ!ッ!ごめん!今まで迷惑かけてごめん!わがまま言ってごめん!家族が、家が嫌いだって言ってごめん!」

「ごめん!ごめん!ごめん!」

「シンさん…」

「何度だって謝るからさ…!なんだってするからさ!」

 

「俺の前からいなくならないでくれよ母さん!」

 

 シンは怖いのだ。自分の前から誰かがいなくなることを怖がっている。

 

 それは千聖の件でわかったことだ。まだ千聖が戻ってきてくれたからよかったもののあのまま帰ってこなかったらシンはどうなっていたか

 

「もう嫌なんだよ誰かが酷い目に遭うのは耐えられない!だから…頼むよ母さん!」

「私もよ…!お母様が亡くなるなんて考えたくもない!」

「私もです!奥様と過ごした時間はみんなより少ないかもしれない!けどそれでも私は奥様を愛しています!」

 

 子供達がそれぞれの思いを母親に言う。それを聞いたシンの母親は

 

「……嬉しいわ、私こんなにもみんなから愛されているのね」

「ああ、愛してる!家族だって愛してる!もう嫌いなんて思わない!」

「…………うん」

「だから逝くなよ…!」

 

 最後にシンはそう言うも

 

「ごめんね、母さんもう眠たくなってきちゃった……♪」

「ッ!何言ってんだよ!まだ寝ちゃダメだ!」

「そうよ!今寝たらそれはもう起きないかもしれないわ!」

 

 シン達がそう言っても変わらない。今にも閉じそうなまぶたが何度も閉じそうになる、だけどそれをシン達が許さない。

 

「そうだ!今度体育祭があるんだよ!」

「……それは、楽しそうね♪」

「楽しいわよ!あたしとシンは同じ組なの!姉弟揃って優勝目指して頑張るのよ!」

「文化祭と同じさ!楽しい…楽しい学校行事なんだよ…?」

「……だから、お母様見に来てくれるわよね?」

「……ええ、見るわよ、場所は違っても私はあなた達の母さんよ♪」

 

 場所は違っても、すなわちそれはこの世のどこでもない場所を指している。それに気づいたシンはまた声を上げる。

 

「違う!母さんはちゃんと俺達の前で見るんだ!そんなこと言うなよ!」

「……それにまだ孫の顔だって見せてない!見たいんだろ!」

「…………え?ごめんなさいね、なんて言ったのかしら?うまく…聞き取れないわ」

「ッ!」

 

 もう、母さんには俺の声が届かないのか?もう本当に亡くなってしまうのか?

 

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!母さんが亡くなるなんて嫌だ!

 

「ッ!そうだ、そうだよ!」

「俺さ!今から蘭と結婚するよ!子供だってすぐに作る!後少し生きてくれたら見れるからさ!」

「見れるからさ……、見れるから…!」

「……そうね、蘭ちゃんとこころちゃんのウエディングドレス姿見たかったわね♪」

 

 ああ、もうダメなんだろう。何も言っても母さんが生き残る術はないのだろう。

 

 例え魔法があったとしても人を生き返らせる術はない。

 

「最後に、みんなにそれぞれ言いたいことがあるの」

「な、何言って「愛奈ちゃん」ッ!」

 

 そうだ、もう俺の声は聞こえない。何も言っても母さんは口を止めることなく話し続けるに決まってる。

 

「……なんですか?奥様」

「愛奈ちゃん、今からでも遅くないわ…大学、行くべきよ」

「ッ!」

「私も行きたかったけど、貧乏だったから……諦めたけどあなたは行くべきだわ、家庭の事情とかあると思うけど、頑張ってね」

「……はい、奥様!」

 

 篠崎先輩はそう答えると握っている手を強く握り返した。

 

「こころちゃん、いえ、こころ(・・・)

「……………………」

「あなたはこれからずっと笑顔でいるのよ?母さんが教えたことは間違いじゃないの、人は笑顔があれば幸せになれる」

「みんなと一緒に世界を笑顔にしてね?」

「……お、お母様…!」

 

 こころも同様に握っている手を強く握る。

 

「次にシン…」

 

 と、話をする瞬間に

 

「お母様!」

「シン、あなたは」

「お母様お母様お母様!」

 

 シンジが駆けつけ手を握る。それに気づいたのかシンの母親は一瞬驚いたが、すぐに笑顔に戻り

 

「シンジ、まだあなたの夢を聞いてなかったわね」

「嫌だよお母様!僕まだ読んでもらってない本だって沢山あるんだ!」

「…………どんな夢でもあなたならなれる。自分を信じて進むのよ♪」

「あぁぁぁああ!お母様!」

 

 シンジは泣け叫び母さんの寝ているベットに顔を埋めてしまう。

 

「……次に、シン」

「あなた聞いたわよ、正義の味方になりたいんですって?」

「ッ!……うん」

 

 聞いたってのは恐らく親父、もしくはアギトさんから聞いたんだと思う。

 

「……………………」

「か、母さん!」

 

 母さんの話が途中で止まり俺は慌てて握っている手に力を込めてしまう。

 

「ごめんなさいね、話が途中で……途切れたわね」

「シン、あなたは優しい人よ、誰かの傍に寄り添ってその人の味方になってあげて?」

「……そしてあまり自分を責めないようにね、あなたはもう…………じゃないわ」

「……ッ!母さん!」

 

 途中何を言っているかわからなかったけど母さんは俺に言いたいこと言えたのだろうか

 

 いや、言えてないはずだ。俺だって言いたいことは沢山あるんだ。なのに、このまま何も伝えられなくて終わってしまうのか?亡くなってしまうのか?

 

「…………母さん」

「…………ん?」

「ッ!母さん!母さん!」

「はーい、なんですか?」

 

 俺がボソッと言った母さんって声を聞き取れていたようだ。

 

 たくさん言うことがある、だけど言う時間なんてない。だから…

 

「今まで本当にありがとう…!」

「……ええ、みんな愛してるわ」

 

 その一言を最後に心拍数を測る機械の一定を刻むリズム音が別の音へと変わる、その音が鳴り響き……シンの母親は他界した。

 

「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その後シンの叫びが部屋中に響く、無理もない、自分の親が亡くなってしまったのだ。冷静でいられる人なんているわけがない。

 

 辺りを見ればシンだけではない、愛奈もシンジも顔をぐちゃぐちゃにして泣いていた。

 

「……なあ、アギトさん、アレックス!」

「なんですか、シン様」

「どうして教えてくれなかったんだよ!」

 

 シンはアギトとアレックスを睨みつけ言うもただそれは逃げているだけだ。

 

 亡くなったことから目を背けたい、だから思ってもないことが口から出てしまった。

 

「……教えてたらどうしてたんだよ」

「アギト、やめなさい」

「自分から屋敷を出ていったやつは誰だよ」

「ッ!」

「お前前も言ったがおこがましいんだよ、自分から好き好んで出ていったくせに教えろ?ふざけんな教えるわけないだろ」

「やめなさいアギト!」

 

 アレックスの怒りを買ったアギトはその後口を開くことなく明後日の方を向くかのようにシンと目をそらす。

 

「……生まれつきの難病だ」

「親父…!」

「よくここまで生きてくれたもんだ」

 

 シンの父親は静かに母親に近づき

 

「まったく…俺を飽きさせない女だったよ、お前は」

「…………式の準備をしろ、早く弔ってやるぞ」

『はい』

 

 黒服の人達が準備に取り掛かろうとしたその瞬間

 

「やっーとくたばったかあの貧乏人め」

『ッ!』

 

 みんなが反応する。それは当たり前だ、なんせここにはいない別の誰かが言ったのだから

 

 廊下から靴の足音が聞こえて

 

「どーも、久しぶりだな」

「……綺羅、なんでお前が!」

 

 姿を現したのは他でもない綺羅、だった。なぜこのタイミング現れたのか、はたまた亡くなることを知っていたのだろうか

 

「お前…!まさか!」

「待て待て、俺はただ話をしに来ただけだお前が想像していることなんて何もしてねーよ」

「…………何の用だ、こっちは忙しいんだ」

 

 シンが考えたことは綺羅が何かして母さんの死を早めたのでないかと思った。しかしそれは違うと否定された。

 

「まあすぐ終わるから待っとけ」

「……おい、警備の奴らはどうした?」

「あーあれか、なーに殺してはないさ」

「……………………」

 

 アギトが氷のような鋭い瞳で綺羅を睨みつける。同僚が酷い目にあって何も思わないやつなんていない。

 

「そう睨むなよ夕刀(ゆうと)

「気安くその名で呼ぶな、今はアギトで通してる」

「……まあどうでもいい」

 

 アギトを無視して綺羅はシンの元へと向かっていく。

 

「よお、こないだぶりだな」

「のこのこと俺の前に現れやがって、何が目的だ!」

「なあ、あの貧乏人が死んだのはお前が原因だろ」

「ッ!なんだと…!」

 

 何を言うかと思えば綺羅はそんなことを言い出した。それはさっきまでシンが自分で母親に行っていたことだ。

 

 しかしそれは違うと言われていた。つまりシンのせいではないのだが

 

「全部お前のせいなんだよ」

「ッ!違う!母さんは違うって言ってくれた!」

「はあ、考えてみろよ」

「そんなの嘘に決まってるだろ?」

「ッ!そ、そんなわけ」

「お前に心配かけないためについた嘘なんだよ」

 

 綺羅はこれでもかとシンに精神的に苦痛を与えるために言葉を発する。

 

「あいつ相当お前のこと恨んでるぞ?」

「……そ、そんな、違う、俺は!」

「いーや、違わないさ」

「お前のせいでたくさん苦労した。お前のせいで家族が離れ離れになった。お前のせいで病気が悪化した。」

「…………ああ」

 

「お前のせいで死んだんだよ」

「あぁぁぁああ!あぁぁぁああ!」

「お前は何も守れない、白鷺千聖と一緒さ!あの貧乏人もまた守れなかった!」

「やめろ、やめろ…やめてくれ!」

 

 シンは聞きたくないよう両手で耳を塞ごうとしたが、それを綺羅は阻止して

 

「お前はだーれも守れない、正義の味方になんかなれないんだよ」

 

 真顔でそう言う綺羅に対してシンは

 

「うわぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」

 

 その場でシンは崩れ落ちてしまう。自分のせいではないと母親は言ってくれた、だけどそれを綺羅が否定した。

 

 そして何より正義の味方になれないと言われたことが一番のショックだろう。

 

「シン様!」

 

 そんなシンのアレックスは抱きつき

 

「大丈夫、大丈夫です!シンは正義の味方になれます!だから…どうか!どうか絶望だけはしないでください!」

「……………………」

 

 シンは何も返事をしない。瞳のハイライトはなくなりずっと一点を見つめたまま黙り込んでいた。

 

 その光景を見てアレックスは思い出したのだ。昔の自分を…だからシンには母親の死に直面して欲しくなかった、だから嫌な役をかってでてシンを行かせないと止めていた。

 

 しかし…結果はあの時と同じだ。

 

「ッ!綺羅!貴様ぁぁ!」

「そう吠えるな雌犬が、姉の方は…ふん、あっちは勝手に壊れているからほっとくか」

 

 こころも同じよう瞳のハイライトは消え女座りというやつだろうか、座りながら下を見ては拳を握りしめていた。

 

「ッ!お嬢…」

 

 シンジは誰の気にもとめず大声で泣き叫んでいた。

 

「これで弦巻姉弟は片付いた、いや結構簡単で助かったよ」

「……おい雑種、貴様らの目的はなんだ?俺の子供に手を出すとは覚悟はできてるんだろうな?」

「目的?そんなの決まってるだろ」

 

 綺羅は指を高らかに上げては弦巻家のメンツに向かって指を指した。

 

「お前らを潰すことだ」

「……俺に喧嘩を売るのか?」

「ああ、もちろん買ってくれるよな?」

「貴様みたいな雑種は俺の相手にもならん」

 

 シンの父親は部屋を出ようとする。

 

「まあ別にあんたは最後だからいいんだよ」

「とりあえず弦巻姉弟は潰した、次は…そうだな」

 

「夕刀、お前だな」

「……お前じゃ俺に勝てないってこと一番知ってるはずだ」

「貧乏人に俺が直接手をだすわけないだろ」

 

 綺羅の後ろにいたアイクが不気味な笑みを浮かべていた。綺羅自信は消して手を出さない、なぜならこちらにアイクがいる限り負けはない…と思っているからだ。

 

「……と、言ってもお前のことを甘く見てるわけじゃない」

「……………………」

「いやいや、親友(・・)のことを素直に評価してやってんだぜ?」

「黙れ!お前なんて親友にした覚えなんてねーよ」

「水臭いな、だったら共に過した仲間(・・)だろ」

「てめえらと同じにするな…!」

 

 珍しくアギトが声を荒らげて綺羅の放つ言葉を全て否定する。

 

「……そか、まあ別にいいさ」

「ただしお前のことを素直に評価していることは嘘じゃない」

「だからお前には手を出さい」

「ッ!お前!」

 

 綺羅は狂気じみた笑顔を見せては

 

「妹達、ちゃんと守れよ?」

「あ、でもあれだよな?気まづいよなー」

 

 綺羅はアギトに、いや夕刀に近づき肩に手を置いて一呼吸後に

 

「俺が妹達との仲を取り戻してやるよ」

「……あいつらに手を出したら俺は自分を制御できん、お前を殺すぞ…!」

「ふん!やれるならやってみろ」

 

 夕刀から離れた綺羅はドアに手をかけ

 

「アレックスと言ったか、お前と圷有翔は後回しだ」

「ッ!」

「じゃあな夕刀……いや」

 

 

 

 

 

 

 

「――……氷川夕刀君?」

 

 

 

 

 

 

 帰り際に衝撃的発言をした綺羅に対して夕刀は叫ぶ

 

「ッ!正義(まさよし)!てめえ日菜達に手を出してみろ!もう一度同じ目にあわしてやる…!」

「チッ、嫌なこと思い出させるな」

 

 綺羅はそう言うと部屋を後にしてどこかへと向かっていった。恐らくだが自分の屋敷に帰ったのだろう。

 

「……………………」

「どうしたアイク」

「……アレックスってやつどこかで見たことあるんだよなあ」

「そうか、調べてみるか?」

「ああ」

 

 そんな会話を聞いてる人なんて屋敷には誰一人といなかった。

 

◆◆◆◆

 

 数日後、すぐに葬式は行われた。弦巻家に関係しているであろう人達が続々と訪れシンの母親に花束を添える。

 

 しかし…そこには綺羅財閥に関係している人達の姿なんてものはなかった。

 

 シンは椅子に座っているものの光を失ったその瞳からは生気を感じられないほどのものとなっていた。

 

 また変化した紅色の瞳は金色の瞳へと戻っていた。覚悟によって瞳が変わる…とシンの父親は言っていた。

 

 元に戻る、ということは覚悟を失った、とでも言うのだろうか

 

「……………………」

 

 ずっと黙ってるだけで何もしない。服装は式のため花咲の制服を着ているものの上手く着こなしていない。誰が無理やり着替えさせたのか、はたまたあの日からずっと着替えていなかったのか

 

 こころはアギトが面倒を見ており同様その瞳、顔からは生気を感じ取れない。

 

 姉弟揃ってこの状況、それは弦巻家のこれからにとって厳しい状況となってしまう。

 

 もしこのままだとすると弦巻家の次期当主は誰になるのだろうか

 

「弦巻家の双子姉弟は大丈夫なの?」

「無理もないだろ、まだ成人してない歳で母親をなくしたんだ」

 

 そんな会話が辺りから聞こえるがシン達の耳には入らない。

 

「……………………」

 

 しかしシンの父親には聞こえていた。だけどここからどうするか、どう立ち直るのかは息子達のシン次第だ。

 

「だからあの小娘と結婚するのはやめとけと言ったんだ」

「……親父」

「ボス……ご愁傷様です」

「有翔、お前も来たのか」

「爺さんが行くなら着いてくるだろ」

 

 シンの父親の前に現れたのは実の父親、そしてその父親の付き人有翔の姿があった。

 

「わかってたはずだ、すぐに亡くなると」

「うるさい、あいつは最後まで頑張った」

「……こころ達はどうする?あれから元に戻れるとお前は言うのか?それとも無理やり戻すか?」

 

 いい歳なのに杖もつかず背中も曲がっていないシンの祖父は息子に対して、そして孫に対してきつい言葉を言う。

 

「あいつらなら心配ない、すぐ戻る」

「ほう、その根拠は?」

「……根拠、か」

「俺とあいつの子供だからだな」

 

 そう答えるシンの父親には迷いがないような、清々しい顔でそう言う。

 

「……ふん、帰るぞ有翔屋敷に戻ってすることはまだあるぞ」

「爺さんちょっと待ってくれ」

 

 有翔はシンが座っている所へ向かい話しかける。

 

「シン」

「……………………」

「お前の気持ちすげーわかる。俺も両親なくしたときはかなり落ち込んだ。けどここで止まってたらお前は一生そこから動けないぞ」

「……………………」

 

 シンにはその声が聞こえているはずだ。しかし返事をしない。

 

「綺羅が俺になにかするとしたらつぐみに手を出す以外考えられない」

「……俺との約束は果たせよ?……じゃあな」

 

 有翔の約束、それはつぐみの面倒を見てくとの約束だ。つぐみがつぐりそうになったらシンが止めること、しかしつぐみが危ない目に遭うのならシンは守らないといけない。

 

 否……正義の味方を目指すシンならば守らなければならないのだ。有翔との約束関係なしに

 

「…………無理だよ有翔」

 

 誰にも聞こえない声でシンはそう言い、式は終わりを迎えた。

 

 外に出ると先程まで雨が降っていたのかアスファルトの濡れた匂いが辺りに広がり、秋の夜の寒さが雨によりさらに強くなっていた。

 

「シン様、こころ様、どうぞこちらへ」

『……………………』

 

 黒服が車のドアを開け車内に案内するもシン達は動かない

 

「……お嬢、外は寒いです。中で温まりましょう」

 

 アギトがこころの手を取り車の中へと連れていく。

 

「シン様?我々も入りましょう、身体まで冷えてしまいますと風邪をひきます」

「…………………」

 

 シンはその言葉を聞いては車の横を通り歩いて式場から出ようと門へと向かっていた。

 

「し、シン様!車で帰りましょう、夜道は危険です!」

「………歩いて帰る」

「ッ!シン様」

 

 アレックスは止めるよう手を伸ばす。だけどその手をすぐに引っ込めてしまう。

 

 今のシンは昔のアレックスそのものだ。大切な人をなくし自分のせいだと自分を責め続ける。

 

「もう……彼女達に頼るしかないのでしょうか」

 

 アレックスはスカートを握りしめそう呟く

 

「ほっとけ、一人になりたいんだろ」

「ッ!私シン様と帰ります!」

「……シンジはどうする」

「お前は今シンジ専属のメイドだ、自分の仕事を全うしろ」

 

 アギトがそれを言う終わるのと同時にエンジンをかけた。

 

「早く乗れ、帰るぞ」

「…………はい」

 

 アレックスは車に乗りシンジの隣へと座る。まだシンジはこころやシンより精神的なダメージを受けているようには見れない。

 

「…………シンジ様だけでも私が…!」

「?アレックス?」

 

 アレックスはシンジを抱きしめる。しかし

 

「……アレックスも辛かったんだね」

「はい…!」

 

 シンジを抱きしめながら泣き始めたアレックスに対してシンジ、慰めるよう頭を撫でる。それを始めアレックスの涙は止まらず車内にはアレックスの鳴き声が響き渡る。

 

その頃のシンは一人で歩いて家へと向かっていた。

 

「……………………」

 

 得に何もなかった。段差や石が転がっていたわけでもない、にもかかわらずシンは急に転けだした。

 

 転けた先は運が悪く水溜まりへと身を投げ込む形になった。

 

「……なんでさ」

「なんでさ…!なんでさ、なんで!」

「どうして俺は母さんの言葉より綺羅の言葉を信じてしまうんだよ…!」

 

 頭の中でずっとあのセリフがリピートされる。

 

「正義の味方になんかなれないんだよ」

 

 ……と、気にしないと思ってもずっと考えてしまう。それと同時に自分を責め続ける。

 

「……ああ、ダメだ、ごめん皆」

 

右手を胸の中心に持ってきてはシャツを握りしめ

 

 

「俺は正義の味方に…なれない…!」

 

 

 そう告げるシンは自分で自分の夢を捨てびしょ濡れのまま重い足取りで自宅へと向かって行った。




シンはこれからどうなるのか、立ち直れるのか…

アギトさんの妹は驚きましたか?実は前作の時から決めてたんですよね、やっと話が書けますね

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