この世に何を成すか、者共よ。   作:B・R
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新規、読者参加型作品。更新頻度は低め。


Chapter1:夜に出会う。

・3月25日 深夜、夜明け前 東京都・新宿区

 

 

日付を跨いで、小さな月明かりとまばらな街灯に照らされた暗い大通りを走る。人通りはあまりない。車も片手で数えるくらいしか見ていない。

時折、スーツに身を包んだ社会人らしき人や、私服の集団などとすれ違い奇異の視線を受けるが、気にする余裕なんてなかった。

人の往来も車の往来も少ないから、ちょっと罪悪感を抱きながらも信号を無視して突っ切る。

 

 

「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」

 

 

素早く後ろを振り返る。そこには、依然として私を追い掛けてくる妙な――具体的には黒い服に紫色の仮面を付けた――格好をした男性の姿があった。今のこの状態の元凶だ。

どうして、私、追い掛けられてるんだろう。そんなことを考えている間も、男性は距離を少しずつ詰めてきていている。

 

 

「はぁっ、くっ⋯⋯はぁ、はぁ」

「⋯⋯エストリッジの鍵、ご同行を願おうか」

 

 

さっきから、エストリッジの鍵だのなんだの⋯⋯本当に何なんですか。そんなもの知らないし、私は持っていないのに⋯⋯。

そもそも、私は昨日の朝方に東京に着いたばっかりで、右も左も分からないような状態なのに、そんな鍵の事なんて知りませんよ!

 

 

「まだ逃げ続けると言うなら、多少手荒な真似をさせてもらう」

「⋯⋯へ?」

 

 

男性がそう言った瞬間⋯⋯目の前のアスファルトが抉られるように砕け散った(・・・・・・・・・・・・)

気が付いた時には、破片に躓いてひんやりとした地面に正面から転んでしまう。少し痛い。

 

 

「⋯⋯これ以上、無駄な抵抗をするな」

「⋯⋯っ!?」

 

 

コツコツとアスファルトにブーツを鳴らしながら、男性は近付いてくる。その手には、月明かりを受けて煌めく銀の鋭さ⋯⋯刃物が握られていた。

顔から血の気が引いていくのがわかる。

⋯⋯殺される。絶対に、逃げなきゃ行けない。だけど、身体が動かない。

 

 

「眠っていれば恐ろしい思いもすまい。しばしの間、気を絶たせてもらう」

 

 

そう言って男性はその手に持ったナイフを振り上げた。咄嗟に目を瞑り、襲ってくるはずの痛みに耐えようとする。

しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこない。私はゆっくりと目を開けた。

 

 

「⋯⋯?」

「⋯⋯来るか」

「来る⋯⋯?」

 

 

何が来るというのだろう。男性の顔には、緊張の色が滲んでいた。

私には何が何だかわからないがこの人は何かを警戒しているらしい。しばらくの間、何も出来ずにいると唐突に地面を揺れが伝ってきた。

 

 

「地響き?」

「⋯⋯」

 

 

一体なんの振動なのだろうか。思案していると、今度は地響きだけでなく何かが唸りをあげる音が聞こえてくるようになった。

男性が、ゆっくりとナイフを構える。

 

大通りの向こうから、ひとつのライトを点灯させた何かがこちらへと、それはすごいスピードでやって来ていた。

 

 

「バイ⋯⋯ク?」

 

 

────それは真っ白なバイク(・・・・・・・)だった。

流線型で、全体的にスリムな印象のバイク。オートバイ、モーターサイクルなどと呼ばれる類だろう。

風を受けて白のコートをバタバタとはためかせながら、バイクに乗ったその人物は右手に細長い銀の棒、ロングソード(・・・・・・)を携えてこちらへと直進してきていた。顔は白いライダーヘルメットに覆われていてその表情を見ることは出来ないが、それでも臆してはいないということだけは分かった。

もう訳が分からない。

 

 

「そう来るかっ!」

「⋯⋯ッ!」

 

 

混乱する私を他所に、全身白づくめの男性は突っ込んでくる。

そのバイクを足蹴にして(・・・・・)、彼は飛びかかってきた。両手で上段に構えたロングソードの刃が月明かりを受けて輝いた。

 

 

「はぁっ!!」

「⋯⋯くっ!?」

 

 

男性はなんとか横に跳んで避ける。だが、元男性が居た場所は、剣で出来たとは思えないような抉られた跡が出来ていた。砕けたアスファルト片やら小さな煙が舞う。

え、というか⋯⋯なんで、剣を振っただけでそんなに風が巻き起こるの?

 

 

「逃げ惑うだけの女性に手荒な真似をするのは感心致しません」

「⋯⋯」

 

 

全身白づくめのヘルメットの下から聞こえてきた声は、とても優しげなものだった。ロングソードをひと振りすると、切っ先を男性に向ける。向けられていないのに、こちらにまで殺気が伝わってきた。

 

 

「去りなさい、シグナル。貴方達の出る幕ではありません」

「⋯⋯ちっ。⋯⋯今宵は去ろう。だが、次はその鍵を頂くぞ」

「ふっ⋯⋯何度来ても同じことですが。⋯⋯次は、その首を切り落とします。お覚悟を」

 

 

男性は、ナイフを腰のホルスターにしまうと、その場を走り去っていった。その後ろ姿は、すぐに闇に紛れて消えてしまう。

⋯⋯終わった、のかな?

そう思った瞬間、どっと体に疲れが襲ってきた。転んだ時の傷もヒリヒリと痛む。痛むけど、頑張って身体を立たせる。命の恩人の前でいつまでも座り続けるのは流石に駄目だ。

道路の上に転がるバイクを立ち上がらせて、こちらまで引いてくる白づくめの人を見つめながら、このあとについて考える。そう言えば、あのロングソードはどこに行ったんだろう。

 

 

「お怪我はありませんか?」

「い、いえ、大丈夫です。そちらこそ⋯⋯」

「それこそ、ご心配には及びません。これでも私はそれなりに鍛えているので」

 

 

そういう彼は、確かに傷なんて負っていなさそうだし、なんなら疲れてすらいなさそうだ。やっぱり、鍛えているだけあるのだろうか。

ここで、私はこの人の名前をまだ聞いていないことに気がついた。さっきから、白づくめの人だの、彼だのと名前を知らないのは不便だし失礼だ。

 

 

「わ、私は(みなと)夜恵(やえ)っていいます。貴方のお名前を伺っても⋯⋯」

「ああ、失礼しました」

 

 

彼は、ライダーヘルメットを取り外しながら言葉を続ける。

 

 

 

「私は、キャリバー。レイガントールの王に仕える三騎士が一人、刃を担当する者です」

「キャリバー⋯⋯さん⋯⋯」

 

 

ヘルメットの下から現れたのは、汚れ一つない真っ白な髪の毛に、吸い込まれるような紫色の眼を持った綺麗な顔だった。顔の造形なんかは勿論、雰囲気から高貴さといったものが滲み出ていると言うべきか。少なくとも、今まで見たこともないような、そんな浮世離れした容姿の人。

レイガントールとか、王とか、三騎士の刃とか⋯⋯気になる言葉はたくさんあったけど、そんなことも吹き飛ぶような⋯⋯。

 

 

有り体に言えば見惚れてしまった。

 

 

 

「⋯⋯大丈夫ですか?」

「⋯⋯だ、大丈夫です!」

 

 

怪訝そうな顔でのぞき込まれ、上擦った声が出てしまった。近い近い近い近い。

キャリバーさんは、もう一度ライダーヘルメットを被り直すとバイクに跨った。もう行ってしまうのだろうか。

少しの寂寥感を覚えながら、彼を見ていると、キャリバーさんは徐にこちらに振り返る。

 

 

「家までお送り致しましょう。さあ、後ろにどうぞ」

「あ、ありがとうございます⋯⋯」

 

 

その姿は、まるで白馬に跨る王子様のようであった。

私は、彼に促されるままにバイクに股がった。両脇に鞘に入った日本刀が取り付けられていて少し怖かったけど、乗ってみたら全然気にならない。

 

彼は、小さな白いヘルメットを取り出すと私に手渡す。さすがに被らないと駄目だよね。

 

 

 

「案内、よろしくお願い致しますね」

「⋯⋯はい!」

 

 

落ちないようにと抱き着いたその背中は、とても大きかった。




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